No.1136849

英雄伝説~黎の陽だまりと終焉を超えし英雄達~

soranoさん

第3話

2024-01-15 22:29:51 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:493   閲覧ユーザー数:468

再びリバーサイドを訪れた二人はヴァンの提案によってあるカフェを訪れた。

 

~リバーサイド・カフェ”ベルモッティ”~

 

「あら、いらっしゃーい♪待っていたわよ、ヴァンちゃん♪そろそろ来るんじゃないかと思ったわ。そっちのカワイコちゃんが依頼者かしら?うふふっ、制服が似合ってるわねぇ~。」

「???え、あの……」

「ったく、挨拶早々、見透かしてくるんじゃねえよ。」

店に入った途端自分達の今までの行動について知っている様子の店主らしき長身の男性の言葉にアニエスが戸惑っている中ヴァンは呆れた表情で指摘した。そして二人は店主である男性に近づいた。

「アタシはベルモッティ、このお店のオーナー兼バーテンダーでね。ヴァンちゃんとは只ならぬ関係でもあるわ♪」

「ええっ……!?」

(この男の知り合いにまともな人間はいないのですか……)

「持ちつ持たれつの関係ってだけだ。ここのコーヒーとカクテルは絶品だがな。色々胡散臭いコネなんかもあって、その筋じゃ”情報屋”としても有名だ。」

男性――――――ベルモッティの自己紹介にアニエスが驚いている中メイヴィスレインは呆れた表情を浮かべ、ヴァンはベルモッティの説明を訂正した後ベルモッティの事について説明した。

 

「あ………――――アニエス・クローデルと申します。よろしくお願いします、ベルモッティさん。」

「あらご丁寧に。ヴァンちゃん、良いわねこの子♪どういう経緯かは置いておいて――――ジャコモのオジサン絡みで来たのよね?」

「……はい。」

「既に一通りは掴んでいるよな?」

アニエスの自己紹介を微笑ましそうに見守った後すぐに表情を引き締めたベルモッティの確認にアニエスは頷き、ヴァンはベルモッティに訊ねた。

「そりゃもう、目と鼻の先だし。同業者の風上にも置けないロクデナシなオジサンだったけど……流石に可哀想だったわよねぇ、自業自得の可能性が高いとはいえ。」

「自業自得……ですか?」

「ハン、やっぱり何かやらかしてたってワケか。……ちなみに昨日の夜あたりか?」

「よくわかるわねぇ、その通りよ。その筋から入ってきたんだけど……彼、警察にタレコミしたそうでね。『巨額の薬物取引を半グレ集団が行っている』って内容だったらしいわ。」

「や、薬物取引……?」

「聞かない話じゃねえが……――――――だが、偽情報だったんだな?」

ベルモッティの話を聞いたアニエスが困惑している中察しがついていたヴァンはベルモッティに確認した。

 

「ええ、警察が何人か拘束したけど薬物取引がされていた形跡はナシ。ただ、何者かと争っていたみたいでその相手というのがわからないのよ。ちなみに――――――捕まった半グレたちはこんな事も呟いていたらしいわ。『いったい誰がパクリやがった?』『連中じゃねえ……仲間の誰かか?』」

「ハン……」

「その……もしかして。半グレ?の方々と、別の人達が何かの取引をしようとした所に……あのジャコモさんが警察を呼び込んで、その場を混乱させたんでしょうか?」

ベルモッティの話を聞いて大体の推測ができたヴァンが鼻を鳴らしている中、アニエスは真剣な表情で自身の推測を確認した。

「あら……」

「ああ、その可能性は高いだろ。そして薬物以外の”何か”を何らかの方法でチョロまかして――――結果的に、もう一方の連中に狙われることになっちまった訳だ。」

アニエスの推測にベルモッティが感心している中、ヴァンは肯定した後推測を捕捉した。

「……!」

「”何か”ってのはわからないけどそのあたりだとアタシも睨んでいるわ。ちなみにジャコモのオジサンが二勢力の裏を掻いた方法だけど。”とある裏技”を使った可能性が大ね。」

