No.109461

真・恋姫†無双~天空より降臨せし白雷の守護者~8話

赤眼黒龍さん

 久しぶりの更新となります。赤眼黒龍です。

 今回のお話は黄巾党編の前編です。3篇構成で書こうかと思っていますが、変更するかもしれません。

 そして今回はいよいよ3羽烏の登場です。楽しみにしておいてください。さらに真の新たな技も登場します。ご期待ください。

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2009-11-28 23:56:55 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:5521   閲覧ユーザー数:4204

 真たちが帰ってすぐ主だった武将が玉座に集められた。その理由はもちろん昨今頻発している賊についてである。

 

真「やはりそちらも黄色い布か」

 

秋蘭「ああ。こちらが仕掛ければすぐに逃げて行った」

 

明雪「その点もこちらと同じね」

 

春蘭「我らの方も全く同じでした」

 

 どこも同じ組織に属する暴徒のようだ。ここ数週間で一気に増え始め、国内では深刻なレベルの問題になっていた。

 

華琳「桂花、そちらはどうだった?」

 

桂花「面識のある諸侯と連絡を取ってみましたが・・・・・どこもこの陳留と同じ状況でした」

 

華琳「具体的には?」

 

桂花「ここと、ここと、あとここもです」

 

 広げられた地図に丸石を置いて行く桂花。これは華琳が持っていた地図に真が修正を加えたもので、他に比べてかなり詳細な街の位置や地形などが書き込まれていた。

 

華琳「真は?」

 

真「ここと、ここもだな。どこも現状はこの陳留と同じなようだ」

 

 今石が置かれた地域だけでもかなりの広範囲であることが分かる。

 

桂花「それと首魁の名は張角というらしいのですが・・・・その素性等は全くの不明だそうです」

 

華琳「正体不明?」

 

真「尋問しても誰一人張角の素性を話そうとはしなかったそうだ。おかげで各地域ではどう対処していいかわからず後手に回っている」

 

春蘭「何やら気味が悪いな」

 

真「・・・・・やはり黄巾党か」

 

 真が小さくつぶやいたのを秋蘭は聞き逃さなかった。

 

秋蘭「真、何か知っているのか?」

 

 真に視線が集まる。真はゆっくりと頷いた。

 

真「漢王朝の存亡にかかわる大事件だ。・・・・・しかし、ここで詳しく話すのはやめておく」

 

明雪「何故?」

 

真「この世界の歴史は俺の知るものと少しずつではあるが誤差がある。孫堅の死がいい例だ。もし今話してその通りにいけばいいがどこかで違いが起こった時、対処できない可能性がある。ならば話さない方がいいと俺は考える」

 

華琳「真の言うとおりね。事前情報に惑わされるのはごめんよ。でも、黄巾党という名はちょうどいいから使わせてもらいましょう」

 

 とりあえず今後は張角の正体を探ると同時に黄巾党を殲滅するために動くということで話が決まった。その時、兵士が1人、あわてた様子で駆け込んでくる。

 

兵士「会議中失礼します!」

 

春蘭「何事だ!」

 

兵士「はっ! 南西の村で新たな暴徒が発生したとの報告が! また黄色い布を身につけいてるそうです!」

 

 兵士の言葉に一気に緊張感が高まる。全員の表情はすでに武将のそれにかわっていた。

 

華琳「休む暇もないわね。・・・・さて、早速情報源が現れてくれたのだけれど。誰が行ってくれるのかしら?」

 

季衣「はいっ! ボクが行きます!」

 

 真っ先に手を上げる季衣。しかし、華琳は許可を出そうとはしない。黙ったままじっと季衣を見つめている。

 

春蘭「季衣。お前、最近まともに休んでいないだろう。少し働きすぎだ」

 

季衣「だって春蘭様! やっとボク、ボクの村みたいに困っている村を、助けられるようになったんですよ・・・!」

 

明雪「春蘭の言うとおりよ。華琳、この件、私が引き受けるわ」

 

季衣「明雪様まで! どうしてですか! ボクは全然疲れてないのにっ!」

 

華琳「そうね。最近、季衣の出撃回数は多すぎるわ。今回は季衣以外の者に行ってもらうことにしましょう」

 

季衣「華琳様まで・・・・」

 

 3人に止められてもまだ納得できない季衣。

 

秋蘭「季衣。その心がけは素晴らしいものだ・・・・だがそれで無茶をして身体を壊しては元も子もあるまい」

 

季衣「無茶なんかしてないのに」

 

秋蘭「他から見れば、今のお前の行動は十分無茶だよ」

 

 ここまで言われてもまだ納得できない様子の季衣にやさしく諭すように語りかける華琳。

 

華琳「今は、一つの無茶で、目の前にいる百人の民を救えるかもしれない。けどそれは、その先に救える何万もの民を見殺しにする事に繋がることもある。・・・・・わかるかしら?」

 

季衣「だったらその百の民は見殺しにするんですか!」

 

華琳「するわけないでしょうっ!」

 

 ついに声を荒げる華琳。その声は思わずその場にいた将たちが身を縮ませるほどの覇気に満ちている。まさに覇王の一声だった。

 

