No.107745

江東の覇人 2話

アクシスさん

2話目です。

結構ハイペースで書いたので…少々稚拙が目立ちます…

2009-11-18 23:06:09 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:5263   閲覧ユーザー数:4511

 

 

何故だろうか・・・と、一刀は今の状況を思案する。

 

「ずずず・・・・・・いいお茶だなぁ・・・」

 

思わず口から零れる言葉。

 

それは、今の状況を考えればあり得ない言葉な訳で・・・

 

「だろぉ?俺も気に入ってんだ・・・ずず・・・・・・ふぃー・・・美味ぇなぁ」

 

というか、孫覇がこんなにのんびりとしてるからそれに呑まれている訳で・・・

 

こんなにのんびりとしてていいのかぁあぁぁぁ!!と、心の中では絶叫するが、表面上はのほほ~んとしている一刀であった。

 

「ん・・・まあ、何だ?つう事は、お前は別の世界から来たと?」

 

ようやく話が切り出される。

 

「・・・恐らく」

 

今の情報、そして、孫覇の話から導いた仮説。

 

何らかの理由によって、何らかの事象が発生し、何故か一刀がこの世界へ飛ばされてしまった・・・という事。

 

試しに孫覇にも話したが、特に情報は得られなかった。

 

「ん~・・・・・・んで、俺に聞きたい事って・・・?」

 

「とりあえず、何個か」

 

「めんどい。1つにしろ」

 

「はぁ!?あんたさっき何でも聞くって言いましたよねぇ!?」

 

「ああ・・・そういや言ったなぁ・・・まあいいや。んじゃ3文字以内」

 

「理不尽!?」

 

「へぇ・・・俺のボケについてくるたぁ・・・中々才能もってんじゃねぇか、一刀」

 

「ボケて・・・何も言えねぇ・・・・・・」

 

「ほい、茶番終了。んじゃ、まず何から答えりゃいい?」

 

「・・・・・・じゃあ1つ目・・・とりあえず・・・さっき言った天の御遣いって何です?」

 

それが気になる。

 

一刀は自分が『三国志』に詳しいと自負できるが『天の御遣い』というのは聞いた事がないのだ。

 

「天の御遣い・・・空を切り裂き、天より飛来する一筋の流星・・・その流星、天の御遣いを乗せ、大陸に落つ。後、天の御遣い、乱世を鎮静す・・・・・・管路っつう爺さんの占いでな。はっきり言って、普通だったら信用しねぇんだが、その占い師が妙に気になってな。覚えてた訳よ。んで、その噂はもう大陸中に伝染してる訳だ」

 

と言いながら、お茶をもう一飲み。

 

「へぇ・・・そんな人がいるんですか」

 

「ん、お前」

 

「・・・・・・俺?」

 

「ん」

 

2人揃って、ずずず・・・と飲み干す。

 

「はあぁぁあぁああぁぁああぁああ!!!?」

 

「っるせえな。んだよ、何かご不満か、天の御遣いさんよ?」

 

「だ、だって、俺が?天の御遣い?乱世を鎮静!?ないない、あり得ない。だって俺学生だもん!普通の男の子だもん!!」

 

「別に、お前自身の力を期待してる訳じゃねぇよ。武人から言わせてもらっても、お前じゃあ、精々一般兵士程度。努力すれば、何とか指導出来る程度・・・はっきり言って、何処にでもいる奴だ」

 

「じゃあ、何を・・・?」

 

「簡単さ・・・その名声と知恵だよ」

 

「俺・・・頭良くないですよ?」

 

「そういうんじゃねえ。別に軍師なれって言ってる訳じゃねぇんだから。お前は天から来たんだろ?だったら、少しは天の知識があるだろうが?それを使えって言ってんの」

 

「で、でも・・・名声と知恵だけじゃあ・・・」

 

そう・・・名声があろうとも、少しでもつつけば崩れるメッキ。

 

知恵だって、それを実行するには相当の人員がいる筈だ。人員が必要ない知恵など、国で役立つとは思えない。

 

「その為に、雪蓮達の所へ行けって言ってんだよ」

 

