No.110206

Ar tonelico~眠れる大地に目覚めの詩を~第一話

MiTiさん

連続投稿!
今回は明確にリリなののキャラが出されます。
誰が出るかは…読んでからのお楽しみです。
ではどうぞ

2009-12-03 01:59:45 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:2915   閲覧ユーザー数:2665

ロストテクノロジーで作られた壁床天上がある空間にて、

3人の人物が一体の生命体と交戦する。

 

形だけ見れば犬のようだが、決して犬ではない。イヌ科の動物でもない。

外見は機械のようだが、切る感触、触れる感触は金属のものでもない。

金属のようで金属で無い、肉体のようで肉体で無いなにかで体を構成されている、

それはウイルス生命体と呼ばれるものだ。

 

「リニス、氷結弾を使うわ、下がって!」

 

「わかりました、外さないでくださいねっ!!」

 

槍を操るメイド服を着た女性リニスが、力を込めて槍を振るい、

相対している敵を薙ぎ飛ばし、同時にバックステップで距離を取る。

 

一瞬で来た隙を逃さず、長銃を携えた白衣の女性プレシア=テスタロッサが、

主武器である機関銃の銃口の下に装着された大口径弾用の銃口を敵に向け、

装填された氷結弾を発射する。

 

放たれた青い弾丸は狙い違わず命中し、裂音と共に物が凍りつく音を発し、

敵の足元を氷付けにして、4本の足を床に縫いとめた。

 

だが、ウイルスは氷付けにされ動きが封じられたことに一切動じることなく、

再び動かそうと足に力を込め氷を割ろうとする。

 

「させません!」

 

リニスは固められた4本の足を横薙ぎの一振りで切り分け、

その勢いを利用して体を捻り、頭部に後回し蹴りを当てる。

4本の足をその場に残して、足から上が飛ばされる。

 

「”再構築”はさせないわ!」

 

残った4本の足に向けてプレシアは炸裂弾を放ち粉々にする。

 

全ウイルス生命体の共通の能力”再構築”。

生物のように肉体を再生するのではなく、機械のように修復するのではなく、

ウイルスは、原理は分らないが、どんなに傷を受けようと、損傷部を元の状態にまで戻してしまうのだ。

 

ウイルスを無力化するには2つの方法がある。

1つは圧倒的質量による破壊。再構築不能なまでに粉々にすれば、やがてその機能を失う。

だが、今この場にいるメンバーにはそれほどの破壊力のある武器は用意できない。

だからこそ、彼女達はもう1つの方法で対処する。そのもう1つの方法とは、

 

 

「アリシア、今よ!」

 

「うん。行っけーーーーーー!」

 

前衛を務めるリニスより、リニスを援護する為彼女の少々後方で銃を構えているプレシアより後方。

二人に守られるようにしていた私服の少女アリシア=テスタロッサ。

何の武器も持たず、何の防具も装備せず、体格を見てもとても戦えそうではない。

だが、彼女こそが3人の中で最もウイルスに対して有効なのだ。

それは、アリシアがレーヴァテイルだからだ。

 

ウイルスを無力化させるもう1つの方法。それはレーヴァテイルが操ることが出来る詩魔法だ。

想いを詩に、詩を力の形にする詩魔法。

時には傷や病を癒し、時には兵器の如き破壊力をもたらす。

 

破壊力もそうだが、詩魔法が最も有効というのは、

これによって受けた損傷を、ウイルスは再構築できないのだ。

 

よってプレシアとリニスは、詠うために無防備になるアリシアを守り、

アリシアは時には2人を支援し、時にはその破壊力を持って敵を葬る。

その力は、アリシアの想いが大きいほど、詠う時間が長いほど威力を増す。

 

2人を想い、2人のために紡ぎ出す魔法。

現時点でアリシアが扱える唯一の赤魔法”サンダーボール”。

雷球を生み出し、接触すると雷電を迸らせながら拡散する赤魔法だ。

 

