No.109696

真・恋姫†無双~三国統一☆ハーレム√演義~ #16 桃香の選択、皆の想い、そして一刀の進む道

四方多撲さん

第16話を投稿です。
一刀が各国の宴会に参加している時。交代で休憩していた他の国の彼女達は――
そして、真・桃香が再び! 彼女の選択がいよいよ三国の乙女達へと伝えられます!
今回二人目のオリキャラが登場ですが、恐らく読者様の予想通りの人物であろうと思われます。既にタグでバレてますが^^;
このキャラに関して、敢えてここで明言しておきたいと思います。彼は“女性”でも“男の娘”でもありません!ww

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2009-11-30 00:24:47 投稿 / 全14ページ    総閲覧数:51118   閲覧ユーザー数:34882

 

 

三国が宴会・休憩・警戒を交代・分担することで、戦勝祝いの小宴会を開いた。

 

一刀は、心配を掛けた三国の娘達に謝罪と感謝を述べる為、各国の宴会に参加。

心配の代償にと延々と酒を呑まされて、とうとう酔い潰れたのだった。

 

 

他の二国が宴会と警戒を担当していたとき。

休憩中の国の陣地では……

 

 

/呉軍 蓮華の天幕

 

「――蓮華」

「雪蓮姉様。どうされました?」

 

呉軍の休憩中、蓮華の天幕に雪蓮が訪れた。

 

「華琳に聞いたわ。……あんなに綺麗だった髪まで切って。よく跡を継ぐ覚悟を決めたわね」

 

そう言うと雪蓮は愛しい妹――蓮華の身体を優しく抱き締める。

 

「最後の大号令も見事なものだったって。ふふ、いつの間にか成長しているものなのね」

「褒めて戴けてとても嬉しいです、姉様。でも、覚悟を決めることが出来たのは……」

 

蓮華は雪蓮へひとつひとつ語っていった。

 

一刀が闇に消えたときの心が張り裂けそうな哀しみ。

雪蓮が計略によって殺されたと思ったときの絶望。

桃香が見せてくれた、絶望を打ち払う“光”。

孫家の跡目を継がなくてはならない重圧。

支えてくれた臣下の皆の言葉と心。

自らが“光”となり、孫呉を継ぐ覚悟。それを示す為の断髪。

一刀が合図を送ってくれて、その生存と戦争の勝機を見つけたときの希望。

 

そして、燃え上がる船の上に愛しい姉の雄姿を見つけたときの歓喜。

 

「……そう。桃香には大きな恩が出来てしまったわね。尤も向こうは貸しとも思っていないでしょうけど」

「ふふっ、そうですね。あの娘はそうでしょうね。でも、孫家の人間は恩義を忘れませんし、私は一度信頼した人間は無条件で信用することにしています。もうあの娘を――“甘い”などとは言いません。今回のことで、私は彼女の“強さ”を間近で見て、感じることが出来ましたから」

 

蓮華はそう言って笑った。

 

「今は私が――この孫仲謀が孫呉の王です。蜀王たる彼女に負けないよう、頑張ります」

「そう。……そうよね、今は――あなたが王、なのよね……」

「姉様?」

 

一瞬、苦悩の表情を見せた雪蓮を蓮華は見逃さなかった。

確かに今、雪蓮は苦しげに何かを口にしようとして……そして言葉にしなかった。

 

「どうされたのですか? 姉様らしくもないです。もし、私へ忠言や訓告があるのなら……」

「違う、違うのよ。あなたは立派に私の跡を継いだ。これからは……蓮華を支えるのが、私の役目よ」

 

 

「――そんな上っ面だけの台詞をお前の口から聞くことになるとはな、伯符……」

 

 

蓮華の言葉を否定した雪蓮へ辛辣とも言える言葉を掛けたのは、天幕へ入って来た『断金の交わり』の片割れ、冥琳だった。

 

「…………」

「冥琳!そんな言い方……!」

「いいの。いいのよ、蓮華。冥琳の言う通りだわ……」

 

冥琳に反発した蓮華を抑え、雪蓮は肩を落とす。

 

「あはは。やっぱ冥琳にはバレバレ?」

「当たり前だ。それこそ見縊るな」

 

困った顔で笑う雪蓮と溜息混じりの冥琳。

 

「どういうことなの、冥琳。雪蓮姉様は……何を悩んでらっしゃるの?」

「逆の立場であったなら、とお考えになられよ、蓮華様。一旦、戦争や柵(しがらみ)を忘れて。もし、自らが“王”という重圧から解放され、跡目を優秀な後進が継いだなら。蓮華様は何を――誰を、想いますか?」

「――!!」

 

冥琳の言葉にはっとなる蓮華。

心中を暴露された形となった雪蓮は苦い顔であるが、それ以上に冥琳は苦渋の表情だった。

 

「……そう。そうですよね……」

 

もう雪蓮を縛る枷はない。単純に孫家という名家の名声を以って一刀に嫁ぐことだって出来る。

但し――跡目を継いでくれた愛しい妹を見捨てて、ならば。

 

故に雪蓮も冥琳も、これ以上言葉を発することが出来なかった。

 

のだが。

 

「ふっ、ふふふっ……! あははっ、あははははは!!」

 

突然、蓮華が笑い出した。雪蓮も冥琳も、これ程に(まるで雪蓮のように)大口を開け、腹を抱えて笑う蓮華は、幼少の頃より見たことがなかった。

 

「ど、どうされたのですか、蓮華様!?」

「あはは……! ち、ちょっと待って冥琳。こんなに笑ったのは久しぶりで……!」

「っていうか、私は初めて見た気がするわよ?」

「うむ。正直、こんな風に……雪蓮のように笑う蓮華様は、私も記憶にないな」

「……なーんか棘を感じる台詞ね、冥琳……」

「気のせいだ、雪蓮」

 

親友二人がじゃれあっている間に、ようやっと蓮華は笑いが収まったようだった。

彼女は息を整え、二人を見据えて、ひとつの質問を口にした。

 

「ねえ。雪蓮姉様、冥琳。二人は……北郷一刀が好き?」

「「!?」」

 

これもまた、普段の蓮華からは考えられない台詞だった。

“王”という重圧から、常に肩肘を張っていた蓮華。まして恋愛ごとには奥手で、体面を気にし過ぎる傾向がある。そんな彼女から、これ程に直接的な恋愛の話が出るとは……

 

「ふふっ。実はこの質問、決戦前夜に桃香からされたものなの」

「桃香から?」

 

「その場には三国の王だけ。華琳は……『唇を許してもいいと思った男は彼だけ』と答えたわ」

「ぷっ、あはははは! 如何にもあの娘らしい返事ね♪」

「して、蓮華様はどのように?」

「ええ。私は……『北郷一刀が好き。きっと雪蓮姉様も、小蓮もそうだ』って答えたわ」

「……うん」

「……ふぅむ……桃香殿は何を思い、そのような質問を? 未だ北郷の行方も分かっていなかった、決戦前夜のことでしょう?」

「それについては……きっと明日、本人から説明があると思うわ。一刀が戻って来たら、全員に話すと言っていたから」

「そっちも気になるけど。結局、冥琳は一刀をどう思ってるのよ?」

 

話を逸らした積もりだった冥琳は少々焦りを見せはしたが。

 

「……北郷は私の命の恩人であり。その勇も知も素晴らしい。何より他者を労わる心がある。――いや、理屈はどうでもいいのだろうな。きっと私も、彼に惹かれているのだ」

 

と答えた。

それを聞いた蓮華は花が咲くように笑い。

 

「それなら良いの。明日の会議を心待ちにしていて。きっと……雪蓮姉様は、もう桃香に頭が上がらなくなるかもしれないわ。ふふふ……」

「ええ~?なんだか楽しみなような、怖いような……。それにしても……結局冥琳も一刀にぞっこんなんじゃな~い!」

「うるさい!一々口にするな、気恥ずかしい!」

 

新たな呉王の天幕は、夜遅くまで賑やかだった。

 

/魏軍・華琳の天幕

 

「~~♪」

 

華琳は、ようやっと終わった戦争での汚れを落とそうと、わざわざ(少量ではあるが)湯を用意させ、その華奢な身体を“拭かせて”いた。

その(魏内では)名誉な役目を今回賜ったのは、秋蘭と桂花、そして流琉だった。

 

「おや、華琳様。此度はまた随分とご気分がよろしいようですな」

「ふふっ♪ そうかしら?」

 

幼少より華琳に侍り、その覇道を武官・文官としてだけでなく、親類として、愛人としても補助し続けた秋蘭である。

その彼女から見ても、これ程上機嫌な華琳の様子はここ暫くなかった。

故に秋蘭は思わずそう口にしていた。

 

「戦争にも完全に勝利し、こうして身を清められて。機嫌も良くなろうというものではないの」

 

桂花はそう秋蘭に言いつつも、内心では確かに主の機嫌の良さに驚いていた。

 

「そうですね。戦争に勝てたこともそうですけれど。――兄様もご無事でしたし」

「くすくす……♪ そうね、『天の御遣い』だけあって大した悪運だわ♪」

「「!?」」

 

流琉がある意味、自身の本音を晒すと、これまた珍しく華琳が話に乗ってきた。

驚いたのは秋蘭と桂花である。

 

今までの華琳であれば、

 

『ふん、悪運だけはあるようね!』

 

と“興味のない振り”で、不機嫌気味に言い捨てただろう。

これは一体どういう心情の変化なのか。不安になってしまった(或いは嫌な予感がしたのか)桂花が問うた。

 

「か、華琳様? あ、あの男が生きていようと死んでいようと、どうでもよいではありませんか。何故、そのように嬉しげに……あんな男のことをお話になるのですか!?」

 

「あらあら。桂花の一刀嫌いも困ったものね。ふふ……そんなことでは、明日の会議でまた叫ぶことになるわよ?」

「明日の会議、ですか? 明日は、五胡兵の連行部隊を編成して、首脳陣は国許へ帰参するだけではないのですか?」

 

会議があるとしても、五胡兵連行部隊編成の相談と諸外国の冊封の下準備くらいと考えていた秋蘭が尋ねる。

 

「そうね。それも勿論話し合うけれど。もっと重大な……この大陸の未来を決めうる事項について、桃香から提案があることになっているのよ」

 

華琳はそう言いつつも、くすくすと笑いを抑えきれない様子。

 

「桃香様から、ですか……? うーん、全然思い当たりません……」

「そう? 流琉なら、きっと喜んでくれると思うわ♪」

「え!? そ、そうなんですか?……余計に分からなくなってしまいました……」

 

流琉が首を捻るが。華琳のその一言に、秋蘭と桂花は脳裏に閃くものがあった。

 

(ま、まさか……そんな筈……そんなことで華琳様のご機嫌が良くなるなんて、ない! ないわよね!?)

