一刀は橋の前で馬の毛並みを確かめていた。長坂橋という橋らしい。
前には鈴々が陣をはり、時間を稼いでいる。自分はこの橋の死守する。恋姫達を守る意志(Sense)と自分の思惑を乗せ・・・。
「そろそろ頃合いだな」
先ほどの顛末を頭に浮かべるため目を閉じた。
第十五話 長坂ノ戦 ~Soul~
魏王の不安の元である劉備は逃避行を真っ直中であった。
斥候に先鋒、そして殿・・・。加えて桃香を慕っている民たち。
正直民がいなければもっと早く進めるだろう。しかし桃香は・・・いや、劉備はそれを捨て行くことができなかった。
皆桃香を慕い、桃香に付いていくと心に誓った人々であった。
彼女が心に残している一刀の言葉『国とは人の集まりであり、場所は関係ない』を実行していた。
「これ以上速度は上げられんな」
しかし星の呟きが今の現状をよく表していた。彼らの護衛部隊が必要になるのも、文字通りの足かせであった。
「朱里、彼我の距離はどの程度だ・・・いや、どの程度で追いつかれる?」
「明日には会敵するかも知れません」
「敵の先鋒は神速張遼か?」
「そう思われます」
「・・・」
先ほどの状況に加え更に最悪が重なった。
朱里と雛里の空城の策で敵の侵攻を妨害し、一刀の地雷はその足を鈍らせている。
しかしそれらは焼け石に水だ。
「部隊を二つに分けましょう。先導し、先攻して益州に進む部隊。それと共に後方で曹操軍の攻撃を防ぐ部隊・・・」
愛紗の提案に朱里が頷く。
「では先鋒は愛紗さん。護衛部隊は星さんが指揮を執ってください。恋さんとねねちゃんは桃香様の護衛を・・・殿は・・・」
「殿は私が受け持つよ」
「桃香っ!?そんなこと、させられるはず無いだろう!」
桃香の世迷い言に白蓮が声を荒げる。
「そうです!そんな危険な役目は我らに任せて・・・」
「でも!私についてきてくれるこの人たちを、私自身の手で守りたいの・・・!」
「落ち着け、桃香。皆を導くことと守ること・・・それは同義ではない。導くのは桃香・・・守るのは私たちだ」
馬の頭を後ろに回し、同じく馬上の鈴々の頭を撫でる。
「いけるか?鈴々」
「合点なのだ!」
「待ってください!ご主人様が殿になるつもりですか!?」
「そうだ。私がいるとなれば、決戦の行うつもりと思い迷いが生じるだろう」
「大丈夫!鈴々がしっかり守るのだ!」
勇ましく、また頼もしい妹だ。
「反論は許さん。・・・今は一刻を争うんだ」
「待って!ご主人様!」
一刀は馬を嘶かせ後方に走っていく。その一刀に桃香が叫んだ。
「必ず帰ってきて!約束して!!」
その言葉は彼に届いたのかわからない。
目の前に砂塵。後退してきた鈴々の部隊のようだ。
「御遣い様!張飛将軍は最後尾です!」
「わかった・・・馬はどうした?」
目の前にいるのは一端の兵だった。傷つき、それでもなお戦おうとしていた。
「失いました・・・しかし」
言葉を全てはき出す前に馬の手綱を彼に預ける。
「重要任務を与える。北郷一刀は益州にて合流する・・・劉備に伝えてくれ」
「はっ!!」
その会話の隙にもどんどんと騎兵から歩兵まで橋を渡っていく。
そして一番最後は鈴々だった。
「鈴々!駆け抜けろ!!」
その言葉通り鈴々は純粋に橋を駆け抜けた。
あとは天の御遣いが橋を渡るだけ。しかし彼は動こうとはしなかった。
「お兄ちゃん!?」
「安心しろ、鈴々。皆には益州で会おうと伝えてくれ」
一刀はそういうと手に持っている刀で橋の縄を斬る。橋が堕ち、天の御遣いと桃香達のつながりが絶たれた。
「お兄ちゃん!!」
「行けぇ!張益徳!!」
いつもとは違う呼び方に決意を感じたのか、一気に走り去る。
それを見送り、馬の蹄音が聞こえその方向に向き直る。
「何を考えてる?天の御遣い」
神速、張遼に魏武の大剣、夏侯惇が先鋒だったらしい。
「曹操軍にいる天の御遣い・・・そいつに会いたい」
「そういやそないな噂あったなぁ。まあどっちにしても・・・」
張遼が飛龍偃月刀を地面に突き立てる。
「ウチらを倒していかんと進めんで!天の御遣い!」
