第四話 バーベナ学園
ユーノ達がトランスポーターに乗った頃……
~地球 光陽町 とある一軒家~
「り…ん、おき…ださい」
耳朶を打つやさしい声、それがゆっくりと稟の意識を浮上させる
「稟くん、起きてください」
まぶたを開けるといつもと変わらぬ幼馴染の姿があった
「ん…、おはよう楓」
「はい、おはようございます、稟くん」
そうやって稟は声の主……楓に声をかけると楓はやさしくほほ笑みを浮かべてあいさつを返す。
まるで新婚夫婦のようなやり取りであるが本人たちに自覚はない(稟は自覚はあるのだがあまり深く考えないようにしている)。
余談だが楓は毎日このやり取り(正確には稟の寝顔を見ての元気の補充)をできないと落ち込んでしまうため稟はたとえ楓が起こしに来る前に目が覚めた場合はもう一度寝なおすことにしている
「朝ご飯できちゃってるんで着替えたら降りてきてくださいね」
「あぁ、わかった」
ちなみに芙蓉家では家事全般は楓の仕事だ。幼いころ母親を亡くしてだれかがやらなければならなかった、というのが大きな理由である。
稟は家事や家での仕事を一切やっていない、楓がやらせてくれないのだ、もし無理やりやった日には楓に泣かれるためやろうにもできない。
『稟くんに尽くすのが私の生きがいですから』
そう言って楓は稟に周りから見たら異常なほど尽くしている。理由は二人の過去に関係しているのだがここでは割愛させていただく
「今日の朝ご飯は稟くんの大好物のなめこ汁にしてるので早く下りてきてくださいね」
「なめこ汁か…楓のはうまいからな。よし急いで降りることにしますか」
そういって稟は着替えだした
~芙蓉家リビング~
稟が降りていくとリビングには先客がいた
???「やぁ稟君起きたかい」
「おはようございます。伯父さん」
「あぁ、おはよう稟君」
彼は楓の父親の芙蓉幹夫、この家の大黒柱だ。稟にとっては両親の親友であり育ての親でもある。
出張などで普段あまり家にいないが今日は二人の入学式に参加するため休みを取っている。
稟の両親は10年ほど前に他界。以後、稟はここ芙蓉家で暮らしている。
「稟くん、朝ご飯できてますから。食べちゃってください」
キッチンの方からそんな楓の声が聞こえてくる。まだ朝食をとっていない父親のことについては全くと言っていいほどふれないのは娘としてどうなのだろうか?とか思われるのだが
楓のなかでの優先順位は
稟>>>桜>>>>本当に親しい友人や先輩・幹夫>超えられない壁>>>>>友人>>>その他大勢
というふうになっているため楓は疑問にも思わないのだが
「ははは…なんというか、すいません伯父さん…」
「まぁ楓のこれはたぶん一生治らんだろう。稟君、バーベナでも楓のことよろしく頼むよ」
「えぇ。楓のことは任せてください。楓は俺にとって大切な人ですから」
「ははは、楓も幸せ者だなぁ。稟君にそんなに思われて。だけど桜ちゃんも忘れちゃいけないよ。
彼女も私に取ってみれば娘みたいなものだからね」
「はい分かってます。桜も俺にとって大切な人ですから」
「じゃご飯にするとしようか。あまりゆっくりしていると君たちが遅刻してしまう」
「そうですね。楓もまってますし」
そういうやりとりのあと朝食をとる。ちゃんと幹夫の朝食も用意されていたことをここに明記しておく。
……朝食から三十分後
稟は準備をすませて家の前にでていた。稟の荷物は楓が準備したので完璧である(ヲイ!)。楓は一回着てみただけだったため制服を着るのに少し手間取っている。
「それじゃあ、行ってきますね」
「あぁ、いってらっしゃい。きをつけてな」
「準備できたか?」
そうして稟が待っていると玄関の方から声が聞こえてきた。どうやら楓の準備ができたようなので、振り向きながら稟は楓に声をかける。
「すみません。着替えに手間取っちゃいました。」
「……」
「あの、稟くん…その…」
楓が頬を染めながら何だかもじもじして何か言っているのだが稟の耳には届いていない。ぶっちゃけると稟は楓の制服姿に見惚れていたのだ。
「ど、どうか…しましたか?稟くん…」
「い、いや、その…」
はっと我に返ると楓の顔が近くにあったので、稟は言い淀むと
「な、なんでもない。行くか」
「あ…は、はい」
