ザザーン、ザザーン
青く美しい水平線をたたえた大海原、それに隣り合い広がる白い砂浜。
双子の兄ヒスイと逃れ逃れ.......それから幾年もの歳月が流れ齢17歳になり美しく成長したヒエンは、大海原のさざ波が押し寄せる白亜の波打ち際を歩んでいた。
絶え間なく降り注ぐ太陽の光の輝きは、彼女を照らし出す最高のスポットライトとなり、海の白浜の絶景と相まって、まるで天から舞い降りた天使を彷彿させるほどに、その美しさをより一層引き立たせていた。
ヒエンが海の彼方を見つめていると、突如その背後に黒い霧が立ち込め、その中からかつてヒスイの命を助けた死神が現れた。
「死神さん!」
ヒエンは人が見えないものを見る能力を有するため、その縁あってあの日以来たびたび友人として、死神は彼女に会いに来た。
「ずいぶん逃げ回って生まれ故郷から遠くにやってきたようだが、ここ一年ほど前からやっと身を寄せるところができてよかったじゃないか。」
死神はその漆黒の視線をヒエンに落とした。
ヒスイとヒエンは生を受けた村から離れ、ずいぶん長い時間逃亡生活をおくっていたが、一年ほど前この地方の有力貴族の保護を受け、現在はこの美しい海に面した貴族の大きな屋敷で暮らしていた。
ハイン・ティスコンチ
この地方に勢力を持つティスコンチ家の齢30前後の若き当主は、この双子の人並外れた能力の噂を聞きつけ、自身の権力固めに利用するため彼らを見つけ出し保護下に置いたのだった。
「兄貴の帰りをいつもこうやって、ここで待ち続けているんだな。」
ヒスイはハインから請け負ったある「任務」を遂行するため、朝から晩まで出ていくことが多かった。
そんな彼の帰りをヒエンはいつも、この海辺で待ち続けていた。
「うん、お兄ちゃんはお仕事だから、一緒にいられないのは仕方ないね。私もハイン様に任されたことは一生懸命やってる。だってハイン様は約束してくれたもの.......。」
ヒエンは主に鉱山資源や金脈発掘に能力を使い、ハインの権力固めに一役買っていた。それは兄と自分を保護下に置く条件として与えられた役割だった。何より彼女にはハインに、何が何でも守ってもらわなければならない約束があった。
「私が一生懸命役目を果たせば、お兄ちゃんを守ってくれますか?」
それがハインに対するヒエンの唯一の願いだった。いつも自分を守るために、傷つき苦心し続けた兄ヒスイを守るために。それにハインも快諾したため彼女はこの場所で、新しい人生を歩み始めたのだった。
「いいねぇ、毎日こうやって、大好きな兄貴のことばかり考えられて。」
「.....死神さん昔言ってたもんね、私とお兄ちゃんは共にいられないって。」
幼い頃にはその言葉の意味も事情もよく分からなかったが、それがある日突然なんとなくわかり始めた。以前ヒスイと一緒に、他愛ない話をして歩いていた時のこと。
「ねえお兄ちゃん、ヒエンの髪の毛ずいぶん伸びたでしょう?ねえ、ヒエンのこと前よりもっと好きになった?」
「髪が短かろうと長かろうと、ヒエンはヒエンだろう?」
「でも以前、髪の長い女の人のこと見てたじゃない!」
「そ、そうだっけ.........?」
「そうだよ!!」
そんな時ヒエンがふと横を見ると、チャペルの中からウエディングドレスを着た美しい花嫁が姿を現した。その燦然と輝く花嫁に彼女の心は痛々しいほどに締め付けられた。
(私はお兄ちゃんと一緒に、こんな結婚式は挙げられないのね、だって実のお兄ちゃんだもんね。どんなに大好きで大切でも、結ばれることなんてないんだわ.........。)
突きつけられた現実はあまりにも残酷極まりない。だけれどもヒエンは、たとえ結ばれなくても生涯ずっと、兄を愛し続けることを心に誓っていた。だからこそ胸をすまし一点の曇りなき強い決意を、どうどうと死神に宣言した。
「私決めたの、以前死神さんが言ったようにずっとお兄ちゃんと一緒になれない、そんな運命が待ち受けているとしても、たとえ神様が許してくれなくても、私は絶対にお兄ちゃんを放しはしない、お兄ちゃんを愛することを絶対に諦めない!!」
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双子の兄妹ヒエンとヒスイは生まれながらにして、人並外れた特殊な能力を有していたため、故郷の人々から忌み嫌われ命の危険にさらされていた。 ある日妹のヒエンを守るため、故郷の人々から放たれた憎しみの矢がヒスイの胸に突き刺さり生死の境をさまようことになる。 そんなとき死神が現れて、兄を必死に助けたいと願うヒエンに、死神が彼女につきつけた条件とは? 双子の兄であるがゆえにどんなに愛しても、愛するほどに拒まれて、求めるほどに遠くなっていく。それでもヒエンは双子の兄ヒスイを、何が何でも愛することも、抱きしめ続けることも決してあきらめない。 数奇な双子の切ないラブストーリー。運命の輪の終着駅は何処に!?