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『想いの果てに掴むもの ~第4話~』魏アフター

うたまるさん

『真・恋姫無双』魏END後の二次創作のショート小説です。

誤字脱字があると思いますが
温かい目で見守ってやってください
よろしくお願いします。

2010-01-04 18:48:48 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:34887   閲覧ユーザー数:24712

真・恋姫無双 二次制作小説 魏アフターシナリオ

『 想いの果てに掴むもの 』

  第4話 ~ 再開そして・・・ ~

 

 

 

 

 

程昱視点:

 

 

 

 

「程昱様」

「・・・・スゥー」

 

陳留を出発して半日、

自分の乗る馬に、30過ぎの男が馬を近づけて、声を掛けてくる。

程昱の護衛の任についた小隊の隊長で、蒙鋳さんです。

ですが今は、相手をする気になれないので、

いつもどおり寝たふりをする。

 

「確かに此度の事、残念だと思います。

 ですが、このような事今までにも何度もあった事、

 おそらく、これからもある事でしょう。

 つらくとも、いちいち気にされていたら、お体がもちませぬぞ」

 

寝たふりをしているにもかかわらずに、一方的に話しかけてくる。

こんな時は放っておいてほしいのですが、

もう少し、このままでいれば諦めてくれるかもしれません。

そう思っていたところに

 

「北郷隊長は、よく

 

  『 諦めた時が終わった時、諦めなければ、いつかたどり着く』

 

 そう言って、少しでも治安を良くしようと、いろんな案を出してきました。

 最初、我々から見たら、町の掃除や修繕等など、我々の仕事ではない、と誰も従いませんでした。

 それでも黙って、隊長自ら町の掃除や修繕等行ってきました。」

「・・・・」

「その傍らで、我等に必要性を説き続けていました。

 そんな説得に、我々は、無視し続けてきましたが、それでも隊長は諦めず、頑張りました。

 そして一ヶ月・・二ヶ月・・月日を重ねるにつれ、治安がよくなってくるのが判り、

 我々は隊長から、地味で、無駄と思えることでも、頑張り続ける意味がある事を、学ぶ事が出来ました」

 

寝たふりを続ける自分に、蒙鋳さんは、

お兄さんの事を、嬉しそうに話しかけてくる。

 

「蒙鋳さんは、お兄さんの部下だったんですね~」

「はい、北郷隊長の部下だった事は、自分の誇りです。」

「お兄さんは、蒙鋳さん達にとって、どんなふうに見えましたか~」

 

もしかすると、風の知らないお兄さんの事が聞けるかもと、寝たふりをやめ、

この小隊長の話を、聞くことにしてみた。

男は、まるで自分のことのように、楽しそうにお兄さんの事を話してくれる。

やはり、最初は、ついこの間まで、一緒に仕事していた新人の若造が、

いきなり自分達の上司になったため、反発をしたこと、

仕事以外でも、兵士達と馬鹿な事をやって、仲良くなっていった事。

風の知らないお兄さんの話もあった。

風の知っている出来事、

風の知らない出来事。

でも共通するのはお兄さんらしさだった。

凪ちゃん、真桜ちゃん、沙和ちゃん達の副隊長達に、振り回されるお兄さん。

兵士達と仕事を怠業して、民と一緒になって宴会をしているところを、

華琳様に見つかり、みんなまとめて、その場でお説教を食らっていたり。

春蘭様や桂花ちゃんの騒ぎに巻き込まれて、ぼろぼろ になってたり。

盗賊達を一時的に逃がしてでも、怪我人が出ない事の方を優先させる方針で、

警備兵達と掴み合いの喧嘩になった事だったり。

お兄さんと触れた人が、こんなにお兄さんの事を、慕っていてくれている。

たぶん、風を元気付けようという、蒙鋳さんの優しい脚色もあるのかも知れない。

それでも、風には、とても嬉しかったのです。

今回の陳留の件では、稟の予測どうり、天の御遣いの詐称でした。

暴動がおきかけたのも、その男の仲間が、民を扇動して、

それらしく見せていたためと言う事も、きちんと裏が取ることができました。

そして、同時にそれは、天の国に関しての情報も、無い事を示していたのです。

でも、そんな事は、最初から判っていた事なのです。

判っていた事・・・・

それでも、風は、気落ちしてしまったのです。

どんな時でも平常心を、少なくても、それを人に悟らせないようにしてきたのですが、

今回は、それが出てしまったようです。

風もまだまだ未熟なのです。

 

