第十二章
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~擁州・長安~
華琳「あなたたちの言のとおりね。 番兵の一人すらいないわ」
雪蓮「本当に守りが手薄ねぇー。 まさか冗談抜きでスッカラカンだなんて思いもしなかったわ」
穏「趙雲さんたちが危惧していた伏兵も、ここまでは見当たりませんでしたねぇ~」
厳顔「しかしまだ油断はできませぬ。 あの男は計算高い人物でしてな。
恐らく我らの離反も、とうに読まれていると思って差し支えありますまい」
貂蝉「でもなんか臭うのよねぇん。 何かこう、人でないものがワンサカ出てくるような、オ・カ・ン」
卑弥呼「ふむ、貂蝉よ、傀儡の気配でも見つけたかの?」
貂蝉「ん~、仙術というより、妖術の気配がするのよねぇん。 でももしかしたら神術かもしれないわん」
明命「(それ以前に、この人たちは本当に人間なのでしょうか…?)」
風「妖術ですかー。ですが、街中には、特にこれといった異常はありませんねー」
趙雲「今のところは、な」
稟「ですが仮にそのような摩訶不思議な力を使用する場合、
その付近に必ず媒体となる何らかの源が存在するはずです。
まずはそれを捜索するのが宜しいかと」
春蘭「むぅぅ…私には何のことだかさっぱり分からんぞ?」
華琳「良いのよ春蘭。 あなたには分からなくても。
それより春蘭、秋蘭、あなたたちは周囲の気配に警戒なさい。
いざとなった時に私たちを守るのはあなたたちの役目よ。 二人とも、いいわね?」
春蘭・秋蘭「はっ!!」
雪蓮「明命も頼むわよ。 いつ許貢と黄祖の影があるか分からないし、
警戒だけは怠らないようにしなさい。
それから白蓮、あなたには緊急事態が起きたときに
真っ先に一刀と母様に危急を知らせてもらうから、そのつもりでいなさい。 あなたの馬術が頼りよ」
明命「了解です!!」
白蓮「責任重大だな…まあやるだけやってみるよ」
桂花「街中には特に異常はないようですね」
華琳「となると…やはり城内か。 黄忠、あなたはこの城について何か知っていることはないのかしら?」
黄忠「そうですね… ここ長安の城内には、蜀の国宝、南華老仙が著した太平要術の書が
収められております。 そして、ここからは私の推測でしかありませんが、
恐らく彼は、その太平要術の書を使って、自らの臣下の意思を残した上で、
かつ、意のままにおいて我々をかどわかし、統率したものと存じます」
華琳「何ですって……!!? あれは元々我ら曹一族の持ち物よ!!
それも読んではならぬ禁書だったのよ!?
盗賊に盗まれて、その討伐の折に火計で焼けたものとばかり思っていたのだけれど……」
秋蘭「……焼け残ったか、はたまた持ち出されたか…
どちらにしても現存していた、ということでしょうな」
稟「それにしても、董卓も気の毒ですね。 一度無理やり傀儡として皇帝にされ、
我らに捕まったあと、出奔した所で再び傀儡の皇帝ですか…」
桂花「ふんっ、華琳様の寵愛を受けようとせずに拒んだのがいけないのよ。 自業自得だわ」
華琳「桂花、あなたは少し黙ってなさい。 あとでオシオキだわね」
桂花「ひっ…!!」
雪蓮「どうでもいいけど、とにかくその少帝ちゃんと、なんとかろーせんとやらを探しましょ。
早く戻って母様と一緒にひと暴れしたいわ」
孫策が城下町と王宮を隔てる境界線である城門を半歩またいだ、その時だった。
白いフードに黒い口隠しの布、黒い楕円に赤い目玉模様のような図案が描かれた、
異形の白装束の集団が、まるで地面から雑草が生えるかのごとく、
音もなくニョキニョキと姿を現し始めた。 その数、およそ五千ほど。
雪蓮「ッ!?」
それを見た瞬間、孫策は顔つきを小覇王のそれに変え、二本の南海覇王を構えて仁王立ちする。
華琳「何奴ッ!!? もしや、五胡の妖術か!!!??」
同時に曹操も、孫策を守るように白装束の前に立ち、大鎌・絶を構えて警戒態勢をとった。
白装束「ここより先は通さぬ!!」
白装束「太平要術の書は渡さぬ!!」
白装束「北郷一刀は悪なり! 悪は滅すべし!!」
白装束「北郷一刀はこの世界に仇なす魔王、同じく孫文台は邪王である!!」
白装束「北郷一刀の信奉者たちもまた同罪なり!!」
白装束「裏切り者の趙子龍どもに、死を!!」
白装束「肯定派は消せ!! この外史は直ちに終局を迎えるべきである!!」
白装束「孫文台は人にあらず!! 人ならざる者に、裁きを!!」
曹操は思った。
文台様が人でない? 何を言うかと思えば、いまさら。 馬鹿馬鹿しいにもほどがある。
この曹孟徳、そのようなことなどとうに心得ている。
皆が皆、文台様が人とは別の何かであることなど、とうの昔に知りえている。
我ら曹魏一同は、全て知っての上で文台様に仕えているのだ。
たとえ人でなく妖魔や神仙の類であろうとも、あの方には私ですら為し得なかった
すばらしき徳と人望がある。
街には物があふれ、商人の威勢の良い掛け声が聞こえ、人々には笑顔が絶えぬ。
治安も治水も優れ、官も軍も規律良い。
一刀もまた同様だ。
アイツはどうしようもない真性の女たらしだけれど、文台様に負けないくらいの徳と人望がある。
一軍をまとめあげる賢さもあるし、秋蘭や冥琳から出された仕事は、
時間がかかりながらもきちんとこなす。
春蘭には敵わないまでも、武もそこそこ立つ。
桂花は反対しているが、我が伴侶の候補として認めても良い。
どちらにしても、大切なのは中身だ。
劉表の軍を見たか。 同じ人でないものが統べる国とはとても思えない。
馬超や呂布の部隊はともかく、そのほかの連中など、単なる烏合の衆ではないか。
あのような凡人に、王たる器などありはしない。
一刀や文台様や雪蓮たちを、何としても失うわけにはゆかぬ。
華琳「愚か者が…この絶の錆にしてくれる」
孫策は思った。
一刀と母様を殺す? ハァ??? 頭どうかしてんじゃないのコイツラ?
