……CWは今日も平和だ。
遠くで歩行訓練を行っているダイナレックスを見つめながら、二代目は思った。
ときどきよろけて道端の建造物を小破させたりするけれど、まあ、スーパーのレジがお釣を間違えるくらいの被害であろう。世は順風満帆、平和が一番である。次の任務までの待機時間、こんな緩やかな時間が過ごせるのは……
……正直、つまんない。
と思っていたとき。彼女のすぐ横に、突風と共に金竜が舞い降りた。
ぐあー
「見回りご苦労様、ゴルドバーン」
頷いた後、少し躊躇しながら竜は小さく鳴いた。
「え、尋ねたいことがある?」
唸るような鳴き声が、少し長く続いた。
「……ふむ、ちせママのことを考えて、あの世界を後にしたが、よくよく考えれば何故オマエタチに従う必要があるのか、と」
金竜は伸び上がり、両翼を大きく広げて威嚇のポーズ。
「……俺ゴルドバーン、強い。強い俺が何故オマエタチの言うことを聞かねばならんのか……なるほど!!」
すっくと立ち上がった二代目は、ぱん、と両手を撃ち鳴らして、
「そういうことでしたら、ここいらで拳で語り合おうじゃないですか!」
ウヒヒッ、ウッヒッヒッ、という笑い声が響き渡った。
それを聞いて、ゴルドバーンはほんの少し後悔し始めた。
「……で、どうしてこんなことに?」
既に変身完了したグリッドナイト、その背にはゴルドバーンが装着されている。その対面、(現実界で言えば)100メートルくらい離れた所で、両の腕を組んで仁王立ちしている二代目。
「いやぁ、やっぱりハンデは必要かと思いまして」
ぐえー
その物言いに、金竜は不満そうだ。
「ナイト君もそこそこ強くなっちゃったし、先代もそろそろ実力を見極めてやれ、とか言ってましたし」
「先代が……?」
空を見上げるスカイ・グリッドナイト。その眼には、虚空に浮かぶ、髭を生やして仙人と化した怪獣の姿が見えているに違いない。
……娘を任せるには、まだまだ力不足じゃな、フォッフォッフォ……
なんか喋った。
「……そういうことなら、全力で行かせていただきます、二代目」
スゥッと自称「戦友(とも)に捧げる深紅の無双剣、名付けてレッド・キャリバー・スペシャル」を実体化させるグリッドナイト。
「(最近は暴れてなくて溜まっちゃってるし……)かかってらっしゃい!」
ぼそっと本音を呟くや否や、両腕を解き、意味不明のモーション(実は意味はない)を開始した彼女の周囲の空間が揺らぎ始めた。同時に生じる無邪気な殺意の波動に、背のゴルドバーンが唸り始める。
「後悔既に遅し、だ。ちなみに俺が拾われてからの勝率を聞きたいか?」
背の両翼と、両脚に全力を込め、何の小細工も無しの一刀両断の構えのまま、グリッドナイトは呟いた。
「……百戦中、一勝九十九敗だ」
目前に出現した、山脈のように巨大で残虐な双眸を輝かす音撃怪獣に向けて、二体の怪獣が咆哮を上げて突っ込んでいく……。
数分後。
CWの大地に穿たれた幾つものクレーター。
その一番大きな孔の中心に、仰向けでぶっ倒れている巨大な一体と一匹が居た。息も絶え絶えに。
「一太刀も浴びせられなかった……」
ぐぇ~、と金竜も言葉を紡ぐ。
正直、ナイトは愕然としていた。かつて一撃を喰らわせ、「そこまで!」の先代の一声で勝利を得たことがあった。その後、幾つもの世界での任務と言う名の修行を重ね、自分は確実に強くなっているはずだ……なのにどうして勝てないのだ。
「いえ、太刀筋はなかなかに進歩していると思いますよ、ナイト君」
声のする方を仰ぎ見ると、クレーターの崖の上、コンポイドの仮の姿に戻ったアノシラス二代目が立っていた。胸を張り、見下ろす態度で。自信満々な仁王立ちで。
「ちなみに先代立ち会いの仕合では、このくらいにセーブしてましたが……」
人差し指と親指の隙間で表現しているようだが、ここからでは「物凄く小さい」くらいしかわからない。
「今日は全力の半分くらい出せました。自信持ってください!」
ウヒヒッ、という笑い声が漏れる。
出会った頃と変わらない、幼くて無邪気な笑い声。
他の「操られる怪獣」とは異なる、強靭な自我を持つ稀有な存在。
その自我の根本は「CWに産まれた総ての世界が、在るがままに歪まされること無く、健やかに永続していくこと」。
その純真無垢な想いに救われ、惹かれた。
だからこそ。
俺は彼女には従うのだ。
彼女と共に在りたい、と願い、闘うのだ。
CW内でも、いつか、このヒトに勝ち、護れるくらいに強くなるのだ……。
ナイトはそう強く想い、もう一度、逆光の中で仁王立ちする彼女の姿を見上げた。
眼が慣れてその微笑みが見えるようになったとき、スッと視線を反らして言った。
「……それから二代目」
「なんでしょうー?」
片手で自らの視野を遮るようにしながら、
「変身解除したままで胸を張るのは止めてください……お願いですから服着て服」
以上。
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三匹が行く。(二匹は逝った。)