「程昱様、この天気であれば、許昌までおよそ5日、

 どうやら、5日後の三国同盟の集会日に、間に合いそうですね」

「そうですね~、でも間に合っても、

 稟ちゃん達が、頑張って準備を終わらせている頃ですから、

 間に合っても、あまり、役に立つ事はないのですよ~」

「恐れながら、やはり、我々のような一般兵にとって、

 ああいう、お祭り事は楽しみであります」

「おうおう、祭りにかこつけて警備を疎かにしたら、どうなってるか分かってるんだろうなぁ」

「ホウケイ~、そんな脅すような事を言ってはだめですよ~、

 それに、この人達には、風の護衛についていたのですから、向こうに着いたら

 お休みがあるのですよ~」

「ありがたき幸せ」

 

宝譿とのやり取りに、小隊に笑みがこぼれる。

兵士達が楽しみにしているのは、歓迎の宴のさいに、

手空きの兵や文官達にも振舞われる、ちょっとした酒宴だ。

こういったお祭りは、警備側に回るより、楽しむ側に回りたいのだろう。

でも、残念な事に、

 

「許昌についたら、報告書を書き終えた人から、お休みをあげるのですよぉ」

「「「「 そんな、程昱様、殺生なっ 」」」」

「そんな事してたら、宴が終わってしまう」

 

風の爆弾発言に、兵達は悲鳴を上げる。

さすがに可愛そうなので、頑張りやさんには、御褒美をあげることにしました。

 

「後3日ありますから、野営や宿のときに、

 少しでも纏めておけば、きっと間に合うと思うのですよ~」

「「「「 おぉぉぉぉ、さすが程昱様 」」」」

 

宴に間に合うかもしれないと、分かったら、

さっきの悲壮な空気が、嘘のように賑やかなものになった。

こういうのも悪くないと思うのです。

そんな事を思っていると、

周りの風景に、ふとあることを思い出す。

 

「・・・そういえば、このあたりでした」

「は?」

 

風の独り言に、蒙鋳さんが聞き返してくる。

 

「いえいえ、私とお兄さんが、初めて会ったのが、この近くだったのですよ~」

「ほう、どのような出会いだったんでしょうか」

「おうおう、おっさん、乙女の運命の出会いを聞くなんて、野暮ってもんじゃねえのか」

「・・・し、失礼しました」

「だめですよ~、ホウケイ、そんな言い方をしてわ~」

「・・・・」

 

お兄さんとの出会い。

思えば、不思議なものです。

流星が落ちたらしき場所に、調査におもむいたら、

お兄さんが、盗賊達に襲われていて、それを星ちゃんが助け

風とお兄さんは出会ったのです。

あの時、お兄さんに、いきなり真名で呼ばれたことも、

それを怒りながらも、その場は許してしまったこと

ですが、そんなお兄さんとは許昌で再会し、

恋人同士になれたのです。

まるで、お伽噺のような、お話なのです。

今思えば、あれはきっと天命だったのだと思うのです。

 

あの時は、昼間だというのに、

明るい彗星が落ちてきて、

あたりが、真っ白になるほど眩しくなって、

そう、ちょうど、あんな感じに、彗星が落ちてきたんですよね。

 

「・・・・えっ」

 

お兄さんとの出会いを、思い出していると、

ちょうど、昼だというのに、彗星が見え、

それが、だんだんと風達の方に近づいてくるのです。

やがて、それは、丘の向こうに落ちたと思ったら

轟音と共に、あたりが見えなくなるほど、

あたりを、眩しく照らしました。

眩しさが収まると、回りは

先ほどの事など、何も無かったように静かでした。

でも、風の胸は、とても高鳴っていたのです。

とにかく、風は、流星の落ちた場所に、馬を走らせます。

 

