No.1091935

鬼滅の恋姫 肆話

『さようなら……、愛していたよ……』

本来の歴史をねじ曲げてまで愛する人を守った"天の御遣い"は最愛の人の前で消滅する……。

はずだった。

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2022-05-17 16:09:39 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:630   閲覧ユーザー数:612

 

 

「あれから、もう四年になるのか……」

 

 

一刀がこの世界に来てから既に四年が経過していた。その間にも色々なことが在った。

 

 

まず、一刀とアオイの同期で入隊して僅か二ヶ月の『時透無一郎』、白蛇を連れた左右の瞳の色が違う青年『伊黒小芭内』と桃色の髪が特徴の『甘露寺蜜璃』が柱に就任した。小芭内が"蛇柱"、蜜璃が"恋柱"、無一郎が"霞柱"である。

 

 

一刀は"上弦の弐・童磨"との戦いの後、新しい型である『捌ノ型 火食鳥《ひくいどり》』、『玖ノ型 嘴広鸛《はしびろこう》』、『拾ノ型 鳳凰天舞《ほうおうてんぶ》』を作り出した。

 

 

(火食鳥は『炎の呼吸 壱ノ型 不知火』を、鳳凰天舞は『水の呼吸 拾ノ型 生生流転』をベースに作った型である。)

 

 

カナエを助けた後、しのぶを始めとした蝶屋敷のメンバーは、カナエを助けた一刀をこれでもかと称賛した。

 

 

カナエとしのぶは"お礼"と称して一刀の羽織を送った。一刀の羽織は白色に丸の中に"十"の文字が入っている杏寿郎と同じマント状の物だった。これは北郷家の家紋であり、三國志の時代では自分の旗印として使われていた。カナエとしのぶはその事を事前に聞いていたので、この羽織を送ったのだった。

 

 

アオイは一刀の好物をさりげなく聞き、時々その料理を振る舞っていた。

 

 

なほ、すみ、きよの三人娘は一刀のことを最初は『一刀さん』と呼んでいたが、その日を境に『兄様』と呼ぶようになった。

 

 

カナヲも普段から一刀に甘えていたが、より一層甘えるようになり、名字も『栗花落』から『北郷』に変えると自分から言った。これには一刀はもちろん、蝶屋敷のメンバー全員が驚いていた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「年月が経つのは早いもんだ…」

 

 

一刀はこの四年で起きたことを思い出していた。

 

 

「華琳、俺は頑張っているよ…。そっちも、頑張っているか…?」

 

 

一刀は縁側に座って空を見ながら返事が帰ってくることの無い質問をしていた。

 

 

「お兄ちゃん」

 

 

すると一刀の隣にカナヲが座った。彼女の身長はこの四年で高くなり、誰もが見惚れる"美少女"になっていた。因みに彼女の服は鬼殺隊の隊服を着用している。何故なら、彼女はついこの間行われた最終選別に"無断"で参加し、合格したからだった。

 

 

当然一刀を始め、蝶屋敷のメンバーは怒り、カナヲを叱った。だが、その後カナヲを抱き締めたことによってカナヲは泣きながら謝った。

 

 

「カナヲ、どうした?」

 

 

一刀はカナヲの頭を撫でながら質問をする。しかしカナヲは黙って撫でられるだけで、何も言おうとはしなかった。

 

 

「もしかして、頭を撫でて欲しかったのか?大きくなっても、甘えん坊な所は変わらないな」

 

 

「お兄ちゃんに甘えない妹は妹じゃ無い」

 

 

カナヲはそう言いながら一刀に抱きつく

 

 

「あ~!カナヲちゃん、また一刀さんに頭撫でられてる~!」

 

 

すると後ろから声がしたので振り返ると、真菰が一刀たちを指差しながら騒いでいた。真菰もこの四年の間に成長し、身長は愚か、胸もカナヲと並ぶ程になっていた。

 

 

「もぉ~カナヲちゃん、一刀さんを独占しすぎ!私だって数回しか撫でられたこと無いのに~!」

 

 

真菰はその場で地団駄を踏んだ。真菰はよくスカートを履いているのだが、何故か少しずつ裾が短くなっていた。なので、激しい動きをすれば、スカートの中が最悪見えてしまうのだった。

 

 

「"真菰"落ち着け、折角の美人が台無しになるぞ?頭くらい幾らでも撫でてやるから。ほら、こっちおいで」

 

