No.1093252

裁定者と死神のワルツ

砥茨遵牙さん

1本編最終決戦直後。暗躍する4様と妄想特殊エンド。坊っちゃんに幸せになってほしい。ただそれだけのために書きました。
坊っちゃん→リオン
4様→ラス

1時代はこの話で終わりです。テオ戦や年齢制限のあるものは本にまとめています。プロフから飛べるので興味がありましたらよろしくお願いします。

2022-05-30 21:09:13 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:333   閲覧ユーザー数:333

「わたしは、おまえの瞳の奥に沈む悲しみを消したかった。受け入れられぬ者の悲しみを。わたしは、おまえを愛した。しかし、それは間違いだった。わたしの犯したただ一つの過ちだ。そして、それは許されるものではない。」

「やめて、やめてちょうだいバルバロッサ。」

「わたしは、わたしの帝国を自分の過ちによって失った。リオン、君が、果たしてここにどんな国をつくるのか……」

「バルバロッサ様!」

「バルバロッサ様ぁ…」

「皇帝陛下!!」

「さらばだ!」

バルバロッサがウィンディを道連れに庭園から身を投げ、地鳴りと共に城が崩れ始める。

永き赤月帝国の歴史に、幕が降りた瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

バルバロッサと共に落下するウィンディは、バルバロッサの腕の中でもがくも、その腕を振りほどけずにいた。

「何ということなの、門の紋章も使えないなんて!バルバロッサ!離しなさい!」

「わたしの罪と、お前の罪、共に背負って逝こう。」

「離しなさい!!」

それが、二人の最後の言葉だった。

突如城の窓から飛び出して来た黒い人影が、落下する二人の首を一瞬で、同時に斬ったのだ。

刹那の出来事に声すら上げられず、首を斬られた二人の体は崩れ行く城の瓦礫に消えていった。

 

 

 

 

 

「……哀れだな。この世の復讐に囚われ、自らを愛する者の愛情に気付かないとは。

数百年の永きに渡り犯してきたお前の罪は重い。せめてお前を愛する者と共に、命を持って償うがいい。」

二人の首を斬った人影は剣についた血を振り払い、鞘に納める。

「ありがとうございます。これで門の紋章も、覇王の紋章も封じることが出来ます。」

その人影に、バランスの執行者レックナートが現れ声をかける。その後ろには、ウィンディの持っていた表の門の紋章と竜王剣が、封印球に包まれ浮かんでいた。

「君の身内だったんだろう?レックナート。生きていてほしいとは思わなかったのかい?」

「姉の犯してきた罪はあまりにも重い…。私の命すら狙うほど救いが無くなってしまいました。せめて、陛下の愛に気づいていれば……。」

「……やれやれ、僕にこんな仕事をさせるとは。」

「落下する人間の首を二人同時に斬るだなんて、あなたでなければ不可能でしたから。

罰の紋章の主、裁定者ラス。」

 

 

 

 

 

 

最終決戦を前に解放軍の前にレックナートが現れ、門の紋章の力でグレミオが生き返った。リオンや解放軍の面々が歓喜に沸く中、レックナートはラスに話があると呼び出した。てっきりルックとの親子関係をバラしてしまった小言を言われるかと思っていたのだが。

『あなたに姉と陛下の首を斬っていただきたいのです。』

これには流石のラスも目を見開いた。自らの姉の首を斬ることを頼むとは。

少しだけ未来が見えるレックナートは、バルバロッサがウィンディを伴って城の庭園から落下するその時に、二人の首を斬ってほしいと語る。通常であればウィンディは門の紋章の力で逃げてしまう。しかし、覇王の紋章が近くにあればそれも叶わない。ウィンディが最も覇王の紋章と近づくのがその時だとも。

覇王の紋章の影響で同じくラスも紋章の力は使えない。だが、物理的な力なら可能。落下する人間の首を二人同時に斬る腕を持つのは、レックナートの知る限りこの男しかいなかった。

 

 

 

ラスは城の窓から茜色に染まった空を見上げて呟く。

 

「……テッド、仇は取ったよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで?まだ頼み事があるんだろう?」

「ええ。どうか、彼等を新たな道へ導いて下さい。」

 

