No.1042379

英雄伝説~灰の騎士の成り上がり~

soranoさん

第104話

2020-10-02 20:51:50 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:1919   閲覧ユーザー数:1552

 

同日、PM9:30―――

 

トリスタ占領後の夜、久しぶりの士官学院を見回っていたリィンは旧校舎に訪れていた。

 

~トールズ士官学院・旧校舎~

 

(旧校舎……ここから、俺にとってのエレボニアの留学生活が始まったんだな……)

旧校舎を見上げたリィンはトールズ士官学院に入学式後の旧校舎でのオリエンテーションを思い返した。

(考えてみれば、あれからまだ1年も経っていないのか……エレボニアでは本当に色々あったな……あの頃の俺はまさかこんなことになるなんて、夢にも思わなかっただろうな……)

トールズ士官学院入学時のかつての自身やエレボニアでの様々な出来事を思い返したリィンは複雑そうな表情を浮かべた。

「(……そろそろ寮の方にも顔を出しておくか。)――――――!…………」

少しの間その場で立ち止まって思い出に浸っていたリィンはその場から離れようとしたが、人の気配―――それもその気配の主が自分を狙っている事を悟ると表情を引き締めて太刀を収めている鞘に手をかけてその場で目を閉じて集中して気配の主の居場所を探り

「二の型――――――洸波斬!!」

気配の主の居場所を探り当てたリィンはその場所目掛けて抜刀による神速の斬撃波を放った!すると斬撃波が放たれた場所から人影が跳躍してリィンの頭上から鋼糸(ワイヤー)を放ったが

「甘い!」

襲い掛かる鋼糸をリィンは太刀で一閃して無効化した。そしてリィンに奇襲をした人影は地面に着地するとリィンと対峙した。

 

「完全に気配を断ち、潜伏していた私の居場所を探り当てた上奇襲をも防ぐとは………お見事です、リィン様。この戦争でⅦ組にいた頃とは比べ物にならない程、成長されましたわね。」

「…………シャロンさん…………何故、一体誰の指示で俺に”闇討ち”をしたんですか?」

リィンと対峙した人影――――――クルーガーはダガーと鋼糸を構えて淡々とした様子でリィンを称賛し、自分を奇襲した人影の正体がクルーガーである事を知ったリィンは僅かに驚いた後真剣な表情でクルーガーに問いかけた。

「…………私が受けた命令は”本来の真なる贄”であるリィン様を無力化し、捕縛して命令を降した人物の下へと連れていく事…………ですから、大人しく捕まって頂ければリィン様が知りたい人物の事もわかりますわ……!」

リィンの問いかけに対して静かな表情で答えたクルーガーはダガーでリィンに斬りかかり

「……ッ!そうですか……いずれ貴女と斬り合う機会が訪れる事がある事は覚悟していました……―――ならば今この場で貴女を制圧し、オズボーン宰相側の戦力を更に低下させる……!」

クルーガーの攻撃を側面に跳躍して回避したリィンは太刀を構えてクルーガーを睨んだ。

 

「ええ、リィン様は”それでいいのです”…………ですが”告死戦域”の首をそう易々と取れるとは思わない事です。ハッ!」

「セイッ!ハアッ!」

リィンの宣言に対して僅かに安堵の笑みを浮かべて呟いたクルーガーは先制攻撃に鋼糸をリィンに振るって攻撃し、クルーガーの攻撃に対してリィンは太刀を振るって防御した。

「幻夢なる蝶よ――――――」

「これは………」

クルーガーがその場で集中するとリィンの周りに黒き蝶達が現れ、それを見たリィンは驚いた後迎撃の構えをした。

「さあ、お行きなさい!!」

「――――――下がれ!!」

そしてクルーガーが黒き蝶達にリィンに襲い掛かるように指示したその時リィンは孤月一閃の強化技―――無月一刀で襲い掛かる蝶達を切り裂いてクルーガーのクラフト――――――告死蝶を無効化した。

 

