No.116286

マクロスF~イツワリノウタノテイオウ(3.On Your Marks)

マクロスFの二次創作小説です(シェリ♂×アル♀)。劇場版イツワリノウタヒメをベースにした性転換二次小説になります。

2010-01-03 22:05:45 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2181   閲覧ユーザー数:2158

3.On Your Marks

 

 翌日、病院に呼び出された。

 

 白い無機質な病室には、昨日、私とランタを助けてくれたメサイアのパイロットが横たわっていた。

 そして、その周りには私だけじゃなく、何故かミシェルとルカがいて。

 

「ランタのお姉さんだったんですね……」

 

 昨日のバジュラの戦闘の後、ランタは一時的に錯乱状態に陥り、救出するのに一苦労した。

 ――いつの間にかシェリオもいなくなってたし。

 その時、ランタを正気に戻してくれたのがそのパイロット、オズマ・リー少佐だった。

 まさか彼女がランタのお姉さんだとは思わなかったけれど……。

 

「あの子を守ってくれたことには礼を言うわ。でも、メサイアを勝手に動かしたことは別問題よ」

「でも、あの時、ああしなくちゃ……」

「アルト」

 

 オズマ少佐に食って掛かろうとしたのをミシェルとルカが止める。

 もう一つ、驚いたことがあった。

 同じ航宙科の学生で級友、後輩だったミシェルとルカがオズマ少佐の部下でもあったという事実。

 正規軍人ではなく、STRATEGIC MILITARY SERVICES――民間軍事プロバイダーS.M.Sの社員ということになってはいるけど、それぞれ少尉と准尉という軍人の階級も持っている。

 

「アルト先輩、私たちは……」

「民間とはいえ、私たちには守秘義務がある。だから、言ってなかったの」

「……」

 

 ルカの言葉をミシェルが遮る。

 その言葉は正しい。――でも、胸の辺りがもやもやした感じがするのも事実だ。

 

「正規軍なら軍機に無断で搭乗した場合、軍法会議に掛けられるわね。でも、私たちは民間軍事会社に所属している。

ゆえに、早乙女アルト、あなたの処遇は我々に一任される事になった」

「――そっちの胸先三寸ってこと?」

「そう理解して貰って構わないわ」

 

 持って回ったような言い方に眉を顰めたけど、オズマ少佐の表情は変わらない。

 確かに緊急の事態ではあったけど、軍の最新鋭機に搭乗するなんて確かに軍法会議に掛けられても仕方がないことかもしれない。

 でも、……。 

 

「オズマ。先にランタを家に帰してしまったが、よかっただろうか?」

 

 返す言葉が見つからないでいる所に白衣を着た人が病室に入ってきた。

 

「ああ、カナリア。構わないわ。いつもありがとう」

「ランタ、大丈夫だったんですか?」

 

 知り合いの医師らしい。

 ランタの様子を聞くと安心させるように軽く笑んで頷いてくれた。 

 

「ちょっといつもの解離性健忘で軽い記憶障害が見られたが、問題なく回復した」

「解離性健忘……?」

「ランタは11年前の事故で家族を失っているの。

その影響で肉親が傷つくことで精神に強いダメージを受けてしまうのよ」

「隊長!」

 

 カナリアと呼ばれた医師に代わってオズマ少佐が答えた。

 その台詞を聞いてミシェルが慌てたように声を上げる。

 

「あなたはランタと姉弟なんじゃ……」

「私はランタの本当の肉親じゃないの。

11年前、あの子の家族を守ることの出来なかった無能なパイロットよ」

「それはどういうことですか?」

「……これを聞いたら、戻れなくなるわよ。それでも、構わないかしら」

 

 鋭い視線でそう釘を刺されて一瞬息を呑む。

 きっともう戻れない。多分いろんな意味で。

 ……それでも、何も知らずにいることなんてできない。

 

「もちろん。私は全部を知りたい!」

「わかったわ。早乙女アルト、あなたに24時間の猶予を与えます。

リミットまでにどうするかをゆっくり考えなさい」

「そんな考えるまでもない。私は知りたいって言ってる」

 

 息巻く私を制するようにオズマ少佐は静かに言った。

 確かに簡単に決めていいことじゃないのかもしれない。

 でも、私の答えは決まってる!

