No.116809

真・恋姫†無双 ~祭の日々~5

rocketさん

みなさん、アンケートにご協力ありがとうございました!
たくさんの意見を頂いて、すごくびっくりしているとともに本当に嬉しかったです。
コメントのほうでも触れましたが、票数の多かったBを主にして話を進めていこうかと思います。
また、アドバイスを添えてくれた方もたくさんいらっしゃったので、できるかぎり取り込んでいこうとは思っています。
今回も楽しんでいただければ何よりです。では!

2010-01-06 01:06:14 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:9594   閲覧ユーザー数:7458

(一刀)

 

俺は今、風に招かれて城内の一室に泊めてもらっていた。風はどうやら出張中らしく、このあたり一帯の風土・人口・文化などを学ぶために派遣されているらしい。

祭さんが去った後、俺はひきずられるように風に城へ連れて行かれ、そして今いるこの部屋に止める暇もなく押し込まれたのだ。

「ちょ、風?」

「風はまだ仕事が途中なのですよー。ですから、お兄さんはここでおとなしく待っていてくださいねー」

そういって出て行った風は、あろうことか部屋の鍵を外から閉めていってしまった。

 

…そうでもしないと、俺がまたいなくなってしまうとでも思ったのだろうな。

 

俺は俺が思う以上に、風を苦しめてしまったのだろう。それはたぶん…他の魏の面々も。

「…風、稟、霞。春蘭。秋蘭。桂花…。」

確かめるように、愛したひとたちの面影を頭に浮かべていく。

「季衣、流琉、凪、沙和、真桜…」

いろんなことがあった。死にそうな目にもあったし、それ以上の喜びもたくさんあった。

「天和、地和、人和……」

別れるのはつらくて。それを告げる時間さえ、天ってやつはくれなくて。

「……………………………………華琳」

 

会いたい。

あの強くてかっこよくて、でもかわいくて、弱い彼女たちに会いたい。

 

俺がそう思うのは、祭さんが彼女の仲間に会いたいと思うのときっと一緒だ。

喜びも怒りも哀しみも楽しいことも、全部一緒に乗り越えてきた大事な仲間たち。

別れがつらくないわけがない。悲しくないわけがない。

もう一度会いたいと望むのは必然で当然。それなら……

 

「…約束、したんだよ」

 

一緒に行くって。祭さんと、祭さんの仲間のところまで。

 

「守らなきゃ駄目だろう。俺は二度も約束を破るのか?」

 

――誰よりも強くて気高いくせに、誰よりも寂しがりやな彼女との約束さえ。

俺はきっと、まだやり直せるから。

 

 

「…お兄さん?」

 

戸が開く。そこにいたのは予想通りの人。

 

「やあ、風。待っていたよ」

「……おやおや~、そんなに風に会いたかったのですか?まったく、お兄さんはしょうがない人ですねー」

 

そう軽口をたたく一方で。小さく指が震えているのは、今から俺が言うことを少なからず察しているからだろう。

でも、風はまだ勘違いしている。

大丈夫だよ。

もう二度と、傷つけやしないから。

 

「話があるんだ。」

「………はい、なんですか。お兄さん」

「俺は、祭さんと一緒に呉へ行くよ」

「っ!」

驚きに目を見開く風に、それ以上の思考を許さないように言葉を続ける。

「一緒に呉にいって、それから魏に帰る」

「…………え?」

「ずっと一緒にいるって約束しただろ?……一度、破ってしまったけどね」

「お兄さん……?」

俺は立ち上がり、頭を下げる。

「でも、もう少しだけ待ってほしいんだ。祭さんと一緒に呉まで行くと約束した。…俺はそれを守りたい」

 

――せめて。

せめて、送り届けてやりたいんだ。自分がやったことに責任を取るために。

俺が死に追いやった彼女だけど、だからこそ、俺が彼女を仲間のところまで送り届けてやりたい。

それは俺の身勝手で、自己満足だ。祭さんは絶対にいい顔をしないだろう。それでも、だ。

 

「祭さんを呉まで送ったら…必ずその足で魏へ帰る。約束する。」

 

ひょっとしたら呉の人たちに殺されるかもしれないと思っていたが、それは黙っておく。

なにがあっても魏へ戻るのだから、それを言う必要はない。

 

「もう約束を破ったりしない。ずっと一緒にいる。だから…もう少しだけ待ってくれないか?」

「…頭を上げてください、お兄さん」

言われるがままに頭を上げる。

「いてっ」

と、あげる途中で風の手にぶつかった。どうやら下げていた頭の真上に手を配置していたらしい。

「風?」

「……そういうのは、ずるいのですよー」

拗ねたように頬をふくらませて、風は俺をにらむ。

「え、えっと」

「おうおう、あんちゃん、一度いなくなっても種馬っぷりは健在みたいだな?」

ひさしぶりだな、宝譿。相変わらず言葉に棘がある。

「……いや、それは…その…ごめん?」

はあ、とため息をついて、風は俺をもう一度見た。

「………約束ですか?ずっと一緒にいるって」

「ああ。約束だ!」

「信じられないですね~、なにしろお兄さんは一度約束を破ってますし」

「うぐ」

実にそのとおりだ。だけど信じてもらうしか…

「…条件があります。それを飲んでくれるなら、風は信じてあげてもいいのですよー」

「なんだ?俺にできることなら、なんでも言ってくれ!」

「それは…」

 

 

