第六章 機械人形
「……何でオレがそんなところに行かなきゃいけねぇんだ?」
とある喫茶店、リニアは歳が少し離れた青年と、対面して座っていた。
その青年は不機嫌な顔をしているリニアに向かって説明する。
「今回、俺に一人、学園へ推薦しろ、と上から頼まれたんだ……でも、なかなかいい奴がいなくてな。だから、お前を推薦しようと思ったんだ。お前なら、試験も大丈夫そうだしな」
「……オレの力を認めてんなら、そんな学園なんてめんどくせぇーとこじゃなくて、直接魔連に入れりゃーいいだろが」
リニアは青年を睨む、だが、そんな睨みも、青年は笑顔で返した。
「だからだ。お前には力がある。
だが、お前はまだ幼い。強すぎる力は誤ると凶器にしかならない・・・
だから、その力の使い方。そして、何のために使うのか。それを学園で学んでほしいんだよ」
青年は席から乗り出し、リニアの頭の上に手を置き「いいな?」と言うと乱暴に撫でた。
「ま、まあ、タク兄(にい)が、どうしても、って言うんなら行ってやらなくもねぇよ」
と、リニアは顔を少し紅くしながら、言った。
その姿に、タクマは「……ついでに、もう少し女らしい言葉を覚えような」と笑いながら付け足した。
それをリニアは「うっせぇ!」と返した。
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砂埃が引いていく。
そこから現れたのは、リリを庇うように立つ、リニアだった。
そのリニアは、右腕を突き出していた。
どうやらシールドの魔法で、ドラゴンの攻撃を防ごうとしたのだった。
だが、防きれなかった。
「……え?」
リリは目の前の光景を凝視した。
「……っ!……たくよぉ・・・世話掛けさせやが―――」
リニアは自嘲ぎみに笑みを浮かべて言った。
すると、力なく、リリのいる後ろに倒れた。
リリはそれを受け止めた。
「リニアさん! リニアさん! リニアさん!」
リリは必死にリニアに呼びかけた。
だが、反応が返ってこない。
「―――リニアさん! リニ……え?」
リリの目に驚愕のものが映った。
気付いたのは右腕。
リニアの腕は、大量の血が噴出し、力なく投げ出されていた。
だが、リリが驚いたのはそれではなかった。
それは、肘からむき出しの配線がはみ出ており、その配線は所々切れており、放電していた。
「リリ!」
サブの叫びにリリは我に返り、顔を上げると、目の前では、ドラゴンが火を吐き出す体制に入っていた。
そして、ドラゴンは炎弾を放った。
リリはもう駄目だ、とリニアを庇うように抱き寄せ、体丸くし身構えた。
その瞬間、リリの長い髪が大きく揺れた。
そして、目の前で爆音が轟く。
だが、痛みが体に伝わらない。
リリは恐る恐る顔を上げた。
そこにはリョウが立っていた。
「……リョウ君?」
リリは驚き、この言葉が出るのがやっとだった。
「……リョウ君……大丈夫なの?」
「なんとかな。サクヤさんに、これを教えてもらってなかったら危なかった」
リョウは苦笑いを浮かべながらリリに答えた。
ドラゴンは咆哮を上げると、リョウに向かって炎弾を放った。
それに合わせて、リョウは刀を上段から振り下ろした。
何もない空間を叩く。
すると炎弾は、リョウの前の壁に当り、爆発した。
鳳凰流奥義〝天風(あまかぜ)〟
風の流れを感じ、そこに衝撃をあたえ、風の波を作り、固めて壁にする技である。
これが、サクヤがシールドの使えないリョウに、教えた対応策だった。
「……まだ、未完成なんだけど、な」
その言葉に、リリはリョウの体に目を見ると、爆風によって、火傷を負っていた。
サブはもう動く体力はなさそうだ。
リリも同じ。
絶体絶命の状態、だが、リョウには打開策がある。
リョウの中に眠る、あの力を使えば倒せる。
だが、どれくらいの被害を出すか判らない。
すると、どこからともなく声が聞こえてきた。
そうだ小僧。使え。わしの力を……
(黙れ! 勝手に出てくるんじゃねぇ!)