「行きますわよ――――――」

「!」

リィンが蝶達を迎撃している間にクルーガーはダガーで襲い掛かり、クルーガーの奇襲をリィンは間一髪のタイミングで太刀で防御したが

「シャドウステッチ!!」

「くっ!?」

続けて放たれた鋼糸(ワイヤー)による締め付け攻撃は対処が遅れた為、ダメージを受けた。

「幻夢なる蝶の如く………」

リィンにダメージを与えたクルーガーは全身に怪しげな紫色に輝く蝶を纏って自身の姿と気配を完全に消した。

 

「……………………」

クルーガーが姿を消すとリィンはその場で目を閉じて集中し

「死線の由来とくとご覧あれ――――――」

「―――心頭滅却、我が太刀は無。見えた!」

「な……ッ!?」

気配と姿を消したクルーガーがSクラフトを発動してリィン目掛けて無数の鋼糸を投擲したその時、リィンは分け身を作ると共に神速のような凄まじい速さでその場から一瞬でいなくなり、Sクラフトを回避されたクルーガーは驚いた。

「――――うおおおおおっ!斬!!」

クルーガーのSクラフトを回避したリィンは分け身達と共に後縦横無尽にかけながらクルーガーに何度も斬撃を叩き込んだ後強烈な威力の回転斬りを放ち

「七ノ太刀・刻葉!!」

「キャアアアアアアアアアア……ッ!?ここまで……ですか………」

そしてリィンが太刀を鞘に収めた瞬間、無数の鎌鼬が発生してクルーガーを切り裂き、全身を切り裂かれたクルーガーは身にまとっていたインナースーツのあちこちが切り刻まれ、更に体のあちこちも斬られた事で血が出血していた。

 

「ふふっ……まさか……あれを躱されて反撃されるなんて、想定外でしたわ………メサイア様達の助力どころか……”鬼の力”すらも解放せずに、たった一人で私を制圧するなんて、完敗ですわ………」

「………………それで、何故こんな形で俺を狙ったのか教えてもらえませんか、シャロンさん。」

苦笑しながら自分を見上げているクルーガーを静かな表情で見つめたリィンはクルーガーに問いかけた。

「……………………リィン様もご存じと思われますが、エレボニアは日が経つごとに劣勢へと追い込まれ、黒の工房も遥か昔から練っていた”計画”が崩壊し続けています。帝国政府の判断だったとはいえ、開戦早々にクロイツェン州を手放し……クロスベルでは”道化師”が討たれ……ついには”黒の工房”の本拠地を含めた全ての施設がリィン様達によって潰されてしまいました。その為、意識不明の重体に陥っている”黒”の代わりに”地精”として動いている”銅”の苦肉の策として、私に新たなる命令が下したのですわ。”本来の真なる贄”であるリィン様を生け捕りにして”銅”の下に連れてくることを。」

「!ジョルジュ先輩が……………………―――いや、ジョルジュ先輩の”真の狙い”は俺をジョルジュ先輩の下に連れていく事ではなく、”シャロンさん自身が俺に討たれる事でアリサ達紅き翼の俺を含めた連合に対する敵愾心を植え付ける事で、今後の連合による作戦で紅き翼が何らかの形で妨害してくる事や連合に対するレジスタンス活動する事で連合の侵攻を少しでも遅らせようとすることなんでしょう?」

クルーガーの話を聞いたリィンは驚いた後真剣な表情を浮かべたがその場で少しの間考えてすぐにある事に気づき、クルーガーに自身の推測を指摘した。

「…………リィン様は何故そう思われたのですか?」

「今の俺を”闇討ち”して捕縛しようなんていう計画、ジョルジュ先輩―――いや、”黒のアルベリヒ”の右腕的存在である”銅のゲオルグ”が考えたにしてはあまりにも”ずさん”過ぎる計画だからです。俺とシャロンさんの実力の差を置いたとしても、今の俺にはメサイアに加えてシャロンさんと”道化師”を同時に相手しても”蹂躙”できる実力があるベルフェゴール達がメサイアのように常に俺の魔力と同化して共にいる事はカレル離宮の件でジョルジュ先輩も知ったはずです。―――それなのにも関わらず俺を狙えば”シャロンさんが確実に返り討ちになる事”は簡単に予想できたのに、ジョルジュ先輩達にとっての想定外(イレギュラー)の起動者であるエリスを狙う訳でもなく、俺の代わりの”真なる贄”として利用していた皇太子殿下を狙う訳でもなく、シャロンさんは俺を狙ったのですからシャロンさんの話を聞いてすぐに気づきましたよ。」