 

一刀に言われ、カナヲの反対側に座った真菰は一刀に頭を撫でられる。

 

 

「はにゃ~~ん。一刀さんの撫で撫で、癖になる~」

 

 

「分かります。一刀さんの撫で撫での力加減、絶妙ですからね」

 

 

一刀は背中に誰かが乗っかった感触があったので振り返ってみると、アオイが背中に引っ付いていた。

 

 

「"アオイ"、何で俺の背中に引っ付く?それと背中に当たっているんだが…」

 

 

アオイも真菰同様、この四年で成長し、かなりグラマラスになっていた。しかも、胸の大きさはしのぶと同じ、いや若干アオイの方が大きくなっていた。

 

 

「カナヲと真菰さんが両側に引っ付いているので、私が引っ付く所は背中しか無かったので。それと、"何が当たっている"のですか?言わないと分かりませんよ?」

 

 

アオイは一刀の背中に"当てている"胸を更に押し付けた。

 

 

「押し付けないで!分かっててやってるでしょ!?」

 

 

「エ~、ナンノコトカ、ワカリマセ~ン」

 

 

「わざとらしいカタコトはいりません!」

 

 

一刀はおもむろに立ち上がる。しかしカナヲと真菰、アオイは一刀に引っ付いたままだった。

 

 

「急に立ち上がらないで下さい!"先っぽ"が擦れてしまいます!」

 

 

「やっぱり分かっててやってるんじゃないか!」

 

 

一刀とアオイはギャーギャーと騒ぎ出す。

 

 

「随分とお楽しみですね(怒)」

 

 

ゾクッ

 

 

「「「「!?!?!?」」」」

 

 

背中に悪寒が走ったので振り返ると、そこには顔に青筋を浮かべたしのぶが笑いながら溝尾を殴るジェスチャーをして一刀たちを見ていた。

 

 

「「「「し、しのぶ(さん)(様)(姉さん)……」」」」

 

 

一刀たちはしのぶの顔を見て青ざめていた。

 

 

因みに一刀は蝶屋敷ではカナエと"同い年"なので、カナエ以外の皆を呼び捨てにしているのだ。

 

 

「私の前でイチャコライチャコラ…、私への"当て付け"ですか?(怒)」

 

 

「「「「ごめんなさい(泣)」」」」

 

 

一刀たちはしのぶの前で土下座して謝った。

 

 

「全く、イチャコラするのは構いませんけど、時と場所を考えて下さい。それで真菰さん、一体何の用があってここに来たのですか?」

 

 

しのぶは真菰に来訪の用件を聞くことにした。

 

 

「えっ?特に用事は無いよ?強いて言えば、『一刀分』の補充かな?」

 

 

「俺を得体の知れない栄養にするな」

 

 

一刀は真菰に突っ込みを入れるが、

 

 

「「「分かる!」」」

 

 

「え~っ!?」

 

 

しのぶ、アオイ、カナヲが真菰に同意した。

 

 

「一刀さんに引っ付いている"だけ"でも、何かこう、"癒される"んですよね~」

 

 

「撫で撫でされると、気持ちいい」

 

 

「笑顔を見せてくれると"やる気"が満ちて来ますよね!」

 

 

「でも最近、一刀さんを狙う女が多くなっていますよね…」

 

 

「「「それ!」」」ビシッ

 

 

「最近では、甘露寺さんが一刀さんの笑顔を見てキュンキュンしたとか…」

 

 

「え~っ、またなの!?また恋敵が増えちゃったじゃない!」

 

 

「これは由々しき事態です。恋柱様の隊服は以前あのゲスメガネに渡された"あの隊服"を着ていると伺いました」

 

 

「お兄ちゃんを誑かす女…、敵!」

 

 

「大丈夫ですよ。もし"何か"あれば、私が"何とか"しますので」

 

 

「「「よろしくお願いします!」」」ガバッ

 

 

「………(汗)」

 

 

自分そっちのけで行われているガールズトークに一刀は冷や汗をかいていた。

 

 

バサッバサッ

 

 

「一刀、仕事だ。…? どうした?そんなに汗を出して」

 

 

一刀の肩に彼の鎹鷲であるイーグルが降り立った。

 

 

「イーグル、どうした?確か今日は休みだったはずだが…」

 

