No.1032635

ゾイドワイルドZERO NEARLY EQUAL 亀甲部隊前へ(後)

またしてもなゾイゼロ二次創作の後編です。

ノイエントランスという地名は「新しいエントランス」の意味です。
湾ではないですが。

2020-06-14 20:37:01 投稿 / 全12ページ    総閲覧数:668   閲覧ユーザー数:668

新地球歴二九年 一一月六日 一九二三時

ノイエントランス

 

 グラキオサウルスの出現から一日が経ち、さらに夜が訪れる。

 周囲の河をガブリゲーターとグラキオサウルスに制圧され、砲撃を深く浴びるようになった中州。そこでは住民の避難は地下へ、部隊の配備は分散へ移行せざるを得なかった。

 いまや市庁舎の地下駐車場が住民のシェルターとなり、警備につくスレッシュ達の歩兵部隊もパーティションで区切られた一角を休憩所としている。

 そして今この時間は、隊長のスレッシュ自身が休息を取っていた。車止めのブロックに腰掛け、ライフルを肩に掛けた彼はただただ沈黙している。

「不景気な面をしてやがるな?」

 重い空気に似つかわしくない声が響いた。

「キリング曹長……」

 咎めるような口調で応じたスレッシュは、パーティションに入ってきたキリングの姿に息を呑んだ。

 キリングは血の滲んだ包帯を頭に巻き、片目も覆った姿だった。その一方でビール缶を両手に提げ、

「まあいいニュースがあるから聞けよ少尉」

「キリング曹長、その怪我は……」

「ゾイドライダーは接近戦すればこんなもんだよ。テレンスやホイラー隊は違うのかい? まあその辺はまた今度話すとして……」

 ビール缶の一方をスレッシュに差し出し、キリングは普段通りの気楽な身振りで車止めに腰掛ける。

 地下駐車場の空気の中には、キリングの様子も、ビール缶の無闇にさわやかなパッケージも似つかわしくない。スレッシュがそれを見据えていると、キリングは促すように缶を振った。そして渋々と受け取るスレッシュへ、

「本隊との定時連絡によればバルバロスの後続と拠点が撃破された。さらにノイエントランスの周囲で包囲も完成しつつある。

 敵はこれ以上増えねえ。奴らは今ある物資だけで打ち止めだ」

「……その今ある分に苦戦させられてるんじゃないか」

 中州の周囲を自由に移動するグラキオサウルスによって、守備隊は身を隠すしかなくなった。その状態で引き続き上陸を果たそうとする敵を監視し、場合によっては撃退しなければならない。

「一方的に見張られ、砲撃されている。もはやジリ貧なのは目に見えているだろう」

「ピンチはチャンスさ、少尉」

 重く沈んだスレッシュとは対照的に、キリングは軽い音を立てて缶のタブを開くと一息に呷る。さらに無遠慮なゲップを漏らすと、

「後続と補給を断たれたバルバロスにできるのは逃走か、この中州にいる人間を人質に取ることだ。

 が、奴らはこの中州を攻めきれず、守備隊も潜伏状態を維持できている。

 ラプトール級のゾイドでの切り込みも上手くいかないことは奴らも学んだだろう。となれば奴らは砲撃力に加え接近戦でも強力なグラキオサウルスを中州に上陸させて戦うしかない。

 中州の街中での接近戦なら俺達の側にも勝機があるってもんだ」

「簡単に言うが……グラキオサウルス級は通常運用されるゾイドとしては最大級のXL級だぞ。俺達の戦力でそれを撃破できるか――」

「情報によれば」

 スレッシュの反駁を遮って、キリングは手帳を取り出した。何かが走り書きでメモされた紙面に視線を走らせ、

「あのグラキオサウルスは五年前に共和国が沿岸パトロール用に運用していた個体だ。うちのボス達が記録と照合した。

 ハルナンバーRNS-931、艦名〈キャスタウェイ〉。傍受された通信によればパトロール中の駆動系異常で航行を停止し救援を待っていたはずが行方不明になっている。おそらく動けなくなったところをバルバロスに拿捕されたんだな。

