No.1093585

パパ様華麗に参上!

砥茨遵牙さん

グリンヒル奪還戦。ルックの危機にパパ参上。4様のこの世界での役割も。
強い奴と戦いたいシードがいます。

坊っちゃん→リオン
2主→ヒエン

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2022-06-02 12:25:09 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:335   閲覧ユーザー数:335

グリンヒル奪還戦。ヒエンはビクトール隊と共に皇王ジョウイ率いる本隊を迎え撃っていた。幼少のルカを知っているキバ将軍とクロを出来るだけ会わせないようにしたのだ。

前線でクロはビクトールと共に戦っていた。無言で敵を斬りつけるクロの戦いぶりを見たビクトールが、どっかで見たなと首を傾げる仕草をしたのでヒヤヒヤしたものの、クロも無傷で善戦している。ヒエンの部隊にはルックの部隊も合流していた。すると、

「大将の頭取れば終わりだろ!行くぞお前ら!!」

「待てシード!!」

クルガンの制止を無視して、シードの部隊がヒエンの部隊目掛けて突っ込んできた。

「ヒエン、後ろのフリックの部隊と合流して。あいつ止めるから。」

「うんっ、気を付けてねルック!」

ヒエンの部隊が遥か後方に下がったのを確認し、ルックが切り裂きを発動する。

「効かねえナァ!!」

しかし、シードは間一髪でかわして突っ込んでくる。

「あーもう!だから単純な奴は嫌いなんだ!」

そうしている間にもシードがアニマル軍の兵士を蹴散らしながらどんどんルックに迫ってくる。

「まずはテメエからだ小僧!!」

「くっ!」

シードがルックに向かって馬を全速力で走らせていたその時。

「っ!?」

ゾクッと得体の知れない悪寒がシードを襲う。

反射的に身体を後ろに反らした刹那、自分が乗っていた馬の首から頭が無くなった。

「んなっ!?」

頭が無くなり制御不能となった馬上から落ちるシード。なんとか体勢を立て直して地面に着地し馬の頭があったところを見ると、営利な刃物で綺麗に斬られた跡がある。その下には斬られた馬の頭。身体を反らさなければ自分の首も落ちていたであろう事実にシードはゾッとする。

「おや、あれを避けたのか。君は直感力に優れているんだね。」

「っ!?」

涼しげな声にシードが驚いて顔を上げると、赤いバンダナを頭に巻いた黒い服の美形の青年が立っていた。青年の右手には血のついた剣。この青年が馬の首を斬ったのだと察した。

青年の顔はシードから見てもかなり整っているが、一筋縄じゃいかない魅力を感じる。何よりも全速力で走らせていた馬の首を斬り落とす腕を持っているのだ。間違いなく強い。ふと目が合うと、青年が優しげにニッコリと微笑んだ。思わずシードの胸がキュンッとして顔が火照る。

それを見ていたルックは、あいつ父さんに落ちたな、と思った。

見とれてる場合じゃねえ!とシードはブンブンと首を横に振って、剣を構える。

「テメエ、何者だ?同盟軍の奴か?」

「いいや。直接同盟軍に参加しているわけじゃない。」

「何ィ?」

「僕が戦争に参加するとバランスが崩れてしまうからね。傍観者、といったところかな。」

「傍観者ァ?それが何で俺の馬斬った!?」

「今回は息子の危機だったから、流石に見過ごせなくてね。」

「息子だと?」

「君が向かって行こうとしていたあの子さ。」

シードが青年の後方に視線を向けると、ルックの姿があった。青年はどう見ても二十代前半。計算が合わねえと首を傾げると、十代の時の子と返ってきた。ということは青年は三十代か、なるほど若作りなんだなと納得する。

