No.1106096 百年前の轍を踏みしめて その壱 同じ顔、同じ傷の男融志舫清さん 2022-11-04 14:39:25 投稿 / 全2ページ 総閲覧数:405 閲覧ユーザー数:405 |
2012年。不死川実弘は、通報のあった片田舎の現場に相棒とパトカーで向かっていた。特殊詐欺。どれだけ事件が発生してもメディアで報道しても、騙されると思ってない人が8割。だが、そういう人間こそ騙される。そういった詐欺集団の首謀者が摘発された事件は少ない。受け子など末端の手先は多く逮捕されるが、末端は幹部の顔すら知らない。
「今の捜査方法じゃ限界があるぜェ。」実弘はつぶやいた。詐欺集団の幹部は自分達は捕まらないとほくそ笑んでやがる…。
「わかります。トカゲの尻尾切りですよね。あ!」相棒で実弘が玄斗と呼ぶ後輩が運転しながら声を出す。
パトカーの進行方向に大きな木の枝が横たわっていた。パトカーは停まり、実弘が降車する。
「退けにいってくるぜ。風で飛ばされてきたんだろう。」その時、鴉がカァーと鳴いた。
実弘は枝を拾ってガードレールもない道の横にある土手の斜面に向かう。
その時、地面が揺れた。
「うぁ!」
「不死川さん!」
玄斗の目には実弘の姿は斜面に落ちていったように見えた。
揺れでその場に近づけない。揺れがおさまった後、実弘の姿が落ちた場所に玄斗が向かうと、実弘の姿はどこにも無かった。
最終決戦後、鬼殺隊が解散して一年以上経った。お館様より屋敷にはそのまま住んでいいということだった。数少ない元仲間である冨岡は、宇髄一家と何回目かの温泉に行っている。
決戦後には友の遺した賢い蛇が屋敷にいたが、彼を蝶屋敷の新たな主人に授けて久しい。不死川実弥は屋敷の縁側にいた。実弥は炭治郎から届いた手紙を受け取った。
「爽籟(そうらい)、今はここにお前と俺だけだ。」と傍らにいる鴉に語りかける。
突然、ドッシャーン!という音が庭木のほうから聞こえた。
「何だァ?」実弥は警戒した。
そこには、紺色の洋装の制服らしき格好で自分そっくりの男が気を失って倒れていた。
何だァ?こいつは?俺と同じ顔じゃねェか。血鬼術か?いや鬼は滅した筈だ。
「この人は…。信じられませんが未来から来たようです。西暦2012年というのはおよそ100年後です。」屋敷に来た輝利哉は答えた。実弘の持っていた手帳には2012年と表記されていた。
持ち物が、実弘の正体を語っていた。金属でできた手の平の大きさの薄い平べったい機械、写真がついている身分証のようなもの、手錠、…。それらを示して輝利哉は語った。
くいなも輝利哉と一緒にいる。速報を鎹鴉(かすがいがらす)・爽籟から聞いた輝利哉は、仏壇の前であの世の父と奇跡的に交信できていた。
実は耀哉はあの世から「未来から来たんだよ。大丈夫、彼は帰れるから。」と言っていた。だが、輝利哉は実弥には父との交信について全容は伝えずにいた。
「未来にいずれ帰ることができると、見えました。」と実弥に伝える。
「お館様、お忙しい中ご足労くださり、申し訳ございません。大変、感謝いたします。」実弥は輝利哉に頭を下げた。
「頭を上げてください。万が一でも鬼の仕業でなく良かったです。ですが、実弥と瓜二つなのは…。」輝利哉は思案した。
実弘は目を覚ました。目の前には、自分と同じ顔の男と小学生くらいの子どもが2人いる。
「目ェ覚ましたかァ。お前は誰だ?」と同じ顔の男が実弘にたずねる。
「『ドッキリ』かァ?これ?」実弘は思わず昔、子ども時代に観たテレビ番組のタイトルを口に出した。
その頃、元鬼殺隊士・村田は友人から見せられた新聞広告を見つめていた。
「遊金貸します」とある。遊金とは余っている金。しかも無担保だという。ただし無担保なので身元を調査させてもらうから、その調査費用として二円をもらうとのこと。
村田は冨岡のところに行ったがあいにくと留守だった。そういえば宇髄さん達と温泉に行くと言っていたなと思った。