 どーだ、奴はおっかねえ怪物じゃなくて単なるパトロールゾイドに武装をツギハギしただけで、しかも爆弾を抱えてるような奴だぜ。まだ手も足も出ないと思うか?」

 すらすらと述べ、キリングは首を傾げてみせる。そのうっすらとした笑みに、スレッシュは返す言葉が無かった。

 丁度手元にあるビールを自棄気味に呷り、スレッシュは据わった目でキリングを見る。

「……なぜ曹長はそう明るい? こんな状況で……。

 戦うことが好きなのか?」

 限りなく恨み言に近いような問いに、キリングは鼻で笑う。

「俺だって戦うのは面倒さ。けど、そうやってシリアスぶってぶつくさしてたらそれこそジリ貧ってもんだ。

 不景気な顔をすればするほど上手くいくようになるってんなら、少尉以上に見事な仏頂面をお目に掛けようってもんだけど」

 そう言ってキリングはスレッシュと競うように缶を傾ける。

「イライラくさくさとしてみせるってのはね、人に気を遣わせようっていう図々しさの表われなんだよ。

 その最たるものがバルバロスさ。軍隊に耐えられなくて飛び出して、明日の無い生活を略奪によって続けてみせている。

 そんな風になっちゃあいけねえ。そんな風にはな」

 そう告げると、キリングはバキバキと缶を握りつぶす。中身は一息に呑みきったようだ。

「少尉はバルバロスと自分達の違いがわかるか?」

「それは……国家の軍か、脱走した集団かでは……」

「俺が言いたいのはその結果どう変わったかだなあ」

 酔いが回ったか、キリングは目つきをとろんとさせながら流し目でパーティションの外を親指で指した。

「答えはすぐ隣にあるんだぜ。ちょっと見てこようか?」

 そう言ってキリングは立ち上がり、パーティションの出入り口へ向かった。

 この状況、さらに酔っ払いのすることだ。半ば捨て鉢な気分になりながら、スレッシュはキリングの後に続く。

 市庁舎地下駐車場の中でも、歩兵部隊用の休憩スペース以外はなるべく区切りを設けず、シェルターとして圧迫感を感じないよう配慮されていた。睡眠や着替え用のスペースは守備部隊が装備していたテントを供出してまかなっている。

 そして今時分は夕食の配給時間だ。歩兵部隊だけでは人手が足りないために、休憩に入ったゾイドライダーや、ノイエントランスの警察構成員が配給係を務めている。

 そしてその中には、キリングの部下であるトランパの姿もあった。

「今日はカレーですよー。どう作っても美味しいいつものレトルトカレ~」

 妙なリズムで口ずさみながら、トランパは夕食配給の呼びかけをしている。怖々と並ぶ市民達の中から、幼い子供達がトランパに問いかける。

「姉ちゃんも軍人さんなの?」

「そうですよー。守備隊の人達と同じゾイド乗り」

「いつまで隠れてなくちゃいけないの……?」

「次で最後ですよ~」

 レトルトパックを次々と手渡していきながら、トランパは器用に子供達に応じていく。その一方で、パックを受け取った親達は子供の手を引いて足早に駐車場に敷かれたシートへと戻っていった。

 バルバロスを撃退できなかった守備隊、ひいては帝国軍への信用は大きく落ちているのだろう。スレッシュもそう認識している。

 一方でキリングは耳をほじりながら行列を眺め、

「わかるかキリング少尉、俺達とバルバロスの違いはこれだ。

 奴らは自分達のために軍を抜け出して食うや食わずの道を選んだ。俺達は国の財産を守ることでおまんまを戴いてる。

 俺達には依って立つものがある。給料分の価値は天下の皇帝陛下が認めてくだすってるんだ。クヨクヨメソメソしたら不敬ってもんだぜ。堂々としなきゃ」

「それは……傲慢では」

「不真面目ぶっこけって言ってるんじゃねーの。仕事をちゃんとしてる分、余計な気負いなんかしないでいいってことよ」

 市民を見渡し、陰鬱な空気を押し出そうとするかのような語り口は、確かに自然体なキリングの背景を表しているようだった。

「隙間産業でも、身勝手でもねえ、誰かが絶対やらなきゃならない仕事をしてるんだぜ。それを気持ちの問題なんかでグダグダにしてちゃもったいねえ。

 しかももうすぐ頼れる仲間が助けに来てくれるってもんだ。どうだすごいだろう」

 なぜか自慢げなキリングに、スレッシュは観念したようにため息をついた。つまりはこういう開き直りじみた考えこそがキリングの明るさの秘訣なのだろう。

「つーわけだから役目のある身らしく仕事をしようぜ。帝国臣民の笑顔を守るってお仕事をよ」

 そう言ってキリングは配給を続けるトランパ達の方へと向かっていく。スレッシュもその背を追って足を踏み出した。

 エウロパの疲労は、これまでの人生でピークだと思っていた箇所を超えて久しかった。

 グラキオサウルスからの砲撃による被害規模をまとめ、敵の攻撃を避けた部隊配置と避難、そして中州守備のローテーションを構築し終え、実際に稼働し始めた現態勢の初動を確認したところで今回の休憩だ。

 体を支えるのに脚二本では足りないという風情で、よろめきながらエウロパは市庁舎駐車場へと足を踏み入れる。すると、市民達を収容しているスペースからは賑やかな喧噪が響いてきていた。