あいつ馬鹿なの?とルックは呆れた目をした。

と、シードの後ろから遅れていた兵士達が近づいて来る。

「シード様!!ご無事ですか!?」

「あっ!?馬が!!」

「貴様か!よくもシード様の馬を!!」

激昂した兵士の十数人が剣を抜き青年に向かって馬を走らせる。

「お前ら待て!!」

シードの制止も虚しく青年に迫る兵士達。やれやれといった様子で青年が右手の剣を構え、左から右へ薙ぎ払うように一度だけ振ると。

一瞬にして、十数人の兵士と馬の首が胴体から離れた。

「ッ!?」

青年の周りにゴロゴロと転がる人間と馬の死体。紋章を使っているわけではないのに、青年は一切その場から動かず十数人の人間と馬の首を斬ったのだ。後から到着した兵士達もそれを目の当たりにし、恐怖で馬の足を止めた。

「剣を捨てて逃げるならば僕はそれを“赦そう”。しかし、剣を手に向かって来るならば、容赦はしない。せめてもの情けに、苦しまずに死なせてあげよう。」

青年の得体の知れない強さに兵士達は後退りするが、シードは恐怖と同時にゾクゾクと高揚感が沸き上がった。

男は強い者に惹かれる。これ程の強さを持つ者と対峙出来るチャンスは無い。しかも、青年はもう一本帯刀している。本来は双剣使いなのかもしれない。あれを抜かせたい。シードは兵士達に下がるように命じて、青年に向かって剣を構える。

「…構えるのか。」

「あんた、名前は?」

「今ここで名乗る名は無いんだ。」

「なんだと?」

「僕に向かって来ると、君はすぐに死んでしまうからね。」

「言ってくれるぜ。」

「ああ、でも、」

先に死ぬのは彼等か、と青年がシードの後方の兵士達に目を向ける。シードがまさか、と振り向いたその時。

「ギャアァアァアァ!!」

「火が!火が!」

「助けてくれえぇえ!!」

地面から火柱が立ち上ぼり兵士達の進路を塞ぐ。火柱がみるみる狭まり、一人も逃がすことなく骨も残さず焼き尽くした。残ったのは、焼け焦げた地面のみ。

「なっ…!?おいどういうことだ!!あいつらあんたに剣を向けてねえだろ!!」

「そうだね。でも、妻は一人も逃がす気無かったみたいだ。」

「妻だと!?」

シードが再び青年の後方に目を向けると、いつの間にかルックの隣に赤い服に緑のマントを纏った美人が立っていた。

「あんた、いつの間に一人で合体技使えるようになってるのさ。」

「愛しの旦那様に教えてもらった。」

「しかも焦土とか。えげつな…。」

「ルックの命を狙ったらどうなるか、見せしめは必要だろ?」

「ついでにそいつの食料にしただろ。」

「たまには餌もやらないとな。」

紋章を使ったのはあいつか。あいつが隣の小僧を産んだにしては若すぎね?と首を傾げる。

「言っとくけど僕はこの人から生まれてないからな。この人後妻だからな。」

「後妻って言うな、マミーって呼べ。」

「誰が呼ぶか。流行りに乗っかるな。」

なるほど後妻と納得するも、いやいやそうじゃねえと頭を横にブンブン振るシード。

「おいこら女ァ!!戦意のねえ奴らに火ィ放つとはどういうこった!!」

女、という単語にルックがブフッと吹き出して、額にピキッと青筋を立てる美人。反論したいが正体は隠したいのでフゥーと息を吐く。

「お前こそ、戦場で油断しすぎだ。」

「何ぃ!?」

「命令を無視し、敵陣のど真ん中に突っ込むとは。それで将とは笑わせる。」

「っ!」

「ハイランド側の動きがおかしいから何か策があったのだろうがな。お前の短慮で部下は命を失った。肝に命じておけ。」

無表情で毅然とした物言いをする美人を睨み付け、ギリッと唇を噛み締めるシード。正論を言われて返す言葉がない。すぐにでもあの美人を斬りに行きたいが、目の前の青年を出し抜いて行くのは難しい。剣を構えて改めて青年と向き合う。美人が紋章を発動しようと右手を掲げるのを、青年が左手を上げて制す。

