今年も残すところわずか、街も人も慌ただしく動き回っている。お店のカウンター席から後ろを向いて、外に目をやるとカップルが連れ立って歩いていたり、お父さんとお母さんに手を握られて嬉しそうに歩いている子ども等がチラホラと見られる。
そう、今日はクリスマス。一年越しのクリスマスデートだ、今年も去年と同じようにイブの日にWデートしようと親友に誘われたが、クリスマスにするから二人で楽しんでと断った。その話しを聞いた親友は驚いていたが成長したねと嬉しそうに笑っていた。
「おまたせしました。」
そう声をかけられて前を向くと、お洒落なカップに入った珈琲が小さなケーキと共に出されていた。すごくいい匂いがする。相変わらずセンスのいいカップだ。同じのになった事がないけどどれだけあるのかな。
「ありがとうございます。」
注文した珈琲を一口飲んで、お店の時計に目をやる。まだ彼との待ち合わせ時間までは随分と時間がある。
「貴女をまたせる何て、真一君も偉くなったもんだ。」
すると、カウンターの奥で珈琲を入れていたオーナーの佳織さんが出て来て、話しかけられた。
「いえ、私が早く来すぎただけです。まだ待ち合わせの時間よりすごく早い。」
「いやいや、時間前に来るのは男の子との務めなんだよ。時間に間に合っても、遅いよって言うんだよ。」
佳織さんは楽しそうに笑いながら言った。
「ダメですよ。そんな事言うと、彼、真面目だからずっと気にするんで。」
「そうだね。それで今日はデートだよね。結構、お洒落してるね。お化粧もしてるし。どこに行くの?」
佳織さんがそう言ってマジマジと私の顔を覗き込む。う〜、すごく恥ずかしい。ちょっぴり頬が熱くなるのを感じながら、何とか佳織さんに答える。
「えっとミュージカルに。それから、ご飯を食べにいきます。」
私がお父さんから貰ったのはミュージカルのチケットだった。そしてその劇場の近くにあるお店を彼が予約してくれた。
「へぇ、もしかしてチケットは真一君からのプレゼント?」
「いいえ、父からです。彼からはコレを貰いました。」
私は首にかけてあるネックレスを見せる。昨日、家で開いたクリスマス会の時に渡してもらった。
「若いっていいわね。じゃ真一君が来るまでゆっくりしてってね。」
「はい。」
しばらく、たわいもない話を二人でしていたが、電話が入ったため佳織さんは奥へと戻っていた。。
彼からプレゼントされたネックレスを手にとる。最初はお父さんがホワイトデーにくれたのにしようかと思ったけど、せっかくなんで彼から貰ったのにした。
彼は弟妹にあの子達のリクエスト通りの銀の長靴を持って来てくれた。しかも、それは一番大きな奴だったので二人とも大はしゃぎだった。そういえば今朝も大騒ぎしてたっけな。
我が家のサンタクロースからのプレゼントはなぞなぞ付きだ。朝枕元に一枚のカードがありそこになぞなぞが書いてある。その答えの場所にプレゼントが用意されている。今日の弟妹としたプレゼント探しの事を思い返す。
朝から弟妹は一枚のカードと睨めっこをしている。プレゼントのありかが書いてあるサンタクロースからのカード。そんな二人を私とお母さんは楽しそうに眺めている。
「今年も考えてるわね。でもあと少ししたらこっちにくるかな。」
「どうかな。よう君は自分で解るんじゃないかな。」
そんな事を話しながらコタツから、二人をしばらく見ていると、弟はカードを持って二階にあがっていた。そして、「あった〜」と嬉しそうな声が聞こえて来た。
「亜由美の予想通りね。後はりょうちゃんだね。」
妹はまだ睨めっこをしている。そして時おり、何やら声に出して読んでいる。そして何か思いついたのかリビングから出ていったが、悄気て戻って来た。
「おねえちゃん。これよくわからない。」
妹からカードを渡される。妹のカードにはひらがなでかかれた文字。そしてヒントとして可愛い狸の絵が描いてあった。
なるほど、妹にカードを帰す。
「りょうちゃんヒントには何が書いてある?」
「たぬきさんだよ。おなかがおおきい。だけどない。」
なるほどさっきは床の間の狸の瀬戸物を見に行ったのか。ちょっとだけヒントをあげよう。
「そうだね。た、ぬき、だね。」
私がアクセントを変えて伝える。そう言われた妹は何かひらめいたのか一生懸命に文字を追いかけはじめた。たぶんわかったんだろうね。何回か読み返したと思ったら再び妹は走って何処かにいってしまった。
「あっ、りょうちゃん。危ないから走っちゃダメだよ。」