(ふぅむ。流琉なら喜ぶ。そして華琳様自身、まるで“長きに渡る悩みが解けた”ような、このご様子……)

 

即ち、三国による『天の御遣い』北郷一刀の分担招聘である。

 

「あら、二人には何か思い当たるのかしら? ふふっ、でも、きっとその想像は間違っているわ。……ああ、皆の驚く顔が楽しみだわ♪」

 

三人に服を“着させた”華琳は、そう言って笑うのだった。

 

/蜀軍 桃香の天幕

 

蜀王たる桃香の天幕は、いざという時に会議が出来るように大きめのものが張られている。

しかし、今晩のその天幕は、許容量以上の密度で女性が密集していた。

 

「さ、流石にちょっと狭いね」

 

蜀軍の休憩当番中である現在、この場にいるのは、今回の戦に参加した、一刀を除く蜀の将軍と軍師全員、総勢十四名である。

 

「して、桃香様よ。いきなり全員を呼集とは、如何なるご用件で? しかも、お館様のみ呼ばずとは」

 

全員を代表して、桔梗が王・桃香に問う。

 

「うん。本当は、国許にいる娘達にも一緒に聞いて欲しいことなんだけど。状況が状況だから、この場にいるみんなに訊きたい――そして、お願いしたいことがあるの。ご主人様には……内緒にしておけって華琳さんが言うから」

 

桃香は一人立ったまま、自らの前に座る全員に向けてそう言った。

その表情は真剣で。普段の緩い雰囲気など微塵も感じさせない。

 

「まず、朱里ちゃん」

「は、はいぃ!?」

「今回の五胡の人達との戦争……未然に防ぐことは出来たと思う?」

『っ!?』

 

桃香の言葉に衝撃を受ける軍師達と幾人かの将達。

 

「……はい。三国同盟が“正常”に機能していたならば、恐らくもっと早く対処が可能だったと考えます……」

 

一拍の間を置き。朱里は、軍師の顔となって答えた。

 

「……雛里ちゃん。対処が遅れた原因は何?」

「は、はい。それは……三国がご主人様を巡り、互いを牽制することばかりに気を取られ、諸外国の動きに目が向いていなかったことが……最大の原因、でしょう……」

 

雛里もまた、王の質問に軍師として真摯に答えた。

そして、蜀の二大軍師の意見を否定するものは誰もなかった。

 

「ねねちゃん。それなら、ご主人様が帰って来てくれた今。朱里ちゃんのいう“正常”な三国同盟を続けていく方法はある?」

「あ、あぅ……そ、それは……」

 

その諮問に、音々音は口籠もり桃香と恋の顔を交互に窺った。

 

「……ねね。考えがあるなら、言う。……それが仲間」

 

恋は、直感的に音々音が考えている献策の内容が、自らに不都合なものであることを見抜いた。

それでも尚。彼女は愛する軍師にそう言って見せる。

かつてその強さと性質故に孤独の将であった彼女は、一刀の愛に触れ、自らの『仲間』を……家族を内包する、より大きな守るべきものを見出した。

今や彼女にとって『仲間』は家族同然。だからこそ常より侍り、自分の孤独を癒してくれた音々音へ、真摯な答えを求めたのだ。

 

そして、主の覚悟を見た音々音もまた、覚悟を決めた。

 

「――はい、恋殿。分かったのです。……では、桃香。ねねの考えを聞くです」

「うん。お願い」

「まず言っておくですが。この案は……皆にとっては苦痛の選択でしかないのです。それを覚悟するのです……」

 

そう前置き、献策を始めた。

 

「雛里の言う通り、三国同盟が歪んだ原因は、魏も呉もあのへぼ太守が欲しいからなのです。ならば、それを解消するには……奴を、長期的に他の二国に派遣するしかないのです」

 

音々音の献策に、思わず腰を上げてしまったのは、愛紗と鈴々、翠に焔耶、そして白蓮だった。

また腰を浮かすことこそなかったが、他の将も多かれ少なかれ動揺があった。

 

しかし、桃香は彼女らを視線と言葉で抑えた。

 

「まだ結論じゃないから。落ち着いて、みんな」

「は、はい……」

 

皆が落ち着くのを確認し、桃香は『伏龍』と『鳳雛』に再度問うた。

 

「朱里ちゃん、雛里ちゃん。もし、ねねちゃんの策が採用されたとして、期間はどうなると思う?」

「あわわ!?ええっと……単純に分割するなら、一年の中、四ヶ月ずつですが……」

 

雛里は、朱里に目線を送る。

 

「……そうですね……ご主人様が元々は蜀の主であることを引き合いに出せば……。蜀に六ヶ月、魏・呉に三ヶ月ずつ、というところまでは交渉可能だと思います……」

 

主君へと答える雛里・朱里ともが、回答こそはっきりしていたが、その表情は苦渋に満ち、泣き顔にも近しかった。

そしてそれは、二人の返答を聞いていた、蜀の全ての将とて同じだった。

 

「うん。華琳さんも雪蓮さんも、全く同じ意見だったよ。酒宴での言葉だけどね」

「桃香様! 桃香様は……それでいいのですか!? 六ヶ月……半年もの間、ご主人様と離れ離れになるのですよ!?」

「そうなのだ!鈴々は……そんなのヤなのだ!」

 

冷静な態度を崩さない桃香に、愛紗と鈴々が爆発した。彼女達の意見はその場にいる全員の代弁でもあったろう。

 

「……そうだね。でも、考えてみて。魏と呉で、ご主人様が好きな娘は……それこそ一ヶ月に一度、三国会談の三日間しかご主人様に会えないんだよ?」

「そ、それは……」

「あ、あぅ……」

 

桃香の反論に、意見出来る者はなかった。

たとえ国が違えども、彼女等は友人だ。友人が想い人に会えず苦しんでいることを承知で、自分達だけが彼に侍ることに、誰もが罪悪感を感じていたのだ。

 

「……それしか、ないのでしょうか……? それとも……半年、共に暮らせるだけでも。我等は……幸せなのでしょうか……?」

 

愛紗は、もういつ泣き出してもおかしくない程に、顔を歪ませていた。

星や、年長である紫苑と桔梗は、瞑目して覚悟を決めんとしていたが、その目尻には光るものがあった。

鈴々を初め、翠や蒲公英、恋の若き武将達は拳を握り締め。俯き、ようやっと涙を堪えているようだった。

軍師達は、嗚咽を抑えるのが精一杯で、涙が頬を伝っていた。

 

そんな中で。桃香は、思い切り息を吸い込み。

 

 

「――私は嫌! 半年もの間、ご主人様に会えないのも! 魏や呉の娘達が、ご主人様に会えないことで悩むのも!!」

 

 

今までの冷静な態度から一転。彼女には珍しい程の激しさを伴って、はっきりと高らかに言い切った。

 

「は、はわ!? で、でも桃香様ぁ……同盟の正常化には、平和を維持するには仕方がないんですぅ……」

「あわわ……そんなことを言われてもぉ……ひぐっ」

「ぐずっ……そ、そんなのは只の我儘なのです!」

 

いつにない激しさの桃香に押されつつも、軍師達は口々に反論し。武将達は、余りのことに言葉も出ない。

 

しかし、桃香は更に皆へ問うた。

 

「じゃあ! 何が仕方ないの!?」

「はわわわ……し、仕方ないというか……国が違うのですから。ねえ雛里ちゃん?」

「う、うん……ご主人様に各々の国へ出向いて戴くしか……」

「そう! それだよ、朱里ちゃん、雛里ちゃん!!」

「はわ!?」「あわ!?」

 

我が意を得たり、とばかりに桃香は朱里と雛里を指差した。

 

「私達の『蜀』と、華琳さん達の『魏』と、雪蓮さん達の『呉』で何が違うの!? 私達が、みんな揃ってご主人様と一緒にいることを邪魔しているのは……一体何なの!?」

「「「!!」」」

「「「「!?」」」」

 

両腕を広げ、強い口調で問う桃香。

軍師三人は、桃香が言いたいことを理解し、目と口を大きく開いたまま動けない。

愛紗と星、紫苑や桔梗は、主君のその言に驚愕を隠し切れなかった。

 

「(ぱくぱく)」

「…………」

「どういう……ことなのだ?」

「あ、あたしに訊くなよ。分かるわけないだろ?」

「えっと~……素直に答えるなら……『国』?」

 

蒲公英の小さな一言に、いよいよ全員に衝撃が走った。

 

「と、桃香様……ま、まさか……」

 

ようやっと言葉が出た愛紗へ、そして愛しい仲間達へ、桃香はにっこりと笑みを見せた。

 

/???

 

「うー……? あ゛~、頭いてぇ……つか、喉渇いた……」

 

一刀はゆっくりと身体を起こした。自分の現状を思い出せない。

 

「えっとー……俺、どうしたんだっけ?」

 

周囲を見回すと、どうやら天幕の簡易の寝床に寝ていたようだ。

 

「ああ、確か呉のみんなと呑んでて……途中から記憶がないな。誰かが運んでくれたのかな?」

 

一先ず、寝床の横にあった水差しで喉を潤すと、一刀は天幕の外へと出た。

太陽こそ山の先に隠れて見えなかったが既に昇り始めており、周囲も明るくなっていた。

 

「ん?あれは――」

 

目を凝らすと、陣地で慌しく何かの準備をしている一団に気付いた。

 

「葉雄!」

「……北郷様」

 

葉雄やその親衛隊が、荷物を馬に載せているところだった。

 

「もう、往くのかい?」

「……はい。私が大陸の端で暴虐を振るう賊を討ち倒すことが、貴方様へのご助力となることを知った今。私は……かつてない“力”が我が身の内に漲るのを感じておるのです」

「そう、か。……なら、俺は君と部下の武運を祈るのみだ。――いつか、また会おう。葉雄!」

「ははっ!」

 

こうして元董卓軍将軍、華雄――今は葉雄と名乗る武人は、少数の親衛隊を率い、三国を去っていった。

 

/同盟軍本陣

 

夜は明けて次の日。

 

蒼天の下、同盟軍の本営の中央には、三国の武将・軍師達が集まっており、今後の対処を含め大会議が執り行われていた(人数が多い為、天幕内ではなく、野外で行われている)。

 

しかし、この場にいない者達がいた。桃香、愛紗、朱里、雛里を除く蜀勢全員である。

三国の王達は、この場に一刀を同席させない為に、蜀将によって一刀の足止めを行っていたのだった。

その方法については敢えて言及しないが、恐らく彼は今日一日(場合によっては明日も)、歩くことも儘ならないことであろう。

 

既に五胡兵の連行部隊の編成などについては結論がついており、最後の議題として、いよいよ桃香が立ち上がった。

 

「……みなさん。今此処にいる私を王様だって思わないで。私の質問に、心の中だけでいいから、答えて下さい」

 

桃香の切り出した言葉に、場が少々ざわついた。

はっきり言って、ちんぷんかんぷんな内容である。

しかし、桃香が次の言葉を口にすると、いよいよ場は騒然となった。

 

 

「みなさんは……北郷一刀さんを愛していますか?」

『!!?!?』

 

 

周囲に走る動揺。どよめきが起こり、辺りを支配するかのようだった。

 

 

魏軍では。

 

