No.1146531

英雄伝説~黎の陽だまりと終焉を超えし英雄達~

soranoさん

第38話

2024-06-19 22:02:56 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:608   閲覧ユーザー数:537

その後ニナからの依頼についての話を聞き終え、ニナの依頼を請ける事を決めたヴァンは事務所前でアニエスに明日の予定について伝えていた。

 

~アークライド解決事務所~

 

「そんじゃあ、明日の夜7時にな。」

「はい、今度はきちんと周囲に伝えておきますので。フェリちゃん、アーロンさんも今日はお疲れ様でした。」

ヴァンの言葉に頷いたアニエスはフェリとアーロンに声をかけた後寮に帰るためにその場から去って行った。

「んで、フェリはともかくお前もついてくるってか?」

アニエスが去った後ヴァンは若干呆れた様子でアーロンに確認した。

「たりめーだろ?あんな話を聞いちゃあなァ。」

「わたしは言わずもがなですっ。」

ヴァンの確認に対してアーロンは笑顔で答え、フェリは真剣な表情で答えた。

「やれやれ…………ま、確かに気になる依頼だしな。カルバード南東――――――”サルバッド”か。」

二人の答えに苦笑を浮かべたヴァンはニナの依頼内容について思い返した。

 

~数時間前~

 

「映画祭、ですか…………?」

「毎年、北のメッセルダム市で行われてるヤツだな。二ヶ月前くらいのテロ予告で今年は中止になったって聞いたが。」

「いえ、それとは別のものでして。中東の”エルザイム公国”の後援で今年から新たに開催されるものです。名前は”サルバッド映画祭”―――――主催は”ベガスフィルム”となります。」

「そうか…………噂は聞いちゃいたが。」

「確かド派手な映画を立て続けにヒットさせてる映画会社だったか?なんちゃらゴッチとかいうえらく濃い監督が仕切っている。」

ニナの話を聞いたヴァンは頷き、アーロンは自身が知っている知識を口にして確認した。

「あ、たしか『ゴールデンブラッド』の…………!」

「ええ、新興の映画会社ですけど大手に迫る勢いみたいですね。エンターテインメント性重視で…………ちょっと表現も過激っていう。」

アーロンの話を聞いて以前目にした映画を思い出したフェリの言葉に頷いたアニエスはあることについても思い出し、僅かに複雑そうな表情を浮かべた。

 

「クク、ネンネだねぇ。完全版(R17)とか見てみろよ。」

「わ、私は16ですから!」

「あーるじゅうなな?」

アーロンのからかいにアニエスが頬を赤らめて反論した後アーロンの言葉の意味がわからなかったフェリは首を傾げた。

「ま、ほぼ専属の売れっ子監督、サルバトーレ・ゴッチの手腕だな。すると実質ベガスフィルム関係の受賞で独占って感じかね?」

「いえ――――――そこは完全にフェアにというのがゴッチ監督の意向だそうです。エンターテインメント作品寄りですけど招待されている監督、俳優も多く…………私と、もう一人の依頼者もその内です。」

「なるほど…………そしてそんな時にニナさんの事務所に届いたのが――――――」

「問題の”脅迫状”ってヤツか。」

ニナの話に頷いた後答えたアニエスの言葉の続きを口にしたヴァンは考え込んだ。

 

「『サルバッド映画祭への参加を辞退せよ――――――さもなくば災いが降りかかるだろう。』――――――そんな内容の怪文章がうちを含めた関係各位に届いたんです。もちろん、イタズラである可能性も高いとは思いますが…………」

「テロ予告で他の映画祭が中止になった以上、無視もできないわけですね。」

「ハッ、その辺も狙って送り付けてそうな気もするがな。」

「ええ…………事務所からは参加を辞退するように説得されていまして。――――――ですが経験も浅い私にとってまたとない機会であるのも確かです。もう一人の共同依頼者も同じ想いで、何とかできないか各方面に相談を………」

「で、こちらにお鉢が回ってきたわけだ。」

「ハン…………顔に似合わず逞しいじゃねぇか?」

ニナの話を聞いてニナが自分達に連絡してきた理由をヴァンは悟り、アーロンは感心した様子でニナに指摘した。

 