「手出しは無用だ。」

「…分かった。」

美人が右手を下ろす。青年の動作を見たシードが気付いた。

「あんた、左利きか。」

「ああ。」

利き手じゃない方であれだけの強さ。双剣を抜いたらどれほどになるのだろう。確かにあの女の言う通り、自分には将の自覚は足りないかもしれない。だが、強者を前にして一人の武人として戦いたい、剣を交えたいという気持ちの方が強い。クルガン、悪い。とシードは心の中で謝って、剣を構えながらジリジリと青年との距離を詰めていく。青年は微動だにしない。あと数歩で青年の間合いに入る。その時。

「シードッッ!!」

シードの後方からクルガンが早馬を走らせ駆けつけた。

「馬鹿っ!来るな!」

「何を言ってる!撤退だ!最初からその手筈だっただろう!!」

「でもよぉ!っ、うわっ!?」

馬を走らせたままクルガンはシードの首根っこを掴み、グイっと引っ張って馬の鞍に横向きに乗せ、そのまま来た方向へ逆戻りした。

「おいこらクルガン!もうちょいまともな乗せ方あんだろ!」

「時間が無いんだ、落ちたくなければ大人しくしろ!」

「ちッッく、しょおぉおぉッッ!!」

青年と戦いたかったシードは悔しそうに叫びながらクルガンに連れていかれたのだった。

 

 

 

 

 

青年、ラスはクルガンとシードを追おうともせず、剣を納めた。

「父さん。あれ、逃がして良かったの?」

「彼らの贖いの時はここじゃないからね。」

「そう。厄介だね、裁定者って。」

「裁定者?」

ルックが言った裁定者という単語に美人、リオンが首を傾げる。それにルックがやれやれといった顔をした。

「言ってなかったの?」

「この三年は平和だったから、見えていなくて。」

「あっそ。帰ったら説明しなよ?」

「その時はルックもいてくれるかい?レックナートのことを説明した方が分かりやすいんだ。」

「…はぁ、分かったよ。」

「?レックナート様にも関係あるのか?」

「ああ。それも帰ってから話そう。」

リオンが疑問符を浮かべていると、ルックを心配したヒエンとフリックの部隊がやってきて。リオンの焦土によって広範囲に焼け焦げた地面に戦慄しながらも、ハイランド軍の撤退によりグリンヒル奪還による攻防戦は幕を下ろしたのだった。

 

 

 

グリンヒルを奪還してすぐ、レオン率いるハイランド軍がロックアックスを落としたという知らせを受ける。アニマル軍はミューズ奪還に向けて戦力を整えることにした。

ラスとリオンに用意された客室のテーブルで、ラスが三人分のお茶を淹れて椅子に座る。ラスの両隣にはリオンとルックが座っていた。先日ルックが話した“裁定者”についてラスから説明を受けるためだ。

まず、とラスが話し始める。

「レックナートがバランスの執行者、と呼ばれていることは知ってるよね?」

「うん。」

真の紋章の一つ、門の紋章の裏側、つまりは異界への出口側を宿したレックナートの力は解放戦争の時に見ていた。グレミオの魂をソウルイーターから出した力と、ウィンディが呼び出した異界の魔物を出口へ、つまり異界へ戻した力。

「表側、入口を宿したウィンディが長年好き勝手やってくれたせいで、この世界は異界と繋がりやすくなってしまった。だから、出口を宿したレックナートが異界とのバランスを保っている。それがバランスの執行者。」

「なるほど…。でも、百八星の石板は?あれもレックナート様が管理しているんだろう?」

リオンは三年前と同様に、石板とルックをこの城に押し付けられたとビクトールから聞いていた。石板についてはルックが、とラスに言われて、しぶしぶ話し出すルック。

「あの石板については明確に聞いてないけどね。真の紋章が絡む戦争だと、異界への境界線みたいなものが弱くなるらしい。その戦争に天魁星に選ばれた者が関わって、ようやく石板が姿を表すんだってさ。レックナート様は基本中立の立場だけど、前回や今回のように天魁星を導くのも、バランスの執行者の役割なのさ。」