春蘭「季衣。お前が休んでいるときは、私が代りにその百人を救ってやる。だから今は休め」

 

 春蘭の言葉にうなずく秋蘭、明雪、真。

 

明雪「季衣。あなたは今自分の村を守っていた時のように一人ではないわ。あなたには華琳、春蘭、秋蘭、真、桂花、そして私。こんなに多くの仲間がいるのよ。1人で背負い込まず皆を頼りなさい」

 

華琳「今日の百人も助けるし、明日も万人も救ってみせるわ。そのために必要と判断すれば、無理でも何でも遠慮なく使ってあげる。でも今は、まだその時ではないのよ」

 

季衣「・・・・・」

 

 季衣は俯いたまま返事をしようとはしなかった。

 

華琳「桂花。編成を決めなさい」

 

桂花「御意。・・・・・では明雪様。今回の件はお任せします」

 

春蘭「なにっ! 私ではないのか!」

 

明雪「今回は情報収集が主な任務になるわ。あなたは苦手なんだからここは私に任せなさい」

 

春蘭「うぅぅ・・・。承知しました」

 

華琳「決まりね。明雪、情報収集は入念に頼むわ」

 

明雪「分かったわ」

 

 そのまま玉座の間を出ようとする明雪を呼び止める季衣。

 

季衣「明雪様!」

 

明雪「どうしたの季衣? 今回は連れてはいけないわよ」

 

季衣「そうじゃなくって・・・・・・。えっと・・・その・・・ボクの分までよろしくお願いします!」

 

明雪「任せなさい。その変りしっかり休んでおくのよ」

 

 明雪を見送った後会議は終了した。まだ少し落ち込み気味にどこかへ歩いて行く季衣。真は心配だったのでそれを追いかけることにした。

真「ここにいたのか季衣」

 

 真が季衣を見つけたのは、準備をする明雪の隊を眺めることができる城壁の上だった。

 

季衣「・・・・・真兄ちゃん」

 

真「いつもの元気はどうした?」

 

 季衣にいつもの元気はなく明らかに意気消沈していた。

 

季衣「真兄ちゃんは、どう思ってるの?」

 

真「俺は皆と同意見だ。同僚としても、兄貴分としても、あまり無理をしてほしくないな」

 

季衣「真兄ちゃんまでそんなこと言うの」

 

 ふてくされる季衣を見て軽く微笑みながらゆっくり頭を撫でる。

 

真「俺も昔よく怒られたよ。何故1人で無茶をする、何故仲間を頼らないんだ、ってな」

 

季衣「真兄ちゃんも・・・・・?」

 

真「ああ。俺はな、孤児なんだ。少しでも恩を返そうとして早く強くなろうといっつも無茶なことばかりして怒られていた」

 

 真は城壁に背を預け空を見上げた。雲ひとつない空を見上げるその表情は懐かしむと同時にどこかさみしげな色が見え隠れしていた。

 

真「俺たちには仲間がいる。肩を並べて戦い、戦場で背を預け、辛苦をともにする仲間が。それを理解するのには時間がかかったなぁ、俺も。あの頃の俺はガキだった。今の季衣と同じようにな」

 

季衣「・・・・・・・」

 

真「仲間を信じろ。俺は客将だが、華琳たちはこの先ずっと季衣と共に同じ道を歩むことになるんだ。今は信じて力をためておけ。この乱の首謀者が分かった時には必ず季衣の力が必要になる。今はその時に備えておけ」

 

季衣「うんっ!」

 

 笑顔で返事をした季衣はいつもの彼女に戻っていた。余程すっきりしたのか城壁の上に立ち歌を歌い始める。真はその曲にどこか聞きおぼえがあった。城壁の下では出陣する兵士たちがその歌を聴き、手を振っていた。

 

真「季衣、その歌はなんだ?」

 

 照れながら手を振り返す季衣に真は尋ねる。

 

季衣「この前街に来ていた旅芸人さんたちが歌ってたんだよ。確か・・・・・・張角さんていう人たち」

 

真「・・・・・今、何て言った?」

 

季衣「え?」

 

真「その歌を歌っていた旅芸人の名は!」

 

季衣「張角さんって言ってたけど・・・・・わっ///」

 

真「よくやった季衣!」

 

 思いっきり季衣をハグする真。季衣は何が何だか分からず、顔を真っ赤にしてただされるがままだ。

 

真「急いで華琳に報告だ!」

 

 そう言って走り去る真。わけもわからぬまま季衣はとりあえず真を追いかけるのだった。

 

 その日の晩遅く、明雪が遠征から帰ってきてすぐ会議が招集され主だった将が集められた。

 

華琳「そう。じゃあ間違いないのね?」

 

明雪「ええ。遠征先の村にも3人組の女の旅芸人が立ち寄っていたらしい」

 

桂花「賊に襲われた陳留周辺の村でも同様の旅芸人たちが目撃されています」

 

真「商人たちも賊の発生した地域でその3人を目撃している。さらに、その3人の周りに黄色い布を頭に巻いた一団がいたという話もある」

 

秋蘭「どうやら一連の賊の首謀者の名も張角というそうです。おそらく同一人物で間違いないかと」

 

真「これで、敵の素性と面が割れたな」

 