「にゃ、にゃにお言っておるのだ、桃香!?」

「…………ふむ」

「そんな訳ないでしょう! 馬鹿なこと言わないで!#」

「そりゃ、兄ちゃんのことは好きだけど。“アイシテル”は良く分かんないなぁ。流琉は分かる?」

「ええ!? ちょ、ちょっとそれは……////」

「と、桃香殿、一体何を……ぶふっ!」

「はい、とんとーん。……稟ちゃんも、“そう”だったのですか?」

「い、いえ。そうではなく。以前穏殿に言われたことを思い出してしまい……ふ、風!今、“も”と言いましたか!?」

「はて、なんのことやらー?」

「こんな会議の場で、なんでそないな話になんねん!?」

「……////」(俯いて赤面)

「きゃ~~!凪ちゃんたら~そんな反応したらバレバレなの♪////」

「ホンマやで、凪~♪ ちゅーか、そんなこと言うて、沙和も顔赤いんちゃうの?」

「それは沙和の台詞なの~! 真桜ちゃんこそ、普段から北郷さんのこと褒めてばっかりな癖になの~~!」

 

そして、そんな部下達を見て、ニヤニヤと笑みを浮かべる華琳。

 

 

呉軍では。

 

「……(桃香ったら何を考えてるのかしら?)」

「……(本当にそんな議題が出るとはな。確かに三国同盟にとっては急務かも知れんが)」

「いやぁ~~ん♪(くねくね)」

「…………#」

「ほっ、これはまた直球じゃのう。若い若い♪」

「か、一刀様……////」

「はぅあ~~!////」

 

そして、少々複雑な笑顔の蓮華。

 

 

桃香は続ける。

 

「みなさん、思い出してみて下さい。

 前回の三国会談、同盟一周年の記念祭典で、管輅ちゃんが北郷一刀さんを『天』に帰そうとした時。

 そして今回の戦で、北郷一刀さんが崖に落ちて行方が分からないと聞いた時。

 その時……心にヒビが入ったような不安を。

 足元が崩れ落ちるような絶望を。

 自分の心の中の“光”が消えたような思いをしませんでしたか?」

 

その言葉に、華琳や蓮華を含めて、その場の誰もが沈黙した。

 

管輅が北郷一刀に天へ帰る方法を示した時から、誰もがその小さな心の綻びを抱えていた。

そしてこの『第三次五胡戦争』において、彼は一度その姿を消した。

二度と彼に会えないという絶望を。大切な者の死という理不尽な現実への怒りを。

戦乱という厳しい時代を生き抜いた彼女らが、既に知っていた筈の現実を改めて突きつけられたのだ。

『天の御遣い』たる彼とて、決して不死不滅の存在などではないのだと。

 

「もし、その思いを感じたのなら。きっとみなさんもご主人様を――北郷一刀さんを愛しているんだと思うんです。少なくとも……惹かれている証拠」

 

反論は出ない。

桃香はそこで一旦間を取った。

一度視線を下ろし……なお強い意志を以って全員を見据えんと前を向いた。

 

「一年前、私達は『天下三分の計』によって、三国同盟を組んで大陸に平和を取り戻しました。でも……今、三国はある意味で“敵同士”となってしまっています」

『!!』

 

“敵同士”。

桃香は敢えてその言葉を使った。

それは、この場の誰もが心の何処かで考えていたことを、厳しく痛烈に表現した言葉だった。

まして“敵”という言葉を普段用いない桃香の口から出たその言葉は、皆の心を抉るかのように響いた。

 

「私達、蜀は北郷一刀さんを失いたくない。魏や呉のみんなは、北郷一刀さんともっと一緒にいたい。そうですよね?」

 

桃香の言葉に否をはっきり唱えたのは……桂花だけだった。

 

「な、なんで!?どうして――」

「桂花。今は聞いておきなさい。あなた個人ではなく、曹魏筆頭軍師として」

「は……はい、華琳様」

「じゃあ続けて頂戴、桃香」

 

その桂花も、華琳の説得に口を噤んだ。

 

「このまま三国同盟を続けるには、ご主人様に三国を行き来して貰わなくちゃならない。

 でも、それは私達が望んでいる“一緒”じゃない。

 蜀だけじゃない、みんな――あの人と一瞬でも離れたくなんかない!」

 

誰もが沈黙していた。

内心、それぞれに思うところはあったろうが、大筋において彼女の弁は……彼女達の総意に近しいものであったから。

 

「今の私達を阻むのは……『国』という壁。

 魏、呉、蜀という大きな壁が、『仲間』である筈の私達の間に聳(そび)えています。

 そして、『仲間』である私達が“敵同士”となってしまった原因は、北郷一刀さんが蜀の主だという“立場”。

 なら、全員の望みを叶える方法はひとつしかないんです!」

 

「ちょ、え!? 桃香、もしかして!?」

「――!!」

 

此処まで黙していた雪蓮が、初めて動揺を見せた。その隣では冥琳が目を見開いている。

 

「(あんぐり)」

「ま、さか……!?」

「……成る程ー、そういう手がありましたかー。華琳様を無上の王と戴く魏の者には思いつかない手段ですねー」

「ははぁ~、それは思いつきませんでしたねぇ♪」

「え?え!?」

 

魏の参謀も、呉の軍師もそれぞれに反応を見せていた。

 

「うん。雪蓮さん、その通りだよ。蜀だけでご主人様を独占は出来ないし、したくない。

 でも、三国で分担したらご主人様のいない、寂しい時間が長過ぎる。

 だったら……『仲間』であるみんなが、常にご主人様の隣にいる為には――」

 

一拍の間。

誰かの嚥下の音。

息を吸い込む桃香。

 

 

「――ご主人様を中心に、『国』をひとつにしちゃえばいい!!」

 

 

そこからは上を下への大騒ぎであった。

驚愕で絶叫する者、開いた口が塞がらない者、信じられぬと乾いた笑いを漏らす者……

 

「あはっ!あははははは……!!」

「こ、これは正直参った……まさかそんな発想に至るとはな……」

 

腹を抱えて笑う雪蓮と、驚き半分呆れ半分の冥琳。

 

「ね、昨日言った通りでしょう? 雪蓮姉様は、もう桃香に頭が上がらなくなるかもしれないって。それにしても……我が軍どころか、魏も含めてほぼ全員が一刀に骨抜きだったのね……」

 

苦笑と共に話しかけたのは蓮華。複雑気なその笑顔は、やはりライバルの多さからか。

 

「なによ、気付いてなかったの?……思春だって、内心どうだかねぇ?ふふ……」

「ええ!? 思春もなの!?」

「――事実無根です! 雪蓮様も何を仰るのですか!?」

 

わざわざツッコミに思春が現れていた。

 

「ま、本人がそう言うのだから、そうなんでしょ♪」

「くっ……#」

 

対して雪蓮はさらりと流してしまい、怒りの持って行き場のない思春である。

 

 

 

「……さあ、皆の者。桃香の意見に否がある者はいるか?」

 

暫くして場が落ち着き始めた頃。華琳が全員に向けてそう言い放った。

 

「私はないわ。というか願ったり叶ったりとはこのことだもの。ほーんと、もう桃香には頭が上がらないわ♪」

 

とウィンク混じりで答える雪蓮以下、呉軍に反対する者はない。

(思春のみ、沈黙したまま怒りのオーラを放っていたが)

 

魏軍でも反対する者はいなかった。

 

先刻は反対してみせた桂花だったが。

個人的感情を排し、飽く迄軍師・参謀として鑑みるに、桃香の案は現状において有用な方策であることは確かだった。

 

――『天の御遣い』が降臨し、乱世を鎮め、大陸全土を統治する。

 

まるで御伽噺のような話であるが故に、庶民層には強烈な印象と忠誠・求心力をもたらすだろう。そして、三国の優秀な武将・参謀を以って政権中央を固めれば、大陸統治は十二分に可能である、と判断せざるを得なかった。

 

(きぃぃぃ!反論の筋が見出せない……! そもそも華琳様もその御積もりのようだし……あんな男が、華琳様の上に立つなんて!……ああ、腹が立つ!!)

 

「……私も否はございません。華琳様の御意のままに……#」

「こめかみに血管を浮かべながら言われてもねぇ……くすくす♪」

 

なんとか反論しようと悩みに悩み、そして無念気に賛成した桂花の様子に、華琳はご満悦のようである。

 

「魏も、呉も。反対はないわ。桃香、約束通り謁見の準備はしておくから。ちゃんと上奏文を考えておきなさい」

 

ごくリラックスした様子で、桃香へ今後の方針を伝えた華琳だったが、桃香はまだ緊張を解いていなかった。

 

「……みなさん! まだ……もうひとつだけ、お願いがあるんです!」

 

「!?」

 

誰もがまた驚いた。

(ほぼ)満場一致で自身の意見が通ったというのに、彼女にはまだ言いたいことがあるらしい。

 

「……言って御覧なさい」

 

華琳が続きを促すと、桃香は頷き、また口を開いた。

 

「今、みなさんに賛成して貰ったことを実現するには……私は。……私達は『漢』を滅ぼさなくちゃいけないの!」

『!!』

 

北郷一刀を中心とした新しい国家を作るには、現在の王朝である漢王朝から王権を奪わなくてはならない。

桃香は、そのことに強い苦痛を感じていた。

 

王者の剣『靖王伝家』を所持し、中山靖王・劉勝の子孫であることを自称して決起した劉備こと桃香。

つまり彼女は漢王朝の末裔であるということだ(真偽は不明であるが)。

自らの祖先が築いた、四百年もの長きに亘った漢帝国に、自ら止めを刺さねばならない。

儒教という道徳観の中で、彼女は大いに苦しんだに違いないのだ。

 

内心の苦悩を表すように、顔をしかめている桃香。

 

(この私としたことが……有頂天になって、桃香の苦悩に気付かないとは、不覚だったわ……。でも)

(桃香……そう、一人で悩んでいたのね……気付けなくて、御免なさい……。ええ。そうね、華琳)

 

華琳と蓮華は目配せし合い、二人は桃香へと向き直る。

まず口を開いたのは華琳から。

 

「……桃香。私は、あなたが劉協の跡を継ぎ、漢の皇帝として即位してもいい、と考えているわ。あなたになら、この曹孟徳と曹魏の全てを預けることに否はない」

「「華琳様!?」」

 

合理主義者である華琳は、相手が桃香ならばこそ。かつては覇王を名乗った自分の上に立つことを認めると、そう言ったのだ。そして、桃香が皇帝となるならば、漢王朝を滅さずに済み、北郷一刀の共有化という目的も果たせる。

春蘭と桂花は、主君の言葉に思わず叫んでしまっていたが。

 

「……私もだ。三代目呉王として。桃香、信頼するあなたにならば。孫呉の全てを預けてもよい」

「…………」

 

幼少より帝王学を学んだ蓮華は、桃香の苦悩を理解し、そして信頼するからこそ、そう言った。

雪蓮もまた、妹王の意見に沈黙を以って同意を示した。

 

しかし、桃香は首を横に振った。

 

「ありがとう、二人とも。でも、それじゃあ駄目なんだと思う。新しい『国』は……三国が完全に混じり合わなくちゃいけないんだと思うの。そうでなくちゃ、きっとまた“切れ目”が出来ちゃう。だからこそ……」

 

三国の皆を見回し。魏呉の王を見据えて。

 