「て、程昱様?」

 

後ろから、蒙鋳さん達の声が聞こえましたが、

今はそんな事には、かまっていられないのです。

とにかく、風は全力で馬を走らせます。

 

「・・・・お兄さん・・・」

 

 

 

 

 

 

 

馬を全力で走らせ、流星が落ちたらしき場所に着くと、

そこには、見慣れない鎧姿の人が、うつ伏せに倒れていました。

風は、お兄さんらしき姿が無いかと、周りを見回しましたが、見つかりません。

少し離れたところで、馬を下りて近づいてみる事にしました。

そこへ

 

「程昱様、突然行かれては困ります。 我々護衛の意味がなくなってしまいます」

「それは申し訳ありませんでした~」

「この者は?」

「さぁ、風が来た時には、もうこの状態でしたのでなんとも」

「立派な鎧姿・・・・何処かの武将でしょうか・・

 しかし、このような変わった鎧姿、見たことも聞いたこともありませぬ」

「何処か遠方の国からの、行き倒れかもしれませんね~」

「程昱様は、ここで、私目が確かめてまいります」

「気おつけてくださいね~」

 

蒙鋳さんが、倒れた男に近づき、足で男の体を揺らす

 

「・・う、うっ」

 

男はうめき声を上げたが、目を覚ます様子は無いので、

蒙鋳さんは、足で男の体を、仰向けにひっくり返す。

 

「うう・・・」

 

その衝撃で、目を覚ましたのか、男は体を起こし

頭を振っている。

男は、やはり変わった鎧姿をしていた。

何より、顔が面で隠れて見えない。

前から見ると、立派な鎧姿なので、

名のある武将だとは、思うのですが、

あいにくと、このような白い立派な鎧姿は、聞いた事が無いのです。

もしかすると、話に聞く露馬の鎧なのかも。

そんな事を考えていると、

鎧の男は、私に気づくなり、いきなり飛びついてきたのです。

鎧の男は、風を抱きしめます。

本当は悲鳴を上げて抵抗するべきなんでしょうが、

何故か、風はそんな気になれませんでした。

それに、この人の匂い

・・・何処か、心休まるのです。

 

 

 

 

 

 

一刀視点:

 

 

 

体が揺らされ、

その衝撃で、俺は目を覚ます。

くそー、なんなんださっきのは、まだ目がくらむ。

おそらく、気絶していたのだろうが、その直前の眩しさに、まだ目が眩み、それを払うために、頭を振る。

そんなことをしていると、すぐに視力が回復する。

そして、気がつくと目の前には、風が立っていた。

この2年、会いたくてしかたが無かった人の1人。

俺の愛した人が、目の前にいた。

俺は、嬉しさのあまり、言葉も出せず。

会いたかった彼女に、飛びついた。

 

「ひゃっ、いきなりなにをするんでしょうか~」

 

抱きしめた彼女は、いつもの落ち着いた声で、不思議そうに聞いてくる。

あっ、そうか、今面をつけてるから、俺だと分からないのか。

だから、面を外そうとしたところ。

 

「程昱様を放せ、この無礼者!!」

 

いきなり、後ろから、斬りかかってくる男に

俺は風を左手に抱いたまま、その斬撃を右に避わす。

その際、右手を男の左肩に手を当て、そのまま押し込む。

男は斬りかかった勢いを、更に後押しされる事によって、体勢を崩され、そのまま前へ倒れこんでいく。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ」

「えっ・・・この声」

「「「「「 よくも小隊長殿を! 」」」」」

 

いつも間にか、俺達を囲んでいた5人の兵士達が、馬からから降り、

俺に襲い掛かってくる。

 

「だから、まて「問答無用!」って、話聞けー」

 

俺は風を抱えたままでは、剣を抜くことも出来ず。

兵達の斬撃を、何とか避わす。

このままでは、きりが無い。

及川、このスーツの性能信じるからな、嘘だったら、絶対殺すぞ。

そう、心の中で及川に文句を言いつつ、覚悟を決めた。

とりあえず、最初の男を兵Aとし、他をB~Fとしよう。

 

