No.1067250

空飛ぶ戦車ドクトリン 第十一話 彼の人の秘密

三日月亭さん

短くなったので、現在書き足してる最中です、以上!(2022.7/17)

2021-07-22 22:32:55 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:560   閲覧ユーザー数:560

国語、それは国が国として自立した時に芽生えるアイデンティティだ。

国の中にあるであろう土着の言葉を選別しその国の公用語とする。

だからこその"国"語なのだ。

 

この世界には国語が存在しない、ヴィージマもヘクサォもフェルキアもヘグティスもソシエールもストレーガもプルハもマザキもサーヘラもエンハクサもノイタランドもポーカーもみな同じ言葉で喋っている。

 

多少の方言はあるが同じ文字、同じ言語でコミュニケーションをとっている。

 

この世界には国語が存在しない、それは何故か?

国語が国語として成立する際に言葉の整理により少数言語が淘汰されるように、この世界では狂人の意志によって、その多くの人命と共に言葉が葬られてきたのだ。

 

かつては豊かに豊富に存在したであろう"報復"という言葉もこの世界では一言語しか存在しない。

 

彼のものに報復せねばならない、奪われたものが巨大すぎて企てた狂人達の命で足りるかどうかわからないが…。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

「どうしてそう思うんだ?」

 

ギュンターの問いに俺は素直に聞いてしまった

 

「怒らないで聞いてくれるか?」

 

ギュンターは自身の問いの答えを聞く前に既に確信しているらしく、どうにも緊張した面持ちだ。

よしんば俺がそうだとしても、別に普通の人間なんだがな。

 

「トロイ、君の事は以前から知っているんだ」

 

「ちょっと待ってくれ」

 

意を決して話そうとするギュンターを制止し、俺は懐から回転式弾倉の拳銃を出し、テーブルに置きくるっと握りの部分をギュンターの方にやる。

 

「何をそんなに怯えてるか分からんが、気休めになればいいがこうすれば落ち着くんじゃないか?」

 

怒って銃でも抜くんじゃないか?と奴が勘繰ったと思った俺はそれならと持たされていた拳銃をギュンターの前に差し出し、奴がすぐ持てるようにした。

 

「あえて言うが、"元の俺がどうあれ"ギュンターそこまで怯える必要はないよ」

 

そう落ち着かせようとしたが、その行動は裏目に出てしまったようだ。

 

「…」

 

黙ってじっと俺の方を見たまま固まってしまった。

 

「長い話になるが構わないか?」

 

意を決したようにギュンターは話の口火を切ってきた。

俺はそれに静かにうなずく形で答えた。

 

 

その少し長い話は、トロイが軍役に着く前の犯罪者だった頃にまで遡る。

それは今回のスパイ事件にも大きく影響する内容であった。

 

長い昔話だが、かいつまんで纏めると以前の"トロイ"はヴィージマ側の国境付近で荒事を生業にした、とんだ外道だったそうだ、そんな男の生業の一つに違法な方法で国境を越えさせると言うものがあった。

 

そうトロイとギュンターには"俺"が来る前から接点があったのだ。

 

以前のトロイの悪行もギュンターの昔話の中で聞いたが実に粗野な蛮族がしそうなものばかりだ、強盗や殺人に人身売買、最後らへんは押し入った家の家族を皆殺しにして、一人生き残した娘を檻に入れて慰みものにしていたとかなんとか、

まともな人間が聞いたら卒倒するが、残念ながら俺の方がたちが悪いので問題ない。

 

「ギュンター…つまり俺とお前は元々知り合いで、お前ははっきりと黒のスパイという事…でいいのか?」

 

「誤解しないでくれ、あくまで私用であって越境を秘匿していたのは個人的なものだ、何より会う人物があまりにも有名人過ぎて正規のルートで会うとそれこそ私はスパイ容疑どころか、裁判なしの国家反逆罪で死刑だからだよ」

 

誤解…か、私用で会いに行くという事は…。

 

「以前の会合で話したあの手記をくれた人物…その人間に会うために密入国したのか」

 

俺はギュンターにそう訊ねた、訊ねざる得なかった。

俺の問いを返すために、時間を使う。

思考がまとまらないのだろう、何か切り出せないと言った様子だ。

 

「"元"ヴィージマ帝国最後の皇帝、ミハイル・アレクサンドロビッチ・クトゥロフ」

 

無表情のまま、ギュンターはその名を口にした。

ヴィージマはすでに帝国ではなく連邦国となり帝政は滅んでいる。

それも1887年の領土拡大の際の大量虐殺から端を発する国内の争乱の末の皇帝が暗殺されたと聞く。

 

「思いのほか大物だな…」

 

常人であれば驚きもするが、どうしてもこの世界では他人事の気がしてならない以上反応も淡白にならざるを得ない。

 

「私はいや、あの夜集まったものは皆星人の末裔だという話はしたな」

 

ギュンターの問いに俺は静かに頷く、そうすると彼は事の経緯を俺の静かに聞かせ始めるのだった。

 


 
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