「だからこそ、ご主人様――北郷一刀さんこそが、新しい『国』の主に。新たな皇帝に相応しいと思うの。その為には……天子様から禅譲して戴かなきゃならない」

 

禅譲とは、皇帝が(現王朝の帝の血筋でない)次代の王朝――大概においては諸侯の有力者――へ王権を譲り渡すことである。これにより古き王朝は滅び、新しい『国』が創立されることになるのだ。

 

「そう……あなたが覚悟を決めているなら、それでいいわ」

「ならば……何を願いたいというのだ?」

 

魏呉の両王は桃香の意見を尊重した。そして、蓮華が改めて問う。

 

「うん。私……禅譲して戴くことを、天子様に心から納得して欲しいの!」

 

「なっ!?……はぁ~……また桃香のコレが出ちゃったのね……」

「……禅譲というだけでも十分だと思うが……桃香ならこう言うのは必然だったのかも知れないな……」

「ふふっ。蓮華も随分、桃香を理解してきてるわねぇ♪」

 

華琳、蓮華、雪蓮のツッコミに、少々怯みつつも。桃香は断言した。

 

「うう……“甘い”って言いたいのは分かってるけど。やっぱり、天子様にも分かって欲しい。ご自分の跡を継ぐ人が、ご主人様がどれだけ凄い人なのか。後を任せるに足る人だってことを」

「――ふふん、面白いじゃない。後はアレ次第ってわけね」

「一刀の魅力が男に通じるのだろうか……?」

「ま、正直なとこ。世間知らずの坊ちゃんくらい説得出来ないようじゃ、大陸を治めるなんて無理でしょ」

「ね、姉様……それはいくらなんでも不遜なのでは……」

「不遜なのも確かだけれど、雪蓮の言も尤も。さて……皆も、それで良いな!?」

 

華琳の確認に、誰もが頷いた。

 

「ありがとう、みんな! きっと。きっとご主人様なら、天子様も納得して下さるから!」

 

玉座には一人の男性が座していた。

幼いと表現してもよいであろうその相貌――実際、この場の誰より年下であったが――は、中性的な美しさの中にも、王者の凛然たる光が確かにあった。

 

「こうして見(まみ)えるのはいつ以来か。久しいな――孟徳、伯符。仲謀と玄徳は初見であるか」

 

悠然とした――どこか影のある――声で、そう語りかけるこの少年こそ、漢王朝皇帝・劉協である。

三人の王と、呉の先主・雪蓮は、皇帝の前に臣下の礼をとって跪いている。

呉の王は既に蓮華に継がれているが、劉協との謁見において直接上奏する桃香をフォローする為、場に慣れている雪蓮が共に謁見することとなったのだった。

 

権威としてはこの場の五人で……いや三国において最高位でありながら、その力は無きに等しい。

悪い言い方をすれば、劉協は曹操・華琳の傀儡(かいらい)なのだ。

しかし、本人はそのことをもう恨んだりはしていない。

実際、魏王である彼女や他の二国の王の治世によって世に太平がもたらされているのだから。

故にその声に宿る影は、皇帝でありながら平和へ貢献できない自身への様々な感情が膿んだものであった。

 

「皇帝陛下にはお変わりなく――」

「余計な挨拶はよい。して……今日の用向きは何なのだ。三国の王が一同に謁見を求めるなど、今までになかったことではないか」

 

定型の挨拶を述べようとした華琳の言葉を遮り、劉協はそう切り出した。

 

「は。実はこの度、蜀王・劉玄徳より皇帝陛下へ上奏したき儀があり謁見を申し出た次第」

 

華琳に促され、桃香が前に出る。

 

「こ、こここここの度は、わたくしめの謁見の申し入れをお許しいた、いただだだき……」

 

まるで朱里や雛里のような吃(ども)りっぷりに、華琳と蓮華は嘆息。雪蓮はこっそり笑みを浮かべていた。

劉協も、苦笑している。

 

「……陛下。玄徳は、こういった畏まった場の経験が少なく。どうかご容赦を」

「ああ、分かった。……玄徳よ。普段、孟徳や伯符、仲謀にするように話すが良い。折角の機会に、朕に言いたいことが伝わらないのでは、謁見の意味もなかろう?」

「ああああ、ありがとうございます~~!」

 

雪蓮のフォローにより、劉協にそう言って貰えたことで多少落ち着いたか。桃香の眼に平時の――理想の光が灯る。

 

「……天子様。今回の五胡との戦争に、私達はなんとか勝利することが出来ました。でも、この戦争が始まってしまった……未然に防ぐことが出来なかったのは。私達『蜀』と。曹操さんの『魏』と。孫策さん、孫権ちゃんの『呉』と。同盟を組んでいる三国が――戦(いくさ)に感(かま)けて、外を見ることを怠ったからなんです」

 

「い、戦だと!? そんな馬鹿な! 実際、五胡め等が攻めて来るまで、平和であったではないか!」

 

「そういった戦ではありません。私達は、『天の御遣い』と呼ばれ、みんなから慕われる北郷一刀さんを取り合って、互いを睨み合っていたのです。つまり……“女の戦い”です」

 

「そ、それこそ待ってくれ。民心を求めてですらなく。つまり……色事に溺れて、外国への対処が遅れた、と!?」

「……はい」

 

劉協は、暫し何も言えなかった。

はっきり言って、免職ものの大問題である。

しかし、三国の王を初め、この平和を作り出したのもまた、彼女らだ。

衝撃だけでなく、その考えもまた、劉協を沈黙させた。

 

しかして桃香は語り続ける。

 

「私を初めとした蜀の者は、北郷一刀さんを『ご主人様』と呼び慕い、集った仲間達です。でも……今や彼の人は、三国のみんなから慕われるようになりました。ある意味、三国同盟が強固な絆で結ばれたから。魏や呉の娘達も、ご主人様――北郷一刀さんを愛するようになったんです」

 

「…………」

 

「でも、やっぱり……『国』という枠や壁は大きく高くて。私達は彼を取り合うようになってしまった。このままじゃ、また平和が崩れる時が来てしまうかもしれない……だから」

 

桃香は、胸の前で手を組み、劉協へ強い眼差しを向ける。

その瞳に宿る光。意志の強さ。平和への渇望。そして愛しい男への想い。

劉協は、桃香の心を垣間見た気がした。

 

「だから……『国』をひとつにしたいんです!」

「国をひとつに?……劉勝の子孫というそちが、朕の跡を継いで皇帝となるということか?」

「……いいえ。『天の御遣い』と謂われる北郷一刀さんを中心とした、新たな国を作りたいんです!」

「!!?」

 

彼女の心を垣間見て、なお。彼女の放った言葉は劉協へ凄まじい衝撃を与えた。

 

「…………。つまり、玄徳は。朕に、『漢』を滅ぼせ、というのだな……?」

「……はい」

 

桃香の驚愕の発言に腰を浮かせていた劉協は、今度は腰を抜かしたかのように、深く玉座へ座り直した。

 

(やはりこうなってしまったか……。朕が――“僕”が弁兄上より王位を継いだ時から感じていた予感が、いよいよ現実となる時が来てしまったのだな……)

 

そして、瞳を閉じたまま、ゆっくりと口を開いた。

 

「……そちらの情け深さから言って、簒奪(さんだつ)は有り得まい。朕に、禅譲せよ、ということか」

 

簒奪とは王権を奪うこと、禅譲とは王権を譲ることであるが。

劉協自身には権力も武力もない。実質の大陸の支配者たる三国の王からの提案を断ることなど出来よう筈がない。

 

(提案というよりは、最早命令のようなものだ。ならば簒奪であろうと禅譲であろうと変わりはない、か……。朕を殺すか否かと言うだけだ……)

 

劉協は、内心そう諦観していた。

 

しかし。

 

「天子様。私達は……天子様から、私達三国の王ではなく、『天の御遣い』と謂われる北郷一刀さんに禅譲して戴きたいと考えています。でも、天子様が納得出来ないまま、事を進めたくは、絶対にないんです!」

「!?」

 

またもや桃香の発言に驚愕する劉協。

思わず立ち上がってしまった桃香の後方では、残る三人が苦笑を漏らしていた。

 

「今。ご主人様――北郷一刀さんを、中庭で待たせています。どうか、あの方とお話ししてみて下さい。そして、どうして私達があの人にこれ程惹かれるのか。それを天子様にも感じて欲しいんです」

「な、ならば共に謁見すれば……」

「それじゃ駄目なんです! あの人の“チカラ”は、畏まった場で見たり感じたり出来るものじゃないから……」

「…………」

「五日間、天子様のお時間を下さい。もし。もし、天子様が北郷一刀さんを見て、話してみて。それでも彼が新たな皇帝に相応しくないと思われたのでしたら。……この件は諦めます」

「あ、諦める!? つ、つまり……禅譲するか否かの判断を朕に委ねるということか!?」

「はい」

 

桃香は迷い無く即答した。

 

「も、孟徳、伯符、仲謀も同意しておるのか!?」

「「「御意」」」

 

華琳、雪蓮、蓮華もまた即答したのだった。

 

「あ~。暇だ……」

 

一刀は、魏都・許昌のとある大屋敷の中庭で暇を持て余していた。

 

 

先の『第三次五胡戦争』より一月足らず。

捕縛した五胡兵は、基本的には故郷へと送り帰し。合わせて諸外国へは遣いを送り、冊封の下準備は完了している。

三国の首脳陣は各々の国許へと帰参し、軍事行動を終了(徴兵した民兵の解散など)させ、戦争によって乱れた国内を治める為、政務に没頭した。

 

そして二十日前後という短期間で、三国が落ち着きを見せた頃。

 

一刀に三国の国主――桃香、華琳、蓮華――の連名で召喚命令が下された。

曰く、蜀王・劉備と共に、魏都・許昌のとある貴族宅へ来訪せよ。

 

理由を桃香に尋ねても、のらくらと逸らかされるばかり。訝(いぶか)しみながらも、一刀は政務を軍師らに一任。蜀都・成都を出立し、桃香や少数の護衛と共に魏都・許昌を訪れた。

 

なんでもこの屋敷に住む貴人に、桃香・華琳・雪蓮・蓮華の四人で会うのだという。

連れて来られた理由の説明は未だになく、しかも一刀自身を件の貴人には会わせないという、中途半端な状況。

一刀は、話が終わるまで中庭の東屋で待つように言われ、仕方なく待ち惚けているのであった。

 

 

そこへ現れたのは、盆を手にした少年。

 

「え、え~……。ほ、北郷一刀……様で……すか?」

「え? ああ、はい。北郷一刀です。どちら様ですか?」

「ち……私はこの屋敷の貴人に仕えております小姓です。お茶をお持ちしました」

「ああ、ありがとう。お名前を伺ってもいいかな?」

「……私は伯和と申します……」

 

会話しつつ、中庭の東屋に座り、茶を啜る。

どうにも緊張している伯和に、一刀から切り出した。

 