雷球は詠唱時間、つまり詠う時間が長いほど大きくなり、

詩に込める想いが強いほど質が高まる。

 

戦闘開始から、二人に守られながら、二人を助けるため、守るために詠い紡ぎだした雷球。

眼前の犬型ウイルスと同程の大きさになった雷球は、母プレシアの指示の下、

アリシアの意思によりウイルスに向けて放たれる。

 

雷球は瞬く間にウイルスを飲み込み全体を包み、周囲に破裂音のような感電、帯電音を発しながら拡散した。

 

ウイルスは跡形もなく消滅し、後には雷電によって少々こげた床が残った。

 

 

「フゥ…片付いたわね。リニス、怪我は無いわね?」

 

「ハイ。特にこれと言ったものは。

 アリシアはどうですか?もう中に入ってから15回は戦闘していますが、

 疲れていませんか?」

 

「うん、大丈夫」

 

「そう。でも無理はダメよ。アリシアがいなかったらこの先には進めないのだから。

 ハイ、これを飲みなさい」

 

「はーい」

 

プレシアは水筒を取り出し、魔法瓶によって冷たさが保たれた水をコップに注いで渡し、

アリシアは素直に受け取って飲み干す。

 

「それにしても…奥に進めば進むほど出現する頻度が多くなりますね」

 

「ええ…やはりこの遺跡の中にはウイルスを生み出す何かがあるのね」

 

「それがわかって、危険だと分っていながらやめませんか」

 

「もちろんよ。この先に何があるかを知るまで帰るつもりは無いわ」

 

どこからともなく突然現れ無差別に人を襲うウイルス生命体。

それらは街の自警団か、大陸の上層にある城に住まう”御子護の一族”が対処する。

 

過去のロストテクノロジーで造られた大地の中心にそびえ立つ塔。

当にすがりつくように存在する大地、3人が住む”スレピアドール”の大地。

大地の機能の調整、操作、管理はある御子と呼ばれるレーヴァテイルによってのみ行われる。

御子護の一族とは、文字通り御子を守護するために存在する一族だ。

 

御子護の一族の男性は皆一般人よりも卓越した身体能力を有する。

レーヴァテイルは、より強力であり多種に置ける詩魔法を使役可能。

レーヴァテイル以外の女性も何かしら卓越した何かを有している。

 

ウイルスが出現したら、彼らがそれを駆逐する。

それが、このスレピアドールに住まう民の常識であった。

 

だが、早くに夫を、アリシアの父をウイルスによって亡くした考古学者であるプレシアは、

娘アリシアの、ウイルスの脅威に脅かされない平和で明るい世界を望んだ。

自分の、自分達の、娘達のウイルスの脅威に脅かされない、平和で明るい未来を望んでウイルスの事を調べ始めた。

 

調べるうちに、プレシアは多くのことを知ることになった。

 

ウイルスは百数年前より発生し始め、当時は現在のように少数が低頻度で発生していたのではなく、

上下層関係なく大地全土に大量発生し、大地に住む全ての住人を危機に晒していた。

だが、ある日を境にそれが押さえられたのだ。

 

ウイルスのことについて知るのと同時にもう1つ知ったのが、自分達が今住んでいるこの大地について。

 

ウイルスが発生するより以前は、現在よりも大地が機能していたとのこと。

この大地は御子によって管理されているのだが、詳細は不明だが、

管理が全土に行き届いていないのか、所々で機能していなかったり時折止まったりもする。

こうなったのはウイルスが発生し始めてからなのだ。

 

これらを知ったプレシアは、かつて豊かで平和だった昔の大地を見るために、

最も身近といえる研究対象としてウイルスを選んだ。

 

ウイルスを追い、その発生源を辿り、行き着いたのが今3人がいる遺跡と呼ばれる場所だ。

大地の最下層にある、一族によって管理された機動エレベーターで移動し、さらに奥深くに存在する遺跡。

 

もちろんその様な重要な場所が一般人の立ち入りを許可しているはずが無い。

秘密裏に侵入するためにプレシアは親友のリニスに助けを求めた。

 

リニスは家事の能力と槍の腕を認められ城に仕えるメイドとして働いている。

彼女ならば遺跡に入る道、方法を知っているのではないか?可能ならば協力してくれるのではないか?

