No.108338

真・恋姫†無双:Re ~hollow ataraxia~ 第一章 2-1

rikutoさん

※注

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駄文

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2009-11-22 17:19:26 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:5088   閲覧ユーザー数:4386

――――――――――――第2話――――――――――――

 

 

それはよく晴れた日のことだった。

 

おじいさんは山へ柴刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。

 

おばあさんが川で洗濯をしていると、川上からおじいさんが流れてきました。

 

なんということでしょう。

 

おばあさんがおじいさんを川から引き上げると、おじいさんは冷たくなっていました。

 

おばあさんは嘆き悲しみ、天に叫びました。

 

「これが乱世じゃというのか!?なぜおじいさんがこんな目にあわねばならぬ!」

 

その後、おばあさんは悲しみと怒りにまかせ、数多の戦場を駆け抜けた。

 

―――その姿、まさに鬼のごとく。

 

悲しみに狂い悪鬼羅刹となったおばあさんは、数多の国から怖れられる存在となった。

 

そんなおばあさんを止めるために一人の少女が立ち上がった。

 

 

 

 

 

ここに、後に鬼を退治した英雄と呼ばれることになる少女の物語が幕を開ける―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――リテイク――――――――――――

 

 

それはよく晴れた日のことだった。

 

その日、一刀と星は師匠から空を飛ぶ3つの方法を教わることになった。

 

日頃の鍛錬と違い、こういった特別なことをするときには、いつもはヒナもついてくるのだが、

 

 

「………私は、空を飛ぶ7つ目の魔法が、使えるから、いい」

 

 

といって、今日は小屋で留守番をしていた。

 

どうみても、朝から熟読している本の続きが気になって仕方ない、という雰囲気だったのは気のせいではないだろう。

 

食事中も読み続けていた。一体なんの本を読んでいるのやら。

 

そして現在。

 

紫虚に連れられて、一刀たちはいつもの鍛錬場とは違う場所に来ていた。

 

紫虚は、原理の一通りを説明して、目の前で実演をしてくれた。

 

その中の一つ、「まずは初歩だ」といってやって見せたのが―――

 

 

・足元の石を拾う

 

・それを空中に投げる

 

・投げた石を足場に空高く駆け上っていく

 

 

―――いきなり人間業じゃなかった。

 

 

二人が呆然と師匠の姿を眺めていると、華麗に着地した紫虚が「やってみろ」と二人に促した。

 

 

「……星、できる?」

 

「出来るわけがないであろう………」

 

「……だよね」

 

 

いきなりやる気0になっている二人をみて、紫虚はあきれた。

 

 

「俺がお前等くらいの時には、このぐらい既にできるようになってたぜ?―――ふむ、あれをやってみるか……?」

 

「それは師匠が異常なのです……。あれ、とはなんです?」

 

「んー、俺が師匠にこれを教えられた時にやった方法なんだがな、ちょっと厳しいからお前等じゃ無理か」

 

「む、それは聞き捨てなりませんね。どんな方法なのですか?」

 

 

「崖から突き落とす」

 

「「無理(です)!!!」」

 

 

おそるべしは紫虚の師匠か。と、いうかそれは本当に訓練だったのだろうか。

 

 

「だよなぁ……。まあ、俺はそれで一発で出来るようになったけどな。っていうか、出来なかったら死んでたし」

 

 

『いやー、さすが俺だな』などと、笑いながら自慢しているが、笑い事じゃない。

 

一刀は星に近寄り、耳元で囁く。

 

 

「(なぁ、星。師匠の師匠ってどんな人なの?)」

 

「(うむ、私も話でしか聞いたことがないのだが、相当だったらしい。一言でいうと『師匠の師匠』)」

 

「(……そっか)」

 

 

その一言でいろいろなものをすっとばして、得心してしまった。

 

その後もむちゃくちゃなことばかりいう紫虚に、二人して抗議した。

 

 

「ああいえばこういう、お前等、真面目にやる気あんのか?」

 

「そんなこといわれても、どう考えても無理ですって?!」

 

「師匠、もう少し常識というものを考えてほしいのですが………」

 

 

ブチッ

 

 

「つべこべ言ってないでやれ!空気の階段を駆け上がれ!むしろ飛べ!落ちる前に足を上げていきゃ、どんどん登っていけるだろ!意味のわかんねぇこと言ってキレてんじゃねぇよ」

 

 

非難轟々、文句たらたらな一刀たちに、ついに紫虚がキレた。

 

 

 

そのまま、日が暮れるまでひたすら空を翔る特訓をし続ける羽目になった。

 

 

 

一刀はダメダメだったが、星は日が暮れる頃には、何度か成功するようになっていた。

 

途中、一刀は落ち込み、

 

 

(………リクは、俺に星たちみたいになれる素質があるとかいってたけど、絶対うそだろ?)

