ヨシュア・ブライト
S級遊撃士
リベールでのワイスマンによる騒動を始めとしてエステル・ブライトと多くの仲間とともに<身喰らう蛇>による事件を解決した。他の<蛇の使徒>が直接出てきた事件を解決したことにより26歳という若さでS級遊撃士に昇格した(このときにエステル・ブライトに正式に結婚を申し込み、それを受け入れられ結婚している)。非公式の情報ではあるが兄同然の存在であった<剣帝>レオンハルトの死と向き合い、けじめをつけたことにより、自身の戦闘力の向上に努め、いつしか尊敬の意味で<身喰らう蛇>の所属していた時の呼び名である<漆黒の牙>と呼ばれるようになる。戦闘力に関しては、同じくS級遊撃士となったジン・ヴァセック、ヨシュアとジンが昇格した際の騒動には参戦できず、遅れてS級に昇格したアガット・クロスナー、アラン・リシャールの三人しか真正面から戦うことはできないほどになっていたという話がある(少なくとも遊撃士協会最上位の一人としてあげられるのは確実である)。
S級遊撃士になってからは以前から考えていたらしい<身喰らう蛇>の殲滅に向けて動いており、大陸全土を巻き込んだ騒動において殲滅とまではいかなかったが、活動停止にまで追い詰め、盟主に活動停止を確約させ、特別な双剣を授けられている(盟主の話を信じるとするならばヨシュアに対する謝罪の意味があるらしいが詳細は不明である)。またこの事件において、エステル・ブライトを始めとする4人の遊撃士がS級に昇格しており、この時代を遊撃士の黄金期と呼ぶこともある(一部ではS級遊撃士の価値が薄れるとの意見もあったが、各国の王がそれを否定した)。
上記のような事件のほかにもエレボニアとリベールの完全和解にも貢献している(当時の王はリベールがクローディア女王、エレボニアがオリヴァルト皇帝で両名ともプライベートにおいてはブライト夫妻と非常に親しかったらしい)。
また、親しいものたちによれば、その言動は少しレオンハルトに似てきていたらしい。晩年は三人の子供と妻であるエステル・ブライト、義妹となっていたレン・ブライトを始めとした多くの人々に見送られてこの世を去った。
リベール新聞社発行 遊撃士名鑑より抜粋
ヨシュア・ブライトは波乱に満ちた生涯ではあったが最期は愛する者たちに囲まれて安らかにこの世に別れを告げた。
はずであった。
「ここは…!?僕の体が若返っている!?」
ヨシュアは窓から差し込む光で目を覚ました。永の眠りに就く前の光景ははっきりと覚えている。瞳に涙をたたえながらも気丈に笑って自分を送り出してくれたエステルとレン、忙しいはずなのに全員駆けつけてくれた息子と娘、涙を流して自分を見るクローゼとティータ、そして自分の死に際に駆けつけてくれた知り合いの人たち。それらの光景はぼんやりとしたものながらもはっきりと現実だったと断言できる。それなのに今自分は見知らぬ部屋で目を覚まし、18くらいのときの体に戻っている。大抵のことならば動じたりはしないヨシュアも流石にこの状況には驚いていた。とうの昔に死別した父もこの状況は慌てるだろう。普通なら夢だ、と思うところだがヨシュアは頭の片隅、僅かに残っていた冷静な部分で判断していた。理由は分からないが、これは現実だと。
そのとき、外に人の気配がしてヨシュアは寝台の上で僅かに身がまえた。
「お?目が覚めたか小僧。気分はどうだ?怪我はしとらんか?」
部屋に入ってきた妙齢の女性が部屋に入ってきて、ヨシュアが目を覚ましたことに気づくと自分の体に異常がないかどうかを聞いてきた。見たところそれなりの腕を持っているようだが、こちらに敵意を向けたりはしていないので警戒のレベルを下げてから口を開いた。
「はい、特に異常はありません。ところで貴女は?」
「儂か?儂の名は黄蓋。字名は公覆と云う。以後身知りおけ。それでお主の名は?」
「ヨシュア・ブライトと言います」
とりあえず相手の名前は分かった。感じ的にはキリカさんと似たような響きの名前だが、自分の顔と名前を知らないのであればここはリベールでもエレボニアでもないだろう。とりあえずは自分が現在いる場所の名前ぐらいは把握しておこうと思い、口を開いた。
「申し訳ありませんが、ここがどこだか教えていただけますか?」
「ここは荊州南陽。我が主、孫策殿の館よ」
荊州、孫策どちらも聞いたことのない地名と名前で、頭の片隅で選択肢としてあった、異世界、または別次元という選択肢が最有力候補に浮上してくる。
「一応聞いておきたいのですがリベールやエレボニアといった国は聞いたことはありますか?」
「…聞いたことないのう」
彼女は一応考えてから答えてくれたが、その反応ですぐにここが自分がいた場所とは違うところだということが分かった。なぜかは分からないが、自分は死がきっかけ…かどうかは不明だが、別の世界へ飛ばされ、そして若返ったらしい。