僕も詳しい条件は知らないよ、と付け加えて。石板より早いとこ本題に入って父さん、とルックが促す。

「…俺の紋章は、償いと赦しを司る罰の紋章。というのは前に話したね。」

「うん。」

「罪に対し償いと赦しを以て罰を与える、これは本来人間や知恵のある者、または真の紋章の行動によって伴うもの。そしてその裁定は、“罰の紋章の主”に委ねられる。」

「罰の紋章の、主?」

ラスが発した単語にリオンは違和感があった。リオンもそうだが、今まで出会った真の紋章を宿した者は全て継承者、宿主と呼ばれていた。明確に主と言ったのはラスが初めてだ。

「レックナートが門の紋章の裏側を宿してバランスの執行者の役割を担っているのと同じでね。罰の紋章が己の力を行使するに相応しいと認めた主は、裁定者と呼ばれる。それが俺だ。」

あまりこれで呼ばれたくはないんだけどね、とため息をついたラス。リオンはぽかんと口を開けて驚いている。

確かラスの紋章は宿した者がその力を使ったら、宿した者の魂を喰らって近くにいる者に寄生するものだったはず。自分のように継承者から継承者へ受け継がれるならまだしも、罰の紋章に認められたとはどういうことかと聞くと。

「そもそも、宿して最初に力を使った段階で違和感はあったんだ。“本来一度力を使えば命を全て喰われるはずなのに”ってね。」

かつて一度だけ罰の紋章の力を使い、魂を全て喰われ灰になったグレン団長をラスは目の当たりにしていた。継承者は過去の継承者の記憶に苦しめられ、ブランドのように廃人になる。グレン団長のように、一度の行使で魂を全て喰われて灰になるはず。

だが、それを宿して記憶を見てもラスは廃人にならず、群島解放戦争時に使った回数は五回。いくら天魁星とはいえ、あり得ない現象が起きたのだ。

「戦争が終わって、俺は力を使っても命を削ることは無くなった。償いの期間が終わって命を削らなくなっただけかと思っていたら、罰の紋章が俺の魂を絶対に手放すまいと寄生しているとレックナートから聞かされたんだ。」

同時にレックナートから裁定者と呼ばれるようになったという。どういうことかと疑問に思っていたら、それはすぐに表れた。クールーク皇国の紋章砲を巡る争いで、特定の人物の罪と[[rb:贖> あがな]]いの時が見えるようになったのだ。その罪に対し贖いの時を以て罰とする。その人物の過去と未来を見通し贖いの時を見極め、ラスの判断で裁定する。それが罰の紋章の主と認められたラスの、裁定者の役割なのだと。万が一ラスが何らかの理由で亡くなった場合、ラスの魂を喰らい再び寄生を繰り返すのか、始まりに還るのかはレックナートにも分からないのだとか。

そこまで聞いて、リオンはぬるくなってしまったお茶をゴクリと飲むと。

「…私の、罪は…、贖いの時は、ラスには見えていた?」

手を震えさせながらカップを置いて、問いかける。自分の解放戦争でのことを、父親のことを言っているのだろう。武将として父を超えたことが自分にとって宝とはいえ、罪が見えるラスにはどう映ったのか。

ラスはリオンを安心させるように肩を抱いて引き寄せる。

「大丈夫、君に罪は無い。むしろ君が、テオ将軍の罪に対して罰を与えたんだ。」

「父の、罪…?」

テオの罪は、腐敗した帝国を目の当たりにしながらも、皇帝バルバロッサを諌めなかったことだとラスは語る。他の五将軍の内、テオだけが最後までバルバロッサのために戦う道を選ぶ運命だったのだ。つまり、ラスにはテオが死ぬことが見えていた。当時のリオンに余計な混乱を招かないように黙っていたことを詫びる。