 

 

とやさぐれていたが、そんな一刀に紫虚がいった。

 

 

「一刀、お前はまず気持ちが負けてる。『自分には出来ない』と決め付けるな。『自分なら出来る』と、信じろ。武芸だけじゃない。自分を信じることからすべては始まる」

 

 

その言葉は、一刀を奮い立たせるのに十分だった。

 

弱気になっていた一刀は、その後、一心に鍛錬に励んだ。

 

それで、空を飛べるようになったのかどうかは、またいずれ。

 

 

陽が没し、三人が小屋に帰ると、ヒナが既に晩飯を用意して暇そうに待っていた。

 

そして四人で食卓を囲んでいるとヒナが一通の手紙を持ち出した。

 

 

「………昼間、人が来た。これ、置いてった。大切な、ものだから、必ず渡してくれ、って」

 

 

紫虚はそれを受け取り、中を確認すると顔をしかめた。

 

 

「師匠に手紙など、珍しいですな。誰からですか?」

 

「あー、ちょっとした昔の知り合いからだ」

 

 

今でこそ、山奥にこもって、麓の村への買出しくらいでしか山をおりない隠居生活をしているが、こう見えて、紫虚上人といえば、かつて世間では名の知れた武人だった。

 

知り合いの一人や二人やいっぱいくらいいるだろう。

 

しかし、こうして紫虚宛に手紙が届くようなことは、長く紫虚と共にいる星にも数えるほどしか覚えがない。

 

 

「なんと書いてあったのですか?」

 

 

星が聞くと、紫虚が食卓代わりに使っている木台の上に手紙を放り投げる。

 

それを星が拾い上げ、一刀も横から覗き込む。

 

手紙にはこう書いてあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――全略―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手紙は『暗号』、だろうか?

 

普通に読めば、ただの挨拶のような手紙。

 

本来の手紙に込められた意味は、なんのことなのかわからないよう、巧みに偽装されていた。

 

星が首を捻っていたので、なんとなく内容がわかった一刀は星に教えた。

 

最後に差出人の名前をみて、一刀は息を呑んだ。

 

 

「師匠は、この……厳顔さんと、どういう知り合いなんですか?」

 

 

一刀は出来るだけ平静を装ってたずねた。

 

 

「ああ、まぁ、昔な」

 

 

答える紫虚は、どうにも歯切れが悪い。

 

手紙の内容を要約すると、紫虚に仕事を手伝ってほしい、というような内容。

 

太守の印が押されていたり、内容が偽装されていたりするのには疑問を覚える。なにか、一刀には読みきれない面倒ごとのようなものが裏にあるのかもしれない。

 

厳顔のことはいうまでもなくよく知っていた。

 

一刀の知っている彼女より、いくらか若いだろうが、性格や人柄が全くの別人ということはないだろう。

 

紫虚のことも、もう弟子入りしてからしばらくになる。一刀は自分なりに理解しているつもりだった。

 

その性格を考えると、一刀には紫虚が嫌そうな顔をする理由がわからなかった。

 

紫虚は、困っている他人の頼み事をむげに断るような人物ではないからだ。

 

 

(師匠は女性好きだし。まあ、俺も好きだけど……)

 

 

紫虚が、仕官することを嫌がるという話は聞いていたが、そこが引っ掛かっているのだろうか?などと、いろいろ考えるがわかるはずもなく。

 

皆が黙り込んでしまったので、星が口を開いた。

 

 

「ふむ、どうするのですか師匠?」

 

「………………」

 

 

しばらく紫虚は沈黙をしたまま、何かを考え込んでから口を開いた。

 

 

「星、お前もうここにある本は大体読み終わったか?」

 

 

師匠の真面目な問いかけに、星も少し居住まいを正して答える。

 

 

「兵法書の類は全て覚えました。その他はうろ覚えのものもありますが、一応全て目は通しました」

 

 

その弟子の返答を聞いて紫虚は再び考え込む。

 

 

(なら、そろそろこういう経験をさせるのもありか……。桔梗のとこなら、弟子どもにとってはいい勉強になるだろう。厄介なのは……まぁ、なんとかなるか)

 

 

紫虚はしばらくこの地を離れることを決めた。

 