しばらく歩くと、輝利哉様達がある屋敷から出てきて車に乗っていった。傍(かたわら)にいたのは、不死川さんだ。村田は懐かしくなって、声をかけた。
「わ、お前かよォ。吃驚(びっくり)するじゃねえか。」実弥は動揺した。
「よろしければ、お菓子をどうぞ。」村田は実弥に差し出した。
「今日は悪いが、取り込み中で…。」実弥はうろたえた。自分そっくりの男が屋敷にいるのに村田を屋敷にあげられねえ。
「あ、お、お邪魔シマシタ〜。」村田は顔を赤くして察した。
「想像してんのが、女なら違げェよ。」と実弥は村田の推察を否定した。
すると、隠の頭巾を被った実弘が玄関に出てきた。
「お、お前!」動揺する実弥。
「あ、あんた、トイレの場所がわかんなくて。」実弘は言う。
「トイレなんて知らねえぞォ。」実弥は困る。
「廁(かわや)のことですよ。なるほど、客人がいらしたのですね。失礼しました。」と村田は去ろうとする。
「悪い。村田、一緒にいてくれよォ。」実弥は、村田を屋敷に招いた。
輝利哉は実弥とそっくりの実弘を見てすぐ、爽籟を通じてかなたに伝え、産屋敷家の鎹鴉から隠かくしの頭巾を届けさせていた。
「そうですか。お顔に怪我をされて隠の頭巾を借りているのですね。」村田は実弘が言った頭巾をかぶる理由を信じた。そもそもそれは輝利哉が用意した理由であるが。
村田は頭巾の男と離れてもらい、実弥に遊金ありの新聞広告のことを話す。
「実は…。」
自分と同じ顔の男と飯食うなんて、気持ち悪いぜェ。夕食時、実弥と実弘は同じことを思った。
「お前、警察官かァ。100年後の。」ようやく実弥口を開いた。
「そうだ。100年前の昔ってことはわかった。あんた、俺と同じ苗字で同じ顔だ。もしかして…。」と実弘は口を開いた。実弘は輝利哉から実弥の名前を聞いていた。
「それは違う。俺は結婚はしない。つまり、俺に子孫はいねえ。」実弥は「先祖」かという言葉を想定して強く断言した。が、言ってすぐ、後悔した。何でこいつにこんなこと言ったんだァ。
「じゃあ、俺はどういった系統何だァ?」実弘は聞く。
「死んだクソ親父に兄弟がいたはずだァ。お前はその子孫じゃねえかァ?」クソが、喋り方まで似てやがる。
「それはそうと悪いがさっきの男の話、偶然、聞こえてしまった。」実弘は告白する。
「なんてことしやがる。」実弥は気分を害した。
「ワザとじゃねェ。手が汚れたから洗おうとしたら、聞こえてしまったたんだ。」実弘は手振りを交えて言い訳をする。そして、
「そりゃ、詐欺だ。間違いねェ。結局、信用調査も何もせず貸せねえと言うぞ。」と続けた。
「…。本当かよ。まずいぜェ。村田は明日行くと言ってたぞォ。」実弥は焦った。
この時代にも特殊詐欺があるんだ…と実弘は思った。
平成のバブル後、終身雇用制が徐々に崩れて社会における組織的な束縛が弱くなり、日本社会の潜在的な犯罪抑止力が低下。ピークだった2002年の犯罪件数は285万件。
その後、防犯カメラの設置や犯罪に強い街づくり、防犯ボランティア、DNA鑑定、パソコンなどから証拠や情報を取り出す電子鑑識や警察官増員など警察体制の強化とあいまって日本の治安は回復してきた。
だが、無敵の人のような刑罰を恐れぬ犯人には刑罰の抑止力は効果を果たさない。そして、止まらぬ特殊詐欺。首謀者が摘発された事件は少ない。2010年代以降はピーク時に比べ検挙率が高いのに、人々が体感している治安というものは悪化をしていた。
実弥は鎹鴉・爽籟に村田への伝令を依頼する。
「うわ!何でカラスが喋ってるんだァ?」実弘は心底、たまげる。
「100年後にはいねえんだなァ。鎹鴉っていうんだ。伝令などしてくれる。俺のは爽籟という。」実弥は語りながら、爽籟ともあと何年かと思った。俺の痣の寿命…。
「大正時代には、俺らの知らねえもんがあるんだなァ。」実弘はつぶやく。
「100年後こそ、俺らの知らねえもんが山ほどあるだろう。」実弥は聞く。
