No.114327

『想いの果てに掴むもの ~第2話~』魏アフター

うたまるさん

『真・恋姫無双』魏END後の二次創作のショート小説です。

拙い文ですが、よろしくお願いします。

2009-12-25 18:40:03 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:40192   閲覧ユーザー数:28743

 

真・恋姫無双 二次制作小説 魏アフターシナリオ

『 想いの果てに掴むもの 』

    第2話 ~ それぞれの日々 ~

 

 

 

 

 

一刀の場合:

 

「礼」

 

部長の声とともに、本日参加している部員12名が座礼をし、本日の練習を終える。

 

「あ~、ちょっと聞いてくれ」

 

汗を拭きながら、席を立ったところに、部長は皆を呼び止める。

 

「来月の学祭だが、知ってのとおり、わが部は例年どおり、アトラクションを行う」

 

そう、わが部は、なぜかありきたりな出店とかではなく、

毎年、ヒーローショーじみたアトラクションを行っている。

これは、せっかくだから、ありきたりのことをやるんではなく

部の特性を生かしたいと、初代部長が始めた事で、以外にも受けがよい。

そんなことを思っていると、部長は続けた

 

「ここ数年、ややマンネリ化してきた殺陣だが、

 そろそろ新しい風を取り入れたいと思う。

 幸い今年は、北郷という逸材もおるので、

 ぜひ、真剣を使った殺陣で、観客の度肝を抜きたい」

「まていっ!さすがに真剣同士は危ないだろう」

「安心しろ、模擬刀だ」

「いや、それでも危険だから」

 

部長のトンでも発言に、俺は思わずストップを掛ける。

当たり前だ。 模擬刀とはいえ、

当れば打撲どころか、骨折することもあるし、

あたり具合が悪ければ、死ぬこともある。

たかが学祭で、そんな危険をおかし、

万一のことがあれば、部の解体は免れない。

 

「まぁ、北郷の言うことも、もっともだが、

 ここでひいては、改革などありえない。

 無論、安全は考えてある。

 お前は、剣の扱いは間違いだろう」

「信じてくれるのは、ありがたいですが、万一ってこともあるし」

「問題は、俺を含む他部員だ。

 正直言って、模擬刀を殺陣で使い切る自信はない!」

「人の話し聞けってっ!

 というか、そんな不安なこと、自信満々に、言うことじゃないでしょう!」

「だがそんな問題も、解決済みだ」

 

俺の反論を無視して、勝手に話を進める部長。

・・・なんで俺の周りって、こうも人の話し聞かずに、進めるやつらばかりなんだ

 

「幸いなことにも、北郷の友人の助言と、教授のご助力で、

 実行が可能となった」

 

・・・って、俺の知り合い?

しかも、こんなトンでも案に乗るやつ

 

「及川ー!出てこーい」

「かずぴー、呼んだ?」

 

思わず叫んだら、本当に及川が道場出入口から、顔をヒョイと顔を出す。

なんて、ご都合主義

及川は、何故かパイプらしきものを抱え、スタスタと入ってくる。

 

「部長さん、とりあえず模擬刀が準備出きるまで、これ使ってー、

 重量は、中にコンクリ入れて調整してあるから」

「うむ、ありがたい」

 

手のものを部長に渡すやいなや、部長は礼を言って、それを部員に渡していく。

渡された物を手に持ってみると、たしかに普通の模擬刀に近い手ごたえだった。

パイプの周りには、一応スポンジが巻いてあり、

なんとなく、スポーツチャンバラを髣髴させた。

って、そんなことじゃなく、なんとなくいやな予感がするので、部長を見ると。

部長のニヤリとした笑いが、俺の予感を的中させる。

 

「これより、殺陣の練習に入る。

 それぞれ、北郷に好きなように切りかかれ!」

 

部長の号令とともに、俺の周りの部員が、一斉に俺に襲い掛かる。

とにかく、部員に囲まれる前に、その包囲から逃げ出して、距離を置く。

 

「なに考えてるんですか!

 殺陣は、綿密な計画とおりやってくれないと、危険ですって」

「何を言うか、きちんと計画は考えているぞ、

 とにかく派手に、それ以外は本気で襲い掛かる!

 これも、今回の売りのひとつだ!」

「そんなものは、殺陣と言わねぇー!」

「大丈夫、北郷、お前ならできると信じている。

 だから、他のみんなも、安心して斬りかかってるんじゃないか」

 

何とか、みんなの攻撃をいなしながら、部長に抗議の声を上げるか、聞いちゃくれねぇ。

 

「それって、俺が斬られたりしたら、

 痛い思いした挙句に、俺の信頼がなくなるだけじゃんか、不公平だ!」

「そういう割には、話しながらなんて余裕じゃないか、

 なに、寸止めで全員に一本入れたら終わりだ。

 がんばれ」

「無茶言うなーーーーーー!」

 

 

 

 

「・・・・ハァハァー・・ハァー」

 

俺は肩で息をしながら、なん撃か、かすった箇所を押さえながら息を整える。

最後に一本とった部長を睨み付けながら言う

 

「・・・・部長、無茶・・・苦茶です・・・よ」

「・・・無茶って、やり遂げたじゃないか、この化物が」

 

部長は、こっちの苦情にあきれた顔をしながら、人を化物呼ばわりする。

やめてほしい、それに俺程度なんて、

あの世界の、本物の化物達に比べたら、足元にも及ばない。

と、とにかく、及川殺すと思い、奴を見ると、

道場の中には、もう及川の姿はなかった。

あいつの神出鬼没ぶりの方が、よっぽど化物じみていると思うが・・・

などと、思っていると、部長が今度こそ今日の練習の終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

夏侯惇 / 夏侯淵 の場合:

 

「はーっははははっ、どうした。

 そんな逃げ腰では、魏の民達を守ることができんぞ!」

「「「「 ひぃー 」」」」

 

逃げまとう兵士足達相手に、春蘭は今日も、兵士達にとって、苛烈な調練の日々を繰り返していた。

その夜、酒を片手に、月を見上げ ボー としている春蘭に

 

「どうした姉者」

「・・・・」

 

妹の秋蘭の言葉が聞こえないのか、

ボー としたままの春蘭に、秋蘭は言葉を続ける。

 

「兵達から苦情が挙がっている。

 すこし調練が、厳しすぎないかと」

「ふん、あの程度で、ネを上げていたら、

 魏を民を守るなんてできやしない」

 

秋蘭の言葉に、春蘭は面白くなさそうに、杯をあおる。

 

「まぁ、姉者の言うことも、もっともだとは思う。

 だが、今は戦時中ではない」

「何を言うか、蜀や呉とは同盟を組んだが、いつ裏切るとも限らん

 それに五胡をはじめとする外敵も油断ならん。

 こんな時だからこそ、油断をしてはならんと言うことが、分からん秋蘭でもあるまい」

「あぁ、姉者の言うことは正しい。 兵の調練も妥当だと思う」

「では、問題ないではないか!」

 

妹の言うことが分からず、思わず声を荒げてしまう。

そんな姉の姿に、秋蘭は一度ため息を吐き

 

「問題は、姉者の心だ」

「・・なにっ」

「いくら厳しくとも、それが民のため、自分のため、とならば

 兵達もこうも文句は言うまい。 だが、今の姉者は違う。」

「何が違うというんだっ」

「姉者、本当は気がついているんだろ?」

「だから何がだっ!