ラスも贖いの時は見えても、未来が全て見えるわけじゃない。真の紋章が関わると不鮮明な場合もある。結局は本人の行動次第だと。

「テオ将軍は君と一対一で戦うことを選んだ。そして君はテオ将軍に勝って、息子が父を超える瞬間を見せてあげられた。死の間際、彼は確かに幸せだった。それを忘れてはいけないよ、リオン。」

「っ、ラス…!」

ルックがいるため泣きたくなるのをぐっと耐えて、ラスに抱きついてその胸板へ顔を埋めて深呼吸するリオン。

ソニエール監獄でグレミオを亡くしてから、ラスはそれまで装備していた胸当てを外していた。リオンが泣きたくなったらいつでも胸を貸せるように。グレミオが生き返って三年経った今もそれは変わらず、胸当ては現在グレッグミンスターでグレミオが保管しているのだとか。

二人のいちゃいちゃっぷりにげんなりした様子のルックがハァとため息をついて、頬杖をつく。

「息子の前でいちゃつくな。」

「ごめんねルック。」

「ま、いいけどさ。その罪、見える奴は限られてるんでしょ父さん。」

「ああ。大きな戦乱の引き金になった者、その引き金を止められなかった者だけだ。」

前回の戦争で言えば引き金になった者はウィンディとバルバロッサだが、バルバロッサは覇王の紋章を竜王剣に宿して持っていたためラスでも贖いの時の詳細は見えなかった。その場合明確な死を以て贖いとするかは、ラスの判断に委ねられる。ウインディはこの世界と異界との間に綻びを生じさせた罪が重すぎたため、裁定者であるラスが首を斬るのは確定事項として見えていた。バルバロッサはどうするか考えていた当時のラスは、レックナートが絶妙なタイミングで二人の首を斬ってほしいと頼んだことに驚きつつもそれを承諾した。二人の命を同時に絶つ。それが滅びの道であると知りながら国をウインディに捧げた自分の罪と、彼女の罪も共に背負い命を持って償おうとしたバルバロッサの贖いと裁定したのだ。バルバロッサのおかげで、ウインディは最期にこの世界から赦されたのである。

今回の戦争で言えば、発端となった狂皇子とそれを諌めなかったハイランド側の将。その該当者を知っているリオンは顔を上げた。

「…ラス。それって、確かこの軍にもいる…?」

「ああ。キバ将軍だ。彼の贖いの時も、見えている。ただ、それがどういうものかは語ることは出来ない。」

「…そっか。あのおっさんいい人なのに。」

「おや、ルックがそう言うなんて珍しいね。」

元々は敵の将軍だったが、部下の命を救おうと敵に頭を下げた人。ハイランドの間違いを正そうとアニマル軍に加わってくれた。豪快に笑うし、熊と酒飲み勝負してるし、禿げをいじるとこりゃっ!と怒って。クラウスと年齢が近いせいかよく構ってきたとルックは語る。

贖いの時は防げない。それがどんなものなのかラスは全て知っているが語ろうとはしない。

「彼の贖いを以て、息子のクラウスの狂皇子を諌めなかった罪は赦されることになっている。レックナートによると、百八星に数えられてる時点で未来はある程度決まっているそうだし、彼は未来に必要な人材らしい。」

「そんなこともあるのか。」

「贖いは死が全てじゃない。クラウスみたいなのは稀だね。それに…、」

「それに?」

「いや、今はよそう。」

ラスにはもう一人、この軍にいる者の中で贖いの時が見えている。先日の戦場で戦っていたクロという名の青年だ。聞けばヒエンの恋人としてシュウから紹介されたのだとか。

彼の正体は罪と同時に見えているから知っている。それをラスは語ろうとはしない。あの戦いによって死ぬはずだった彼の贖いを、輝く盾の紋章が防いでねじ曲げたのだ。分かれていてもやはり始まりの紋章、罰の紋章でも計り知れない。