「孫策・・・の所・・・」

 

「おう・・・孫家は、今は袁術っつう嬢ちゃんに縛られてはいるが、いつかは天下に名乗りを上げ、乱世を生き抜く力がある。その力に、お前の知恵と名声を貸せっつう事」

 

それは『三国志』の世界で証明されている。蜀の劉備。魏の曹操。そして、呉の孫権。

 

天下を三分とする場合、その一柱を担うもの。

 

「成程・・・つまり、俺は象徴になれと・・・」

 

キリスト然り・・・天皇然り・・・どうあれ、民の心の支えとなる象徴は結構な働きをするものだ。

 

「そいう事。今、民は苦しんでる。長きに続く乱世のお陰でな。だから、誰もが天の御遣いの存在を信じ、崇めている。そこに、お前が現れ、知恵を授けていく。偶像崇拝じゃなくなった事で、民は安心し、さらに他国からも人が集まる。豊かな国となり、より強くなる。孫呉の力と協力し、天下を統一、乱世を鎮める」

 

かなり淡々と言っているが、それには並々ならぬ努力が必要。

 

それを踏まえて・・・という事か。

 

「2つ目・・・孫覇さん・・・あなたが、望む事は・・・?天下統一を促して・・・どうするんです?あなたの利益は?」

 

それは・・・一刀にも信念があるからこそ、問うもの。

 

生きる・・・死ぬ以前に・・・その答えがなければ、選択をする事は出来ない。

 

「利益・・・?んなもんねぇよ。強いて言うなら、民の笑顔、戦の激減、そして・・・妹達の幸せな生活・・・だな」

 

遠い場所を見つめるように、孫覇が天井を見上げる。

 

どうやら・・・心配はなかったようだ。

 

孫覇は・・・孫子威は・・・・・・一刀の、味方だ。

 

「で、どうする?脅しをかける訳じゃねぇが、お前は、こっちで生活が出来ねぇんだろ?だったら、孫呉に来い。食糧や水にも困らん。寝床も用意する。全てはお前次第だ。お前が選べ」

 

「そうですね・・・俺がこの世界に来たのが、乱世を鎮静する為なら・・・」

 

 

ここまで何度も考えた。

 

 

こんなファンタジーのような世界に来てしまった理由。

 

 

少なくとも、ここは夢ではない。

 

 

では何故?

 

 

『神』なる者が、ここに呼び寄せた?

 

 

何の為に?

 

 

もしかしたら、孫覇に会う事も、運命だったのかもしれない。

 

 

そこから考えうる目的。

 

 

この世界に・・・来てしまった理由・・・・・・

 

 

それは・・・

 

 

「天の御遣い・・・引き受けます」

 

 

一刀にしか出来ない事が・・・あるからではないだろうか。

 

 

 

「よっしゃ、んじゃ行って来い!!」

 

「はい!!!」

 

威勢よくドアを開け放ち、飛びだしていく。

 

「って、一緒に来てくれないのかよ!!!」

 

見事なノリツッコミを披露し、孫覇に詰め寄った。

 

「んん~、いやあ・・・だって・・・・・・その・・・恥ずい」

 

「はあ・・・?」

 

孫覇は、自分の身の上を説明する。

 

昔、何か突然旅に出たくなった事。

 

しかし、途中で戦に巻き込まれ、重傷を負ってしまった事。

 

気が付いたら華陀という人物に助けられ、命を取り留めた事。

 

しかし、全快するには時間がかかり、その間に自分が死んだ事になっていた事。

 

1回、足を運んだ事があるが、やはり出るに出られず、帰ってしまった事。

 

それ以来ずっと顔を出さずに、この森で見守っている事。

 

以上、孫覇の身の上話。

 

「いや、あんた。豪快そうに見えて、以外と内気だな」

 

「ぅるせ・・・おら、さっさと行っちまえ」

 

「いやだからさ・・・俺、道わかんないし・・・さっきの奴らに襲われるかもしれないし・・・もし死んだら、孫呉はどうなるのかなぁ・・・とか考えちゃったり・・・・・・」

 