「そうだな、例えばこれ。」と実弘は手の平の大きさの薄い平べったい機械を出してONにする。まだ電池は残っている。基地局ないとスマホは使えねェが写真なら見れるだろう…。
「こいつ、玄弥そっくりじゃねえかァ…。」スマホの待ち受けになっている実弘と玄斗の写真を見て、実弥は驚く。
「こいつは俺の後輩だァ。一緒に働いてる。」実弘は静かに言う。心配かけてすまない、玄斗。
「未来にはそういうもんに写真が入っているんだな。俺は写真ってのはどうも苦手だァ。一度、今日来てくれた輝利哉様と村田と仲間たちと撮ったことがあるが、二度とゴメンだ。」と実弥が言う。
「仲間?」実弘は聞く。
「ああ、もう隊は解散したが、ある戦があったんだ。あの鴉はその時に俺についていてくれた伝令用だ。」と実弥は目を細める。
実弘に請われて、実弥は鬼殺隊関係者の写っている集合写真を出した。
「その玄弥という人は写ってないのか。」と実弘は聞く。
「…。死んだ。玄弥の写真は一枚もねェ。」実弥はボソっと言った。
「…。その、悪かったなァ。そんなこと聞いちゃってよォ。」実弘は謝る。
「お前は悪くねェ。きょうだいはいねえのか?」実弥は実弘に聞く。
「いるよ。俺は長男だから、ちっちゃい頃、結構、面倒みた。」
「そうか…。」実弥は微笑んだ。
その実弥の姿は実弘には、心なしか寂しそうに見えたが、一瞬、嬉しそうにも見えた。
兄弟か?玄弥という人は?実弘は思った。
「玄弥に似たそいつも警察官なんだな。」実弥が聞く。
「ああそうだ。ある事件から仲良くなってなァ。大事な相棒だァ。」実弘が言う。いつもは玄斗にはちょっとヒヤヒヤしてるけど…。
実弥は嬉しそうに笑った。そして、
「お前のことをこれからヒロと呼ぶ。俺と同じサネが名前に付いてて呼ぶのはこっぱずかしいからなァ。」と言った。
「じゃあ俺はなんて呼んだらいいんだァ。先祖の親戚か?サネ除いてミだけなんて呼びにくいぞォ。」と実弘は困惑する。
「…そのまま実弥と呼べばいいだろう。」実弥はもう話題を変えたそうに言った。
そうこうしているうちに、カァーと爽籟が戻ってきた。村田はすでに金貸しのところに行ってしまったのだという。
「まずいな。」実弘は言う。
「爽籟、村田の今の場所はわかるか?」実弥が聞く。
「カァー。オ店ノ名前ヲ言ッテタノデ探セルハズデス。」と爽籟は答える。
だが、どうやって説得する?実弥は考えた。
「おい、ヒロ、手紙を書いてくれ。爽籟に持っていってもらう。」と実弥は実弘に願う。
「あんたが書けばいいだろう。」実弘は呆然とした。
「俺は読めるが、文字は書けねェ。すまねえが、書いてくれ。」実弥は頭を下げた。
その姿を見た実弘は、すぐに自分のボールペンと手帳を取り出した。罪悪感と漢気がこみあげたからだ。
「ごめん、すぐ書く。お安い御用だァ。」と言って。
村田は、金貸しと会った店を出たところで爽籟から手紙を受け取った。
「不死川さんの客人が代筆で…。え?なんだって?」村田はその内容に驚いた。今出てきた店を振り返る。
村田は店に入り、まわりを見渡す。いない…。
しばらくして実弥と隠の頭巾を被った実弘がその場に来た。
「村田!大丈夫か?」実弥が村田に声をかける。
「不死川さん、二円、渡してしまいました…。」村田が悔しがる。
実弘は思う。SNSのないこの時代なら、この犯人なんとか捕まえられるんじゃ…。
「ここらにいるんだろう?騙した奴が。」と実弘が口を開く。
「ヒロ、だがよ、この人出だ。今日のところは引き下がろう。」と実弥が言う。
「二円がいくらの価値があんのか俺にはわかんねえけどよォ。金貸し本人がここらにいるんだろう。探そうぜェ。」言いながら、実弥のほうが警察官っぽいなと実弘は思った。
「っていうか、何でヒロまで来るんだァ?」実弥は疑問を呈す。今、気がついた俺もどうかしてる。
風屋敷に戻って一夜が明けた。二円というのは2012年の貨幣価値ではおよそ3、4000円くらいだが、給料から考えるとその価値は8000円ぐらいかと実弘は思った。
