No.1157690

Kaikaeshi and Automata 10「怪の願い」

Nobuさん

花子の願いを聞くために、叶えるために、主人公達は戦います。

2024-12-07 09:00:02 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:13   閲覧ユーザー数:13

 

(まさか、彼女がいたなんて)

 琴葉達は、隣の地区の小学校の近くにやってきた。

 先日、花子が隠れていた旧校舎がある学校だ。

 隣の地区は、琴葉達の小学校とは、駅を挟んだ反対側に位置している。

 まずは、花子がよくいた場所から捜そうと思ったのだ。

 しかし、琴葉はペンダントを捜しながら、ずっと光一郎の事を考えていた。

 光一郎ぐらいカッコいいなら付き合っている相手もいるだろう。

 そもそも自分が付き合えるとは思っていない。

(だけど、なんだか凄くショックかも)

「……?」

 琴葉は落ち込み、ペンダント捜しに身が入らなくなった。

 ユズはそれが恋人の写真だとは思わず首を傾げた。

 その時、前から小学生の女の子達が歩いてきた。

「綾ちゃん達、大丈夫かな?」

「急に熱が出ちゃうなんてね」

「旧校舎で変なもの見たってうわさだよ」

「えっ?」

 どうやら、隣の小学校の生徒達のようだ。

 綾というのは、花子と遭遇して高熱を出している女の子の一人だろう。

「綾ちゃん達、いつも元気だったのにね」

「早く良くなってほしいよぉ」

「私、心配で夜眠れないもん」

 女の子達は不安げな表情で、琴葉の前を通り過ぎて行った。

(……そうだ、悩んでる場合じゃないよね)

 光一郎の事は気になるが、今はペンダント捜しに集中しなければならない。

 花子が元の世界に戻れば騒動もなかった事になる。

 高熱を出している女の子達も元に戻るのだ。

「早くペンダントをさがそう!」

「ああ、そのつもりだよ」

「……花子が願ってる。気合いを入れる」

「え、あ、うん」

 戸惑う光一郎をよそに、琴葉とユズは隅々まで探し始めた。

 三人は、町のあちこちを見て回った。

 隣の地区だけではなく、自分達の地区や、さらに他の地区まで探した。

 しかし、ペンダントは見つからなかった。

 花子によると、ペンダントにはヒマワリの絵が描かれているのだという。

 大きさは五百円玉ぐらいで、銀色の細いチェーンについているらしい。

「……そう簡単には見つからない」

 ユズは気合いが入っているものの、どこをどう捜せばいいのか困惑していた。

 ペンダントを落とした日、花子は町中を散歩していた。

 そのため、どこで落としたのか分からないのだ。

 三人は、落とし物として届けられていないか交番に行って聞いてみたが、そのような落とし物はなかった。

 町のどこかにまだ落ちているはず。

 琴葉達は必死に捜し続けるが、手がかりは全くなかった。

「残念だけど、今日はここまでにしよう」

「……」

 

 夕方。

 自分達の地区に戻ってきた光一郎は、琴葉に言った。

 日が暮れ、辺りは薄暗くなっている。

 これ以上捜すのは困難だ。

「明日はもっと遠くまで捜してみましょ」

「そうだね。きっと見つかるはずだ」

「……わたしが代わりに探す。わたしはレプリカントだから疲れない」

 ユズが代わりに探すと言うが、彼女に暗視能力はなかった。

 

「お~、三人で何してるの?」

 ふいに、声がした。

 顔を上げると、クラスメイトの和也が立っていた。

 和也は、大きなシベリアンハスキーを連れている。

「誰?」

「私のクラスメイトの和也くん。あ、ワンちゃん飼ってたんだ」

「あ~、いつも散歩はお父さんが行ってるけどね」

 父親は運動のため、仕事から帰ってくると、夜、犬の散歩に行くという。

 だが、今日は出張に行っているため、和也が散歩させていたのだ。

「シベっていうんだ」

「わ、名前そのまんまだね」

「大きい」

「シベは人懐っこいんだよ。お腹を撫でられると喜ぶよ」

「へえ~」

 琴葉がお腹をさすると、シベは嬉しそうに身体を動かし、尻尾を振った。

「ところで、琴葉ちゃんと光一郎君て、仲が良かったんだね。ユズちゃんもなかなか可愛いね」

 和也は三人を見ながら言った。

「学校じゃ、あんまり喋ってないよね?」

「あ、ええっと、それはそうなんだけど、仲がいいというか」

 琴葉はどう説明すればいいのか困る。

 怪帰師と通役と護衛だと言っても理解してもらえないだろう。

「……わたし達は、異変解決をしている。あなたは何もしなくていい」

 和也は意味が分からなかったものの、淡々と答えたユズに何と言葉を返せばいいのか分からず、ただ頷いた。

 その時、和也が声を上げた。

「シベ、ダメだってば!」

 見ると、シベは近くに落ちていた空き缶を咥えていた。

「また持って帰ろうと思ってるんだな。ほら、口から離して」

 和也は、空き缶を取り上げると、近くのゴミ箱に捨てた。

「よくある」

「シベは空き缶が好きなのかい?」

 光一郎が尋ねると、和也は頷いた。

「散歩中、落ちてる物をよく咥えるんだ。空き缶だけじゃなくて、落ちてるボールとか枝とかね。それを持って帰って小屋の中に貯め込んじゃうんだよ」

「そうなんだ」

「お父さん、シベを全然叱らないから、小屋の中で溢れているよ」

 和也は笑いながらそう言った。

「それじゃあ、また学校でね」

 やがて、和也は三人に別れの挨拶をすると、シベを連れて去って行った。

 