「フフ、なるほど……………………ですがその事実に気づいた所で、リィン様には”何も変えられませんわ。”」

リィンの推測を聞いて静かな笑みを浮かべたクルーガーは体を震わせながら立ち上がって戦闘の構えをした。

 

「!何故自身を犠牲にしてまで、ジョルジュ先輩―――いや、”黒の工房”に従おうとしているんですか、シャロンさん……!」

満身創痍の状態でありながらもなお、戦闘を続行しようとしているクルーガーの様子を見て驚いたリィンは信じられない表情でクルーガーに問いかけた。

「これが私の生き方であり……そしてアリサ様達に対するせめてもの”けじめ”だからです………暗殺人形として任務を遂行する生き方しかできず、その生き方すらも”中途半端”になった虚ろな娘に”思い出”や”愛”を与えたアリサ様達を裏切ったのですから、アリサ様達を裏切った愚かで虚ろな娘を最後まで務め続ける事が私に残された唯一の生き方であり、アリサ様達に対する”けじめ”ですわ……!」

「……ッ!シャロンさん……!」

(フム……まあ、主の判断は決して間違ってはいないね。)

(リィン様………)

(……………………)

(フウ……―――仕方ないわね。このやり方は私個人としてはあんまり気が進まないやり方なんだけどね。)

(?貴女はこの状況で何をしようとしているんですか……?)

クルーガーの話を聞いたリィンは唇をかみしめた後辛そうな表情を浮かべて太刀を構えなおし、二人の様子を見守っていたレジーニアは冷静な様子で呟き、メサイアとアイドスは辛そうな表情を浮かべ、溜息を吐いて呟いたベルフェゴールの念話を聞いたユリーシャは困惑の表情を浮かべた。

 

「ふふ、それでいいのですわ………―――それでは、全身全霊を持って参りますわ―――!」

そして太刀を構えなおしたリィンを見たクルーガーが安堵の表情を浮かべた後表情を引き締めてリィンに襲い掛かろうとしたその時

「はい、そこまで。」

「え――――――ち、力が……ッ!?」

ベルフェゴールが現れると同時にクルーガーの足元に魔法陣が現れた後魔法陣が妖しく光るとクルーガーの体力を奪い始め、満身創痍の状況で体力を奪われたクルーガーは再びその場で蹲った。すると魔法陣から光の鎖が現れてクルーガーを拘束した。

「ベルフェゴール!?一体何を……」

突然の出来事に驚いたリィンはベルフェゴールに真意を訊ねた。

 

「ご主人様がそこの暗殺者―――シャロンだったかしら?シャロンを殺す事にかなり”躊躇い”があったようだから、私がご主人様の為にシャロンを”殺す以外の方法”を考えてあげて、それをご主人様に実行してもらう為にシャロンの体力をじわじわと奪うと共に拘束する魔術を発動してあげたわ♪」

「!そんな方法があるのか……!?しかもその方法は俺がする必要があるようだが……一体どんな方法なんだ?」

ベルフェゴールの説明を聞いたリィンは驚いた後明るい表情を浮かべてベルフェゴールに訊ねた。

「簡単な話よ。今ここでご主人様がシャロンを徹底的に犯す事よ。」

「………………………………」

ベルフェゴールの答えを聞いたリィンは石化したかのように固まり

「え”。な、何でそれがシャロンさんの考えを改めさせる方法になるんだ……!?」

我に返ると表情を引き攣らせて声を出した後信じられない表情を浮かべてベルフェゴールに訊ねた。

 

「それは勿論”性魔術”よ。」

「”性魔術”って事は……まさか、シャロンさんを俺の”使い魔”にしろって事か……!?」

「ええ。それとご主人様が望むのだったらアリサ達の味方をするような”強制命令”を植え付けておきなさい。”性魔術”でできるのは”契約”だけでなく、”強制命令”もできるから、シャロンを”契約”でアリサ達の味方になるように縛る事も可能よ。ご主人様としても、シャロンにはアリサ達の下に戻って欲しいのでしょう?」

