とある日の魔法王国。
「では行ってくるよアイリス」
「あら、またお忍びですか?」
「ああ、いつ何時何が起こるかわかったものじゃないからな。国民の平和を守るために自ら足を運ぶのも王たるもののつとめさ」
「気を付けてくださいね。最近物騒らしいですから」
「なに、隠密をつけるから大丈夫さ」
そうしてサイラスは城下へと繰り出していったのだった。
さて、城下を歩いていたその頃だった。
「いやっ!離して!!」
「大人しくしな、おまえは俺らのものになるんだよw」
ウサギの娘が何やら悪漢に襲われているようだ。
悪漢はチンパンジーの五人組だ。
「待てっ!その子を離せ!」
「あん?なんだぁてめえはぁ」
「ただの商人だよ。か弱い少女に大の男二人が手を出すとは情けない。すぐに離してやるんだ」
「は~い、わかりました……なんていうと思ってんのか!おい、構わねえからボコボコにしちまえ!!」
「「「「おうっ!!」」」」
リーダー格の合図で一斉に襲い掛かる猿男たち。しかしその次の瞬間だった。
「うっ!いでででででででで!!!」
次から次に打ち伏せられていく猿男。
「どうだ?まだやる気か?」
「くそっ……覚えてやがれ!おいズラかるぞ!!」
猿男たちが去ってしばらく後……。
「どうも、危ないところをありがとうございました……」
「女に手を出すような輩は許しておけないのでね。話を聞こうか」
「私の家は代々魔法道具を作り、それを売ることで生計を立ててきました」
「なるほど」
「ところがある日、この村のお代官様が変わってからというもの、工房の品を公事(税として納める物品)と称してほとんど持ち去っていくのです」
「……」
「それだけでは飽き足らず仕事に必要な家財道具までもっていく有様で……従わなければ工房をつぶすとまで言ってきて……」
「……事情は分かった。それでその代官の名は?」
「ザウジ・ジキーマ……女狂いで町娘をさらってはヤりまくるという噂で悪評判の水牛男です……」
「……なるほど、そんな悪辣でしかも変態とは、許してはおけんな」
「ありがとうございます」
その日の夕方。
「ディア」
「はい」
「ザウジ・ジキーマという悪代官が暴利をむさぼり、女までさらっては侍らせているようだ。一つ調べてみてくれ」
「かしこまりました」
サイラスの指示でディアは夕闇迫る空へと駆けていった。
「……さて、こちらも動くとしよう」
その夜、魔法工房……。
その主である母親は俯いたまま涙をこぼしていた。
「うう、家財道具まで持っていかれて、これでは商売ができないわ……毎週のように持っていくものだから、もう出すものなんか……」
「泣かないでお母さん……実はある旅の商人に会ったの。その方が親身に話を聞いてくださったのよ」
「……」
すすり泣く母を慰める娘。しかし追い討ちをかけるかのように工房のドアが突如乱暴に開かれる!
「公事の納め時じゃあ!今週の分をだせい!!」
大きな怒鳴り声とともに入ってきたのは巨大な水牛の男性。ザウジ・ジキーマである!
「申し訳ありませんお代官様!ですが毎週のように持っていかれてはもう、お出しするものが……!」
「ほぉぅ?逆らえばこの工房をつぶすと知ってか!?」
「いえ、ですから家財道具まで持っていかれてはそもそも……」
「黙れえ!言い訳など聞きたくは……ん?」
ザウジは母の後ろでおびえる娘を見るやその娘に歩み寄る。
「……ひっ!?」
「ほう、お前さんなかなかいい顔をしておるのう」
「い、いや……来ないで……」
しかし娘の懇願もむなしく、ザウジは娘を担ぎ上げる!
「きゃあっ!?お母さん!助けて!!」
「ああ……離して!その子を返してください!!どうか!!」
「よおし!ではこの娘を公事代わりにいただいていくぞ!娘を取り返したくばせいぜい働いて公事を納めることだ!がっはっはっはっは!」
ザウジは娘を連れ去り行ってしまった。
その数刻後に悲鳴を聞きつけたサイラスが工房に入ってきた。
工房では一人すすり泣く母親の姿が。
「うっ、うっ、うっ…………!」
「如何なされた!?」
「あなたが……娘の言っていた商人さんですか?」
「ああ、悲鳴が聞こえたので急ぎ駆け付けたんだが……」
「お願いです、娘を助けてください…!夫を亡くして以来、たった一人の大切な家族なんです……!」
「相わかった。しかしてその娘さんを連れ去った奴の名を教えていただけないか?」
「……ザウジ・ジキーマです……!」
「……やはり手を出したか。おのれザウジ、断じて許してはおけん!!」
稀代の悪代官にして色欲魔であるザウジ・ジキーマ。
果たしてサイラスはザウジの野望を打ち砕けるのか!?
待て後編!!
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