「そこで首都に迫られたヘリック共和国がどうしたかというと、なんと長い長いトンネルを掘り抜いて軍も市民も全員脱出したんだ。

 帝国軍が突入した時首都には人っ子一人いなかったんだぜ」

「私達の街はそうしなくてよかったのー?」

「守備隊が持ちこたえてくれたからな。

 だからもうすぐ帝国軍が敵を背後から攻撃する。そうすればこの戦いも最後だ」

 配給したカレーを食べる市民達の中で、キリングやスレッシュ達が語らっている。その面白おかしい語り口に笑い声が重なっていた。

 もちろんその輪に加わっていない者もいる。だが地下駐車場の空気は決して重く沈んだものではなくなっていた。

「この状況で、こんな空気を……」

「守備隊が中州を守り切っていたからこそですよ」

 思わず足を止めたエウロパに声を掛けるのは、外から入ってきたキリングの部下、クラップだった。

「これが敵と入り乱れての市街戦だったり、市民に被害者が出ていたらこうはならなかった。あなた方はノイエントランス守備隊の責務を果たしているわけです」

「それは……私達はノイエントランスの中州の外を守ることはできなかったし、バルバロスがこの街を狙ったのも、私達が弱兵だと見做されたからだろうし……」

「その辺はバルバロスの領分ですよ。気にしなくてもいいんじゃないですかね。うちの隊長ならそう言いますよ。

 あなた方はあなた方の仕事をしている。上手くいっているところを誇るべきです。だからこれ以上気を張るのではなくて、楽しめるところは楽しんではいかがですか?」

 そう言ってクラップは耐Bスーツの手袋部に付いた機械油をタオルで拭う。

「ああそうそう、テレンス隊と一緒にやっていたパキケドスの応急修理は完了です。脚を破損した機体は素早く動き回ることは出来ませんが、敵が上陸を仕掛けてきた時に待ち伏せすることはできますよ。

 さて、自分もご飯をいただきましょうかね……」

 軽く告げて、クラップは駐車場の中へと足を進めていく。そして入ってくる姿に気づいたスレッシュが、エウロパの存在も見つけた。

「――あちらに見えるのが守備隊隊長のエウロパ少尉だ。俺とは同期なんだよ。この街生まれだしね。

 ようやく休憩が取れるみたいだな……。エウロパ、こっちに来いよ」

 手招きするスレッシュは肩の荷を降ろしたような表情だ。そしてその周囲の市民達の力ある視線にもエウロパは気づく。

 クラップが言うとおり、これが自分達が守れたものなのだろうか。若干涙ぐみつつも、エウロパは自身も歩を進めた。

「ご迷惑をおかけしています、守備隊長のエウロパです。

 次で……次でこの事件は終わりにします。だからあと少しだけ辛抱して下さい」

「覚悟は出来とるよ隊長さん。それが終わったら私達の出番だ。復興という戦いがあるからね。

 復興のし甲斐がある派手な戦いを見せてくれ」

 呼吸器を付けた第一世代の老人がそう声を掛けてくる。人垣は開き、エウロパを迎え入れた。

 キリングとトランパがカレーを用意し、スレッシュが迎え入れる場所へ、涙を拭ってエウロパは進んでいく。

新地球歴二九年 一一月八日 二一三七時

ノイエントランス

 

 その夜、ノイエントランスは燃えていた。

 都市外縁から野火が迫るような火勢は、バルバロスを遠巻きに包囲した帝国軍の攻撃によるものだ。

 中州に圧力を加えていたバルバロスは逃げ場無く包囲され外から磨り潰されていく。遠慮無い砲撃はノイエントランスの市民が皆中州に避難できているからだろう。

 バルバロスの総旗艦たるグラキオサウルスは外周からの攻撃に背を向け、再び河の中へ。この状況を打破するには市民達を人質として包囲に穴を開け脱出するしかない。それは彼らも分かっていた。

 これまでの守備隊の抵抗は激しく、さらに帝国軍がバルバロス本拠との補給線を遮断したことでゾイドも武装もだいぶ損耗している。最低限の数を帝国軍の突入への時間稼ぎとして残し、グラキオサウルスはラプトールやラプトリアを引き連れて中州に向かった。

 先行したガブリゲーターへの迎撃は無い。守備隊も疲弊しているのだろう。ついに上陸を果たしたグラキオサウルスは廃墟と化し背が低くなった町並みを睥睨し、そしてライダーがラプトール部隊に周辺の制圧を命じる。

 守備隊は確実に身を潜めている、程なく戦いとなるだろう。バルバロス達はそう思っていたが、

「…………?」

 反撃の銃声は響かない。遠い市街外縁からの砲声だけが響いてくる。バルバロスの本隊は沈黙と闇が堆積した中州へ踏み込んでいくしかなかった。

 砲撃で倒壊しているが、廃墟の間には道路の痕跡が見て取れる。特に幅のある街道を進めば、時計台を失った市庁舎が見えてきた。

 敵はここを司令部にしていると推測していたが……?

 グラキオサウルスに乗るバルバロスの首領が思案したその瞬間、背後で爆発音が響いた。隊列後方を警戒していたラプトールが射撃を受けて吹き飛んだのだ。

 進行の前にクリアリングは行われていたはずだ。なのに何故。バルバロス達が戸惑う中、新たな攻撃が周囲から襲いかかってくる。

「一発撃ったら即移動を徹底しろっ!」

 バルバロス達を闇の中に見て、スレッシュ達は慌ただしく行動していた。今し方対ゾイドロケットランチャーを発砲したのはスレッシュ隊をさらに細かく分割した内の一班だ。使い捨てのランチャーは放り捨て、彼らは一目散に駆ける。