「それは……………………だけどそんなやり方、絶対にアリサ達は喜ばないと思うんだが……」

(ベ、ベルフェゴール様……幾ら何でもそのやり方は大問題だと思うのですが……)

(そうかい?”性魔術”による契約と強制で縛る事は、主が望んでいたあのシャロンという暗殺者を殺す以外で無力化するやり方として合理的なやり方じゃないか。)

(今の話を聞いて貴女にはそれ以外に思う事はないのですか!?)

(フフ、だけど頑なな決意をしているシャロンの考えを改めさせるにはそれくらいの”荒療治”が必要なのかもしれないわね。――――――その前に認識障害の結界を展開しておかないとね。)

ベルフェゴールに図星を指摘されたリィンが複雑そうな表情を浮かべている中、様子を見守っていたメサイアは疲れた表情で頭を抱え、冷静な様子で感想を口にしたレジーニアにユリーシャは疲れた表情で指摘し、アイドスは苦笑した後結界を展開した。

 

「そんなの、今回の戦争をアリサ達とは違うやり方で解決することを決めてアリサ達と決別したご主人様にとっては”今更”じゃないかしら?」

「……………………そうだな…………やり方は”いつも通り”でいいのか?」

ベルフェゴールに指摘されたリィンは少しの間考え込んだ後頷き、決意の表情を浮かべてベルフェゴールに訊ねた。

「ええ。それと心の中でもいいから、シャロンがアリサ達の味方をするような事を考えながらシャロンを犯せばいいわ。ちなみに結界は空気を読んだアイドスが既に展開してくれたみたいよ♪という訳で頑張ってね、ご主人様♪」

「へ………」

自分の身体に戻り際に呟いたベルフェゴールの言葉を聞いて呆けたリィンだったが、既に結界が展開されている事に気づくと冷や汗をかいた。そしてすぐに気を取り直したリィンはクルーガーに近づいた。

「……シャロンさん。今から俺が貴女にする事は貴女もそうですが、アリサにとっても決して許し難い所業です。俺の事は幾らでも恨んでもらって構いません。」

「リ、リィン様……?一体何を―――」

決意の表情を浮かべたリィンの言葉を聞いたクルーガーが困惑の表情でリィンを見上げると、リィンはクルーガーを犯し始めた。

 

その後リィンはクルーガーを”性魔術”で自身の使い魔にするとともに、ある”命令”をクルーガーに植え付けた。

 

「…………次に刃を交える時は、アリサ達と共にいる事を願っています、シャロンさん。」

クルーガーに対する性魔術で乱れた服を整えたリィンは気を失っているクルーガーを静かな表情で見つめて呟いた後、自身が身に纏っていたコートを毛布代わりにクルーガーの上にかけてその場から立ち去った。そしてリィンが立ち去って数十分後、クルーガーは目を覚ました。

「ん……これは……確かリィン様の……ぁ………私……リィン様に………」

目を覚ましたクルーガーは自分にかけられているコートがリィンが着ていたコートである事に気づくと共に、気を失う前の自分がリィンに犯された事を思い出した後、現在の自分はリィンの使い魔であり、更にある命令が植え付けられている事に気づいた。

「リィン様………………この戦争で随分と変わられたと思っていましたが…………根本的な部分はお変わりではなかったようですわね…………フフ、さすがお嬢様が心を寄せられている殿方ですわね………」

リィンが何故自分を犯し、使い魔にした事やある命令を植え付けたことは全て自分やアリサ達の為である事にすぐに気づいたクルーガーは苦笑し

「ありがとう………………ございます……………っ!」

やがて涙を流して嗚咽しながらその場でリィンが去った方向に向けて土下座をしてリィンに対する感謝の言葉を口にした。

 

