踏み込んだ俺に対して、悟鬼は金棒を真上から振り下ろす。それを左手の刺突剣で追撃されないよう、反対側へまわる。
すると、金棒は直角に曲がり、俺を追ってくるが追いつかれないように俺はそのまま悟鬼を中心に円を描くように駆ける。
【ぎ、ぎぃぎぃっ!】
止まればその隙に斬られるであろうことは悟鬼も重々承知。であるならば金棒で追い回すしかない。依代が壊れていなければまだ別の手もあったかもしれないが、現在の器としている魏延の体がそれに耐えられるわけもない。壊してしまえば勝つ方法は無くなる。
なれば、と容易には近づけさせぬとばかりに金棒を振り回す速度をどんどん上げていく。
「くっ!」
風切り音がやがて暴風の音へと変わり始めた時に俺は一度離脱する。俺が離れたとしてもあれほどの勢いが付いた金棒はそう易々と止まれない。
黒い旋風となった悟鬼。普通ならば目が回っていつかは止まるだろうが、勢いは止まらない。なおも加速を続けていく。
(おそらく)
そのあたりの対処はできるという事か。なんて思っていると、その勢いを乗せた金棒がこちらへ振るわれる。寸での所で避けられるが、地面が大きく陥没したせいでバランスを崩す。この一瞬を逃す悟鬼ではない。すかさず刺突剣で高速の6連突きを繰り出してくる。
両手で6撃同時に繰り出してそれを捌き、体勢を立て直す時間を稼いだところで腹を目掛け、刀を振るう。だが、それは切り裂くための一撃ではない。
【ぎっぃ!?】
絶妙な力加減で打ち据えた腹はくの字に曲がり、体全体が飛んでいく。すかさず一足で追いつき、狙いを定めて刀を振るう。
(狙うは……っ!)
振るわれる3撃の軌跡は両肩の鎖骨、そして金棒を握っている右腕の前腕部。的確に振るった刀は彼女の骨を綺麗に折ることに成功する。
【うぎぃっ!!!】
鎖骨が折れた場合、激痛で腕を動かすのが困難になる。そんな状態でさらに物を支える前腕の骨まで折れたらどうなるか。
地面に重々しい音が響く。金棒が落ちる音だ。それを確認した後で、悟鬼を蹴飛ばして金棒から少しでも離したあとで、十手を差して金棒を拾い上げる。
「重っ」
扱えないというほどではないが、こういった重量を活かして戦う武器はあまり使わないのもあるのだろうが、思わず口から出してしまった。
「ま、あいつの武器を防ぐにはちょうどいい」
金棒を肩に担いで飛んでいった悟鬼がいた方向を見る。
【ぎぃ………!】
よろよろと立ち上がるが、両手には力が入っていないようにだらりと垂れ下がっている。
(さて、とりあえず無力化には成功ってところか)
次の問題は、どうやって悟鬼を魏延の体から引きはが、
「っ!?」
悪寒が走る。咄嗟に金棒を盾にした瞬間“ヂュイィイインっ!”という聞いたことがない凄まじい金属音と共に金棒と共に吹っ飛ばされた。
(なんっ!?)
いくら白装束が憑りついているとはいえ、鎖骨を折られてここまでの威力を出せるはずがない。
「ちぃっ!」
勢いが消えぬまま地面が足に付くと同時に力を込めて踏ん張るが、それでも数メートル地面を滑ったところでようやく止まることができた。
金棒で前方を薙ぎ払いつつ、再度肩に乗せたところで相手の姿を視認する。
【ぎ、ぎぃ……】
てっきり攻め込んでくると思っていたのだが、俺に叩きこんだ一撃を繰り出したであろう姿勢で止まっており、そこから数秒もせずに手をだらりと下げる。
(……演じている、という訳ではなさそうだが)
刀を構えて悟鬼を集中して観る。
(やはり、どう見ても腕に力は入っていない。という事は、ダメージ自体は間違いなく入っている)
だが、だとすれば尚の事さっきの一撃の重さが理解できない。
(あんな状態で、このクソ重い金棒ごと俺を吹き飛ばすって、一体どういうことだっ!?)
……いや、まて?
(……似た話を聞いたことがある)
どこで聞いた話だったか。覚えているのはひ弱そうな爺さんが木に触れてぐっと押しただけで木の葉が一気に落ちてきたとか。
(話を聞いたときは眉唾ものだったが……)
それが事実だとしたら? 一瞬で全力を繰り出す方法があるとするなら?
(……まさか、縮地って奴か?)