 

翌日、一刀たちは旅支度を整え、小屋の前に集まった。

 

 

「いいか、これから成都に向かうわけだが、その前にいっておくことがある。俺たちは今から、謎の正義の味方集団『三羽蝶』だ」

 

 

のっけから紫虚のいっている事が理解できない弟子二人。

 

意味不明な出来事にフリーズしていると、どこか見覚えのある蝶の形をした仮面を手渡され、一刀は頬を引き攣らせる。

 

だが、一刀は負けない。すぐに冷静さを取り戻し、発言する。

 

 

「……突っ込み所はいろいろありますが、三羽蝶って、一人足りてませんよ?」

 

「ん?ああ、ヒナがやらないっていうから仕方ないだろ」

 

 

一同の視線がヒナに視線が集まる。ヒナはあさっての方向を向いて、我関せずという態度を主張していた。

 

 

「あの、それじゃ、俺も出来れば………」

 

「私も遠慮したいのですが………」

 

「ああ?てめぇらには拒否権なんかねーよ」

 

 

(ひどい。なぜヒナだけ特別扱いなんだ!?)

 

平等なんてものは建前です。いまどきそんなものを信じるのは子供くらいです。

 

 

「……紫虚は、女性に、やさしい」

 

「……私も一応、女なのですが?」

 

 

ヒナの言葉を聞いた星が、ジト目で紫虚をみる。

 

 

「あぁ?……ま、もうちょっと育ったら考えてやるよ」

 

 

どうみてもヒナより星の方が年上なのだが、それ以上は誰も何もいわなかった。

 

 

「……じゃあ、それはいいとして、そもそも何で変装する必要があるんですか?」

 

「俺は内気で照れ屋だからな」

 

「師匠?もう朝ですよ、寝ぼけてるならはやく目を覚ましてください」

 

「うそにも限度がありますな」

 

「………(クスッ)」

 

「てめぇら……」

 

「で、ほんとのところはどうしてなんですか?」

 

「……いろいろとあんだよ。とりあえず都に俺がいることが一部の人間にばれるとまずいことになる。お前らもそのことは念頭において行動しろ」

 

「「……了解しました」」

 

 

紫虚は遠い目をして虚空を見つめる。

 

星は諦めた風に溜息を吐いていた。

 

 

(……一体何をやったんだこの人は)

 

 

一刀は内心で突っ込むが、それは口に出さず、星ともども素直に頷く。

 

前後のやりとりからして冗談としか思えないが、その雰囲気に紫虚の本気を感じ取ったためだ。

 

 

「……この仮面はなんですか?」

 

「かっこいいだろ?わざわざお前らの分まで作ってやったんだ。感謝しろ」

 

 

紫虚の趣味だった。

 

 

(……もしかして、星が華蝶仮面やってたのって、この人の影響か?)

 

 

星が将来、道を踏み外さないように、俺がなんとかしよう。一刀は密かにそう心に誓ったのだった。

 

 

ともあれ、ここに人知れず、初代『華蝶連者』が結成されたのだという事実に、一刀は気付いていなかった。

 

その後もいくつかの注意事項を受けた後、四人は益州の首都、成都へと旅立った。

 

 

それから数日の後、一刀たちは無事に成都にたどり着いた。

 

 

「ここが成都、ですか」

 

 

星がつぶやく。

 

聞けば、星はこのような大きな街に来たのは初めてだそうだ。

 

一刀にとっては、懐かしい場所、ということになるのか。

 

もっとも、一刀の見知った街並みとは、似ても似つかない有り様だったが。

 

かつて一刀が劉備達と共に入蜀した頃と同じか、それより少しはマシ、といったところか。

 

街行く人々は、お世辞にも活気づいているとはいえない。

 

今の成都の太守は劉焉という人物らしいが、ろくな人物ではなさそうだ、と一刀は思った。

 

星は物珍しそうに周りを見回し、一刀がそんな感慨にふけっていると紫虚から声がかかる。

 

 

「おら!余所見してねーでついてこい」

 

 

そういって紫虚はどんどん先へ行ってしまう。

 

あわててその後を追いかけ、そのまま紫虚に先導されて、一行はある屋敷の前にたどり着いた。

 

 

「止まれ!」

 

 

屋敷の入り口で、門をくぐろうとした紫虚が、門番に道を遮られる。

 

 

「ここは益州巴郡太守、厳顔様のお屋敷だ。旅のものと見受けるが、何用か!」

 

 

門番の一人が一歩前に出ていった。

 