「その様子だと、ご主人様が貴女を犯した”真意”にも気づいたみたいね~。」

するとその時ベルフェゴールが転位魔術でクルーガーの前に現れた。

「貴女は確かリィン様の新たな使い魔の………」

「―――ベルフェゴールよ。早速本題に入らせてもらうけど………貴女、近い内にアリサ達と合流するか、アリサ達に助太刀するような事をするつもりなのでしょう?」

「―――はい。それが”告死戦域のクルーガーとしての私の全て”を奪い、”再びシャロン・クルーガーとして生きる事”を望まれているリィン様の寛大なお心遣いでもありますので、この身体に植え付けられている”アリサ達――――Ⅶ組に協力する事”という命令通り、命を賭してでもお嬢様達をお守りする所存です。………ベルフェゴール様自身がリィン様にそうするように仕向けられたにも関わらず、わざわざその件を確認されたという事は、もしかしてお嬢様達が私の心代わりの理由を聞いた際の口裏合わせでしょうか?」

「話が速くて助かるわ。アリサ達に貴女の心変わりの理由を訊ねられた際にこう答えなさい――――――私が暗示でご主人様を操って、貴女を犯させて貴女をご主人様の使い魔にするかつ、貴女にアリサ達の味方をする強制命令を植え付けたってね。」

「……………………よろしいのでしょうか?私は元々、リィン様に犯された件は私自身の胸の奥に秘めてお嬢様達に説明するつもりは一切なかったのですが……」

ベルフェゴールの要求を聞いたクルーガーは一瞬呆けた後、困惑の表情でベルフェゴールに訊ねた。

 

「幾ら色々と”甘い”人達ばかりとはいえ、Ⅶ組(むこう)にも貴女が考えた貴女の心変わりの理由を疑う注意深い性格をした人物は何人かいるでしょう?その人達にも信じさせる為には今言った私が考えた説明なら納得させやすいでしょう?」

「それは…………………――――――ベルフェゴール様は本当にそれでよろしいのでしょうか?ベルフェゴール様の指示通りの内容をお嬢様達に伝えれば、ベルフェゴール様はお嬢様達に恨まれる事になる可能性も考えられますが……」

「別に構わないわよ。”その程度”で、アリサを含めたご主人様に恋心を抱いているⅦ組側の女の子達がご主人様に失望して、ご主人様を恋する事を止める事を防ぐことができるんだから。何せ私は純粋可憐な恋する女の子達の味方だもの♪」

「ベルフェゴール様…………――――――かしこまりました。元より私は”敗者”の身。”敗者”は”勝者”やその関係者の命令に従う事が当然の節理ですもの。」

アリサ達の恨みを買う可能性が高いと理解していても、自分がリィンの代わりに泥を被ろうとする様子のベルフェゴールを辛そうな表情で見つめたクルーガーは気を取り直してベルフェゴールに会釈をした。

「うふふ、それじゃあ頼んだわよ♪」

そしてベルフェゴールはクルーガーにウインクをして転位魔術でその場から去り

「………………………………」

ベルフェゴールが去るとクルーガー――――――シャロンはベルフェゴールが消えた場所に向けて頭を深く下げた後決意の表情を浮かべてその場から去った。

 

同日、PM11:00―――

 

士官学院やトリスタを一通り見まわったリィンは自分の部屋が現在どうなっているかを確かめる為に第三学生寮に訪れ、自分の部屋がある2階に上がると3階から物音が聞こえ、それが気になったリィンは3階に上がった。

 

~トリスタ・第三学生寮~

 

「(この部屋は……という事はもしかして部屋にいるのは……)――――――セレーネ、少しいいか?」

「お兄様?はい、鍵は開いているのでどうぞそのまま入ってきてください。」

物音がする部屋の前に来たリィンはその部屋がセレーネが使っていた部屋である事を思い出して扉をノックして声をかけると部屋からセレーネの声が聞こえ、セレーネの声を聞いたリィンは部屋に入った。

 

~セレーネの部屋~

 

「これは……もしかして、第三学生寮の部屋に置いていた私物の撤去の支度をしていたのか?」

部屋に入って周囲を見回したリィンは数個の箱にセレーネの部屋にあった私物が集められ始めている事に気づくとセレーネに訊ねた。

「はい。明日には次の作戦の為にユミルに移動との事ですから、今夜を逃せばこの部屋に置いていたわたくしの私物をわたくし自身での手で撤去する機会はもうないと思いまして………恐らく、この部屋にはもう2度と戻ってくる事はないでしょうし…………」

