No.1121202

おい森短編 「母よりレター9」

DS版のおい森にて、たまに送られてくる母よりレター、それをテーマにした短編です。基本的に一話完結なので、番号に関しては特に関係ありません。

2011年9月27日 16:06にPixivで投稿したものをこちらにも再掲。

2023-05-19 14:18:51 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:211   閲覧ユーザー数:211

 >Foretへ。

 >拾いたて、秋のジュエリー、届けます。

 >秋が来たわね。母より。

 

 ころん。と、手紙とともに封筒から滑り落ちてきたのは、小さなドングリだった。

 そうか、もうそんな時期に入ったのか。

 窓の外を見ると、確かに木々の葉は赤く染まり、その落ち葉で地面も同じように染められている。

 ついこの間まで、徐々に夏の新緑が深緑へと変わり、それも段々と秋の景色へと移り変わっていく過程の真っただ中にあったはずなのに。

 いつの間に、村は秋の色一色になったのだろう。

 季節の変わり目というのは、もしかしたら不思議な力が働くのかもしれない。

 そんな一年に一度しか巡ってこないその風景を、ただ、部屋の中で眺めているのはもったいない。

 念のため、薄手の上着を一枚羽織り、フォレは秋の村に出かけることにした。

 

 秋の村には、それまでいなかった虫や魚があちこちで活動していた。

 まず、家を出てすぐに目の前を横切ったオオカバマダラ――全体的に橙色をした蝶だ。

 それからしばらくしない内に、地面を飛び回るショウリョウバッタや鈴虫。川には鮭と思われる魚影がいくつか確認できた。

 それまでいたアブラゼミやツクツクホウシの姿はどこにもない。来年の夏を迎えればまた変わらず姿を現してくれるのだろうが、最近までいた存在が急にいなくなるというのは、なんとも寂しい。

 感慨にふけっていたからか、つい足元にまで気が回らず、そこに生えていた木の根に思いっきりつまずいてすっころんだ。

 「うぎゃっ! ……いたたたた」

 思いっきり地面にぶつかった両ひざがじんじんと痛むが、それ以外には特に痛むところもなく、擦り傷かすり傷一つ負わなかったのだから、まあよかったとしよう。

 痛みを一瞬でも紛らわそうと、ひざを手のひらで擦っていると、不意に頭上から何かがいくつも落っこちてきた。

 「ちょ、ちょ、い、いた?! な、なにこれ?」

 体のあちこちに落下した後、バウンドして地面に落ちたそれらを拾い上げてみると、それは――ドングリだった。

 なぜ頭上から? と思い、その場で上を見上げてみると、そこにはまだ黄緑色をしているものからはじまって、大きなドングリ、丸いドングリ、中には既に中身を食われた虫食いドングリまで、木の枝にぶら下がっていた。

 「そっか、そろそろドングリ祭りの時期だよね…」

 ドングリ祭りとは、秋のこの時期、短い期間の間、村中に散らばったドングリを、役場の前で待機している、どこかで見たようなある人に似ているドン・ドングリさんに渡すお祭りだ。

 渡した数の総合計数に応じて、キノコシリーズの家具をくれるのだが、虫食いドングリを渡すと、それまで渡してきたドングリの数をリセットして、いままで集めてきたその努力をパアにされてしまう。同じドングリなんだから、虫食いだってカウントしてくれてもいいような気がするのだが、そこはまあ、本人のこだわりなのだろう。

 子供の頃は、なんだかんだで今でも一緒にいる同居人のアニーと一緒に、持ちきれないほどたくさんのドングリを拾ってきて、丸いものはコマにして遊んだり、糸を通して髪飾りなどのアクセサリーを作ったな、なんてほろ苦くて甘い、そんな昔の懐かしい記憶がよみがえる。

 (…たまには、童心に返るのも悪くないか)

 先ほどの一斉落下で落ちてきたドングリたちを、フォレは一つ一つ、拾っていくことにした。

 

 そんなに気温は下がらないだろうと、長時間、薄着のまま外に出て釣りをしていたら、完全に体が冷え切ってしまった。

 これ以上は寒さに耐えきれないと判断して、急いで家に戻る。

 「うひー、寒い! ただいまー!」

 たまらず遠慮なくバーンと飛び込んだ我が家は、外違って暖かく、体にまとわりついた寒気を落とすように腕をさすりながら、部屋の中を進軍していく。

 「おかえりアニー」

 カントリーシリーズの家具に囲まれた一角にあるキッチンスペースから、自分にとっては馴染の、この家では同居人というべきか、フォレがひょこっと顔を出す。

 そこでようやく寒さで鈍感になっていた五感が急にフル回転し、それも特に嗅覚がいつもと違う部屋の匂いを感知した。

 「なに焼いてるんだ? この匂い」

 苦笑したような声が聞え、カシャンと何かと擦れ合った金属音がした後、カラカラカラと皿に硬質なものが落とされる音がし、それからフォレがにこにこしながらやってくる。

 アニーの嗅覚は、その手に持っているものに、引きつけられた。

 「フォ、フォレ? そ、そ、それは……」

 「? クッキーだよ。ドングリクッキー」

 そう言って、皿に乗っているそれを一つ摘まんでパクリ。

 「…うん、久々に作ってみたけど、上手くできたわ」

 ドングリを見てクッキーを作る気になったのは、ちょっとした思いつきとアイディアだったのだが、なかなかおいしくできたものだ。

 ただ、かなりの数を拾ってきたつもりでも、実際殻を剥いてみると、思ったほど身は大きくなく、鍋でアク取りをして、それを小麦粉などの材料と混ぜてオーブンで焼いて…という過程を通して出来上がったそれは、親指より少し小さな大きさのものだった。

 「フォ、フォレ、フォレ、フォレ」

 視線を手元のクッキーから前方に戻すと、言動と動きが妙におかしいアニーがいた。

 「どうしたの?」

 「そ、それ……とても…食べたいです」

 と、クッキーを指差すアニーの姿が、まるで、ご飯を前に待てをされて、必死に飛び掛かるのを抑えて、ご飯が貰えるのを今か今かと待ち構える犬に見えたので。

 「もー、そんなにそわそわしなくても、ちゃんとあげるわよ」

 ぱあああああああああっ。

 アニーの後方からまぶしいばかりの光と花が舞い踊り、目はらんらんと輝いて――気のせいだろうか、本来あるはずのないお尻の辺りに、犬の尻尾のようなものがブンブン嬉しそうに動いているのは。

 「いっただきー!」

 二三個一気に手につかんで、贅沢にもそれをまとめて口に放り込むアニー。

 「あっ、手はちゃんと洗ったの?」

 一瞬の間をおいて。

 「洗ってない!」

 と、元気よく、ついでにキリリとした表情で広言した。

 

 秋晴れの空が広がる、午後のこと。

 「バカー! 黴菌が入ったらどうするのー!」

 「大丈夫だ、問題ない!」

 「問題ないわけあるかー!」

 透き通った青空に、二人分の大声がきれいに響き渡っていた。


 
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