 

「その厳顔殿に呼ばれたんだよ。お目通り願いたいのだが?」

 

 

紫虚は、人差し指と中指で挟んだ手紙を、顔の前でひらひらさせながら、めんどくさそうにいう。

 

一刀は、その態度はどうかと思うんだけど……と思うが、黙って成り行きを見守る。

 

門番たちは謎の三人組にかなり警戒していた。

 

 

「厳顔様に?来訪者があるなど聞いていないぞ」

 

「そもそも、こんなおかしな奴らを厳顔様が呼ぶはずないだろう。真に受けるな」

 

「だが、手紙に押してある印は確かに厳顔様のもののようだぞ?」

 

「いやしかし……」

 

「…………?」

 

「…………!!」

 

「………………」

 

「貴様らのような不審な輩を通すわけにはいかん!早々に立ち去れ!」

 

 

門番達が口々になにかをいいあい、結局不審者と判断したらしく、臨戦態勢になる。

 

 

(……まぁ、めちゃくちゃ怪しいもんな)

 

 

一刀は門番の気持ちに激しく納得、同調してしまった。が、『貴様ら』とひとまとめにされるのは心外だった。

 

紫虚は一荒れしそうなこの状況に、うっとうしそうに頭をかいている。

 

星は呆れいていた。主に師匠に対して。

 

ヒナはさりげなく、三人から距離をとって見守っていた。

 

とはいえ、わざわざ何日もかけてやってきたのだ。ここで『はいわかりました』と帰るわけにはいかない。

 

門番達も、帰る気配のない不審者達に警戒心を高めていく。

 

互いに緊張(しているのは主に門番たちだけなのだが)するなか、ふと、何かに気付いたように門番の一人が声を上げた。

 

 

「ま、待て!……その仮面、もしやあなたは『あの』華蝶仮面では?」

 

「「「な、なんだってー!?」」」

 

 

兵達に動揺が走った。

 

不機嫌そうだった紫虚が一転、胸を張ってうれしそうにしている。

 

紫虚たちを威嚇していた兵達がざわめきだす。

 

 

「それって『正義の使者・華蝶仮面』のことか!?」

 

「え?『謎の怪人・華蝶仮面』じゃないのか?」

 

「『舞い降りる天災・華蝶仮面』ってのも聞いたことあるぞ?」

 

「俺なんて子供の頃、悪いことしたら華蝶仮面があらわれるぞ、って親にいわれてたぜ?!」

 

「一夜にして有名な盗賊団を壊滅させたとか―――」

 

「朝廷が秘密裏に組織した特殊部隊の一員だって話を聞いたことが―――」

 

「『変態仮面』との呼び名も……」

 

「あ、それ俺も聞いたことある。別名『ゼンラーマン・華蝶』。マンっていうのは男って意味らしいぜ」

 

「……想像したくないな、それは」

 

「―――『軟派仮面』―――」

 

「―――『全身精液孕ませ仮面』―――」

 

「―――『酔っ払い仮面』―――」

 

 

次々に妖しげな渾名が飛び出す。なんかすごいいわれようだった。紫虚のこめかみがひくついている。

 

 

(なんで正体を隠すための変装が、こんなに有名なんだよ………。どっかで聞いた様な渾名も混じってたような……)

 

 

一刀は、頭が痛くなり、思わずこめかみを押さえてうつむいた。

 

 

「た、ただいま確認をとってきますので、しばしお待ちを!」

 

 

なぜか丁寧語になっている兵の一人があわてて屋敷の中へと駆けていき、姿をけした。

 

 

 

………

 

 

………………

 

 

………………………

 

 

しばらくして、戻ってきた兵は紫虚たちに謝罪し、一行は無事屋敷に招き入れられた。

 

(……華蝶仮面は『不審な輩』じゃないのか。―――いや、もうなにもいうまい)

 

一刀が遠い目になっていたのは気にしない方向で。星も似たり寄ったりだった。ヒナは門前では他人のふりをしていたくせにちゃっかり後についてきていた。

 

 

案内役の人に連れてこられたのは謁見の間のような公式の場ではなく、客間のような部屋だった。

 

しばらく部屋の中で待っていると、この館の主である厳顔がやってきた。

 

 

「おお!よくぞ来てくれました紫虚殿。なにやら手違いがあったようで、申し訳ない」

 

「ああ、久しぶりだな桔梗。随分と偉くなったみてぇじゃねぇか」

 

「はっはっは。そういうて下さるな。紫虚殿はお変わりないようですな……仮面も含めて」

 