 

「急遽変更になった。今から案内するから準備をしてくれ」

 

 

「分かった」

 

 

一刀は自分の部屋に向かい、刀を腰に差し蝶屋敷の外へ出た。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

イーグルに案内された場所は森だった。到着した時は既に夜になっており、鬼が活動する時間帯となっていた。

 

 

「この森に鬼が潜んでいるとの情報だ。発見次第討伐せよとのことだ」

 

 

「……とりあえず、入ってみるか」

 

 

一刀はイーグルを自分の肩に止まらせ、森の中へと入っていった。もちろん、出口へのマーキングを忘れずに。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

森に入ってから数時間後、一刀は偶々あった切り株の上に座って休憩していた。すると、周辺の草むらが"ガサガサ"と騒ぎだした。一刀は立ち上がり刀に手を添える。この時は風が吹いていなかったので、何時でも迎撃できるようにしていたのだ。

 

 

そして月明かりが草むらを揺らしていた"犯人"を照らし出す。その姿を見た一刀は息を飲んだ。

 

 

「華琳…?」

 

 

「一刀…?」

 

 

月明かりが照らした犯人…、それは『あの戦』の後別れた『曹操孟徳』、真名は『華琳』であった。

 

 

「華琳…、何でここに…」

 

 

「一刀こそ、何でここにいるのよ?」

 

 

華琳の服装は戦装束を着ていたが、肌が見えている箇所は傷が目立っており、血が流れていた。

 

 

「華琳、話したいことは色々あるが、とにかく傷の手当てをしたい」

 

 

「……お願いするわ」

 

 

華琳は一刀に近づき傷口を見せる。一刀はしばらく傷口を見ると

 

 

「……この傷は刃物で斬られた傷じゃ無いな。まるで"鋭い爪"で引っ掛かれたような…」

 

 

「……一刀?」

 

 

華琳が心配して声を掛けると

 

 

ガサガサッ

 

 

「「!?」」

 

 

ガサガサッ

 

 

「まさか…、追い付かれた!?」

 

 

草むらが揺れ、華琳の顔が青ざめる。すると

 

 

「ギャヒヒッ、やっと追い付いたぜ!」

 

 

月明かりが照らしたのは、鬼だった。

 

 

「ったく、大人しく喰われていれば痛い目を見ずに良かったものの」ジュルリッ

 

 

鬼は華琳を見ながら舌舐めずりをした。

 

 

「ヒィッ!?」

 

 

華琳は悲鳴を上げて後退る。その姿は以前のような勇ましい感じは無く、まるで一人の儚い少女のようだった。

 

 

スッ

 

 

「かずと?」

 

 

その少女の前に一刀は進み出た。華琳は涙目で一刀を見上げる。

 

 

「あぁ~ん?何だぁ貴様は?俺の食事の邪魔するって言うんなら、貴様も喰ってやろうか?」

 

 

鬼は一刀を見て威嚇する。

 

 

「喰えるモンなら喰ってみろ。ただし、この先彼女に指一本でも触れてみろ、その時は貴様の体をバラバラに斬り刻んでやる」

 

 

一刀は殺気を撒き散らしながら鬼を牽制する。

 

 

「やれるモンならやってみな!」

 

 

鬼は一刀に襲い掛かる。

 

 

『全集中 空の呼吸 壱ノ型 燕返し』

 

 

しかし一刀は鬼の腕を斬り落とした。

 

 

「ギャアアアァァァ~~~!!!」

 

 

鬼は斬られた痛みに悶絶する。

 

 

「(嘘っ!?これが"あの一刀"なの!?)」

 

 

華琳は一刀の"強さ"に驚いていた。無理も無い、華琳は三國志時代の"弱い一刀"しか知らなかったのだから。

 

 

「鬼も"痛み"というものを感じるんだな。てっきり血も涙も、痛みすら感じないと思っていたがな」

 

 

地面を転げ回る鬼を一刀は一瞥した。

 

 

「こうも容易く俺の腕を斬るなんて…、貴様は一体何者だ!?」

 

 

鬼は一刀に質問をする。

 

 

「俺は鬼殺隊、蟲柱・胡蝶しのぶの継子の一人、階級・丁《ひのと》、北郷一刀」

 

 

一刀は鬼に自己紹介をする。

 

 