「この、うろちょろと!」

 

突き込まれる剣を、右の籠手で外へ逸らす、

そのまま、滑らせ、兵Bの手を掴む、

掴んだ手を軸に、体を回転させ体当たりをし、

次に近寄ってきた兵Cの方へ、盾として兵Bを放り出す。

兵Bは、兵Cにぶつかり、そのまま二人して体勢を崩し地面へと転がる。

その隙に、一番離れていた兵Fの所に走りこむ。

その兵は、まさか一番遠い自分の所に来るとは、思っていなかったのか。

俺の行動に、反応が遅れる。

慌てて振り下ろされる剣を、俺は余裕で避わし、

すれ違いざま、兵Fの鳩尾にカウンター気味に拳をめり込ませる。

 

「うっ・・・」

 

トサッ

 

兵Fは呻き声を上げ、そのまま気絶する。

あと5人

転んだ二人は、まだ体勢をそのまま、

だが、最初の兵Aと兵D、そして兵Eがこちらに向かってきた。

俺は、地面に落ちている兵Fの剣を、向かってくる兵ADへと蹴り上げる。

回転しながら、飛んでいく剣を、二人は転がって避わす。

その間に突っ込んでくる兵E、

右下から払いあげてくる剣のタイミングに合わせ、剣を握る手に、左蹴りを放つ。

 

「グッ」

 

ガランッ

 

蹴りの衝撃で、明後日の方へ飛ぶ剣をよそ目に、

剣を飛ばされても、睨み付けてくる男の顔へ

・・・はて、こいつら、どっかで見た記憶が・・・

一瞬、頭に浮かんだ疑問も、とりあえず無視して

 

ドッ

 

「うぎっ・・・」

 

さっきの左足を、今度は軸にして、後ろ回し蹴りを放つ。

兵Eは蹴りの衝撃に、後ろへ吹っ飛び、そのまま気絶する。

あと4人

後ろの兵BとCは、体を起こしかけているので、

前まで、一気に距離をつめる。、

まだ、転がったままの兵Cの剣を足で踏み、

その足を軸に、剣を拾おうとしていた兵Cの顎を、掠めるように蹴り上げる。

 

チッ

 

俺は、掠めるように蹴り上げた勢いを利用し、そのまま、その場を横跳びで離脱する。

さっきまで、俺がいた所を、

 

ビュッ

 

兵Bの剣が横一文字に通り過ぎる。

兵Cは、さっきの蹴りのダメージなどない

と言わんばかりに、起き上がろうとする。

だが、立てずに、その場へ、ペタリと座り込む。

兵Cは何度も立ち上がろうとするが、そのたびに、再び地面に倒れこむ。

三半規管を、縦に揺らされたんだ。

そう簡単には立てまい。

これであと3人

今までは、油断してくれたけど、そろそろ、警戒してくるはずだ。

思ったとおり、3人は等間隔に、俺を囲もうとする。

俺は、囲まれては、たまらないので、

端の兵Bに向かって走りこむ。

兵Bは剣を横に払う。

俺はその一撃を、前へ進みながら、急激にしゃがむ事で、

何とか回避する。

しゃがみこんだ反動を利用して、体を一気に跳ぶ様に起こす。

そのまま、剣を避わされ無防備な腹へ俺の拳がめり込んだ。

 

「ぐえっ・・・」

 

ドサッ

 

あと2人・・・

 

シュッ!

 

2人は、後ろから同時に剣を振り下ろしてくる。

俺は、それを左横に跳ぶことで凌ぐ。

横に飛んだ事で、2人が、縦並びになった今を利用して、

俺は2人に突っ込む。

 

シッ

 

前方の兵Dの平突きを、頭を横に逸らして紙一重で避わす。

そのまま横薙ぎに変化される前に、

更に一歩進み、右拳を外側から、フック気味に相手の顎に当て、脳を揺らす。

 

「ぐっ」

 

ドガッ

 

そのまま、相手に体当たりをして、後ろの兵Aを巻き込む。

その際、兵Dが右肩に剣を振り下ろすが、

この超至近距離で、威力が出るはずもなく、

 

