No.1130172

顔合わせは悲鳴センのおかげで

融志舫清さん

「顔合わせは姫セ〇」でという某サファリ&遊園地のCМのオマージュです。約3700文字 7分です。

夏休みに関西の兄一家とともにサファリ&遊園地に来たキメツ学園・悲鳴嶼先生は、それぞれの両親を連れたとあるカップルを目撃して……。

2023.11.08 本文全面的に見直し訂正しました。

2023-09-26 17:08:09 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:213   閲覧ユーザー数:213

 キメツ学園教師・悲鳴嶼行冥が、関西在住の兄家族とともに関西にある某サファリパーク&遊園地に誘われたのは、夏休みの少し前だった。悲鳴嶼になついている兄の子が「行冥のおっちゃんも誘って。」と両親にねだったのだった。

 

 悲鳴嶼は「おっちゃん」呼びは気になりつつも、子どもになつかれるのは嬉しかったし、関西に行くのは嫌ではなかった。むしろ、兄家族に久々に会いたかったし、自分と誕生日が同じ甥っ子が大好きだった。

 

 だが当日、遊園地でのアトラクションを堪能し、サファリパーク入場後、兄の社用スマホが鳴った。ほどなく兄嫁のほうのスマホも鳴った。

「悪いね行冥。社内で緊急事態だ。どうしてもいかなくてはいけない。」

「ごめんなさい。父が転んで病院に行ったんですって!」

 

 悲鳴嶼は入場そうそう兄の子と二人になった。

 

 「二人でも楽しもう……。お母さんによるとお祖父さんは大事無いそうだ。まあ、帰るのももったいないしな。」

 「うん。」

 

 そう話して、二人はサファリバスに乗り込んだ。悲鳴嶼の甥っ子は10歳。窓にべったりはりつき、まだかまだかと言いたげにしている。鬱蒼とした木々。風はなく、ぎらつく日差しを浴びた草むらの広がる大地。現地のサバンナそのものに見えた。その向こうにいるだろうリアルな猛獣たち。ワクワクする!

 

 その数日前。

 甘露寺蜜璃は、交際中のキメツ学園教師・伊黒小芭内に連絡する。

 

「本当にごめんなさい!伊黒さん。単身赴任中の父の希望を聞いてもらって!」

「いいんだ。関西はどうだい?『顔合わせは、姫セ〇で』のCM (関西地方で流れてるCM)を観たよ……。君のお父さんがまさかそれを選ぶとは、まったくもって斬新だよ。」

 

 伊黒は思った。これは花婿候補への試練ではないのか……!サファリパーク&遊園地という通常では考えられないシチュエーション。

まさかのCM通りの展開……!絶対、父上は婿として大丈夫かを試している!

 

 受けてたちますとも!

 

 伊黒は決意した。両親と連れ立っての関西行き。説得しようと思ったが両親はあっさり快諾してくれた。

「いいよ、それに家族で一緒に有馬温泉に行ってみたかったし。」

「なかなか関西まで行くことなかったから。」

 

 問題は鏑丸。置いていかねばなるまい。幸い、仲の良い同僚教師・不死川が鏑丸を預かってくれるという。

 

 「鏑丸、しばしの別れだ……。」鏑丸は、不死川の弟の玄弥のふところで借りてきた猫のように静かになった。

 「おー、伊黒!頑張ってこいよォ!」満面の笑みで見送る友。

 「……。不死川!」伊黒はキッと睨む。

 

 かくして、伊黒家3名と甘露寺家3名は無事に合流し、サファリバスに乗り込んだ。

 

 

 (あ、あのピンクと薄緑の髪の女性は!卒業生、甘露寺!そしてその横は伊黒じゃないか!)

 

 バスの奥座席にいた悲鳴嶼行冥は仰天した。二人とも一見したところ、両親を連れている。確か甘露寺はおそらく社会人になってるくらいの年齢……。これはCM通りの……いわゆる「顔合わせ」か!

 

 慌てて帽子を深く被り、顔を隠す。兄が貸してくれたサングラスもかける。

 「おっちゃん、どーしたん?」甥っ子が行冥に尋ねる。

 「いや、ちょっと日差しがきついかなと思って……。」苦し紛れの言い訳が通用するほど、この日の日差しは暑かった。

 ほどなく座席数よりも若干少なめの乗客を乗せて、サファリバスは出発した。最初に草むらからチーターがグルルと喉を鳴らしてちらっと姿を見せる。

 「わあ、見えた。おっちゃん!」

 

 悲鳴嶋にとって幸いなことに、伊黒と甘露寺は、他の乗客のことなど全く視界に入っていなかった。

 

 この「顔合わせ」という状況を乗り切りたい……そのことで必死。一方、お互いの両親は両親で、顔を見合わせて当たり障りのない会話をしていた。

 もう、お父さんさえ、こんなこと言い出さなければ!と甘露寺蜜璃は思う。だけど、そんなお父さんの破天荒な願いを聞いてくれる伊黒さん……。

 

 「伊黒さん、ありがとう。お父さんの無茶ぶりをきいてくれて。」伊黒に向かって甘露寺蜜璃は口にする。伊黒が持っている日傘は紫外線を100%完全に遮断する。この日のために用意した。

 

 「いいんだ。君のお父さんの願いなら。」

 

 見つめあう二人……。

 

 その時、歴史でなく事態が動いた!