とりあえずごまかして歩き出した、楓は少し残念そうにしていたが稟がそれに気が付く事はなかった。
少し歩いて…
「稟くん、楓ちゃん!」
「おはようございます、桜ちゃん」
「おはよう、楓ちゃん、稟くん」
「……」
桜が待っていた。が、なぜか稟から挨拶がないのを桜は不思議に思って聞いてみる
「どうかした、稟くん?」
「な、なんでもない。おはよう、桜」
「うん、おはよ。じゃ行こっか」
「そうですね。行きましょう、稟くん、桜ちゃん」
稟が動揺しているのを少しだけ怪訝に思ったが気にせずに歩きだした。
稟はというと
(流石に、楓のときも、桜のときも見惚れてた、なんて言えないよなぁ)
なんてことを思っていたのだった。
~国立バーベナ学園~
「それにしても三人一緒のクラスになれてよかったよね」
「はい、これでいつも稟くんと一緒にいられます」
どうやら三人とも同じクラスになったらしいのだが、やっぱり重要なとこはそこなんですね楓さん
「まぁ、まわりがしらないやつばかりだと気を使うからな」
「1-Bはここだな。」
そう言ってるうちの稟たちの教室の前に着いたのだが稟はなんだか不穏な空気を感じ取る、が、楓と桜はもうドアを開けようとしていた
???「楓ちゃん、桜ちゃん、俺様の胸にようこそ!」
「「きゃああっ!!!」」
その変態の奇行は
「お前は…」
変態「…稟…」
間に滑り込むように入った稟によって止められていた。が…
???「ちょっと~、可愛い女の子がいるのにBLはないんじゃない?」
稟・変態「!!!」
稟と変態はいま自分達が、事情を知らないまわりの人々からどんなふうにみえるのかを理解していなかったらしい。
変態「そういえば同じクラスだったんだっけ、麻弓」
少女-麻弓-は変態の質問には答えずに稟の方に視線を向ける
「に、してもこれが例の土見くんなわけね。いやー、これまた随分と美形さんなことで」
そして今度は楓と桜のほうを向くとじろじろと二人を眺めた後
「んでもってこっちが芙蓉楓と八重桜、と。いゃー二人ともなかなかお目にかかれない美少女よね…。うん、そんな二人にバーべナ初の友人としてこの言葉を送るのですよ~。……美人薄命!!」
ずびしと楓たちの方を指さす麻弓に向かって
「せめて意味を調べてから言えっ!!!!」
稟は全力で突っ込んだのだった。
そのやり取りもひと段落したところでお互いに自己紹介をしていく
変態はまず麻弓?の方を見て
変態「まぁとりあえず自己紹介しておくよ」
変態「『麻弓=タイム』おつむはさっきみてのとおり、身体的特徴はまごうことなき天然洗濯板」
「ふふーん、この希少価値こそがわたしの存在意義なのですよ」
(((そ、それが存在意義なのか(なんでしょうか)(なの)?)))
そう思っても言わないやさしさってあるよね?
変態「それでもって、俺様は緑葉樹、生きとし生ける女性の味方だよ。
以後お見知りおきを、楓ちゃん、桜ちゃん」
「自分でそう名乗っちゃうと怪しいことこの上ないのですよ」
麻弓がボソッといっていたが聞こえていたのか三人は苦笑いを浮かべるのだが当の本人は涼しい顔をしていたので聞こえていなかったのかと思ったがそんなわけはない。まだこのときは緑葉樹という男のことを知らなすぎたのだ
「そういえば、土見くんて緑葉くんと知り合いだったの?」
「ああ、それは…「さてと稟ちょっと付き合わないかい」…っていきなりなn」
麻弓がふと思ったことを口にする。稟は答えようとするのだが樹にさえぎられ廊下に連行された。ちなみに樹にはその手の趣味はない。
「「稟くん!?」」
「大丈夫、緑葉くん男は襲わないから。ねぇねぇ、ところで二人とも知ってる?」
「え?なんのこと?タイムさん」
「すいませんタイムさん、わたしにも何のことだか」
ちなみに先が桜、後が楓である。
「麻弓でいいわよ。そのかわり、わたしも二人のことは名前で呼ばせてもらうけど。この学校に時空管理局から留学生がくる、って言う話は知ってる?」
麻弓はまぁ当然かというような顔をしてから質問をふる
「はい、知ってますけど」
「うん知ってるよ。この前、稟くんが話してた。たしかこの世界と時空管理局の親交を深めるためとかいう名目だったと思うんだけど」
「そうそれ、実はねその留学生達が一年生らしくてで、所属するクラスは1-Bらしいのですよ」