本来は防げないはずの贖いをねじ曲げたことで、彼には新たな贖いが出来た。いくら盾の紋章が防いでも、あれに血を与えて目覚めさせた罪は大きい。その贖いの方法は彼の心情が変わっている現在は不鮮明で。裁定者であるラスも初めての現象だった。今はただ、変わっていく彼の心情を見守るしかない。

 

「ところで、どうして裁定者のこと黙ってたの?伴侶になって三年も経ってるのに。」

とリオンがラスの胸元で拗ねている。

「黙っていたわけじゃないんだ。この三年は平和だったから見えなかったし、君と過ごす幸せの方が勝っていたから。」

「要は幸せボケしてたんでしょ、父さん。」

「ははは、そうだね。」

「!…私も、幸せ。」

すりすりと胸元に頬擦りするリオンの背にラスは腕を回して抱き締める。

「だーかーら!息子の隣でいちゃつくなっての!」

「ごめんごめん。」

隣でプンプン怒るルックに手を伸ばして、よしよしと頭を撫でるラス。誤魔化されないからね、と言いつつもラスに撫でてもらうのは好きなルックなのであった。

 

「でも父さん、僕を助けるためとはいえ派手にやったから絶対にレックナート様から小言言われるよ。」

「ああー…、そうか。うん、仕方ないね。」

「私も一緒に叱られてあげる。」

「ありがとう、リオン。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、ハイランドでは撤退する作戦だった戦いで部隊を全滅させたシードがレオンから大目玉をくらっていたが、当の本人は、

「あの人と戦いてぇ…。すっげえ強かった…。」

とこの調子である。

シードから部隊を全滅させた夫婦の特徴を聞いたレオンは三年前の解放戦争を思い出し、完全に符合する人物を思い浮かべた。あの二人が結婚したのは風の噂で聞いていたが、まさかこちらの戦争に来るとは。どちらも強力な紋章を使う魔力があり、しかも片方はシードが見とれるほどの剣の実力を持っている。自分の策でも二人の強大な力は防げない。シードの話ではルックという少年を守るために出てきたという。ルックはあの方の息子、辻褄は合う。ならば。

「クルガン、シード。今後アニマル軍の風の紋章を使うルックという少年に手出しはするな。他の者にも徹底させよ。」

「ははっ。」

「えっ!?何でだよレオン殿!!それじゃあの人と戦えねえじゃん!!」

「馬鹿もん!あの二人を戦場のど真ん中に呼び出したら儂の策でも勝てんわ!!今後ルックの部隊が前に出たら、ユーバーを向かわせる!いいな!!」

「そんなぁ!!」

「レオン殿、その夫婦をご存知なので?」

「トランの英雄リオン・マクドールとその夫だ。」

「あの人が!?マジかそうかどうりで強かったわけだ!」

お決まりの勘違いをしているシードに、リオン・マクドールは赤い服の美人で男だぞとレオンが告げる。剣を使う青年の方がその夫だと。

「えっ。あいつ男?」

青年が妻と言っていたし美人だったから女だと思っていたが、まさか男だとは。シードは悔しそうにガシガシ頭を掻いた。

「だ、ま、さ、れ、たァアァ!!!!」

「お前が勝手に勘違いしただけじゃ馬鹿もん。」

「男性同士で夫婦なのですか。」

「うむ。その夫の名は確か、ラス殿と言ったか。」

「あの人の名前ラスっていうのか!そっかー!」

青年、ラスの名前を聞いた途端に立ち直ったシード。そのシードを見て不安になったレオンは、クルガンに釘を刺すことにした。

「クルガン、シードを絶対に単独行動させるでないぞ。」

「ははっ!」

 

以後、ルックの部隊に必ずユーバーの部隊が行くことになったそうな。

 

 

 

 

 

 

終わり。

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

 