 

部屋に入ってきた厳顔は紫虚たちを歓迎した。

 

旧知の仲だというが、あまり詳しい話を一刀たちは教えてもらえなかった。

 

しかし、二人の親しげに挨拶をしている姿をみれば、良好な関係だったのは一目瞭然だった。

 

そして、厳顔は笑顔のまま冷静に仮面に突っ込んだ。どうやら華蝶仮面のことも知っているようだ。

 

 

「……紫虚殿、私がお招きしたのは紫虚殿であって華蝶仮面ではないのですが?」

 

「そういうな。こっちにも都合ってもんがあるんだよ。ここには紫虚上人なんてやつは来ていない。そして俺は華蝶仮面でもない。ただの正義の味方集団『三羽蝶』の頭領、揚羽仮面だ。そういうことにしておいてくれ」

 

「……了解いたしました」

 

(えぇ!了解しちゃうの?!)

 

さらりといってのけた厳顔に一刀は驚きを隠せないが、紫虚の言葉に、厳顔は何か思うところがあったのか、素直に了承した。

 

 

「しかし、こちらから手紙を出しておいて失礼かと思いますが、本当に来て頂けるとは思っていませんでしたぞ」

 

「ああ、それなんだが、どうやって俺の居場所を調べた?俺があそこにいることなんて麓の村の人間くらいしか知らないはずなんだが」

 

「偶然、旅の者からその様な噂を耳にしましてな。少し前に調べさせて頂きました」

 

「……ちっ、そういうことか」

 

「貴殿がどうしてあのような場所にいるのか、私なりに理解しているつもりです。ですから、此度のような真似をするつもりはなかったのですが……」

 

「かまわねぇよ。てめぇにも迷惑かけちまったからな。それに本当なら俺も来るつもりなんてなかったしな」

 

「では何故?」

 

「まぁ、な。思うところがあってな」

 

 

紫虚は後ろに控えている一刀たちに目をやった。

 

 

「先程から気になっておりましたが、そちらの童たちは……ま、まさか紫虚殿の子!?」

 

 

ガーン!?という表現が似合うほど、厳顔が大げさな驚き方をする。

 

 

「ちげぇよ!?おら、お前等自己紹介しやがれ」

 

 

なぜか崩れ落ちそうなほど衝撃を受けている厳顔に突っ込みを入れた紫虚に促され、一刀たちは自己紹介をした。

 

 

「お初お目にかかります、厳顔殿。私は趙雲。真名は星と申します。まぁ、一応『これ』の弟子ということになっています」

 

「俺は北郷一刀です。星と同じく、紫虚さんの弟子、ってことでいいのかな?よろしくお願いします」

 

「一刀はいいとして、師匠をコレ呼ばわりとはいい度胸だな星」

 

「紫虚殿の弟子……―――」

 

 

師である紫虚が信頼しているということで、星は真名を許した。

 

なかなか真名を許してもらえなかった一刀は少しむくれたが、出会いが出会いだったのでそれは仕方ない。

 

一刀たちが自己紹介をすると厳顔はなぜか黙り込んでしまった。何かを考え込んでいるように見える。

 

紫虚は何もいわない。一刀と星は突然黙り込んでしまった厳顔を不思議に思い、どうしていいのか戸惑う。

 

すぐに厳顔は自分が呆けていたことに気付いて、一言詫びをいれ、正気にもどった。

 

 

「これは失礼した。我が名は厳顔。真名は桔梗という。よろしく頼む」

 

 

互いに名乗りあい、つつがなく話は進んでいく。

 

一刀に字や真名がないことに触れると厳顔は疑問に思ったようだったが、詳しい話は追々していけばいいと紫虚に流された。

 

そして、一人輪の外にいたヒナに話題が行く。

 

厳顔はヒナに気付いていなかったようで、驚いていた。

 

(そういえば、星もそんなことをいってたよな……。もしかして影薄いのかヒナ?)