華琳「正体が割れたのは僥倖だわ。それで張角の目的はなんなのかしら?」

 

真「俺の知る歴史から言えば皇帝を倒して黄天の世にするというのが目的だったが、歌い手というなら・・・・・・もしかしたら本人たちには天下をどうこうする気はないのかもしれないな」

 

明雪「どういうこと?」

 

真「周囲が暴走しているだけなのかもしれん。調子に乗って「天下が欲しい」とかなんとかいって周囲がそれを本気にしたとか、な」

 

華琳「そうだとしたらタチが悪いわね。大陸制覇の野望があるとかなら遠慮なく討伐できるのだけど」

 

 溜息をつく華琳。

 

真「密偵でも何人か潜り込ませて張3姉妹を捕らえてしまえばいいんじゃないのか? 指導者がいなくなれば組織は瓦解する。もしまだ逆らう勢力があればそれを潰せばいい。こちらが被る被害は抑えられると思うが?」

 

華琳「無理よ。夕方、都から軍令が届いたわ。黄巾の賊徒を直ちに殲滅、平定せよとね」

 

真「・・・・漢王朝はそこまで腐り切ったか。この段階でようやく軍令とは」

 

秋蘭「それが現在の漢王朝の実情だろう」

 

 すでに大陸全土に混乱は広がり、大規模な反乱となってからでしか対応できないような国に未来などあるはずがなかった。歴史は真の知るものと同じく漢王朝の終焉、そして群雄割拠の時代に移ることはもはや間違いないといえた。

 

華琳「漢王朝の行く末はどうあれ、これで大手を振って大規模な軍勢を動かせるわ」

 

 これからどう動くかを話し始めようとしたときだった。部隊の編成をしていたはずの春蘭と季衣が玉座の間に駆け込んできた。

 

春蘭「華琳様っ!」

 

華琳「どうかした、春蘭。もう部隊の編成が終わったの?」

 

春蘭「いえ、それはまだ。・・・・それよりも! 先ほど黄巾の連中がまた出現したとの知らせが。これまでにないほどの規模だそうです」

 

華琳「・・・・そう」

 

明雪「後手に回ったな」

 

 どうやら先手を打たれてしまったようだ。春蘭の話では物資の搬入が明日の払暁(夜明け、明け方のこと)になるため兵の大半は既に休息を取っているらしく動かせる兵力はそう多くないとのことだった。

 

真「暴徒が集結したか。指揮官がいるとみてまず間違いないだろうな」

 

華琳「今までのようにはいかないでしょうね」

 

真「間が悪いとしか言いようがないな」

 

華琳「だからといって何もしないわけにはいかないわ。本来なら万全の状態で臨みたいところだけど・・・・・。時間がないわ。でも、どうするか・・・・・」

 

 判断を迫らせる華琳。そんな時勢いよく季衣が立ち上がる。

 

季衣「華琳様っ!」

 

華琳「・・・・・・」

 

季衣「ボクが行きます」

 

春蘭「季衣! おまえはしばらく休んでおけと言っただろう!」

 

季衣「華琳様は言いましたよね。無理する時には無理をして、百人の民も見捨てないって。今がその時じゃないんですか!?」

 

華琳「・・・・・・」

 

季衣「華琳様っ!」

 

 しつこく迫る季衣。見かねた春蘭が止めに入ろうとするのを真が止める。

 

春蘭「邪魔するな真!」

 

真「季衣のやりたいようにさせてやれ」

 

華琳「・・・・・そのとうりね」

 

 ここで黙り込んでいた華琳が口を開く。

 

華琳「春蘭。今動かせる部隊は?」

 

春蘭「は。当直の部隊と最終確認を行っている部隊が残っています」

 

華琳「数は?」

 

春蘭「800ほどです」

 

華琳「季衣。それらを率いて先遣隊として出撃しなさい」

 

季衣「はいっ!」

 

 待ちに待った命令に元気よく答える季衣。

 

華琳「秋蘭。補佐として貴方も出撃してちょうだい」

 

秋蘭「御意」

 

季衣「秋蘭様が・・・・・・?」

 

 戸惑う季衣。今まで秋蘭の補佐をしたことはあっても補佐されたことはない。

 

華琳「ここ数日無理をさせてるから秋蘭に指揮させたくはないのよ。季衣。今後のためにはいい経験になるわ。出来るわね」

 

季衣「はい・・・・。秋蘭様、よろしくお願いします」

 

秋蘭「うむ。しっかり補佐はするから安心しろ」

 

季衣「はいっ!」

 

 華琳は春蘭と桂花、明雪にも指示を出すと各自が準備のため、慌ただしく走っていく。そんな中真は秋蘭を呼び止めた。

 

真「秋蘭。ちょっといいか?」

 

秋蘭「真。何か用か?」

 

真「少し渡しておきたいものがある。ついてきてくれないか?」

 

秋蘭「・・・・・わかった」

 

 断ろうかとも思った秋蘭だったが、真の顔がいつもより真剣だったこともあり、準備を季衣に任せて真に付いて行くことにした。ついて行くとそこは真の部屋だった。

 

真「ここで少し待っていてくれ」

 