「新聞広告で募っているとすれば、騙された人の数は多い。」実弘は憂慮した。
「ついさっき元同僚に聞いたらこの金貸しは『お気の毒ながらお貸し致し兼ねます。』と記した葉書を送りつけるらしいぞォ。」と実弥が言った。
「元同僚?あんた、そういや、今、仕事今何してんだァ?」実弘が疑問を呈す。
「何もしてねェ。」頭をかきながら、実弥はつぶやいた。
「戦の慰労金で食っていける。それにこの屋敷に住んでもいいとのことだ。」実弥は正直に話した。
「慰労金って。そんなんじゃ、将来、年とって介護される時に困るだろう?金がいるはずだ。」と実弘が平成の価値観でたずねる。
「いいんだ。俺はあと何年かしか…、生きられない。」実弥は目の前にいる同じ顔の男に明かした。
「え?」
実弥はなぜ、こんなことまで言ってしまうのだろうと思いながら、痣の寿命のことを明かす。
「そ、そんなことが…。」実弘は絶句した。
輝利哉は愈史郎と連絡をとった。父上があの人は未来に帰ることができると言ってくださっているものの、万が一、政府組織や警察にでも捕まれば厄介だ。
「急ですみません。愈史郎さん、あの札をお貸し下さいませ。」
実弘がやって来て2日後、産屋敷家より輝利哉とくいなが風屋敷に来た。
「この札を使えばつけてる者同士は見えますが、他者から見えなくなります。札を貼り付けることにより視覚を操ることができます。ただし屋外では夜間のみ。太陽光の下では使えません。実弘様が未来に戻るまで何かあればお使いください。くれぐれも、ご乱用なさらないように。」くいなはその後も札の詳しく説明し、実弥と実弘に愈史郎の札を2枚渡した。
「はあ。鴉といい、この札といい、大正時代ってのはどうなってんだァ…。」と実弘はつぶやく。
鬼というもっと吃驚(びっくり)することがあったぜェ。と実弥は思う。そして、天井を見上げた。
こいつに言った親父の兄弟なんてのは嘘だ。クソ親父に男兄弟はいねェ。親戚もだ。こいつは俺の…。まさか…。
輝利哉達が帰宅したのち、実弥と札を試していた実弘はふと、思いつく。
「サネミさんよ。これが有れば、詐欺師を捕まえられるかもしれないぜェ。」
「お前…。二円だろおがァ?大金でもあるまいし。」
「だがな。一人がその金額でも、何人もだと結構な金額になる。捕まえないとまた被害が増える。」と実弘はこたえた。
「ヒロ、お前は未来での警察官だろ?今ここでは何者でもない。万一、未来に帰れなかったらどうすんだァ?」実弥は諭す。
「サネミさんよ…。確かに俺は警察官だ。実はな、百年後ってのは便利なようで、厄介な面も多いんだぜェ。」実弘はボソッと漏らす。
「どんな感じだ?百年後ってのは?」実弥ははじめて興味を持った。
実弘は語る。写真を見せたこの手の平の大きさの薄い平べったい機械は携帯電話というもので、持ってるもの同士で会話できる。会話だけでなく文字や写真のやりとりもできる。匿名でやりとりもできる。匿名のやりとりのため、詐欺事件も末端だけ捕まって首謀者は捕まえられないことが多い。末端の実行犯は誰も直接、首謀者の姿を見ることがないからだ。皮肉にも科学技術の発達が、捜査を進展させているが難航させてもいる。
指紋だけでなく、細胞の中の情報で本人かどうか鑑定ができる。機械の目で町を守っているが監視している側面もある。
「道は車であふれている。海外へも自由にいける。大型飛行機に乗って。建物もすごく大きくなっているぜェ。」と言いながら実弘はテレビやパソコンをどう説明しようと思った。
「お前は、真面目で仕事熱心だなァ。仕事のこと真っ先にしゃべってよォ。」実弥はそういって目を細めて微笑んだ。
実弘はきょとんとした。
サネミさんは俺よりも年下なのに、なんだか父親みたいだ…。痣って、25歳までの寿命って、寿命の前借りってそんな過酷なことがあったのか…。
その時、村田が風屋敷の門に走ってきた。
「不死川さん、あいつを見つけました!」
実弘は急いで頭巾をかぶった。
「あの、○○丁目の茶屋です。今、後藤が見張ってててくれて。」と村田が言う。
