No.117187

真・恋姫無双紅竜王伝激闘編⑧~公孫淵、恐怖する~

今回は早めの投稿と相成りました。第八弾です。近日中に呉ルートの新作品も開始したいと考えていますので、投稿したらそちらもよろしくお願いします。

2010-01-07 22:10:38 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:5406   閲覧ユーザー数:4689

ジャーン!

ジャーン!

ジャーン!

朝日が昇り始めた頃、自軍の後方の本陣より戦闘開始の銅鑼の音が鳴り響いた。

「弓隊、構え・・・打て」

甲冑に身を固め、馬上で指揮を執る公孫淵文懿は敵軍右翼への斉射を命じた。風を切る音と共に引き絞った弓から矢が発射される。お返しとばかりに袁譚軍右翼―――袁煕隊からも矢が飛んできた。しかし、他の部隊の将兵が敵軍から飛んできた矢を見たら不可思議に思うだろう。

なにしろ矢じりが潰されて、死者が出ないようになっているのだから。よく見ると公孫淵隊の矢も矢じりが潰されている物と尖っている物があるが、さきほど斉射された矢は矢じりが潰された矢であった。

「申し上げます!織田軍中央先鋒・張郃隊の文醜が袁譚軍へ一番槍をつけたとのこと!」

「分かった、さがれ」

「はっ!」

伝令兵が自軍を『織田軍』、敵軍を『袁譚軍』と呼ぶのは、主君がどちらにつくか最後まで分からないからであり、兵士たちの中での暗黙の了解だった。

「お前の目から見て、戦況はどちらに有利だと思う?」

公孫淵は、彼の横に馬を並べる副官に問うた。この時だけ、彼は家臣の進言に耳を貸す。

「は。織田軍が優勢かと」

言葉少なに返す。余計な事を言うより、問われた事だけ答えればいいのだ。

それ以上の余計な事を言えば、それだけで首を刎ねられかねない。副官は先達を見てきたからこそ身につけた主君に対する処世術だった。

「そうか」

一言だけ主君は呟き、再び視線を敵軍に向けた。

戦が開始されて4時間が経過したが、戦況は織田軍が優勢に進めている。それでも袁譚軍が織田軍に対して粘り続けていられるのは、1つの期待が込められていたからだ。

すなわち、公孫淵隊のこちらへの寝返りである。

その合図は―――『公孫』の牙門旗が大きく振られた時。

公孫淵隊が袁煕隊に道を開けて先陣を切り、本陣左備え及び本陣を突いて織田舞人の首を挙げようという作戦であった。

「ふん。袁譚め、口ほどにも無い。押しまくられておるではないか」

昨晩届いた書状。それは袁譚から届けられた裏切りを勧める書状だったのだ。彼は『こちらに味方し、紅竜を討ったあかつきにはそなたを大将軍に任じて差し上げよう』というものだったのだが・・・

どう考えても袁譚軍は策略ではなく押しまくられているようだった。

「この書状を閣下にお届けしろ」

公孫淵は大将軍への夢をあきらめて、袁譚を売る事にした。

「やっぱりな・・・」

公孫淵から送られた書状に目を通した舞人は、溜息をついた。公孫淵が内通しているのではないかという疑いはあったが・・・

「それで、奴はなんて言って来てる?どうせ対抗策くらいは考えているんだろ?」

「はっ。実は・・・」

「おぉ・・・!?」

袁譚軍右翼部隊を率いる袁煕は見た。公孫淵隊の牙門旗が大きく翻っているのを。

「や、やっと公孫淵めがこちら側に着く事に決めたのですね~!いやはやほんとにまったく」

媚を売る相手がいなくても彼はなぜか揉み手をしていた。まぁそれはどうでもよいが、袁煕は右翼全軍に突撃命令を下した。

「全軍、突撃せよぉ!」

右翼部隊が猛攻を受けてすり減った残存戦力一丸となって織田軍左翼目指して突撃する。馬防柵が見えてきた頃、この時点で公孫淵隊は矛を逆さまに向けて程昱隊に襲いかかる算段だ。

(ほっほぉ!ここで公孫淵が寝返る―――)

しかし公孫淵隊は弓を構え、こちらに向けて矢じりの尖った矢を番え―――

(寝返る―――)

「放て」

公孫淵が斉射を命じ、一斉に人を射殺す為の矢が発射された。

(何が―――)

何が起こっているか分からない間に―――

袁煕は己の額に衝撃を受けて何も分からぬままに意識を深い闇に投じ、二度と闇から意識が這い上がる事はなかった。

袁煕討死。その報は衝撃を持って袁譚軍に広まった。指揮官の戦死に浮足立った右翼部隊は雪崩を打って潰走し、袁尚が指揮する左翼部隊も、大将の袁尚が逃げ出したのを皮切りに一気に敗走を開始。

そして、太陽が少し頂上から降りはじめた頃には―――

「敵総大将袁譚!織田軍客将の顔良が討ち取りました!」

金の鉄槌を得物とする少女に総大将も討ち取られ、袁譚軍は壊滅。

織田軍の勝鬨が挙がる事になった。

敗れた袁譚軍は本拠の南皮城に逃げ込むのだろうが、そこに逃れたところで要となる将を失った2千にも満たない敗残の軍に何ができるだろう。

戦が終わって一息ついた舞人は、論功行賞の為に諸将を本陣に集めた。一番槍をつけた文醜、敵総大将を討った顔良、何気に敵を追撃して多くの損害を与えた袁紹など、勇敢に戦った者たちが褒め称えられるなかで、公孫淵が舞人の前に呼ばれた。

「公孫淵殿。敵からの内通の誘いを蹴ってその書状をこちらに届ける忠義は褒めよう。だが―――」

(うっ―――!?)

膝を突き、頭を垂れる公孫淵は今まで生きていて感じた事のない感情に襲われた。それ即ち―――恐怖。

「次はないと思え」

彼は認めざるを得なかった。自分が、目の前の男に計り知れぬ恐怖を与えられている事に。

(これが―――今の漢朝の軍権を握る、『紅竜王』織田舞人か・・・!)

今、彼に逆らえば―――死ぬ。

公孫淵はそのことをまざまざと見せつけられた。

続けて命じられた南皮城奪還及び袁尚追捕に、公孫淵軍が全力を挙げる事は書くまでもないだろう。

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
47
7

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択