>Foretへ。
>鳥の声、コーヒーとパンのいい香り。
>父さんと二人、静かなMorning
>今日もいい天気。母より。
ピピピピピ…、ピピピピピ…。
朝六時、毎朝この時間にくすんだ黄色の目覚まし時計は、律儀に私を起こしてくれる。
頭上に配置したロイヤルなテーブル、その上に置かれた目覚まし時計に手を伸ばしてアラームをストップ。
名残惜しくも眠気という強力な誘惑から逃れるべく、ふかふかなロイヤルなベッドから軽く飛んで起きると、窓から差し込む光が、明るく部屋を照らしていた。
ググッと真上へと腕を伸ばし、そのまま背伸び。ついでに足もしっかり伸ばし、ロイヤルなドレッサーの前に座って、ぴょんぴょんあちこちに跳ねまくった髪の毛を整える。
それから今日は何を着ようかなと開いたロイヤルなクロゼット、真っ先に目に留まったのは、セーラー服だった。
……誤解なきよう。私は断じてそういう趣味はない。入れたのは十中八九同居人だろう。
とりあえずセーラー服に関しては見なかったことにし、カチャカチャとクローゼット内を捜索すると、ノルディックなドレスが出てきた。
この前、エイブルシスターズさんのお店で、一目惚れして買ったこの服。
着るなら晴れの日がいいと思っていて、ここ数日雨模様だったから、すっかり忘れていた。
さっそくその服を着て、なんとなくその場でくるっと、右足を軸に一回転。
ふわっと、自分の回るのに合わせて、ドレスの裾が宙を舞い踊る。
よし、今日はこの服で行こう。
服に合わせて鈴蘭の花を髪飾り代わりに挿して、自室を後にした。
トーストを二枚焼く間、先にベーコンを入れてから卵を二つ片手で器用に割って、フライパンに落として焼いていく。
カリカリに焼けたベーコンの油で、目玉焼きもいい感じにぷるぷるの半熟焼き加減になったところで火を止め、二人分のお皿を用意。
トーストが焼きあがったところで、マーガリンをたっぷり塗り、その上に先ほど焼いていたベーコンと目玉焼きを乗せる。
それをカントリーなテーブルに向い合せに並べてから、この前取ってきたオレンジで作ったマーマレードの入った瓶とたぬきちさんのお店で購入したティーセットを準備。
それから仕上げにとデザートに桃を切っていると、もそもそと同居人が起きてきた。
「おはよっ、アニー。ご飯できたから、顔洗ってちゃんと歯も磨いてきてね」
「……ん」
眠たげな顔をしながら、そのまま東に面した部屋のバスルーム件レストルームへと入っていったのを確認して、私は静かに苦笑しながら桃を切る作業を再開した。
「それじゃあ、いただきます!」
「ん、いただきます」
ベーコンと目玉焼きのトーストとマーマレードのトースト、それと桃のシンプルな朝食。
ゆっくり朝の空気を楽しみながら味わう食事は、都会の慌ただしい毎日ではなかなか味わえないものだ。
けれどこの村に来てからは、このまったりとしたスローライフと共に、こんな贅沢な日々を過ごせるようになった。
それもこれも、目の前でジッパーな服にパンくずを散らしながら、モグモグと幸せそうにベーコンと目玉焼きの乗ったトーストを食べているこいつのおかげである。
「…ねえ、アニー」
「んあ?」
切った桃を一つつまみながら、私は話を続けた。
「なんで私のクローゼットにセーラー服が入っていたのか、理由を聞かせてくれる?」
「ごほっ!」
喉にトーストが詰まったらしい。
慌てず騒がず、アップルティーをカップに注いでそっと差し出す。
勢いよくゴクゴクとそれを飲み干し、半分涙目になりながら、助かった…とアニーは呟いた。
「はい、喋れるね。質問の続き、答えをどうぞ」
「鬼か、お前は……」
そう言いながら、アニーは天井を仰ぎ見た。その目はどこか遠いところを見ているようで、どこかノスタルジックな感じがした。
「……久々に、あの頃の気分に戻ってみたかったんだ」
「あの頃って、都会にいた頃の?」
「そ。今の生活もいいけど、昔もそんなに悪くなかったって、少なくとも俺はそう思う。だから、その…昔に戻ることはできないけどさ、昔の気分くらいは感じることができるんじゃないかと思って入れてみた。……嫌だったか?」
小さく右に小首を傾げるアニー。昔からそう。誰かに意見を求めるときは、いつも無意識なのかそういう行動をするのだ。
「……バカ」
確かにあの頃から、私たちは声も姿も大分変わって、昔からあったものがいつの間にか手からさらさらとこぼれ落ちてしまっていっていたのかもしれない。
けれど変わらないものだって幾つかある。何が大切で、何がそうでないかを決めるのは個々それぞれの問題だ。
過去は変えられない。けれど過去の意味は変えられる。未来だって、望んで前に進めばきっと、そのようになっていく。
「…それで、ものは相談なんですが」
いきなり丁寧語になってどうしたのだろう。
それも真剣な顔をして言うので、どういうことかなと思い、訊き返す。
「内容にもよるけれど……なあに?」
「今日一日、セーラー服を着て下さい」
「…アニーが着てみるのはどうかな?」
「俺、そういう趣味はないので勘弁してください」
「だが断る」
「なん、だ…と」
朝を告げる鳥の声がした。
朝食の後片付けをきちんと済ませて外に出ると、とても気持ちがいい天気だ。今日一日天気が崩れることはないらしい。
さあ今日は何をしようか。花の世話、虫取り、魚釣り。やりたいことはたくさんある。
でもまずやりたいことがひとつある、それは――
くるっと室内を振り返り、笑みを浮かべて私は言った。
「さあ、アニー。男らしくセーラー服を着てみようかー?」
「セーラー服は男らしく着る服じゃないと思います!」
「問答無用よっ」
「あっー!!」
うん、今日もいい天気である。
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DS版のおい森にて、たまに送られてくる母よりレター、それをテーマにした短編です。基本的に一話完結なので、番号に関しては特に関係ありません。
2011年6月10日 00:25にPixivで投稿したものをこちらにも再掲。