(番外壱参)
それは江東では珍しいことだった。
雪が天よりゆっくりと風に流れるようにして大地を白く染めいく。
「やけに冷えると思ったら雪か」
大きくなっているお腹に手を当てて、自分に寄り添うようにして眠っている蓮華の髪を指で絡めては解いてくことを繰り返しながら一刀つぶやいた。
「蓮華、蓮華」
優しい声で眠っている蓮華を起こそうとするが一刀は途中でやめた。
薄明かりの中で蓮華が幸せそうな寝顔を見せていたからだった。
「どんな夢を見ているんだろうな」
そこには自分がいるのだろうか。
もしそのことを蓮華に聞けばこう答えるはずだった。
「一刀と一緒にいる夢を見るのは当たり前よ」
頬を紅く染めながら言う蓮華に一刀は素直に喜ぶことが出来る。
だから無理をして起こすのも無粋だと思った。
「こうして誰かといるってこんなにも温かいものなんだな」
自分ひとりだけの温もりではなく、蓮華を含めた三人分の温もりを感じていた。
もう少しで蓮華にとって第二子が誕生する。
王として無理をさせないように一刀は出来るだけ自分で処理できる案件はすべて片付け、何か問題が起これば彼よりも優秀な者達と協力し合っていた。
「かず……と……」
優しく甘えるように愛する夫の名を呼び蓮華。
それに応えるように一刀はそっと彼女の手の上に自分の手を重ねた。
「蓮華、俺はここにいるよ」
「だいすきよ……かずと……」
「俺も大好きだよ」
それが聞こえたのか蓮華は微笑んでいく。
王としての蓮華ではなく一人の愛する蓮華がそこにいた。
「楽しみだな。娘だったら蓮華に似てきっと美人になるよ」
もし男でも蓮華ように強く凛々しく育ってくれる。
自分に似てしまっては二代続けて種馬だと言われるのは不憫でならなかったので、できれば蓮華に似て欲しいと思っていた。
「かずと……」
「うん?」
「どこにもいかないで…………。ずっとそばにいて…………」
抱きしめた時の温もりや感触。
それは決して一人では味わえない幸福なものであり、一度知ってしまえば無意識でもそれを求めてしまう。
もし一刀がいなくなれば蓮華はもう二度とそれを感じることはできなくなる。
それは一刀とて同じ事だった。
「俺はここにいる。蓮華の傍にずっといるよ」
いずれ訪れる死が彼らを引き裂こうともその心までは引き裂く事は出来ない。
そして一刀が天に還るようなことがあってもその想いは消えることはない。
ただ温もりだけが消えてしまうだけ。
「蓮華、大好きだよ」
眠る愛妻に一刀は口付けをする。
「私も大好きよ、一刀」
「れ、蓮華!?」
よく見ると蓮華は瞼を開けて、優しい瞳で一刀を見ていた。
「だからどこにも行かないで。行ってはダメよ」
「わかっているよ。俺はここにいる。ここ以外に行く所なんてどこにもないよ」
帰る場所はもうここなんだ。
雪蓮がいて、蓮華がいて、数多くの愛する人がいる。
天の御遣いの役目が終わったとしてもここから離れたくない。
それが一刀の本心。
「よかった。一刀がどこにか行ってしまうのかと思ったわ」
「そんなことないさ。もうすぐ産まれるこの子を片親にはさせたくないよ」
「そうね。ところで一刀」
「なに?」
「どっちかしらね」
産まれてくる子は男なのか女なのか。
蓮華にとってそれはどちらでも良い事だった。
一刀の子を宿した幸せが彼女を包み込んでいたからだった。
「今それを思っていたんだ。でもどっちにしても蓮華に似ていると思うよ」
「一刀は似てないのがいいの?」
「仮に男だったら二代目種馬だなんて言われそうで可哀想だよ」
「そんなことないわよ。あ、でも、一刀の血を多く受け継いでいたらそうなるのかしら?」
「疑問系で言わないでくれよ。落ち込んでしまう」
苦笑する一刀に蓮華は空いている手をそっと伸ばして彼の髪に触れた。