 路上に展開していた彼らだが、そこはバルバロス達も警戒した場所だ。突然姿を現したことになるスレッシュ達が戻っていくのは、その周囲にある廃墟であった。

 瓦礫の積み重なりに擬装した出入り口にスレッシュ達は潜り込んでいく。建物の多くが潰れて広がったのをいいことに、その中にトンネル状の通路を設けたのだ。完全にではないが、今中州上には見えない移動経路が設けられている。

 街頭も全損した中州上ではバルバロスはスレッシュ達を捉えられない。このアイディアが生まれたからこそ、エウロパ達守備隊は帝国軍に外周からの攻撃を夜に行うよう要請したのだ。

「一番センターよりカントク、敵の位置情報を確保。九番ピッチャーへの転送と攻撃を求む」

『カントク了解。九番ピッチャー、フライで打ち取りなさい』

『アイ、アイ』

 スレッシュの通信を受けるのは司令部を移したエウロパ。さらにガノンタス部隊の応答も聞こえる。

 正体の掴めぬ攻撃を受け、バルバロスは密集陣形を組んでいる。そこにガノンタスの砲撃が降り注げば決着は一瞬だ。

 だが必殺を期した砲撃と同時に、グラキオサウルスが吠える。その叫びに押されるようにラプトール達は四方に散った。

「脱走兵でも知恵はあるか……。

 敵は散開した! スレッシュ隊各員は慎重かつ確実に攻撃を行え! 少しでも無理だと思ったら六番七番に任せるか八番キャッチャーの前に引きずり出すんだ!」

 瓦礫の山から瓦礫の山へ走りつつ、スレッシュは部下達に指示する。背後ではただ一機ガノンタスの攻撃地点に残ったグラキオサウルスが、爆風に包まれながら吠え猛っていた。

 

 散開を指示されたバルバロスのラプトール乗り達は、直後に降り注いだ砲撃の出所を探し求めた。河を挟んで睨み合っていた時期からの仇敵だ。

 市庁舎や港湾部で働いていた人々の住宅地や彼ら向けの商店があったエリアへとラプトール部隊は突入していく。このエリアも建造物は大部分が倒壊しているが、

『いらっしゃいませってなぁ!』

 ラプトールの一体が、物陰から振り抜かれたアンキロックスの尾でひしゃげて飛ぶ。他の機体がフォローに入ろうとするが、地を這う姿勢ながらに軽快なアンキロックスはすぐに世闇の中へと消えていった。

 さらに周囲のラプトールが集合を掛けようとすると、彼らのいる道めがけ一体のパキケドスがバンプヘッドを構えて突進を仕掛けてきた。

『これまで散々やってくれたわねっと!』

 ワイルドブラストで打突部を突き出し、パキケドスはラプトールをまとめて押しのけていった。瓦礫に突っ込み身動きが取れなくなる数体に、さらに歩兵部隊から対ゾイド火器の射撃が浴びせられる。

 中州上を舞台としたゲリラ戦。自分達同様疲弊しきっているはずだと守備隊を見ていたバルバロスにとっては理解の範疇外となる対応だった。

 彼らが士気を取り戻した理由は何か――。バルバロス達には理解できまい。そしてそのまま、彼らを攻撃が襲う。

『一斉に掛かれ!』

 女の声と共に、ラプトール達が見渡せる三つの主要街道上にパキケドスがまた現われる。その突進の威力を知ったバルバロス達は思わず身を翻した。

 その先にもまた別のパキケドスがいる。だが闇に目をこらせば、その機体だけは脚部に鉄骨を連結して補修しているのが暗闇でも明らかだ。

 こいつならば倒せる。水槽に亀裂が入ったかのように、バルバロスのライダー達は破損したパキケドスの方へと突き進んだ。

『うっは……キリング曹長達の言うとおりですね。全部こっち狙ってきてやんの……』

 ライダーのぼやき声を残して、補修されたパキケドスは重たげに身を翻した。ラプトール達の殺到の直前にその姿は路地に消え、街道の先には赤いバイザーの光と砲門が三つ。

『俺達が"八番キャッチャー"だぜ。取り逃すなよ。キリング隊、アタック!』

『サイン通りの展開だし大丈夫ですよ』

『キャッチャーフライまでならなんとかなるでしょうしね』

 すでにマシンブラストの火力を構えた三機のバズートルは、ライダー達の呑気さとは裏腹な剣呑さをたたえていた。そしてその威力はラプトール達へと向けられる。

 急停止から反転しようとしたラプトール達を、砲弾は突き抜けていった。轟音が響き、止む頃には市街に立つ姿は無い。

『厄介な連中は片付いたかなあ?』

『ラプトールしかいませんでしたよお?』

 擬装を兼ねた掩体壕から歩み出るバズートル達。だが彼らの問いに鋭い答えが返った。

『一番センターより各ポジション! 敵主力……グラキオサウルス及びラプトリア型は市庁舎前にて再集結中。各員前進してこれを迎撃されたし!』

 スレッシュの声が回線に響く。その声を受けて、エウロパが命令を下した。

『総員市庁舎前へ攻撃開始!

 私達の力でこの戦いの幕を引くわよ!