「村田、取り返したいかァ?」実弥は村田にたずねた。村田はうなずく。
「ヒロ、お前はここにいろ。」実弥は愈史郎の札を持って村田と行こうとする。
「俺も行く。」実弘が後を追う。
実弥はものすごい形相で実弘を怒鳴りつけた。「お前はここにいろォ!家に帰れなくてもいいのか!」
お、俺、怒る時あんな、あんな怖い顔してたのか…。実弘は実弥の顔を見て思い、黙って従った。
実弘しかいない風屋敷に、宇随一家との温泉旅行から戻った富岡義勇が訪ねてきた。
「…不死川は不在ですか。」と隠の頭巾をかぶった実弘にたずねる。そうだと伝えると、
「じゃあ、渡してもらえますか。土産で不死川の好物のおはぎです。」と感情がよくわからない顔で富岡は言って帰った。
実弘はうなづいて受け取った。声を変えるのも至難の技だぜェ。今の人、右腕が途中から無かった。ほんとに壮絶な戦というものがあったんだ…。
目的の茶屋に着いた実弥は、目を疑った。ある女性がいたからだ。しばらく前に彼女を狼藉者(ろうぜきもの)から助けて知り合っていた。
「シズエ…。」
「あ。不死川さん、お久しぶり。」シズエと呼ばれた女性は実弥を見つけると朗らかに挨拶した。
こんなところで会うなんて…。実弥はまずいなと思ったが、腹をくくり、シズエを茶屋の外に連れ出して事情を話した。シズエは驚いた顔をしたがすぐに目に力をこめた。
「大丈夫、協力するわ。」
実弥はその目をみつめて直ぐに目をそらした。シズエの芯の強さが眩しかった。そしてほんのり頬を紅潮させ、「…助かるぜェ。」と言った。
後藤が目くばせし、帽子をかぶって顔を隠している村田に目的の人物の居場所を知らせる。三人は打ち合わせた。
しかし、その人物は一瞬三人が目を離したすきに姿を消していた。
「あ、あれ?」
「素早い!」
「やられた…!」
シズエが言うには店でその客は見たことがなかったという。
「そりゃ。そいつもしかして元忍じゃねえかあ?」翌日、宇髄天元が風屋敷を訪れて実弥に言った。
そして村田と、昨日たずねてきた冨岡義勇という人もいる。実弘は自ら同席を辞退し隣の部屋にいた。何だァ。今度は左手無くて、左目眼帯の人。尋常じゃねェ…!
「そうか。そういえば動きが異様に速かった。こういった点、情報があって元鬼殺隊ってのはありがてェ。」実弥は腑に落ちた。
隣室で実弘は思う。元キサツタイって何だ?
「村田、気の毒だったな。」と富岡が言う。
「冨岡、だから、これから取り返すんだってば。」村田が言う。
「二円だろう?」宇髄はそれっぽっちと言いたげだった。
「元忍だったら、状況は違う。村田、悪いがあきらめろ。」実弥は言う。
「え、そんなにヤバいんですか。」村田は聞いた。
「宇髄相手に喧嘩しにいくようなもんだな。」富岡が言う。
村田はうなだれた。
「皆さんにはそれっぽっちかもしれないけど、俺にとっては…。」
「…。」富岡は何か言いたげだった。
しばらく実弥は黙っていたが、実弘のいる隣室のふすまのほうをちらっと見てから皆に対して口を開いた。
「いっちょう、村田に協力してみねェか。皆。」
(その弐に続く)
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【鬼滅23巻までとFBのネタバレあり。】続きものでその壱は7,989文字(16分)です。大正時代、新聞広告による特殊詐欺。元仲間がその被害にあってしまう状況で不死川実弥さんは…。宇髄さん一家と冨岡さんは何回目かの温泉に出かけてて当初不在。事件の少し前、風屋敷にはありえない人物が突然現れて…。何でも許せるかた向け。
本篇その参までと後日談一話あります。
n番煎じのタイムトリップものです。不死川実弥さんと実弘さんが遭遇してしまう状況が苦手な人は申し訳ございませんが、ご自衛くださいませ。
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