 秋蘭、回りくどい言い方はするなっ、 はっきりと言え、はっきりと!」

 

睨みつける春蘭に、秋蘭は今一度、溜息を吐き。

はっきりと言えば、否定されるとわかりつつ、

思っている言葉を、春蘭に告げる。

 

「兵と言えど、人間だ。

 寂しさを紛らわせるための八つ当たりでは、たまらないと言ってるのだ」

「・・んなっ!」

 

秋蘭の言葉に、春蘭は顔を真っ赤にさせ、秋蘭を睨み付け

実の妹に殺気をはなつ。

そんな姉の姿を、悲しげに見つめ、秋蘭は

 

「寂しさを認めろ、姉者」

「私は北郷のことなんか」

「私は、誰も北郷が原因と言っていないぞ、姉者」

「んなっ、秋蘭はめたな」

「こんなもの、はめたうちに入らん。

 姉者が、夜な夜な自分の作った人形相手に、泣く姿は忍びないと思う」

「う・・・見ていたのか」

「気がつかないと思うほうが、どうかしている」

「・・・うぅ・・・しゅうら~ん、みなには、その・・」

「あぁ、わかっている。

 わざわざ言うまでもないことだし、私も時々使わせてもらっている」

「・・・しゅう~ら~ん」

「姉者、私も姉者と同じだよ。

 あいつが、いなくて寂しいと思うし、何度泣いたことか、

 だが、あいつは、そんな姿を求めていると思うか?」

「・・・いや、あいつはいつも笑っていた」

「・・あぁ、あいつの周りには、いつも笑顔が絶えなかった。

 それは、あいつ自身、それを心から望んでいたからだ」

「あぁ」

「それは、兵士達も同じだ。

 八つ当たりの毎日では笑えない。

 民のためだからこそ、

 自分の家族や仲間のためだからこそ

 つらい調練に耐え笑うことができるんだ。

 今の姉者の調練では、兵達は笑えない。

 華琳様や北郷も、それを望んでいる」

 

妹の秋蘭の言葉に、春蘭は、うなだれ、すまなさそうな顔をする。

長い静けさが、彼女達の部屋を支配する。

そんな静けさも、春蘭の強いまなざしとともに、振り払われる。

 

「あぁ、そのとおりだ秋蘭

 確かに、華琳様がそんなことは、求めてやしないだろう。

 北郷のことなんぞ、どうでもよいが、

 華琳様のため魏の民のため、

 明日から心を入れ替えて調練に励むことにしよう」

「あぁ」

 

姉の強がりな、だけど、力強い言葉に、秋蘭は嬉しく思った。

あぁ、もう姉者は大丈夫だ。

まだ、北郷を無くした悲しみを、乗り越えてはいないが、

それに逃避することはないだろう。

あいつは、そんなことを望んではないのだから。

そんな姉を見て秋蘭は

 

  『 私も、姉者のように、強くならねばな 』

 

と誓うのだった。

 

「秋蘭」

「あぁ、わかっている。

 今夜ぐらいは、二人であいつを想ってやろう」

 

月夜の夜

 

  王宮に二人のむせび泣く声が、

 

    静かに、

 

      流れていく。

 

 

 

 

 

「はーはっははは、どうした、かかって来い!

 もっと気合を入れんかー!」

「ハイ!」

「次自分お願いします!」

「よしっ、来い!」

「どうしたどうしたっ、そんな一撃では、あくびが出るわ」

「でぇーーーい!」

 

次の日、清んだ青い空に

いつもより、やや厳しい調練に、

兵士達の悲鳴ではなく

気合の声が、染み渡っていく。

 

 

 

 

 

 

許緒 / 典韋 の場合:

 

ファサッ

 

白い布が、物干しに掛けられ

暖かな日差しを受ける

 

「流琉~、干し終わったよー」

「じゃあ、こっちを手伝ってー」

「うん」

 

季衣は、一刀の使っていた部屋に戻ると、

流琉は、雑巾で家具を拭いていた。

彼女は、家具を丁寧に、嬉しそうに吹き上げていく。

彼女は、気がついていないが、鼻歌が部屋の中を満たす。

季衣は、そんな中、流琉と同じように、丁寧に家具を拭いていく。

この部屋の主が、いつ戻ってきても良いように。

本来は、侍女の仕事だが、この部屋だけは、自分達でしたかった。

他の武将や、華琳様も賛成してくれた。

そんなこと、私どもでやりますと、侍女の娘も手伝っていたことも会ったが、

一度、誤って、花瓶を割ってしまったことがあった。

花瓶そのものは、高価なものではなく、いわれがあるものではない、

普通なら、そう咎められることではなかった。

だが、問題はそれが一刀の部屋のものということだ。

この部屋は、華琳達にとって、一刀の匂いのする思い出の場所。

それが一つでも傷つき失われる。

それは、傷ついた彼女達にとって、我慢ならないものだった。

激昂し、彼女達の前に立たされた侍女は、顔面を蒼白にし、震え上がっていた。

霞など、偃月刀を持ち、斬りかからんばかりだった。

凪も拳を振るわせ、つかみかかる直前だった。

 

「割れちゃったものは、しょうがないですねぇ。

 次から気をつけてくださいね~」

 

そんな空気を破ったのは、風だった。

魏の頭脳陣は、もともと、そんな殺気立ってはいなかった。

特に桂花など、興味なさげに事の成り行きを見ている。

風や稟も、怒っていないわけではないが、それ以上に、悲しかっただけに過ぎない。

 

「何言うねん」

「いくら風殿でも、その言葉には、素直に頷づけません」

「そうだよ~、隊長の物を壊すなんて許せないのー」

 

風の言葉に三羽烏は反論するが。

 

「少し落ち着いてください。

 一刀殿は、天の御遣いとはいえ、あくまで警備隊長、魏の重臣という立場ではありません。

 その持ち物を壊したぐらいで、侍女を斬り捨てていては、民達に動揺が走ります」

「ぐらいって、あんた、本気で抜かしとるんか」

 

稟の言葉に、霞は怒りの矛先を稟に向ける。

一触触発な雰囲気に、流琉の言葉が響く

 

「待ってください、霞様」

「なんや、流琉おまえも稟と同じように、一刀の思い出なんて、どうでもよいと抜かす気か」

「「そんなわけないです(じゃないですか)」」

 

霞の言葉に、流琉ばかりか季衣も叫ぶ。

そんな二人の様子に、霞は怒りの矛先を一度収め

彼女達に向かい合う。

 

