>Foretへ。
>ジリジリと、夏の日差しは熱視線。
>おハダが気になる、今日この頃。
>UVケアーって知ってる? 母。
朝早くに家を出て、花の水やりをしていたのだけれど、気がつけば太陽は最も高い位置にあって、つまりはもうお昼だった。
午前中に水やりを終わらせて、気温の上がるお昼の時間は家で新しいマイデザインのデザイン案を考えたり、読書したりということに時間をつかいたかったのだけれど。
最近始めた、交配花の成果が出てきて、沢山いろんな色の花ができたものだから、それらの手入れなどのお世話に追われていて、あっという間に時間が過ぎてしまったようだ。
時間が経つごとにじわじわ上がる気温や、遠慮なくジリジリと肌を焼く熱視線から逃げるように、近くに生えていた広葉樹の下に避難する。
「はぁ……」
木の幹に背中を預け、そのまま重力に従ってズルズルと座り込む。
ふと、自分の腕に目をやると、健康的な小麦色に皮膚の色が変わっていて。
服の袖を捲ってみると、半袖の服の下の皮膚と、露出していた部分のその色の違いは明らかだった。
(数時間でも、日焼けしちゃうんだ……)
木陰にいても襲ってくる熱波。気休めにしかすぎなくとも、被っていた麦わら帽子の鍔部分でパタパタ扇ぐ。
しばらくそうしていると、蜃気楼が揺らぐ視界の先、こちらに向かって全力でブンブンと手を振る誰かが目に入った。
このところ、縫いぐるみ作りや、パソコンでの仕事のせいか、大分視力が落ちてしまったらしい目では、どうにも遠くのものを凝視してもピントが合わず、ぼやけてしか映らない。
そろそろ眼鏡を買うべきだろうか。とは思っているのだが、なかなか実行に移せない自分がいる。
ある程度相手が近づいてきたところで、ようやく目のピントが合って誰なのか確認できた。アニーだ。それも真っ黒に日焼けしていて、一瞬誰なのか分からなかった、というのは本人には言わないでおこう。
「フォレ! 珍しいな、こんな暑い時間に外に出るなんて。なんか買い物とかあったのか?」
遠くからノンストップで走って来たのにもかかわらず、息切れ一つ起こしていない。
私の隣にどさっと音を立てて座りながら、右手に持っていた虫取り網を、無造作に地面に置いた。
「ううん、朝からお花にお水をあげていたんだけど、いつの間にかこんな時間になっちゃったから一休みしてるの」
「ふーん」
そういって、アニーは先ほど自分が通って来た道に視線を移す。
この村に来てから、フォレは花の世話を趣味としている。
花の交配を始めてからは、家の周りに花を植えることが難しいほど、毎日花が増えてしまい、ついには村のあちこちにある、空き地のところにに植えていくようになっていた。
おかげで毎日村を走り回るアニーや、散歩をする住人の目に映る景色には、花がない場所がない。
と、そこでフォレを見た。確か今日は朝早く一緒に出掛けて、こうして同じ時間まで外に出ていたのに、一つだけ不自然な点があったのだ。
「フォレって、俺と違ってあまり日焼けしてないな?」
自分はこれ以上ないくらいに真っ黒に日焼けしているというのに、フォレは朝見たときよりちょっと焼けたのかな? ぐらいにしか焼けていなかった。
「この前の月曜日、つねきちさんが来ていたでしょう? その時に買い物のおまけにってこれ貰ったの」
フォレはそう言って、ごそごそとポケットの中を探り、でてきた小さな白い小瓶のようなものをアニーに手渡した。
手渡された小さな白い小瓶。裏に貼られているラベルを見ると、パーフェクトUVケアー・これで日焼けとおさらばよっと書かれていた。
要は日焼け止めだ。
「日焼け止めか。でもフォレ、首の後ろの所、焼けてるぞ」
「え、うそ、ホントに?!」
慌てたように首の後ろを見ようと――実際は見ることはできないのだが――するフォレを見て、思わずアニーは笑ってしまった。
本人はわりと真剣だったらしく、若干涙交じりの瞳で、きっ、と睨まれたので、笑うのはやめたのだが、その際、ある提案を思いつく。
考えるのは得意ではない方なので、特にその意味を思案せず、思いついたままに言ってみる。
「そうだ、今度から俺が日焼け止め塗ってやるよ」
「え、ほんと?」
「おうっ」
「首の後ろに限らず背中から全身な!」
「……日中は出かけるのを控えることにするね」
はあ、とフォレは、諦めや呆れなどの感情の籠ったため息を一つ吐いて、木々の葉っぱから覗く青空を見上げた。
どうして私の同居人は、こんな感じなんだろう、と。
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DS版のおい森にて、たまに送られてくる母よりレター、それをテーマにした短編です。基本的に一話完結なので、番号に関しては特に関係ありません。
2011年9月22日 15:25にPixivで投稿したものをこちらにも再掲。