 

「ふふっ、昼間助けていただいた時に業界の”噂話”を思い出しまして。以前、事務所のトラブルでお世話になったディンゴさんに仲介をお願いしたんです。――――――要はリスク管理の問題だと思うんです。人気商売としては警察沙汰にして大事にはしたくない…………かといってギルドにはどうしてもデリケートな案件は頼みにくいですから。」

「なるほど、確かに規約優先で違法行為にも敏感みたいですし…………」

「ああ、基本的には正義の味方、清濁併せ?むっつうのは難しいだろう。――――――確かにディンゴの仲介で、芸能関連の仕事をしたこともあるが…………流石にその規模の仕事は初めてだ。言っておくが、安くはねえぞ?」

ニナがギルドに依頼をしなかった理由を察して納得した様子で呟いたアニエスの話に頷いたヴァンはニナに依頼料についての忠告をした。

「ええ、勿論です――――――”映画祭を守っていただく”んですから。」

「む…………」

「引き受けていただけるのなら、明後日には現地入りをしていただき――――――映画祭当日までの3日間、不穏な動きがないか調べていただきたいんです。”4spg”でしたか…………そちらの出張を通した形でも構いません。現地での活動資金、成功報酬諸々を私達のポケットマネーからお支払いします。」

「太っ腹です…………」

「流石は売れっ子スターってわけだ。”もう一人”ってのも気になるが。」

「ふむ…………(ラングポートよりも期間は長そうだがどうするか…………)」

(!ヴァンさん…………!)

出張関連の報酬等を全てポケットマネーから出すと口にしたニナの話を聞いたフェリとアーロンが感心している中ヴァンが依頼を請けるかどうか考え込んだその時、ゲネシスに反応し始めたことに気づいたアニエスが小声でヴァンに声をかけた。

 

(あ………!)

(そいつは…………)

「?えっと…………?」

ゲネシスの反応を目にしたフェリとアーロンが真剣な表情を浮かべている中、映像越しであるため何が起こっているのかわからないニナは困惑の表情を浮かべた。

「ああ、こっちの話だ。――――――流石に急すぎるから予定を確認して折り返させてもらう。できればこういった話は余裕をもって相談してほしいモンだがな。明後日にはサルバッド入りとなるとどうしたってドタバタしちまいそうだ。」

「ふふ、すみません。何分お会いできたのが決め手でして。そうだ、急な依頼のお詫びも兼ねて、もし引き受けてくださるのならですが…………現地の六つ星ホテル”アルジュメイラ”の限定スイーツをご馳走させてください。」

「…………ほう。参考までにそれはどんな代物だ?」

ニナの申し出を聞いてこの後の展開を悟った助手達がそれぞれ苦笑を浮かべて互いの顔を見合わせている中、ヴァンは真剣な表情を浮かべてニナに訊ねた。

「”メルフィータ”っていう、ラクダのミルクを使ったショコラです。これまた貴重な”生カカオ”と一緒に練り合わせているらしくて。官能的なほど独特で濃厚な甘みが舌の上でまろやかに広がって――――――」

「―――――ああ分かった、十分だ。明日までには必ず連絡する。前向きに検討するから待っててくれ。」

ニナの解説を途中で打ち切らせたヴァンは笑顔を浮かべて答え、ヴァンの様子にアニエス達はそれぞれ冷や汗をかいて苦笑していた。

「ふふ、ディンゴさんのアドバイスが早速役に立ったみたいですね。――――――それではお待ちしています、アークライドさん。」

ヴァンの表情と答えにニナは微笑みながら答えて通信を切った。

 

~現在~

 

「ま、てめぇのチョロさはさておき。俺達もサルバッドは初めてだし、姉貴達共々せいぜい楽しみにしておくぜ。」

「わたしは行ったことがあるのでちょっとは案内できると思いますっ。」

「ま、ついてくるのはいいが片付けるモンは片付けとけよ。フェリーダは日曜学校、お前も”再交付”があんだろうが?マルティーナは旧首都に来た翌週には”再交付”を受けたと聞いてるぞ。」