「正直、僕も今回のこと許せないと思います」

「でも、兄さまは、そんなこと、絶対望みません」

 

二人の悲しげな言葉に、

 

「そうね、一刀はそんなこと、望みはしないわね、

 霞、矛を収めなさい。 他のみんなも落ち着きなさい」

 

華琳の声が、その場を収めにかかる。

 

「確かに稟の言うとおり、一刀は街の警備隊長でしかないわ

 そんな警備隊長の花瓶が割れたくらいで、城の侍女を斬っていては、名を汚すわ」

「ですが華琳様」

「凪、私は落ち着きなさいと言ったのよ」

「・・・・」

「でも一刀は、私のもの、つまり、一刀のものは、私のものということ

 魏王であり、大陸の覇者たる私のものを壊した、となれば話は別、

 ちがって?」

 

華琳の言葉に、侍女は、ますます、顔面どころか、体全体を蒼白にしていく。

 

「流琉、一刀の花瓶は?」

「はい、ここに」

 

流琉は華琳の言葉に、花瓶を布から大事そうに取り出した。

割れてしまったとはいえ、とても捨てる気にはなれなかったからだ。

そんな花瓶と流琉と季衣を見つめた華琳は、

 

「真桜、これ、何とか修復できそう?」

「うーん、こー、真っ二つに割れたら、見た目は何とかなっても

 水を入れたら洩れるで」

「中にもう一つ小さな花瓶を入れても?」

「それなら、何とか実用に耐えると思うでー」

「そう、なら、直しなさい」

 

そう真桜に指示すると、華琳は、絶を片手に侍女の前に立つ。

 

「さて、貴女の処分だけど」

 

ヒュッ

 

彼女に言うなり、華琳は絶を振り下ろす。

 

ドガッ!

 

絶は、侍女に当ることなく、床を叩く。

侍女は、ペタリと床に座り込み、床を濡らしてしまう。

 

「あら、王の間をお漏らしなんて、とんでもない娘ね。 更なる罰が必要かしら?」

 

華琳の言葉に、侍女は気絶することもできず震えている

きっと、恐怖のあまり、華琳の言葉も届いていないだろう。

 

「貴女は、季衣と流琉の侍女として、彼女達の部屋を綺麗に保ちなさい。

 そして季衣、流琉、あなた達は、一刀の部屋の手入れを任せます。

 細心の注意を払い、いつでも使えるようにしておくこと。

 たとえあなた達でも、怠るようであれば容赦しないわ」

 

「「はい」」

 

華琳の言葉に、彼女達は嬉しそうに返事をする。

華琳の行動に、霞達も毒気を抜かれ、自分の仕事に戻っていく

 

 

 

 

それから仕事の合間に、時折こうやって一刀の部屋を掃除する二人だったが、

部屋の掃除が終えると、昼をまわっていた

 

「季衣昼なに食べたい?」

「このあいだ流琉が作ってくれた『 はんばーがー 』とか言う 兄ちゃんの国の料理がいい」

「もう、あれは、まだ試作だって言ったじゃない」

「でも、もう完成したんでしょ」

「まだよぉ~」

「えー、流琉なにやってるんだよー」

「『 ぱん 』がいまいち、うまくいかないのよね

 でもあと少しで何とかなりそうだから、楽しみに待ってなさい」

「じゃぁ、前兄ちゃんが作ってくれたメンマ丼でいいや」

「しかたないわね」

 

 

にぎやかな二人が出て行った部屋には、

 

桃の花が咲く枝を入れた花瓶が、

 

今日も、暖かな日差しを受けて

 

部屋の主の帰りを待っていた

 

 

 

 

 

楽進/李典/于禁 の場合:

 

 

「そっちへいったの~!

 糞虫の3班は、逃げ道を塞ぐのなの~!

 逃がしたら、お前らの役に立たないアレを、ちょん切ってやるのなの~!」

 

「「「 サーイエッサー 」」」

 

「うちら2班は、民の安全を確保し~、

 絶対奴等を近づけさせるやないでー」

 

「「「 ハッ 」」」

 

沙和と真桜の指示で、警備兵達が動き、盗賊達を追い詰めていく

盗賊達は、民達に紛れることもできず。

城壁へと追いやられていく。

盗賊達は、焦ってはいたが、勝算もあった。

彼等の腕の中には、小さな女の子が気絶し、抱えられているからである。

やがて、盗賊達は、街の区を区切る城壁へと、追い詰められた。

 

「こ、これ以上近寄るんじゃねぇ!

 こいつが、どうなってもいいんかぁーー!」

 

盗賊達の頭らしき男が、その手にいる幼子に短剣を突きつける。

その様子に、警備兵達は、包囲したまま動きを止める。

 

「へへぇ、そうだ、それでいい」

 

盗賊の頭が、そう呟きながら、逃げる手段を考えていると。

警備兵達の間から、傷だらけの女が前に出てくる。

 

「近寄るなって、言ったろうがっ!」

「その子を離せっ、そうすれば命だけは助けてやる」

「ふざけるな! いいから兵を下がらせろ! こいつを殺すぞ」

 

凪の言葉に、盗賊達は、怒りをあらわにする。

凪はかまわず。

 

「その娘を殺せば、私達は、遠慮なく、お前達を皆殺しにするぞ、

 もっとも、お前達のような下種は、そう簡単に殺しはしないがな」

「やれるものなら、やってみろよ」

 

凪の言葉に、盗賊の頭は、躊躇は一切見せなかった。

当然だ、たとえ、ここで大人しく捕まったとして、

今までの行いを考えたら、処刑は免れないと、分かっていたからだ。

そんな盗賊達の態度に、凪は、盗賊達を睨みつけたまま、後ろにいる仲間へ声を掛ける。

 

「真桜、お前とお前の班は、下がらせろ」

「ちょ、凪、こんな奴の言うこと訊いたかって、被害は増えるばかりやで!」

「そうなのー」

「いいから下がれ!」

 

仲間の意見を黙らせ、自分の背中で、手で合図を送る。

真桜は、凪の言うとおり、兵を下がらせ、盗賊達の前から姿を消す。

 

「へへぇー、それでいいんだ。 他の奴等も下がらせて、馬を用意しな」

 

盗賊達は、凪の態度に緊張を少し緩め、調子に乗る

 

「馬を用意させてどうする?」

「決まっているだろう! 逃げるんだよぉ」

「どこへだ?

