ここはとある女学校に併設してある教会。
牧師の男がこっくりこっくりと教会内の一番前の長椅子で転寝をしていた。
「牧師様? 今、お時間宜しいでしょうか?」
学校指定である灰色のセーラー服、そして第二学年を表す水色のリボンタイを身につけた少女が牧師の体を揺らし、起こす。
「はぅっ。余りの天候の良さについ居眠りをしてしまいました。おや、貴女は如月さんではありませんか? 私に何か御用でしょうか?」
牧師は口元の涎を手で拭い、立ち上がると、彼が如月と呼んだ少女の方向に顔を向けて、問いかける。
しばらく彼女は俯き加減でもじもじしていたが、決心がついたのか、牧師と眼を合わせ話し出す。
「牧師様、私の懺悔を聞いてください!」
教会の右隅に位置する懺悔部屋。牧師と少女の間には格子状の木枠の壁が隔てる。
「で、懺悔したいと仰っていましたが、一体どうしたのですか?」
牧師が少女に問う。少女は先ほどと同じようにもじもじしてなかなか言い出そうとはしない。
五分後、ようやく少女の口が開く。
「私には、三学年の守恒弥生(もりつねやよい)という大好きなお姉様がいるのですが……今日、その弥生お姉様に朝のご挨拶をしようとしたときに……その……お姉様の可憐なお鼻からお鼻毛が出ていたのです!」
少女は次第に顔を青ざめ始める。
牧師は話の状況が把握しきれず、ぽかんとした表情でしか出せない。
「そのお姉様の姿を見た途端、私の頭の中にあった、ナイチンゲールのような微笑を浮かべるお姉様像が音を立てて崩れていったのです。
嗚呼、私は、お鼻毛程度でこんなにも苦悩してしまう、罪深き女なのですっ!
牧師様、こんな私を叱ってくださいませ!」
少女はそう言ってポロポロと大粒の涙を流す。
牧師は少女の涙を流す姿に慌てて、自分のポケットから白いハンカチを取り出すと、壁の隙間からそっと少女に差し出す。
「とりあえず、これで涙をお拭きなさい。憧れの対象に印象と違う出来事が起きてしまった時、失望してしまうのが誰しもあることですよ。それを乗り越えていくことが出来れば、貴女は立派になれますよ」
牧師はニコリと微笑みながら、少女に諭す。
牧師の話を聞いて、少女はガタンといきなり立ち上がる。
「牧師様お話を聞いていただきありがとうございました。これから、お姉様をお部屋にお呼びして、アキレス対弁慶のビデオ鑑賞をしてきますわっ!」
そう言って少女はすごい勢いで駆けていった。
「一体なんだったんだ?」
牧師はただただ懺悔部屋で立ち尽くすだけであった
終わり
Tweet |
|
|
1
|
1
|
追加するフォルダを選択
友達にリクエストを貰って書いた作品。
無茶振りをしてきたので、とんでもなく話が崩壊しております。
お題
・鼻毛
続きを表示