 

「アルト、今ここで結論を急ぐ必要はないでしょう。ちょっと頭を冷やしたほうがいい」

「……」

 

 ミシェルの手が肩に置かれる。

 オズマ少佐も負傷しているのだから性急に事を進めるなと暗に言われた気がして、それ以上何も言えなくなった。

 

 そして、そのままミシェルと一緒に病室を出る。

 

「アルト、あなたまた逃げるつもり?」

「逃げるって?」

 

 エレベーターに乗ったところでミシェルが声を掛けてきた。

 その台詞の意味がわからない。

 ――一体、私が何から逃げてるっていうの?

 

「舞台、それに家から。S.M.Sは舞台の上のお芝居じゃない。本物の戦争をしているの」

「逃げるなんて、……そんなつもりじゃない」

「そんな甘い覚悟じゃ、あなた自身かあなたの周りの人間が死ぬことになるわよ」

「………」

「よく考えなさい」

 

 いつになく強い口調のミシェルにそれ以上何も言うことができなかった。

 そして、そのまま一人、病院を後にした。

 

 24時間。与えられたその時間で考えなくてはならないこと。

 ランタの過去に関わる11年前の事件のことを聞けば、もう後戻りできなくなる。

 でも、それを聞くことでミシェルには自分の過去から逃げるのかと言われた。

 一体、どうすればいいのか?

 

 ……どこかでゆっくり考えたい。

 そう考えて自分の足は自然とある場所に向かっていた。

 

(歌……?)

 

 その丘に続く階段を登っていると、歌が聞こえてきた。

 優しい調べだけどどこか物悲しい歌声だった。

 

 階段を昇り切って、その歌声の主が誰かを知る。

 緑の髪の小柄な姿。

 

「――ランタ?」

 

 声を掛けると、驚いた顔で振り返る。

 

「え? ――アルト? どうしてここに?」

「そっちこそ、どうしてここに」

 

 お互いがお互いに質問をぶつける。

 まさか、この場所で会うとは思っていなかった。

 

「ええっと……歌が歌いたくなって。ここ、人がいないから、好きなだけ歌えるんだ」

「いい歌だね」

 

 少し照れたような言葉を聞いて笑みが浮かぶ。

 自然とそんな言葉が口から出ていた。

 彼らしいやさしい歌だと思った。

 

「へへへ、そう言って貰えると嬉しいな。ここで、この歌、誰かに聞かせるの初めて」

「そうなんだ」

「よかったら、聞いて行ってくれる?」

「もちろん」

 

 もう一度、今まで歌っていたであろう歌を歌い始める。

 人気のない丘の上に静かな旋律が流れ、空に溶け込んでゆく。

 いろいろ思い悩んでいた心がどこか軽くなっていくような気がした。

 

「ありがとう、アルト」

 

 歌い終わったランタは小さく笑みを浮かべて私の隣に立った。

 二人して、丘の上から町を見下ろす。

 

「僕ね、小さい頃の記憶ってないんだ」

「ランタ――」

 

 オズマ少佐から聞いた話が蘇る。

 11年前の事故でランタは家族全てを失っているんだった。

 

「でも、この歌だけ覚えてるんだ。たった一つの思い出。

小さい頃に教えて貰った大切な歌『アイモ』」

「『アイモ』?」

「うん。この歌の名前」

「そっか……」

 

 他に言葉が見つからなくて、ただ空を見つめる。

 ふと思いついて持っていた紙を取り出して紙飛行機を折って、空に飛ばした。

 上手く風に乗って、髪飛行機はすいすいっと高く昇っていく。

 