 

リニスとしては、親友とその娘のために協力したかったのだが、残念なことに彼女はただのメイド。

遺跡に自由に出入りすることは許可されていなかった。

 

が、彼女は親友の為に秘密裏に裏道を探し見つけ、そして3人で遺跡へと侵入したのだ。

 

 

「さて…次のウイルスが出ないうちになるべく先まで進みましょう」

 

「ハイ」「は~い」

 

小休憩を終えて3人は再び進む。

それから7~8体程ウイルスを破壊しながら進み、3人は1つの空間にたどり着いた。

 

これまでのロストテクノロジーで造られた壁床天上に囲まれた通路とは違い、

そこに歴史を感じさせる遺物、現代の技術で作られるような機械これらが混ざり合った壁床天上。

そして最奥の一面を支配する巨大な扉がある空間。

 

「…ここが最奥かしら?」

 

「私達が入ってきた所のほかに出入り口は見当たりませんでした。

 恐らくそうでしょう」

 

「えぇ…あれは、転送装置?」

 

空間を見渡していたプレシアは、扉の反対側にある、床に円形の陣が描かれた装置を見つける。

 

「ここでウイルスが生まれてくるのだとすれば突然どこからともなく現れることの説明がつくわね」

 

ウイルスの出現の仕方から立てていた仮説が正しかったことを理解する。

 

「となると…あの扉の向こうがウイルス発生の根源かしらね」

 

「そう考えられますが…プレシア、気をつけて。

 私は城のメイドとして働いてはいますが、こんな場所があることを一切知りませんでした。

 何が起こるかわかりません」

 

「…わかったわ。アリシアも気をつけなさい」

 

「う、うん…」

 

ここに着た目的を果たすために、3人は扉に向かって歩き始める。

前から順に、槍を構えたリニス、銃を構えたプレシア、いつでも詠い始められるようにしているアリシア。

そして空間の半ばまで来た所で、突如声が響き渡る。

 

『封印の間、扉への接近を確認。一族の者は”証”を提示せよ』

 

突然の機械質な声の指示にプレシアとアリシアはリニスを見る。

 

「リニス、証ってなんなの!?」

 

「ですから、この場所については何も知りません!当然証がなんなのかも…」

 

「その槍とかメイド服は?」

 

「槍は一般の武器屋に置いてあるような普通の槍で、私以外の警備にあたっている人全員に支給されています。

 証にはならないでしょう…メイド服は自作です!」

 

「…なんでメイド服について自慢げ?」

 

数十秒にわたりあれやこれやと話すが、結局証と呼べるものは見つからない。

 

『証の提示を確認できず。侵入者とみなし排除を開始します』

 

「「「!?」」」

 

無常な排除宣言と共に、空間全体が音を立てて動き出した。

振り向くと、自分達が入ってきた出入り口や転送装置の入り口の扉が閉められた。

空間にある機械や遺物が光ったり点滅したりする。

3人は何が起こるのかわからないが、ただで死ぬわけには行かないと武器を構える。

 

警戒する中、扉の中心にある球体が輝きを増した。

球体が備わった扉の中心部にあるまるで棺桶のような物が扉から浮き出て、

太いチューブに吊り下げられながらゆっくりと下りてくる。

床に到達すると、蓋が蒸気を噴き出す音と共に開かれる。

 

中にいたのは…一人の青年だった。

 

 

ウイルスかロボットなどが出て来ると思っていた3人は、予想外のことに驚く。

 

3人が呆然とする中、青年の閉じられていた瞳が開かれる。

その瞳に色は無く、何の感情も感じ取れず、何の思考も読み取れず、まるで人形か機械のようだった。

 