 

 

 

 

「行くぞ!星辰剣!」

「人使いの荒い奴だな。」

「我が剣オデッサにかけて、ここは通さんぞ!」

ビクトールとフリックが星辰剣とオデッサを構え帝国兵を迎え撃とうとした、その時。

 

「雷神。」

 

透き通るような声と共にドドドドドォオという雷鳴が鳴り響き、その場にいた帝国兵全員に落雷と大粒の雹が降り注いだ。帝国兵が倒れると同時に、ビクトールとフリックの体力が回復する。

二人はあんぐりと口を開けて、顔を見合せる。こんなことが出来るのは、二人が知る限りただ一人。

「間に合ったようだね。」

「あ、あなたは!紫の薔薇の人(ラス様)!」

「だからその顔やめい!」

「いでっ!」

二人の後ろからラスが現れる。ビクトールの顔がベルば○風に作画崩壊したところをフリックが頭をチョップして元に戻した。

ビクトールの作画が戻ったところでフリックがラスに質問する。

「ラス、何でここにいるんだ?戦争には参加しないんじゃ…。」

「レックナートからの頼まれ事を片付けていてね。」

「頼まれ事?」

「それから、君達への伝言も預かっている。」

「俺達に?」

「時間が無いから手短に話そう。」

リオンが逃げたルートは既に崩れて通れないこと、二人がここから脱出するなら国外へ逃げるしか無いことを伝える。フリックは驚いていたがビクトールは何となく察していたようだ。

国外へと言われてもどうすれば、と言うフリックに、ラスはビクトールの方を見て告げる。

「『北へ。ビクトールの伝手を辿れ。』これがレックナートからの伝言だ。」

「ビクトールの?」

「…ははあ、そういうことか。」

「…これからまた帝国兵がやってくるだろう。今のうちに脱出するんだ。」

「えっ、ラスはどうするんだ!?」

「僕はここで君達が脱出するまで時間を稼ごう。」

「そんな!無茶だ!せめて一緒に、」

「行こうぜ、フリック。」

「ビクトール!」

「俺達じゃ足手纏いだ。」

「っ!」

ラスが一騎当千の実力を持っているのは知っている。あれだけの数を一瞬で片付けるのだ。数々の修羅場を潜り抜けてきたビクトールですら、足手纏いだと分かってしまう。実力差が悔しくて、フリックはギリッと拳を握りしめる。

そのフリックの右手をラスが手に取り、固く握られた拳を優しく撫でる。

「この手はまだまだこれからの未来を守る戦士の手だ、フリック。」

「ら、す。」

「そのためにも、君達は進まねばならない。早く、脱出するんだ。」

「……っ、」

「大丈夫、生きていれば必ず会える。だから、」

それまでの餞別だ、とフリックの右手の手袋を捲り、露になった甲に軽く口づけて。フリックがボンッと真っ赤になった。

「んなっ、んなっ、」

「リオンには内緒だよ。これからリオンを伴侶にするから、こういうこと出来なくなるし。」

「だっはははは!良かったなフリック!」

「ビクトール!」

フリックの手袋を戻して手を離す。ラスがビクトールに向き直り、手を差し出す。

「ビクトールも、どうか元気で。また会った時は、酒を酌み交わそう。」

差し出された手をガシッと掴んで握手するビクトール。

「ああ!フリックのことは任せてくれ![[rb:紫の薔薇の人 > ラス様]]!」

「だ、か、ら!作画変えんな!」

「いでっ!」

再びベル○ら風に作画が変わったビクトールにチョップして戻した。

だんだん足音が近づいてきている。さあ、早くと二人の背中をラスが押して送り出すと二人がラスの方を振り向いて叫ぶ。

「あ、ありがとう!ラス!今度会った時は隣に並んで戦えるように、俺、絶対強くなるからな!!」

「ありがとうな!紫の薔薇の人(ラス様)!リオンのこと、頼んだぜ!!」

「作画変え…、てない!?」

「たまには真面目になるぜ!」

後に良き相棒となる二人の戦士の背中を見送る。

レックナートによると、あの二人が後の時代の宿星として、未来の天魁星の運命の担い手として活躍するのは3年後。その時を楽しみにするとしよう。

 