 ノイエントランス守備隊! サリーフォース!』

 その声に、守備隊の全てのゾイド達が市庁舎へと前進を始める。キリング達もそれに続く中、砲撃の爆煙が晴れてグラキオサウルスの巨体がまた現われた。

 重たげな咆哮も再び。そしてのその周囲には砲撃を切り抜けたラプトリアの小隊。バルバロスの中でも精鋭であることは明らかだ。

 だが守備隊の足取りは緩まない。行進の足音がノイエントランスの中州に響き渡る。

 殺到する守備隊に対し、バルバロスからはラプトリアが前に出る。その一方でグラキオサウルスは世闇の中で沈黙する市庁舎へと身を翻す。

「市庁舎を狙うつもりか……!」

 スレッシュが理解するのと、グラキオサウルスの巨体が市庁舎を踏みしだくのは同時だった。

 バルバロスの首領は怒りに震えていた。

 様々な理由から軍を抜け、しかし生きる場所が無いことに気付いたのが自分達だ。その身勝手さは自分達が一番理解しているが、しかしなんら疑問も抱かずにいる者達への妬ましさも消えない。

 俺達が生きられない世界をなぜありがたがっているのだ。元かある社会の形に寄りかかっているだけのくせに。そんな首領の思いはバルバロスの中で緩やかに共有されているものだ。

 自分達が落伍した世界の象徴たる公権力の末端、市庁舎を踏みつぶすことは首領にとっては痛快だった。それが敵が指揮を執っている場所だからという戦術的意義とは別の意味でも。

 だが、そもそも先の戦いで時計塔も破壊したこの建物を、敵がそのまま利用しているとは考えにくい。ふと我に返った首領は、グラキオサウルスが視線を向ける先に気付いた。街道に面した駐車場の入り口が一つ、世闇の中にもぽっかりと口を開けている。

 おおそうか、おあつらえ向きな場所があったか。首領は納得する。そして光差す場所を歩いてきた連中が今やそんな暗がりに身を潜めていることがやはり痛快だ。

 首領はレバーを押し込みグラキオサウルスのワイルドブラストを起動する。長大な首そのものをハンマーとする一撃ならば、民生用の地下構造など容易く破壊できるだろう。市民に多少被害が出ようがしったことか。か弱い市民は一人でも帝国の足取りを鈍らせられよう。

 守備隊の攻撃は激しくなり一刻も早くラプトリアの壁を突破しようと焦っているように見える。だが無駄だ。もう遅い。

 暗い愉悦を覚えながら首領は破壊力を振り下ろさせる。

 轟音と土煙が上がると共に、グラキオサウルスの巨体は一段地面に沈み込んだ。地下駐車場の天井が粉砕され、周囲まで陥没したのだ。

 司令部要員と避難民がいれば悲惨な状況になっているだろう。砲撃の光に照らされる中で、グラキオサウルスが身を揺すって土煙を吹き散らす。

 地下駐車場だった空間は瓦礫に埋もれている、それは当然だ。

 だが、そこに人がいた形跡は無かった。瓦礫の下から漏れる血も、うめき声も、人がいたならば使われていたはずの照明類の残りも。悲惨な現場独特の張り詰めた空気が無い。首領は眉をひそめた。

『あなた方が冷静ならわかることでしょうが』

 市庁舎につけられた外部スピーカーが、突然女の声を放った。それは首領が知り得ることはないが、エウロパの声だ。張りを取り戻した、力強い声。

『冷静な人間は守るべき対象に敵を近づけたり、自分達の砲撃を向けたりはしません。

 当たり前ですよね?』

 挑発的な物言い。そして直後、市庁舎から数棟離れた位置から一台の高機動車が駆け出す。

 走りながら後部ドアを閉めるその姿に首領は理解した。ここに残っているのはあの高機動車に乗るごく少数の司令部要員だけだと。

 では避難民達はどこへ? 首領の疑問に、グラキオサウルスは首を敵の彼方の方向へと巡らせる。

 決戦に向かうにあたり、守備隊は一つの方針を決めていた。

 帝国軍本隊が攻め込んできて勝負は確定するのだから、自分達はバルバロスが狙う避難民達を彼らから遠ざけ、そして大いにおちょくって時間を稼ごうという方針だ。

 キリング達の言葉に半ば勇気づけられ、半ばそそのかされての発案だったが、バルバロスへの反撃ということもあり守備隊の士気は回復したものだった。

 無論、限られた中州の面積上で避難民を移動させても時間がかかればバルバロスの手が届く恐れはある。故に守備隊は避難民脱出の手筈を整えていた。

『市庁舎側の陽動作戦がはじまりました! 堤防側も脱出作戦を始めて下さい!』

『了解! アルブ隊各機、堤防への攻撃はじめ!』

 中州の最も上流側。バルバロスへの砲撃を行っていたガノンタス部隊の配置よりも更に奥。そこは河口側とは違い増水などに備えるべく船の舳先のような堤防を設けられた造りになっている。

 すでに接近戦に移りつつある現状で、曲射砲装備のガノンタス部隊はもはや出番が無い。故に彼らが市民の脱出作戦の主役だ。後退した彼らの周囲には、中州に放置されていたバス類が避難民を満載し、そしてライトも車内灯も消して息を潜めている。