「まさか……最新式(ザイファ)か?」

「ううん、あれはまだごく一部しか出回っていないわね。それより旧式で――――――ある意味、彼の目的に適したブツでしょうね。現在、裏のマーケットにそれなりに流れているっていう。」

「そうか――――――”RANDA(ラムダ)”か。」

「それって、両カルバード州で一時使われていた”第五世代”という……」

ベルモッティの説明を聞いてジャコモが使った”裏技”の正体に気づいたヴァンはその正体を口にし、それを聞いていたアニエスは目を丸くしてヴァンに視線を向けた。

 

「ああ、ヴェルヌ社とエプスタイン財団が共同開発した”第五世代戦術導力器”。軍や警察で採用されたが、第六世代の発表で世代交代を余儀なくされた悲劇の規格――――――エレボニアのARCUS規格にも遜色なかったそうだが――――――特筆すべきは”偽装(ステルス)機能”だろう。」

「偽装(ステルス)機能……何かを隠す、ということでしょうか?」

「どちらかというと使用者本人ね。文字通り魔法のように姿が消えるの。接続時間は使用者の適正に依存し、センサーにも引っかかるらしいけど……警察が乗り込んで混乱している場所から”何か”を盗むくらいは朝飯前でしょうね。」

(この世界の魔道具についての説明は軽く聞いてはいましたが………まさかそのような物まで流通しているとは、どうやらこの世界は私が考えていた以上に技術が発展しているようですね。)

ヴァンの説明を聞いてある事に気づいたアニエスの言葉に答えたベルモッティの説明を聞いていたメイヴィスレインは目を細めた。

「なるほど……確かにそれなら納得ですね。」

一方アニエスは納得したあとある事に気づくと顔色を悪くした。

 

「クク、気づいたか。俺達が悲鳴を聞いてあの整備室に乗り込んだ時――――――殺られたばかりのジャコモの遺体しか現場には見当たらなかった。だが――――――実際には居たわけだ。あの場所でジャコモを待ち伏せてその喉を掻き切り……俺達の脇を偽装(ステルス)機能でまんまとすり抜けて離脱した連中がな。」

「……………………」

ヴァンの話を聞いて殺人犯が自分達の近くに潜んでいたという事実にアニエスは表情を青褪めさせた。

「大胆不敵な連中よねぇ。どう考えても只者じゃないでしょう。どこかの猟兵か、それとも……………………まあ、”目的のブツ”を奪い返した以上、もう足取りも追えなさそうだけど。」

「いや、そうでもねぇぜ。」

「え。」

自分の推測をヴァンが否定し、それを聞いたベルモッティが驚いたその時ヴァンのザイファから通信の音が聞こえた。

 

「流石に仕事が早いな。」

音に気づいたヴァンがザイファを取り出して通信を開始するとザイファに褐色の青年が映った。

「ここ数年のヤツの拠点を送った。監視カメラのログ付きだ。」

「サンクス、これで例の貸しはチャラにしてやるよ。」

「フッ……ちなみに昨日の時点でどこかの団が動いている気配はない。せいぜい気を付けておけ。」

「そうか………借り一つだ。」

「今の方は……」

「そっか、ジャコモのオジサン、他にも隠れ家を確保していたわね。するとブツはそちらの何処かに?うーん、でも猟兵じゃないとすると……――――――ってそれよりヴァンちゃん!ディンゴちゃんにも頼んでたのねっ?アタシという彼女(情報屋)がありながらイケズなんだからっ!」

ヴァンが青年との通信を終えるとアニエスは不思議そうな表情を浮かべ、ベルモッティは納得した様子で呟いた後わざとらしく悲し気な様子でヴァンに指摘した。

「ハッ……悪いが節操はないんでな。」

ベルモッティの言葉にヴァンは軽く流した。そしてヴァンがアニエスと共に店を出ようとしたその時、ベルモッティがヴァンを呼び止めた。

 