カッ

 

と軽い音と共に弾かれる。

兵Dを巻き込み、倒れこむ兵Aの剣を蹴り飛ばす。

そのまま兵Aの剣を持つ腕を、強く踏むことで、

兵Aは、腕を押さえられたうえ、

脳を揺らされ、体の自由が利かない兵Dの体が邪魔しているため、

兵Aは、起き上がることも出来ない。

 

ドゴッ

 

「うぐっ」

 

カランッ

 

俺は、その顔を強く踏みつける。

・・・・やはり見た記憶が・・・・

頭の隅に浮かぶ疑問をよそに、兵Aはその衝撃に、剣を落とす

 

「くっ、よくも仲間をっ!、程昱様を放せっ!」

 

武器を奪われ、なすすべもない兵Aは、

意識を手放す事を拒絶し、悔しげに俺を睨み付け、叫けんだ。

 

「まっ、待ってくれ、俺は敵じゃない」

「なにを、ほざくっ!」

 

なお喚く兵Aをよそに、何とか安全を確認し、

やっとの事で、俺は面をヘルメットごと外す。

 

「・・・あっ・・・貴方「お兄さん」様は」

 

俺の素顔を見て、

攻撃の意思を弛めてくれた、兵Aの言葉をさえぎり

左腕に抱えた風が、俺を見つめる。

俺は風を下ろし、もう一度抱きしめる。

今度こそ、誰にも邪魔されずに、

俺達は、再会の抱擁を交わした。

 

「お兄さん、本当にお兄さんなんですね」

「あぁ、風」

「おうおう、兄ちゃん、こう言う時は、もっと気の利いた言葉があるだろう」

「相変わらずだな宝譿、そうだな

 ただいま、風」

 

「・・・」

 

俺の言葉に風は、一度体を離す

そして、その可愛いらしい瞳から

一筋の涙を流し

 

「・・お帰りなさいなんですよ~」

 

そう言って、再び抱擁を交わす。

 

嗚咽交じりの風の抱擁に、

 

ヤバイ、俺まで泣けてきた。

 

やがて涙腺は限界になり、

 

俺は、再会の嬉しさに涙を流した。

 

 

 

 

 

 

 

風との長い抱擁

風の嗚咽が収まるまで、風の髪を、俺は優しく撫で続けた。

そして、風が、俺から体を離したところに

 

「北郷隊長、お久しぶりです」

 

声の方に振り向くと、そこには、

先ほど、顔面に蹴りを入れた兵Aが、突っ立ていた。

さっきも感じたが、どこかで見た記憶が・・・

 

「あー、お前確か・・・」

 

そう、たしか俺が華琳に警備隊長にさせられた頃、

半年近く、一緒に仕事した記憶がある。

 

「覚えていてくれましたか」

「ああ、蒙鋳さんだったかな、元気だったか?

 ・・・あ、いや、鼻血だらけの顔で、元気も何も無かったな

 ごめんなさい・・・」

「いえ、お気にされずに、隊長と知らずに、

 斬りかかった、私どもが悪いわけですので」

「いやいや、あんな面つけてたら、俺って判らなかっただろ。

 この場合、俺が悪いって、お前達は自分の仕事を、しただけなんだから」

「あははははっ、やっぱり、隊長だ。

 そんな貴方だからこそ、私達はあの時頑張れたんです。

 私達は、隊長の帰還を歓迎します。」

「あぁ、ただいま」

 

元部下の嬉しい言葉に、

俺は手を出し、再会の握手を交わした。

握手後、蒙鋳さんは、鼻血の跡を拭きなおし

起き上がってくる自分の部下達に、指示を飛ばす。

 

「みんな、支度が出来たら、移動するぞ

 こんなところでのんびりしてたら、夕刻までに次の町にたどり着けなくなるぞ」

「「「「「 はっ! 」」」」」

「程昱様、再会の喜びのところ申し訳ございません、

 時間がございません、お急ぎ出立の準備を」

「む~、ここは再会の喜びを、堪能する所だと思うのですよ~」

「ご容赦を」

 