「てめぇ・・・こっちが下手に出りゃあ・・・・・・」

 

「それ程下手に出てないだろ・・・」

 

押し黙る孫覇。

 

そこからバン!と机を叩き、立ち上がる。

 

「わあった・・・俺が雪蓮に合わせる。それでいいな・・・」

 

「了解・・・孫覇さん」

 

「蓮聖だ」

 

「?」

 

「俺の真名だよ。おめえに預ける。後、敬語いらね」

 

「いいんで・・・・・・いいのか?まだよく知りもしない俺に・・・」

 

「目を見りゃあ大体人柄はわかる。お前は、真っ直ぐで澄んだ目をしてる。だから大丈夫だ。それに・・・何れ弟になるんだからな」

 

最後にぼそっ・・・と何か言ったが、一刀にはよく聞こえなかった。

 

「っしゃあ!んじゃあ、行くか、一刀!!」

 

「ああ!蓮聖!!」

 

 

 

と、いう訳で、孫策達の館がある街に到着する。

 

「・・・・・・」

 

「おー、反応早いなー」

 

「なあ、何で俺達囲まれて剣突きつけられてんの?」

 

「そりゃあれだ。さっきの店で食い逃げしたから」

 

先程、小腹が空いたと蓮聖が言ったので、一刀は店についていき昼食をとった。

 

しかし、いざ勘定となると、2人とも金を持っていない。

 

というか、この世界に来たばかりの一刀に蓮聖は何を求めていたのだろうか・・・。

 

 

蓮聖曰く。

 

 

『いや、だってあれじゃん?俺、森暮らしだし。働いてないし。食糧自然の恵みだし』

 

 

ふざけんなよコンチクショー!!と心の中で叫びながら、一刀が後ずさり。対して、蓮聖は冷静そのものだ。

 

「おい、俺らは食い逃げだ。館の地下牢にでもいれてくれ」

 

「れ、蓮聖!?」

 

潔いにも程があるぞ!?と、心の中でツッコむ。

 

「いいから・・・ほれ、早くしろ。それともここの警邏はそこまで対処が遅ぇのか?」

 

今の発言で少しイラついたのか、警邏達はすぐさま2人を拘束し、館まで連行し出す。

 

「おい・・・どうすんだよ」

 

「普通に行って会える訳ねぇだろうが。ただでさえ俺は故人で、お前は正体不明。お前は自分の家に招き入れるか?」

 

「・・・まあ、無理だな」

 

「だったらこうやって捕まって、中に入った方がいいだろうが」

 

成程・・・と頷く。

 

「俺に任せとけ、食い逃げ程度だったら2、3日で出られるし、我慢きかねぇなら俺が何とかする」

 

頼もしい言葉に、一刀の顔が綻ぶ。

 

こうして、2人は孫策の館の敷地に踏み入った

 

 

 

どういう事だろうか。

 

うん。

 

ああ・・・こっちに来てから何日になるだろう。

 

蓮聖言ったよな。2、3日で出られるって。

 

もう2週間は経ちましたけど?

 

いや、確かに食事はちゃんと出してくれるし、トイレも行かせてくれる・・・重罪人よりはマシな待遇だろうが・・・・・・

 

 

はっきり言おう。

 

 

耐えられない。

 

そりゃ、ちょっとぐらい我慢しようと思った。

 

だけどこんなに長い間こんな場所でいるとストレスとかストレスとかストレスとか――――――!!

 

ただでさえ変な世界に迷い込んで?それでいきなり戦争見せられて?挙句には国を救えだとかそこまでなら何とか我慢できたけど流石に罪人扱いとか!

 

そんな感じで頭をかきむしる一刀を横目に、蓮聖はのんびりと欠伸する。

 

「どうすんだよ・・・蓮聖」

 

どうにかするとか言っといて、このザマは何だと、半ば八つ当たりぎみの視線をぶつける。

 

すると、蓮聖はよいしょ・・・と起き上がり、大きく伸びをした。

 

「はあ・・・しゃあねえ・・・覚悟決めるか・・・・・・一刀。俺から離れるなよ?」

 

「は?」

 

「直接雪蓮に会いに行くぞ」

 

「どうやって・・・」

 

そもそもここは牢屋であって・・・・・・

 

「こうやってだよ」

 

と、いとも容易く檻を吹き飛ばす。

 

 

・・・・・・反則じゃね?