「ちょっと待ってヴァンちゃん。ヴァンちゃんなら、”中央”がメンフィルと合同で立ち上げた例の”合同捜査隊”についても既に耳にしているのでしょう?」

「ハッ、流石に耳が早いな………情報源はもしかして”アイツ”あたりか?」

「正解♪」

「……?あの、”中央”というのはこの北カルバード州を治めている”総督府”を設置したクロスベル帝国の中央政府や皇家の事ですよね?」

二人の会話内容が気になったアニエスはヴァンに二人に確認した。

「ああ。――――――知っての通り3年前のヨルムンガンド戦役の少し前にメンフィル・クロスベル連合によってカルバード共和国は電撃的な早さで占領され、そして二帝国の領土として併合された事でカルバードは”国として滅び”、二帝国の”州”と化した訳だ。で、アラミスでも教えているかもしれんがカルバードの領土は広大な事に加えてカルバード人達の反発を懸念した二帝国は、それぞれに”総督府”を置いて干渉は最小限にした訳だが………」

「最近”とあるマフィア組織”が勢力を拡大化した事を危険視したのか、どうやらメンフィル帝国と共同で合同の捜査隊を結成してカルバード両州に本格的な捜査をするつもりみたいなのよ。」

「それは………――――――!もしかして、警察の人達がジャコモさんを任意同行しようとしたのも……」

二人の話を聞いて”中央”とメンフィルがカルバード両州の問題に介入してくる事によって起こりうるある問題に気づいて僅かに複雑そうな表情を浮かべたアニエスはすぐにある事に気づいた。

 

「ああ、中央とメンフィルによる合同捜査隊に対して少しでも何か有利になる情報を手に入れる為だろうな。――――――わざわざ呼び止めてその話を持ち出したって事は、大方俺が合同捜査隊のメンバーの詳細に何か知っていると踏んでそれを聞く為か?」

「うふふっ、流石ヴァンちゃん♪クロスベル皇家もそうだけど、メンフィル皇家やエレボニア総督府にもツテがあるヴァンちゃんなら絶対に何か知っているでしょう?」

「ええっ!?ヴァ、ヴァンさん、クロスベル・メンフィルの両皇家もそうですが、エレボニアの総督府にも人脈があるんですか……!?」

ヴァンの問いかけに答えたベルモッティの話を聞いたアニエスは驚きの表情で声を上げてヴァンに確認した。

「ま、”そっち”に関しては色々と複雑な事情があって、結果的にツテができただけだけどな。――――――話を戻すが、”仔猫”に軽く探りを入れてみた所、元”蛇”の連中がいるのは確実との事だ。」

(”仔猫”に”蛇”……?)

「あ~……確かに適正な人選と言えばそうだけど……何にしてもGIDやギルドにとっては頭が痛くなるメンバーが選ばれているっぽいわねぇ。貴重な情報、ありがとう♪」

ヴァンの話を聞いて聞きなれない言葉にアニエスが首を傾げている中ベルモッティは苦笑を浮かべた後ウインクをして感謝の言葉を口にした。

「借り一つにしておくぜ。」

そしてヴァンは今度こそアニエスと共に店を出た。

 

~リバーサイド~

 

「……………………………」

「色々驚くような情報が新たにわかりましたけど……それにしてもヴァンさん、本当にお顔が広いんですね?」

「ああ……まあこういう時の為に普段から貸しを作っているからな。」

「ふぅん……さぞご立派な貸しなのでしょうね。」

アニエスの指摘にヴァンが答えると女性の声が聞こえ、声が聞こえた方向へと視線を向けるとそこにはエレインがいた。

「っ……」

「え……ああっ……!?」

エレインの登場にヴァンは気まずそうな表情を浮かべている中、アニエスは呆けた後驚きの表情で声を上げた。

 

