No.108570

剣帝✝夢想 第四話

少し遅れて四話です。

いまさら気づいたのですが白連たちで倒した盗賊はまだ黄巾党ではなかったですね。今回で客将は終わりです。レーヴェと一刀ではスペックが違うので毎回どんな感じにしようかと頭を悩ませていますがなんとか今回も書けました。


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2009-11-23 20:11:55 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:7594   閲覧ユーザー数:6667

数日後、レーヴェたちは白蓮が盗賊を討伐しに行くというのでレーヴェたちはそれに同伴していた。数日の間に趙雲と親しくなり、真名も許してもらっていた。

 

「しかし新参者のオレたちに左翼全部隊を任せるとは…信頼しているのかそれとも本当にそこまで人がいないのか…まあ、両方なのだろうが豪気なものだ」

 

レーヴェは自身の後ろに控える兵士たちを見て呟いた。

 

「それだけ期待されてるってことかな?」

 

「そうだろうが…気を抜かずに頼むぞ」

 

「任せろなのだ!」

 

自信満々に頷いてくる鈴々の頭をレーヴェは無意識に撫でていると白蓮の声が聞こえてきた。

 

「諸君!いよいよ出陣の時だ!今まで幾度となく退治しながら、いつも逃げ散っていた盗賊共!今日こそは殲滅してくれよう!公孫の勇者たちよ、今こそ手柄の好機ぞ!存分に手柄をたてぃ!」

 

白蓮の演説には兵士たちは大気を、大地を振るわせる鬨の声で答える。しかしレーヴェは、

 

「彼女は人を率いる器はあるが…王の器ではないな」

 

レーヴェは厳しいようではあるがそんな判断を下していた。しかし、彼は今は彼女の客将という立場にある。だからその間は彼女を全力で助けてやろうと思っていた。そして白蓮の言葉とともに一斉に移動を始めた。

 

「そういえば天の世界に戦争はあったのですか?」

 

移動途中で愛紗が何気なく尋ねてきた。愛紗にとっては本当に何気なく尋ねたのだろうがレーヴェにとってそれは軽々しく話ができるようなものではなかった。しかし、レーヴェは一瞬顔を強張らせたがすぐに表情を戻した。

 

「…ほんの数年前まで、オレの故郷だった国と隣の国は戦争をしていた。ある一部の人間の私欲のせいで戦争は起こり、決して消えない傷跡を多くの人に残していった」

 

レーヴェは表面は平然とそれだけ言うと口を閉ざした。愛紗たちはレーヴェの言葉になるほど、といったように頷くと特に追求することなく馬を進めていく。

 

「全軍停止!我が軍は鶴翼の陣を敷く!粛々と移動せよ!」

 

しばらく進んだところで伝令が命令を伝えながら前線へと駆けていく。

 

「いよいよか。桃香は後ろで待機だ」

 

「三人とも気をつけてね」

 

そして愛紗が兵士たちのほうへと向かい声を上げた。

 

「聞けぃ!レオンハルト隊の兵ども.よ!敵は組織化されてもいない雑兵どもだ!だが慢心はするな!それが命取りになるぞ!公孫賛殿の下、共に戦い、勝利を味わおうではないか!」

 

「応!」

 

兵士たちが士気の高い声で応える。愛紗はその反応に満足したような顔で頷くと再び口を開いた。

 

「これより戦訓を授ける!心して聞け!」

 

その愛紗の言葉に鈴々が前に進み出た。そして普段とは違い真面目な戦士の顔で口を開いた。

 

「兵隊のみんなは三人一組になるのだ!一人は敵と対峙して防御!一人は防御している横から攻撃するのだ!最後の一人は周囲の警戒なのだ!」

 

「敵を飢えた獣と思い情けをかけるな!情けをかければそれはいつか仇となって返ってくると思え!」

 

「おおーーーーーーー!!」

 

兵士は高らかに気合のこもった声を上げる。

 

「全軍、戦闘態勢を取れ!」

 

愛紗の号令とともに兵士たちが抜刀する。それと同時に盗賊たちのほうも動き始めた。レーヴェはそれを見て剣を天高く掲げた。そして

 

「全軍突撃!」

 

兵士すべてに響き渡る声でレーヴェは指示を出し、剣を盗賊たちに振り向けた。

 

「おおーーーーー!」

 

瞬間、兵士たちが駆けだし、レーヴェたちもそれぞれ武器を構え、駆けていった。

結果から言えば盗賊たちはすぐに戦線を崩壊させた。数は多くとも結局は烏合の衆で、統制された軍隊の敵ではなかった。中でも功績が大きかったのはレーヴェの率いる部隊で、最も戦果が大きく、また、被害も少なかった。愛紗や鈴々の働きも大きかったのだが、やはりレーヴェの戦いぶりは凄まじかった。レーヴェは常に一人で数十人単位の盗賊をひきつけ、なおかつ、それを撃破し、危うい兵士がいればそれを助けに走りまわっていた。兵士たちはまさに一騎当千の文字が相応しいレーヴェと、そしてまた一騎当千の文字が相応しい愛紗と鈴々たちの戦いっぷりを見て更に士気を高めていた。その結果、兵士たちの生存率が上がった。逆に盗賊たちは三人に恐れを為し、士気を落としていた。逃げ出そうとする者も多く、そのことごとくがレーヴェたち三人や兵士たちに討ち取られていった。結果、公孫賛軍は完全な勝利を手にしたのだった。