 

 

「陛下の仇を取るんだ!」

「おいお前!解放軍の者か!」

「…そうだと言ったら?」

「おのれ、陛下の仇!」

「討ち取ってやる!」

崩れ行く城で帝国兵が何十人と現れる。

あの二人が行った後で良かった。剣で戦う姿をあまり見られたくないんだ。

十年振りか、思い切り戦えるのは(複数の首を狩れるのは)

ラスの放つ覇気に、帝国兵がたじろぐ。

「今すぐ剣を捨てて逃げるならば、僕はそれを赦す。しかし、剣を手に向かってくるならば、容赦はしない。せめて、苦しまずに死なせてあげよう。」

「ご、ごちゃごちゃとわけのわからぬこ」

何かを言いながら剣を振りかぶった一人の兵士の首が、振りかぶった腕ごと斬られた。血飛沫を上げて死体となった仲間を見て、周りの兵士達が青ざめる。目の前の男が、剣を振るった動きすら見えなかったのだから。

 

 

はるか昔、ラスは戦っていて気付いたことがある。モンスターでも手足を斬れば落ちる。空を飛ぶなら羽を斬れば落ちる。鋭い牙を持つなら顎ごと斬ればいい。ゾンビならば粉々に切り刻めばいい。そして、生きている人間ならば首を斬れば死ぬ。ならば、首を守る鎧ごと、腕が邪魔なら腕ごと、武器ごと、首を斬ればいい。首から上なら声も上げずに、苦しまずに死ねる。せめてもの情けだ。

首ばかり落とすものだから、やがて仲間からは“鬼神”と呼ばれるようになった。昔からの仲間には恐れられ、エレノアから白兵戦への出陣を止められ、後の紋章砲の争いでもキカに止められた。そんな中でも恋人として側にいてくれたキカと、友人として肝の据わったラインバッハとチープーだけが笑い合ってくれたのはいい思い出だ。

 

十年前、リオンとグレミオを助けた時も。本当はあそこまで手助けするつもりはなかったのに、複数の気配を感じていてもたってもいられなくなって。けれど、自分が戦う姿は子供の目には良くないだろうと、窓の近くに行ってはいけないと言い聞かせた。

しかし、幼いリオンはじっと見ていた。2階の窓からの視線を感じた時は驚いたものだ。幼いリオンは俺が剣を振るう姿を見て目を輝かせていて。武将の子故か、元々の素質か。眠りの風で眠らせて去っていったけれど、肝が据わった子だと鮮烈な印象を持ったのは覚えている。

きっと心配しているだろう。彼を安心させるために、早く帰らなければ(目の前の首を斬らなければ)

双剣を手に、両腕を交差させて構える。

 

「さあ、狩られたいのはどいつからかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後に城から逃げのびた元帝国兵は、歯をガタガタ鳴らし震えながら語る。

 

 

きれいな、おにが、いた。と。

 

 

 

解放軍の勝利を祝い、マッシュの死を悼みながら、ささやかな祝杯が挙げられる。

しかし、ビクトールとフリックのこと、これからのことが気掛かりなリオンは浮かない顔で。1人で夜営のテントの外へ出る。

これからの国のことを考えると、自分はいない方がいい。自分は武将。将は王になれない。王1人の政治だったから帝国は腐っていったのだ。これからは、様々な種族の意見を取り入れる議会を作り、大統領という代表を置く。その代表は、自分じゃない方がいい。きっと、ソウルイーターの呪いでまた誰かの命を盗むかもしれないから。