 

 

「ほれ、行くぞ」

 

そう言って、蓮聖は駆けだす。慌てて一刀もついていった。

 

 

数分後・・・囲まれました・・・・・・いえーい。

 

 

最早笑いしか出ない一刀に対し、蓮聖は短く作戦のようなものを告げて、少し前に武装する兵士に突っ込んでいった。

 

蓮聖曰く、とりあえず暴れて将兵を呼び出し、そのまま流れで孫策を呼び出すらしい。

 

というか・・・作戦以上に凄いのは目の前の蓮聖であって。

 

「ふん・・・ぬおりゃ」

 

武器を持った兵士を素手で次々と投げ飛ばしていく。

 

かれこれ数分間暴れているのに、息1つ乱れていない。

 

本当に人間なのか・・・と、疑いたくなる動き。

 

確かにこう目立てば、孫策達に会えるかもしれない。

 

 

「何をしておる!!」

 

 

瞬間、何かが目の前を通り過ぎた。

 

はらり・・・と、一刀の前髪が目の前を通り、落ちる。

 

はっと振り向けば、弓を構える銀髪の女性がいた。

 

という事は・・・今のは矢?

 

逆方向を見てみれば、地面に矢が刺さっている。

 

・・・・・・もう少しで死んでました。はい。

 

「脱走兵如きに何を手こずっておるのじゃ!御主らは呉の正規兵であろう!?」

 

 

一喝。

 

 

それだけで、空気が震えた。

 

それ以上に、その女性が出す圧力は凄まじいものがある。

 

恐らくは、将の1人なのだろう。

 

「おお!祭!久しぶりだな!!」

 

「っ!!!」

 

蓮聖が片手を上げ、陽気に話しかける。

 

それに対し、祭と呼ばれた女性は顔をしかめた。

 

「御主・・・何者じゃ・・・?」

 

「ちょ・・・おいおい・・・俺を忘れたのか?俺だよ、蓮聖だ」

 

「蓮聖・・・?はっ・・・何を言うとる。蓮聖殿なら、数年前に死んだ・・・いや・・・でも、確かに似ておる・・・」

 

「当たり前だ、本人なんだからな・・・雪蓮はいるか?会いたいんだが・・・」

 

「・・・・・・ほ、本当に、蓮聖殿なのか・・・?」

 

「だぁかぁら!そう言ってるだろ!?蓮華やシャオもいるのか?」

 

がしゃん・・・と、女性が弓を落とす。

 

「さ、策殿―――!!」

 

そのまま、城の中へ飛びこんでいく祭と呼ばれた女性。

 

「そういう訳・・・で、お前らどうする?まだかかってくるか?」

 

周りにいる兵士達を睨む。

 

しかし・・・かかってくる者はいない。

 

むしろ、先程の女性のように武器を落とし、驚愕の表情を浮かべている。

 

「そ、孫覇様・・・?」

 

「孫覇様だ・・・孫覇様がお帰りになられたぞ―――!!!」

 

途端、湧き上がる兵士達。

 

膝をつく者。

 

涙を流す者。

 

様々な表現で、喜びを表している。

 

 

信頼。

 

 

天の御遣いよりよほど象徴になるんじゃないか・・・と、一刀が感じる程の信頼。

 

目の前の光景はそれを物語っていた。

 

「・・・お前って・・・本当に凄い奴だったんだな・・・・・・」

 

「そりゃあな。孫家の主の兄だ。しかも、既に故人となって・・・・・・っ・・・雪蓮!!」

 

言葉を途中で区切り、蓮聖が走り出す。

 

その先には蓮聖と同じ褐色の肌と、桃色長髪の女性がいた。

 

 

あれが・・・・・・『江東の小覇王』・・・孫策伯符・・・・・・・・・・・・女・・・だ。

 