「セレーネ………――――――そういう事なら俺も手伝うよ。部屋の片づけには男手があった方が捗るだろう?」

寂しげな笑みを浮かべて答えたセレーネの話を聞いたリィンは複雑そうな表情を浮かべた後すぐに気を取り直して手伝いを申し出た。

「お兄様……ありがとうございます。」

リィンの申し出に目を丸くしたセレーネは微笑んだ。その後リィンはセレーネと協力してセレーネの部屋の片づけと掃除を終えた。

 

「フウ……――――――手伝って頂きありがとうございました、お兄様。わたくしの実家にある部屋に持って帰る荷物は明日、ツーヤお姉様と一緒にレヴォリューションに持っていきますから、後は大丈夫ですわ。」

「そうか…………――――――って、そういえば”セレーネの今の実家”ってどこになるんだ?セレーネは帝都(ヘイムダル)での特別実習で出会ってしばらく共に行動した後は夏至祭に招待されて帝都(ヘイムダル)を訪れていたリウイ陛下達と共にそのまま”本国”に向かった数日後にはトールズに留学してきたが……」

セレーネの話を聞いてある疑問を抱いたリィンは不思議そうな表情でセレーネに訊ねた。

「ツーヤお姉様を養子として迎えて頂いた今のツーヤお姉様の実家――――――サフィナ・L・マーシルンお義母様の実家でもある”竜騎士達の都”ぺステの公城の一室ですわ。」

「そ、そういえばルクセンベール卿はサフィナ元帥閣下の養子でもあられたな……ということはセレーネも元帥閣下の養子として迎えてもらったのか?」

セレーネの説明を聞いたリィンは冷や汗をかいて表情を引き攣らせた後セレーネに確認した。

「はい。………不思議ですわね……わたくしがこちらの世界に来てから、新しくできた実家の部屋よりも、この部屋の方が懐かしく感じますもの……」

「セレーネ………」

遠い目をして今までの出来事を思い返しているセレーネの様子をリィンは複雑そうな表情で見守っていた。

 

「元の世界ではお父様と別れることになり……こちらの世界に来てからは初めてできた友人――――――Ⅶ組を始めとしたトールズの方々とも別れることになってしまいましたわね……お兄様……お兄様とわたくしは別れるような事はありませんわよね……?」

「当り前だろう……!セレーネは俺にとってたった一人の”パートナードラゴン”であり……そして、将来を共に歩む事を決めた大切な恋人の一人なんだから、そんな事には絶対にさせない……!」

懇願するような表情を浮かべたセレーネに見つめられたリィンはセレーネを強く抱きしめた。

「お兄様……はい……っ!」

リィンの言葉と行動にセレーネは嬉しそうに微笑んだ後リィンと見つめ合った。

「お兄様……」

「セレーネ……」

そして互いに見つめ合った二人は口づけを交わした後、互いを愛し合った。

 

その後セレーネとの”行為”を終えて部屋を出たリィンは自室を訪れた。

 

同日、AM1:00―――

 

~リィンの部屋~

 

「(さてと………俺も部屋にある私物の撤去の支度をしないとな……もう、時間も遅いからメサイア達にも手伝ってもらってさっさと終わらせたいが……さすがにこの部屋に5人も呼んだら動き辛くなるから、俺の部屋をよく知るメサイアにだけ手伝ってもらうか。)――――――メサイア、部屋の片づけを手伝ってもらってもいいか?」

自分の部屋を訪れたリィンは周囲を見回して考え込んだ後メサイアの名を呼び

「――――――かしこまりましたわ。」

リィンの呼ばれたメサイアはリィンの身体から出た後リィンの頼みに頷いた。その後二人は協力して部屋の片づけと掃除を終えた。

 

同日、AM1:45――――――

 