リョウは中のものを怒鳴りつけた。
良いのか? みな死ぬぞ。
「……そうでもなさそうだぜ」
「戦火!」
掛け声とともに、森から炎を纏った火の鳥が飛び出した。
それは、ドラゴンに直撃し、ドラゴンは大きく傾いた。
リョウはその火の鳥が飛んできた方を向く。
「お前たち! 大丈夫か?」
そこには、二本の刀を持った女性がいた。
「サクヤさん!」
リリはうれしそうにサクヤに向かって、呼んだ。
ドラゴンはサクヤの攻撃で怯み、棒立ちになった。
そこへ髪の長い金髪のもう一人の女性が、ドラゴンに向かって、まっすぐ飛び込む。
「鬼帝!」
と掛け声とともに、女性はドラゴンに向けて突きのラッシュを浴びせる。
その回数は、一秒に数千発。
常人の目では、捉えることのできない速さだ。
ドラゴンは苦しそうに叫び、ゆっくり仰向けに倒れた。
そのまま、ドラゴンが動くことはなかった。
サブはその光景に、目を丸くして驚いた。
「……やったのか?」
「……そのようですね。立てますか?」
すると、金髪の女性は、サブに近づいてくると、手を差し出してきた。
「サンキュー。セリ姉(ねえ)」
サブは苦笑いを浮かべながら言うと、セリーヌの手をとり、立ち上がった。
「しかし……ボロボロだな。お前たち」
サクヤは一人一人確認しながら言うと、リョウに近づいてきた。
「……今回ばかりは、さすがに危なかった」
「当たり前だ! 馬鹿者!」
サクヤの怒号に、リョウは苦笑いを浮かべるしかなかった。
そんな、少し緩んだ空気は、リリの叫びによって消えた。
「サクヤさん! リニアさんが!」
リリはリニアを抱きしめ、サクヤに向かって叫ぶ。
その様子に驚き、みんなはリニアに視線を向けた。
リニアはリリの胸の中で、ぐったりしていた。
エピローグ
だんだん暑くなってきた。
この世界に夏が近づいてきたようだ。
今日の空も、青く、いい天気だ。
その中、リリは花を持って、一つの病室のドアをノックした。
「……どうぞ」
部屋から声が返ってくると、リリはドアを開けた。
ベッドの上にいる女の子は、リリを確認して「よっ」と右手を上げると、リリが抱えているものに気付き、呆れた表情になった。
「……って、花かよ。どうせなら、食いもん持って来い」
「ダメだよ。食事制限されてるんだから」
リリは扉を閉め、ベッドの近くの棚の上に花を置くと、近くにある花瓶を持つと、
「じゃあ、水入れてくるね」と言った。
「おう」
リニアは返事すると、病室から出るリリの背中を見追った。
リニアは窓の外に視線を移した。
あのあと、リョウたちは森の近くに止まっていた、魔連のヘリに乗り、すぐに町に戻った。
病院につくと、みんなは、各々処置を受けた。
その後、リニアは、魔連の技術開発チームによって腕を修理してもらい、今は、元通りになっている。
その時、立会いに来ていた、タクマという局員に、リニアの体について説明した。
リニアは昔〝空海〟の人体実験の被害者の一人であった。
その計画名は〝魔導(マジック)人形(ドール)〟
体を機械に変えることで魔力、運堂能力を比較的に向上した人のことである。
そのせいで、リニアの体は五〇~六〇%が、機械にされてしまった。
そして五年前、リニアと仲間たちは、研究所から逃げた。
で、逃げ切れた仲間の中で当時、みんなのリーダー的存在だったタクマは、魔連に駆け込み、仲間たちを保護してもらうように頼んだ。
だがその時、タクマだけが魔連に入るつもりだったが、他の仲間もタクマをほっとけず一緒に入ったのだった……
その話を、リニアは意識が戻ったときに、タクマから告げられた。
病室の外の方から聞きなれた声が聞こえた。
リニアは窓からドアの方へ視線を向けた。
ドアが急に開けられ、サブを先頭にリョウとジークが入ってきた。
サブは「よっ」と左手を上げた。
「元気してたか? リニア」
「なんだ、テメエらか。ちゃんと食いもん持ってきたんだろうな?」
「見舞いに来たダチに向かって、最初に出るセリフが、それかよ?」
「うっせぇ! 関係ねぇだろ」
リニアはサブを睨み付けた。
リョウはそんな姿に呆れながら、リニアの目の前にカゴを置いた。
「これだ。リリに頼まれた」
「あのやろう。直に言やぁいいのに……盛り合わせか。まあ、妥当だな」
リニアは恥ずかしかったのか、うれしそうなだったが、表には出さないようにしていた。
その姿に、サブはいたずらな笑みを浮かべた。
「文句あるなら食うな」
「テメエに言ってねぇだろ!」
リニアは飛び掛ろうとしたが、すぐに、ジークが止めに入った。
「やめなよ、二人とも、ここ病院だよ」
「あれ? みんなもう来たんだ」
後ろからリリが現れると、台の上に花瓶を置き、その中に花を差し込んだ。
「まったく。罰だがら、って、休みの日まで鍛練なんてやってられるか」
「しょうがないよ。サブたちは手続きなしに魔物退治に行ったんだから。僕なんか、完全にとばっちりだよ」
ジークは納得いかないという顔で言った。
リョウたちは、サクヤに勝手にミッションに行ったことがバレしぼられた。
そのとき、当分の間、罰として特別メニューをやらされることとなった。
だが、理不尽なサブは「おまえもやれ」と無理やりジークを巻き込んだのだった。
「くそ! 当分は地獄だぜ」
「ま、精々がんばれ」
「……テメエ。人ごとのように言いやがって……」
「頑丈なテメエを喜べよ」
リニアは嫌味っぽく笑うと、サブは「このヤロ!」と飛び掛かろうとしたが、ジークが取り押さえた。
あの戦闘で、リョウとサブは大怪我をしたが、一日入院することで、すぐに回復した。
不意に何かを思い出したのかサブが「そういえば」と訊いてきた。
「忘れてたけど、あのあと賞金ってどうなったんだ?」
「……ない」
リョウは答えると、勢いよくサブが聞き返した。
「ない?……えぇぇぇ! ない、って、どういうことだよ! ちゃんとドラゴン倒したろ!」
納得いかない様子で、サブが突っかかってきた。
その姿に、リニアがバツ悪そうに告げた。
「……わりぃ。あれ、オレの修理代で全部とんだ……」
驚愕の真実を聞かされ、サブはしばし固まった。
だが、次の瞬間、頭を抱えて悲痛の叫びをあげた。
「マジですかぁぁぁぁぁぁ!」
その叫びは病院中に響いた。
そんな中、空は今日も穏やかなのだった。
To be continued
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5の続きです。連続投降のルールに引っかかってしまい。時間が空いてしまいました。ごめんなさい。
これが、二巻の最後になります。戦闘シーンを表現のがとても大変でした(泣)まだまだ、精進しないといけません。
次は、少し空くと思いますので、次回も見てやってもいいと思うかたは、たまに覗いてみてください。