あたしは一刀に身も心も全てをささげたのよ。
こんなチンカス以下の連中に、あたしたち孫家の大事なお婿をブッ殺されてたまりますかっての。
ここらで一発、あたしの復活した姿を見せ付けてやろうかしら。
それにしても参ったわね。向こうから攻撃しては来ないみたいだけど、これじゃ先に進めないじゃない。
それに、一刀が魔王? 母様が邪王? いいじゃない、言いえて妙ね。
あの二人には良く似合ってると思うわ。
ついでにあたしにも何か称号が欲しいんだけどなー。
白装束「死に損ないの偽王孫伯符よ! 今度こそ黄泉路に旅立つがよいわ!!」
ブチッ
雪蓮「……いいわ。 そこまで言うのなら、遠慮は必要なさそうね。
これで後腐れなく、思う存分殺し合いが出来るわ、
一刀を馬鹿にした罪を、あの世でせいぜい後悔なさいな、ククク」
卑弥呼は思った。
なるほど、拠点防衛型の罠か。
函谷関以西が一気に全て落とされたのは、こやつらの暗躍があったからと見て良かろうな。
となると、間違いなく次に狙われるは、北郷や孫堅様、そして洛陽の地。
そうはさせぬ。 ここで物語を終わらせてはならぬのだ。
宮殿内でこやつらとは別の気配がする。 あれは間違いなく我らの師、管路様の気だ。
二人の人物と戦っておる。 あの小僧どもの気ではないな。
恐らくは、あやつらこそが、かの許貢と黄祖か。 こちら側にいたか。
師もこの事態を察知され、動かれておったか。
卑弥呼「さっさと太平要術を取り戻さねば、あやつらが危ないの」
貂蝉「そうねぇ。 太平要術を結界の外に移動させれば、こいつらも現れて来なくなるはずだわん」
趙雲「皆の意見にに同感だ…思えば我らは最初から、貴公らの下につくべきだったのかも知れぬな。
我が姓は趙、名は雲、字は子龍、真名は星。 これより我、趙子龍、
劉表のくびきを離れ、孫呉の旗の下にはせ参じよう」
厳顔「同じくわしは、姓を厳、名は顔、真名を桔梗と申す。 わしの部下に魏延という
力馬鹿もおりますが、そやつもあとでわしが責任持って説得いたしまするゆえ」
黄忠「同じくわたくしは、姓は黄、名は忠、字は漢升、真名は紫苑と申します。
よろしくお見知りおき下さいますよう」
華琳「承知した。 では貴公らには、我らの真名を呼ぶことを許しましょう。
そして正式な挨拶は、文台様の裁可が降りてからにいたしましょう、それで良いかしら?」
趙雲「異存ない」
華琳「よし、ならば雪蓮、我ら二人、曹孟徳と孫伯符、曹魏の覇王と江東の小覇王、
覇王と覇王の揃い踏みと行きましょう」
雪蓮「いいわねそれ、ゾクゾクしちゃう」
貂蝉「曹操ちゃん、孫策ちゃん、よく聞きなさい。
この宮殿には間違いなく、あなたたちの敵である許貢と黄祖が潜んでいるわん」
雪蓮「ッ!!」
華琳「なんですって…!!?」
卑弥呼「彼奴らに遠慮は不要じゃ。
すべからく撃退し、二人を捕獲し、孫堅様の下に引きずり出してしまうが良かろう」
華琳「良いでしょう……聞こえるか、元曹魏の精兵たちよ!!
我らの前に、正体不明の白い装束をかぶった者どもが立ちふさがっている!!
我らは奴らを蹴散らし、我が曹家の宝である、南華老仙が著した太平要術の書を取り戻し、
この館に潜伏しているという、我らの宿敵である許貢と黄祖を捕らえ、
文台様の面前に引きずり出すのだ!!」
雪蓮「我にその矢を向け死の淵に追い込んだ下衆共を、野放しにして帰すな!!
我が母上をその手にかけた愚劣な輩を、
孫呉の御名において、母上自身の手によって裁きにかけるのだ!!
我ら孫呉に歯向かう者共には、死を!!
我らが御遣い様に牙を向ける輩には、御遣い様に代わって、天誅を!!!!」
華琳・雪蓮「総員、突撃いいいぃぃぃーーーー!!!!!!」
親衛隊兵士「オオオオオオオォォォォォォーーーーーー!!!!!!!!」
函 谷 関 の 戦 い
~第二陣 復活の小覇王~
華琳「ついに見つけたぞ…許貢、ならびに黄祖よ。
我が友伯符を死の淵に追い込み、曹魏が滅びた原因を作った張本人どもよ。
さあ、宴の始まりだ。 我ら曹魏と孫呉の、復讐の戦といこうではないか」
雪蓮「あたしたちね…本当はどっちでも良いのよ。
あんたたちを生け捕りにしようと、首だけを持って帰ろうと。
ホント、もうどうしょうもないくらい怒りでいっぱいなんだから」
第十二章三節終了
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