新たな仲間を加えた宴の中、蛇は語り始めた。
自らの・・・いや、正史の目的を。そして・・・外史の行く末を。
第十九話 連繋世界 ~Meme~
「潜入任務ですか?」
「そうだ」
一刀とジェームス・・・玲二の前には銀髪の男性が座っていた。胸には狐が剣を加えたパッチが付いている。それは栄光の証でもあった。
「それで完全防音の部屋に連れてきたんですか・・・随分と聞かれてはマズイ話みたいですね」
ジェームスはいつもの調子ではなかった。目の前にいる男性は上司でもあり、尊敬の対象でもあった。
「ああ、二人には別世界に行ってもらいたい」
「はぁ!?」
だがすぐに調子が戻った。もっとも誰が聞いても驚く内容だったが。
「説明してくれますね、司令」
ジェームスの相棒である一刀は落ち着いていた。もっとも内心はどうだろうか。
「ではミッションブリーティングを開始する。二人には別世界・・・外史と呼ばれている世界に行ってもらいたい」
そういって司令と呼ばれた人間は、二人に資料を手渡す。
「この外史は、数年前日本のブラックホール研究の最中に発見されたものだ。観測の結果、知的生命体の存在は確認されている。おそらく我々人間とまったく同じだろう。加えて特定座標に存在する天体などは全て同質のものとわかった」
「へぇ、まさに写し物」
ジェームスの言葉がその世界の全てを象徴していた。
その言葉に頷き司令は言葉を続けた。
「この世界を知った民間軍事請負企業連合体、通称PMCUはこの世界・・・外史を経済活動に利用しようとしている」
「兵士の確保、物資の確保、研究施設などの確保・・・相も変わらず自分たちの欲求には正直な連中だ」
珍しく怒気を纏った一刀の言葉にジェームスは催促するように司令を見た。
「我々はPMCUが近くこの世界にエージェントを送り込み、破壊活動を行うことを掴んだ。二人にはこの破壊発動を阻止・・・もしくはエージェントを排除してほしい」
「あまりに多いと俺たち二人じゃ手に余りますぜ?」
「それに関しては・・・三人という情報が入ってきている」
「その情報の出所は?」
「PMC活動監視査察委員会からだ」
信頼はできる出所であった。しかし最も信用できないのはPMCUだ。
一応、納得はしたが腑に落ちない点は多々あった。
「司令。何故ホワイトハウスはこんな指示を?」
ジェームスが一刀の疑問を代弁するように質問する。
「大統領はPMCを信用していない。君たちも知っているだろう。巨大PMCが蹶起した事件を」
そう、目の前の司令はその最前線で戦った英雄だ。
司令はともかく大統領はPMCという民間企業連合が力を持ち、蹶起するのを畏れているのだろう。
「司令、質問が」
「質問を許可しよう」
「この・・・外史にはどうやって向かえば?」
「そうだな、車や飛行機で優雅に旅行って訳ではなさそうだしな」
「理論を知っているわけではないのだが、転送そのものは簡単らしい。ナノマシンでも人間程度なら転送可能のようだ。だが安全性を考慮すれば、大規模な転送装置を建造する必要がある。それをここエリア51に建造し向かってもらう。PMCUは既に転送装置を完成させている」
そういって資料の一点を刺す。日本の大学の名前が書いてある。
「では帰還方法は?」
「それに関してもPMCU側があちらの世界に転送装置を建造しているとの情報があった。この情報も国連からだ」
「それを奪って使えと?情報が違ったらどうするんですかい?」
「二人が転送されて約2年後に転送装置そのものを転送する」
「Wow!それは豪快な・・・」
確かに豪快だった。
「ただ二人の身体にはナノマシンを投与するが、通信手段は使えない物と思ってくれ。あくまでフィジカル面のサポートだけだ」
「衛星がないですからね」
そして疑問はつきない。
「あちらの世界の・・・人間が敵対行動を示した場合は?あちらの世界の技術力がわからない今、どのように対処すれば?」
「穏健派である我らが大統領は、あまりあちらの世界に干渉することを避けるように仰っている。あちらの世界に合わせた対処法で対処してくれ」
「原始時代だったら銃を使うな?むちゃくちゃだ」
ジェームスはそう言っているが、実に面白そうに笑っていた。
「なお、緊急時はぶっ放せ。黙っておこう」
「了解」
司令の砕けた言い方に思わず二人が笑い出した。
* *
そうして作戦決行日が訪れた。ジェームスの転送は無事に成功した。
それから少し時間をおいて一刀が転送されるはずだった。
『カズト・ホンゴウ!急いで転送装置に迎え!』
一刀が転送される時間より少し前に、大胆にもPMCUが襲撃を仕掛けてきたのだ。
そう、事実上の宣戦布告。クーデターだ。しかし何一つ、襲撃部隊がPMCUの私兵であるという証拠が掴めずにいた。
施設防衛に当たっていた一刀は指示に従い、転送装置によって外史に飛ばされたのだった。
十分な装備を付ける間もなく・・・。
「とまあ・・・こんな感じだ」
既に月が真上に来ている時間だった。
正史と外史の大きな違いは、正しい時間がわからない・・・というところか?