4坊夫婦とルックの異界の話

 

 

真の紋章が関わる戦争の前に異界との境界線が脆くなるのは覚えがあるとラスは語る。群島解放戦争から十数年前、とある魔術師が呼び出した異界の生物から兵器を作り出した。それと同じ時期に、異界から使い魔を呼び出しその者と子を設けた男がいたのだ。

「待って父さんそれ初耳。異界の者と子を設けた奴がいたの?」

「ああ。その子供の方と知り合いだからね。」

「うっそ。」

「確か異界の者が女性体で、呼び出した男が赤月帝国の諜報員だったはず。」

「あんたの古巣じゃん。」

「問題ない、もう潰した。」

「まあ、百五十年も前の諜報員だからね。」

今もその子供の方は生きてるんじゃないかな、異界の血の影響で不老のはず、とラスは言う。

「それに、テッドもかつて異界の船に乗りこみ、ソウルイーターを渡していたことがあったんだ。」

「テッドが!?」

意外な人物の名前にリオンが驚く。そういえば過去の紋章の村でのテッドは幼い子供だった。不老となるはずの真の紋章を宿していながら、リオンと出会った時には少年に成長していた。本来ならばあり得ない現象。つまり一度手放したのか。

「僕もその船に誘われたけど拒否してね。それを見たテッドが紋章と向き合うことを決めてソウルイーターを取り返し、異界の船を降りて仲間になったんだ。」

「そうだったのか…。」

思わぬところから聞かされたテッドの情報に、リオンはふと考える。

自分もこれから百五十年ソウルイーターを宿して、テッドのように一度絶望してしまう日が来るのだろうか。隣のラスをじっと見つめる。

「ん?どうしたんだいリオン?」

リオンを気遣うラスの優しい眼差しに安心する。大丈夫、少なくとも私にはずっと一緒にいてくれるラスがいるから。

「なんでもない。テッドの過去が知れて良かった。」

そう言って微笑むリオン。テッドの分まで長生きしてラスを幸せにするって決めたから。絶望なんかしない。

「ていうかさ、その異界とのハーフの奴についてやけに詳しいね父さん。」

「本人が話してきたからね。当時恋人がいたから断ったけど。」

「…そいつ、美少年だったでしょ。」

「まあね。」

「やっぱり。」

美少年という単語にピクッとリオンが反応したのを見て、ははーんとルックがニヤリと笑う。

「そういえばさ、あの赤い将軍も父さんに落ちてたよね。」

「ああ、彼か。確かシードって言ったっけ。」

「あいつ見た目は美青年だもんね。昔の父さんなら食ってた?」

「そりゃ味見ぐらいは…って何言わせるのかなルッ、」

ガシッとリオンがラスの上着を掴み、ぐいっと自分の方に引き寄せた。

「ラ~ス~?」

まずい。リオンの妬きもちスイッチが入ってしまった。過去はともかく、こうして仮定の話でスイッチが入ってしまうと拗ねた挙げ句に周りが被害を被るのだ。

「…こら、ルック。」

「僕は知~らないっと。」

反抗期が終わっていい性格になってきた息子はどこ吹く風である。

とにかくリオンの機嫌を取る方が先か、と、ラスはリオンの耳元に顔を近づけて小声で囁く。

「過去は変えられないけれど、今の俺には君という床上手で最高に可愛い妻がいるからね。他の奴に目移りなんかしない。愛してるよ、リオン。」

「っ!」

ラスの言葉にかああっと顔を赤くして、上着を掴んでいた手を離してラスを見上げるリオン。そこには最高に強くてカッコいい夫の笑顔。

「私も愛してる、ラス。」

ふわりと微笑んで抱きついたリオン。なんとか機嫌が直ったリオンにラスはホッと安心して。

「だ、か、ら!息子の隣でいちゃつくなっつーの!!」

息子のルックの拗ねた声が部屋に木霊したのであった。

 

 

終わり。

 


 
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