「あべしっ!」
私の背後で奇妙な声が聞こえた。
後ろをみると、そこには私の中学校の同級生であり、幼馴染であり、存在そのものが不運のかまた……否、塊である、水城悠太(みずしろゆうた)が回転扉にぶつかったらしく、くるくると入り口を回っていた。
「悠太、その遊び楽しいか?」
私が呆れ顔で悠太に問う。
悠太は目を回しながら、
「楽しくないれすぅ。それよりこの回転とめてぇ」
と助けを私に求めるが、軽く流してスタスタと歩き出す。
「酷いっ! 鬼! 魔女! いけずぅ!」
背後からは悠太の叫び声が聞こえた。
悠太が回転扉の呪縛から抜け出せられたのは、それから二時間後だった。
修学旅行先のホテルのロビーでボーっとソファに座っていた私の横に、悠太が座る。
「なんでさっきやさしさライセンス免許皆伝の俺を助けてくれんかったん? 俺達幼馴染だろぉ? なぁー、みーちゃん?」
みーちゃんとは、悠太が勝手につけた私のあだ名だ。美奈都(みなと)だから、みーちゃんらしい。
「たまには、自力で助かれよ。毎回私が助けているような気がするのだが? この前だって、レインコートの背中の一部分に穴が開いてて背中ずぶ濡れだって喚いてたのを助けたのは何方でしたっけ?」
私の言葉の攻撃に軽く十ヒットくらいした悠太はしゅんをした表情をみせた。
いつだって悠太はドンくさくて、天然だった。それによって、どれだけ私が振り回されたことやら。
まぁ、それが悠太らしいというものなのだけど。
「しょうがない。まだ自由時間が余ってることだし、これから限定デザートでも食べに行きますか?」
私が悠太に尋ねると、満面の笑みを浮かべて縦に頷く。
「じゃあ、行きますか!」
私は悠太の手を取り、外へ出た。
ただ、またあの回転扉の呪縛に悠太が引っかかったのは言うまでも無い。
「い、いたいれすぅ」
終わり
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青春小説と思ったら大間違いだったりします。
世の中はしょっぱいものです。
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