機械のように無表情に3人を見回した青年は、人間の肉声で淡々と告げる。

 

「排除、開始」

 

青年は腰の両側から伸びる2本の何かを握りながら弾丸のような勢いで迫ってきた。

 

最初に我に帰ったリニスが、迫り来る青年に向けて槍を突き出す。

これほど速く真直ぐに迫ってくるのであれば避けることは難しいだろう。そう思えた。が…

 

後僅かで顔に槍が刺さろうとする所で、青年は右手に握った小太刀を抜き放ち振り上げた。

迫るときの勢いを乗せた振り上げに、リニスのやりは弾き上げられ無防備な前半身がさらされた。

 

「っく!?」

 

懐に入られ、槍を弾き上げられ、そこは完全に小太刀の間合い。

慌てて距離を取ろうと後に向けて跳躍するが、青年はそこで左手の小太刀を抜き横薙ぎする。

スパっという音がするのと同時にメイド服の腹の部分が裂けてしまった。

腹が切り裂かれてもおかしくなかった状況から回避が間に合って服だけですんだ。

そう僅かに安堵しながら着地する。その瞬間、

 

「…え?」

 

着地の僅かな衝撃で、余りにも鋭く綺麗に切られたために無傷に見えた腹に一本の赤い線が走り、

直後線から鮮血が吹き出した。

 

「「リニス!?」」

 

血を噴き出す腹の傷を押さえながら、槍を支えに片膝をつくリニスに青年は近づき、

掲げ上げた両手の小太刀を振り下ろそうとする。

 

「させないわ!」

 

リニスを助けようとプレシアは引き金を引き青年に向け銃を乱連射する。

走り寄りながら放たれた大量の弾丸は、しかし、青年の身体に当たることはなかった。

俊敏で信じられないほどの速度で移動し避けられ、

驚くほどの反射神経で、ある時は弾き、ある時は真っ二つに切られる。

 

当てることは出来なくても、青年をリニスから離す事が出来、

プレシアはリニスを庇うように間に入り乱射する。

 

その後ろではアリシアがリニスの傍に駆け寄っていた。

 

「リニス、大丈夫!?今直してあげるからね!」

 

告げ、アリシアは詩を詠う。その詩は相手を想い、その者を助ける青魔法。

アリシアが詠うとリニスの頭上に人の頭ほどの大きさの少女が生み出される。

白を主とするローブと帽子を被った桃色の髪の少女。これがアリシアが扱える回復の魔法の姿だ。

少女が手を振ると光の粒子がリニスに降り注ぐ。

光は傷口に集まり、触れた場所から見る見る傷が塞がっていき、やがて傷一つ無い素肌に戻った。

 

「…フゥ~、ありがとうございますアリシア」

 

「もう大丈夫なの?」

 

「ええ、傷は完全に癒えました。今から私も前に立ちます。

 アリシアは赤魔法をお願いしますね」

 

「うん、わかった!気をつけてね…」

 

「ハイ、もう油断はしません。それでは…行きます!」

 

 

槍を構えたリニスはプレシアの真横を通り過ぎ、一気に距離をつめ青年と交える。

そしてアリシアは指示通りサンダーボールを詠い雷球を生み出す。

振り返らずとも、その詩が詠われ始めるのを聞き取った二人は、

その一撃を確実に当てようと青年の動きを抑えること、アリシアに近づけさせないようにと動く。

 

マガジンの交換の間はリニス一人で相手をしなければならず、

実力は青年のほうが上であり、その間にリニスの傷が少しずつ増えていく。

 

だが、銃弾が十分にある時は、絶え間なく銃弾が放たれ、

それに混ざり繰り出される槍術が次第に青年を追い込み、ついに捉えることができた。

 

「ハァァアアア!」

 

気合と共に突き出した槍が青年の横腹を貫き、そのまま壁に縫い付けることが出来た。

 

「ゴメンね…ェエイ!」

 