「そうでした、数学の宿題もちゃんと終わらせないと…………」

「そのつもりだったが微妙にダリーな。数日くらいなら無免でもいんじゃね?」

ヴァンの指摘にフェリとアーロンはそれぞれ嫌なものを思い出したかのように疲れた表情を浮かべた。

「いいわけあるかっつの!」

アーロンの指摘にヴァンは呆れた表情で声を上げて指摘した。

 

その後解散したヴァンは一人での夜の巡回を始め、巡回の途中でベルモッティの店を訪れた。

 

~リバーサイド・カフェ”ベルモッティ”~

 

「あら、いらっしゃいヴァンちゃん。今日は情報屋のアタシとバーデンダーのアタシ、どちらに御用かしら?勿論、どっちもっていう欲張りコースでも構わないわよ♪」

「妙な言い方するんじゃねえっ。だがまあ、一杯だけ軽く引っかけていこうかと思ってな。お任せで頼む。」

「フフ、それじゃあ雨の夜に相応しい一杯をご馳走するわね。そうだ、今日は珍しいお客さんも来てるのよ。珍しい客?って――――――」

ベルモッティの話に首を傾げたヴァンがベルモッティが視線を向けている所に視線を向けるとフィーとアネラスが多人数用の席に座っていた。

「こんばんは、裏解決屋さん。よかったら相席していかない?」

フィーの提案に乗ったヴァンはフィー達と相席をした。

 

「こちら、レイニーブルー。雨の日にぴったりのカクテルよ。それじゃあごゆっくり~♪」

それぞれの目の前にカクテルを置いたベルモッティはカウンターに戻った。

「綺麗なお酒だね。」

「ああ―――――ってさすがに成人はしているんだったか?」

「今年20になった。まだたまに未成年って間違われるけど。」

「うんうん、それはフィーちゃんがいくつになっても可愛い証拠だよ♪」

ヴァンの問いかけに苦笑しながら答えたフィーにアネラスは嬉しそうな表情を浮かべて指摘し、アネラスの指摘に二人はそれぞれ冷や汗をかいて脱力した。

「アネラスのそういうところも全然変わっていないね。………そういえば裏解決屋さんはエレインと同い年だから24だっけ?」

「ああ。――――――そんじゃ、乾杯と行くか。」

「ん、3年以来の再会の印にってことで。」

こういてヴァンとフィー、アネラスはお酒を楽しみつつ――――――まずは他愛のない会話を楽しむのだった。そして飲み交わしてから10分後――――――

 

「…………」

「って、飲み始めたばっかりだってのにもう酔い潰れてんのか?」

酒を飲まず、黙り込んでいるフィーが気になったヴァンはフィーに声をかけた。

「…………潰れてない、一瞬寝ちゃってただけ。」

「酒に弱いんなら無理すんな。面倒見きれねえからな?」

「大丈夫です!その時は私が喜んで面倒見ますので!」

フィーの言葉に冷や汗をかいたヴァンは苦笑しながら指摘したが力強く答えたアネラスの答えに再び冷や汗をかいて脱力した。

「ふわぁ………大丈夫、後で少し眠れば醒めるから。それに、酔っぱらいの醜態は何度も見てるしね。サラと同じ轍は踏まないつもり。」

「あはは………サラさんには絶対に聞かせられられない言葉だね…………」

「サラっつうと…………ああ、”紫電”か。お前さんと同じく元猟兵にしてA級遊撃士――――――そんで、あの”Ⅶ組”の関係者で最近では北の猟兵の残党とメンフィル帝国を和解させたらしいな。」

「ふふ、裏解決屋さんなら当然それくらいは知ってるか。かつてのわたし達の担当教官で、今じゃ恩師であり相棒…………みたいなものかな。成人した時にリィンやラウラたちも含めて飲んだ初めてのお酒も、美味しかったな…………」

ヴァンの話を聞いたフィーは苦笑した後初めての酒を飲んだ時の事を思い返した。

 