「鬼殺隊…!?"鬼狩り"のことか!?クソッ、こうなったら貴様から殺してその後その女を喰ってやる!」

 

 

鬼は腕を再生させながら一刀に再び襲い掛かる。

 

 

『全集中 空の呼吸 漆ノ型 漆黒鴉』

 

 

ズバッズバッ

 

 

「グギャッ!?」

 

 

一刀は漆黒鴉で鬼を十字に斬り、傷を付ける。

 

 

「貴様は俺の"逆鱗"に触れた。苦しんで地獄に落ちろ」

 

 

『全集中 空の呼吸 捌ノ型 火食鳥』

 

 

一刀は鬼に突進しながら頚を斬り落とした。

 

 

「俺は…、もっと…、人間を…、喰って…、"十二…鬼月"…、に…」

 

 

「なれずに地獄に落ちる。地獄で閻魔様の裁きを受けろ」

 

 

『全集中 空の呼吸 漆ノ型 漆黒鴉』

 

 

ズバッ

 

 

一刀は鬼の頚を更に十字に斬った。すると鬼は灰になり崩れ去った。

 

 

「……フゥッ」チンッ

 

 

一刀は周囲を警戒した後、増援が無いことを確認すると刀を納め一息吐いた。

 

 

「華琳、大丈夫か?」

 

 

一刀は華琳の方を向く。

 

 

「~~~バカッ!」

 

 

すると華琳は一刀に抱き付き泣き出した。

 

 

「バカバカバカッ!何で、何であの時消えたのよっ!?何で私の前からいなくなったのよ!?何で…、何で…」

 

 

華琳は一刀の胸をポカポカ殴るが、徐々にその力が弱くなり、殴る回数も少なくなり、最後に一刀の隊服を掴んだ。

 

 

一刀は華琳をそっと抱き締めた。

 

 

「ごめん華琳、あの時消えて」

 

 

一刀は華琳の耳元で囁く。

 

 

「俺は皆を死なせたく無かった、例え"禁忌"に触れようとも。けど、最愛の人を泣かせた。その罪は今でも俺の心の奥深くに楔《くさび》のように突き刺さってる」

 

 

「絶対に消えない"枷"だ。でも俺はそれを背負って生きていく。"誰も死なせず、自分が生き残る"ために」

 

 

一刀は華琳を抱き締める力を強くした。

 

 

「だから、"許してくれ"とは言わない。俺は俺の罪を背負う。華琳たちの分も」

 

 

一刀は華琳を一度引き離し、唇を奪う。

 

 

「……また会えて嬉しいよ、『我が最愛の女性《ひと》』、華琳」

 

 

キスを終えた一刀は華琳に向けて涙を流しながら微笑む。

 

 

「……何よ」

 

 

「華琳?」

 

 

華琳は俯いて呟くが、一刀には聞こえなかったのか、華琳に声をかける。

 

 

「何よ!自分だけ達観して!私がどれだけ泣いたと思ってるのよ!私だけじゃ無いわよ、春蘭も、秋蘭も、季衣も、流琉も、凪も、沙和も、真桜も、霞も、桂花も、稟も、風も、天和も、地和も、人和も!みん…な、皆貴方が消えて泣いたのよ!?」

 

 

「なのに何で一人で未だに背負うのよ!もう十分背負ったじゃない!罪を償ったじゃない!これ以上背負う必要無いじゃない!だから私が言うわ!『貴方を許す』!もうこれ以上…、苦しまないで…、お願い…」

 

 

華琳は顔を上げ、涙目で一刀に訴えた。

 

 

「華琳…、ありがとう。でも、ごめん…。俺は償わなくちゃいけないんだ、罪を背負わなくちゃいけないんだ」

 

 

一刀は華琳に許しをもらってもなお、罪を背負うと言った。

 

 

「でも、俺一人で背負うには重すぎる。…華琳、俺と一緒に背負ってくれないか?頼む」

 

 

「……いいわ。けど、"一つだけ"約束して。『もう二度と私の前から消えないで』。もう…、愛する人を失うのは、いやなの…」

 

 

一刀は華琳に一緒に背負って欲しいとお願いし、華琳は"条件付き"で承諾した。

 

 

こうして一度欠けた月はこの時代で再び満ちた。

 

 

二人はもう二度と離れないように、長く、永く、口付けを交わした。

 

 

 


 
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