 入口の前で秋蘭を待たせ中に入る真。すぐに出てきた真の手には鉄製の小さな箱が握られていた。

 

秋蘭「これは?」

 

真「ある特殊な波長をもたせた氣を封入したものだ」

 

 そう言ってその箱を手渡す真。意外と軽い箱で、踏めば簡単につぶれそうだった。

 

真「もし、もしも危険な状態になったらそれを踏み潰せ。中に封じ込めた氣が拡散してこの陳留の中にいる限りどこにいても俺が察知する。危なくなったら迷わず砕け」

 

秋蘭「わかった。ありがたくあずかっておく」

 

 礼を言って準備に行こうとする秋蘭に真はもう一度念を押す。

 

真「秋蘭。本当に危なくなる前に砕けよ。いくら俺でもここから賊の出現した地点までは時間がかかる。早めに砕け」

 

秋蘭「肝に銘じておこう。それでは、行ってくる」

 

 秋蘭を見送った真は自室に戻った。

 翌日、早朝陳留を出た華琳率いる本隊は通常よりも若干速い行軍速度で進んでいた。

 

春蘭「急げ急げ! 急いで先遣隊に合流するぞ!」

 

華琳「落ち着きなさい春蘭。戦う前に兵たちが疲れ切ってしまうわ」

 

 妹が心配でたまらないので急がせようとする春蘭を華琳がなだめる。徹夜したとは到底思えない春蘭に真は呆れていた。

 

春蘭「華琳様ぁ。私だけでも先遣隊として先行しては駄目ですか?」

 

明雪「今部隊を分けても逆効果よ。自分の妹を信じて少しは落ち着きなさい」

 

 そこに秋蘭からの早馬が届いた。

 

桂花「敵部隊と接触したそうです。張角らしき存在は確認できていないそうですが、やはり組織化されており、並みの賊よりは手強いだろうとのことです。本隊はくれぐれも余力を残してあたってくれと」

 

 流石は秋蘭。姉の性格を熟知してさりげなく1人先行しないように釘をさしていた。

 

華琳「数は?」

 

桂花「夜間であったため総数は不明。ですが先遣隊よりは明らかに多いとのことです。むやみに攻撃はせず、防御を固めて援軍を待つと」

 

華琳「流石は秋蘭。賢明な判断ね」

 

真「とりあえず現在のところは対処できているようだ」

 

 きっぱりと言い切る真。その確信めいた発言に明雪が疑問の声を上げる。

 

明雪「えらく自信たっぷりね。そう言えば昨日秋蘭に何か渡していたようだけど?」

 

真「これだ」

 

 懐から取り出したのは昨日秋蘭に渡したのと同じ金属製の箱だった。その箱について昨日秋蘭にしたのと同じ説明をする真。

 

華琳「それはまだ砕かれていないのね」

 

真「ああ。だからさほど危険な状態にh!! 前言撤回だ。今ちょうど砕かれたようだ」

 

華琳「なんですってっ!」

 

兵士「報告します!!」

 

 駆け込んできた1人の兵士。それは先遣隊として出撃した兵士のうちの一人だった。

 

華琳「報告なさい!」

 

兵士「先遣隊が敵と接触! 戦闘に入りました!」

 

華琳「・・・状況は!」

 

兵士「数と勢いに押されお味方不利! 街にこもり防御に徹してはいますが、状況は芳しくありません! 至急援軍を求むと!」

 

真「お前はいつ街を出た?」

 

兵士「はっ! 夏候淵将軍は敵の数が圧倒的とわかると同時に私を早馬に出しましたので、私が街を出たのは戦闘が始まる直前であります!」

 

真「やはりそうか」

 

 伝令の来たタイミングからして真はそうではないかと考えていた。しかしあの箱が砕かれた以上、先遣隊が危険な状態であることに変わりはなかった。

 

真「華琳」

 

華琳「どうしたの真?」

 

真「先行する許可をくれ。俺一人ならここから半刻もかからない」

 

華琳「・・・・いいわ。そうしてちょうだい。明雪。貴方も真と一緒に先に向かって。ここは私と春蘭がいれば十分よ」

 

明雪「御意」

 

華琳「真。明雪一人くらいなら一緒に運べるわね」

 

真「無論だ。明雪。馬を下りてくれ。流石に馬ごと運ぶのは無理だ」

 

明雪「わかったわ」

 

 馬を下りた明雪に歩み寄った真は、いきなり明雪を抱き上げる。

 

明雪「ちょ、ちょっと、真!」

 

真「こうしなければ運べない。振り落とされないようにしっかりつかまっていてくれ。では、華琳。先に行く」

 

 真は明雪がしっかりと捕まったのを確認し、自身も彼女をしっかりと抱き抱えると、縮地で一気に街を目指した。一方華琳たちも一刻も早く街に到達すべく速度を上げるのだった。

 そのころ街に立てこもった秋蘭たちは必死の防戦を繰り広げていた。秋蘭たち先遣隊800に義勇軍200、街の有志100弱の総勢1100に対し、賊軍は6000という圧倒的な数で攻めよせる。既に4つある門のうち2つは突破され、かろうじて南門と北門を確保。東西の大通りにバリケードを設置して戦いを続けていた。