 天の御遣いが考えた政策のおかげで、お前達は賞金首として大陸中に手配される。

 一生脅えて終わるつもりか?」

「そんなの、てめぇに関係ねーだろう」

「・・ぅぅ、父様?・・母様?」

 

凪と盗賊達の言い合いの中、人質の幼女が目を覚ます。

無理もない、耳元で、あれだけ叫ばれ続ければ、目も覚ますだろう。

 

「てめぇ、大人しくしてろよ」

「ひっ!うわーーーーーーん」

 

盗賊の頭の言葉と、突きつけられた短剣に、幼女は、恐怖に耐え切れず、泣き叫び、暴れた。

だが、所詮は幼子の力、男の腕は、びくともししない。

男を追い詰めるだけであった。

 

「うるせぇ、黙れ!」

 

男が暴れる幼女に、更に短剣を近づけ、黙らせようとするが、

幼女にしてみれば、訳も分からないまま、恐怖が増しただけに過ぎず。

ますます暴れる結果となる。

そんな時事故が起きる。

男の持つ短剣が、幼女の頬に当たり、彼女の頬を軽く切ることとなった。

幼女の頬は、深くはないが、切られた頬から血が湧き出てくる。

その様子に凪は

 

「きさまーーー!、無抵抗な女の顔に傷をつけるとはっ! この下衆がーーーーー!」

 

凪は気を外へ放出し、怒りを露にする。

その様子に、盗賊達は思わず、背を壁に押し付けるまで、下がってしまった。

そのとたん

 

ドガーーーーーン!

 

盗賊達の背中の壁が、爆音とともに崩れさる。

真桜の螺旋槍の仕業である。

壁が崩れるとともに、そこから飛び出した警備兵が、盗賊達を、次々と捕り押さえて行く。

盗賊の頭の男は、部下達より前に出ていたため、壁の崩壊に巻き込まれはしなかったが、

そちらへ意識を飛ばしてしまう。

そんな隙を凪が見逃すもなく、一気に距離をつめる、

だが、男は思ったよりも早く気がつき、短剣を凪へと突き出した。

 

ガシッ!

 

短剣は、凪の手に掴まれ固定される。

そして次の瞬間には、

 

「はぁぁぁーっ!」

「グハッ!・・・・」

 

男の腹にすさまじい衝撃が走った。

男はその衝撃に耐え切れず、あっさりと意識と腕の中の幼子を手放した。

幼子は、今の出来事に驚き、泣き止んだ。

その時、警備兵達の間から女が飛び出し、幼子を泣きながらに抱きしめる。

どうやら母親のようだ。

 

その姿を見ながら

 

「1班は、奴等の身柄を拘束し、隊舎へ連行しろ

 2班は、城壁の応急処置を、

 3班は、野次馬達を追い返せ」

 

指示を飛ばし終えると、幼子の母親が、礼を告げに来る。

 

「いえ、私達は職務を全うしているだけです。

 むしろ、娘さんに傷をつけてしまい、申し訳ございません」

「とんでもありません。

 私達が普段安心して暮らせるのは、警備隊の皆様のおかげです。

 娘の傷も、これくらいなら痕に残らないと思いますし」

「おねぇちゃん、ありがとう」

「ですが、もし痕が残ってしまったら・・・」

「大丈夫だよ、お姉ちゃんみたいに綺麗になるなら、私は嬉しいもん」

「こ、これ、そんな失礼なことを申し上げては・・・」

「・・・き・綺麗って、醜くないのか」

「ううん、ぜんぜん、おねぇちゃん綺麗だよ。

 だって、その傷は、おねぇちゃんが優しいってことだもん」

 

幼女の言葉に、凪は思わず呆然としてしまう。

母親と幼子は、何度も頭を下げながら、雑踏へと姿を消す。

 

「凪ちゃーん、とにかく手の手当てしよう」

 

沙和は、凪に声を掛けるや、手を引っ張る。

そこには、対刃布の隙間から血が滲んでいた。

沙和は、そんな凪の手を簡単に治療を施す。

 

「うえぇ、こっちは、終わったでー」

 

真桜が、かったるそうに、こちらに近づいてくる。

真桜の背後の壁は、さっきの壁の崩壊が嘘のように、戻っていたが、

よくよく見ると、崩れた壁をくみ上げて、塗装を施しただけなのが分かる。

まぁ、応急処置なので、後できちんと職人に直してもらうのだが、

経費のことを考えると、頭が痛くなる沙和であった。

 

「また稟ちゃんに、怒られるのなのー」

「しょうがないやんか、ああでもしないと、 もっとひどい事態になる可能性があったんやから」

「それはそうなのかもしれないけど、怒られるのは沙和なのー」

 

隊長の抜けた穴を埋めるために、3人はそれぞれ役割を分けていたが、

沙和達ほどではないが、普段サボってばかりいたように見えた隊長の仕事は、3人を辟易させていた。

 

「隊長よく、これだけの仕事、こなしてたのなのー」

「まぁ、そうやなぁ~

 隊長は

 

  『 俺程度の仕事ならお前達なら軽い軽い 』

 

 なんて言ってたけど、実際、ごっつー、きついでー」

「それなのに、隊長ったら、

 あちこち女に、手を出す余裕があったなんて、信じられないのなの~」

「そこは、さすが魏の種馬ってとこやな」

 

真桜と沙和は、ぶつぶつ文句を言い合う。

実際、天の国の知識で、仕事をこなしていた一刀が抜けた穴を埋めるのは厳しく、

風や稟の助言や、部下達の助けで、なんとか必死でこなしていた。

 

「隊長職をどうしても空けておきたいと言うなら、貴女達で穴を埋めなさい。

 それができないようなら、他の人間を隊長につけるわよ」

 

そんな華琳の言葉に、凪たち3人は

 

「北郷隊の隊長は、隊長以外考えられません」

「そうなの~」

「そういうこっちゃ」

「そう、なら、がんばりなさい。

 何かあれば、風や稟に相談することは許すわ」

 

あれから、2年、時折、先程のような事は起きるが、

目の回るような忙しさの中、おおむね平和といえる毎日を過ごしていた。

 

「まぁ隊長は、自分の能力を判ってない所があったからなー」

「沙和達に、これだけ仕事を押し付けて、天に帰るなんてひどいのなのぉ

 帰ってきたら押しおきなのぉ」

「そやな、その時はうちも参加するでぇ・・・

 ってどうしたんや凪? さっきからボーとして」

 

凪が黙っているのは、いつものことだが、 ボーとしているのは珍しい

真桜も沙和も、凪を心配して顔を覗き込む。

 

「・・・さっきの子が、私を綺麗って」

「ん? べつにおかしなことやないやん」

「そうなの~、凪ちゃんは綺麗だと、思うの~」

「いや、隊長と同じことを、・・・・・優しい証だって」

「なんや、隊長そうやって凪を落としたんかい」

「隊長らしいのなの~」

「お、おとしたって、お前達」

 

凪の言葉に、ニヤニヤ笑いながら迫る沙和達に、思わずどもってしまうが

 

「そんな隊長だから、うちらは好きになったんだし、いまさら照れて、どうすんや」

「そうなの~」

 

二人の言葉に、凪は可笑しくなり、暖かい気持ちになった

 

「そうだな、そんな隊長だから私達は、ついていこうと思ったんだ。

 だから、そんな隊長が残した街の平和を、私達が守らねば、隊長に笑われてしまう。

 さっそく警邏の続きだ。 いくぞー」

「えぇぇぇぇぇ、もうちょっと、休憩してから、いかへんかぁ」

「そうなの~、沙和走り回って疲れたのなのぉ~」

「聞く耳もたん!」

「「ぶー、ぶー」」

 

