(まさか、彼女がいたなんて)
琴葉達は、隣の地区の小学校の近くにやってきた。
先日、花子が隠れていた旧校舎がある学校だ。
隣の地区は、琴葉達の小学校とは、駅を挟んだ反対側に位置している。
まずは、花子がよくいた場所から捜そうと思ったのだ。
しかし、琴葉はペンダントを捜しながら、ずっと光一郎の事を考えていた。
光一郎ぐらいカッコいいなら付き合っている相手もいるだろう。
そもそも自分が付き合えるとは思っていない。
(だけど、なんだか凄くショックかも)
「……?」
琴葉は落ち込み、ペンダント捜しに身が入らなくなった。
ユズはそれが恋人の写真だとは思わず首を傾げた。
その時、前から小学生の女の子達が歩いてきた。
「綾ちゃん達、大丈夫かな?」
「急に熱が出ちゃうなんてね」
「旧校舎で変なもの見たってうわさだよ」
「えっ?」
どうやら、隣の小学校の生徒達のようだ。
綾というのは、花子と遭遇して高熱を出している女の子の一人だろう。
「綾ちゃん達、いつも元気だったのにね」
「早く良くなってほしいよぉ」
「私、心配で夜眠れないもん」
女の子達は不安げな表情で、琴葉の前を通り過ぎて行った。
(……そうだ、悩んでる場合じゃないよね)
光一郎の事は気になるが、今はペンダント捜しに集中しなければならない。
花子が元の世界に戻れば騒動もなかった事になる。
高熱を出している女の子達も元に戻るのだ。
「早くペンダントをさがそう!」
「ああ、そのつもりだよ」
「……花子が願ってる。気合いを入れる」
「え、あ、うん」
戸惑う光一郎をよそに、琴葉とユズは隅々まで探し始めた。
三人は、町のあちこちを見て回った。
隣の地区だけではなく、自分達の地区や、さらに他の地区まで探した。
しかし、ペンダントは見つからなかった。
花子によると、ペンダントにはヒマワリの絵が描かれているのだという。
大きさは五百円玉ぐらいで、銀色の細いチェーンについているらしい。
「……そう簡単には見つからない」
ユズは気合いが入っているものの、どこをどう捜せばいいのか困惑していた。
ペンダントを落とした日、花子は町中を散歩していた。
そのため、どこで落としたのか分からないのだ。
三人は、落とし物として届けられていないか交番に行って聞いてみたが、そのような落とし物はなかった。
町のどこかにまだ落ちているはず。
琴葉達は必死に捜し続けるが、手がかりは全くなかった。
「残念だけど、今日はここまでにしよう」
「……」
夕方。
自分達の地区に戻ってきた光一郎は、琴葉に言った。
日が暮れ、辺りは薄暗くなっている。
これ以上捜すのは困難だ。
「明日はもっと遠くまで捜してみましょ」
「そうだね。きっと見つかるはずだ」
「……わたしが代わりに探す。わたしはレプリカントだから疲れない」
ユズが代わりに探すと言うが、彼女に暗視能力はなかった。
「お~、三人で何してるの?」
ふいに、声がした。
顔を上げると、クラスメイトの和也が立っていた。
和也は、大きなシベリアンハスキーを連れている。
「誰?」
「私のクラスメイトの和也くん。あ、ワンちゃん飼ってたんだ」
「あ~、いつも散歩はお父さんが行ってるけどね」
父親は運動のため、仕事から帰ってくると、夜、犬の散歩に行くという。
だが、今日は出張に行っているため、和也が散歩させていたのだ。
「シベっていうんだ」
「わ、名前そのまんまだね」
「大きい」
「シベは人懐っこいんだよ。お腹を撫でられると喜ぶよ」
「へえ~」
琴葉がお腹をさすると、シベは嬉しそうに身体を動かし、尻尾を振った。
「ところで、琴葉ちゃんと光一郎君て、仲が良かったんだね。ユズちゃんもなかなか可愛いね」
和也は三人を見ながら言った。
「学校じゃ、あんまり喋ってないよね?」
「あ、ええっと、それはそうなんだけど、仲がいいというか」
琴葉はどう説明すればいいのか困る。
怪帰師と通役と護衛だと言っても理解してもらえないだろう。
「……わたし達は、異変解決をしている。あなたは何もしなくていい」
和也は意味が分からなかったものの、淡々と答えたユズに何と言葉を返せばいいのか分からず、ただ頷いた。
その時、和也が声を上げた。
「シベ、ダメだってば!」
見ると、シベは近くに落ちていた空き缶を咥えていた。
「また持って帰ろうと思ってるんだな。ほら、口から離して」
和也は、空き缶を取り上げると、近くのゴミ箱に捨てた。
「よくある」
「シベは空き缶が好きなのかい?」
光一郎が尋ねると、和也は頷いた。
