scene-玉座の間
「まさかあなたが二人を連れてきてくれるとはね」
「お~ほっほっほっほっほっ!」
「敵将だったあなたを殺すとは考えてなかったの?」
ムッとして。
「この袁本初を見くびるではありませんことよ。我が身可愛さにあのような愛らしいお二人を見殺しにするとお思いでしたら心外ですわ華琳さん」
「まあ、今回の働きに免じて麗羽たちの命は助けてあげるけど」
「そんなことよりも、あの二人はどうなっているのです!」
「医者を呼んだわ……よほど気に入ったようね。許緒と典韋のこと」
華琳はここまで二人のことを気にかける麗羽をほんの少しだけ見直した。
「もちろんですわ。ひたむきで純真な子たちといると心が安らぎますもの。文醜さん、顔良さんと交換してほしいぐらいですわ」
「ちょ、そりゃないよ姫ぇ……あ、でも斗詩もいっしょならいいか」
「麗羽さまぁ」
斗詩だけが困った顔でちょっと涙目になっていた。
「冗談ですわ」
そのやり取りは気にせず、先を促す。
「何がおこったのか詳しく説明なさい」
「ええと、きょっちーたちがお宝見つけてピカーっとなって倒れちまいました!」
「……顔良、お願い」
三人の内で一番まともな話が期待できそうな斗詩にたくした。
「宝探しをしていた私たちは、北郷さんの手掛かりを探していた二人と会ったんです」
「そんな事をしていたの?」
華琳の疑問に麗羽は。
「浪漫の追求ですわ」
と自慢の大きな胸を張った。
「文ちゃんの話を聞くと季衣ちゃんが「いいよ、ボクたちも手伝ってあげる」って。流琉ちゃんも「もしかしたらなにか手掛かりが見つかるかも」って手伝ってくれてたんです」
「季衣はともかく、流琉のは気を使ったのでしょうね」
桂花はそう判断し。
「そんな可能性も捨てられないぐらい、お兄さんの情報がほしかったのかも知れませんよ~」
風はそう予想する。
「夏休み、など与えるべきではなかったかしら?」
華琳は一刀から聞いたという夏休みを欲しがった二人を思い出す。そんな長い休みをとって何がしたいとの問いに一刀を捜すと答えた二人。
華琳が意気込んで出発した二人を思い出している内にも斗詩の話は進んでいた。
「ついに、祭壇に祭られた鏡を季衣ちゃんが手にした瞬間、鏡は輝き出しました。流琉ちゃんが慌ててかけより、気がついた時には光はおさまり、二人は倒れていました」
「それからずっと二人は目をさまさないの?」
「はい。熱もないし、呼吸も脈拍もしっかりしているのに、起きないんです」
「鏡とは?」
「はい。文ちゃん」
猪々子が出したのは布につつまれた円盤らしきもの。
「文ちゃんはこの鏡が二人を呪ったって壊そうとしましたが、麗羽さまが止めました」
「壊したせいで、おチビさん二人が死んではいけませんもの」
「あなたにしてはまともな判断ね」
麗羽、あなたなにか悪いものでも食べたの? と、さすがにそれは言わなかった。
「それから宿に戻り、翌日になっても二人が目を覚まさないので、お医者さんを探しましたが見つからず、麗羽さまが洛陽に向かうと決定なされ、ここへ向かいました」
「麗羽が?」
「姫、慌てちゃって大変だったんですよ~」
「私は慌ててなどおりませんわ!」
照れ隠しなのか、即座に声を上げる麗羽。
「そう。礼を言うわ麗羽。二人が倒れてからどれくらいがたつの?」
「二人が使っていた馬を使って急ぎましたが、かれこれ七日になります」
「華佗が到着しました」
凪の報告に華琳は玉座から立ち上がる。
「そう。すぐに二人の元へ案内して。私達もむかうわ。麗羽たちには風呂と着替えを」
scene-病室
寝たままの二人に付き添っていた春蘭と秋蘭。診察中の華佗と話していた。
「どう?」
「華琳さま」
「それが……」
華琳たちをチラリと見ただけで、それからは二人から目を離さないまま華佗が口を開く。
