朝、僕たちは学校へ向かっている
僕に鈴、クド、小毬さん、謙吾と真人の六人、朝起きたときに降っていた雨は出かける頃には止みはじめていた
「理樹、どうして傘さしているですか?もう雨やんでいますよ」
クドが僕に声をかけてくる
「そうかな、まだ少し雨降ってるよ。ほら、小毬さんだって傘さしたままだよ」
小毬さんは、うれしそうに傘をくるくる回しながら歩いている
「ふんふ~ん♪」
「小毬さん、何かいいことでもありましたか?」
「ううん、傘って雨降っているとしか使わないでしょ。いつもと違うからなんだかうれしいの」
鼻歌交じりで上機嫌の様子
僕の後ろからは、謙吾と真人の声がする
「傘?俺たちには雨が降っていても傘なんか関係ないぜ!なぁ真人」
「あぁ、俺の筋肉があれば傘なんていらないぜ!何せ筋肉の情熱で雨に濡れてもすぐに乾くからな!」
「そうか、俺も負けないようにしないとな!」
「鈴、おまえもそうだよな!」
鈴に同調を求める真人
「そんな訳ないだろ!猫は濡れるのがきらいなんじゃ、ボケー」
”ドカッ!”
「うぉっ!」
鈴の跳び蹴りで宙に舞う二人
綺麗な放物線を描いた後
”バシャッ!”
どうやら水たまりに落ちた様子
「雨では濡れないと思ったら、意外なところでずぶ濡れになった。それも一興」
謙吾は悠々自適に構えている
「よし、鈴おまえも一緒に水たまりにはまろうぜ!」
「いやじゃー」
「おまえも一緒に水遊びしようぜ」
「よるなー!」
いつもだと、鈴が真人を追いかけているのだが、今は反対。真人が鈴を追いかけている
「あの三人は、仲いいのか、悪いのかよくわからないな」
「えー、ものすごく仲がいいと思うよ」
僕の疑問にさくっと小毬さんが答える
「あ、小毬さんも傘たたんだんだ」
「うん、傘堪能したからちょっと休憩♪」
小毬さんとクドは傘をたたんでいるけど、僕はまだ傘を開いている
傘を開いている理由もないし、閉じている理由もない。ただそのままでいいんじゃないかな、とただそれだけ
並木道にさしかかる僕たち
”ピチャ”
「ひゃあ!」
小毬さんが声をあげる
”ビチャ”
「わふー!背中に冷たいものが入ったですー」
「だ、大丈夫?二人とも」
”パンッ!”
僕の頭上で水がはじける音が小さく聞こえる
どうやら、小毬さんもクドも雨に濡れた木々のしずくを浴びたようだ
そしてそのしずくがだんだんひどくなってくる
「鈴、まてー。謙吾、そっちいったぞ!」
「おう!」
「おまえらなんかに捕まってたまるか!」
おっかけっこからいつの間にか、鬼ごっこに変わっている鈴たち三人
どうも謙吾や真人達が駆け抜けた時の影響で木々のしずくがひどくなっているらしい
「ふんふ~ん♪」
鼻歌交じりの小毬さん
「小毬さん、濡れているけどいいの?」
「うん、木々のシャワー浴びているみたいで気持ちいいよー」
「わふー!雨が降ってきて大変ですー」
クドは逆に雨が降ってきたのと勘違いし、大あわて
「とりあえず理樹のところに逃げるです」
クドは僕の傘の中に入ってくる
「理樹、いきなりでごめんなさい。傘、たたんでしまって取り出すの大変なので・・・」
「いいよ。鈴たちが鬼ごっこやめれば収まるだろうから」
体が小さいクドとなら一緒でも問題ないだろう
「小毬さんは、木々のしずくを楽しんでいますが、実際はどうなんでしょう」
「どうなんでしょうって、何のこと?」
クドの疑問にたいして疑問で返す僕
「雨って、綺麗なのかな?と思うのですよ。ヨーロッパでは昔酸性雨というのがありまして一時期ものすごく問題になっていました」
「そう考えると、どうなんだろう。雨って大気中のゴミやチリと一緒になっているから綺麗じゃないかもね」
「そうかもしれませんね」
同調するクド
「木々のしずくということは、ゴミやチリと一緒になった雨が枝や葉を経由してしずくとなるんだね」
「そういうことになりますね」
「そう考えると、しずくを浴びるというのもちょっと考え物かも」
「でも、そんなの関係ないよー。細かいことは気にしない」
小毬さんは気にならない様子
「それに、枝葉を経由することは、何となく緑の力をもらっているような気がするし」
ポジティブな意見に納得しかけるが
「でも、枝葉を経由するというとは毛虫が通った後にしずくが通っているかもしれない。もしかしたら、毛虫にふれたしずくがそのまま流れているかも」
「け、毛虫!」
毛虫と聞いた小毬さんはあわてて僕の傘に無理矢理入ってくる
「小毬さん、毛虫苦手なんだ」
「蝶は大丈夫だけど、毛虫は大の苦手」
そういえば、クドはまだ僕の傘の中にいる
「クドもそうなの?」
「毛虫は嫌いではないです。ただ、理樹と一緒の傘の中にいたいだけです」
右側にはクド、左には小毬さんと遠目から見ると両手に花だけど、二人とも傘の中に入ろうとするので僕にとっては押しくらまんじゅう
「やっぱり一つの傘に三人は無理だよ…」
そう思っている間に、しずくを大盤振る舞いしてくれた並木道を抜け、校門の前
「雨もやんだみたいだし、傘しまうよ」
そういって傘を閉じる僕
「理樹、虹が見えます!」
「え、どこ?」
「ほら!あそこですよ」
確かに校舎の向こうに虹が見える
「理樹、あの虹二つ見えないか?」
いつの間にか僕の前に鈴がいる
「あー本当だ。二つの虹って滅多に見られないから貴重かもしれない」
「わっ!わっ!本当です。虹が二つ見えます!目が悪くなったと思ってしまいました!」
小毬さんの喜び以上にクドは驚いている
そういえば、虹の付け根ってどうなっているのだろう、そして虹の向こうには何があるのだろうとふと思う。でも、その疑問は後ろの二人が何とかしてくれそうだ
「おい、謙吾。虹が見えるぞ」
「あぁ、俺にも見えるぞ」
「よし、どっちがあの虹に先にたどり着くか勝負しようぜ」
真人が謙吾に勝負を持ちかける
「よし、走るのなら負けないぞ。真人、先行くぞ!」
「あ、謙吾のヤツ、先行きやがった!待て!行くぞ、鈴!」
真人は謙吾を追いかけつつ、鈴に声をかける
「いやじゃ!」
鈴は大声上げて、二人を放置
「あの二人に任せておけば、虹がどうなっているかわかるかもしれない」
Tweet |
|
|
2
|
0
|
追加するフォルダを選択
朝、雨上がりを歩いていたときに思いついた作品です
かなり短くて申し訳ないです
冬の原稿の息抜きで書いたつもりが、気がついた時には日付が変わっていました
続きを表示