 

 

三人のじゃれ合う様な声と姿が

 

今日も平和な街を維持するため

 

雑踏へと消えてゆく

 

愛した者の意思を、

 

無駄にしないためにも

 

 

 

 

 

 

 

荀彧/程昱/郭嘉 の場合:

 

「荀彧様、これが、次あがっている問題です」

「あぁぁぁ、もう、何で、こんなに多いのよー」

 

御付の文官が、桂花に報告を纏めた竹巻を提出したとたん。

桂花が、いきなり喚き出した。

喚かれた文官は、慣れたた様子で、そのまま数歩下がり次の報告を纏める。

 

「これも、すべて、あの全身精液汚濁塗れ男のせいよーー!」

「桂花殿、叫びたくなる気持ちは分かりますが、叫んだところで問題がなくなるわけではございません」

「そんなことは、分かってるわよぉ」

「「「 ・・・・ 」」」

 

桂花の言葉に、周りの文官はジト目を向けるが、桂花が睨み付けると、すぐに視線を戻す。

 

「私が言いたいのは、 何で、こんな余分な仕事が多いのと言いたいの!」

「ですが、一刀殿が残した政策は、すばらしいものだと思います。

 新しいものを始めれば、問題も発生し、その対応に当るのは当然のこと、無駄とは思えませんが」

「えぇ、あの汚らわしい男が、華琳様に残した手紙に書かれた政策が、

 認めたくないけど、それなりに、良い案だというのは認めるわよ」

「では、何が問題と」

 

今やっている事が無駄ではなく、良き方に向かっている事が分かっていて、何が不満だというのか?

私達文官は、その知恵を生かし、国の発展させる事が喜び、そのための苦労など厭わない。

少なくとも、この部屋にいる文官達は、そのあたりを理解しているはず。

ましてや、桂花にとって、国が発展すれば華琳様が喜び、その結果、華琳様の寵愛を受ける事ができる。

文字とおり、体で分かっている桂花が文句を言うのは、おかしいと思いつつ、稟は眼鏡を治す。

 

「私が言いたいのは、これだけの政策をするんだから、前もって対応策を投じておくものよ。

 それをあの男は、やってみないと判らないとか言って、具体策を示さなかったため、

 こうやって、苦労を抱えなければならなかったことよ」

「それは仕方ないことでは、一刀殿は天の国の人間、

 まだ、この国のことを理解しきっているわけではありません。

 方向性は示すことはできても、事前に具体策投じるとなど、不可能と思われます。

 それに、難しいいからこそ、これを乗り切った時、華琳様にお褒めいただけるのではないかと」

「うっ」

 

稟の正論に桂花はうめく。

華琳は当たり前にできる仕事を、当たり前にこなしているだけでは、決して褒める事はない。

人より先ん出て、困難を越えていくからこそ価値があると、思っているからだ。

桂花にとって、それは当たり前のことで、分かりきっていたはず。

それでも、桂花はおもわず叫んでしまった。

稟は、その理由も理解はしていたが、口にすることはない。

言わなくても桂花には分かっているだろうし、自分も同じ思いだからだ。

 

「風は、楽しいいですよ~」

「どこがよ、この次々沸いて出てくる問題の、どこが楽しいと言うのよ」

「対応した事がない問題だからこそ、楽しいんですよ~。

 未知への問題に挑むからこそ、文官としての腕を試す事ができるのです~」

「たしかにそうですね」

「まぁ、それは判るわよ」

 

風の言葉に、桂花達だけではなく、周りの文官も頷く

 

「それに、これはお兄さんが、残してくれたものです。

 お兄さんが、天の知識の中で使える政策だと、風達なら形にできるはずだと、残してくれたものです。

 だから、風はこの問題は、お兄さんからの問いかけと感じる事ができるのですよ~」

「うげぇ、やめててよね、あんな男のからの問いかけなんて」

 

桂花が嫌そうな顔をするが、風はかまわず続ける。

 

「お兄さんが残した政策がうまくいけば、この国はもっと豊かになると思うのですよ~

 笑顔が溢れる様になると思うのです。

 お兄さんの意思が、この国を大陸を包み、みんなを笑顔にすると思うのです。

 だから、風は楽しいですよ~」

「や、やめてよね、

 あんな男に、包み込まれるなんて、考えただけでも怖気が走るわ」

 

風の言葉に、たった一人を除いて、優しげな笑みに変わる。

 

「でも、桂花ちゃん、そうなればきっと、華琳様も喜ぶと思うのですよ~」

「く・・悔しいけど、風の言うとおりね。

 でも、そもそもあの男が消えたりしなきゃ、華琳様も悲しむことはなかったし!

 こんな仕事、あいつに押し付ける事が出来たのよ」

「「「・・・・あ~」」」

 

桂花の言葉に、稟と周りの文官が溜息を吐く。

 

「桂花ちゃんは、お兄さんが帰ってしまってしまって、寂しかったんですね~」

「ち、ちがうわよっ!」

 

風の言葉に、桂花はあわてて否定するが

 

「大丈夫ですよ~、分かってますから~」

 

幼子をあやす様な笑顔を見せ、仕事に戻る

 

「違うんだから、そんなこと絶対ないんだから!

 人の話を聞きなさいよ~!」

 

桂花の叫びが、今日も王宮に響き渡る。

稟があえて言わなかった事を、桂花自身が言ってしまう。

文官達はこれで、また仕事が停滞し、残業決定と溜息をついた。

 

桂花の怒声を背景に、

 

風は思いを飛ばす。

 

お兄さん、見ていてくださいね

 

風達は、お兄さんが残したものを

 

守っていくのです。

 

でも

 

風はいつまでも放置されて、喜ぶ変態さんじゃないですから

 

早く戻ってこないと、

 

お仕置きが待ってるのですから

 

だから、早く帰ってきてくださいねー

 

風は、お仕置きを考えながら、

 

今日も、彼の意思を感じながら

 

日常を繰り返す。

 

 

 

 

 

 

 

張遼の場合:

 

「ほんじゃ、愛紗またな」

「んむ、今回も役に立てなくて申し訳ない」

「いや、いいって、気にしんで、えーんや

 そう簡単に、見つかると思ってへんから」

 

強がる霞に、愛紗は、苦笑を浮かべながら別れの握手を交わす。

霞は、年に1度、3国を回り、一刀の行方を捜していた。

本来ならば、三国以外も回りたいところなのだが、それは華琳が許さなかった。

捜索隊は、別のものを編成するから、張遼は魏の防衛の任につけと言うことらしい。

だが一刀恋しの霞に、そんな命令に頷くもなく。

逆に華琳にくってっかかった。

臣下が王にくってかかるなど、あってはならないこと。

これには、春蘭と桂花が、黙ってはいなかったが、華琳が黙らせた。

 