「間違ってたら、ごめんなさい。君、小姓って言ってたけど、結構な身分の人なんじゃ?」

「……何故そのように思われたのですか?」

「うーん、なんとなくなんだけど。立ち居振る舞いがね。武術とは違う、洗練された動きだったから、かな」

「恐れ入りました。私は、この屋敷の主の血縁でありますので」

「あ、やっぱそうなんだ。……ちょっとお願いがあるんだけど」

「なんでしょう?」

「敬語、止めて欲しくて。どうも慣れないんだよね」

 

と言って苦笑する一刀。

 

「何を言われるのです! 貴方様は、『天の御遣い』と謳われ、蜀を治め三国に太平をもたらした方。そのような方に敬語を使うのは当然ではないですか」

「普段から敬語口調の人はそれでもいいんだけど。君、普段はそんな敬語使ってないんでしょ?」

「それは……そうですね」

「だったら普段通りの、自然な君と話したいんだ。……こっちも気楽だしね?」

 

と笑う一刀である。

 

(自然、か……。観察眼はあるようだな……)

 

「……分かった。少々偉ぶった言い方になるが、よいのだな?」

「そうそう。随分自然な感じになった、かな? こっちもタメ口でいい?」

「構わぬ。元よりその積もりであったしな」

「ありがとう。……ふぅ、それにしても美味いな、このお茶」

「私は普段この屋敷から出ないものでな。楽しみと言えば、食事と茶と、偶の雅楽くらいのものだ」

「ふむ……それはよくないな。うん、よくない」

 

ニヤリと笑む一刀に、何故か嫌な予感を感じる伯和。

 

「なあ、伯和。どうも桃香――劉備たちの話も長引いてるみたいだし。一緒に街へ遊びに行かないか?」

「ええ!?仮にも蜀国の代表たる者が何を言うのだ!」

「駄目駄目、そーんなことじゃ。君も豪族なり貴族なりを自認するなら、自分達が守る民を直に見て、感じるべきだ」

「…………分かった」

 

先ほどの上奏で桃香も似たことを言っていたことを思い出し、伯和――劉協は一刀の提案を承知することにした。

 

「ん~~!ああいう手の込んだ庭もいいけど、やっぱ俺はこういう雑多な通りの方が好きだなー♪」

 

(護衛も付けず、よく出歩けるものだ……噂では武芸に長けるなどとは聞いたことが無いが……)

 

街の通りを眺めながら歩く二人。一刀は、道端で語らう町人達を見ては微笑む。

 

「?? ……北郷殿。先程から、何を見て笑っておるのだ?」

「え? 勿論、この街の人達さ。俺も、桃香も、華琳も、雪蓮も、蓮華も。『仲間』達の誰もが、この街、この国、この大陸のみんなの笑顔の為に戦ってるんだから。街の人が笑ってるのを見ると嬉しくなるのは当然だろ?」

「……そう、か」

 

ようやく劉協は先ほど一刀が述べていたことを理解した。

 

(自分達が守る民を直に見て、感じる……)

 

改めて街を見回す。

行き交う人々や荷車。商人の呼び込みの声。語り合う男女。駆け回る子供達。

様々な人間、様々な感情、様々な声。

 

(これが……平和)

 

劉協にとっての『平和』とは、自身で感じるものではなく、部下から報告される“情報”でしかなかった。

部下が「市井は平和です」と言えば、ああそうなのか、と思うだけであったのだ。

 

(なんと……狭き世界であったのだ。朕の世界は……)

 

比べて目の前で微笑む男――北郷一刀はどうだ。

天より降りて以来、当時裸一貫であったという劉玄徳を助け。とうとう三国同盟を為し、大陸に太平をもたらした。

勿論、彼一人の功績ではない。しかし、きっと彼は今までもずっとこうやって街を、民を直に見て、感じながら戦ってきたのだ。

だから、平和に暮らす人々を見て、あんなにも無邪気に笑うのだ。

 

(……この笑みに惹かれたのか、玄徳よ……?)

 

劉協に見られていることにも気付かずにいた一刀だったが、急に眼を鋭く細めた。

 

「どうした?北郷殿」

「……あれ。喧嘩かな?」

 

一刀が見る先では、二人の男が言い争っていた。一方の男の顔の赤らみ様から、酔っ払っての喧嘩であるようだ。

 

「警備隊は……まだか。んー、放って行くのもなぁ……一応仲裁しておくか」

「お、おい!北郷殿!?」

 

劉協の制止も聞かず、一刀は喧嘩する二人の間に入る。

 

「まあまあ、お二人さん。そんなに興奮するなって」

「なんだぁ、てめえ!……ひっく」

「ったく、この酔っ払いが!」

 

片方はかなり泥酔しているらしい。一刀は、一先ず酔っていない方の男に尋ねる。

 

「この人、どうしたの?」

「店ん中で、おれっちが脚をぶつけちまって。謝ったんだが、聞きもしないで殴りやがったんだ!」

「落ち着けって。酔ってない方まで暴れちまったら、喧嘩両成敗で警備隊にしょっぴかれちまうぞ?」

「だからってよ!このままじゃ腹の虫が……ん?アンタ、どっかで……」

 

酔っていない方の男が、一刀の相貌に何か引っかかり、動きを止めたその時。

 

「うるっせえってんだぁ! オレぁ、ムカついてんだよォ!!」

 

泥酔していた男の振るった拳が、一方の男と会話していた一刀の横顔――頬に直撃した。

 

「っつ!……って~。もう、仕方ないなぁ……!?」

 

所詮は酔っ払いの、腰も入っていない拳である。一刀は、殴られた事にも全く動揺していなかったが。

 

――ぞわっ!

 

その瞬間、辺り一帯にいた者達は、訳の分からない恐怖を感じ、震え上がった。

 

「ひぃ!?な、なんだぁ!!?」

「ああぅぅ……」

「びえぇぇぇぇん!!」

「…………(ぶくぶくぶく)」

「くぅぅん!?」

 

大人達は怯え、子供達は泣き出す。中には気絶してしまった者もいる。

近くにいた野良犬も尻尾を丸め、逃げる事も出来ずに蹲(うずくま)っている。

 

竦む身をどうにか動かし、劉協は一刀へ尋ねる。

 

「ほ、北郷殿! こ、これは一体!?」

「ど、どうも誰かがこっそり護衛してくれてたみたい……俺が殴られちゃったから……マズイ……」

 

一刀はきょろきょろと周囲を見回すが、それらしき人物は見当たらない。

 

「と、とにかく。お二人さん。喧嘩は良くない。な?」

「ううう……」

「お、おおおう……あ!」

 

酔っていた男も、この凄まじい圧迫感をもたらす気当たりにすっかり酔いが醒めたらしい。

そして、もう一方の男も、恐怖に竦みつつ。ようやく一刀の相貌に心当たりがあったようだ。

 

一刀が再び仲裁に入ると、周囲を襲っていた殺気――気当たりは消え失せた。

 

「あ、アンタ!おれっちは知らねえぞ……!」

「な、なんだよ。最初に脚をぶつけたのはそっち――」

「そんなケチな話じゃねえ!アンタ、この方の顔を見て分かんねえのか!」

「え?」

「あ、待って……」

「この方ぁ、『天の御遣い』様だよ!そんな方を殴っちまって……!!」

「…………!!」

 

酔っていた男の顔から血の気が引いて真っ青になった。

 

(可哀相だが、酔っていたなど言い訳にもならぬ。此奴は死罪だろうな……)

 

劉協は、冷静にそう考えていたが。

一刀は何やら困った顔で、何事か考えていた。

 

「あー……」

「も、ももも申し訳ございません!どうか、どうか命ばかりはお助けを!」

 

土下座のように地面に座り込み謝罪を口にする男だったが。

 

(今更命乞いか……いや、当然よな。誰とて命は惜しい……しかし、事実は変わらぬ)

 

もしこの場に警備兵が来れば、劉協の考えていた通りになったろう。

だが、一刀が急に大声を上げた。

 

「おほん!皆のもの。確かに此奴は俺に手を上げた。しかし……見よ!」

 

と言って空を指差す。

 

「もし天が怒らば、忽(たちま)ち天には暗雲立ち込め、雷を以って此奴を罰したであろう! しかし、天――蒼天は如何ほどにも乱れず。よって此度の所業、この一度きり――許す!」

 

一刀は大仰な、持って回った言い回しを用い、きりっとした表情でそう宣言する。

 

「ほ、本当でございますか!?」

「二言はない。この場にいる者、全てが証人だ。たった今、汝は許された!」

「ああ、ありがとうございますぅ……本当に申し訳ございませんでした……」

 

一刀の演技がかった赦免に、酔っていた男は平伏して謝礼と謝罪を口にした。

周囲の者達も、『天の御遣い』の慈悲を見て、驚嘆か感服か、喧々囂々となっていた。

 

「……折角の平和なんだ、もちょっと楽しく呑もうぜ、おっちゃん♪」

 

周囲の人間の注意が散漫になったのを見計らい、一刀は畏まった相好を崩して自らを殴った男に笑い掛けた。

 

「ありがとうございます!ありがとうございます!!」

「とりあえず、いくら脚がぶつかったからって。相手は謝ってくれたんだから。殴っちゃった分、そっちの人にも謝んなさい」

「へ、へい!……済まなかった。ちょっと商売が上手く行ってなくてな……許してくれ」

「お、おう。御遣い様が許してるのに、おれっちが許さねえ訳にゃいかねえよ……うん。気を付けろよ?」

「ああ、ありがとう……」

 

どうやら一件落着したらしい。一刀はこっそり溜息を吐いた。

 

(今日の護衛は愛紗と星だったから……飛び出て来なかったのは星が愛紗を押さえてくれたんだろうな。……うーん、愛紗には後で叱られそうだし、星からは謝礼の要求がありそうだなぁ……)

 

「……うん。先に気晴らししよう。なあ、おっちゃんら。時間あるなら一緒にメシ食わない?」

「「「はいぃ!?」」」

 

喧嘩していた二人と劉協がハモって叫ぶ。

 

「な、いいじゃん。なんなら奢っちゃうよ?」

「い、いえ……流石にそれは……」

 

と、そこへ現れたのは、男達が飲食していた店の主人である老年の男性。

 

「なんの騒ぎかと思えば。北郷様じゃありませんか」

「ああ、爺さん。悪いね、大騒ぎにしちゃって。喧嘩の仲裁するだけの積もりだったんだけど……」

 

苦笑いの一刀に、やはり苦笑いで返す主人。

どうやら、喧嘩のあった店は、許昌では一刀の馴染みであったらしい。

 

「相変わらずのお方ですなぁ。ウチの客が迷惑を掛けたようで。お安くしときましょうか?」

「ホント!? いや~、そっちこそ相変わらず太っ腹だな~! さぁさ、二人も入れよ! ほら、伯和も」

「「「は、はい……」」」

 

劉協は、目の前の光景が信じられなかった。

 

さっきまで殴り合い一歩手前の喧嘩をしていた二人が、そして一刀と彼を殴った男とが、今では笑いながら歓談し、共に食事をしているのである。

 