「おかしい」
「なにがおかしいの、華佗?」
「二人の容態なんだが……」
「……」
やっと華琳を見据えて言った。
「寝ている」
「そんなことは見ればわかる! なんで目を覚まさないのだ!!」
春蘭が怒鳴る。
「いや、病魔が見えないんだ! 普通にただ寝ているだけにしか見えない」
「麗羽たちの話ではもう七日も寝たままのそうよ。……頭を強く打ったものがこうなると聞いたことがあるけれどそれではなくて?」
「いや、脳も正常に動いているようだ。起きないはずはないのだが」
「目覚めさせることはできないと言うの?」
「早起きのツボか? ……いや待て!」
閃いた、とばかりに声を大きくする華佗。
「どうしたのだ?」
「以前、呪いにより何年も眠り続ける姫を起こした方法を聞いたことがある」
「ほんならそれで二人は目覚めるんやな!」
喜ぶ霞。しかし。
「……いや、その方法が俺には使えん!」
「貴様、それでも医者か!?」
華佗に掴みかかろうとする春蘭。
「待ちなさい春蘭。それはどんな方法なの?」
「眠り姫を目覚めさせるのは、王子の口付けだそうだ」
「なっ!」
「王子? そんなの心当たりないわよ」
桂花が言うと。
「そですね~。季衣ちゃんと流琉ちゃんの王子様といったらお兄さん以外いませんですね~」
風も残念そうに相槌をうつ。そこへ春蘭が自信たっぷりに代替案を出した。
「はっはっはっ! なにを悩んでいる。王子が駄目なら王である華琳さまがおられるではないか!」
「私?」
「華琳さまの燃える口づけを受ければ、眠ってなどいられるはずがありません!」
「ふむ。試してみる価値はあるかもしれないわね」
眠り続ける季衣と流琉を見て決意する。
「華琳さま!」
桂花が抗議しようとするが。
「他に方法が見つからない以上、仕方ないわ」
季衣に顔を寄せていく華琳。
「起きなさい、季衣」
そう囁いて唇を重ねる。
「なんや寝込み襲ってるみたいやな~」
「霞!」
「……ずいぶん長いな」
華佗の呟きを桂花が捉えた。
「華琳さま、まさか本気になってるんじゃ? というか、華佗あんたまだいたの!? 気を利かせて出て行きなさいよ!!」
「いや、郭嘉の鼻血の治療をしているのだが、止まらなくてな」
「ふがふが」
「そりゃこの部屋居たら止まらんと違う?」
鼻に紙を詰めたまま華琳の行う治療を凝視する稟に真桜が呆れた。
「ごくり。……いいなぁ……」
文字通り指をくわえて見ている春蘭。
「姉者、それはどっちにだ? 季衣か? 華琳さまか?」
「そ、それは季衣に決まっておろう!」
春蘭の叫びが引き金になったか、大きく見開かれる季衣の目。
「ん! んんふんん!?」
その声にやっと華琳が離れる。キスの名残に輝く唾液の橋をつくりながら。
「え? ええっ? 華琳さま?」
「おはよう、季衣。気分はどう?」
「にゃ~~~~~~~~~~~~゛!!!」
季衣の叫びが病室を震わした。
「ふふ、次は流琉ね」
ぺろりと舌なめずりする華琳であったが。
「も~、季衣うるさいよぅ」
「お、流琉も起きよったな」
チッと舌打ちした人物は。
「残念ね」
本当に残念そうだった。
scene-食堂
目覚めた季衣はいつも以上に凄まじい食欲を見せ、風呂に入り着替えをすませた猪々子とともに料理を殲滅していく。
「季衣、まずは華琳さまにお話してから」
「でも、なんかスッゴイおなか空いてて……」
「いいわ。まずは食べなさい」
「!」
華琳の言葉に真っ赤になって動きを止める。
「どうしたきょっちー?」
「なに、先ほどの華琳さまの燃える口づけを思い出したのだろう」
「!!」
さらに耳まで。いや、全身真っ赤になる。風呂上りの麗羽たちを上回るほどだ。
「華琳さん、私の目が離れた隙におチビさんを毒牙にかけるなんて、あいかわらずですのね?」
「あれは、治療よ!」