 ガノンタス部隊はワイルドブラストの砲身を堤防へと向け、最大限に俯角を取り発砲。堤防を街の外側へと吹き飛ばす。そして即座にワイルドブラストを解除し、

『全架橋、全バージ展開開始!』

 堤防を破壊して出来た水面への道に、ガノンタスが建材から作られたボードを置く。口にくわえて引きずられるそれは周囲の廃墟からあつらえたものだ。

 さらに道が出来ると、港湾部で用いられていたトレーラーに、やはり港湾部の備品である艀や浮き桟橋を満載したものがまず先行させられる。下り坂に落としてやればトレーラーは河に没し、連結された艀だけが水面に残る。

 これにバスを乗せ、ガノンタスで牽引していけば脱出は成る。だが今までそうできなかった理由が、河の中を接近してきていた。

『バルバロス・ガブリゲーターの接近を検知! 迎撃用意!』

 堤防の破壊しない位置にあらかじめ設置してあったセンサーは敵のガブリゲーターを見逃さなかった。ガノンタス達はもはやワイルドブラストでは俯角を取り切れないため、より小型の搭載火器を河へ向ける。

 スロープも作ってしまった今、ガブリゲーターはガノンタスに接近戦を仕掛けられるだろう。これまではこうなることが予測できたから脱出は図れなかった。

 今は違う。

『指名打者の皆さん、お願いします!』

『わざわざ名指しともなれば発奮せざるを得まい』

 河上に回り込んでくるバルバロスのガブリゲーター達。しかし同時に、彼らの背後で水中から旗が掲げられる。

『全機ワイルドブラスト。避難の道をつけろ!』

 水中に潜んでいるつもりのバルバロスへ、背後から襲いかかるのは帝国軍のガブリゲーターだ。輸送筒を牽引してきたのと同じ部隊でもある。

『同じゾイドに乗るよしみで楽にしてやろう』

 通信に乗る静かな声とは裏腹に、帝国軍のガブリゲーターは獰猛な叫びを上げながらバルバロスに襲いかかる。

 流れにうねる水面をさらに掻き乱し、水中の格闘戦は繰り広げられる。そして波間に金属の軋む音が響き、再び浮上するのは帝国の軍旗だ。

『避難を開始してくれ』

 食い千切った敵の武装をガブリゲーターに吐き捨てさせながら、部隊長はガノンタス隊を促す。ガノンタス隊も振り向くと、避難民のバスがライトを点灯した。

『こちらアルブ、ガノンタス隊は市民と共に脱出します』

 艀へのバスの固定が始まる中、ガノンタス部隊は中州に残る仲間達へと通信を送る。

 彼らの戦いはここまでだ。

 そして残る者達の決着もまた始まる。

『皆さんの健闘を祈ります』

『こちらエウロパ。アルブ隊の活躍に感謝します。日が昇る頃にまた会いましょう!』

 高機動車のスキール音混じりの通信に、ガノンタス部隊はバスに続いて中州を後にした。

 後に残るのは戦う者達だけ。ノイエントランスの中州は今、純粋なバトルフィールドとなる。

 部下が運転する高機動車で港湾部に逃げ込んだエウロパは、ガノンタス隊からの脱出の報告を受けてひとまず胸をなで下ろした。だが同時に、自分達の心配をしなければならない。

 脱出用船舶としてモーターボートが用意してあるが、高機動車から無線機を運ぶ必要がある。そしてエウロパ達の役目として陽動を果たした結果、グラキオサウルスが追随してきていた。

 足音が轟く中、エウロパ直属の部下が二人がかりで簡易無線機を運ぶ。そしてエウロパはそれから伸びるマイクを手にグラキオサウルスの方を伺いながらモーターボートに向かっていた。

 重量物を部下に任す程度のふてぶてしさはキリング達から学んだと言えるだろう。

「各員に告ぐ、アルブ隊が避難民と共に脱出したわ。上流方向に向かう手筈なのでグラキオサウルスの砲撃だけが懸念なのは打ち合わせの通り。

 河口側にある軍港で奴らを足止めするわよ。そして敵を撃破することが作戦の最終段階。

 各員存分に戦果を上げるように」

『スレッシュ隊了解』

『テレンス隊了解』

『ホイラー隊了解』

『こちらキリング。了解した』

 ゾイド同士の接近戦は続行中だが、各部隊の返事は早い。グラキオザウルスの足音越しにゾイドがぶつかり合う重低音も聞こえてくる。

 そして戦闘の音を背景にしたグラキオサウルスは、都市外縁から流れる爆煙を背に軍港を見渡す。炎を浴びて赤く染まった煙に、首の長いシルエットが浮かび上がっていた。

「デコイを使うわ。全車起動」

 無線機の登録チャンネルを指定し、エウロパは次々と送話ボタンを押していく。そのコマンドに応答して、工作を加えた港湾部の民生車両達がエンジンをイグニションしていった。