「わかった。」
そんな声が聞こえたけど、ドタバタと足音が響く。転ばなければいいけど。
「さてと二人ともみつけれたみたいね。亜由美も準備しなさい。あの子達がオモチャに夢中になっている間にいかないと。泣かれるわよ。」
「大丈夫だよ。お出かけするねって言ってある。あとは着替えて髪を梳かすだけだし。」
「何言ってるの。お化粧しなさい。まったくアンタは。」
お母さんが何やら怒りだしたり、やっぱり弟妹が僕たちも一緒に行くとだだをこねたりと家を出るまでに一騒動があったけど、いつもの日常だった。
そんな事を思い返していると、鞄の中にある携帯が震える。そういえばアラームをセットしたんだっけ。そう思って止めようとすると肩を叩かれる。
「ごめん。お待たせ。」
振り返ると彼がそこに立っていた。彼は何だか申し訳なさそうな顔をしていた。どうしたんだろう、携帯が鳴ったって事は10分前ってことだし遅刻はしてないけど。
「いいよ。私が早く来すぎただけだし。」
「あ、うん。そうじゃなくてさ。」
そう言って彼は私の隣に座る。すると佳織さんがニヤニヤしてこっちに来た。
「いらっしゃい。真一君もお洒落して来たね。」
「この格好、変じゃないですよね。」
「大丈夫よ。ねぇ亜由美ちゃん。」
「えっ、はい。すごく似合ってるよ。」
私がそう答えると彼がじっと私を見つめる。たぶん彼のコーディネートじゃないんだろうな。だから不安だったんだ。なので私は見つめたまま大きく頷く。するとさっきまで困った顔をしていたのが柔らかくなった。
「もう、私の言葉は信じられないのかな。昔は素直だったのに。」
佳織さんがそう言って拗ねた振りをする。彼は「いや」とか「べつに」とか何だか落ちつかない様子だった。彼らしいな。
「それで、すぐに劇場に行くの?」
「まだ時間があるから、ウインドウショッピングしようかなって。」
私がそう答えると、彼はカウンターに置いてあった私の伝票を掴んでさっさとレジにいってしまった。そしてちゃっちゃとお会計をすませて私を呼ぶ。
「亜由美、行こう。」
「待って、佳織さん。ごちそうさまでした。また来ます。」
「いってらっしゃい。楽しんで来てね。」
佳織さんに見送られながら私達は外に出た。外に出ると彼がバツの悪そうな顔をして待っていた。
「もう、真一どうしたの。佳織さんに悪いよ。」
「うん、いや、何か昔の事言われるの恥ずかしかったから。」
「そっか。でも私は気にしないよ。小さい時の事だもん。行こう。」
お店を出た後はウインドウショッピングを二人で楽しんだ。こうやって二人っきり街を歩くのも随分と久しぶりだ。そう思っていると彼がふっと呟いた。
「来年はこうやって出かけれるかな。受験だから無理かな。」
「そうだね。必要なら予備校の冬期講習行ってそうだね。」
この冬が終わると私達は受験生になる。終業式の日に担任の先生が受験はもうスタートしている事を忘れないようにと言っていたっけ。そう言えば、クラスメイートの中には、早くも予備校の冬期講習を受けている子もチラホラいたっけな。
「でも私は出かけたいな。息抜きも必要だし。」
「それもそうか。他の日を目一杯頑張ればいいよな。」
「そうだよ。来年もデートしようね。」
「ああ。」
顔を見合わせてお互い笑いながらそんな約束を交わした。そして、しっかりと彼に手を握られながら人ごみの中を歩いていく。
時間いっぱいまで、ウインドウショッピングを楽しみ、駅に向かった。そして現在は、電車に揺られながら目的の劇場がある駅まで移動している。私鉄から途中で地下鉄に乗り換える。思っていたより人ごみが少なく、二人並んで座る事ができた。
地下鉄を降りてしばらく歩くと、劇場にいた。多くの人が建物の前で待っている。時間が来るまで建物の扉は開かない。鞄からチケットを取り出して一枚彼に渡す。
「何だかすごくドキドキして来た。」
「私もだよ。楽しみだね。」
そんな事を話していると扉が開いて中から人が出て来て挨拶をして、開館となった。人々が扉の前に列を作りはじめる。私達もその流れに乗って会場へと入っていく。
さて最初にしないといけないのはプログラムの購入。周りを見るとそれらしき所をみつける。
「真一、プログラム買わないと。」
「プログラム?今から見るのにいるのか?」
私と同じ事を言っている。しっかりと中身を理解してないでみるのと、理解してみるのでは感動が違うらしい。彼にもお母さんが言った事と同じ事を説明した。