こんな時に背中を押して、ずっと支えてくれた腕の温もりが欲しい。心の中で名前を呼ぶと。

「リオン。」

「っ!」

やっぱり。一番いて欲しい時に来てくれる。目の前に現れたラスの体に腕を回して抱き締める。

「ラス。」

「お待たせ。遅くなってごめんね。」

「どこに行っていたんだ?」

「レックナートから頼まれ事をね。それと、ビクトールとフリックは無事だよ。」

「えっ!?本当に!?」

「それも頼まれ事でね。道は塞がっていたから、ビクトールの知り合いのいる国外へ逃がしたんだ。」

「よ、良かった……。」

「大丈夫、星辰剣を持つビクトールのことだ。そんなに簡単には死なないよ。」

「うん、うん……。ありがとう、ラス。」

安堵しているリオンの背中をさすって慰めてくれるラス。

「それでね、リオン。君に言いたいことがあるんだ。」

「……?何?」

腕を離し、キョトンとした顔のリオンがラスを見上げると、ラスが真剣な眼差しで目線を合わせる。

「リオン……、あえて問おう。俺の、伴侶にならないか?」

「っ!?」

伴侶。ラスの、伴侶。

恋人じゃなくて、伴侶。

ラスの言葉を何度も反芻して、嬉しくて、朱色の瞳から涙をボロボロ溢す。ラスの前では、涙を我慢出来ない。

「っ、ほん、と、に?はん、りょ?わたし、を?」

「ああ。」

きっとリオンはあの時から俺に囚われてしまったのだろう。こんな俺を、自分を一番に愛さないと宣言した男をずっと好きでいるなんて、愛するなんて、普通ならばあり得ない。それでも、二番目でもいいと、私の一番は変わらないと言った彼がいつの間にか愛しくなっていて。

彼の家族同然の者達から引き離すことになる。それでも、

「君が欲しい。」

「っ、」

「ずっと側にいると、君の味方でいると誓った。だから、君を俺の伴侶にしたい。君の伴侶になりたい。

…俺の我が儘ばかり言っているけれど、君はどうかな?自分に都合のいいことばかり言う俺に幻滅した?」

ふるふると頭を横に振って、リオンはラスの目を真っ直ぐ見つめる。

「幻滅なんて、しない。いつも、ラスは私の欲しい言葉をくれる。それが私の支えだった。…正直、将としての在り方に拘る私は大統領でいる資格は無い。ずっとラスの側にいたい。だから。

私を、ラスの伴侶にして下さい。」

そう言って、ふわりと微笑むリオンがあまりに眩しくて、美しくて。愛しさがこみ上げて、思わず抱き締めて唇を奪った。

「んっ、んぅ、んっふぁ、んぅ、んっ…」

舌を絡めて、吸って、ほんの少し舌を歯で噛んで。快感にびくびく震える身体を支える。しばらくして唇を離すと、夜の闇でも見えるほど頬を真っ赤に染めて、目を潤ませて、扇情的な顔でこちらを見上げるリオン。ああ、可愛い。

「だ、駄目っ。テント薄いし、寒いから。」

「温かくしてあげようか?」

「ばかっ。」

「それなら…、このまま逃げてしまおうか?」

「っ!」

お互いの額をコツンとくっつけて、ラスが囁く。リオンが大統領を辞退しても、きっと彼を祭り上げて上の地位に置くのだろう。それならば、このまま旅に出る方がいい。ラスの提案に、同じことを考えていたリオンはうん、と返事をする。

「このまま、連れて行って。」

「グレミオに挨拶しなくていいのかい?せっかく生き返ったのに。」

「……私がいたら、また魂を狙われる。」

本当は、もっと話したかった。グレミオがいない間のことを沢山話したかった。一人だけ時間が止まって、生き返って、慌てて最終決戦に参加していったグレミオ。母親のようなグレミオ。またシチュー、食べたかった。

 

 

「だ、そうだよ。グレミオ。」

「えっ。」

ラスが顔を上げて、リオンの後ろを見て話しかける。まさか、と後ろを振り返ると。がさがさと後ろの茂みが揺れて、グレミオが姿を現した。

「坊っちゃん。」

「ぐ、グレミオ……。いつから…」

「えっと、坊っちゃんが夜営のテントから離れるのが見えたので、あとをついてきてました……。」

「つまり、最初から、」

「見て、ました……」

グレミオが申し訳なさそうな表情で顔を真っ赤にすると、リオンも恥ずかしくなって、真っ赤になった自分の顔を両手で覆った。母親代わりのグレミオにイチャイチャしてるのを見られるのは、恥ずかしい。