「そちらの常連というのは風の噂で聞いていたけど……まさかこんなタイミングで出くわすなんてね。」

「ハッ……そうだな。ったく、ルネのヤツといい、どんな日だっつーの。」

「コソコソしていたものね、貴方。よっぽど後ろ暗い所があるみたいだし。警察署に連行されたことだって半分以上は自業自得といった所かしら?」

「否定はしねえが……早速、聞きつけてきやがったか。」

エレインの指摘にヴァンは苦笑しながら答えた。

「ええ、そこの現場も見せてもらった。ジャコモ氏は問題人物だったけど情報屋として何度か接触していたから。――――それより、捜査官さんたちとタイレルの女記者さんが怒っていたわよ?引っ掻き回して”掴む”やり方……相変わらずみたいね?」

「さて……何のことかねぇ?(……クソ、流石にやり辛ぇな。)」

「え、えっと……」

エレインとヴァンのやり取りにアニエスは戸惑いの表情で二人を見比べていた。

 

「初めまして、エレインよ。いきなり割り込んでごめんなさい。」

「い、いえ……」

「お互い忙しいでしょうし、積もる話はまたいずれしましょう。この先は早い者勝ち……GIDや警察、私達も含めてね。――――――言うまでもなく”彼ら”も。もう察していると思うけどこの先はきちんと線引きしなさい。貴方の”今の同行者”は、”以前の人達”と違って”修羅場”に巻き込んではいけない人なのだから。ジャコモ氏を殺やめた”二人組”――――――おそらく”A”よ。」

「………だろうな。一つ借りにしてやる。」

エレインの警告にヴァンが答えるとエレインは店の中へと入って行った。

「い、今の方は……ヴァンさん、お知り合いだったんですか!?」

「なんだ、知ってたのかよ?……まあ雑誌とかでもたまに見るか。」

知っている様子のアニエスにヴァンは若干驚いたがすぐにそれが当然である事に気づいた。

 

「知ってるもなにも……かなりの有名人じゃないですか!エレイン・オークレールさん……!北・南両カルバード遊撃士協会の若きエースで最年少でA級になったという……!えっと、たしか人呼んで……」

「”剣(ソード)の乙女(メイデン)”。旧王国流の剣術の達人って触れ込みだな。クク、よりによって”乙女”とは……さすがに同情せざるを得ないっつーか。」

「え、えっと……結構親しそう、でしたね?」

「ただの昔馴染みだ……それより時間が惜しい。そろそろ大詰めだ。移動しながら整理するぞ。」

そして二人は地下鉄に乗ってどこかへと向かい始めた。

 

~地下鉄内~

 

「―――――”問題のブツ”ってのがあんたの捜し物なのは間違いねぇだろ。一週間前、そいつを某古物商から盗んだのは半グレども。昨夜、”二人組”に渡そうとした時、恐らく金銭面でのトラブルが発生し―――密告で警察が突入した隙を狙ってジャコモがRAMDAでチョロまかした。しかし”二人組”は翌日ジャコモを捕捉。あの現場で待ち伏せして”制裁”を与えてRAMDAを奪って離脱した。ちなみにRAMDAも端末である以上、各種の情報ツールやメモ用アプリがある。あのオッサンのことだ、すぐそうとはわからないように工夫してただろうが……端末にあった情報から、他の隠れ家の場所を特定していくのも不可能じゃねえだろう。」

「とすると……その二人組は今も端末を手掛かりに捜しているんですね?」

「ああ、だがこっちは最近のジャコモの動向も合わせて3箇所まで絞り込めている。」

アニエスの言葉に頷いたヴァンは話を続けて自分のザイファを取り出し、アニエスにザイファに映るイーディスの地図を見せた。

「三区にある”トリオンタワー”前に七区にある”イーディス中央駅”――――街外れにある導力車レース場、”グランサーキット”周辺の十二区だ。そこで質問だが――――――どこがクサいと思う?」

「そ、そうですね……七区の”イーディス中央駅”です。」

「へえ、どうしてそう思う?」

自分の問いかけに答えたアニエスの答えを聞いたヴァンは興味ありげな表情でアニエスに訊ねた。

 