「まぁな~、商売が上手くいかないと、酒でも呑まないとやってられないってのは分かるよ」

「そうなんですよ。……商品は悪くないと思うんですがね……」

「ほお、簪(かんざし)かい。……なるほど、いい出来じゃねえか」

「だろう?……なんで売れないんだろうなぁ……」

「ふむ。ということは売り方が悪いんじゃないか?」

「どういうこってすか、御遣い様?」

「あーもう。御遣い様って呼ぶなよ。せめて北郷って姓で呼んでくれ」

「へ、へえ。北郷様」

「とにかく。品が良ければ売れる、ってのはちょっと甘い。如何に客を呼んで、商品の良さを伝えられるかが重要だ」

「な、なるほど……」

「ふっふっふ。伊達に三国会談の度に色々出展してないぞ。おっちゃんの商品は装飾品なのかい?」

「はい。基本は金物を削ったり、彫り込んだもので」

「となると、まずは売り場の明るさだな。露店じゃないなら、窓を大きく取ってだな……」

 

延々この調子である。

正直、劉協には付いていけない。只でさえ庶民と話した事などないのだ。

 

「伯和は、この簪どう思う?」

「え!?……少々、質素かの」

「おおー、流石は貴族。この細工ですら質素か。なら、どうしたら質素でなくなる?」

「う……玉なども付いておらぬし。細工が細やかなのは良いが」

「なるほど。だけど玉なんて付けたら、高くて買える人自体が減るからなぁ」

「ウチの商品は庶民向けですので……」

「でも、石付きのものにも挑戦してみるのはいい手かもな。何も高い石を使わなくてもいいんだ。バリエーション……えっと、つまり色々な商品があることを客に見せるのも一つの手だから。で、さっきも言ったけど。自信のある商品は、客の目線の高さに置いたり、ちょっと一つだけ離して置いたりして、客の目に付き易くするんだ」

「ははぁ……勉強になります」

 

かと思えば、劉協が孤立しないよう、ちょこちょこと会話を振ってくる。しかも答えられる範囲でだ。

 

(大した気配りだ……王たるものにはこういう技術も必要なのか?それとも単に個人の資質か……)

 

「あれ?伯和、あんまり呑んでないね。……あ、そっか。ちょっと気遣いが足らなかったかな……爺さーん!」

 

余りに予想外な目の前の状況に、考えることに集中していたせいもあって、余り呑んでいない劉協だったのだが。

一刀はなにやら勝手に自己完結して店の主人を呼んでいた。

 

「へい、なんでしょう?」

「ここ、確か星――趙雲が呑んでた白酒(パイチュウ)あったよね? あれ、お願い」

「よろしいんで? あれはかなり値が張りますぞ?」

「一度奢ると言った以上、二言はない。それに伯和はいいとこの人だから、俺みたいに安酒に慣れてないんだ」

「そ、そうでしたか。それは失礼致しました、貴族の方とは露知らず……」

「……いや、気にするな……」

 

そう返すしか思いつかなかった劉協である。

 

「失礼ですが、北郷様。ごにょごにょ……くらいになりますぞ?」

「う!? い、いや。二言はないと言ったのだから、ない!」

「……北郷殿? なんだ、手持ちが少ないのか?」

「いや、俺は元々そんなに小遣い貰ってないからなぁ……」

 

「「「ぶぅぅぅぅぅぅ!!」」」

 

一刀の発言に、劉協を含む三人は噴き出していた。

 

「ほ、北郷様? 『天の御遣い』様ですよね!?」

「しょ、蜀の代表者っすよね?」

「お、お主……部下に小遣いを貰っておるのか……?」

「え? そうだよ。毎月、ごにょごにょ……くらい」

 

「「ぶぅぅぅぅぅぅ!!」」

「…………」

 

しれっと答えた一刀の、さらに月の小遣い額を聞いた庶民二人は更に噴き出し、劉協は沈黙するしかなかった。

 

「オレの師匠の月収とそんなに変わらねぇ!?」

「食事は城で食べれば無料(ただ)だしねぇ。おまけに俺自身は税金払わないし。高価な買い物は贈り物くらいだから。こんなもんで充分だろ。最悪、前借りという手も……」

「いやいやいや……白酒なんて頼んじまって、ここの代金払ったら……」

「大丈夫だよ、そろそろ月末だし。来月になればまた貰えるんだから」

「は、はぁ……」

「……(朕の数日の食費と変わらんのではないだろうか)……」

 

「おかしな方じゃよ。なんだかんだ言って、街で食事することも多いし、他の将軍様に奢ったりしとるんじゃから」

「「「…………」」」

 

さらに店の主人の一言に、最早言葉のない三人。

 

「いいんだよ。贅沢する気ないんだから。……あ、でも勘違いするなよ」

 

と一刀は庶人三人に向けて語り出した。

 

「贅沢は悪いことじゃない。勿論、偶の気晴らしにもなるけど。代表的なのは宮廷料理とかだな。文化や技術をより発展させて磨くには、贅沢ってのは重要なんだ。おっちゃんの装飾品だって、身を飾りたいっていう“贅沢”があるから売れる。俺も偶に意匠を伝えて贈り物用に服を作って貰うことがあるし。だから、俺が金を使わないからって真似することはないんだからな」

 

「「「「…………」」」」

 

劉協を含めて、四人は一刀の言葉をただ聞いていた。

 

「みんなにはさ。頑張って仕事して、金を稼いで、偶には贅沢して。そんで笑って過ごして欲しいんだ。ま、税金は貰うけどね。国の経営にも金がないといけないし。はははっ」

 

からからと笑う一刀に、釣られて周りの者達も笑い出す。

 

「……本当に妙な方だな、北郷殿は……。欲はないのか?」

 

苦笑を通り越して、呆れ顔の劉協だったが。

 

「欲? 勿論あるさ。ある意味では、俺は蜀で一番贅沢な男だよ?」

 

一刀はそう反論した。

 

「なんせ、あれだけの女の子に囲まれて生活してるんだから。こんな贅沢はないだろ?」

「「「「…………」」」」

 

自信満々の一刀の発言に、沈黙する男達。老齢の店主は苦笑いだ。

 

「……すんません、ちょっと将軍様方は個性的過ぎるというか……」

「……そ、そうっすね……男としても手に余るっつーか……」

「伴侶としては苦労しそうだな……」

「なんだよ~。見る眼がないなぁ、伯和もおっちゃんたちも。あんなに可愛い娘達なのに」

 

頬を膨らまして、不満げな一刀であるが。

 

「いや、可愛い方や美人な方ばかりなのは確かですが……」

「……色んな意味でこっちの身が持たないっすよ……」

「…………」

 

いよいよ言葉がない劉協である。

しかし、これは好機と見て話を切り出した。

 

「そ、そう言えば北郷殿。最近は、蜀の者だけでなく。魏や呉の者からも求愛を受けているそうではないか」

「う!? そ、それって有名な話なの……?」

 

明らかに動揺した一刀。

店主も含め、庶民三人も話に乗って来た。

 

「へえ。庶民の間でも結構噂になってますよ?」

「そうじゃのう。ここらで一番大きい話だと……孟徳様を娶るんじゃないか、とか」

「いきなり華琳かよ!?」

「ほれ、それですじゃ。ご親族でもないのに曹孟徳様の御真名を許された男なぞ、恐らくは大陸中を探しても北郷様だけですぞ?」

「そ、それはそうかも……華琳は男嫌いだからなぁ……」

「孟徳様は、御領地では気に入った女子(おなご)を召し上げることが度々あったんですが、三国同盟以後はぱったりしなくなったとかで。で、それが北郷様に惚れ込んでるからだと皆が噂したんですよ」

「それ以外だと、おれっちが聞いた噂じゃあ……呉の孫家の方々も、北郷様を婿に迎える準備をしてる、とか」

「はぅ!?」

「…………全部本当なんですかい?」

「……。はぁ……みんな、可愛いよね……」

 

((……だから普通の男じゃあ相手になりませんって……))

 

「慕ってくれるのは、すっごい嬉しいんだけど……でも、三国の釣り合いがあるからね。一応、俺って蜀の代表者だし。蜀以外の娘達とは、友達――『仲間』ではあるけど……恋人にはなれないかな……」

「ええ!?そんなぁ……結局『天の御遣い』様は蜀の方ってことですか!?」

「「!!?」」

 

一刀を殴った男は何気なく言った一言であろうが。

その一言に、一刀と劉協は絶句した。

 

(魏と呉の民からしたら、蜀だけが『天』の加護があるように見えるってこと、なのか!?)

(そう、か……『女』としての将達だけでなく。民もまた『天の御遣い』を欲しているということなのか……)

 

「あ、飽く迄、女性として恋人にするのはってことさ。実際、俺は魏にも呉にもちょこちょこ視察で来てるし……」

「でも……北郷様の御子様は、蜀だけに生まれるんですよね?」

「そ、それは……」

 

反論できない一刀。だが、何かに気付いたかのように、二人の視線を受け止めた。

 

「……それは、魏のみんなが、そう思っているのかな? 俺は、みんなの声が聞こえていなかったのかな……?」

「そ、そんな!……でも、やっぱり御遣い様は蜀の方なんだ、とは思ってました……」

「そう、ですのう。正直、蜀の奴等が羨ましく思えたこともありますじゃ。特に北郷様とこうして話すようになってからは……」

「おれっちは旅商人なんで、魏の人間じゃあありやせんが。呉でも、北郷様は人気ありますぜ?」

「そっか。みんな、ありがとう。……俺は大切なものを見落としていたのかも知れない……」

「そ、そんな。お礼だなんて……」

 

民にすら謝礼を述べることを忘れない一刀。

そんな姿を見つつ、民達の声に、劉協は決意を固めていた。

 

 

食事処を出て、喧嘩二人組と別れた後も。

二人は街を散策した。

露店を冷やかし。街の人々と会話し。子供達と遊び。

 

いつしか劉協も笑顔になっていった。

 

屋敷へと戻った劉協と一刀。

正面口から入り、そのまま奥の間へ進む。

 

行き着いた長い部屋。そこには桃香、華琳、雪蓮、蓮華がいた。

劉協を認めると、四人は臣下の礼を取って跪く。

それを片手で抑え、劉協は最たる上座にある玉座へと座った。

 

「!?」

 

状況についていけない一刀であったが。

 

「……まずはそちに謝罪しよう、北郷一刀。朕は身分を偽っておったのだ」

「ち、『朕』!? ということは……」

 

その一人称に、一刀はようやく劉協の正体に気付いた。

 

「朕は、劉伯和。諱(いみな)は協。漢王朝第二十九代皇帝――劉協である」

「(ぽかーん)」

 

口を開いたまま、固まってしまった一刀に華琳が声を掛ける。

 

「アホ面してないで、礼を取りなさい。一刀」

 

雪蓮はこっそり笑っており、桃香と蓮華はばつが悪そうに苦笑い。

 

「くくっ……一刀ったら面白い顔♪」

「ゴメンね、ご主人様」

 

「は、はは……こりゃ、皇帝陛下もお人が悪い……(流石に献帝の字までは覚えてないって……)」

 

臣下の礼を取りつつ、零す一刀。

 

「相済まぬ。玄徳がそちの魅力を理解するには、身分を隠した方がよいと言うでな」

 

(後で覚えとけよ、桃香……#)

(あぁーん、怒らないでぇ~ご主人様ぁ >人<)

 

目線で会話する一刀と桃香はさておき。

 

「さて、北郷よ。此度、そちを騙してまで……しかも街まで付き合ったのはな。玄徳から、ある提案があった為だ」

「提案、ですか?」

「そう。そちを――『天の御遣い』北郷一刀を皇帝とした新しい王朝を作りたい、とな」

「うえぇぇっ!?」

「一刀。下品な叫び声は止めなさい」

「……はい。えー……つまり、俺――私に禅譲なさる御積もりですか?」

「そう。四人は、その判断を朕に委ねてくれたのだ」

 

(俺には相談も無しですか、あんた方!?)