 

 

「完全なる勝利、だったな。よかったよかった~」

 

白蓮と合流すると白蓮は相当に上機嫌な様子で出迎えてくれた。その隣には星もいたが彼女も白蓮ほどではないにしろ機嫌がいい様子だった。レーヴェの内心はそう機嫌のいいものでもなかったが。

 

「やったね白蓮ちゃん!」

 

桃香が笑顔で白蓮の元へと駆けていく。白蓮は笑顔でそれを出迎えた。

 

「いや、桃香たちのおかげだよ。しかし噂以上の力だな、レーヴェ!ありがとう、お前のおかげで兵たちをあまり死なせずに済んだ」

 

「いや、構わんさ」

 

レーヴェは軽く笑って答えた。レーヴェにとってあれぐらいの芸当は当然だった。しかし、今回の盗賊たちを見て疑問に思うことがあった。

 

「だが気になることがある。オレはこの国の情勢をいまだ完璧に把握できているわけではないが街の人々から聞いていた話より盗賊の動きが活発になっているような気がする」

 

レーヴェの言葉に星と愛紗が頷いた。

 

「ええ、最近の匪賊共は増加の一歩。そして増加した匪賊は民草を襲い、食糧を奪う。村によっては飢饉の兆候すらでている」

 

星が厳しい顔で口を開いた。それに続いて愛紗も口を開いた。

 

「そして五胡の影もちらついている。大きな動乱になるかもしれん」

 

「いや、もう動乱の渦の中には入っているだろう。まだはっきりと表れていないだけだ」

 

レーヴェの言葉に愛紗たちは厳しい顔つきで空を仰いでいた。

 

 

それからもレーヴェたちは白蓮の下に留まり、客将として働いていた。幾度も盗賊討伐を行い、レーヴェ、愛紗、鈴々の三人の武名を知らぬものはないほど有名になり、特にレーヴェは天下無双かつ頭脳明晰と名高くなっていた。

 

その間にも大陸はどんどんおかしくなってきていた。大飢饉、匪賊の横行、そして疫病の流行。人々の心から安定や余裕といったものが消え去り、あとには絶望と不安、焦りが残される。それも民だけでなく、もめ事を解決する警備兵にも伝播していた。そしてついに太守の暴政に耐えかねた民衆が民間宗教の指導者に率いられて武装蜂起し、官庁を襲撃する事態に陥った。漢王朝はすぐに鎮圧されると高をくくっていたが、鎮圧に向かった官軍が全滅し、あっという間に全土に広がり、大陸の三分の一を制圧されたところでようやく事の重大さに気付き、地方軍閥に討伐命令を出したのだった。

そして命令が出された翌日、レーヴェたちは白蓮に呼び出されていた。

 

「悪いなレーヴェ。休んでいたんだろ?それで今回の用件なんだが…」

 

白蓮が言いにくそうに顔を歪めたのを見てレーヴェはそれを軽く手を掲げ制止した。

 

「言いたいことは分かっている。オレたちに今回の黄巾党討伐を機会に独立してみたらどうだ、と言いたいんだろう?」

 

今やレーヴェたちは下手をすれば白蓮よりも有名だ。有名なのはまだ良いが、主である白蓮よりもレーヴェは格段に優秀かつ、愛紗たちも優秀だ。そんな人物が自分の下にいれば大抵の者には面白くないだろうし、ストレスもたまるだろう。そして白蓮は人がいいので出ていけ、と伝えることもできない。だからこそ独立を促して出ていってもらうのが最善の処置だろう。しかし、レーヴェには彼女に感謝こそすれ、責める気など毛頭ない。彼女は自分たちに休息の場と活躍の場を与えてくれたのだから。

 

「いや…その…」

 

白蓮はやはり後ろめたそうな顔になっていて、レーヴェはその反応に表情を和らげた。

 

「白蓮、最後のわがままというには大変な願いだが、この街で義勇兵を募る許可が欲しい。オレたちには手勢というものがない」

 

レーヴェの言葉を聞いて白蓮は渋い顔をする。白蓮も討伐軍を編成するために兵を集めなければならないので当然だろう。だが、そこで星が微妙にいたずらの色を宿した瞳の色で白蓮にささやいた。

 

「伯珪殿。今こそ器量の見せどころですぞ」

 

星の言葉に白蓮はたじろいだ声をだした。

 

「あまり無茶言わないでくれよ」

 

「よいではありませんか、兵の五百や千くらい友の門出を祝って贈ってやっても。私も勇を振るって働きましょう」

 

「…あ、あまり多く集めないでくれると助かるけど…」

 