 

 運転席のすぐ後ろで静かに座っていた人物が、目出し帽姿で何の予備動作もなく運転手の頭に銃口を向けた。

 

「……!何をするんですか?」運転手がうろたえる。

「おっと、非常ボタンを押すなよ。押したとたんに弾が脳天を貫くぜ。」

 

 運転手の声を聞き、悲鳴嶼行冥は後部座席で、伊黒小芭内はバスの真ん中で運転席を見る。

 

 バスジャックだ!

 

「全員、スマホを出せ!下手なことをすると運転手の命はない。」バスジャック犯が乗客に向かって言い放つ。

 

「きゃ、きゃああ!!」運転手の銃口に気づいた母親たちが叫び声をあげる。父親たちは声を出せずにいる。伊黒は甘露寺蜜璃の肩を抱きしめ、悲鳴嶼行冥は甥っ子の手をにぎった。

 

 全員、スマホを差し出す。悲鳴嶼たちと伊黒家、甘露寺家、あと友人同士らしき壮年女性2人というのが乗客全員である。

「大丈夫だ。甘露寺。」

 

「しゃべるな!声を出すな!」バスジャック犯が叫ぶ。

 

こんな、走行距離の短いサファリ内でバスジャックなんて……!悲鳴嶼はいぶかしむ。それは伊黒も同じだった。

 

「誰か一人ここで降りろ。」バスジャック犯は乗客に命じた。運転手の頭に向けている銃口はそのままで。しかし、外には猛獣がいるのだ。

 

「な、何の意味があるのですか?」伊黒の父が意を決してバスジャック犯に聞く。

 

「意味なんか……、ああ、そうだな教えてやろう。俺はここで死ぬつもりだ。だが、自分だけ苦しいのは嫌だ……。最後に、猛獣と戦って人がおびえるのが見たいんだ。」

 

 バスジャック犯は、無敵の人だった……。乗客ほとんどが絶望する。

 

 その時、悲鳴嶼行冥が一人すくっと立ち上がり、手を挙げる。

 伊黒は、立ち上がった人物が勤務先先輩の悲鳴嶼だと気づいた。

 

 まさかの悲鳴嶼先生ー!!

 

「よし、お前だな。出ろ。」バスジャック犯が促す。

 

「おっちゃん!」悲鳴嶼の甥っ子が泣きそうになる。

「大丈夫だ。あのカップルの男性は私の同僚だ。何かあったら頼るんだよ。」悲鳴嶼は小声で甥に伝える。

 

 悲鳴嶼行冥は外に出た。サファリの草むらに雄ライオンが寝そべっていた。

 

 (これは、猫だ。)

 

 悲鳴嶼行冥は、そう自分に言い聞かせた。決して猛獣ではない!そして南無阿弥陀仏とかすかな声で唱える。

 

 雄ライオンは、行冥の姿を見て驚いた。(飼育員ではない、餌も持っていない。近づいてみよう……。)

 

 しかし、近づくにつれて、雄ライオンは、悲鳴嶼行冥の醸し出す最強オーラに圧倒される。

 

 次の瞬間、バスジャック犯含むサファリバス乗客全員、驚愕の事実を目の当たりにすることになる!

 

 雄ライオンが、悲鳴嶼行冥にお手をしたのだ!

 

 「よし、それでいい……。」悲鳴嶼行冥は安堵した。

 

 その隙に運転手は非常ボタンを押す。気づいたバスジャック犯は半狂乱になった。

 「何しやがる!誰か死んでもいいのか?」

 

 その時、曲がりくねった伊黒の日傘が犯人の銃を直撃した。銃が飛び跳ねると、鞄から出てきた白蛇がパクっと口でくわえる。

「鏑丸!」

 

 不死川に預かってもらってたはずの鏑丸は、1日も持たずに元気がなくなってしまっていた。困った不死川は伊黒に連絡した。

「どうする?伊黒ォ?」

「鏑丸、ついてきたいのか?」と不死川家に着いた伊黒が訊ねると、うなずく鏑丸。

 

 かくして、鏑丸は伊黒の大きめの鞄に隠れてきていた。もちろん伊黒家両親と甘露時蜜璃は知っていたが、甘露時家両親には内緒だった。

 

 気づくとバスジャック犯は、伊黒そして運転手に取り押さえられていた。施設警備員や警察が来て、一時、騒然となる。

 

 聴取の際、警察官はぶっとんだ声をあげた。

 「えっ!ライオンがこの人にお手をしたのですか!」

 

 「おっちゃん!すごいね!ライオンがお手をするんや!」悲鳴嶼の甥は、目をキラキラとさせておじを仰ぎ見た。

 「そうかな?絶対に絶対に真似したら駄目だよ。」サングラスと帽子姿で悲鳴嶼は頭をかく。

 

 後で伊黒に連絡したのは言うまでもない。お互いの正体が判明するとややこしいため、顔合わせや甥と来たことは、お互いだけの秘密にした。

 

 「伊黒さん、ありがとう!大丈夫よ、鏑丸くんの件はバレてないわ!一瞬の出来事だったから。」甘露寺蜜璃は伊黒の手を取り、こそっと打ち明ける。

 「良かった……。それにみんな無事で。せっかくのサファリだったんだけど。(あのゴミカスのせいで……!)」伊黒は安堵するも顔合わせがこのようなことになり、声を落とした。

 

 甘露寺蜜璃の父は、目を潤ませて伊黒に声をかけた。

 

 これ、そのタイミングで言うんですか、とまわりの誰もが目を丸くした。

 

「娘を、よろしく。」

 

 

 


 
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