 

はっきり言って、それが一刀にとって一番ショックだった。

 

いや、ショックというか、何と言うか・・・・・・

 

そんな一刀にはお構いなしに、蓮聖は愛しき妹まで駆けて行く。

 

「兄さん!!」

 

対する孫策も、蓮聖の所へ勢いよく駆けていく。

 

幾年ぶりかの兄妹の再会。

 

誰もが祝福し、笑顔になる。

 

筈だったのだが・・・・・・

 

 

「裏切り者ぉぉおぉおぉ!!!」

 

 

いきなり孫策が腰に下げた剣を抜き、蓮聖の首元を容赦なく薙いだ。

 

「うおっ!?」

 

擦れ擦れでかわす蓮聖。さらに攻撃は続き、首、心臓と急所を狙っていく。

 

「ちょ、しぇ、雪蓮!?俺だよ!?兄さんだよ!?」

 

「知らいなわよそんなの!!」

 

「さ、祭!助けてぇぇええぇ!!」

 

「自分で何とかせい・・・全く・・・・・・心配させおってからに・・・・・・」

 

よく見れば、その眼から光る物が滴っている。

 

悟られたくないのか、すぐ向こうを向いてしまった。

 

「なんで・・・何で!!!」

 

剣を振り回しながら孫策が叫ぶ。

 

「何でいなくなったのよぉ!!ずっと・・・ずっと待ってたのに・・・!」

 

だだっ子如く剣を振り回しているが、はっきり言ってそれ1つ1つが『必殺』の一撃。

 

当たれば容赦なく死ぬ。

 

一刀だったもう、30回は死んでいる。

 

まあ・・・そんな剣撃を、蓮聖は尽くかわしているが・・・。

 

「いや・・・だから・・・・・・その・・・」

 

その時・・・一瞬だけ、蓮聖の目と一刀の目が合う。

 

何故かはわからないが、その時2人の間で何かが芽生えた。

 

それは以心伝心出来るほどの、アホらしい絆。

 

 

「(助けて!)」

 

「(自分で何とかしろよ)」

 

「(助けてやったろ!?)」

 

 

それもそうだ・・・借り1つ+貸し2つぐらいで請け負うか・・・と、一刀がゆっくりと孫策達に近づいた。

 

「あ・・・あのぉ・・・孫策・・・さん?」

 

キッ!と、殺気がこもった視線がこちらに向く。

 

硬直する体を何とか動かし、自然な笑みを浮かべた。

 

「あまり、蓮聖を攻めないでくれないかな?彼は、俺を探してたんだよ。ずっと・・・だから・・・さ・・・っ!!」

 

ちょっとした発想。時間的にも無理はあるが、この場を鎮めるぐらいなら何とか出来る筈だ・・・と、思ったのも束の間。

 

瞬間・・・一斉に周りの兵士達が武器を取り、一刀に向けてくる。

 

その速度たるや、一般兵士が出せるようなものではない。

 

何でこんな事をするかと言うと・・・まあ、答えは1つしかない訳で。

 

「あ・・・ぇと・・・・・・・・・」

 

何で呼んだんだよ俺!真名は重要だから変に呼ばないって誓ったのに!

 

主に俺の命の為に!!

 

もう他人の名前を呼びたくない一刀であった。

 

「貴様・・・何故我が兄、孫子威の真名を呼ぶ・・・答えようによっては・・・斬るわよ」

 

先程まで争っていた孫策が、一瞬でこちらに近づき、手にしている剣を一刀の喉に突きつけていた。

 

その時、はぁ・・・という嘆息が聞こえ、蓮聖が声を上げる。

 

「雪蓮・・・お前らも止めろ。俺が許したんだよ。そいつは、天の御遣いだ」

 

一瞬、孫策は顔をしかめ、蓮聖の方へ向いた。

 

「天の・・・御遣い?それって・・・あのインチキ占い師の?」

 

「ああ。本人だ。俺が保障する」

 

再度顔を向け、ジロジロと俺の体を値踏みするかのように見つめる。

 