「霞、一刀となんて約束したの?」

「・・・・せやけど」

「なんて約束したのかと訊いてるのよ」

「うちらが作った平和を、守ると約束した」

「そう、その約束を破ると言うの?」

「破る気なんかあらへん

 せやけど、うちは、一刀がおらんと・・・・」

「張遼ともあろうものが、今の姿を一刀が見たら、なんて思うかしら」

「ぐっ、華琳は、一刀がおらんでも平気だと言うんかい」

「あら、私は、貴女とは違うわ」

「な・・・華・・いや曹操が、こんな薄情な奴とは知らんかったわ

 そんな奴に、ついていけん、うちは、これでご無礼させてもらうわ」

「春蘭、秋蘭」

 

華琳に背を向け、王の間を出て行こうとする張遼に、

華琳の命を受け、春蘭は剣を、秋蘭は弓を構える。

 

「ほう、うちとやりあうっていうんか、今のうちは、ごっつー、機嫌悪いねん、死を覚悟して挑み」

 

偃月刀を構え、春蘭達と対峙する。

一触即発な場を、新たな殺気が張遼を襲う。

華琳の絶である。

 

「なんや、あんたもやるっていうんか、でもやめとき

 曹操の腕で、うちの相手はいくらなんでも、無謀や」

 

春蘭達と対峙しながら、振り向きもせず、華琳の攻撃を避わし

振り向くことなく、偃月刀の石突が華琳を襲う。

華琳はそれを、絶の柄で受けながら、後ろに飛ぶことで衝撃を抑えた。

 

「そうね、でもこれならどうかしら、流琉!」

「はい!」

「何をしても一緒や!」

 

華琳の命を受け、流琉が動くが、その攻撃は、はるか頭上で、

どう軌跡を描いても、それが張遼に届くことはない。

張遼は囮りと見抜き、まわりを見回し、油断をなく構える。

だが、秋蘭をはじめ、華琳も他の武将も動く気配はない。

一番突っ込んできそうな、春蘭は、

妹の秋蘭に動かぬよう、抑えられていた。

おかしいと思った時

 

バシャッ!

ガンッ!

 

音ともに、大量の水が張遼の上から振り注いだ。

続いた音は、大鍋が床を叩く音だったが、

大量の水を被り、びしょ濡れになった張遼は、華琳を睨み付ける。

 

「曹操、何のつもりや、これは!」

「少しは、頭が冷えたかしら、

 (それにしても、一刀の考えた春蘭対策が、

 こんなところで役に立つとは思わなかったわ)」

「あぁ、おかげさまで、水も滴るいい女に大変身や!」

「貴女一人、頑張ってなんになるの?

 別に私は、何もしないと言っているわけじゃないわ

 一刀を探すためには、貴女の力が必要だと言ってるの」

「どういうことや」

「やっと、話を聞く気になってくれたようね。 誰か霞に布を」

「そんなことは後で、ええ!」

「そう、では、言うわ

 霞、天の国が何処か、判っているの?」

「わからへんから、探すと言うとるんや」

「一人で? そんなあてもない捜索、無意味だわ

 やるならもっと効率的にやらないと、時間の無駄でしかないわ

 稟、説明してあげて」

「はっ、

 霞殿、落ち着いて聞いてください。

 私は、二つの想定をしました。

 それは、一刀殿が天の国に帰っていた場合と、

 天の国に帰らず、どこかへと消えた場合の二つです。

 前者はまずは、天の国がどこにあるか判りませんし、

 どうやっていくのかも判りません。

 ですので、蜀・呉へ協力を仰ぎます。

 その上で天の国の事を、文官達で書物を調べ上げます。

 また、後者の場合ですが、三国で協力するのは、もちろんですが

 一刀殿の考案した、賞金制の手配書を三国に手配します。

 そうすることで、三国中へは、多くの目がいくことになります。

 無論、ただの手配書では、一刀殿を真似た偽者が横行すると思いますので

 真桜殿の『 かめら 』とかいう写し絵で、精巧な手配書を作成します。

 これで金目当ての偽情報は減るでしょう。

 次に、三国以外にいる場合を想定し、捜索隊を結成し、あちこちに放ちます」

「そやから、その捜索隊にうちが入る言うてんねん!」

「最後まで話しを聞いてください。

 問題は、その捜索隊です。

 捜索先が小国の一つ二つならば、霞殿に入っていただいても、問題ありませんが・・・・

 捜索先は膨大です。

 捜索隊が少なければ時間がかかってしまいます。

 しかし隊数を増やせば、本国の守りが手薄になってしまいます。

 そこで、霞殿の出番です。

 霞殿が五胡など、外へと睨みを利かせてくれれば、

 彼達も、うかつに手を出せなくなります」

「せやけど、惇ちゃんとかもおるやんけ」

「いえ、それでは、足りません

 春蘭殿には、各諸侯を抑えてもらわねばなりませんし、秋蘭殿、季衣、流琉はここの守りがあります。

 私達も、政務に捜索活動の指揮、三国をはじめとする外交

 とても手が足りません。

 霞殿が、外からの守りをして下さねば、捜索活動そのものが、頓挫してしまいます。

 焦られる気持ちは判りますが、霞殿一人で捜がしにいかれるより、確実な手段と、私は思っています。

 どうか、一刀殿捜索のために、力を貸していただけないでしょうか」

「・・・・・・わかった。

 引き受けたる。

 その代わり華琳、一刀を絶対見つけてくれや」

「えぇ、わが名に誓って」

 

稟の説得に、霞は、偃月刀 をおさめ願い出る。

華琳は、そんな霞に優しく微笑んだ後、

真剣な表情で誓いを立てた。

 

「あぁ、でも年に一度二月でえー、捜索隊に加わらせてーなー」

「だめよ」

「そこをなんとか」

「同じ事を何度も言わせないで、貴女がいないと駄目なのよ」

「そんな殺生なぁ」

 

華琳の言葉に、深く項垂れる霞を見て、華琳は言葉を続ける。

 

「捜索隊に加わりたいのは、貴女だけじゃないのよ。

 その娘達の事を考えてごらんなさい」

「うっ」

「そうね、稟、三国に協力を仰ぐに当って、

 その使者を霞にやってもらったら、どうかしら」

「はっ、確かにその場合、国としての要請以外に、

 張遼殿の名声が、各国の兵達を動かす後押しとなるでしょう。

 ですが、その場合、守りが薄れます」

「そうね、でも、三国を回るのが極少数で、

 1ヶ月程で回ったら、どうかしら、それくらいなら、残った張遼隊で持ちこたえられるんではないのかしら」

「確かに、それなら、守りに、そう問題はないと判断します。

 そのうえ、捜索にも熱が入るとならば、考慮する価値はあります。」

「そう、では、そのように手配して、

 では、霞、これでいいかしら、これ以上は聞けないわよ」

「あ……ありがとうや、華琳一生ついてくわ」

「あら、さっきまで、薄情者呼ばわりしてたのに、調子がいいわね」

「うっ・・・華琳の意地悪・・・」

 