「……でも、待って。ペンダント……シベが、盗んだかもしれない」

 ユズは、ぽつりとそう呟いた。

 

 翌日、翌々日と琴葉達はペンダントを捜し続けた。

 しかし、相変わらず見つからない。

「もしかして、誰かがゴミと思って捨てちゃったのかも」

 夕方。

 家へと帰りながら、琴葉は弱気になっていた。

 もし、捨てられてしまっていたら見つけるのは不可能だ。

 いつまで経っても、花子を元の世界に帰す事はできなくなってしまう。

「このまま、光一郎君のお家に住んでくれればいいけど」

 そうすれば、花子と遭遇して高熱を出す人間もいなくなる。

 だが、横を歩いていた光一郎は、首を横に振った。

「昨日のあの様子じゃ、いつまでも僕の家にはいないような気がするよ」

 昨日、琴葉達はペンダントが見つからなかった事を子に話した。

 すると、花子は泣き出し、家から出ようとしたのだ。

 どうやら自分でペンダントを見つけにいこうと思ったらしい。

 琴葉達は花子を何とか落ち着かせ、家のトイレに戻ってもらったが、光一郎の言う通り、いつまでも家にいてくれるとは思えなかった。

「……早く見つけないと」

 そもそも、花子がずっとこの世界にいたら、今、高熱を出している人達が元に戻らない。

 琴葉はどうすればいいのか考えるが、アイデアは全く思いつかなかった。

「ペンダントさえあれば……」

 光一郎も顎に手を当てて、「うーん」と唸る。

「ん、ペンダント……」

「見つかる?」

 ふと、光一郎は明るい表情になった。

 

「そうか、その手があった!」

「何?」

「何か思いついたの?」

「ああ! これで彼女も喜んでくれるはずだよ!」

 琴葉達は、家に戻ると、トイレの中にいた花子を呼び出した。

 

「花子さん、いいアイデアがあるんだ!」

 光一郎はそう言うと、自信満々な様子でそのアイデアを話した。

「僕が君に新しいペンダントをプレゼントするよ!」

「……光一郎、どういう事?」

「どういう事って、そのままの意味だよ」

 花子の落としたペンダントを見つけるのは不可能かもしれない。

 しかし、同じようなペンダントを店で見つけるのは、決して不可能ではないのだ。

「さあ、花子さん、お店に行こう。それを買えば、元の世界に帰ってくれるよね」

 光一郎は、早速出かけようとした。

「クウゥ! ウウウウウ!!」

 突然、花子が大声を出した。

「花子さん!!」

「クゥゥウ! ウウウゥ! ウゥウウウ!」

 花子はそのまま家を飛び出す。

 すれ違ったその目には、涙が溢れていた。

 

「……怒らせたみたい。あれは思い出の品だから」

「光一郎君、何考えてるのよ!」

 琴葉は光一郎に思わず怒鳴り、ユズは無表情で呆れていた。

「何って、花子さんに喜んでもらおうと思って」

「喜ぶわけないでしょ! 花子さん、『そんなの絶対嫌』って言ってたんだよ!」

「えっ?」

「『ペンダントは、少しだけ人間界に来た時、仲良くなった男の子からもらったもの』って言ってた」

「花子さん、昔人間界に来た事があったんだ」

「重要なのはそこじゃないよ。大切な物って、似てるからいいとか、新しい物を買えばいいっていうものじゃないんだよ」

「……それが一番、彼女には大切だから」

 花子にとって、落としたペンダントには思い出が詰まっている。

 だからこそ、捜してほしいと頼んだのだ。

「そっか、確かにそうだよね……」

「……そういう時もある」

 光一郎は、自分のアイデアが間違っていたと気づいた。

「僕は、どうしていつもこう失敗ばかりするんだ」

 そう言って、大きく肩を落とす。

 そんな光一郎を、琴葉とユズは励ました。

「今は落ち込んでる場合じゃないよ!」

「わたし達が何とかする。花子のペンダントは、必ず見つける」

 花子と遭遇しただけで、普通の人は高熱を出してしまう。

 今はまだ夕方で、町には大勢の人達がいる。

 このままでは大変な事になる。

「花子ちゃんを早くさがさなきゃ!」

 琴葉の言葉に光一郎は戸惑いながらも大きく頷く。

「そ、そうだよね。このままじゃみんなが」

「……体調不良になる」

 三人は、慌てて外に飛び出した。

 

 
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