(ごめんなさ~い!)

(ふふん。相談したって意味がないでしょう?)

(あはは♪ 驚いた?)

(……ごめんね、一刀)

 

視線を巡らせる四人を眺めつつ、劉協は続ける。

 

「五日間、という話であったが。今日、半日付き合っただけでも。そちの懐の深さ、意志の強さ、平和への想い。それを感じることが出来た。そして、朕が今まで何も分かっていなかったということも」

 

「「「「「…………」」」」」

 

「一時期は政治に参画させぬ孟徳を恨みもした。しかし、それは当然だったのだ。朕には、大陸の太平を維持するような器がなかったのだ。だが……」

 

一度、嘆息した劉協は。大きく息を吐いて、天を仰いだ。

 

「今日、朕は確かに見た。北郷一刀、貴公こそ大陸を治めるに足る器。孟徳の辣腕も、伯符の苛烈も、仲謀の謹厳も、玄徳の大徳も。その全てを受け止める、大きな器だ。何よりその根底にある平和への強い意志を、朕は信じよう」

 

そして、一刀の瞳を見つめ、宣言した。

 

 

「――朕は、四百年の長きに亘った漢の歴史に終止符を打つ。大陸の平和を、人々の笑顔を、次代の王朝に委ねる。……北郷一刀よ、善き国を創ってくれ――」

 

 

劉協は、最後に微笑んでそう一刀へ語った。

 

一刀は、この世界に来てからの二年を振り返り。三国の乙女達を思い浮かべ、大陸の人々の笑顔を想像した。

そして、気付かされた民達の望みと、自分を慕ってくれる娘達の想い。

 

(俺は……泰平の世をみんなと目指して来た。それこそが俺がこの世界で為すべき“事”と信じたから。

 三国同盟は魏・呉・蜀……『国』という枠に囚われて歪んでしまったけれど。

 伯和――劉協陛下が。桃香を初めとしたみんなが示してくれたこの道。これはきっと……

 きっと唯一、誰とも離れず、誰も泣かさず。『仲間』のみんなと共に往く泰平への道! それが今、此処に在る!

 なら……あとはこの国、この大陸の全てを背負う――俺の“覚悟”だけだ!)

 

一刀は、劉協の眼を、微笑みを真っ直ぐ見返して。

 

はっきりと答えた。

 

 

「――はい!」

 

 

 

 

 

かくして戦乱時代は真に幕を閉じた。

 

鼎立した『三国志』に名高き魏・呉・蜀の三国は統一。

 

五胡、高句麗、西域及び南西異民族を含む近隣諸国は完全に冊封され。

 

洛陽を帝都とした、大陸全土を支配する一大国家が建国されることとなった。

 

国号は『和』。漢王朝より火徳を受け継ぎし土徳の王朝。

 

その初代皇帝の名は――北郷一刀。

 

戦国乱世を平和に導くと占われた『天の御遣い』である。

 

 

 

続。

 

諸葛瞻「しょかっちょ!」

曹丕「そうっぺ!」

周循「しゅうっちの!」

 

三人「「「真・恋姫†無双『乙女繚乱☆あとがき演義』~~~☆彡」」」

 

諸葛瞻「お読み戴き多謝でしゅ。諸葛亮こと朱里の娘にして北郷一刀の第23子、しょかっちょでしゅ!」

曹丕「乱文乱筆なれど楽しんで戴けたかしら。曹操こと華琳の娘にして北郷一刀の第9子、そうっぺよ♪」

周循「少しでも面白いと思って下されば重畳。周瑜こと冥琳の娘にして北郷一刀の第25子、しゅうっちで~す☆」

 

 

諸葛瞻「とうとう三国統一国家、和王朝――『大和帝国』の成立でしゅね!……というかハーレム完成?」

 

周循「まあそういうことだな(笑)」

 

曹丕「一部、まだハーレムに含まれない方もいらっしゃるけれど、それはこれから描写していくことになるわ。また、今後の投稿について、この『あとがき演義』の次のページで、筆者本人から発表があるそうよ」

 

周循「話は変わりますが……本作投稿の少し前に恋姫4コマの新刊が出版されました。某先生の描かれた『璃々ちゃん18歳ツインテールバージョン』に筆者が猛烈に萌えてしまい、璃々お義姉様の設定を見直すか、本気で悩んでいるらしいですよ?」

 

諸葛瞻「あー、『本気Q4コマ 真・恋姫†無双 第5巻』をお持ちの方は、93ページをご覧下しゃい」

 

曹丕「影響されやすい奴ねぇ……確かに可愛らしかったけれど。本作の璃々お義姉様は紫苑様にかなり近い感じで設定されているから、ちょっと合わないんじゃないの?」

 

周循「まあ外見に近い感じで性格などを設定変更するかも、ということらしいですね。筆者は全く絵心やファッションセンスがないので、ああいうビジュアルから影響を受け易いのやも……」

 

諸葛瞻「大体、まだ本編が途中なのでしゅから、要らぬ皮算用だと思うんでしゅけどね……。本編自体もアレでしゅし……」

 

曹丕「ま、とりあえず議題へ行きましょう」

 

 

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○議題:白酒(パイチュウ)について

 

諸葛瞻「今回、食事処でお父しゃまが注文していたお酒の種類でしゅね」

 

周循「そうだな。白酒(パイチュウ)というのは、原作呉ルートで祭様が呑んでらした『白乾児(パイカール)』のことです。というか、白酒を現代中国の東北三省・山東省・四川省では『白乾児(パイカール)』と呼ぶようですね」

 

曹丕「前回、三国志時代には紹興酒の原型は出来ていた、と言ったけれど。紹興酒は『黄酒(ホアンチュウ)』に分類されるの。その名の通り、醸造したままで蒸留していない褐色の酒のことよ。中国酒として有名な『老酒(ラオチュウ)』というのは長期熟成させた黄酒(ホワンチュウ)よ」

 

諸葛瞻「対して白酒(パイチュウ)は透明で、かなり独特で強烈な香りがするそうでしゅ。筆者は呑んだことがないのでなんとも言えましぇんが、慣れないと腐敗臭のように感じることもあるとか。慣れるととても芳醇で良い香りと思えるようになるらしいでしゅ。なんだかドリアンみたいでしゅねえ。筆者はドリアンの香りも駄目だったらしいでしゅが」

 

曹丕「正直、三国志時代にはまだ製法が確立されてないと思われるのよね……。まあ『恋姫ワールド』は細かいことを言わないのがお約束。気にしたら負けよ。なお、ウィキ先生によると白酒(パイチュウ)というのはアルコール度数が50度を超すそうよ」

 

周循「結論を言いますと。原作で『白乾児(パイカール)』、即ち白酒(パイチュウ)が出てますので、製法はあるということで。で、白酒(パイチュウ)というのは製法上、蒸留と仕込みを繰り返し、かなりの量の穀物を使いますので、相当に高価であろう、ということになりました」

 

曹丕「ちょっと庶民には手の出ない高級酒という訳ね。……お父様、あの後お小遣いを前借することになったんじゃないのかしら……」

 

 

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○議題:上級官吏・王クラスの給料・一刀のお小遣い額について

 

曹丕「さて。史実では三国志の時代は凄まじいインフレの時代だったわ。よって、固定給である役人などは賄賂でも貰わないと生活も覚束なかったのではないか、という説もあるようね」

 

諸葛瞻「給料は増えないのに、物価は天井知らずで上昇する訳でしゅからねぇ……。それは官吏・役人も腐敗するというものでしゅ。仕舞いには皇帝自ら“官”を売るという暴挙に出てましゅし。やはり相当に乱れた世相だったのでしゅね」

 

周循「さて、『恋姫ワールド』及びその二次創作である本作では、『董卓の暴政がなかったこと』『三国が早い段階から鼎立したこと』『三国同盟によって貨幣経済がある程度安定していること』、以上3点を根拠に、史実のような酷いインフレは起きていないとしています」

 

曹丕「そこで上級官吏の給料を見てみましょう。当時は秩石制……穀物が単位の給料制度だったの。まだ健在だった頃の漢王朝時代の相場だと「米1石(27kg)=100銭」くらい。因みに、庶民の男性一人の一月の必要な米は“2~3石”と資料にあるわね」

 

諸葛瞻「あ、秩石制ランクの『石』と、金銭換算の『石』は別物でしゅので、ご注意を。あと、日本の“石”とは量が違いましゅ。日本だと1石=150kgだったそうでしゅ」

 

周循「原作中でも何度か出てくる『州牧』だと秩石制ランクで『二千石』。実際の給与は月割り、月給で貰うらしいですが、120石=12,000銭。上公や三公クラスとなると『上二千石』。月割り350石=35,000銭。当時の庶民はその日を暮らすのが精一杯だったと考えると、物凄いセレブですね~」

 

曹丕「各国の王クラスなら最低『二千石』は貰える権利があったわけね。まあ漢王朝にそんな給料払う力がないので、意味はないのだけど……」

 

諸葛瞻「群雄割拠の時代では、税としての穀物を自分の領土から徴収して、自分らや配下の給与にしていた訳でしゅからね。さて、ここでお父しゃまの『蜀の主としてのお小遣い額』でしゅが。筆者は秩石制の最低ランク“百石”、月割換算で16石=1,600銭程度と考えておりましゅ」

 

周循「大人の男性の生活費の約5倍……食事を奢る相手を蜀勢だけで考えても、鈴々様・恋様・猪々子様。場合によっては南蛮の方々もいるわけで。そりゃあ来月分も前借しないと足りませんねぇ……。因みに、当時穀物を酒にすると価値が十倍になったそうで。そのせいで酒の密造が流行ったそうです。そう考えると、先刻の白酒(パイチュウ)って、すっごい高価そうですね……まあ穀物が豊富に収穫出来るようになれば倍率も落ちて安価になるのでしょうが」

 

曹丕「それなりに経済が安定していれば、高価な装飾品を貴族などに販売する職人の師匠クラスなら、このくらいは稼ぐことが可能だろうという判断よ。……寧ろ、売れ行きによってはあの男の師匠の方が余程収入高かったかもね……」

 

諸葛瞻「お父しゃま……立場は王様より上なのに……(ほろり)」

 

 

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曹丕「さあゲストコーナーよ。自己紹介なさい」

 

 

公孫続「ああ。公孫賛こと白蓮の娘にして北郷一刀の第26子、公孫続(ぞく)だ。諱は史実の公孫賛の長子から。「ショク」とも読めるらしいが、日本語的に分かり易く「ゾク」と読むことにしたそうだ」

 

許儀「はーい。許緒こと季衣の娘で、北郷一刀の第43子。許儀(ぎ)だよ。諱は史実の許緒の息子の通り。“ぎー”って渾名で呼ぶ奴も結構いるぞ~」

 

 

諸葛瞻「お二人とも、ようこしょです。公孫続ちゃんはしょかっちょ、しゅうっちと同じ年少上級(小4クラス)。許儀ちゃんは年少下級(小3クラス)でしゅね」

 

------------------------------------------------------------

 

○質問:特技・特徴は何ですか?