 

あれから、2年、いまだ一刀は行方知れず。

こうやって、蜀・呉と、協力要請にまわる傍ら、一刀の捜索をおこなう。

強行軍ゆえ、疲れるが、一刀のことを考えたら、そんな疲れは吹っ飛ぶ

 

「ほな、今から呉へゆくでー、

 途中立ち寄った街から、情報収集するの忘れたらあかん、きばっていけやー」

「「はっ」」

 

霞は馬を走らせる。

 

神速の張遼の名に恥じない、速さで

 

走らせながら、一刀を想う

 

心に誓う。

 

「絶対みつけてやるんや」

 

「そして、二度と離さへんでー」

 

蹄の音が、空へ、大地へ響く

 

まるで、彼女達の想い、と言うように

 

空高く

 

地深く

 

広がって行く

 

 

 

 

 

 

張角/張宝/張梁の場合:

 

「みんなぁー、元気ーー?」

「「「「 ほわぁぁぁぁぁぁ 」」」」

「んー聞こえないぞー」

「「「「「 ほわぁ、ほわぁぁぁぁぁ 」」」」」

「うんうん、やっと聞こえてきたけど、もっと元気な声がほしいいなー」

「「「「「「 ほわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、ほあぁぁぁぁぁぁぁ 」」」」」」」

 

 

「では、この街に、この人はいなかったんですね」

「はい、ここら周辺の町や村や集落すべて探しましたが、

 天和ちゃん達の探している男は、見つかりませんでした。

 お役に立てなくて申し訳ない うぅぅぅ」

「いえ泣かないでください、あと、これはせめてもの感謝の気持ちです」

 

人和は、一刀の捜索を依頼したこの街のふぁんくらぶ代表へ、

3人の名前を書いた記帳をわたした。

しかも、番号付のものを、

以前一刀の提案で、特別な記帳には、そうしたほうが ふぁん が喜ぶと言っていたものだ。

実際、行ってみると、ふぁん達の間では、番号付を持つ者は、

他の ふぁんに大して、絶大な支持を持つこととなった。

そのため、彼達は、この番号ほしさに、彼女達の捜索活動に、非常に協力的だった。

だが、その必死な捜索活動も

 

「姉さん達、この街付近にも一刀さんはいないって」

 

人和の報告に、天和、地和は、項垂れてしまう。

 

「うぅ、せっかく一刀との約束とうり、三国一になったのに、一刀がいないんじゃつまんないよぉ」

「実はもう見つかってて、曹操様達が隠しているってことはないかなぁ」

「地和姉さんそれはないわ、曹操様はそんな器は小さくはないし、意味がないもの」

「意味がないって何よ、意味ならあるじゃん。

 私達に一刀を渡したくないって」

「そうそう」

 

地和の言葉に、天和も乗ってくる

 

「少し考えれば、わかることよ。

 あの一刀さんが、私達をほっとくと思う?」

「うーん、たしかに一刀は、おねぇちゃんに夢中だもん」

「違うわよ、地和に夢中なの!」

「まぁ、そういうことよ、それに、一刀さんが見つかってたら、噂にならないわけないわ

 なにせ魏の種馬ですもの」

「「あぁ、たしかに」」

「じゃぁ、次の目標は、大陸一ね」

「おぉぉ、人和、めずらしく、大きくでたわね」

「おねぇちゃん、ちょっと、いが~いかも」

「別に、世界一になれば、一刀さんが見つかる可能性があがると考えただけ」

「「おぉぉぉ」」

「そのためには、もっといっぱい頑張らないと」

「うん、そうだねさすが、人和ちゃんいいこと言う」

「じゃあ、頑張りましょう」

「「「おぉーーー」」」

 

 

静かになった会場に、

 

三国一の歌姫達の声が

 

願いが

 

想いが

 

響き渡る

 

 

 

 

 

 

 

 

曹操の場合:

 

昼下がり、曹操こと華琳は、執務室で暇を持て余していた。

以前では考えられないことだった。

別に仕事がないわけではない。

ただ、戦時中に比べれば仕事が減ったのは、確かだ、

一刀が残した政策で、本来は忙しいのだろうが、それは

桂花達軍師勢が、任せてほしいと頑張っていたので、任せることにした。

街の治安は、一刀が基盤づくりした体制のおかげで、

あの3人達でも何とか維持が出来ていた。

戦乱が収ったことで、民達に余裕が出来た。

そのため、以前程、盗賊化する者が減ってきている事も、手助けしている。

一刀の捜索は、張3姉妹の強力な協力もあって、想像以上に進んでいた。

だかその結果は、嬉しくないものだった。

五胡達の侵攻も、小競り合い程度で問題はない。

国全体の治安も、前よりは落ち着いてきた。

一刀の政策が、少しづつ効いてきているのもある。

以前に比べ、街には笑顔が溢れつつある。

喜ばしい事だが、なんとなく笑えないでいた。

一刀のいない寂しさも、以前に比べ、落ち着いてきた。

最初の頃等、一度執務中に一刀の書いた報告書が紛れていた事があり

なんとなく、目を通したら、停まらなくなった。

文字と共に、そのときの一刀が脳裏に浮かんだからだ。

そんな一刀の姿を、追い求め、私は昔の書類を掘り起こす。

集めた書簡は、結構な数だ。

わざわざ読まなくても、その内容は思い出せる。

でも、一刀の下手糞ながらも、一生懸命書いた文字は、

あの時の姿を、温もりを思い出させてくれた。

私は、仕事を放り出して、一刀の書簡に夢中になった

一刀との思い出に夢中になった。

そして、夜が明け朝になるころ

私は、思い出に埋もれるように、

書簡に埋もれて、寝てしまった事もあった。

曹孟徳ともあろうものが、情けない限りだ。

それ以来、前程やる気が、わく事がなかった。

以前なら、こんな暇を持て余す事なんてなかった。

時間があれば、何かを追求し、自分を高めていった。

無論、部下達の前で、そんな醜態を見せることはない。

ないのだが、

 

「気がつかれていないわけ、ないわね」

 

現に、仕事の少なさが、それを物語っていた。

いっそ、思い出すのを忘れるくらい忙しければ、

楽なのかもしれないと、思いもしたが・・・・

いくら忙しくても、彼を忘れることなぞ、考えられなかった。

 

「まったく、私をこんなに変えておいて、自分は消えるなんて・・・」

 

とりあえず、目の前にいない相手に、文句を言ってみる

虚しいいと思う反面、心が少し温かくなるのを感じる

 

「・・・重症ね」

 

数ヵ月後には、3国の代表が集まる日が来る。

今回は魏の番で、同盟結成2周年を祝って、やや派手にやると桂花が言っていた。

きっと、あの娘のことだから、私を励まそうとのことだろう。

2周年・・・もうあの馬鹿が消えて2年か、

私は、この2年何をやってきたのだろう。

霞には大きなことを言っておいて、肝心の自分が、これでは情けなくなる。

それに、一刀もそんなこと求めてはいないだろう。

このままではいずれ、国政にも問題は出てくるだろう。

跡継ぎ問題もあるが、いざとなれば、親族から養子を取ればいい。

だが、教育はそうは行かない。

みんなが、一刀が作った平和を維持するためにも、王として立派な教育を、施さなければいけない。

今の自分では、そんな資格すらないだろう。

 