一瞬で全力の速度を出す縮地と呼ばれる技がある。それはあくまで歩法の一つだ。しかし、それを応用しているとしたら?
(馬鹿げてはいるが、そう考えて動いた方がよさそうだ)
少なくとも意識をする、しないで反応速度は大きく変わる。覚悟を決め、俺は金棒を投げつけ、悟鬼へ向けて全力で駆ける。
案の定というべきだろう。金棒はすさまじい音と共に弾き飛ばされて俺の後ろに落下する。しかし、それに構っている暇はない。いつ飛んでくるか分からない全力の一撃に神経を尖らせる。
動きはゆったりしているが、油断できるものではない。いつ来るか分からないというのは人に迷い、恐怖、疑念を湧かせる。だから俺がすることはただ一つ。
(……………)
頭を空にして、反射速度を極限まで高める。
【…………ッ!】
悟鬼の腕が消えた。それに合わせて俺の腕も消える。刹那の後、凄まじい音が空気を裂く。
「ぐぅうううううう!!!」
剣先と刃がぶつかり合う。本来であればあり得ない光景。しかし、今目の前でそれが起きている。一瞬でも気を抜けば死が待っている。
神経が刃に移るが如く集中させる。力の些細な揺らめきすらも感じ取れるほど研ぎ澄まされたところで動きがあった。
(来るっ!)
相手の力がふっ、と抜けるとほぼ同時にこちらも力を抜き極限まで時間の損失を防ぎ、次の一手が来る前に間合いを詰める。悟鬼の足はまだ動くが、上半身の痛みで動きは鈍る。逃げようとして間合いを取ろうとしても逃げ切ることはできないだろう。
(だが)
今までの一撃もある。この場において思い込みは死に繋がる。さっき高めた集中を落とさずに詰めていく。
悟鬼は退くそぶりを見せない。それどころかさっき引いた剣に力を込めている。
(攻撃っ!?)
こんな短い距離でもあれが放てるというのか。などと驚いている間に剣先がこちらに向けられる。放たれるまで瞬きほどの猶予もない。咄嗟に鞘を掴んで前に突き出すと、ほぼ同時に鞘にとんでもない衝撃が伝わり、後方へ飛んでいった。
(どうにか逸らせたっ!)
飛んでいくまで一瞬だったが、体には当たらなかった。そして、完全に間合いを掴んだ。
「ッ!!!」
全力で足を狙って刀を振るう。しかし、悟鬼はそれを見越していたのか、一気に間合いを離され、足の骨を折ることは叶わなかった。それどころか、
(まずいっ!)
切っ先が彼女の足を切り裂く。今の感覚から言うと、そこまで深くは切れていないだろうが……
(あんまり動き回られると、血が出すぎるっ!)
皮膚が切れた程度であれば一瞬の出血は多いがすぐ止まる。が、肉まで達している場合はそうではない。
(くそっ……!)
どうやら制限時間も付いてしまったようだ。それに、さっき負った鎖骨も戦闘が長引けば危険だ。
(骨はできる限り周辺の肉に刺さらないようにきれいに折ったつもりだが……)
とはいえ、目に見えるわけではないし何かの弾みで刺さる可能性も長引けば長引くほど跳ね上がっていく。それに、無力化した後で彼女から悟鬼を引きはがす時間も必要だ。
(…………あとやれて二、三手か)
運が良くても一手追加されるかどうか程度。
(考えろ、今ここにある物であいつを無力化できる方法は何がある?)
と、そこである物が頭に浮かび、気配でそれがどこにあるか察知する。
(……上手くいけば、相手の虚を突けるか)
少なくとも普通に戦えば手が足りないのは明白。であればそれにかけるしかない。
(覚悟を決めろ)
さっき助けると決めたのであれば、助けられる可能性のある方法を取るべきだ。俺はさっき考えたことを行動に移す。
「シャッ!」
暗器を自分が投げられる限界まで、相手の視界を遮るように投げつける。
【キヒャ!】
悟鬼は刺突剣のしなりを活用し、それをすべて弾く。が、それでいい。一瞬でも視界が遮られれば。
奴が俺を捉える時には俺には逆転の一手を担う物が握られているからだ。
はいどうもおはこんばんにゃにゃにゃちわ。作者の風猫です。
ちょっと今回は短めの更新ですが、今年中にキリのいい所という目標を立ててしまったので、モチベーション維持のために更新しました。
今月はできるだけ更新をしていきたいので、何卒よろしくお願いします。
では、あとがきも短めにここいらで。
また次回っ!
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