「恩師であり相棒、か…………」

「そっちにもそういう人がいたよね?」

ヴァンの様子を見て何かに気づいたフィーはヴァンに訊ねた。

「まあな…………相棒のほうじゃねえが。縁に恵まれて今があるって意味じゃお前と似たようなものかもしれねえ。ま、そっちも知ってるかもしれねえが結局は途切れちまったんだが。」

「あ…………そういえばヴァンさんの”恩師”って確か…………」

「…………そうだったね…………」

僅かに寂しげな笑みを浮かべて答えたヴァンの話を聞いて”ヴァンの恩師が誰であり、その人物は既に故人である事”を思い出したアネラスは気まずそうな表情を浮かべ、フィーは静かな表情を浮かべて黙り込んだ。

 

「俺の話はさておき――――――聞きたいことは他にあるみたいだな?俺がこの店の常連なのを見越して、わざわざ待ち伏せしていた以上は。」

「そ、そこまで気づいていたんですか…………」

「フフ、本当にさすがだね。――――――カルバードに来る直前くらいかな、ジンから連絡があったんだ。クレイユ村であったことについて。貴方や、昼に記念公園に来てた………”戦士団”の子も居合わせたんだってね?」

ヴァンの指摘にアネラスが驚いている中目を丸くしてヴァンに感心したフィーは表情を引き締めてクレイユ村での出来事――――――アイーダ達の件についてヴァンに確認した。

「ああ――――――当然、お前さんには聞く権利があんだろ。かいつまんでにはなるが話させてもらうぜ。」

ヴァンはクレイユ村であったことや、アイーダのことについて…………ゲネシスの話などはうまく誤魔化しながらフィーとアネラスに話した。

 

「…………そっか、アイーダ…………団にいた頃も、面倒見が良くて姉御肌の”強い”人だった。わたしにとっても本当の姉みたいに…………きっと、嬉しかったと思う。もう一人の妹分もそうだけど、かつての”戦友”に見送ってもらえて。」

「フィーちゃん…………」

寂しげな笑みを浮かべて語るフィーをアネラスは心配そうな表情で見つめた。

「―――――ありがとう、聞けてよかった。」

「俺は当然の事をしただけであんま、気にしなくていいからな。――――――それで”そっち”の方も、まさかとは思うが”妖精”みたいに俺に用があって”妖精”と共に待ち伏せしていたのか?先に言っておくが、お前さんの”妹弟子”に関しては3年前の”親睦会”以降特に関わることもなかったから、最近の奴の動向とかはマジで知らねぇぞ?」

「あはは、やっぱり私の事も気づいていたんですか…………ある程度予想はしていましたけど、ヴァンさんの方もシズナちゃんの事はわからないですか。」

ヴァンの指摘と説明に苦笑を浮かべたアネラスは僅かに複雑そうな表情を浮かべて呟いた。

 

「”妹弟子”の”スポンサー”の件も考えたら、俺に聞くよりも”弟弟子”に聞いた方が確実なんじゃねぇのか?」

「一応リィン君の方にもサラさんを介して聞いてみたんですが、シズナちゃん――――――”斑鳩”の件は関係者以外に対しては”守秘義務”があるとの事で詳しいことは教えてもらえなかったとの事なんです。」

ヴァンの推測に対してアネラスは複雑そうな表情を浮かべて答えた。

「ま、”弟弟子の今の立場”も考えればメンフィル帝国の防諜にも関わっている可能性が高い”斑鳩”に関する情報となると例え同じ恩師の弟子にして孫娘とはいえ、おいそれと話すことはできねぇか。――――――ましてや”妹弟子”にとって”遊撃士”のお前さんは”商売敵(しょうばいがたき)”でもあるからな。」

「あはは…………未だ”剣聖”に到っていない私なんかが、シズナちゃんの”商売敵(しょうばいがたき)”なんて分不相応ですけど…………次に対峙した時は(仮)は撤回してもらう実力は示すつもりです。」