「大丈夫。男だとしてもきっと一刀のように立派で誰からも愛されるわ」
「俺みたいに一夫多妻になるかもよ?」
「その時はその時であなたのお父様も同じだったのよって言ってあげるわ」
蓮華は一刀の頬に指を滑られていきながら楽しそうに言う。
一刀ももしそうなったら喜んでいいのかそうでないのか複雑な気持ちになるなと思った。
「でもこうして優しさを受け継いでくれるのは間違いないわ」
「そうだといいんだけどな」
「あら、自分の子を信じないと嫌われるわよ?」
「それは嫌だな」
二人はそう言って小さく笑いあう。
そして窓の外を見る。
「雪が降っているの?」
「ああ。だから寒いんだ。蓮華も寒くないか?」
「私は平気よ。だってあなたにこうして抱かれているから」
そう言って蓮華は一刀に密着していく。
一刀は彼女に負担をかけないようにそっと抱きしめる。
「明日は賑やかになりそうね」
「雪合戦なんかしたらそうなるな」
「一刀を賭けてまた戦うかもしれないわよ?」
「おいおい。あれはさすが勘弁してくれ」
以前のように母親対娘の戦いが起こるのはさすがに困ると一刀は困惑する。
蓮華は笑いを噛みしめながらこう言った。
「雪がやむ頃にはこの子も産まれるかしら?」
「そうだな。そうしたら蓮華と尚華と俺。それにこの子の四人で桃の花を見に行こうか」
「本当?」
「もちろんさ」
親子四人で桃の花を見られる喜び。
そう遠くはない現実に心から嬉しく思い、待ち遠しかった。
「ねぇ一刀」
「うん?」
「雪がとけたら何になるかわかる?」
「とけたら?そりゃあ水だろう?」
「違うわよ。雪がとければ……」
蓮華は一刀の耳元でこう言った。
『雪がとければ春になるのよ……』
『そうしたら親子四人で桃の花を見ましょう』
蓮華の言葉に一刀は頷き優しくも幸せな口付けを蓮華と交わした。
そして白き天の授かり物は大地を冬の色へ染めていっていた。
(座談)
水無月:雪を見たらこういうのを書きたくなりました。はい、ほとんど勢いです、ごめんなさい。(><;)
雪蓮 :でも三ページ目、どこかで聞いたことのある言葉ね?
水無月:あえて突っ込まないでください!
雪蓮 :はいはい。それにしても寒いわね。こういうときは熱いお酒で温まるのが一番ね♪
冥琳 :そうして呑みすぎて次の朝は起きてこないつもりかしら?
雪蓮 :そんな野暮なことはしないわよ♪ただ、ちょっと一刀を借りるだけだから♪
冥琳 :つまり一緒に寝過ごして私のお説教を受けると?
雪蓮 :仕方ないわね、エイ♪(酒瓶を冥琳の口に突っ込ませて一気に呑ませていく)
冥琳 :うぷっ……ううん……うん……うん……ぷはっ……。
雪蓮 :は~い、酔っ払い冥琳の出来上がり♪さあ、あっちに行きましょう♪
冥琳 :しぇれん……あなたという……ひくっ・・・・・・(ズルズルと引きずられていく)
水無月:え~いなくなってしまったので今日はこの辺で!皆さんも寒さに気をつけて年末年始を乗り越えてください。次回の更新はできれば二十日ぐらいに書けたらいいなあと思います。それではまた次回、お会いしましょう。
一刀 :ところで祭さんは冷酒と熱燗はどっちが好きなの?
祭 :酒ならどっちでも良いぞ。まぁ一刀が呑ませてくれるのであればな♪
一刀 :めちゃくちゃ酔いがまわりそうだね・・・・・・。
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雪が降っている映像を見てふと頭に思い浮かびました。
とりあえず今回は本当に思いつきなので生温かく見守ってください!
最後まで読んでいただければ幸いです♪
応援メッセージもなんとか出来る範囲でお礼の返事をさせていただいています。
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