「…お主がここの国の出身ではないというのはその容姿と名前を見ればわかるのじゃが…お主は昨晩一体あんな場所で何をしておったのじゃ?」
「…申し訳ないのですが僕を発見した状況を教えていただけますか?」
自分は昨晩、別の場所で発見されていたらしい。だが、もちろん死んだはずの自分が何をしていたかなど分かるはずもない。そのとき、
「おっ、起きてる起きてる。おはよう少年気分はどう?」
そんな声と同時に扉が開き、またまた美人の女性が入ってきた。今のヨシュアより少し上くらいだろうか、笑顔で気さくな態度だが、その眼は全く笑っておらず、ヨシュアを見定めるような視線を向けてきていた。
「特に異常はありませんが…現状把握ができておらず、情報が欲しいというところですかね」
「それで、貴女が孫策さんですか?」
「よくわかったわね。そう、私が孫策。字は伯符。この館の主よ」
「僕はヨシュア・ブライトと言います」
彼女の態度や、黄蓋が確認もせずに入ってきたことを窘めなかったことから推測したのだがどうやらあっていたようだ。レーヴェなら雰囲気だけで当てることができそうだが。
「珍しい…というか異国の人みたいだから当然か」
「それよりも僕が発見された状況を教えていただけますか?」
「いいわよ」
そして孫策が自分が発見されたときの状況のことを話してくれる。自分は二人が偵察に出ていたところ、突然周囲が光り、その光が収まった時には倒れていたらしい。
「なるほど」
どうやって自分が現れたのかは分からないが、状況は理解できた。一応は自分は不審者扱いでここに連れてこられたのだろう。彼女の態度からしてそれだけとは思えないが。
「それで、あなたがどうして光とともに姿を現したか分からないから尋問してるの。それで問題が一つ。あなたの素性が分からなければ、あなたは妖として処断されるってこと」
「なるほど、僕が言えることはそう多くはないですね。僕はヨシュア・ブライト。恐らく、いえ、ほぼ確実だとは思いますが僕はこの世界の住人ではないですね。その理由はいくつかありますが、最大の理由と云えば、僕はこの国の地名を全く知りませんし、黄蓋さんも僕の言った国の名前を全く知らないことですか」
「…言っていることは分かるんだけど、理解できないわね」
「ともかく、妖の類や刺客ではないようですな。腕はかなりのもののようですが、警戒心はあったが、敵意は感じられなんだ」
一応処断される可能性の高い不審者という位からはレベルアップしたようだが、まだ納得はしてもらっていないようだ。結局今は保留とされ、晩にまた尋問するということになった。
その晩、周瑜という女性も増えたうえでの尋問が始まった。まずは自分の出身など朝も聞かれたことを話す。当然のごとくそこは理解はしてもらえなかったが、納得はしてもらうことができた。そして次に言われたのが
「この世界とは違う場所から来たと聞いたが、なにかそれを証明できるものはあるか?」
ということだった。ヨシュアはそういう質問が来るということは予想していたのでその準備はできていた。武器以外は取り上げられていなかったようで、戦術オーブメントはそのまま残されていた。下手にアーツを使うのは危険だが、見せなければ証明はできないだろうと調整をしていた。
「これは戦術オーブメントといって特殊な力を使うことができるようになる装置です」
ヨシュアが差し出した装置を三人は興味深そうに眺めている。そしてヨシュアはそれを装備して三人を脇に下がらせて近くにある水差しとテーブルに狙いを定めた。
「ダイヤモンドダスト!」
瞬間、水差しとテーブルが凍りついた。
「なんと!?」
「これは…凄いわね」
「むぅ」
三人はヨシュアが起こした事象を見て驚愕の声を漏らした。真冬でもないのに、しかも室内で物が凍りつくということが信じられなかったのだろう。
「いまは効果が分かりやすいように攻撃用のアーツを使いましたが、調整次第では毒の解毒や治療にも使えます」
「…流石にこれは認めざるを得ないようだな。こやつが我らの知らぬ国からやってきたというのは本当のようだ。それに悪い人間には見えんな。天の御使い云々はおいておいて」
周瑜が腕を組んで唸りながら口を開いた。
「公謹のお眼鏡にかなったようじゃな。度胸もなかなかあるようだし、腕もたつようじゃ。それに人柄もなかなか好ましい」
「なら決まりかな?」
三人はなにやら納得したようだが、ヨシュアは天の御使いという言葉で内心首をかしげていた。
「天の御使いとして祭り上げる資格はあるだろう。…雪蓮の好きなようにすればいいわ」
「…天の御使いとはどういうことですか?」
流石に今度は聞き流せなかった。
「少し前から噂があっての」
「管輅曰く、流星とともにやって来る者はこの乱世を鎮める天の御使いである、とな」
そこでヨシュアは理解した。そんな噂があったところに自分の登場の仕方ではそう思われても仕方ないだろう。