麗羽の嫌味に抗議した桂花の叫びに再起動する季衣。
「そ、そうか、治療だったんだ……」
しかし華琳が楽しそうに告げる。
「あら、治療は口実よ。季衣と流琉の寝顔があまりに可愛かったものだから。一刀が戻ってくるまでは我慢するつもりだっけれど、つい、ね」
「!!」
再び動きを止める季衣。今度は流琉も同じく赤く染まった。
scene-玉座の間
食事が済むと疲れが出たのか猪々子が眠り始めたため、麗羽たちは別室で休息をとることになった。
その後、主だった将軍、軍師の前で季衣たちは報告をする。
「詳しい話を聞かせてもらえるかしら?」
「ひゃっ、ひゃい!」
季衣も流琉もいまだに真っ赤なままだった。
「落ち着きなさい。あなた達が可愛いのは確かだけれど、無理やりあんなことはしないから」
「はい……」
その後。
時折涙しながらも、包み隠さず自分達の身におきた事、別の外史での経験を話した季衣と流琉。
「そう、そんなことがあったの」
「ボクたちが起きなかったのは魂が別の外史にいってたからだと思います」
「華佗にはそれで説明できるかしらね?」
華佗は二人が起きてすぐ別の病人の治療へ向かっていた。
ちなみに華佗の治療方の一つに覇王の口づけが追加されたかどうかは定かではない。
「どう思う?」
「夢を見ていたのではないでしょうか?」
「しかし二人揃って同じ夢というのもおかしな話ですよ~」
軍師たちの疑問に頷きながら。
「なにか証明できるかしら?」
「う~~ん。……そうだ流琉、あれつくってよ、プリン」
「いいけれど、器がないから」
「あっ、そうか」
「う~~~~~ん」
悩み続ける季衣に解決策を与えたのは春蘭であった。
「季衣、修行して強くなったと言ったな」
「はい!」
「ならば答えは一つだ。私と勝負してその武を華琳さまに示せ!」
「さっすが春蘭さまです! ボクそんなこと思いつきませんでした!」
キラキラと輝く尊敬の眼差しをむける季衣。それに気をよくして。
「そうだろうそうだろう! ……華琳さま、それでよろしいでしょうか?」
「いいわ。さっそく手合わせを見物させてもらいましょう。流琉、あなたはそのプリンとやらをつくりなさい。器がなくとも食べられるのでしょう?」
「わかりました。やってみます」
scene-城庭
「いっきますよ~!」
「こいっ!」
訓練用の武器を手に相対する二人。
……棘が丸くなっているとはいえ、質量がほとんど変わっていない大鉄球に訓練用の意味があるのかは疑問であるが。
「ふぅ~~~~~~~~~~~~~~~~~」
長く、大きく息を吐く季衣。
「む?」
すぐさま攻撃してくると思っていた春蘭はそのまま構えたまま。
「すぅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」
今度は大きく、そしてまた長く息を吸う季衣。
「……」
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」
無言のまま待つ春蘭。さらに長く呼吸をする季衣。
「ふむ。凪?」
側で観戦していた凪に問う華琳。
「はい。許緒将軍は氣を練っています。ここまでビリビリくるほどとても強い氣です」
「お~い、こないならこっちからいくぞ~!」
いい加減焦れた春蘭がついに動いた。それに季衣が答える。
「お待たせしました~!」
「おお! ならば!」
「今度こそホントにいきます!」
頭の上でビュンビュンと大きく鉄球を回し始める。
「でりゃぁぁぁぁぁ!」
季衣の一撃目をかわして突撃する春蘭。
「様子見のつもりだろうが不用意に攻撃しすぎだ! それで強くなったとよくも言った!」
鉄球を放ったままの姿勢で動かない季衣に苛立ちながらも一撃を与えるはずだったが。
「姉者! 後ろだ!」
ギィィィィィィィィィィィィィン!