「すみません。プログラムをください。」
「はい、会員様であれば一冊1800円、一般のお客様ですと2000円になります。」
「ちょっとまってください。亜由美。会員だったりする?」
彼は後ろを向いてそう言った。残念ながら私は会員じゃない。もしかするとお父さんかお母さんはそうかもしれないけど。
「会員じゃないよ。」
「えっと、一般です。」
「冊数はどうされますか。」
受付の女の人が彼と私をみる。さてどうしよう、思っていた以上に値段がする。でもせっかくだから家にもって帰りたい。どうしようかと考えていると彼が話しを進めていた。
「一緒に見るので、一冊でいいです。」
「真一、ごめん。私、それ持って帰りたい。だから、もう一冊ほしい。」
私がそう言うと彼は笑いながら言った。
「いいよ。亜由美がもって帰れば。俺はたぶん帰ったら読み返したりは絶対しないし。」
「ありがとう。いいの。」
「いいよ。はい。」
彼は受け取ったプログラムを私に渡してくれた。真っ黒なバックに金色で装飾と文字が書いてあるシンプルだけどセンスがいいプログラムだった。
「さてと席は二階席だったよな。右側の入り口からどうぞって言ったてっけ。」
「うん、右側の階段を上がってくださいって言ってたよ。」
「じゃ、行こうか。人がどんどん増えて来たし。」
そうだ、席にいく前にアレも貰ってこないと。私がキョロキョロとしていると彼が気がついてどうしたのかと聞いて来た。
「あのね、今日のキャストは誰か書いてある紙が置いてあるはずなんだ。」
「毎回、同じ人がやるんじゃないのか。」
「違うみたいだよ。何組かあるらしいの。」
入り口の近くに本日のキャストの一覧が記載された小さな紙が置いてあったのでそれを、それそれ一枚ずつとり入り口に向かう。チケットの座席番号をたよりに席を探していくと、私達の席は2階席の前から二列目中央の席なので全体がよく見渡せた。
「すごく、いい席だよな。ここって。」
「うん、二階って言ってたから、もっと遠いかと思ってた。」
そんな話しをしながら座ると、館内放送が流れ、携帯電話の電源を落とすように促していた。携帯電話の電源を落として鞄の中にしまい、さっそくプログラムを二人の間にを広げてページを開いていく。
「なぁ、どこを読めばいいのかな。」
「えっとねストーリーが書いてあるはずだから。」
ストーリーが書かれているページを開いて二人で読みはじめる。
そして時間が来て場内が暗くなり、当たりが静かになった。
♪ジャーン・ジャジャジャジャジャーン♪
♪ジャジャジャーン・ジャジャジャジャーン♪
このミュージカルの定番曲が力強くなり、一気に幕があがる。目まぐるしく舞台が動いていき私は一瞬にして舞台に引きつけれた。確かにこれはストーリを理解してみるのと理解してないでみるのでは大きな差がある。
そして、次々と繰り広げられるダンスと歌、そして音楽にも私は魅了されていった。
カーテンコールが凄まじく鳴り響く、私も自然と拍手をした。最後、私は悲しくてしかたがなかった。ファントムの壮絶な愛に心打たれた。そしてクリスティーヌの行動。私はここまで大切な人を思う事ができるのかな。
舞台がおわり、観客席に明かりが戻る。するとそっとハンカチで目元を優しく拭かれた。隣をみると彼の優しい笑顔があった。
「ありがとう。何か泣いちゃった。」
「俺も、何だかグッと来た。すごかったな。」
「うん、すごかったね。」
周りの人達が席から離れていく流れにのって、手を繋ぎながら外に出た。館内にあるグッツ売り場でお揃いでストラップを買い、弟妹のお土産としてトランプを買った。外に出ると、少し風が冷たかった。空を見上げると星空が満面に広がっていた。
「寒いね。」
服に合わないからと、マフラーをしてこなかったのは失敗だったかな。私がそう呟くと彼は手に持っていたマフラーを取り私の首にかけてくれた。
「ありがとう。でも真一も寒いでしょう。いいよ。」
そう言って外そうとするとしたら、しっかりと巻き付けられた。
「俺は大丈夫。中に着込んでる。亜由美はちょっと薄着だよな。」
「じゃ、お言葉に甘えて。ねぇ、お店はどこなの。」
「近いからすぐだよ。」
私は彼の腕をとり、しっかりと組む。こうすれば私の温かさが彼に伝わる。彼が案内してくれたお店は劇場からほんの少し外れた通りにある小さなレストランだった。お店の戸を開けるとゆったりとしたピアノの音が聞こえた。
「ご予約ですか。」