「それで僕はどうなるんですか?」
「その前に質問。あなたはこれからどうするの?」
孫策の言葉にヨシュアは考え込んだ。この世界がどんな世界かもわからないうえ、自分は文無しであるし、この国では自分の風貌は目立つだろう。下手に動けば良からぬことに巻き込まれてしまうかもしれない。
「…下手には動けない、といったところですか」
「それならさ、しばらく私たちと行動しない?私たちといればこの世界のことも教えてあげられるし、食事や寝床も用意してあげられるわ」
「…ありがたい申し出ですけど、条件はなんですか?一つは僕を天の御使いとして祭り上げることみたいですけど」
先ほどの会話を聞いていればそれはすぐにわかる。彼女たちがなにか良からぬことを企むような人間ではないのは分かるが、なにか目的があって自分をそういう存在に祭り上げようとしているのだろう。
「察しがいいわね。条件はいくつかあるわ。まずはあなたの知恵を呉に役立てること。違う世界から来たのなら民の為になりそうなこととかいろいろ知ってるでしょう?そしてもう一つは私に使える武将たちと、あなたから率先して交流を持つこと」
「最初のは分かりますけど…後のはどういうことですか?」
「簡単にいえば口説いてまぐわれってこと」
その瞬間、ヨシュアの頭は完全に凍りついた。最初の条件は別にかまわない。危険なことは教える気はないが、人々の為になるようなことなら喜んで教えよう。しかし、後の条件は予想外だった。
「あなたの胤を呉に入れるの。そうすれば天の御使いの血が入ったってことを喧伝できるでしょう?もちろん、嫌がる女の子にするのはダメよ?」
「それが条件ですか?」
ヨシュアは内心冷や汗をかきながらジト目で孫策を見つめた。脳裏ではレーヴェが涼しい顔で男として頑張れ、と言っていたが、レーヴェがそんなことを言うはずがない、と振り払っていた。
「そ」
「確かに言っていることとその意味は分かりますが…」
「貴様も男なんだから公認で女とヤレて嬉しいじゃろう?ちなみに儂はいつでも構わんぞ?」
「私も~」
「一応は僕も男ですけど…かなり問題があるのですが」
ヨシュアにはエステルといった最愛の女性がいる。一度死んで生まれ変わったともいえる今の状態ならば別に他の女に走っても構わないのではないかという人もいるだろうし、エステルとはもう二度と会えないのだろうからそうすべきなのかもしれないが、いきなりハーレムを作れと同義のことを言われたのでは簡単に頷けるはずがない。そもそもヨシュア自体あまりそういうことは得意ではないのだから。
「…まぁ、そのあたりはおいおい話し合っていけばいいだろう」
「そうしてくれると非常に助かります」
周瑜が助け船を出してくれてヨシュアは本当に助かったという顔になった。
「美少年ではあるけれどそういう経験はあまりないみたいね。それで受けるの、受けないの?」
「ほっといてください。…受けるしかないでしょうね」
ヨシュアはしぶしぶだが頷いた。
「それじゃ、決まりね。冥琳。通達よろしくね」
「はいはい」
周瑜は苦笑しながら頷いていたがどうみてもそれは仕方ない、というようなものだった。
「それじゃ、改めて自己紹介。姓は孫、名は策、字は伯符。真名は雪蓮よ。あなたは知らないだろうけど、真名っていうのは神聖な名前で例えしっていても本人の許しがなければ家族でない限り呼んではダメだから覚えておいてね」
「真名までお許しになるか」
黄蓋が驚いたような声を出すがヨシュアにとっても驚きだった。真名が彼女の言うとおりのものだったならば、今日初めて会ったばかりのヨシュアに許していいものではないだろうと思われたからだ。
「うん、体を重ねるかもしれない男だし、それくらいは特別扱いしてあげないとね」
「…責任重大ですね。そんな名前を許してもらったのではその期待か信頼を裏切ることはできませんね」
「なかなか。やはり頭のいい男のようだ」
「それは光栄…ですかね」
「ま、私のことは雪蓮ってよんでね。それと敬語はなし」
「…分かった。よろしく雪蓮」
「我が名は黄蓋。字は公覆。真名は祭じゃ」
「祭さん、よろしく」
「姓は周、名は瑜。字は公謹。真名は冥琳だ。ヨシュア、貴様には期待させてもらおう」
「期待には応えるよ、よろしく冥琳」
ヨシュアは三人と握手しながらこれからのことを考えていた。
その後、袁術とかいう人間に呼ばれたらしい雪蓮を見送ったあと、呼びに来た陸遜いや、穏と自己紹介をし、現在孫策たちの置かれている状況を確認してからヨシュアは床に就いた。もちろん、武器である「行雲流水・零式」は返してもらったが。
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こんにちは、へたれ雷電です。
リクエストにあったヨシュア編です。正直に言ってレーヴェ編よりもなんだか大変でした。
ああ、自分の文才の無さが恨めしい