No.1156844

Kaikaeshi and Automata 8「少女の願い」

Nobuさん

花子さんの願いは、何でしょうか? なお話。

2024-11-23 09:00:04 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:33   閲覧ユーザー数:33

「みんないい? 今から呼び出すよ」

 とある小学校。

 女子トイレに小学四年生の女の子達が集まっていた。

 リーダーの女の子が、一緒にいる三人を見る。

 彼女達は何故か緊張していた。

「本当にいるのかな」

 一番背の低い女の子が言う。

 その言葉に、リーダーの女の子も緊張した面持ちになった。

 彼女達がいるのは、今では使われなくなった旧校舎だ。

 最近、その旧校舎にまつわる奇妙な噂が広まっていた。

 旧校舎の三階の女子トイレに、『トイレの花子さん』が出る。

 四人は同じクラスで、都市伝説や怖い噂が大好きだった。

 リーダーの女の子は三人に、「放課後、実際にトイレの花子さんを呼び出してみよう」と提案したのだ。

 皆、賛成して、その場では大盛り上がりした。

 しかし実際に薄暗いトイレの中にやってくると、急に怖気づいてしまった。

 噂によると、トイレの花子さんは、入り口から見て三番目の個室の中にいるらしい。

 そのトイレが故障などで使用できなくなっているのが条件だ。

 四人は三番目の個室の前に立つ。

『使用禁止』

 そう書かれた張り紙が貼られており、いつ貼られたのか分からない。

 文字は色褪せ、あちこち破れてボロボロになっているが、条件通りだ。

「やっぱり、こういうのやめた方がいいかも」

 ふと、一番後ろにいた眼鏡の女の子が小さな声で言った。

 隣にいた背の高い女の子も頷くが、リーダーの女の子が首を大きく横に振った。

「このまま何もせずに帰ったら、みんなに笑われちゃうよ」

 彼女達は、トイレの花子さんを呼び出す事をクラスのみんなに話していた。

 クラスメイトも、どういう結果になるか興味津々だったのだ。

「逃げて帰りましたって言うと、馬鹿にされちゃうよね。そもそも、都市伝説とか噂って本当にあるわけじゃないと思うし」

 背の低い女の子の言葉に、リーダーの女の子は「そうだよね」と答える。

 彼女達は、都市伝説や噂は大好きだったが、本当に存在するとは思っていない。

 単なる作り話や見間違いだと思っていた。

「これも絶対そうだよ」

 旧校舎は普段、誰も入らない。

 薄暗くジメジメしているので、何かが出そうな雰囲気が漂っている。

 しかし、あくまで雰囲気だけ。

「確かにトイレの花子さんなんかいるわけないよね」

 眼鏡の女の子も、背の高い女の子も頷く。

 四人は、トイレの花子さんを呼び出す儀式を行い、ドキドキした怖さを楽しむためにここに来たのだ。

 リーダーの女の子を先頭に、彼女達はフゥッと息を吐くと、心を落ち着かせる。

 そして、改めて張り紙の貼られた個室のドアを見た。

 トイレの花子さんを呼び出す方法は、三番目の個室を三回ノックして「花子さん、いらっしゃいますか?」と聞くというもの。

 それを三回繰り返すと、誰もいない個室の中からノックが返ってきて、「はい」と声がするというのだ。

「まあ、返事なんかないと思うけど。だけど、やれば明日みんなに自慢できるもんね」

 リーダーの女の子は、三人を見る。

 彼女達は頷いていた。

「やろう」

 四人は意を決し、儀式を行う事にした。

 

「まずは、三回ノックするんだよね」

 リーダーの女の子がドアに手を伸ばした。

―トン、トン、トン

 三回、ドアをノックする。

「花子さん、いらっしゃいますか」

 後ろにいる三人も、固唾を飲んで見守る。

 リーダーの女の子は、ドアをまた叩き、花子さんを呼んだ。

「いよいよ、最後だね」

 いるはずないと分かっていても、やはり怖い。

 リーダーの女の子は、緊張しながら、ドアをゆっくりとノックした。

―トン、トン、トン

「花子さん、いらっしゃいますか?」

 リーダーの女の子は、ドアをじっと見つめる。

 何も返事はない。

「だよね」

 安心し、笑みを浮かべた。

―トン、トン、トン

 突然、音が聞こえた。

「えっ?」

 リーダーの女の子は目を大きく見開く。

 背の高い女の子と眼鏡の女の子も驚いて口が開く。

「今、聞こえたよね?」

「うん、ノックの音が聞こえた」

「まさか!?