敵であるが、、人の姿をする青年に向け詩魔法を放つことに少々躊躇するも、

やらなければならないと割り切りサンダーボールを放つ。

 

刺さったやりは簡単には抜けず、抜くには両手で力を込めて引き抜くしかない。

槍の刃がある方の逆から抜けることも出来るが、それは今でさえ大量の血を流す傷穴を広げることに成り、

仮にそれを行っても、既に直前まで迫った雷球を避ける間など無い。

これで決着がつくと三人は思った。だが…

 

青年は何と槍が刺さる横腹を自ら切り裂き横から抜け出た。

そして横跳びした所で、槍のみが残ったその場所に雷球があたった。

 

焦げた槍が残る遥か横では青年が立っている。

槍で貫かれ、小太刀で切り開いた横腹からはおびただしい量の血が流れ出ている。

だが、青年は平然としている。

 

三人はその様に恐れを抱く。眼前にいる青年は何のか?

刺した感触や流れる血は間違いなく人間のもの。

だが、アレほど激しい戦闘を繰り広げながら、これほど傷を負いながら、

青年は一瞬たりとも表情を歪めていない。

こんなにも血を流しながらも身体が崩れるどころか揺れることすらない。

 

三人は恐れる中、更に驚愕することが起こった。

 

青年が入っていた棺に備えられた球体が光を発したかと思うと、青年の傷口が塞がっていく。

その光景はウイルスの再構成に似た肉体の再生。

やがて傷が完全に塞がり、青年は再び小太刀を構える。

 

このままでは傷を負わせてもまた再生され、それを繰り返される。

キリが無いと思ったプレシアは作戦を変える。

 

「リニス!先にあの装置を破壊するわ。

 私とアリシアでやるからリニスは何とか彼を抑えて!」

 

「わかりました!ですがなるべく早くお願いします。

 彼の強さは間違いなく私以上、長くは持ちませんよ…」

 

「わかってるわ」

 

銃弾の補充を終えたプレシアはその銃口を棺に定め、リニスは呼びの槍を取り出し構える。

 

「アリシア、アレがどれくらいの強度があるかはわからないけど相当頑丈と思うわ。

 だからさっきよりも強いのを、倍以上の強さのをお願いできる?」

 

「うん、頑張る!」

 

「そう、それじゃ…頼んだわよ!」

 

 

アリシアが詠い始めると同時に、リニスは青年に挑み、プレシアは棺に向け銃弾を放つ。

明らかに棺を狙う攻撃に青年は不可解な動きを見せる。

 

相変わらず捉えることが困難な速度で動き攻撃してくるが、

今回はどこか自分達が優勢に見えてくる。

 

それは何故か?青年が棺を庇うように戦っているからだ。

それを見てアリシアは棺が青年にとって放置できない重要な何かだと確信する。

 

「それなら…これでも喰らいなさい!」

 

プレシアは大口径銃口にあるものを装填し、間をあけず発射する。

放たれたのは一丁のミサイル。そのミサイルは飛来中に外装を剥がし、

中から八丁のミサイルに分散し、八方向から棺に向かう。

 

八方を一編に捌くことはいかに速く動けようと不可能で、青年は一丁一丁減らしていく。

そして、最後の一丁は、減らそうとした所でリニスが割り込み一歩及ばず、着弾した。

 

小型であってもそれは決定打となり、棺からは火花が散り、僅かに煙が立ち上る。

もう一撃、それも詩魔法の一撃ならばいけると判断し、ついにアリシアは魔法を放つ。

 

身を挺してその進行を阻もうとするが、雷球は青年をも飲み込みながら進み、

棺に当たり、爆音と共に破壊した。

 

雷が晴れると、青年は煙を立ち上らせながら棺の下で倒れていた。

ここまでやれば流石に、と思ったが、数秒して青年は立ち上がった。

 