結局白蓮は折れ、その後、表寮や装備も提供してくれることになった。レーヴェはやはり彼女はいい意味でも悪い意味でも甘いところが抜けないな、と思っていた。

一週間後、レーヴェは集まった義勇兵の前に白蓮に対して罪悪感を感じていた。義勇兵を募ったところレーヴェたちに評判はかなりのものになっていたようで八千もの義勇兵が集まっていたのだ。白蓮はかなり顔をひきつらせていたがそれでもいい、と言ってくれていた。

 

「さてこれからどうするべきか」

 

レーヴェは腕を組んで眼を閉じた。拠点というものを持たないレーヴェたちは戦場を転々とするしかないのだが、無闇に動くのは悪い結果しかもたらさないだろう。

 

「そうですね。黄巾党を叩かねばならないのは決まっていますがどうするべきか」

 

愛紗も少し困った顔でレーヴェの言葉に同意する。そのとき、

 

「しゅ、しゅみません!…噛んじゃった」

 

なにか舌足らずな声が聞こえてきた。レーヴェはその声が聞こえてきた方向、つまり、レーヴェの足元というのは失礼だろうが視線を下げたところに二人の少女を見つけた。愛紗と桃香はどこにいるか気づいていなかったようだが。

 

「こ、こんにちゅは!」

 

「ちは…ですぅ」

 

二人は縮こまるように挨拶をしてくる。

 

「君たちは何をしにここまで来たんだ?」

 

レーヴェは彼女たちに先を促す。二人はガチガチに緊張した様子で口を開いた。

 

「わ、私は諸葛孔明れしゅ!」

 

「わ、私は、あの、その、えと、ほ、ほと、ほーとうでしゅ!」

 

見事に噛みまくった口調で自己紹介をしてくれた。その様子にレーヴェたちは苦笑せざるを得なかった。

 

「二人ともカミカミすぎなのだ」

 

四人の意思を鈴々が代弁してくれる。

 

「んーと…諸葛孔明ちゃんに、ほ、ほ…」

 

「ほーとうだ」

 

レーヴェは桃香の言葉に補足するように口を開いた。

 

「それであなたたちのような少女がなぜここに?」

 

愛紗の言葉を聞いて水を得た魚のように二人は自分たちがここに来た理由を話しだした。かなり長々と話してくれたのだが、要約すると二人も桃香たちと同じように力のない人が悲しむのが許せなくて動こうとして、そこに天の御使いであり、最近売り出し中のレーヴェたちが自分たちと同じ理想を持っていて、なおかつ義勇兵を募集していると聞いたので自分たちも戦列に加えてほしいということだった。

 

「どうする、ご主人様?」

 

「戦列に加えるには年若いですし、体格も華奢で指も細く、戦力にならないかと」

 

愛紗は二人の出で立ちを見て武の将としての意見を述べた。しかし、レーヴェは年が若くとも有能な人物を知っているので背格好だけで判断したりはしていなかった。

 

「いや、戦うことだけが将の仕事ではない。孔明に鳳統だったか?オレは君たちの能力を知らない。だが、門前払いする気もない。だからここで少し試させてもらうことにする。オレたちはこれからどうしようか迷っているのだが君たちはどうすればいいと思う?」

 

レーヴェの隣では桃香が「武芸が大事だったら私ってこれっぽちも戦えないよね…」などとへこんでいたりしたがレーヴェはあえて黙殺することにした。

 

「私たちは他の勢力と比べると弱小でしかありません」

 

孔明が先のはわわ、みたいな雰囲気ではなく、一端の軍師の顔で口を開いた。隣にいる鳳統も同じだ。

 

「今は小さな部隊を撃破して名を高めることに集中したほうがいいと思います」

 

隣では鳳統がコクコクと頷いている。

 

「兵糧に関しては各地の富豪たちに寄付を募るか敵の物資を鹵獲するしかないと思います」

 

鳳統も頷くだけではなく、自分の意見も述べてくる。たったそれだけのやりとりだがレーヴェの心は決まっていた。そんなに難しい問題、というわけではなかったのだが、彼女たちはレーヴェたちの状況を把握したうえで策を出し、なおかつ次にあげるつもりだった兵糧の解決策も提示してきたのだから無能というのはまずありえないだろう。

 

「合格だ。オレはレオンハルト。レーヴェと呼んでくれたんでいい。そしてこっちが劉備、関羽、張飛の順だ」

 

レーヴェの言葉に孔明と鳳統は顔を輝かせた。

 

「わ、私の真名は朱里と言います!」

 

「雛里ですぅ」

 

二人は喜色を浮かべた顔でレーヴェに真名を預けてくる。

 

「ああ、よろしく頼む。朱里、雛里」

 

「はい!えへへ、真名で呼ばれちゃったよ、朱里ちゃん」

 

「良かったね、雛里ちゃん」

 

二人は、特に雛里は真名で呼ばれたことがとてもうれしいようで満面の笑みを浮かべていた。すぐに桃香たちも真名を許し、特に桃香は二人を気に入ったようだった。なんだか小動物を見ているようでレーヴェは少し心が癒されたが、いつまでもここにいるわけにはいかないので白蓮と星に別れを告げて意気揚々と出発していった。

 


 
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