「・・・言われてみれば・・・確かに変ね・・・・・・」

 

「だろ?ほら、立ち話も何だし・・・な?」

 

「・・・・・・ふぅ・・・」

 

軽く息を吐くと、孫策が剣を下げる。それと同様に、兵士達も剣を下ろしてくれた。

 

「・・・寿命が3年ぐらい縮んだぞ・・・おい・・・・・・」

 

「祭!この子連れて行って。兄さんは私の部屋」

 

「う~い」

 

「うむ・・・心得た」

 

と、先程の弓の女性が近づいてくる。

 

「ふうむ・・・まあよい。ついてまいれ」

 

そう言われ、一刀は大人しく従った。

 

 

 

蓮聖は雪蓮の部屋に辿り着く。扉を閉め、2人きりの空間。

 

「っ!!」

 

孫策が飛びかかり、蓮聖の服を脱がしていった。

 

蓮聖も抵抗せずに、成すがままにする。

 

そして、肌が見えた瞬間・・・孫策の顔が綻んだ。

 

「兄さん!!」

 

抱きついてくる孫策を快く受け止める蓮聖。

 

「ったく・・・お前はこの傷見ないと、俺だって判断出来ないのか?」

 

その胸にある傷・・・蓮聖が昔、防衛戦の時、雪蓮達を守って負った傷。

 

「確信が欲しかっただけよ・・・兄さん・・・兄さん・・・・・・本当に・・・兄さん・・・・・・」

 

「ああ・・・帰ってきた・・・・・・孫呉に・・・」

 

しばらく抱きしめあい、その首や顔にキスの雨を降らす。

 

「蓮華やシャオは・・・?」

 

「今はいないわ・・・旧臣達は殆どバラバラにされて・・・・・・それよりも・・・兄さん、今まで何処行ってたの?あの、天の御遣いって子が言った事、嘘なんでしょ?」

 

ちらっ・・・と、扉の方を向く。誰も聞いていない事を確認し、ゆっくりと椅子に座った。

 

「別に話してもいいが・・・大層なもんじゃない・・・・・・」

 

その顔に映るのは、一刀といる時のようなお茶らけたものではない。

 

江東の覇人としての、孫呉の英雄としての顔。

 

「俺がいなくなった日・・・覚えているか・・・?」

 

「ええ・・・蛍を、見に行ったのよね・・・」

 

「ああ・・・その帰りに、俺は暗殺者共に狙われた」

 

「暗殺者・・・ですって・・・・・・」

 

「ああ・・・かなりの腕前だった・・・・・・そこら辺の軍の将程度の実力ぐらいか・・・さらにその後、1万程度の軍隊に襲われてな・・・・・・いくら俺でも、武器無しは少しキツかった・・・・・・敵は殲滅したが、重傷を負った。動けない程のな・・・・・・そこで、華陀っつう医者にあってな・・・治してもらったんだよ」

 

「華陀って言えば・・・あの『ごとべいどう』の伝承者の?」

 

「五斗米道だ」

 

「ご・・・ごと?」

 

「・・・いや、いい。あいつの癖が移っちまった・・・まあ、そんな訳で、華陀に恩があった俺は、華陀と行動を共にし、大陸中を巡ったのさ・・・1つは華陀への恩返し・・・もう1つは」

 

そこで一旦区切り、蓮聖が静かに眼を閉じる。

 

 

「俺を家族から引き離したあの軍隊の親玉を探して・・・殺す為にな・・・・・・」

 

 

静かな殺気。英傑である孫策は顔をしかめたぐらいだが、並の将では腰をぬかす程の、凄まじいものが部屋を覆う。

 

「・・・それで、突き止めたの?」

 

「・・・まあ・・・な・・・・・・だが、確証がない・・・・・・俺の見立てじゃ・・・五胡の奴らだ」

 

「五胡・・・あいつらが・・・!!」

 

孫策から蓮聖にも劣らぬ殺気が漏れ出す。

 

愛しい兄を傷つけた・・・それだけでも、孫策にとっては万死に値する。

 