 

季衣「秋蘭様! 西側の大通、3つ目の防柵まで破られました!」

 

 じわじわと追い詰められ、防柵は突破されていく。

 

秋蘭「西側の防柵はあと2つか。・・・・・どうだ李典。どのくらい保ちそうだ?」

 

 秋蘭は隣に立つ少女に尋ねる。その少女は以前、陳留に竹籠を売りに来た3人の中の1人で真桜と呼ばれていた少女だった。

 

真桜「せやなぁ・・・・・。あり合わせの材料で応急で作ったもんやからなぁ。後一刻保つかどうかっちゅうところやと思います」

 

秋蘭「微妙なところだな・・・・・」

 

凪「しかしここまで耐えられたのも夏候淵様おかげです。我々だけでは今頃敗走していたでしょう」

 

 この少女もあの時籠を売りに来た少女の1人だ。あの時の3人はそろって義勇軍としてこの戦いに参戦していた。

 

秋蘭「それはお互い様だ。我らだけではここまで持ちこたえられはしなかっただろう」

 

凪「それも夏候淵様の指揮があればこそです。いざとなれば、後のことはお任せいたします。自分が討って出て「そんなのだめだよっ!」!!」

 

 自分を犠牲にしようとする凪の言葉を大声で遮ったのは季衣だった。驚いた表情で固まる凪に詰め寄る。

 

季衣「そういう考えじゃダメなんだよ。今日必ず春蘭様たちが助けに来てくれる。だからそれまで何としても守り抜かなきゃ」

 

真桜「許緒様の言う通りやで凪。こんなとこで犬死してもだれも褒めてくれへんよ」

 

凪「むぅぅ・・・・」

 

季衣「今日の百人を助けて生き残れば、その先の何万人もの人たちを救えるんだよ」

 

秋蘭「季衣の言うとおりだ」

 

季衣「それにね、貴方は1人じゃないんだよ。貴方を支え助けてくれるかけがえのない仲間が周りにいるでしょ。1人で無理するんじゃなくて、周りをもっと頼ろうよ」

 

 真桜や、凪たちと共に戦場を駆け抜けてきた義勇軍の兵士たちがうなずく。その一人一人の目には最後まで全員で戦いぬいて行こうという決意が漲っていた。それを見た凪は独りよがりだった自分が恥ずかしかったのか、俯き気味になりながら小さくつぶやいた。

 

凪「・・・・はい。肝に銘じておきます」

 

 凪を諭す季衣を見て秋蘭は穏やかに微笑んでいた。

 

季衣「どうしたんですか秋蘭様? 笑ったりなんかして」

 

秋蘭「いや、昨日あれだけ姉者や真に怒られていたお前が、一人前に人を諭しているのが・・・・おかしくてな」

 

季衣「真兄ちゃんが教えてくれたんです。ボクは1人じゃない。ボクを大切に思ってくれる人たちが周りにいるんだって。昔自分もそれに気づかず無茶をしてたって」

 

秋蘭「そうか、真が・・・・」

 

凪「ですがこれからどういたしましょうか? このままではそう長くは保ちません」

 

秋蘭「大丈夫だ。もうすぐ我が軍最強、いや、この国で最強の男がここに来る」

 

季衣「秋蘭様、それって・・・」

 

 ゆっくりとうなずく秋蘭。次の言葉を発しようとしたが、それは走ってきた少女の言葉に遮られた。

 

沙和「夏候淵様~! 東側の防壁が破られたのー! 東側にはもう防壁がひとつしかのこってないのー!」

 

義勇兵「敵は壊れた民家の柱を破城槌代わりに使用し最後の防壁の突破にかかっております!」

 

 もたらされたのは最悪の知らせだった。

 

真桜「あかん! 東側の最後の防壁は材料が足りんかったから、かなり脆いで!」

 

秋蘭「西は防衛部隊に任せ、残りで何としても東側を死守するぞ!」

 

兵士たち「おお!」

 

 急ぎ東へ向かう秋蘭たち。到着した彼女たちが見たのは崩れ去る防壁となだれ込んでくる敵の大軍だった。その光景に浮足立つ兵士たち。それを突如飛び込んできた影が叱咤した。

 

明雪「怯むな、馬鹿者! 態勢を整えよ!!」

 

 明雪はそう叫ぶと黄巾党の先頭3人を切り捨てる。

 

秋蘭・季衣「「明雪様!」」

 

明雪「ぼさっとするな! 隊列を整えよ!!」

 

 明雪の命令ですぐさま態勢を立て直す魏軍の兵士たち。義勇兵も少し遅れながらもそれに倣う。

 

秋蘭「明雪様、いつここへ」

 

明雪「私たちだけ先行して来たの。ここまでは彼に運んでもらったわ」

 

 明雪が指差した先で噴水のように血が噴き出す。切り裂かれ血を噴き出しながら倒れる数十人の賊たち。その中央に1人平然と立つ男がいた。義勇軍や街の有志の兵たちは突然の出来事に動揺を隠せない。

 黒衣に身を包み、血を浴びながら立つその姿は覇気と威厳に満ち溢れ、それを見た魏軍兵士たちは歓喜し、義勇兵たちは呆然とし、黄巾党は恐怖した。

 