張遼が武器を振りかぶり彼に一撃を加えようとするが、一刀は単純な縦斬撃を紙一重で避け居合い抜きの要領で刀を抜き放ち、張遼の腹部を叩ききろうとする。
張遼は飛龍偃月刀ですぐにその斬撃を防ぐが、腰の入った一撃に思わず後ろに下がってしまう。
「・・・なんや、人の上に立ってるだけの人間やないんやな」
「・・・」
一刀は無言で剣を唸らせ、正眼で構える。どうやら夏侯惇は傍観を決めたのか、得物を抜こうとはしない。
一対一なら勝ち目はまだあった。
「いくで!北郷一刀!」
右凪、左凪、右凪、そして縦凪。それを横凪は全て弾き、最後の縦凪は左に半身をずらす。
次は一刀の反撃だった。右足を前に出し彼女の首を的確に狙う。張遼はその一撃を石突きで受け止める。
しかし一刀の狙いは違った。
「!」
張遼の顔に苦悶が浮かび、彼と大きく間合いを取る。右腕からは大量の出血。
そして一刀の左手はべったりと返り血に染まっている。その手には小刀が握られていた。
「やるやないか」
「伊達や酔狂でここにいるわけではない。卑怯卑劣と言われようとも構わん」
「いいだろう、私が相手になる」
とうとう魏武の大剣が動いた。怪我をした張遼の前に出て大剣を構えた。
「霞、一端下がれ。間合いの内に入られると厄介だ」
「春蘭・・・」
干渉せず、という意志表示のために剣先を下ろし、その様子を眺める。
僅かに時間は掛かったがどうやら言いくるめられたようだ。
「待ったか、天の御遣い?」
「魏軍もなかなかいい環境だな・・・」
自軍に似た雰囲気を感じ取り少し笑みを浮かべるが、すぐに戦場の顔に戻る。
剣先を夏侯惇の喉元に向け、夏侯惇は大剣を上段に構えた。
「いくぞ!魏武の大剣!」
「望むところ!北郷一刀!!」
そういって先制するために振りかぶられた夏侯惇の剣が、一刀の刀に阻まれる。その瞬間彼から発せられる気の量がとんでもなく上昇する。
「なっ!?」
「悪いが・・・最初から本気でいかせてもらうぞ!」
その目は赤く染まっていた。呂布との戦いで見せたものと同じ現象が起こり始めていた。
夏侯惇が本能的に大きく後ろに下がり、間合いを取り始める。
―――!!
咆吼が響き渡り夏侯惇と張遼が恐怖で動けなくなる。
「なん・・やて」
「なんだ・・・この殺気」
とても人の物とは思えない殺気に地面に縛られる。
夏侯惇と、負傷していた張遼ですら再び構えなおすが、既に一刀は夏侯惇に斬りかかっていた。
さすがの夏侯惇でもそれを避けることはできず、鍔迫り合いになる。だが一方的なものだった。あの呂布ですら手こずったのだ。
鍔迫り合いに勝った一刀は、夏侯惇の防御を大きく弾き、隙だらけの彼女に向かって刀を振り上げた。
「!?」
しかし、何かが目の前を高速で通り過ぎる。それに驚き、一刀は夏侯惇と大きく距離を開けた。鞭のようなものが通り過ぎたらしい。
その攻撃の先には黒衣の男が佇んでいる。その顔に一刀は覚えがあった。いや、忘れることなど出来なかった。
「あ、あんたは・・・」
一刀の目の色がどんどん白く戻っていく。しかし表情は驚愕の物にかわりつつあった。
「久しぶりだな」
―――・・・一刀。
おまけ:次回予告
―――時代(Scene)をこえて...
―――伝えるもの(Gene)をこえて...
―――文化(Meme)をこえて...
―――意志(Sense)をこえて...
―――世界(World)をこえて因縁は続いていく。
第十六話 Tre=Fox ~狐ノ称号~
断ち切れぬ因縁。それは蛇(Snake)と狐(Fox)の因縁。
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真・恋姫†無双をベースにとある作品の設定を使用しています。クロスオーバーが苦手な方には本当におすすめできない。
・俺の◯GSを汚すんじゃねぇって方もリアルにお勧めできない。
・ちなみにその設定は話の本筋に関係が出てきます。
・っていうかこの作品自体厨作品です
・過度な期待どころか、普通の期待もしないでください。
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