「さっきも言ったが、確証はない。下手に軍を動かすと、叩かれるぞ?奴らはただでさえ正体がわからねぇからな」

 

「その事を知ってるのは?」

 

「俺と雪蓮。華陀と肉達磨共・・・ぐらいだな」

 

「に、にく・・・?・・・・・・あの天の御遣いって子は?」

 

「嘘を教えた。あいつに本当の事を教える必要はない。あいつに、俺の私怨を背負わせる資格があるかどうか・・・これから見極める。ま、その前に潰すかもしれんが」

 

ふぅ・・・と一息つき、窓から見える空を眺める。

 

「・・・戻って・・・・・・きたんだな」

 

「もう・・・何処にも行かない?」

 

「・・・わからん。私怨を晴らすまではな・・・いや、それ以前に、旅しててわかった。俺には放浪癖があるみてぇでな。華陀と旅してるのが楽しいのなんの。また出るかもしれん」

 

「そう・・・・・・」

 

ある程度予想してたのか、孫策は腰掛け、溜息をついた。

 

「でも・・・」

 

孫策の体を優しく包み込み、愛情を込める。

 

「お前や蓮華やシャオが待っている限り、俺はここへ戻ってくる」

 

「兄さん・・・」

 

2人はゆっくりと近づき、その唇を重ねた。

 

 

 

客間には、一刀が横になっている。

 

『御主はここで待っておれ』

 

そう言われ、大人しくしていた。

 

外には警備がいる。張り詰めてるよりはこうやっている方がいい。

 

「にしても、あの人が黄蓋だったとは・・・ね・・・・・・」

 

黄蓋・・・孫堅の時代から呉に仕えている宿将。

 

やはり・・・女性だ。

 

という事は、曹操や劉備も女性・・・なのだろうか。

 

「俺の知ってる三国志ではないけれど、三国志でもある世界・・・」

 

恐らく、この後は呉の将達を納得させなければならない。

 

自分が天の御遣いだと・・・そして、怪しい者ではないと。

 

それまでに、考えをまとめなければ。

 

「俺は・・・確か・・・・・・及川と遊んで・・・そのまま、寮に・・・いや、覚えてない。その途中から記憶が・・・・・・」

 

ぷつりと切れたコードのように、そこから先の記憶はない。

 

「納得させる為には・・・証拠だよな・・・・・・」

 

論より証拠。ポケットを探り、普段常備してるものを取り出す。

 

「携帯・・・生徒手帳・・・ボールペン・・・ハンカチ・・・ティッシュ・・・・・・こんなもんか・・・携帯は何か使えそうだな・・・生徒手帳は身分証だし・・・この2つだな・・・・・・」

 

この2つがあれば、何とか説明出来るだろう・・・そう考えながら、横になる。

 

「・・・生きるんだ・・・・・・絶対に・・・」

 

死ねば何も出来ない。全てが無駄になる。

 

この世界が夢であるかどうかなど、とうに考えていない。

 

今は・・・どう生きるか。生き抜くか。

 

いくら孫家に身を置くとしても、命の危機は変わりない。

 

何故なら、この世界は乱世真っただ中。

 

今この瞬間だって、誰かが狙ってるかもしれない。

 

そういう不安の中で生きなければならないのだ。

 

天の御遣い・・・一刀がそう名乗れば、余計に狙われる可能性も多くなる。

 

 

覚悟を決める。

 

 

今、自分が何処にいるのか。

 

今、自分が何をすればいいのか。

 

今、自分が出来る事は何か。

 

 

全てを踏まえて、培う。

 

 

多少の障害では砕けない覚悟を。

 

全てを乗り越えて、生きる事が出来る覚悟を。

 

この世界で、己の役目を全うできる覚悟を。

 

 

段々と意識はまどろみ、一刀は、夢のような世界で、眠りについた。

 

 

 

天の御遣いが孫呉に舞い降りた時、歴史は道を外し、誰も通った事のない道を通りだす。

 

 

それが、正しき道なのか、卑しき道なのか・・・誰にも・・・わからない。

 

 

願わくば・・・彼に、歴史に・・・ひと時の休息を。

 

 

 


 
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