「はい、矢野です。」
「矢野様ですね。おまちください。はい、承っております。こちらにどうぞ。」
ウエイターに案内されてお店の中に案内される。私達みたいな高校生がきていい場所なんだろうか。周りを見ると大人のカップルばかりだった。ソワソワしながらついていき案内されたテーブルに座る。
「真一は、ここに来た事あるの?」
「ないよ、教えてもらった。えっと覚えてるかな、ホワイトデーにあった親子連れ。」
「うん、覚えてるよ。」
「そのときの男の人。良司さんが教えてくれた。」
「へぇ〜。文花ちゃんのお父さんだよね。」
私がそう言うと彼は驚いた顔をしていた。そう言えば知り合いになったって事は話してなかったけな。
「なんで、亜由美が文花ちゃんを知ってるんだ。」
「だってよう君の初恋。夏のラジオ体操の時にね。」
「へぇ〜、そんな事があったんだ。」
そんな話しをしているとスープが運ばれて来て、食事が始まる。最初に心配していたナイフとフォークの種類については料理ごとにその都度出されたので余計な心配をすることなく、ゆっくりと味わいながら食べる事ができた。
デザートと食後の飲み物を待つ間に私は彼にある事を打ち明ける事にした。今なら落ちついてちゃんと話せそうだ。
「あのね、真一。私ね志望校を変えようと思うんだ。」
私はそう言って変更した先の学校を伝える。そしてどうしてそうなったのかを丁寧に話していく。自分と向き合って出て来た自分の本音。そして自分を大事にしなさいと強く背中を押してくれたお母さん事。
「ごめんね。同じ地域じゃなくなった。離ればなれになっちゃう。」
話し終わって改めて彼の顔を見る。驚いた顔をしていた。そうだよね、ビックリするよね。ついこの間までは一緒に通学出来るかもねって楽しく話してたのに。申し訳なくなって彼の顔を見られなくなり下向いた。
「うん、よくわかったよ。あと俺も亜由美に話したい事があったんだ。同じ理由で、」
彼がそう言い終わったタイミングでデザートと飲み物が運ばれて来た。私は何もいれずに珈琲に口をつける。いつもは平気なのに何だか苦い。
そう思って彼を見る。彼は運ばれて来た珈琲に砂糖を入れてかき混ぜて軽くミルクを注ぎ一口含み、話しを続けた。
「受かるかどうか本当にギリギリなんだけどさ。挑戦したいところがあった。でも亜由美とすごく離れるから迷ってたんだけど。決めたんだ。」
そこまで一気に言い終わった彼を見る。彼はとっても優しい笑顔で私を見つめていてくれた。
「それって。」
「ああ、亜由美がさっき言った学校だよ。一人暮らしするんだろう。だったら一緒に生活しないか。」
「もう、まだ早いよ。けど、一緒に行けるといいね。」
お店を出た後、乗り換えの駅で下車してイルミネーションを見に行った。イルミネーションは広場いっぱいに張り巡らされているのと高いビルに一枚絵のように展示されている物だった。
私達はイルミネーション全体が見渡せる場所に移動する。どのベンチにもカップルが仲良く座っている。運良く開いていたベンチに座り、彼のマフラーを二人で仲良く巻きお互いの肩を寄せあう。すごく温かい。
「綺麗だね。」
「そうだな。けど、亜由美も負けないぐらい綺麗だよ。」
彼がそんな事を言った。見上げていた視線を彼に写す。彼は照れているわけでもなく、いつになく真剣な顔をしていた。
「今日、あった時、すごくドキドキした。なぁ、亜由美やっぱり卒業したら一緒に生活しよう。」
「無理だってば。お母さんが絶対反対する。」
「そうかな。そこは俺、頑張るから。だから亜由美の気持ちが知りたい。」
「えっと、もし許されるならしたいよ。いつかは夫婦になるんだし。」
「ありがとう。俺、頑張るよ。勉強も亜由美の事も。」
彼はそう言って私をぎゅっと抱きしめるように肩を抱いた。彼の体が少しだけ震えていた。こうして、私達のクリスマスデートは終わりを向かえる。
—空の上では聖夜をお祝いするように星星が瞬き、星の下ではイルミネーションの明かりや温かい家庭の明かりが瞬いている。どうか願わくば多くの人々の元へ幸せが訪れると良いな。—
fin
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今宵で今年もおしまいです。皆さんの一年はどうだったでしょうか。さて今月はクリスマスと言う恋人達には大切なイベントがありました。彼女達はどんなクリスマスだったのでしょうか、しばし時間を遡って覗いてみましょう。