 周囲から響くエンジン音にグラキオサウルスは戸惑うように視線を振る。さらに総攻撃の勢いを増した守備隊が響かせる戦闘の音が、港湾部の混迷を強めた。

「スレッシュ、後はよろし……」

 モーターボートへ近づくエウロパ。だがその瞬間、グラキオサウルスが吠えた。

「!?」

 無差別な砲撃が港湾の各所へ振りまかれていく。

 その威力に、エウロパは平衡感覚を失った。

「エウロパ!? どうした、エウロパぁ――!」

 エウロパからの通信を受けていたスレッシュは、軍港で上がった爆煙と通信越しの爆音とに思わず声を上げた。

 眼前では市庁舎の残骸を盾にラプトリア達が最後の抵抗を見せている。残り機体は減っているが、

「テレンス、ホイラー! 敵を突破して港湾部に向かえるか!? エウロパが危ない!」

『だが敵がしぶといぜ』

『パキケドスなら突破できるかもしれないけど……!』

 脚もストライドも長いパキケドスの方がアンキロックスよりフットワークは軽い。ラプトリアの相手をするにも有利だが、戦場を移動するにも適している。現状からどちらにパキケドスを用いるか。

『テレンス隊を向かわせなよ。俺達もいるんだぜ』

 そこで通信に割り込んでくるのは、追いついてきたキリング達だ。すでにマシンブラスト状態で、クラップ機が一度足を止めて射撃すれば敵の一体がパキケドスの前から吹き飛ぶ。

「……よし。テレンス隊は我々と共にグラキオサウルスを追撃。ホイラー、キリング曹長、ラプトリアの殲滅を頼む」

 スレッシュの判断に従い、歩兵部隊は乱闘を大回りに回避し港湾へ。パキケドスを用いるテレンス隊は乱闘を振り切って走り出す。

 背後では打撃と砲撃の音。前方からは巨体が地ならす響き。押しては寄せる音波の中をスレッシュ達は駆けた。

「エウロパ! 無事なら返事をしろ、エウロパ!」

『――……。……スレッシュ……――』

 無線機にかすかな声が乗る。スレッシュにはそれだけで充分だ。

「今行くぞエウロパ。俺達皆で生きて帰ろう。そうだろう?」

『……――。そうね――……』

 ノイズ混じりの通信。だがエウロパの声に混じる波の音をスレッシュは聞き逃さない。

「一番から三番は港湾接岸部まで前進! エウロパ達司令部要員を捜索する。

 残りはテレンス隊と連携しグラキオサウルスを仕留めろ! 特に四番サード! 四番の名前に恥じるようなことをするなよ!」

『お任せくだせえ少尉! 我が隊のライフルにグラキオの撃破マークを刻んでやりますぜ』

 対ゾイドライフルを装備した班が夜闇に拳を振り上げる。彼らに手を振り返し、スレッシュは星明かりに照らされた海の方角へ。

 そしてテレンスらパキケドス隊と残りの歩兵部隊はグラキオサウルスへと向かう。鮮魚用の冷凍庫棟をひしゃげさせながら身を翻す巨体へ。

『……とはいえ、やっこさんをどう仕留めます? グラキオサウルスは大型だがウスノロじゃない』

『それでも大柄だから死角はあるわ。「ゾイドは斜め後方が弱点」ってね。

 私達がそこから仕掛けて動きを止める!』

 パキケドス隊を率いるテレンスが告げ、部下と共に機体を暗闇の中に駆けさせていく。そして脚を補修した一機だけが遅れて追随し、搭載火器でグラキオサウルスに砲撃を開始した。