現状維持に満足しているようでは、現状維持すら難しい

 

私が一刀に言った言葉だ。

 

私は、立ち止まる事を止め、

 

ふたたび、歩み出す決心をする。

 

一刀を忘れる事なんて、出来ない

 

あいつは、この世でただ一人

 

この私を王ではなく、

 

一人の少女へ戻した奴なんだから

 

忘れてなんかやらない

 

だから、あいつを抱えたまま

 

前に進んでやるんだから

 

そうして、私は執務室を出て叫ぶ

 

「だれかある」

 

新たな一歩を、進むために

 

 

 

 

 

 

 

華琳が、以前の様な覇気を取り戻しつつある中

朝議で、問題があがった

 

「陳留の民が、暴動を起こそうとしている? なぜなの?」

「はっ、なんでも、天の御遣いを名乗る男が、街で騒動を起こし、それを領主が捕り押さえたようです。

 ただ、民の中で天の御遣いが、領主に捕らえられ、拷問されているという噂が立ち、

 これを解放しようとしている、とのことです」

「それは本当のことなの?」

 

天の御遣い・・・・一刀の話しに、私は身を乗り出す。

私だけではなく、何人かの娘達も身を乗り出していた。

 

「領主は、詐称と判断しているようですが・・・

 さすがに勝手に処分するわけには行かないと、

 判断を仰いで来ています。

 記載された男の特徴は、一見一刀殿と一致していますが、

 相違する部分も多いです。

 また、男の素性も調べ、報告されています」

 

稟がそう言うのなら、おそらく、詐称なのだろう。

私は、乗り上げた体を戻し、一度深く息を吸う。

 

「一応、確認させなさい。

 もし一刀ではなく、別の天の御遣いなら、何か情報を持っているかもしれないわ

 もし詐称なら処分なさい。 天の名を詐称することは、皇帝を詐称する事と同義だわ」

 

私は、朝から疲れてしまった頭を、一度休めるように目をつぶると

 

「華琳様~」

「なに、風?」

「その確認、風にさせてほしいですよ~」

「なぜ? 稟の報告では、貴女がわざわざ行かなくても、他の文官でも、よさそうなものと判るでしょ」

「・・スゥー」

「風、起きなさい」

「おぉぉ、思わず寝てしまいました」

「で、なぜなの」

「はい、風もその天の御遣いを名乗る人は、詐称だと思うんですよ~」

「では、貴女が行く必要はないと思うのだけど、

 今まで似たようなことはあったのに、一度もそんな事言った事はなかったじゃない」

「そうなんですけど、今回は、なんとなくなんですよ~」

 

風の言葉に私は絶句した。

春蘭や季衣じゃあるまいし、軍師たる者、なんとなくで動くなんて考えられない。

 

「なにを知ってるの?」

「いえ、何も、本当にただなんとなく、風が行かねば、と思っただけなんですよ~」

「三国同盟の集まりが、後一月もないというこの時期に、貴女を、ここから離すわけには行かないわ。

 きちんと、理由を言いなさい」

「ん~、あえて言うなら、女の勘ってやつですかね~」

「風、貴女そんな「華琳様」・・・なに稟、私は今風と話しているのだけど、

 それに、今回の事が詐称と言い出したのは貴女よ

 その貴女が風を庇うの?」

「申し訳ございません。

 私は、長年風と一緒にいますが、

 彼女がこのような、我が儘を言った事はございません。

 どうかひらに、」

「ちょ、冗談じゃないわ!

 ただでさえ忙しいのに、風までいなくなったら、誰が同盟会議の準備をすると思っているの!

 今から陳留まで行って戻ってきたら、予定日に戻ってこれるかどうかじゃない!

 貴女達、私を殺す気?」

 

稟が、風を擁護する事で、桂花が喚きだした。

 

「たしかに、風が抜けるのはいたいです。

 ですがその分、私や桂花殿が頑張ればよい事

 貴女が華琳様の、寵愛を受けようと、必要以上に華琳様のお顔を、伺いに行っている間

 貴女の仕事を、私と風が受け持っていたのです。

 それを返すと思えば、問題ありますまい」

「うぐっ、・・・・

 でも、普段ならともかく、こんなと時なんて、文句も言いたくもなるわっ!」

 

稟が桂花の怠惰を指摘する。

困った娘、まぁ、そこが、かわいい所でもあるのだけど

私は一度息を吐き、彼女に声を掛ける事にする。

 

「そう、そんなに忙しいの、桂花

 迷惑を掛けているわね」

「いえ、そんな、華琳様のためなら、

 そのような苦労など、苦労とも感じませんわ」

「嬉しい事を言ってくれるわね。

 でも、私の顔見たさに、稟達に仕事を押し付けていたなんて、褒められた事ではなくてよ」

「も、申し訳ございません。

 私は、ただ華琳様が心配で、お許しを」

 

私の指摘に桂花は、顔を白め謝罪をする。

 

「なら、頑張れるわね。」

「華琳様」

「稟、風、貴女達にも迷惑を掛けてきたわ」

「もったいないお言葉です」

「・・・クゥー」

「桂花、私に少し仕事を回しなさい」

「そ、そんな華琳様、これは私達文官の仕事です。

 王である貴女様の、お手を煩わすわけには」

「あら、私の命に逆らう気?」

「いえ、そのような、恐れ多い事は・・・」

 

私が落ち込んでいた分、彼女達が支えてくれたのだ。

なら、風の、めったに言わない我が儘を、叶えてやるのも王の務めだろう。

 

「風、それでいいわね」

「華琳さま、ありがとうございます。

 稟ちゃん、ありがとうなのですよ~」

「いえ、貴女には華琳様と閨を共にするため

 いろいろ御助力いただいています。」

「あらあら、それでは稟ちゃんは、お兄さんにも感謝しないといけないですねぇ」

「いえ、一刀殿はそれ以上に、皆に迷惑を掛けていますので、むしろ貸しが多いと判断します」

「それもそうですね~

 帰ってきたらきっちり、体で返してもらわないと、いけないですね~」

「か、からだでとは・・・・ぶはっー」

「はーい、稟ちゃん とんとん しましょうね~」

 

稟と風の、いつもとおりの風景に場が和む

 

まるで、彼がいた時のように

 

まったく、あの男は

 

みんなに、こんなに心配させて

 

どこをほっつき歩いているのやら

 

いいから、とっとと帰ってきなさいよ

 

じゃないと、忘れてやるんだから

 

自分でもありえない事を、

 

自分に言いながら

 

私は、彼の空気を感じる

 

この空気を、愛しく感じていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく


 
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