だが、その行動は先程の機械のような、人形のような動きとは打って変わって、

傷つき痛む体に鞭打って無理やり立った感じだった。

そして俯いていた顔を上げると、そこには間違いなく感情がこもっていた。

 

「…っハァ、ハァハァ…フゥゥ」

 

息も絶え絶えに小太刀の切っ先が向けられる。

その切っ先からは、その瞳からは明確な敵意と殺意が感じられる。

が、何故かそれは悪質なものには感じられなかった。

扉を背に立つ彼からは、この先には何人たりとも通すまいと、

何があってもこの扉を、その向こうにあるであろう何かを護ろうとする意思が感じられた。

 

「…なんで…どうしてそんなになってまで立つの!?」

 

自分達に切りかかってきた青年の、ぼろぼろになりながらも立ち上がる姿に、

アリシアは耐えられず疑問を投げる。そして…

 

「お…レ、は…マ、もる…」

 

途切れ途切れではあるが、初めて青年の声を聞いた。

絞り出されたその声からは、青年の必死さが篭っており、三人はそれを感じ取ってしまう。

 

「オ、れは…かのジョを…護ル!」

 

 

次の瞬間、青年は腰の高さまで姿勢を低くしたかと思うと、

再び弾丸の如き速度を持って切りかかってきた。

 

すぐさまリニスが受け止めるが、先程とは違い、

受けられた青年のほうが弾かれてしまった。

 

それでも青年は諦めず小太刀を振り回す。

それは剣術と呼べるものではなく、ただ感情に任せて我武者羅に振り回しているだけのもの。

それ故にその一撃一撃から、青年が必死に何かを護ろうとしているのを感じてしまう。

だが、向かってくる青年の攻撃を黙って喰らうわけには行かず、リニスは打ち合う。

 

青年はその傷から、リニスはその心から、本気を出せずに入る。

本気を出せない二人は、それでも傷が増えていく。

 

斬られようと、突かれようと、弾かれようと、それでも青年は小太刀を手放さず向かってくる。

 

やがてリニスの槍の柄が青年の腹を強打し飛ばす。

血を飛び散らせながら吹き飛ばされ、勢いで数メートルに及び床を転がり、やがて止まる。

そんなになっても青年は立とうとする。

 

「グゥゥ…ァァアア…アアア!!」

 

何度も倒れ膝を付きながらも青年は立ち上がる。

何も無いのに何度も、自分の足にさえもつまずきながら、三人に向かって歩き近づいてくる。

 

「もう…もうヤメテーーーーーーー!!」

 

プレシアの為に、リニスの為に、そして青年の為にアリシアは魔法を放つ。

もうこれ以上辛い想いをしないでと、辛い思いをさせないでと願い放つ。

 

避ける力も防ぐ力も残っていない青年に雷球が当たる。

雷電を迸らせながら青年は暫く立ち竦んでいたが、やがて倒れた。

 

小太刀を握る力も残っていない手を扉に伸ばし、

 

「マ…も……る…………」

 

その呟きを最後に、伸ばした手が床に落ちる。

 

 

棺が破壊され、青年が力尽き倒れ、張り詰めていた緊張が一気に解かれ、三人は腰を下ろす。

 

「…大丈夫?アリシア」

 

「……うん…」

 

勝ちはしたが、三人は笑みを浮かべることが出来なかった。

 

「こんなになってまで護りたかったものとは…一体なんでしょう?」

 

「わからないわ。でも、よほど大切なものなのでしょうね…

 彼のことを無駄にしないためにも必ず解き明かして見せるわ」

 

決意し、足に力を入れ、再び歩もうとする。その時、

突如周囲が赤い光に照らされた。

 

「な、何!?」

 

驚きアリシアがプレシアに駆け寄る中、機械質な声が響く

 

『警告。守護抑制プログラムが停止しました。

 封印の間の即時閉鎖を実行します。

 封印の間に在する全員は至急退避してください。

 警告…』

 