 

(一刀からしてみれば)あれだけ自己主張の激しい子がそんなはずはないか、とすぐに思い直す。

 

そしてヒナをみてみれば……ヒナは部屋の隅で体育座りをしていた。別に一刀たちも無視をしていたわけでもなんでもないので、いつものヒナ流のギャグというやつだろう。

 

紫虚が呼ぶと、ヒナは素直に立ち上がり歩いてきた。

 

話は聞いていたのか、一刀たちのもとまでやってきたヒナはすぐに口を開く。

 

 

「……私は、一刀の伴侶、です」

 

 

そういってヒナは一刀の傍に近寄り、ピトッっとくっつく。

 

またそれか!?と一刀は慌てて突っ込みをいれて、否定しようとするが、

 

 

「おぉ、私もそれが抜けておりましたな」

 

 

といって、悪乗りした星がヒナの反対側にピトッとくっついてくる。

 

すごくいい顔をしていた。一言で表現するとニヤニヤ。

 

一刀は想定外の敵の増援に慌てた。

 

星とヒナは目線で何かを語り合っている。

 

一刀はそんな二人に気付き、驚愕する。

 

 

(なっ、バカな……まさか全て仕組まれていたというのか!?)

 

 

いつの間にか二人の間に、共同戦線がはられていたようだ。一刀危うし。

 

 

「はっはっは。これはこれは。一刀殿はよほどいい男とみえる。なにやらどこかでみたことのある風景だとは思いませぬか?紫虚殿」

 

「な、なんのことだ?」

 

 

一刀たちのやりとりとは別に、紫虚と厳顔の間でもおかしな空気が漂っていた。

 

ニヤニヤしながら一刀たちを眺める厳顔。

 

冷静なフリをして、額に汗を浮かべている紫虚。

 

一同の顔合わせは、とても平和だった。

 

 

 

自己紹介を済ませ、厳顔は話もそこそこに、”詳しい話はまた明日にでもするとして、今日はゆっくり旅の疲れを癒してほしい”といって、その場は解散となった。

 

 

おまけ1

 

 

―――とある山中・断崖絶壁の上

 

 

そこに一人の女性と、一人の少年がいた。

 

女性は少年の師であり、家族だった。

 

その日、女性は少年にある技術を教えるためにその場所に来ていた―――

 

 

「というわけで、いけ」

 

ドンっ!

 

「は?―――ああああああああああぁぁぁぁぁ………」

 

少年の叫びは、暗い谷底に消えていった。

 

 

 

 

 

………

 

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

………………………

 

 

 

 

 

「……死んだかの?」

 

 

     タンッ

                    タンッ

             タンッ

                            タンッ

 

 トンッ

 

 

「このくそばばあ!!!殺す気か!?!」

 

「おお、生きておったか。やれば出来るではないか」

 

「ふざけんな!本気で死ぬかと思ったぞ!?」

 

「生きておるんだから問題あるまい」

 

「大ありだ!!!」

 

「そんなことより」

 

「そんなことじゃね………」

 

「くそばばあ、とは誰のことじゃ?(ニッコリ)」

 

 

 

 

 

………

 

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

………………………

 

 

 

 

 

ダッ!(少年は逃げ出した)

 

ガシッ!(しかし逃げられない)

 

キュッキュッ(少年は手足を縛られている)

 

 

「あ、あの、お師匠さま?一体何を………」

 

「なに。可愛いくて優秀な弟子のために、新たな技を伝授してやろうと思っての。技の名前は『硬気功』という。鋼も通さぬ鉄壁の防御法じゃ」

 

「そ、それとこれと何の関係が?」

 

「うむ、この状態で崖から落ちて生きておれば、そのときは『硬気功』を会得できているじゃろうて。期待しておるぞ愛弟子よ」

 

 

(( ;゚Д゚))))ガクガクブルブル

 

 

「じょ、冗談ですよね。師匠」

 

「ふふふ」

 

「あ、あははは」

 

 

ドンっ!

 

 

「ひっ――いああああああああああぁぁぁぁぁ………」

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

 

「ひっく、うっく……」

 

「全く、軽い冗談じゃろうが。男がいつまでも泣いてるんじゃない」

 

「む……無理、いうなっ……えっく…この、バカ師匠ぉ………」

 

「やれやれ……仕方のない奴だのう。そんな泣いてばかりだと愛しの姉に呆れられるぞ?」

 

「……な、なんだよ愛しの姉って。ば、バッカじゃねえの?それに俺は泣いてなんかねぇよ!」

 

「おぉ、冗談のつもりだったが効果は抜群だの」

 

「お師匠さま!」

 

「はっはっは、ほれ、あやつも食事を作って待っておろう。早く帰らねば折角の食事が冷めてしまう」

 

 

―――

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

 

―――それが少年の日常だった。

 

少年にとってはそれが世界のすべてで。

 

けれど、それで少年は幸せだったのかもしれない。

 

やがて、世界を知り、少年は蝶となって広い空を羽ばたくが、それはまた別のお話。

 

 


 
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