真「すまない。遅くなった」

 

秋蘭「真!」

 

季衣「真兄ちゃん!」

 

真「華琳たちが到着するまで後一刻ほどかかる。それまでの間、何としてもここを死守する。明雪、全体の指揮を頼む」

 

明雪「わかったわ」

 

真「東側は俺が抑える。そのすきに防壁を再構築してくれ」

 

真桜「そんなん無茶や! 敵はすぐ前に迫ってんねんで!」

 

 異論を唱える真桜を無視して話を続ける。

 

真「季衣は俺と一緒に敵を抑えてもらう。大体は俺が潰すから討ち漏らしを迎撃してくれ」

 

季衣「任せて!」

 

 すると真は凪を指差すとこう言った。

 

真「お前も来い。腕には多少自信はあるだろう。季衣、許緒の援護を頼む」

 

凪「・・・・・・御意!」

 

真桜「凪まで何言うとんの!?」

 

凪「大丈夫。多分この方が何とかしてくれる」

 

 凪の真を見る瞳は確信に満ちていた。

 

真「あと何人か優秀なのを7,8人2人の援護に。後は急いで防壁の修理にかかってくれ」

 

 秋蘭の指示ですぐさま精鋭8人が選出された。まだ何か言いたそうな李典。秋蘭はそんな彼女の肩に手を置きながらこう言った。

 

秋蘭「真がついていれば大丈夫だ。奴は我が国の武将全員が同時にかかっても傷一つつけられんような武を持った男。黄巾党の雑兵程度が何人集まろうと無駄なことだ。それよりも、防壁の修理の指揮を頼むぞ。私は真たちの援護をしなければならんのでな」

 

真桜「夏候淵様・・・・。任しといてください! ウチが完璧に直したりますわ!」

 

 真桜は気持ちを切り替え、大急ぎで修理の取りかかった。

 一方真たちはようやく恐怖から立ち直った黄巾党と対峙していた。11人対2000強。圧倒的な戦力差でありながら魏軍の兵士たちには余裕が見て取れた。それを不思議に思った凪はとなりにいる季衣に尋ねる。

 

凪「許緒様。なぜみんなこんなに落ち着いているのですか? あれほどの大軍にこれだけの人数で挑もうというのに」

 

季衣「真兄ちゃんがいるからね。あのくらいどうってことないよ」

 

 季衣や兵士たちの表情からは真への信頼の強さが感じられた。

 

季衣「凪ちゃんもよく見てた方がいいよ。世界にはこんなに強い人がいるんだって、そう思えるから」

 

 季衣がそう言い終わるとほぼ同時に黄巾党は進軍を開始した。修理されている防壁を再び食い破ろうと押し寄せる。しかしそれは進の一撃でいとも容易くはじき返された。

 真は左手の上で氣を収束していく。膨大な量の氣が圧縮され直径10センチほどの強い光を放つ青白い球体が出来上がる。そしてその氣の塊を右手で殴った。

 

真「波動氣『獅子哮波!』」

 

 真の拳によりはじけた氣は道幅いっぱいに広がりながら黄巾党に襲いかかる。立ち塞がるものをすべて薙ぎ払わんとするその力の奔流は容赦なく黄巾党に襲いかかった。その威力は絶大で200近くが一気に戦闘不能に陥った。凪は目を疑った。氣を使う彼女だからこそ、この技がどれほどデタラメなものかよくわかった。そして同時に季衣の言っていたことがよくわかった。この男は自分とは違う次元の強さを持つのだと。

 真は戟を地面に突き立てながら大声で叫んだ。

 

真「我が名は御堂! 陳留刺史、曹猛徳が客将なり! 我が力を見てなお、我に挑む愚か者がいるならばかかってこい! 我が刃の餌食にしてくれようっ!!」

 

 凪はその姿に魅せられていた。真がさっきよりも一回り大きく見える。その後ろ姿は勇壮で美しい。まるで絶対なる守護神に守られているかのような安心感を凪は感じた。そしてその場にいた魏軍、義勇軍、街の有志の兵たち全てが確信した。この男がいる限り自分たちには負けはないと。

 真は戟を8の字に振り回したあと構え、攻撃に備えた。それを見て後ろにいる季衣や凪も構えをとった。

 

真「来いっ!」

 

 真の声を合図に戦闘が再開された。

 それから20分。真は未だ激戦を繰り広げていた。心が恐怖に支配され、狂ったように我武者羅に突っ込んでくる黄巾党の兵士たちを冷静に切り捨てていく。その猛攻をすり抜けた者たちは後ろに控える季衣と凪、そして魏軍の兵士たちに討ち取られていった。

 

真桜「夏候淵様! 防壁の修理終わったで!」

 

秋蘭「了解した」

 

 秋蘭は横に控えていた兵士から鏑矢を受け取ると、頭上に向かって放った。鏑矢は高音を発しながら虚空へと消えてった。

 

真「季衣! 全員を防壁まで後退させろ! 秋蘭! 後退の援護を頼む!」

 