「その、昨日トリオンタワーでは夜までサマーフェスがあったと思うんです。それとグランサーキットではZ1グランプリが開かれていたそうで……普段より人が多いと、隠れ家の入り口に立ち寄るのは避けるのではないかと。」

(フフ、中々の推理力です。)

「クク、合格だ。駅前の路地の目立たない一角に地下へのゲートがある。そこにジャコモが”例のブツ”を隠した可能性が高いだろう。」

アニエスの推測にメイヴィスレインが感心している中ヴァンは口元に笑みを浮かべてアニエスの推測が正解である事を告げた後”捜し物”の明確な場所を告げた。

「……!だったらこれから――――」

ヴァンの話を聞いたアニエスが血相を変えたその時地下鉄内の放送が入った。

 

次は五区オーベル地区大聖堂前となります。大聖堂やアラミス高等学校――――――

 

「いいや――――あんたは次で降りてもらおうか。」

「え………」

ヴァンの指示にアニエスは呆けた声を出し

「寮暮らしなら次の駅だろう?ま、今日中にはケリをつけて明日には依頼のブツを渡してやるよ。」

「……で、でも……同行を認めてくだったんじゃ?」

ヴァンが今から自分を捜索から外そうとしている事にアニエスは戸惑いの表情を浮かべながらヴァンに訊ねた。

「昼間の時点まではな。――――――だが”二人組”の背景を考えると流石に一線を引かざるを得ない。」

「あの人が言っていた……”A"という?」

「ああ、ここ最近、各方面から警戒されてる連中だ。それも警察やギルドだけじゃねえ……他の犯罪組織やら猟兵、果ては政府や皇家などからもな。」

「……!」

ヴァンの話を聞いたアニエスは相手の背景の凶悪さに目を見開いた。

「仮にそいつらだった場合、あんたを連れて立ち回れる自信はない。だから――――――そういう事だ。」

「……………………」

(自身の能力を正確に判断した上で、依頼者の身の為の警告もする………”裏”に属する人間の割には良心的な方でしょうね。)

ヴァンの言葉にアニエスが辛そうな表情で顔を俯かせて黙り込んでいる中、メイヴィスレインはヴァンの評価をしていた。そして地下鉄が駅に到着するとアニエスは駅に降りたと思われたが――――――

 

「……………………おい。」

何と地下鉄が駅から出発してもアニエスは駅に降りていなく、アニエスの行動にヴァンは真剣な表情で声をかけた。

「ごめんなさい……我儘を言って。でも――――――あの捜し物は私にとっては”絆”、なんです。ひいお祖父ちゃんじゃなく……お母さんや、お祖母ちゃんとの。……ううん、それだけじゃなく……人が一人、亡くなって……足手まといかもしれないですけど。それでも――――――自分の目で、足で最後まで立ち会って見届けたいんです。安全には最大限注意します……どんな指示にも従えるように備えます。ですから……駄目、でしょうか?」

(フフ、偶然はいえ、どうやら私は人間の中でも稀にしかいない芯の強さの持ち主と契約したようですね。)

「……………………しゃあねえ、依頼人(クライアント)はあんただ。獲物にアーツもそれなりに使える。まったくの足手まといでもねえしな。」

アニエスの決意にメイヴィスレインが満足げな笑みを浮かべている中、アニエスの決意の表情を目にしたヴァンは驚きの表情を浮かべた後諦めた様子でアニエスの同行を許した。

「……!」

「だが、てめえの安全を最優先しろ。俺の指示にも即座に従ってもらう。守れない場合は契約終了だ――――――いいな?」

「はいっ…………ありがとうございます!」

ヴァンの警告と指示にアニエスは頭を下げて力強く答えた。

 

18:44―――

 

~七区・イーディス中央駅通り~

 