「アルトって、空が好きなんだね」

「うん。本物の空を飛ぶことが私の夢だから」

 

 小さくなっていく紙飛行機を見ながら、ランタの言葉に頷く。

 空を飛ぶことが私の夢だった。

 

 ――いつか飛んでみたい。

 大気のある大空を自由に。

 小さい頃からずっと憧れている。

 

「――僕の夢も叶うかな」

「夢?」

 

 ふと漏らしたランタの言葉に顔を向ける。

 小さく頷いて、言葉を続ける。

 

「皆に僕の歌を聴いて貰いたいんだ。

……でも、僕なんかじゃムリかな。アルトはどう思う?」

「ムリ、なんじゃないかな」

「ええっ――?」

 

 予想していなかった答えにランタは頬を膨らませた。

 その様子に小さく苦笑いしてしまう。

 

「『僕なんか』っていってるようじゃ、ダメじゃない?

夢を叶えるにはもっと強い気持ちが必要だよ、きっと」

「……アルト、いじわるだ」

「そう?」

「でも、そうだね。夢を叶えたいなら、自分から歩き出さなきゃ」

「頑張って。応援してる」

「うん――」

 

 ランタが歌う『アイモ』が優しく響く。

 夢を叶えるために一歩踏み出す勇気。

 ――それが必要なのは私の方なのかもしれないけれど。

 

「え……」

 

 唐突に青空に溶けていく歌声が一つじゃなくなった。

 同じ旋律を二つの声が奏でる。

 一つはランタの歌声、もう一つも聞いたことのある歌声だった。

 

「アナタ、いい声してるわね」

 

 私たちの背後に立っている塔の影から姿が現れる。

 

「なんでここに……?」

「――シェリオ!」

 

 その姿を見て、私とランカの声が被る。

 シェリオ・ノーム――「銀河の帝王」がここに現れるなんて予想もしてなかった。

 

「アルト、アナタに聞きたいことがあってね」

 

 あのライブの時と同じ。

 サングラスを外すと、人を食ったような笑みを浮かべて近づいてくる。

 

「シェリオさん――本物?」

「アナタの声、いいわね。名前は?」

「ランタ……ランタ・リーです」

「素敵な名前ね」

「あ、ありがとうございます」

 

 ランタはすっかり夢見心地の体でシェリオに返事している。

 前からシェリオに憧れてるって言ってたっけ。

 シェリオの方も余裕の笑み浮かべて芸能人らしいオーラを出してた。 

 

「でも、どうしてあの歌を知ってるの?」

「え?」

「『アイモ』、どうしてアナタが歌えるの?」

「この歌はランタの思い出の歌だから」

「そうなの……」

 

 戸惑うランタに代わって答えると何か考え込むような表情を浮かべた。

 『アイモ』に一体何があるっていうんだろう?

 

 その時、突然、シェリオの携帯が鳴り始めた。

 

「――Allo,Grao?(もしもし、グレオ?) 今、いいところだったんだけど」

 

 シェリオは着信相手を確認して話し始めた。

 

「え? もうそんな時間? ……もう、仕方がないわね」

 

 通話を切ると微妙な笑みを浮かべて肩をすくめた。

 

「これから、アタシのライブステージがあるの。

そろそろ行かなくちゃ。A bientot.(またね)」

 

 そして、来た時と同じように唐突にいなくなった。

 あいつ、どういうつもりなんだろう?

 

「シェリオ……一体、何しに来たんだろ?」

「『アイモ』……どうしてシェリオさんが……」

 

 ランタの言葉にシェリオのさっきの言葉を思い出す。

 

 ――「『アイモ』、どうしてアナタが歌えるの?」

 

 どうして、『アイモ』をシェリオが知っていたんだろう。

 ランタのたった一つの思い出の歌を。

 


 
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