ヴァンの指摘に苦笑しながら答えたアネラスは決意の表情を浮かべて答えた。

「フフ…………それにしても”クルガ戦士団”のフェリーダか。アイーダの事もあるけど、個人的にもちゃんと話をしてみたいな。」

「そうしてやってくれ、フェリの方も機会を伺ってるみてえだったからな。」

フェリに興味を抱いている様子のフィーにヴァンはフェリと話すことを勧めた。

「ん…………もう少し落ち着いてからになるかもしれないけど。アイーダの”妹分”同士、積もる話もあるだろうし…………そうだ、その時はわたしの”お父さん”の事も…………」

「…………おーい、クラウゼル?」

自分の言葉に頷いた後フェリとの会話について口にして顔を俯かせて黙り込んだフィーにヴァンは声をかけたが

「…………すうすう…………」

「ハッ…………まあ話すべきことも話したしな。すぐ醒めるって言ってたしこの辺で退散しておくとするか。」

「はい、フィーちゃんのことは私に任せてください!」

フィーは既に寝息を立てて眠っており、フィーの様子を見て苦笑を浮かべたヴァンにアネラスは力強く答えた

 

その後アネラスに任せて一足先にバーを後にしたヴァンは巡回を再開し、巡回を終えると事務所へと戻り、事務所の中に入ろうとしたが扉に何かのメモが挟まれていることに気づいた。

 

~アークライド解決事務所~

 

「こいつは…………」

メモに気づいたヴァンはメモの内容を確認した。

 

リバーサイドでお茶会はいかが?

 

「…………ったく、相変わらず振り回せてくれるじゃねえか。ま、せっかくの誘いだしな。」

メモを書いた人物に心当たりがあるヴァンは苦笑を浮かべてリバーサイドへと向かった。

 

~リバーサイド~

 

「―――――雨、止んでよかったわね。明日はいい天気になりそうだし。」

ヴァンがメモを書いた人物――――――レンに近づくとレンはヴァンに視線を向けて声をかけた。

「ああ、予報じゃ南東は快晴らしい。つーか夜更けに出歩いてていいのか?後輩には帰れっつったクセに。」

「うふふ、見回りよ、見回り。在学生に元生徒の素行を調査する。」

「ったく…………――――――久しぶりだな、殲滅天使。いや、”仔猫”って呼ぶべきか。」

自分の指摘に対して答えたレンの答えに呆れたヴァンはレンを見つめた。

「うふふ、その呼ばれ方も馴染んだものね。お久しぶりね、裏解決屋(スプリガン)さん。春から留学で通っているのだけど挨拶に伺うべきだったかしら?」

「いや、元依頼人との関係なんざそのくらいが丁度いいだろ。特にお前さんは、事務所を開いたばかりの”一人前”になったばかりのころの客だしな。微妙にニアミスした気もするが…………――――――汚職議員とドラ息子の一件とか。」

「ふふ、やっぱり裏で動いてたのね?記者さんの話で薄々気づいてたけど。あの件で生徒会長になっちゃたけど…………まあまあ楽しくやらせてもらっているわ。」

ヴァンの話を聞いて心当たりを思い出したレンは苦笑しながら答えた。

 

「そいつは何よりだ、――――――最初に会ったのは3年前メンフィル帝国軍の”暗部”を通しての依頼だったか。」

「あの時は”ハーケン会戦”でのリィンさん達の大切な役割を”紅き翼”の人達に邪魔されない為に手伝ってもらったのよね。お爺さんから聞いたけど、1年半前の”ヘイムダル決起”の時にもお爺さんの”引っ越し”を手伝ったそうね。」

「ま…………あの爺さんには個人的な”借り”もあったんでな。訳アリのガキ共の面倒を押し付けてちまったこともあったし。まさか最近になったあんなお返しがあるとは思ってなかったが。」

「ふふ、ターボチャージャーね。気に入ってくれているかしら?実は私と”親友”も設計にちょっとだけ協力していてね。」

ヴァンの指摘に心当たりがあるレンは口元に笑みを浮かべてヴァンに説明した。

「って、そうだったのかよ!?妙に今時の最新技術がふんだんに盛り込まれてると思ったが…………」

レンの話を聞いて意外な事実を知ったヴァンは驚きの表情で声を上げた後自身の車に備え付けているターボチャージャーの技術について思い返していた。

 