「フウ……予想していたよりも早く支度を終える事ができたな……助かったよ、メサイア。」

「ふふ、このくらいお安い御用ですわ。それに元々リィン様は常に整理整頓を心掛けていましたから、正直私の協力はあまり必要はなかったと思いますわ。」

「それでも一人でやるのと二人でやるのとではかかる時間も全然違うさ。………それにしても、気づけばメサイアのように”使い魔契約”を結んで俺に協力してくれる人達もメサイアやセレーネも含めて7人か………ここに来たばかりの当時の俺はまさか今の状況になるなんて、夢にも思わなかっただろうな。」

「ええ……そしてそれは私もですわ。まさか並行世界とはいえ、生まれ変わったお父様やお母様とまたお会いすることができるなんて夢にも思いませんでしたもの。」

部屋を見回してかつての出来事を思い返している様子のリィンの言葉に頷いたメサイアは苦笑しながら答えた。

 

「ハハ、それを言ったら俺とメサイアの”契約”もそうだろう?………まさかあんな形で、女性と関係を持つことの初体験をした上、その女性が常に俺の身体と同化するなんて夢にも思わなかっただろうからな。」

「うっ…………え、えっと……リィン様はやはりあの時の事を後悔されているのでしょうか?リィン様としても、”初めて”はエリゼ様かエリス様で経験されたかったのかなと時々考えてしまうのですが……」

リィンの答えを聞いてかつての出来事を思い返したメサイアは唸り声を上げた後気まずそうな表情を浮かべてリィンに訊ねた。

「そんなメサイアにとってあまりにも失礼な事は一度も考えた事はない。――――――むしろメサイアには感謝しているよ。メサイアの件がエリゼとエリスの俺に対する長年の想いをぶつける発破になったお陰で、俺は二人に対して本当はどんな目で見ていたのかに気づくことになったし……それに……今考えてみるとメサイアと出会い、契約した事が”今の俺”になったんだと思うんだ。」

「?それはどういう事でしょうか?」

リィンの言葉の意味がわからないメサイアは不思議そうな表情で訊ねた。

 

「……ロイド達との交流の際にメサイアも聞いただろう?並行世界のキーア―――”零の至宝”による”因果改変”前の本来の歴史のゼムリア大陸での”巨イナル黄昏”の結末は俺とクロウ、ミリアムが犠牲になる可能性が高かったという話を。」

「あ………はい。ですがその件と”私との出会いが今のリィン様になった”という話とどう関係しているのでしょうか?」

静かな表情で答えたリィンの話を聞いたメサイアは呆けた後複雑そうな表情で頷いて続きを促した。

「………今でもみんなからは恋愛方面に関しては”鈍感”と言われ続けている俺でも、幾ら何でも女性が一番大切にしている操まで捧げられたら、その捧げられた女性の俺に対する”想い”にも気づくし、そこまでしてくれた女性に対する責任感だって当然芽生えるさ。」

「それって要するに自ら操まで捧げてくれた女性達に対する責任を取る事や想いに応える事、そしてリィン様ご自身が犠牲になるような事をして、その女性達を悲しませない事をさせない為に、『皆の為に自分が犠牲になればいい』という考えを改めた今のリィン様という事でしょうか?」

「……簡単に言えばそういう解釈になるだろうな。」

自分の話を聞いてある解釈をしたメサイアに対してリィンは気まずそうな表情で肯定し

(フム……確かに今日の戦でも主は仲間や配下達の犠牲を防ぐ為に主自ら”人間”の身でありながらたった一人で”飛天魔”であるベアトリースに挑むという自己犠牲な部分を見せてはいたが、ベアトリースに敗北した場合でも最悪主が殺されることはない対策もしていたな。)

(あぁ……っ!この身達の存在のお陰で、我が主の御心を良き方向へと導くきっかけとなった事は我が主の”守護天使”として本望です……!)

