ここは、日本のどこかにある桜ヶ島。
そこに住む双子の姉弟、有栖と章吾は、ごく普通に中学校に通い、ごく普通の一日を過ごす。
――いや、鬼がいるから、「ごく普通」とは言い難いのかもしれない。
いつものように双子は中学校の授業を終え、自宅に帰ろうとした。
優しくて美しい母親が待っていて、双子を出迎えてくれる。
しかし、運命というのは残酷である。
狡猾な蠍の影が、双子の後ろから迫った時――
「……有栖、ここはどこだ?」
双子は見知らぬ部屋の中に閉じ込められていた。
チカチカと、部屋の中で灯りが点滅する。
その部屋には、古い鏡が壁中に飾られていた。
「分からないわ、章吾……。どうしてここにいるのか、分からない……」
双子は何故閉じ込められたのか、全く思い出せない状態だった。
幸い、名前だけは憶えているようだが、この状況が双子には理解できなかった。
「だが、身体は何故か覚えている。鬼に力を授かった……かもしれないのを」
「私も……魔法が何となく使える、のかと思って」
双子がお互いの状況を理解しようとした時、突然、有栖の後ろで大きな音が鳴った。
「きゃっ!」
「どうした、有栖!?」
「章吾、鏡が……!」
振り返ると、古い鏡が壁から一つ、落ちていた。
そこにはポッカリと、真っ暗な通路が大きく開いていた。
もしかしたら、ここを通り抜ければ脱出できるかもしれない、と有栖は思った。
「……穴が開いているな。飛び込むぞ」
「ええ!」
双子は意を決して、通路の中に飛び込んだ。
有栖は超能力を持っていた時に残っていた暗視能力を使い、章吾と共に暗い通路を進んでいく。
古い人形に、剥がれかけた呪符、腐りかけの注連縄、そしてたくさんの古い鏡。
無数の鏡の中で、双子が同じように不安げな表情を浮かべている。
「ここは、どうやら幽霊屋敷みたいね。いや、鬼屋敷と言った方がいいかしら。肝試しに来たら行方不明になるらしいわ」
「有栖の言う通り、多分、鬼が住み着いたのだろう。あいつらみたいな不思議な術を使うからな」
鬼は現代科学では解明できない様々な術を使いこなす。
この屋敷にも術をかけ、双子を混乱させようとしているのだろう。
「やる事はただ一つ。鬼を倒して、脱出する事よ」
「ああ。俺達を酷い目に遭わせた鬼は、絶対に許さない!」
双子は鬼を倒すために、先に進む。
ふと、何かが動いた気がして、双子は視線を向ける。
――鏡に映っていた双子の顔に蠍の模様が浮かんだ後、ニタリと笑った。
それが鏡の中から手を伸ばし、双子を捕らえようとする。
「有栖、下がれ!」
「ううん、私も戦うわ!」
章吾は持ち前の運動能力を活かして、鏡の怪異に飛び蹴りを繰り出す。
有栖は力を「思い出し」、魔力の弾丸を放って鏡の怪異に何とかダメージを与えた。
無数の鏡が割れて砕け、キラキラと破片が落ちる。
「やった!」
喜ぶ有栖だったが、さらに廊下の奥から無数の手が伸びてくる。
「逃げるぞ!」
「はっ、やっぱり鬼ごっこだからね!」
この数を相手にするのは得策ではない。
双子は無数の手から逃げ出した。
「ふう……何とか撒いたな」
「あいつらはしつこくなかったのかしら」
何とか無数の手から逃げ切った双子は偶然、倉庫らしき部屋を発見した。
「うわぁ、結構物がたくさんあるわね」
倉庫の中には道具がたくさんあったが、壊れていたり、子供では使えなかったりと大したものではなかった。
ここで使えそうなものは何もなさそうだ。
しかし、この倉庫には鏡がないため、無数の手は襲い掛かってこない。
双子はひとまず休憩し、記憶を整理する。
「あの鏡にはやっぱり鬼が潜んでいたわ。私達で祓いましょう。……でも、どうすればいいのかしら……」
「俺達が家に帰る前に、何をしていたのかを思い出せ」
「ええ……分かったわ……」
15分後、何とか有栖は記憶を取り戻し、鬼が屋敷に取り込む瞬間を思い出す。
合わせ鏡の状態にある鏡に、鬼がいたのだ。
つまり、鬼の本体は合わせ鏡の中にいる、という事になる。
「合わせ鏡……そういう事だったのか。鬼らしいな」
「もう少し、正々堂々と戦ってほしいわね」
双子は鬼の狡猾さに呆れながらも、合わせ鏡――鬼の本体がいる場所に向かった。
双子はいくつもの鏡のある部屋を探索し、何度かあの手を撃退し、一際広い部屋に辿り着く。
そこには巨大な鏡が合わせ鏡になっており、鏡像が連なっている。
「さぞかし鏡鬼、といったところかしら」
「そうだな。いくぞ、有栖!」
双子がそう呟いた瞬間、鏡の中の双子が再びニタリと笑った。
「有栖は俺が守る!」
章吾は木刀を振るい、自分の真似をする鏡鬼を次々に攻撃し、気絶させていく。
鬼の力を失ったとはいえ、運動能力は健在であり、有栖も負けじと鏡鬼を魔法で攻撃する。
「きゃっ!」
「有栖に触るなっ!!」
鏡鬼から攻撃を受けた有栖に章吾は怒り、なんと木刀で二体の鏡鬼を真っ二つにした。
次の瞬間、鏡鬼は無数の鏡の欠片となって砕け散り、屋敷が大きく揺れる。
合わせ鏡の一つから光が見えると、双子は大急ぎでその中に飛び込んだ。
「う、うぅ……」
「私達……一体、どこに……あれ、ここ、は……?」
気がつくと、双子は自宅で眠りから覚めていた。
先程双子が体験していたのは、はっきりとしていたが、夢だったようだ。
恐らく、鬼が見せたものだろうとは思ったが、どうしてこんな夢を見たのかは双子には分からなかった。
「どうしたの? もう朝ご飯、できてるわよ」
「は、はーい」
母親が双子を呼ぶと、双子は朝食にありつくのだった。
「……やれやれ、双子を夢の中に閉じ込めようと思ったけど、失敗だったようだね。魔法使いも超能力者も消えてくれないか」
その様子を見ていた一匹の鬼がいたのには、双子は気が付かなかった。
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※オリキャラがいますので、ご注意ください!
絶望鬼ごっことSoundHorizonのクロスオーバーです。
双子の姉弟が屋敷の中で冒険をします。