「散歩中、落ちてる物をよく咥えるんだ。空き缶だけじゃなくて、落ちてるボールとか枝とかね。それを持って帰って小屋の中に貯め込んじゃうんだよ」
「そうなんだ」
「お父さん、シベを全然叱らないから、小屋の中で溢れているよ」
和也は笑いながらそう言った。
「それじゃあ、また学校でね」
やがて、和也は三人に別れの挨拶をすると、シベを連れて去って行った。
「……でも、待って。ペンダント……シベが、盗んだかもしれない」
ユズは、ぽつりとそう呟いた。
翌日、翌々日と琴葉達はペンダントを捜し続けた。
しかし、相変わらず見つからない。
「もしかして、誰かがゴミと思って捨てちゃったのかも」
夕方。
家へと帰りながら、琴葉は弱気になっていた。
もし、捨てられてしまっていたら見つけるのは不可能だ。
いつまで経っても、花子を元の世界に帰す事はできなくなってしまう。
「このまま、光一郎君のお家に住んでくれればいいけど」
そうすれば、花子と遭遇して高熱を出す人間もいなくなる。
だが、横を歩いていた光一郎は、首を横に振った。
「昨日のあの様子じゃ、いつまでも僕の家にはいないような気がするよ」
昨日、琴葉達はペンダントが見つからなかった事を子に話した。
すると、花子は泣き出し、家から出ようとしたのだ。
どうやら自分でペンダントを見つけにいこうと思ったらしい。
琴葉達は花子を何とか落ち着かせ、家のトイレに戻ってもらったが、光一郎の言う通り、いつまでも家にいてくれるとは思えなかった。
「……早く見つけないと」
そもそも、花子がずっとこの世界にいたら、今、高熱を出している人達が元に戻らない。
琴葉はどうすればいいのか考えるが、アイデアは全く思いつかなかった。
「ペンダントさえあれば……」
光一郎も顎に手を当てて、「うーん」と唸る。
「ん、ペンダント……」
「見つかる?」
ふと、光一郎は明るい表情になった。
「そうか、その手があった!」
「何?」
「何か思いついたの?」
「ああ! これで彼女も喜んでくれるはずだよ!」
琴葉達は、家に戻ると、トイレの中にいた花子を呼び出した。
「花子さん、いいアイデアがあるんだ!」
光一郎はそう言うと、自信満々な様子でそのアイデアを話した。
「僕が君に新しいペンダントをプレゼントするよ!」
「……光一郎、どういう事?」
「どういう事って、そのままの意味だよ」
花子の落としたペンダントを見つけるのは不可能かもしれない。
しかし、同じようなペンダントを店で見つけるのは、決して不可能ではないのだ。
「さあ、花子さん、お店に行こう。それを買えば、元の世界に帰ってくれるよね」
光一郎は、早速出かけようとした。
「クウゥ! ウウウウウ!!」
突然、花子が大声を出した。
「花子さん!!」
「クゥゥウ! ウウウゥ! ウゥウウウ!」
花子はそのまま家を飛び出す。
すれ違ったその目には、涙が溢れていた。
「……怒らせたみたい。あれは思い出の品だから」
「光一郎君、何考えてるのよ!」
琴葉は光一郎に思わず怒鳴り、ユズは無表情で呆れていた。
「何って、花子さんに喜んでもらおうと思って」
「喜ぶわけないでしょ! 花子さん、『そんなの絶対嫌』って言ってたんだよ!」
「えっ?」
「『ペンダントは、少しだけ人間界に来た時、仲良くなった男の子からもらったもの』って言ってた」
「花子さん、昔人間界に来た事があったんだ」
「重要なのはそこじゃないよ。大切な物って、似てるからいいとか、新しい物を買えばいいっていうものじゃないんだよ」
「……それが一番、彼女には大切だから」
花子にとって、落としたペンダントには思い出が詰まっている。
だからこそ、捜してほしいと頼んだのだ。
「そっか、確かにそうだよね……」
「……そういう時もある」
光一郎は、自分のアイデアが間違っていたと気づいた。
「僕は、どうしていつもこう失敗ばかりするんだ」
そう言って、大きく肩を落とす。
そんな光一郎を、琴葉とユズは励ました。
「今は落ち込んでる場合じゃないよ!」
「わたし達が何とかする。花子のペンダントは、必ず見つける」
花子と遭遇しただけで、普通の人は高熱を出してしまう。
今はまだ夕方で、町には大勢の人達がいる。
このままでは大変な事になる。
「花子ちゃんを早くさがさなきゃ!」
琴葉の言葉に光一郎は戸惑いながらも大きく頷く。
「そ、そうだよね。このままじゃみんなが」
「……体調不良になる」
三人は、慌てて外に飛び出した。
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花子の願いを聞くために、叶えるために、主人公達は戦います。