待ち合わせをした城門の前。まさかとは思ったが、祭さんはそこで待っていた。

…待っていた?いや、それは自惚れすぎだろうか。

だけど祭さんは走ってきた俺をみて、ようやく来たか、と言わんばかりの視線を浴びせてきている。

「……祭さん、俺、」

と、なにかを投げられる。驚きながらもキャッチしてみると、それは小さな瓶だった。

「えっと、これ…?」

「メンマじゃ。」

「……………………めんま?」

頭の中が疑問符でいっぱいになる。

「おぬし、出店の前におったじゃろ。酒のつまみに買おうとしたんじゃないかと思ったんじゃが?」

「あ、ああ…それは…うん。そのとおりだけど」

「買い忘れておったようじゃからな。代わりに儂が買っておいた。」

「……あ、ありがとう?」

「記憶が戻ったんじゃな、一刀?…………いや、天の御使いと呼べばいいのか?」

「っ!?」

驚く俺の顔を見ると、祭さんはふっと笑って、それから堪えきれなくなったように破顔して大笑いしだした。

「…え?え?」

「実はの、おぬしをどこで見たのか、宿を探しておる間に思い出したのじゃ。そうそう、おぬしは確か、魏の曹操のところにおったわ。…あの時は、ただの稚児じゃろうと思っておったが…。ようやく気づいた。そうか、おぬしが魏に舞い降りたと名高き天の御使いじゃったか、とな」

「なら…えっと、どうしてさっき」

「横におった軍師殿の顔を見て、時間がいると判断したのじゃ。おぬしも記憶が戻ってまもなかったからか、混乱しとるような顔をしておったし…考えをまとめる時間が必要じゃったろう?」

開いた口がふさがらないうえに、祭さんの言葉でまとまったはずの考えがまた混乱してくる。

「軍師殿と話し合って、考えがまとまれば…戻ってくると思っておったよ。さて、儂は随分と待たされてもうくたびれたわ。宿に戻るぞ」

「ま、待ってくれ、祭さん!」

「…んう?」

踵を返そうとする祭さんを呼び止める。どうして、こんな飄々としていられるのか、わからなかった。

「俺が…俺が天の御使いだってわかったんなら、どうして、その…怒らないの?」

「怒る?」

「だって、祭さんを死にそうな目にあわせたのは俺だ!だから…」

「一刀」

その、低く響き渡る声に、体が震える。

このときこそ、まさに彼女は怒っていた。

「儂を侮るでない。生き恥をさらしておる身でこそあれ、将であったころの誇りを忘れておるわけではない。戦で死にかけたからと怒る将がどこにおる?」

「……」

「まして、今は魏も呉も協定を結んだときく。なんの問題がある?」

言葉が出てこない。俺は、いかに自分が目の前にいる女性を知らなかったのかを知った。

「…ああ、そ、そうか…」

と、祭さんがいきなり苦い顔になる。

「?」

「…記憶も戻ったし、お味方にも会えたし、おぬしに儂についてくる理由はなくなったのか…。気にするな、一刀。良いことではないか!確かに一緒に呉へと誘いはしたが、おぬしの目的が果たされたのならもうその限りではないし、無理してついてこんでも…」

「祭さん」

「な、なんじゃ?」

俺は頭を下げる。

「俺を一緒に呉へ連れて行ってくれないか?」

「…………どうしてじゃ。おぬしは…」

「約束したじゃないか、一緒に行くって。俺はもう約束を破る男にはなりたくないんだ」

「…じゃが…」

「お願いだよ」

祭さんの手をとり、まっすぐに目を見つめる。

「送り届けたいんだ。俺じゃ足手まといってわかっているけど、それが俺の責任だと思うから。」

「う、うむ…?」

「それにさ」

笑って祭さんに語りかける。

「祭さんの故郷、行ってみたいんだ。呉の人たちにも会いたい。……祭さんみたいに俺、強くなりたいんだ」

祭さんは顔を真っ赤にして、口をぱくぱくさせている。

…やっぱり、祭さんみたいに強くなりたいだなんて、身の程知らず過ぎたかな?

 

そのあと、祭さんは嬉しそうに「よし、儂に任せておけ!」といって俺の背中をばんばん叩いた。

あれよと言う間に、俺は道中、祭さんに剣の稽古までつけてもらうことになっていた。

…まあ、祭さんの教えてもらえるなんてものすごく幸運なことだとは思うし、いいんだけど。

 

「えっと、それでね、祭さん?」

「ん、なんじゃ?全部儂に任せておけばよい!」

「その…」

「歯切れが悪いのう…どうしたというんじゃ?」

 

「お兄さん」

 

と、そこに風が来た。タイミングを見計らって来てくれたのだろう。

「ん、魏の軍師殿か?」

「はい~、姓を程、名を昱といいます。真名は風なのですよ~」

「儂は黄蓋、真名は祭じゃ!…って、真名を呼んでもよいのか?」

「ええ。だって、これから一緒に旅をする仲ですしー」

「……」

ぎ、ぎ、ぎ、と祭さんの首がこちらを向く。ちょっと怖い。

「どういうことじゃ?」

「そ、それが…風も一緒に行きたいってことになってですね」

それこそが、風がいう“条件”であったのだ。

「実は風、この地域の調査はもう終わったのですよー。それで次の調査は建業なのです。」

「それは…」

「それにですねー」

がっしと俺の腕をつかんで、風はいった。

「風はお兄さんに放置されていたせいで、もうお兄さんなしでは生きていけない変態さんにされてしまったのですよー♪」

「ちょっ、風!?」

「…ほう」

ぽん、と優しげに肩を叩かれる。

「………稽古は明日からじゃ。覚悟しておけよ?」

「は、ははは…」

 

騒がしいながらも、旅は続く。

 

――祭さんが大事なひとたちと再会できる日は、そう遠くはないだろう。

 

 


 
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