「うふふ、”暴君”のオジサンに壊されて泣きベソかいてたって聞いたから。依頼の件で幼馴染さんとの関係を気まずくしたからそのくらいは、ね。」

「ったく…………別にエレインの件はそもそもお前さんの依頼がなくても同じだったろうから、気にする必要はないっての。しかし…………相変わらずクロスベル帝国もそうだがメンフィル帝国も滅茶苦茶だな。お前さんやシュバルツァーの”使い魔兼婚約者”をアラミスに留学させた件もそうだが…………”A”を潰すために随分と”豪華なメンバー”を投入しているようだしな。」

「クスクス、ちなみに”暴君”さんや”聖女”さんとも並ぶかそれに準ずる”豪華メンバー”は後数人はいるわよ?」

「おいおい、あの二人と同格かそれに準ずるレベルがまだいるのかよ。お前さんはともかくヤバイ縁はこれ以上は勘弁してほしいんだが。」

レンの話を聞いたヴァンは表情を引き攣らせた後疲れた表情で溜息を吐いた。

「ふふ、それも人徳じゃないかしら?類は友とも言うし、これからもどんどん増えそうねぇ。」

「俺は善良な市民だっつの…………恐ろしいことを言うんじゃねぇ。」

レンの推測にヴァンは呆れた反論した。

 

「世迷言はさておき、貴方のことが気になってるヒトはそこそこ多いわよ?――――――そちらの有能で素敵な、とっても怖~いお姉さんとかね。」

「…………っ…………」

レンは意味ありげな笑みを浮かべて答えた後ある方向へと視線を向け、レンに釣られたヴァンがレンが視線を向けた方向にいるといつの間にかスーツ姿の黒髪の女性が二人を見つめていた。

「フフ、流石にお姉さんはとっくに恥ずかしい歳だけど。」

「ハッ…………参ったな。」

「うふふ、時間通りね。忙しいのに体を空けてくれて感謝するわ。」

黒髪の女性にヴァンが苦笑している中、レンは落ち着いた様子で女性に声をかけた。

 

「気にしないで、ちょうど所用で出てきたついででもあるから。」

「ルネんとこの…………噂はかねがね。泰斗の”飛燕紅児(ひえんこうじ)”ともあろうお人が本気で気配を消すのも大人げねぇが。」

「ふふ、ごめんなさい。――――――GID統合分析室、室長のキリカ・ロウランよ。初めまして――――――解決事務所所長、ヴァン・アークライドさん。と言ってもあまり初対面という気はしないわね?」

黒髪の女性――――――キリカは自己紹介をした後苦笑しながらヴァンを見つめた。

「ま、あいつから色々聞いてるだろうしな。」

「フフ、それと3年前の”裏”での顛末のことについてもね。」

「さぁて、なんのことやら。」

「クスクス…………段取った甲斐があったわね。私とは4年振りくらいかしら?改めてよろしくね、ロウラン室長。」

「こちらこそ――――――立場は違えど貴女やその”背後の勢力”もそうだけど、貴女もその”一員”と思われると”本国と中央による合同捜査隊”とは対立する理由もない。こうして顔を合わせる機会があって良かった…………彼も含めてね。」