 三人は顔を見合わせゾッとする。

 まさか、本当にトイレの花子さんが??

 そう思った瞬間、背の低い女の子が笑った。

「な~んちゃって」

 笑いながら、彼女は隣の個室のドアを、トントントンと叩いた。

「もしかして」

「うん、私が叩いたの。驚くかなって思って」

「も~、何よそれ~」

 リーダーの女の子は大きな息を吐く。

 背の低い女の子は日頃から悪戯好きだったのだ。

「こんなところでイタズラしないでよね!」

「ごめんごめん。けど楽しかったでしょ」

「それはまあそうだけど~」

 結局、何も起こらなかった。

 しかし、十分すぎるほど楽しむ事ができた。

「明日、みんなに話さなくちゃね」

 リーダーの女の子は笑いながら、三人の方を見た。

「えっ」

 目をパチクリさせる。

 トイレの花子さんを呼ぼうと思って、旧校舎のトイレに四人で来た。

 自分と、背の高い女の子と、眼鏡の女の子、それに背の低い女の子……。

 それなのに、もう一人、女の子が立っていた。

 

「だ、誰??」

 リーダーの女の子は、一番後ろに立っている女の子にそう言う。

 他の三人も驚き、その子を見る。

 女の子は、赤いスカートを履いていて、髪はおかっぱだ。

「クゥウ、ウゥウウウ」

 女の子が、唸り声を上げながら四人に迫ってくる。

 四人は逃げようとしたが、女の子が入り口の方に立っていて逃げる事ができない。

「クウゥウ、ウウウウ」

「嫌ああああ!!」

 旧校舎に、四人の悲鳴が響き渡った。

 