「・・・じゃあこの世界は」
「危機に瀕している。連中はこの世界を焦土とするつもりだ」
「けど、いくら何でも大げさすぎないか?」
新たに仲間になった翠が少し疑いの目を向けた。
「いくら天の世界が凄いからって・・・この世界を焼き尽くすなんて」
「天の世界の国が二つ、戦争するだけで双方が消滅する。いや・・・世界そのものが消滅する」
「そんな・・・」
「我々の世界・・・正史は人を大量に殺す技術に関しては一番得意だろうさ」
そういって一刀は愛銃M9を取り出す。
「そしてその類の武器は・・・人を殺す感触を手に残さない」
一刀の一言にその場にいた全員が静まりかえる。
「私はこの世界が好きだ。・・・だが任務で訪れると決まったときは何の感情もなかった。桃香達に付いてきたのも人脈が出来ればそれだけ敵を探しやすいという利点があったんだ」
そこまで言うと一刀は桃香に頭を下げた。
「私は・・・君を利用した。済まない」
「え、ええ、ちょっとご主人様。顔を上げて!」
突然の謝罪に桃香は大いに慌てる。
「だが、今は違う。私はこの世界を守りたい。今はただそれだけだ」
その場にいる全員の顔を見渡し、決意を秘めた目を皆に向けた。
「本当に済まない、みんな。秘密って訳じゃなかったんだけど話す機会が無くてな」
「只者ではないと思っていましたが・・・」
「なんとまあ、そのような使命を背負っておりましたか」
愛紗と星は正史の話に驚き、朱里と雛里を初めとする軍師陣は正史の密かな侵攻に畏怖していた。
一方、鈴々は寝てしまっている。難しい話だったから仕方ないと、穏やかな寝息を立てている鈴々から視線を外し、起きている全員を再び見回し、三度謝罪した。
「本当に済まない」
「気にしないで、ご主人様。ご主人様の使命の為にも、この世界のためにも平和な世の中にすることをがんばろう!」
一刀は英雌の一言に救われたのだった。
既に益州はぼろぼろの状態だった。
内乱の兆し、重税、政治腐敗・・・。挙げればきりがないほどだ。
民は既に無能の劉璋から心が離れ、皮肉にも同姓である劉備に近づきつつあった。
有能な人間に太守になってもらい、安心して暮らしたい。
それは人として当然の想い(Sence)だった。
当初、桃香は人の領地を奪うのを躊躇っていたが、もはや無能に民を任せるわけにはいかなかった。
想いに応えるべく劉備軍は益州平定に乗り出した。しかし最短路で成都に辿り着くには大きな障害があった。
楽成城。
そこを治めるのは黄忠。朱里と雛里の二人が賞賛する良将であった。
斥候の報告ではどうやら楽成に黄忠だけではなく厳顔率いる軍も駆けつけ、籠城の準備が仕上がっているようだった。
大陸平定だけではなくこの世界の行く末をも背負った劉備軍にも決戦は必須であった。
* *
そして事態が急変したのは、劉備軍が楽成城を視認し陣を敷き終わった次の日の昼だった。
「・・・なにやら城のほうが騒がしいな」
天幕で一段落していた一刀は異変に気が付いていた。
天幕を出て、馬を走らせると将達が城の方に釘付けになっていた。
その先には城壁の上にいる一人の男。手には・・・小さな子供。そしてその正面には長い髪の女性が男に向けて弓を引いている。
その場にいる全員が状況を理解してできていなかった。
「・・・まさか」
あり得ないと思った。しかし自分の中にある『何か(Gene)』がそれを肯定した。
楽成城の城壁から叫ぶ一人の男。一刀の姿を見つけ嬉しそうにこう叫んだ。
―――久しぶりだな、兄弟!
おまけ:次回予告
歴史は繰り返す。人は繰り返す。物語は繰り返す。
第二十話 The Twin Snake ~二人ノ蛇~
因縁は繰り返す。それは忘れ去られた島の記憶。
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この作品について。
・真・恋姫†無双をベースにとある作品の設定を使用しています。クロスオーバーが苦手な方には本当におすすめできない。
・俺の◯GSを汚すんじゃねぇって方もリアルにお勧めできない。
・ちなみにその設定は知っていれば、にやりとできる程度のものです。
・この作品は随分と厨作品です
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