風に出立を促した蒙鋳さんは、再び俺の方に向き

 

「北郷隊長、申し訳ございませんが、隊長の馬がございません。

 ここは、程昱様と御一緒でお願いします。

 程昱様とも、お話は馬上でごゆるりと出来ると思います。」

「ん、配慮してくれてありがとう」

 

蒙鋳さんの配慮は、今の俺にとって大変嬉しいものだった。

風も、そう思ってくれたのか、嬉しそうに、馬へ掛けてゆく。

俺は、風の元へ、地面落ちていた鞄を拾い駆けてゆく、

 

数対の馬の足音が、

 

軽快に清んだ青空に響いていく。

 

周りの風景を見ながら、

 

深く空気を吸う。

 

その空気の香りに

 

俺は思う

 

帰って来れたのだと。

 

 

 

 

 

 

出発して、しばらく

風は俺の前で

何度も、背を押し付けるようにしていた。

なにやらご機嫌で鼻歌交じりのものが聞こえる。

すく顔の下にある、風の頭からは、彼女の甘い香りがする。

俺は、そんな香りを楽しみながら、風と話したくて声をかける。

 

「そういえば、ここって、どのあたりなんだ」

「ん~、陳留を出て許昌に向かっている最中なのですよ~」

「と言う事は、前回と似たような所か」

「そうですね~、同じ場所で、また出会えるなんて、運命なのかも知れませんね~」

「う、運命って・・・なんか恥ずかしいんだけど」

「いえいえ~、出会ってすぐ真名を呼ばれた事といい、これはきっと、運命なんですよ~」

「そういえば、そんな事があったな~

 でもそのおかげで、その後に出合った華琳達の真名を、呼ばずにすんだんだよなぁ

 そういう意味でも、風は俺の命の恩人だな。 ありがとう」

「え~、そんなわけで、風はお兄さんの命の恩人で、運命の人なんですよ~

 だから、もう二度と勝手に、何処かへ行っては駄目なのですよ~」

「う・・・ごめん。

 でも、もう、二度と天の国に帰るつもりは無いから、

 今度は、どんなにみっとも無くたって、この世界にしがみついてやるから」

 

俺の誓いの言葉に、風は、もう一度頭を俺の胸に押し付け

 

「風は、お兄さんの言う事を信じてあげるのです。

 だから、期待を裏切ったら、許さないのですよ~」

「おうおう、こんな種馬信じるなんて、また女で泣かされるだけだぞ」

「いえいえ、ホウケイ、そこはお兄さんですから、無理というものなんですよ~」

「あ~、たしかに、種馬を抜いたら、なにも残らね~わな」

「それに、きっとその分、風に優しくしてくれるのですよ~」

 

風と宝譿のやり取りに、俺は懐かしさを感じながら

湧き上がる暖かな気持ちを言葉に乗せて

 

「あぁ、約束する、風は俺の大切な人だから」

「はい、約束なんですよ~」

「あぁ」

「~♪」

「そういえば、こんな小隊で、陳留まで視察だったのか?」

 

俺は、風の甘えてくる姿に、照れて来たので、話を逸らしてみた。

 

「・・・・お兄さんは、知らない方がいいと思うのです」

 

風は鼻歌をやめ、俺にそう言ってくる。

先程までのご機嫌な雰囲気は、一気に霧散し、少し落ち込みぎみになる。

でも、そう言ってくるということは、俺に関係する事なのか?

俺はそんな疑問を口にすると、風は一度息を吐いて教えてくれた。

陳留で天の御遣いを騙った事件があった事を、

その男が、天を騙った罪で処刑された事を、

 

「なっ、何も処刑する事は無いだろうっ!」

 

俺の言葉に、風はやっぱりと言わんばかりに、もう一度、息を吐いて説明してくれた。

天の名を騙る事は、皇帝を騙ると同意と言う事。

そしてそれは、決して許される事ではないと言う事。

天の詐称は、一歩間違えれば、再び戦乱を巻き起こす、火種になりかねないと言う事。

たしかに、俺の世界でも、昔そんな時代があったということを、歴史で習った。

そして、この世界が、まだそういった時代なんだと、

俺は、この世界の厳しさを、あらためて垣間見た気がした。

 