金属のぶつかりあう音と、凄まじい火花が発生した。
「なんだと!」
秋蘭の声と背後から感じた殺気に咄嗟に振り向き、大剣で迫りくる鉄球を受けた春蘭。だが、まだそれが信じられない。
「なんという速さだ」
季衣の初撃よりも自分は早く動いた。鉄球を引き戻す速度がこれほど高速だとは。そして何より、季衣は鉄球を引き戻してなどいない。春蘭の疑問は華琳の声によって遮られた。
「そこまで」
「まだ勝負がついておりません!」
「充分よ。春蘭も季衣の修行の成果は確認したでしょう? それに」
華琳の視線の先には青い顔をした季衣。汗の量も異常だ。
「だ、大丈夫か季衣? 七日も寝ていて身体が鈍ったのか?」
駆け寄った春蘭。
「え、えへへ。鍛えたのは魂だけで、この身体はまだ鍛錬が足りないの忘れてました……」
「姉者すまん。無粋な真似をした」
先ほどの注意を詫びる秋蘭。
「いやいい。それよりいったいどうなっている。気づいた時には鉄球が迫っていた」
「姉者からは見えなかったようだが、鉄球から火、いや光が噴出しそれが鉄球を押して速度を上げていたようだ」
「光?」
「氣。そうよね? 季衣」
華琳も近づいて季衣の顔色を確認しながら問う。
「はい。凪ちゃんの気弾みたいなのです」
「あのような使い方は初めて見ました」
凪は鉄球の方を眺めながら。
scene-厨房
季衣の回復を待ってから厨房へ行くと。流琉が蒸篭から器を出しているところだった。
「ちょうど蒸しあがったところです。ホントは冷ますんですけれどどうします?」
「ボク食べたい」
「そうね。あなた達の話の真偽を早く決めるためにも食べましょう」
華琳の言葉で、皆にプリンと匙が渡される。
「まだ熱いですから注意して下さいね」
「流琉、この茶碗蒸し、具が入ってないぞ?」
春蘭の言葉に匙で奥まで調べる者もいたが。
「そういうものなんですよ、春蘭さま~。ほら、美味しいですよ~」
ぱくっと季衣が食べるのを見て春蘭も。
「ふむ。甘いな……たしかに美味い」
それを聞いて皆が食べ始める。
「美味い! ……けど酒の肴には合わんかもなぁ」
「美味しいの! これならタライ一杯くらい余裕なの!」
「後で作り方を教えてくれ、流琉」
「おおっ。これはなかなかなのです」
評判も上場のようだ。
「このなめらかさは、蒸し加減がちょうどいいからね?」
華琳がゆっくり味わい、材料、調理法を見抜きながら流琉に確認する。
「はい。その辺りも茶碗蒸しと同じです」
「器の仕掛けというのは?」
「これを皿に形よく盛り付けるためのものです」
「そんならウチにまかしとき!」
仕掛けと聞いて真桜がすぐに反応した。
「華琳さま、ボクたちの話、信じてもらえましたか?」
華琳が匙を置くのを待ってから季衣が聞く。
「季衣、流琉。あなた達があのような嘘をつくなどとは初めから思っていないわ」
「それじゃ」
「ええ。信じてるわ」
そう言った後、流琉が淹れた茶を受け取る華琳。
「けれど」
「にゃ?」
皆の注目の中、華琳は聞いた。
「あなた達はどうしたいの? いえ、どうして欲しいの?」
<あとがき>
お待ちの方がどれだけいるかわかりませんが、お待たせしました。
対姫†無双の続きです。
茶碗蒸しってあったのかな?
と悩みつつ書きました。なかったらごめんなさい。
ちなみに温かいプリンも美味しいです。
失敗してすが入ったプリンもそれはそれで好きなこひでした。
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対姫†無双の続編です。
タイトルの『追』は『つい』です。