守護とは何か?それは先程まで自分達が戦っていた青年のことだろう。

では抑制とは何か?その答を示すように、周囲に影が出来た。

それはウイルスが出現する前兆。

見回すと一体や二体じゃない、10や20はいるだろう。

 

「!?リニス、アリシア!転送装置に急いで!!」

 

返事を返すことなく、リニスはアリシアを抱えようとする。

 

「待って!あの人も!!」

 

その視線は傷だらけの姿で倒れたままの青年に向けられている。

 

「残念ですがもうそんな「リニス、お願い!」プレシア?」

 

「彼は…唯一の手掛りよ。ここがこんな状況じゃ恐らくもう二度とここには戻って来れないわ!」

 

プレシアの言葉に頷き、アリシアをプレシアに預け、リニスは青年の許に行く。

小太刀を鞘に戻してから青年を抱え上げ転送装置に向かう。

 

「リニス、早く!」

 

既に操作を終えたプレシアが転送陣に立って銃を構えていた。

ふと周囲を見るとウイルスの姿が完成しつつあった。

 

飛び込むように陣に入った直後、プレシアは銃を撃ち始めた。

振り返るとウイルスの体が完全になり転送装置に向かってきている。

リニスも槍を投げ、短刀を投げウイルスを近づかせまいとする。

 

やがて陣が光だし、4人の体が包まれていく。

そして、ウイルスが装置に接触する直前、4人の姿が消えた…

 

 

これだけは知っておきたい、アルトネリコ辞典 Pt.2

 

スレピアドール:ヒュムノス語で”眠れる大地”です。

        まんまそのままな上、直訳があってるか少々不安ですが、

        文中で書きましたとおりこの話の舞台となる大地の名前です。

        歴史など詳細に関しては後々…

 

 

赤魔法:いわゆる攻撃魔法のことです。

 

 

青魔法:いわゆる支援魔法のことです。治療したり、強化したりといろいろありますが、

    現在アリシアが使えるのは簡単な治療だけです。

    簡単と言っても想いが強ければその分回復できます。

 

 

桃色の髪の少女:容姿を読んで気付いた方もいるかもですが、キャロのことです。

        今後もいろんな詩魔法が出て、そしてその姿もいろいろです。

 

 

 

~対談式あとがき~        

 

第一話いかがでしたでしょうか?

 

さて、今回は…というより今後この話では登場人物と対談形式のあとがきでやって行きたいと思います。

 

それでは、今回登場しました内のプレシアさんにお話をお願いいたします。

 

では、プレシアさん、ど~ぞ~

 

プ「どうも、プレシア=テスタロッサよ」

 

ようこそ、あとがきの場へ。

 

さて、原作ではかなり黒い役でした貴方がこの話ではこんなにも善人に!

 

そのことに関して感想は?

 

プ「…黒いといっても、それはアリシアが亡くなってしまったからであって、

  私は元々闇の書の中の世界であったように穏かな性格なのよ」

 

ま~、あれはフェイトの願望の世界だったのですが…

 

とにかく、自分の中ではプレシアさんは本当は娘想いの優しい母親って感じなのでこうなりました。

 

 

では次に、考古学者でありながら銃ぶっ放してますが、その銃は?

 

プ「もちろん自作よ。考古学者って意外と危険だから」

 

アレを自作とは…

 

これに関連しますが、魔法ではなく銃を使った戦闘については?

 

プ「白衣で長銃で戦う考古学者…いいのではなくて?」

 

っほ、良かった。アルトネリコの世界では魔法を使えるのはごく一部ですらかね。

 

今後もリリなので魔法を使っていたキャラはこんな感じで銃やら槍やらで戦うことに成ります。

 

 

とりあえず、今回プレシアさんへの質問はこのくらいで。

 

プ「連れて帰る事になった彼、まだ名前が出てきてないようだけど」

 

次回出ます。まぁ、使ってた武器から誰かを予想できた方もいるでしょうが…

 

それではこの辺で。

 

プ「また次回会いましょう」


 
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