恭治は待ち合わせの時間丁度に、川べりの公園まで歩いてきた。風の音が桜並木を揺らめかせていた。春めいた晴天、温暖なこの日は人々が花見人見とばかりに集まり
美春は桜の木陰の椅子で
「美春、こっち」
「あ、恭治くん! ごめんなさい、それじゃ」
そうして二人は手を
「気にしなくてええんやけど」
「いや、恰好悪いし」
「……まぁお好きにどうぞ」
続けるのはお互いの為にならない。恭治は立ち上がって、昼ご飯にしようと告げた。二人が行くのはこの近くの、風情も何もないファミリーレストランである。新春のなんたらかんたらと新メニューの宣伝をやっているのを聞いて二人は特にこだわりも無くここを選んだ。二人にとってそういう季節限定ものとはそれほど意味をなさない。二人の関係とはつまるところそういう具合なのである。一瞬一瞬、一日一日の楽しみの内として選ばれたそういう特別な料理に、二人は毎日食べている朝夕の食事と何ら変わらぬ幸せを感じた。
「これ美味しい。油っ気がしつこくない」
「うんうん、それに盛り付けすっごい綺麗」
舌鼓を打つだけ打って、二人は愉しい時間を過ごす。料理が尽きれば飲み物を継ぎ足しつつ他愛も無いお喋りを暫く続け、それも付きてなお、恭治は美春を眺めているし美春はそういう恭治の視線をよくよく感じている。喜ばしい、と彼女は内心で思う。
午後の時間は散策と称して街並みを訳も無く歩いてゆく。お互いの手と云う枷を振り回して歩くことの愉しみに二人は浸りながら、百貨店に乗り込んで服屋を眺め歩く。女のお洒落に掛ける情動の程を知らぬでもない恭治は、楽しげにはしゃぎながら並べられている服と取っては、何度となく繰り返される「これ似合う?」の言葉に付き合う。
「これ似合うかな?」
「花柄が綺麗なな。薄ピンクが映えるだろな。買うん?」
「やだ~、予算が苦しいわ」
結局、一着だけ恭治が買ってやった。こういうのも良かろうと彼は自分の幸福が末永いことを信じられた。服屋が済めば本屋にでも足を運び、それから再び街に繰り出して街中を歩き回った。こんな直ぐ帰る訳でもないのに荷物を増やすことさえ二人には重荷とは思われなかった。街を歩き、行き交う人々と擦れ違い、その最中で二人は他愛も無いお喋りを繰り広げる。益体も無い日常の
小腹の空く時間帯になった。二人は商店街を抜けて神社の石段前に居た。石造りの鳥居が歳月の
「どしたの?」
「いや。……」
今年、今日来れて良かった。恭治は花弁を、手放す様に静かに落とした。くるくると落ちて行くそれを彼は見なかった。二人は
「見て、めっちゃ綺麗!」
街を見下ろす高い景色。その視界の端をやはり花弁が舞い落ちていた。
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約二〇〇〇字。二〇一六年四月二日完成、最終更新二〇二三年十月十七日