「・・・・俺ってよく生き残ってたなぁ」

「お兄さんは、華琳様が保護されてましたからね~

 朝廷が力を失いつつあったあの頃では、誰も華琳様を糾弾する余裕がなかったのですよ~」

「大陸の覇者となった今なら、ますますか・・・」

「それもありますが、お兄さんは、その天の力を、民に示したからなんですよ~」

「力って、俺なんにもやってないぞ」

「そこがお兄さんらしいと所なんですよ~」

「・・・・・なぁ、風」

「ん~、なんですか~?」

「みんな元気か?」

「・・・・元気なわけないじゃないですか~」

「う・・・」

「風達が、どんなに悲しんだのか、お兄さんに分からないのですか?」

「・・・・ごめん」

 

風の言葉に、俺はただ謝るしかなかった。

でも、そんな俺に風は

 

「でも、風達には、皆さんがいたから、まだよかった方なのかもしれませんね~

 きっと風一人だったら、押しつぶされていたかも、しれなかったのですよ

 だから、風達と違って、天の国で、一人だったお兄さんは、もっと辛かったと思うのですよ~」

「風・・・」

「だから、お兄さんの気持ちだけで、いいのですよ~」

「風・・・ありが」

「だから、しっかりと、風達のお仕置きを、受けてくださいなんですよ~」

「・・・えっ?」

 

風の気持ちに、心の中が暖かくなった所に

風の爆弾発言が飛び込んできた。

 

「あ・・・あの、お仕置きって・・・(汗」

「当たり前なのです。お兄さんは皆さんが、お仕置き無しで、許してくれると思うんですか?」

「・・・・・・・ないな・・・」

「もちろん、風もお仕置きさせてもらうのですよ~」

「・・・勘弁してください」

「駄目なのですよ~」

 

俺は、風の言葉に、これから自分が迎えるだろう未来が想像出来てしまい、情けなくなった。

そんな俺の困った顔を、風は本当に嬉しそうに覗き込んでいた。

そして

 

「お兄さん、おかえりなさいなのです」

「あぁ、ただいま、風」

 

そんな、ごく当たり前の言葉が

 

青い空に、

 

俺の心に

 

染み渡っていく

 

 

 

 

 

 

その夜、俺と風は

 

今まで出会えなかった日々を取り戻すように

 

激しく何度も、結ばれた。

 

 

 

 

 

 

 

次の日、早々に宿を出て、俺達は許昌へと向かう。

風は、相変わらず、俺の前に座っているが、御機嫌斜めだった。

 

「・・・・なぁ、風、機嫌直してくれよ。」

「む~・・・・、知らないのですよ~」

 

俺の謝罪に、風は顔を背ける。

怒っていると言う割には、ちらちらと、こちらの様子を見る姿に、

本当に怒っているのではなく、拗ねて見せているという感じだ。

原因は、昨夜というか、閨での出来事だった。

お互い、何度も、ぬくもりを確かめ合ったのだが、

俺はこの2年、修行に明け暮れていたため、

その・・なんというか、一人遊びも含めて、ず~と禁欲生活だったわけで、

再会の喜びもあって、その禁欲生活の反動なのか、制御できなくなり、

風に、すべてをぶつけてしまった。

そんなわけで、出立時までに風は、自力でたつ事すらできない状態で、

朝からお姫様抱っこで、すごす羽目になった風は、兵達の奇異な目にさらされ、今に至っている。

俺は、このお姫様のご機嫌を戻すには、どうしたら良いかと考えあぐねていると、

 

「北郷隊長」

 

蒙鋳さんが、馬をよせ声を掛けてくる。

 

「ん?」

「隊長は、2年前でも、自分達より武はありましたが、それでも1対1で、なんとかという程度でした。

 自分は、この2年それなりに武を磨き、

 こうやって、程昱様の護衛を任せられるだけの武を、身に着けたつもりです。

 自惚れるつもりはありませんが、隊長より強くなっている自負はありました。

 ですが、隊長が昨日見せてくれた武は、想像以上でした。

 あれも、天の国の技術なのでしょうか?」

 