「せっかくだから挨拶しておいで、リオン。」

「あっ…。」

ラスが背中を押して、リオンはグレミオに近づく。あんなところを見られたから恥ずかしいけれど。でも、言わなければいけない。

「えっと、その……」

「…坊っちゃん。実を言いますとね、グレミオは悔しいんです。」

「えっ?」

「だってそうでしょう?死んだと思ったら生き返って、テオ様もテッドくんも亡くなったって聞いて、悲しむ間もなく最終決戦ですよ?しかも、クレオさんからルックくんがラス様の息子だって聞かされた上に、薔薇の剣士にラス様が書かれてたなんて、びっくりすることが多すぎてグレミオの心臓は破裂寸前です。」

「…なんか、ごめん。」

グレミオの時間はソニエール監獄で止まっていた。亡くなってからだいぶ時間が経過してるし、その間いろいろなことがありすぎたのだ。グレミオが一人取り残された感覚なのは分かる。

「でもね、それ以上に悔しいのは、坊っちゃんが何も言わずに行こうとしてたことです。グレミオは坊っちゃんをそんな子に育てた覚えはありませんよ。」

「……怒ってる?」

「怒ってません。」

ぷうっと頬を膨らませて拗ねたような表情をするグレミオに、やっぱり怒ってるじゃないか、怒ってません~と言葉を交わして。

グレミオとするこのやり取りも、あの監獄に置いてきたから、本当に懐かしい。

でも、と、グレミオが困ったような、寂しいような顔をして。

「行かれるんですね、坊っちゃん。ラス様と一緒に。」

「っ、うん。」

「…本当は、グレミオは坊っちゃんについていきたいです。まだまだ坊っちゃんのためにしたいこと、いっぱいあります。」

「うん。」

「でも、せっかくの新婚旅行ですから。二人のお邪魔しちゃいけませんね。」

「しっ、新婚旅行っ!?」

グレミオの発した新婚旅行という単語に、驚くリオン。

「だって伴侶ってことは結婚と同じことでしょう?」

とグレミオが首を傾げながら言うと、ボンッと顔を真っ赤にさせた。そんなリオンにグレミオが、やれやれと呆れたような顔をする。

「だから、グレミオはグレッグミンスターのお屋敷で、坊っちゃんのお帰りをお待ちしてます。」

「えっ…。」

「もう二度と帰るつもり無かったなんて言わせませんからね。グレミオが生きている限り、坊っちゃんの帰るところはちゃんと守ります。」

「っ、グレミオ……!」

グレミオの言葉が嬉しくて、たまらずグレミオに抱きついた。よしよしと母親が子を慰めるようにグレミオが頭を撫でてくれる。立派に成長したと思っていたのにこういうところは変わりませんね、と言いながら。

その二人にラスが近づいて、グレミオがラスを見上げる。

「ラス様、坊っちゃんをよろしくお願いします。」

「ああ、任された。」

「まさか、十年前に助けてくださった方が坊っちゃんの伴侶になるなんて思いもしませんでした。でも、坊っちゃんが選んだ方ですから。グレミオは祝福します。」

「ありがとう。」

「ちなみにクレオさんとソニア様は、坊っちゃんを泣かせたら不能にする呪いをかけるって仰ってました。」

「おや。」

「それは私が困る。」

「グレミオが止めますから安心して下さいね。」

「うん。」

リオンがグレミオから身体を離して、ラスの隣へ寄り添う。その姿を見てグレミオが嬉しそうに微笑んだ。

坊っちゃんの幸せはグレミオの幸せです。でも、ちょっぴり心残りがあるんですよ。

「ラス様、」

「何だい?」

「お慕いしていました。十年前のあの日から、ずっと。」

「っ!」

「…ありがとう、グレミオ。」

謝罪の言葉ではなく、ありがとうと言ってくださる。ああ、本当にお優しい方。坊っちゃんも驚いてますね、そりゃそうですよ。あの日ラス様に恋したのは坊っちゃんだけじゃないんですからね。ほんの意趣返しです。