「……日も暮れたか。イベントでもないのに相変わらず人が多い場所だぜ。」

「旧首都の玄関口で老舗デパートなんかもありますから……最近だとカフェが併設された、お洒落な導力製品のお店ができたと聞いています。」

「オーバルカフェってヤツだな。ちょうど目の前だ。」

アニエスの話に答えたヴァンはアニエスと共に目の前にあるカフェの上にある街頭ビジョンに視線を向けた。

「街頭ビジョンか……2、3年前には無かったんだが。すっかり馴染んでやがる。目まぐるしいったらありゃしねえ。」

「ふふっ、確かに。」

ヴァンの感想にアニエスが苦笑しながら同意すると街頭ビジョンに映像が映った。

 

18:45になりました。この時間のニュースをお伝えします。本日15時、ヴァンタイユ地区総督府でグラムハート総督が定例会見を開きました。

 

アナウンサーがニュース内容を話し続けると映像に北カルバード総督――――――ロイ・グラムハート総督の映像が映った。

 

主な内容は、クロスベル中央政府並びに皇家からの援助金が年内に終了することについての今後の見通しです。

 

2年前、クロスベル中央政府と皇家の方々は北カルバードの発展の為にその寛大な心で莫大な援助金を支援してくれました。この支援によって、侵略戦争によってクロスベルの領土として併合された事によって遠くなったクロスベルと北カルバードの距離も近くなったと言えるでしょう。そして現在、我が州と中央であるクロスベルは、カルバードにとってかつての好敵手であったエレボニアとのかつてないほど平穏な関係を築くに至っています。その礎となった援助金が年内に終了するにあたり、景気低迷を案じる声もありますが、全くの杞憂です。

二年に渡る経済成長、資本の蓄積、技術革新派北カルバードを大陸最大の州へと成長させました。また、中央政府や旧エレボニア領側である東ラマール州もより発展しているとの事です。もはや我々を上回る国家はクロスベル帝国の盟友たるメンフィル帝国を除けば存在しえない――――ですが当然、その状況に慢心はできません。

ゼムリア大陸を、世界を主導する立場として今後はエレボニアも含めた大陸諸国を導く事こそが……

 

「……ロイ・グラムハートか。色々強引みたいだが、実際大したタマだな。就任一年目にしてGDPは元エレボニア帝国領であり、今ではエレボニアに加えてメンフィルとも取引をしている東ラマール越え――――――今年に入ってからも大幅に上回る勢いとは。」

「……そうですね。経済のみならず、様々な分野で大胆な施策を出しているみたいです。」

グラムハート総督の演説を見つめながら呟いたヴァンの感想に頷いたアニエスは静かな表情で話を続けた。

「まあ、前のロックスミスの方が地に足をついていたとも言えるが……――――――政治講義はさておき、とっとと向かうとしよう。何せこのあたりは商売敵の本拠地もあるからな。」

「え………」

ヴァンの言葉に呆けたアニエスはヴァンが視線を向けている方向――――――遊撃士協会の支部に視線を向けた。

「遊撃士協会……そういえば中央駅の近くにあると聞いた事がありました。」

「ああ、灯台下暗しかもしれねえが、鼻の利く連中でもある。”二人組”共々出し抜いて先に依頼品を押さえちまうぞ。」

「……はい。それで隠れ家の入口というのは?」

「すぐそこだ。――――――あの老舗デパートの脇道にゲートがある――――――行ってみるぞ。」

「はいっ……!」

そして二人はゲートの近くまで来てヴァンがゲートの扉を開いてアニエスと共にゲートに入ろうとしたその時、何者かの視線を感じた。

 

「………?」

視線を感じたヴァンは少しだけゲートから離れて周囲を見回した。

「?どうしました?」

「何でもない、行くぞ。(……気のせいか?ま、”匂わない”ならいいだろ。)」

視線の正体がわからなかったヴァンだったが特に支障はないと判断し、アニエスと共にゲートへと入って行った。

「……ふふっ。相変わらず鼻が利くみたいね。どう転ぶかはわからないけど……大切な後輩をよろしくね、裏解決屋(スプリガン)さん。」

視線の主――――――レンは歩道橋から二人の様子を見守りながら静かな笑みを浮かべて呟いた――――――

 

 


 
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