「…………なるほど、紛う方なき”お茶会”ってわけか。」

「うふふ、ギルドの応援に来た二人のお姉さんたちも呼ぼうかと思ったけど。」

「待たせたなキリカ――――――っておいおい、こいつは。」

ヴァンの言葉にレンが微笑みながら指摘したその時ジンがヴァン達に近づいてきた。

「遅かったわね、ジン。久しぶりの食事なのに相変わらずルーズだこと。」

「スマン、急な依頼が入ってな。なんとか急いで片付けたんだが。にしてもアークライドにお前さんまでいるとは…………」

キリカの指摘に申し訳なさそうな表情で答えたジンは興味ありげな様子でヴァンとレンを順番に見つめた。

「うふふ、ジンさんも久しぶりね。こうして実際に会うのは1年半ぶりかしら?」

「ああ、あいつらの結婚式以来だな。しかしレン、またデカくなったなぁ。グランセルで眠らされた6年前が懐かしいぜ。」

ジンはレンの成長の速さに感心しながらレンと初めて出会った時の出来事を思い返した。

「クスクス。あったわねぇ、そんな事も。」

「どこから突っ込んでいいのやら。」

「ふふ、それも含めての縁でしょう。」

二人の会話を聞いていたヴァンは呆れ、キリカは苦笑しながら指摘した。

 

「…………なるほど、珍しく都合がついたと思えば俺の方はついでか。」

「フフ、いい歳なんだからスネないの。お詫びに一杯奢るわ。」

「つーか立場が違ってもアンタら、同門のノリのまんまじゃねーか?俺なんぞを下請けに使う必要、マジであんのかって勢いなんだが。」

「それはそれ、これはこれってな。こっちもフィーとアネラスが来てギリギリでな、しばらくの間は勘弁してくれ。」

「それに貴方の人脈と巡り合わせはどうも尋常ではなさそうだし。私の”直弟子”も含めてね。」

ヴァンの文句に対してジンとキリカはそれぞれ指摘した。

「うふふ、丁度そんな話をしてた所よ。何物にも染まらぬ表と裏の橋渡し――――――ううん”特異点”みたいな人よねぇ。」

「ああ、手っ取り早く何かを探るには打ってつけとしか言いようがないからなぁ。」

「うるせえよ!人を何かの試験紙みたいに言いやがって!言っとくがアンゼリカやチョウほどじゃなくてもアンタら全員”厄介”な部類だからな!?」

レンの意見にジンが笑顔で同意すると声を上げたヴァンは顔に青筋を立てて反論した。

「ハハ、まあそいつは否定はせんさ。っと、そろそろ時間だがどうする?一応店を予約してるんだが。」

「ええ、もちろん付き合うわ。”お茶会”も果たせたことだし。それじゃあ、今日はこのくらいで――――――サルバッドでも気を付けてちょうだい。」

そしてジンとキリカはその場から立ち去った。

 

「どういつもこいつも人のスケジュールを当然のように把握しやがって…………ただまあ――――――どうやらギルドとは完全に連携してるわけでも無さそうだな?」

「うふふ、エステル達の縁で馴染みはあるけど私は遊撃士ではないしね。”大切なもの”を守るために時に協力し、知恵を貸してるだけよ。メンフィルは当然として、リベールやクロスベル、エレボニアにいる人達…………ふふっ、最近じゃこの国の人達もそうなって来てるかもしれないけど。」

「…………そうか。」

レンがジン達に協力している理由やカルバードにもレンの大切な人達ができていることを知ったヴァンは静かな笑みを浮かべた。

「―――――それじゃ、私も帰るわね。門限を破りすぎるのもアレだし。明日からの4日間、くれぐれもアニエスをよろしく。」

「ああ、任せとけ。」

「うふふ、私はこれで。おやすみなさい――――――裏解決屋さん。」

「…………ああ、おやすみだ。」

上品な仕草でスカートをつまみ上げて挨拶をしたレンはその場から立ち去った。

(どこまでデカくなるんだから、ったく。ま、これも何かの縁か…………助手ども同様、見守らせてもらうかね。)

去って行くレンの背中を苦笑しながら見つめていたヴァンは事務所へと戻り、休み始めた――――――

 

 

 

最近黎シリーズの原作死亡キャラで結構重要なキャラである三代目”C”ですが…………実は生存?させる方法としてエウシュリーお得意の”アレ”なら可能だという事に気付いちゃったんですけど、どうしたものかと迷っている状況です。生存させた所で”C"に対して”アレ”をする人物は非戦闘キャラで、光と闇の軌跡シリーズのセシルみたいにプレイアブルキャラ化の予定もありませんからねぇ。まあ、生存させるかどうかは界の軌跡をプレイしてから決めると思います。


 
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