とんでも発言をさりげなくしてくるのだが当の本人たちは気が付かない
「えーっと、それってこのクラスですよね?」
「本当なの、麻弓ちゃん?」
「本当なのですよ~」
「そういえば留学生の中には戦艦の艦長と同等かそれ以上の権限をもった人いるかもしれないですし」
楓のその言葉に桜と麻弓はもちろん周りでそば耳を立てていたものも一瞬フリーズした
「それ変なことしたら、外交問題に発展するよね?」
「その危険性大なのですよ。ねぇ、楓そういえばそんな情報どこで仕入れたの?わたしでもしらなかったのに」
麻弓はゴシップ好きな少女である、ゆえにその情報網には自信を持っておりどこでそんな情報をてにいれたのかとても気になったのである
「昨日、稟くんが言ってたんです、提督クラスのひとがいるかもしれないって」
「なんで土見くんはそんなことを知ってたのかしら?」
そのとき担任が入ってきた
「この話はここまでにしよう」
「そうね~」
という桜の提案に麻弓は同意したが楓は
「わたしは稟くんを探してきますね」
「じゃ私も行くよ」
そういって探しに行こうとした。が…
「どうやら帰ってきたみたいよ」
麻弓が指差した方向を見てみると帰ってきていたので二人とも席に着いた
時間は五分ほどさかのぼり樹が稟を拉致ったところから
「一つだけ確認したい。お前あの時のか?一年くらい前だったか、光陽駅で柄の悪そうな連中ともめてたよな。確かにその時加勢したけど…名乗った覚えはないぞ」
「俺様の記憶力を甘く見ないでほしいね。あのとき最後に心配して現れた楓ちゃんと桜ちゃんが最後にいってたろ稟くん、って」
「まぁ、俺様としても普通だったら自分から男に友情を与えたりしないんだけどね、会ったこともない女の悪口に腹を立てて自らを火中に飛び込ませるようなお人好しは特例だね」
樹はそういうと思い出したかのように付け加えて
「悪口を言われていた女ってのがあの麻弓=タイムのことだからあのことは他言無用で」
「!…あぁ、わかった緑葉」
「樹でかまわないよ稟」
美男子二人が笑いあっている光景、それはとても絵になる(女子が変な妄想をするくらいには)
「ああわかったよ樹。それとさおまえにとって麻弓は大事な人なんだな」
「なんだい稟?いきなり変なことを言うね。あれとはただの腐れ縁だよ」
樹は稟の言葉に何変なことを言ってるんだというふうに返す
「まぁ気付いてないならいいさ、それはおまえが気付くべきことだからな。ただ一つだけ言っておく。楓や桜に変なことしてみろ、許さないからな」
「やだなぁ、稟、俺様がそんなことするはずないじゃないか」
樹は稟の迫力に冷や汗を流しながら返すのだが実行した後なので説得力はまるでなかったのをここに明記しておく
???「おいそこの新入生二人親交を深めるのはかまわんが後にしてもらおうか、早く教室に入れ」
と妙にスタイルのいい教師らしき女性が話し掛けてきた
「紅薔薇撫子、世界史担当にして、俺たちの担任だよ。バーベナ1の美女にしてバーベナ1の武術の達人、手を出すなら断固歪まない信念と治療費が必要だね」
稟はどこから調べてくるのかしらないがその情報にあきれ返っていた。
「おい、お前たち聞こえなかったのか」
そんな二人に痺れを切らしたのかそんなことばをかけてきたので教室に帰ることにする。樹がばかな言葉を返していたようだが気にしない方向でいこうと稟は決めてその場を後にした。
この後には彼らの学園生活の始まりを告げる入学式が始まる。
そこでおこる再会を稟はまだ知らない。
ユーノもしらない。
だけどきっとそれは大切なこと。
二つの物語が交わりはじめる。
それぞれの思いを乗せて。
いま始まる・・・・。
あとがき
SHUFFLE!&リリカルストーリー 4 をお送りしました。いかがだったでしょうか?
今回は入学式前の稟たちと樹&麻弓との出会い編でした。樹は名前が出た後も表記を『変態』でいくか迷ったんですが、とりあえずまわりと一緒の扱いにしました。変態の表記がいい人は言ってくださればもとに戻しますので言ってくださいね(笑)。
では次回でお会いしましょう
Tweet |
|
|
12
|
1
|
追加するフォルダを選択
第四話です。今回はSHFFLE!陣営入学式直前までの話になります。
こんかいはあの変態とゴシップ少女の初登場です。