(うふふ、古来より男を変えるのはいつでも”女”だって言われているものね♪)

(まあ、ベルフェゴールの言っている事は決して間違ってはいないわね……)

二人の会話を聞いていたレジーニアは考え込み、ユリーシャは目を輝かして感動し、からかいの表情で呟いたベルフェゴールの念話を聞いたアイドスは苦笑していた。

 

「……クスクス……私達――――――”女性と関係を持った事で考えが変わる”だなんて、お父様が言いそうな言葉ですわね。」

「う”っ……い、言われてみれば……」

リィンの言葉に一瞬呆けたメサイアはおかしそうに笑いながら答え、メサイアの答えを聞いたリィンは唸り声を上げて冷や汗をかいて表情を引き攣らせながらヴァイスを思い浮かべた。

「―――ですが、私との契約が切っ掛けでリィン様がご自身をもっと大切にする考えを抱くことになったことはよかったですわ。」

「え、えっと……やっぱりメサイアから見ても、俺ってそんなに自分を大切にしていなかったのか……?」

「特別実習や内戦の頃のリィン様を近くで見ていたアリサさん達もそうですが、当時一体どんな無茶をやらかしたのかは存じていませんが黒獅子の学級(ルーヴェン・クラッセ)時代のリィン様を知るステラさん達も今のリィン様の言葉を聞けば皆さん、口を揃えてこう仰るでしょうね。――――――”何を今更”と。」

自分の言葉を聞いて気まずそうな表情で訊ねてきたリィンに対してメサイアがジト目になって答えるとリィンは冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。

 

「リィン様。以前はともかく、今のリィン様の周りには私やベルフェゴール様達を含めた”背中を預ける事ができる頼れる仲間”もいるのですから、もっと私達を頼ってください。私達はリィン様を支える為に”契約”している訳ですし、セレーネさんやエリゼさん、エリスさんにアルフィンさん、そしてアルティナさんや灰獅子隊の方々も間違いなく私達と同じ思い――――――リィン様を支えたいという思いを抱いていらっしゃいますわ。」

「メサイア……ああ……っ!」

そしてメサイアはリィンを優しく抱きしめ、抱きしめられたリィンは呆けた後力強く答えた。するとその時メサイアを愛しいと感じたリィンはメサイアに対して性的興奮をし始めた。

「あら……?もう……リィン様ったら、今夜だけで既に3人も相手をした上その度に何度も出したのに、まだ出し足りないのですか……?」

リィンの性的興奮に気づいたメサイアは苦笑しながらリィンを見つめた。

「す、すまない……」

「ふふ、謝罪は不要ですわ。――――――そういう事でしたら、今夜の最後の相手は私が務めさせて頂きますわね、リィン様……」

その後リィンは第三学生寮で過ごす最後の夜をメサイアと共に過ごした。

 

翌朝――――――

 

翌朝、目覚めてメサイアを自分の身体に戻したリィンは部屋に纏めた荷物を出す為に扉を開けると目の前に洗濯されて綺麗に畳まれたコートが扉の前に置かれている事に気づいた。

「これは昨日気を失っているシャロンさんに毛布代わりにかけていた…………ん?」

扉の前に置かれているコートが昨日シャロンに”性魔術”をかけた後気を失ったシャロンに毛布代わりにかけた自分のコートである事に気づいた後畳まれているコートの上にある一枚の手紙に気づき、手紙を取って内容を読み始めた。

 

 

私の”全て”を奪い、”新たなる私としてシャロンに戻らせた事”に心より感謝致します、リィン様。

 

”黄昏”の件が解決した際、アリサお嬢様やⅦ組の皆様共々互いに無事である事を心よりお祈り申し上げますわ。

 

シャロン

 

追伸

 

それと私の”全て”を奪った”責任”を取って頂く為にも、いつか必ずお嬢様と共に私を貰って頂きますわね、ご主人様♪

 

 

「ハハ…………早速いつもの調子に戻ったようでよかったですよ、シャロンさん。この様子なら次に会う時はアリサ達と一緒だろうな……」

手紙――――――シャロンの自分に対して書いた短い内容の手紙を読んで苦笑したリィンはシャロンがアリサ達の元に戻る事を確信し、安堵の表情を浮かべた――――――

 

 

 

 

という訳で、今回の話でシャロンがⅦ組側に復帰することが確定しました。なお、シルフェニアにシャロンの話も含めて3話更新していますので、興味がある方はそちらもどうぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 


 
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