 

公孫続「そうだな、私の特技・特徴と言えば――」

 

曹丕「肉体的ドM」

 

公孫続「ちょっ!?」

 

諸葛瞻「妹ストーカー」

 

公孫続「おいっ!?」

 

周循「マザコン」

 

公孫続「お前もか!? つーか、ひとつもいいとこないじゃないか!」

 

曹丕「……なら、今から幾つか質問するから答えなさい」

 

公孫続「う、うん」

 

周循「土下座したら白蓮様に耳掻きして貰えるとしたら、土下座しますか?」

 

公孫続「する」

 

諸葛瞻「後宮の廊下にしょかっちょと許儀ちゃんの下着が落ちていました。どうしましゅか?」

 

公孫続「両方拾って、しょかっちょのは届ける。許儀のは穿く! で、十分堪能してから届ける」

 

許儀「ぎーの下着、伸びちゃうよ~……」

 

曹丕「……怪我をして瘡蓋(かさぶた)が出来たとしたら、どうするかしら?」

 

公孫続「かさぶたを丁寧に剥がして、薄皮を撫でる」

 

曹丕「ついでにもう一つ。口内炎が出来たら?」

 

公孫続「噛んで潰す!」

 

諸葛瞻「聞いてるだけで痛いでしゅよ!?」

 

公孫続「それがいいの!」

 

曹丕・諸葛瞻・周循「「「…………」」」

 

公孫続「はいはい! どうせ私はドMでシスコンでマザコンのヘンタイですよ!!」

 

曹丕「開き直るくらいなら、初めから反論しなければいいのに……。特徴は十分でしょう。特技はないの?」

 

公孫続「あー、母さん仕込みの馬術は結構なもんだと思う。あと、翠様やたんぽぽ様から槍術も習ってるよ」

 

周循「槍? 白蓮様のように剣は使わないのか?」

 

公孫続「馬上だと槍の方が便利だし、やっぱリーチがあると有利だからな。それに……私は特別な槍を持ってるんでな。それを使いこなす為だ」

 

曹丕「あら、そうなの?」

 

公孫続「ああ。袁譚(たん)【麗羽】がわざわざ麗羽様に頼んで作ってもらったという竹槍『頓智刃(とんちじん)』をくれたんだ」

 

四人「「「「竹槍!?」」」」

 

公孫続「何でも、泰山の山頂近くに生えている、霊験灼(あら)たかな竹から作られているらしい。私はまだ全然使いこなせていないが、使用者の『氣』か何かに呼応して鉄のように硬くなったり、伸びたりするようになるんだそうだ。実際、傷がついてもいつの間にか直ってるしな」

 

許儀「すっげー! 出来るようになったら、ぎーにも見せてね!」

 

公孫続「おお! お姉ちゃんに任せておけ!(抱きっ)」

 

周循「そ、それはまた吃驚な武器だな……というか、麗羽様の『宝物』から作られたのか……」

 

公孫続「(許儀を抱きながら)確か、モウソウチクとかいう竹らしい」

 

諸葛瞻「孟宗竹……でしゅか? それってその辺でも生えている普通の竹でしゅよ。筍は食用でしゅし」

 

公孫続「いや、そっちじゃないんだ。『妄想竹』って書くんだと」

 

曹丕・諸葛瞻・周循「「「…………」」」

 

周循「つ、次に行きましょう。許儀、お前の特徴はどうだ?」

 

許儀「やっぱ『大食い』かな! さすがにかーちゃんほどは食えないけど」

 

諸葛瞻「寧ろ許儀ちゃんの特徴は『悪食』だと思うんでしゅけど……。愛紗様の未習熟料理を食べて平気なのは許儀ちゃんだけでしゅからね……」

 

許儀「そうかなぁ。ぎーだって楽鎮おねーちゃん【凪】や荀惲(うん)おねーちゃん【桂花】が食べてるような激辛料理は食べられないよぉ」

 

曹丕「あら、そうなのね。個人的には確かにアレは人間の食べ物とは思えないけど……。許儀は、そのうち食べられるようになるのかしら……」

 

周循「かも知れませんね。あと、許儀には『シモネタ好き疑惑』が掛かってますが……」

 

許儀「んー、だっておねーちゃんとかが吃驚するから、面白いんだもーん♪」

 

諸葛瞻「……まあこの年頃の子は、そういうネタが好きなものでしゅしね……。正直、環境というか、周りの姉妹たちがシモネタ好きばかりなのが問題かと思うのでしゅ……」

 

 

------------------------------------------------------------

 

○質問:特に仲の良い姉妹は?

 

公孫続「妹は全員、私の宝だ!」

 

周循「(だからと言ってストーキングが許される訳ではないのだがな……)」

 

公孫続「特に袁譚【麗羽】が可愛くて仕方が無いんだ!! ちみっこいのに、偉ぶっててなぁ♪ あいつに我儘言われると思わず叶えてやりたくなるんだよ。ああ~、舐めちゃいたい~~(にまにま)」

 

曹丕「涎を拭きなさい、公孫続……」

 

諸葛瞻「公孫続ちゃんは、袁譚【麗羽】だけでなく、妹ら全員のパシリのようになってましゅ。姉としての威厳を何処に置いてきてしまったのでしょう……」

 

公孫続「放っといて。私は満足してるんだから。因みに、“妹”の範疇は学年が下の皇女たちのことで、生まれが遅くても、同じ学年の奴は妹としては見てないから」

 

周循「と言うわりには、我ら年少上級で一番下の袁胤(いん)【美羽】には多少甘いのではないか?」

 

公孫続「……ちっちゃくて我儘でちょっとおバカで可愛いんだもん……」

 

四人「「「「…………」」」」

 

諸葛瞻「しょかっちょは、今ほど自分の頭が良いことが嬉しかったことはないかも知れましぇん……」

 

周循「同感だ。まぁ私……しゅうっちは背丈があるから、そもそも公孫続の守備範囲外だろうが」

 

公孫続「ごほん!袁譚【麗羽】のお願いで、『三“子”バカ』改め『三バカ娘』の助っ人として鳳宏【雛里】と戦うことが頻繁にあるな。勝率は……五分五分くらい? あいつ、いつの間にか『気功』なんて使えるようになっててさぁ。只でさえ喧嘩慣れしてる上に頭良い奴だから、大変だよ」

 

諸葛瞻「凪様と璃々お義姉しゃまに鍛えて貰ってましゅからね。喧嘩慣れは……悪ガキ集めての戦争ごっこのお陰というか何と言うか……」

 

公孫続「私も、負けないように槍の腕を磨かないとなぁ。あと、乗馬関係で、董白様【月】や馬秋姉さん【翠】、馬承【蒲公英】とは結構仲がいいかな。偶に張虎(こ)姉さん【霞】と遠乗りすることもあるな」

 

曹丕「あなたも、妹さえ関わらなければそこそこ真っ当な皇女ですからね」

 

公孫続「そこそこかよ!?」

 

曹丕「(無視)さ、次は許儀よ」

 

許儀「うん! 一番仲が良いのは、生まれたときからずっと一緒にいる典満【流琉】だよ! 料理作ってくれるし、大好き!」

 

周循「(微妙に“食欲”という下心が見えるような……)」

 

許儀「次に仲が良いのは、張槓(かん)【地和】かな。いつもは“カンカン”って呼んでるんだ。色々教えてくれるし、話してて楽しいしね!」

 

諸葛瞻「九割九分シモネタでしゅね……」

 

許儀「あとは程姫(き)【風】だね! やっぱり料理作ってくれるし!」

 

曹丕「程姫【風】の創作料理(失敗作)を食べて平気なのはあなただけだし、これはこれでいい組み合わせよね……」

 

許儀「偶にだけど、張苞(ほう)おねえちゃん【鈴々】とか、賈訪(ほう)おねえちゃん【詠】、あと呂紅昌(こうしょう)おねえちゃん【恋】にご飯を作ってもらうこともあるよ! ……でも、張苞おねえちゃん【鈴々】の料理は、すっごい辛い時があるんだよなぁ~……」

 

周循「ふむ、姉妹でも料理上手なメンバーだな。許儀は本当においしそうに食べてくれるから、作る方も作り甲斐があるのかも知れないな」

 

 

------------------------------------------------------------

 

○アンケート:次回、読んでみたい姉妹は?

 

曹丕「今回も次回ゲストのリクエスト募集を行わせて戴くわ。以下の二つからお好きな方をお答え下さい。コメントの端に追記して戴けると嬉しいわ。なお、前話でBにリクエストされた分もカウントに含めます」

 

A:詠・桂花の娘たち(深窓の令嬢と邪悪ロリ?)

B:七乃の娘二人(一刀とは、義理の娘の姉と実子の妹)

 

 

 

周循「次回は建国当初の話になるのだろうな」

 

諸葛瞻「多分。ただ、次のページにて重大(?)発表がありましゅので、どうか其方もご覧になってくだしゃい」

 

曹丕「では皆様。次回でまたお会いしましょう♪」

 

 

五人「「「「「バイバイ真(ま)~~~☆彡」」」」」

 

【お知らせ】

皆様、あとがきではご無沙汰しております。四方多撲でございます。……偶に『天の声』でお邪魔してましたが。

 

いきなりではございますが、実は投稿を一時ストップ致したく存じます。

 

当初全26話を想定し、四日に一度の投稿を目指し執筆して参りました。

実際、ここより本編エンドまでの執筆自体はそれなりに進んでおり、飛び飛びではありますが既に合計250KB以上を執筆済みです。しかし、ここから――即ちハーレムが出来てからの筋書きにおいて、どうしても登場キャラクターのバランスがとれず、またプロットにも納得のいかない点が多々出てきてしまっています。

 

結局のところ筆者の我儘ではございますが、なにより読者様が納得の出来るハーレムを描写出来るよう、暫しのお時間を戴きたいのです。

 

再開の目処と致しましては、十二月の中旬を目標としております。

 

これまで応援して下さった読者の皆様。どうかお見捨てにならず、何卒ご理解の程、お願い申し上げますm(_ _)m

 

※なお、次回以降も同様の形式で書いていきますので、『あとがき演義』で募集しておりますゲスト希望のコメントを心よりお待ちしております。

 

 

暖かいコメントを下さった方々、支援ボタンを押して下さった方々、応援メッセージを送って下さった方々、お気に入り登録して下さった方々。そして愚作をお読み下さり「面白いかも」と思って戴けた全ての方々。

皆様を裏切ることのないよう、この言葉を以って本作投稿を一時休止とさせて戴きたいと思います。

 

 

『 I’ll be back!! (>_◎)b 』 <ネタ古っ!

 

 

四方多撲 拝

 


 
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