真が敵を抑えている間に季衣たちは防壁の後ろに飛びこむ。それと同時に真は再び獅子哮波を放ち、自身も防壁の後ろへ入った。黄巾党の兵士たちはそれを追撃しようとするが、秋蘭率いる弓兵隊がそれを阻んだ。

 

真「皆無事か?」

 

季衣「大丈夫だよ!」

 

凪「おかげさまで何とか乗り切れました」

 

真「そう言えば、まだ名を聞いてなかったな」

 

凪「我が名は楽進。以後お見知りおきを」

 

真桜「ウチは李典や。よろしゅう」

 

真「御堂だ。2人とも見事な働きだった」

 

真桜「そりゃこっちのセリフや」

 

凪「貴方様の武、見事としか言いようがありませんでした」

 

真「楽進もなかなかの腕だな。我々の本隊が来るにはまだ時間がかかる。それまで何としても耐えきるぞ」

 

凪「はっ!」

 

 攻防は均衡を保ちながら進んでいった。指揮官として明雪が加わったことにより秋蘭の負担が軽減され、西側を明雪、東側を秋蘭が担当することでどちらかが指揮官不在で手薄になる事もなくなった。残り一つとなっていた東側の防壁だったが、真が獅子奮迅の働きで難なく防ぎきっていた。そのおかげで西側に多くの人員を回すことができ双方の防御力を高める結果となっていた。そしてついに真たちが待ちわびた瞬間が訪れた。

 

凪「報告します! 街の外に大きな砂煙。大部隊の行軍と思われます!」

 

明雪「旗は!」

 

凪「旗印は曹と夏候。曹操様と夏候惇様です!」

 

真「やっと来たか。待ちわびたぞ」

 

 城壁の向こうから銅鑼の音が鳴り響いてくる。その音色は疲れの見え始めていた兵士たちを鼓舞した。明雪は剣を掲げ兵士たちに叫ぶ。

 

明雪「我が兵士たちよ! そして勇敢なる義勇兵と街の有志たちよ! 今待ちに待った我が同胞たちが駆け付けた! それに合わせ我らはこれから討ってでる! この街に手を出したことを、愚かな賊どもに思い知らせてやるのだっ!!」

 

兵士たち「おおおぉぉぉ~~~!!!!!」

 

明雪「先陣は真に任せる。敵を蹴散らして」

 

真「承知」

 

明雪「総員、奮励努力せよ! 突撃ぃ!!」

 

 そこからは圧倒的だった。ただでさえ真の攻撃を見て戦意をそがれていたところに魏軍本隊が到着。前方から真が、後方から春蘭が怒檮の勢いで攻め立てる。黄巾党は成す術もなく撃破された。

春蘭「秋蘭! 季衣! 無事か!?」

 

戦闘が終わってすぐ砂煙をあげながら春蘭が走って来た。

 

秋蘭「姉者、見ての通り危ないところだった」

 

季衣「春蘭様! 助かりましたー!」

 

華琳「2人とも無事で何よりだわ。真と明雪も御苦労さま」

 

 後から歩いてきた華琳が2人を労う。

 

秋蘭「真。私からも礼を言う。お前が来てくれなければ保たなかっただろう」

 

真「俺は約束を果たしたまでだ。それに、今回ここまで防げたのは俺じゃなく彼女たちのおかげだろう」

 

 そう言った真の視線の先には義勇軍の三人娘が立っていた。

 

秋蘭「確かにそうだな。華琳様。彼女らのおかげで防壁こそ破られましたが、被害を最小限に抑え、住民を無事護りきる事が出来ました」

 

華琳「彼女らは?」

 

 華琳の問いに答えたのは凪だった。

 

凪「我らは大梁義勇軍。黄巾党の暴乱に対抗すべく兵を挙げたのですが・・・・」

 

春蘭「あー!」

 

明雪「あっ!」

 

真桜「あー!」

 

沙和「あー!」

 

 突如大声を上げる4人。

 

華琳「・・・・何よ、一体」

 

明雪「この子、あの時の籠売りの子よ。華琳と一緒に視察してた時に変な絡繰を置いてた」

 

真桜「変な絡繰て・・・・・・」

 

 少し落ち込む真桜を見て華琳は彼女のことを思い出した。

 

華琳「・・・・・・思い出したわ。でも、どうしたの、こんな所で」

 

真桜「ウチも大梁義勇軍の一員なんよ。そうか・・・・あの時の姉さんが陳留の州牧さまやったんやね・・・・・・」

 

 その間春蘭は沙和との関係を秋蘭に聞かれ、沙和の口を塞ぎながら、何やら相談している。それもひと段落したところで、華琳が脱線していた話を元に戻す。

 

華琳「・・・・で、その義勇軍が?」

 

凪「はい。兵を挙げたものの、こちらの想像以上に黄巾党の勢力が膨れ上がってしまい、我らだけではどうしようもなかったところを夏候淵様に助けていただいた次第で・・・・」

 

華琳「そう。彼我の戦力を見誤ったことはともかく・・・・・街を守りたいという心掛けは大したものね」

 

凪「面目次第もございません」

 

 頭を下げる凪。華琳はそんな彼女を労う。

 