「坊っちゃんとご一緒に、いつでも帰ってきて下さいね。あっ、でも、お帰りになる時は必ずご連絡して下さい。シチュー作って待ってますから。」

「おや、僕もいいのかい?」

「もちろんです。坊っちゃんの伴侶ですから、当然ラス様のお家でもあります。」

「そうか…。それならお邪魔しようか。」

「お邪魔じゃないです、お帰りです。」

「ははは、そうかそうか。うん、久しぶりだな、そう言われるのは。」

「グレミオ、どうして私に言わないんだ?」

「坊っちゃん筆不精じゃないですか。」

「うっ。」

坊っちゃんが連絡するの面倒くさがるの知ってるんですよ、ラス様なら安心ですから、と付け加えて。テオ様も自分からは連絡しなくて、クレオさんやグレンシールさんから連絡してましたから、こんなところまで似てますねと笑った。

「ははは、グレミオには敵わないね、リオン。」

「うぅ、この感覚久しぶり…。」

「必ず連絡するよ、グレミオ。」

「よろしくお願いします、ラス様。」

ラスにぺこっと頭を下げたグレミオが、自分のマントを外してリオンの肩にかけた。

「え、グレミオ、これ、」

「これから旅に出るのに、それじゃあ風邪引いちゃいます。お古で申し訳ないですけど、次にお帰りになったら新しいの差し上げますからね。」

「っ、ありがとう、グレミオ。大好きだ。」

「私も。坊っちゃんはいつまでもグレミオの大切な息子です。」

再びギュッとお互いを強く抱き締め合って、名残惜しそうに離れる。

もうじきリオンがいないことに皆気付く頃だろう。さあ、お早く、とグレミオがリオンの背中を押してラスの隣へ行かせる。

ラスが左手でリオンの右手を掴み、お互いに指を絡ませて手を繋ぐ。

「グレミオ、行ってきます。」

「ふふ、久しぶりに言うな。…行ってきます。」

「はい。行ってらっしゃい。」

二人が空いた手でグレミオに向かって手を振って。

ラスの紋章の力で、何処かへ転移したのだった。

 

 

 

 

 

「…お幸せに、坊っちゃん。」

 

 

 

リオンは己の力量を理解していた。自分には将としての統率力、戦の才はあれど、国を平和に治める力量は無い。人々は自分を英雄と称えるが、自分は国のためではなく、オデッサの遺志を無駄にしないため、何の躊躇い無くテオと戦うため、テッドを救うため、全て自分のために戦っていたにすぎない。そんな身勝手な理由で戦っていた者が統治すれば、一年と経たずに国は崩壊する。英雄とは称えると同時に畏怖する存在。戦争の象徴たる自分がいてはこの国は前に進めず、人々を戦に駆り立ててしまうだろう。レパントやウォーレンのような愛する者のために戦い、弱者に手を差し伸べられる人格者が国を統治するに相応しい。

何より、ソウルイーターは魂を喰らうために戦乱を引き起こしてきたと言うテッドの言葉を信じるならば、自分がいるだけでまたこの国に戦乱を招いてしまう。新たな国を興すという時に再び戦乱が起こり民を疲弊させることは避けなければいけない。

 

姿を消したリオンに代わり、トラン共和国の大統領にレパントが就任したと風の噂で聞いた時、リオンは安心したように胸を撫で下ろした。

元豪商のレパントならば国の財政に目を向け、地方からの意見を取り入れより良い方向へ持っていけるだろう。レパントの隣には手綱を握る聡明なアイリーンもいる。

 

国を治めるのは、私ではない。

 

 

私はラスの隣で生きると決めたのだから。ラスの隣が、私の居場所だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、何処へ行こうか、リオン。」

「それなら、群島に行ってみたいな。」

「…しばらく帰ってないし、俺の時代とはだいぶ変わってるから、案内出来るところ無いよ?」

「ううん。ラスが前に友人と食べたって言ってた巨大蟹、食べたい。」

「…まだ無人島のままだろうか。」

「あとミドルポートも。」

「全部ラインバッハ繋がりじゃないか。」

「ふふふ。」

「それならグレミオにお土産買わないとね。」

「喜ぶかな?」

「群島にしかない食材もあるし。」

「絶対喜びそう。」

「だろう?」

 

 

 

 

ずっと側にいると誓ったから、この手を絶対に離さない。

 

 

 

裁定者の紋章を持つ鬼神と呼ばれた男

 

死神と呼ばれた紋章を受け継いだ男

 

 

二人の運命の糸は交わり

 

永遠に続いていく

 

 

 

 

終わり。


 
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