蒙鋳さんは、昨日のことを聞いてくる。

まぁ、確かに、前よりは強くなった自覚はあるけど

 

「いや、武は日々の功夫の賜物さ、

 蒙鋳さん達からしては、風を人質にとっている形になっていたのだから、

 本気で攻撃するわけには、いかない上、行動が制限されていた。

 そこをつけば、俺程度でも、勝ち目があるさ、

 それに、昨日のは俺でも出来すぎだと思っている」

 

俺の言葉に、蒙鋳さんは信じられないという顔をする。

 

「ただ俺の場合は、良い師、そして良い環境に恵まれていただけだよ。

 それに、守りたい娘達がこっちにいたからね。

 だから必死に修行したさ、

 こっちに戻ってこれるか判らなかったけど、

 本当は、そんな不安を紛らわせようと、

 必死だったのかもしれない。

 でも、

 

  『 守りたいから 』

 

 と、そう思ったから

 俺は一生懸命いろんなことを頑張っただけさ。

 ただそれだけだよ」

 

俺のそんな言葉に、蒙鋳さんは、目を瞑り一度頷く、そして・・・

 

「やはり、貴方は北郷隊長です。

 自分は、そんな貴方と一緒に、仕事出来た事を誇りとします」

 

そういって、再び、俺達から離れ、回りの警戒に戻る。

 

「・・・なんか・・・照れるなぁ・・・」

「お兄さんは、天の国に留まると考えなかったんですか?」

「あぁ、こちらに戻る事ばかり考えてた。」

 

蒙鋳さんの言葉に、照れている所に、風が問いかけてきた。

俺はその内容に即答した。

当たり前の事だというふうに、

 

「どうやったら、この世界に戻れるかなんて判らなかった。

 でも・・・」

「でも?」

「でも、それしか考えられなかった。

 だから、その時までに、みんなを守れるように、自分を磨くって決めたんだ。」

「お兄さんは、強いですね~」

「つ、強いって、風、

 俺はこの世界で、みんなに守られてばかりだったじゃないか

 武では一般兵よりは強くても、将には遥かに届かず。

 軍師としては、風達の足を引っ張ってばかりいた気がするし、

 みんなに迷惑ばかり掛けてたなー、と言う自覚があるんだぜ」

「お兄さんは、もう少し、自分を客観的に見る眼を、持ったほうがよいと思うのですよ~」

「買いかぶりすぎだよ、

 その証拠に、春蘭達とまともに戦ったら、瞬殺される自信があるぞ」

「・・・そういう自信の持ち方は、どうかと風は、思うのです~」

 

そ言うと風は、一度軽く首を振り、

 

「お兄さんは、風達の魅力に夢中なんですね~」

「そうだね」

「 ・・・/////」

「即答とは、あいかわらずの種馬ぶりだぜ、こいつわ」

「まぁ、そこがお兄さんらしさですから」

「なんだよそれは、風達が大切な事に、種馬も何もないと思うよ」

「 ・・・/////

 そういうこと言えるから、お兄さんなんですよ~」

「そうなのか?」

「そうなんですよ~、

 その優しさを、夕べ見せてくれると、風も嬉しかったんですよ~」

「・・・すいません、今後暴走しないよう、気おつけます。」

 

風の言葉に、俺が本当に申し訳ない顔と謝ると

優しげな笑顔を、俺に見せてくれた。

 

「ではとりあえず、許昌につくまで、

 風にいろいろ、お話を聞かせてくださいなのです~」

 

そう言って、風は俺の胸に、

 

体をゆったりと、

 

甘えるように、

 

押し付けてきた。

 

俺と風は、会えなかった隙間を埋めるように

 

この2年間のことを、話していく

 

青空の下

 

2人の楽しげな話し声が

 

そんな2人を運ぶ馬達の足音が

 

許昌へと

 

続く道と荒野に

 

響き渡る

 

まるで、見守るかのように

 

 

 

 

 

つづく


 
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