「早く何とかしないとだよね」

 休日。

 琴葉は光一郎に連れられ、ある場所へ向かっていた。

 先日、隣の地区の小学校で、トイレの花子さんによる騒動が起きたのだ。

 四人の女の子達が、儀式を行い、花子を呼び出してしまった。

 その結果、四人とも高熱が出て寝込んでいるのだという。

「花子さんと遭遇すると、僕達のような力を持っていない人達は、高熱が出て苦しむ事になってしまうんだ」

 光一郎も琴葉も、一刻も早く花子を見つけ、元の世界に帰さなければと思っていた。

 しかし、向かっているのは、騒動があった小学校とは反対の方角だ。

「ねえ、どこに行くの?」

「怪について、詳しい知り合いがいるんだ。ユズもそこでパートで働いてるからね」

「知り合い? どんな人?」

「人じゃないよ」

「えっ?」

 やがて、琴葉達は駅前の商店街にやってきた。

 光一郎はその一角にある居酒屋の前で立ち止まる。

 看板には、『ワンダー居酒屋ケンちゃん』と書かれていた。

「ここにいるよ」

「いるって、お店まだやってないよ?」

 時刻は昼過ぎ。

 居酒屋は夕方からしかやっておらず、ユズもこの時間にバイトしている。

「知り合いって、このお店の店長さんとか?」

 ワンダー居酒屋というぐらいなので、不思議な事に詳しいのかもしれない。

 しかし、光一郎は首を横に振った。

「店長でも従業員でもないよ。さっき言っただろう。人じゃないって」

 光一郎は、店の入り口に近づくと、ふと傍を見た。

「会いたかったのは、彼だよ」

「彼??」

 店の入り口には、信楽焼のタヌキの置物が置かれている。

 その近くには、ユズが立っていた。

「ええっと」

 琴葉が戸惑っていると、突然、タヌキの置物が口を開いた。

「まいど、光一郎はん! その子が通役なんやね!」

「よく来たね」

「うわあ、置物が喋った!」

「置物やあらへん。わては、キュートで可愛い『古ダヌキ』のたぬ吉様や。ユズはんはここで働いてるんやで」

 たぬ吉は笑いながら、お腹をポンと叩いた。

「古ダヌキって、もしかして!!」

「怪」

 光一郎は、たぬ吉が何者なのか説明した。

 たぬ吉は、この町に古くから住む怪なのだという。

 怪の中には、人々に害を与える事なく、怪帰師に協力してくれるものもいるそうだ。

「そうなんだ。だけど、どうして人間の言葉を喋れるの? ユズちゃんも一応、怪でしょ?」

 怪の言葉は分からないため通役が必要となるのだ。

 すると、たぬ吉が嬉しそうに答えた。

「わては人間界に百年以上住んどる。それで喋れるようになったんや。ディスイズアペン。英語もちょっとは喋れるで」

「……わたしは、機械に命が宿ったから」

「ってか、百歳なの?」

「いや、年齢は二百二十二歳や」

「えええ??」

 たぬ吉はとんでもなく長生きのようだ。

「怪って、みんなそんなに長生きなの?」

「それは怪によってちゃうなあ。ちなみに、わては人間でゆうたら、十八歳ぐらいのアオハル真っ盛りの年齢やで」

「え、若者なの??」

 どう見ても、おじさんタヌキにしか見えない。

 そんな中、ユズがたぬ吉に話しかけた。

「……キュートと可愛いは同じ意味」

「あ、そっか、こりゃあ、アイムソーリー、ヒゲソーリーやな!」

 たぬ吉は、また笑いながらお腹をポンと叩いた。

「な、なんか楽しそうな人、じゃなかった怪だね」

 どこからどう見ても悪い怪ではなさそうだ。

 琴葉は改めて挨拶をして、自分の名前を名乗った。

「ほ~、琴葉はんか。うんうん、光一郎はんの相棒に相応しい顔しとるわ」

「え、ほんと!!」

 光一郎に相応しいと言われて、琴葉は思わず笑顔になる。

 そんな琴葉に構わず、光一郎は本題に入った。

「それで、トイレの花子さんの事について教えてほしいんだ」

「おお、そやったな」

 たぬ吉は、この町にいる怪の情報に詳しいらしい。

「やけど、ほんまアンビリバボーやわ。まさか、花子はんが人を襲うなんてなあ」

「襲った?」

 花子は女の子の怪で、本来、人を襲う事はないのだという。

「だったら、どうしてあんな事をしたの?」

 琴葉はたぬ吉に尋ねた。

「分からん。あの子は優しうて大人しいええ子なんやで」

 たぬ吉は、困惑した表情で答える。

「とにかく、早く見つけ出さないと」

 光一郎は、拳を強く握り締めた。

 二人がたぬ吉のところに来たのは、花子がどういう性格なのかを聞くためだけではない。

 現在、花子は女の子達を襲った小学校のトイレから逃げてしまい、どこにいるのか分からなくなってしまったのだ。

「居場所なあ。花子はんは、三階の女子トイレの三番目の個室、しかも壊れて使用できひん状態のところが好きでよく隠れてるんやけど」

「よくある」

 そのトイレの前で儀式を行えば、出てくるらしい。

 たぬ吉は、花子を呼び出す儀式の方法を教えた。

 先日、女の子達が行ったものだ。

「だけど、そんなトイレ、どこを捜せば……」

 光一郎は首を捻る。

 この町には、無数のトイレがある。

 しかも、壊れていたり使用ができないトイレの情報などどうやって得ればいいのか、さっぱり分からなかった。

 だがその時、琴葉が「あっ」と声を上げた。

「私、知ってるかも」

「どこ?」

「ウチの学校」

「え」

 なんと、西校舎の三階の女子トイレの個室が、壊れて使えなくなっていたのだ。


 
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