華琳「とはいえ、あなたたちがいなければ私は大事な将を失うところだったわ。秋蘭と季衣を救ってくれたこと、あらためて礼を言うわ」

 

凪「はっ」

 

季衣「あの、華琳様。凪ちゃんたちを・・・華琳様の部下にしてもらえませんか?」

 

華琳「それは義勇軍が私の指揮下に入る、ということでいいのかしら?」

 

凪「聞けば曹操様もこの国の未来を憂いておられるとのこと。一臂の力ではありますが、我々もその大業にお加えいただきたく・・・・」

 

 その言葉に頷く真桜、沙和、そして大梁義勇軍の面々。どうやらすでに話はまとまっているようだ。それを見た華琳は少し考えこみ、真たちに問いかける。

 

華琳「秋蘭、明雪、真。彼女たちの能力は?」

 

秋蘭「は。一晩共に戦っておりましたが、皆鍛えればひとかどの将にはなるかと」

 

真「他の二人は知らんが、楽進は鍛えればいい所までいくだろう。将としての能力は十分だろう」

 

 真に褒められ、恐縮しながらも嬉しそうな凪。

 

明雪「李典と于禁も鍛えればいい将になるわ」

 

華琳「そう・・・・。季衣も真名で呼んでいるようだし、いいでしょう。あなたたち名は?」

 

 3人は華琳の前に跪くと1人ずつ名乗った。

 

凪「楽進と申します。真名は凪・・・・曹操様にこの命、お預けいたします」

 

真桜「李典や。真名の真桜で呼んでくれてもええで。以後よろしゅう」

 

沙和「于禁なのー。真名は沙和なの。よろしくおねがいしますなのー♪」

 

華琳「我が名は曹操。真名は華琳よ」

 

 自分も名乗り、3人が華琳の正式な部下として認められた。

 

華琳「真」

 

真「・・・・・なんだ?」

 

 何か企んでいるような表情の華琳に嫌な予感がする真。

 

華琳「この3人と義勇軍、貴方に預けようと思うんだけど・・・どうかしら?」

 

真「・・・・・」

 

桂花「そ、そんな!!」

 

 大声を挙げたのは真ではなく桂花。

 

華琳「どうしたの桂花。何か問題がある?」

 

桂花「おおありです! こんないついなくなるかもわからないような男に、華琳様の大切な兵を預けるなど!!」

 

華琳「確かに客将ではあるけど、今はうちの将であることに変わりはないわ。あなたたちは真の部下になる事をどう思うの?」

 

 3人に尋ねる華琳。

 

凪「御堂将軍のお力は先の戦いで拝見させていただきました。他の追随を許さない圧倒的な武、そして見事な指揮。我が武を預けるのに何ら異論ありません」

 

真桜「ウチも同意見や。御堂はんやったら安心してついていけるわ」

 

沙和「沙和もなのー」

 

 3人はそろって同じ答えを出した。

 

華琳「ということなんだけど。どう、真」

 

真「ふむ・・・・・・」

 

 真剣に考え込み始める真。そんな様子を見た3人と義勇軍の兵士たちに緊張が走る。曹操配下の将の中でも圧倒的な実力を誇る真が自分たちにどんな評価を下すのか。そんな期待と不安が彼らを包む。

 

真「・・・・・いいだろう」

 

凪「! それでは・・・・」

 

真「本来なら俺は客将の身。桂花の言う通り部隊を持つべきではないのだがな。ちょうど副官として働けるような部下が欲しかったんだ。街の警備も1人じゃ手が回らなくなっていたしな。それに訓練不足で実力はまだまだだが有能な人材が揃っているようだし・・・・」

 

 そこでいったん言葉を切り凪を見る真。

 

真「楽進は鍛えればいい線いくだろう。鍛えてみるのも面白い。それにいまさら何人増えたところで手間は同じだしな」

 

 今の真の発言に違和感を覚える華琳。確かに真に警備のために兵を預けてはいるが、訓練はさせていないはずだからだ。そんな華琳をよそに話は進んでいく。

 

凪「我が名は楽進。真名は凪です。よろしくお願いします、隊長」

 

真桜「李典や。真桜って呼んでや。これからよろしゅうな、隊長」

 

沙和「于禁なのー。真名は沙和っていうのー。隊長、よろしくお願いしますなのー」

 

真「俺は御堂。真名は真。正確には違うのだが俺にとってはそれと同等な意味を持つ。これからよろしく頼むぞ、楽文謙、李曼成、于文則」

 

真桜「! なんでウチの字知ってんねん!?」

 

沙和「沙和たち、誰も名乗ってないのー」

 

 驚く2人。しかし凪だけはどこか納得したような顔をしていた。

 

凪「・・・・・やはりあなたが、天の御遣い様なのですね」

 

沙和「ええぇ~!!」

 

真桜「マジかいな!?」

 

凪「あの武、そしていま名乗っていないはずの我らの字を呼んだこと。こんなことができるのは曹操様の軍でも1人しかおられない」

 

 真はニヤリと笑うとその通りだと答えた。

 

真「改めて名乗ろう。我が名は御堂。曹猛徳の客将で天の御遣いと呼ばれる男だ」

 

 こうして凪たち3人が真の部下となることが決まったのだった。

 


 
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