「また一つ、雪歩殿のお仕事が決まりましたね。さすがプロデューサー殿です」
「イヤ、9割方決まっていたような仕事だし、今日はスケジュールの調整みたいなもんだ」
「でも、雪歩殿ほどの人気であれば、仕事が向こうからやってきて、
むしろこちらが選り好み出来る立場ですのに、こちらから出向くなんてと、
当初は思っていたのですが……」
「雪歩がデビューして間もない無名な頃からお世話になっているクライアントだし、
時間が許す限り会って顔を繋いでおかないと。雪歩だけじゃなく、765プロとしてな」
「765プロとして……」
「そう。そして今日わざわざ貴音を連れてきたのもね。何故だと思う?」
「何故とおしゃられても……私はただ、プロデューサー殿が私に随伴を所望されたゆえ……」
「俺としては、向こうに貴音の顔も覚えてもらいたいワケよ。
961プロじゃなく、765プロの『四条貴音』をね。
本格的なデビューまで至らないのは、俺の不徳の致すところだがな……」
「左様ですか……」
アイドル・アルティメイト決勝で雪歩に負け、961プロを放逐された貴音は、
高木社長の温情によってなのか、765プロ預りとなった。
雪歩と同時期にデビューし、「銀色の王女」と言わしめた圧倒的な存在感は、
今でも衰えておらず、再デビューするに申し分ない。
「でも私はまだ答えを見つけておりません、あなた様に言われた……くしゅん!」
「あぁ、スマン。いつまでも外にいないで、早くクルマに戻ろう」
貴音にとってアイドル活動をする意義とは?
亡き故国を再建するため?
民に自分の存在を知らしめて勇気づけるため?
じゃあ、貴音自身はどうなんだ?
使命や義務、自己犠牲で歌っているのかい?
「しかし、次の仕事が買い出しなんて……貴音、スマンな。荷物持ちなんてさせて。
立場逆だろ、常識で考えて。事務員に携帯一本でパシリに使われるプロデューサーなんて」
「良いではありませんか。プロデューサー殿の人徳の為せる技です。
信用がおけない者に用事など頼みはしないでしょう……」
「事務所のクリスマスパーティーの買い出しが、か?」
「えぇ。皆が楽しめる楽しき時を提供するのが、プロデューサー殿の務めゆえ」
「なるほど……モノは言い様だな。
俺がアイドルをプロデュースするのも、ファンのみんなに楽しんで欲しいから、だし。
ところで貴音、上着なしで寒くないか?」
「えぇ、今は、店内の暖房が効いていますので、外よりは」
「そうか……ちょっと待ってろ」
プロデューサーは貴音に荷物を預けて、姿を消した。
10分ほど経ち、プロデューサーは貴音の元へ戻ってきた。
「待たせたな。貴音へ、メリークリスマス!」
「めりぃ……?」
「ちょっと屈んでもらっていいかな?」
「こう、ですか……?」
貴音の肩に掛けられたのは、緑色のストールとえんじ色のバンダナ。
2枚重ねると……丁度緑地に赤のクリスマスカラー。
「さっき通りがかりに見つけてね。えんじ色のストールもあったんだけど、クリスマスだしね。
これで少しは寒さがしのげるだろ? それともラーメンでもおごった方が良かったか?」
「いいえ、ありがたき幸せ……。あなた様はいけず、です……」
貴音の胸の奥底が、小さく痛んだ。
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アイドルマスター、四条貴音のクリスマスSS。Pの営業周りに随伴する貴音に、Pからプレゼントが……?
ちなみに本作品は、貴音はIUで雪歩に負けて、961プロから765プロに移籍した……という設定です。