『こっちを向け……!』

 砲撃を浴びたグラキオサウルスは海の方角から振り返った。そして倍する火力で反撃され、パキケドスは這々の体で退避。

 だがすかさず、港湾を回り込んだテレンスと部下が攻撃を仕掛ける。左右後方から、残るパキケドスが突撃した。

 死角からの一撃。グラキオサウルスは右に傾いだ。そしてその動作から首だけで振り返り、背後に現われた二体に吠え掛かる。

『こっちはワイルドブラストしてるってのに全然効いてないじゃないのよっ……!』

 バンプヘッドの打撃を打ち付けるテレンス。だがグラキオサウルスは傾斜もすぐに立て直し、パキケドスを尾でなぎ払う。

 グラキオサウルスは巨大だ。その一撃はワイルドブラストしたパキケドスすら吹き飛ばす。テレンス機も部下も倉庫の外壁に叩きつけられるばかりだ。

『フィジカルが高すぎる……。もっとパンチのある攻撃が必要ね』

『けどもうこっちはワイルドブラストしているんですよ! これ以上の攻撃なんて……』

 体勢を立て直す二体に、グラキオサウルスはまた火器を向けようとする。

 だが砲声と共に起きた爆発は、グラキオサウルスの装甲を焦がすものだった。

『最後までお助けするぜってな……』

 戦場に追いついてきたのは、擦過の傷を装甲シェルに多数負ったバズートル。響く声はキリングだ。

『最新の調査情報によればそのグラキオサウルスが以前故障したのは……右後脚。

 修理は不完全なはずだ。重点的に狙ってやれ!』

 告げながら、キリングはバズートルのメインウェポンたるバズーカ砲を撃ち続ける。その着弾が右前脚装甲に集中し、グラキオサウルスは確かに後脚を庇うように身を回した。

『効いている!? よおし私達も!』

 再び立ち上がった二機のパキケドスはグラキオサウルスの周囲を旋回し始める。常に一方が死角に入り込むような旋回に、グラキオサウルスはそれを追って身を回すしかない。

 苛立たしげに声を上げ、また尾を振りかざすグラキオサウルス。その尾に狙われたパキケドスは跳躍で躱し、もう一方が隙を突いて巨体に突撃する。狙いはもちろん、右後脚。

 バンプヘッドが装甲を叩く響き。そしてそれに混じって、関節のモーターキャップが立てる甲高い異音も周囲に散った。

 誤魔化すようなグラキオサウルスの唸り。そして後脚での蹴りでパキケドスが顎を打ち上げられる。倒れ伏すパキケドスだが、グラキオサウルスからもギアやシリンダーが噛む金属音が上がり、高みから見下ろす顔が歯噛みする。

『苦しんでる……。早く終わらせましょう!』

『ま、殴って黙らせるしか無いけどなっと』

 グラキオサウルスを間近に見るテレンスの言葉に、キリングは応じながら再び発砲。テレンスの部下を踏みつぶそうとするグラキオサウルスの注意を着弾によって引き戻す。

『動きが遅くなればウィークポイントも狙いやすいってもんだ』

 主砲の連射に加え、対空レーザーとミサイルの一斉射がグラキオサウルスを追撃した。バズートルのマシンブラスト最大火力モードであるアヴァランチファイアだ。

 爆風の中に沈んでいくグラキオサウルス。その隙にテレンス達のパキケドスは距離を取り、

『この攻撃なら……?』

 後ずさったパキケドスの上からテレンスは期待の声を漏らす。

 だが爆煙の中から翼のように広がるものがある。先端側に衝角が付いた一対のブームは、広がりきると再び閉じ、そして歯を食いしばったグラキオサウルスの頭部がハンマーに覆われて煙の中から姿を現した。

『ワイルドブラスト……』

 再度攻撃力を得たグラキオサウルスにテレンスが呟く。そして呆然としたその視線の先で、グラキオサウルスは首を振りかぶり、

『テレンス軍曹!』

 横様のグランドハンマーに対し、キリングの射撃が炸裂する。だが多少速度が落ちただけで、一撃はテレンスとパキケドスをなぎ払った。

 一度ひしゃげた倉庫を今度は完全に倒壊させ、テレンスのパキケドスは転がる。部下の機体がそれに駆け寄り、

『テレンス隊長……!』

『テレンスを連れていけ! 奴のワイルドブラストを引き出した時点で充分だ!』

 キリングの叫びに、テレンスの部下は朦朧とするテレンスのパキケドスを庇って離脱していく。それを追って吠えたけるグラキオサウルスに、咎めるような砲撃がまた一つ。

『もうネタ切れだろ。お互い全部出し切った上での勝負と行こうぜデカブツ……』

 廃墟の中から前進し、キリングのバズートルはけたたましく吠える。そしてその叫びを受けてグラキオサウルスもハンマーの陰から視線を走らせた。

『総身に知恵は回りかねってな。端々から削ってやるぜ……!』

 駆け出すグラキオサウルスに、キリングは挑発を飛ばす。そして砲撃が続行され、グラキオサウルスの端々で弾けた。

 爆煙はグラキオサウルスを包み続ける。そして疾走がその煙を装甲のエッジで曳かせ、バズートルの至近距離へ。後脚の破損を無視した力尽くの走りだ。

 連続射撃でミサイルを消耗したバズートルはグラキオサウルスを止められはしない。だが後脚を狙うために射撃を集中させた右前脚装甲を砕くことは容易かった。

 駆動装置まで砲弾が貫通し破壊する金切りの音が轟く。蹴躓いたグラキオサウルスは砂煙を巻き上げて停止し、キリングは雄叫びを上げた。

『このまま蜂の巣にしてやるってんだよ!』

 砲撃は続行。右半身の駆動力を失い動きを止めたグラキオサウルスは釣瓶打ちだ。キリングは一気呵成に攻めるが、

『さすがに調子が良すぎたか……!?』

 アヴァランチファイアの火力は残り少ない。さらにバズートル自身が苦しげに息を吐き、激しくブローバックしていた砲身が停止した。折りたたみ機構も、装甲シェルも、自動で戻り始める。

『時間切れかあっ……!』

 本能を解き放つワイルドブラストは人間で言えば全力疾走のようなものだ。長く続けることは出来ない。

 残る火器は対空レーザーのみ。巨体に相応しい重装甲を纏ったグラキオサウルスには雨粒程度の威力だ。だがバズートルは咆声をかすらせながら連射を続ける。

『野郎……こっちへ来いよ。ゾイド同士だぜ、噛み合いひっかき合いは望むところだろう。来いよ! ヘイ!』

 覚悟を決めたかキリングも挑みかかる。だがそれに対しグラキオサウルスはまるで口の端を吊り上げるように首を傾げ、搭載した火砲をバズートルへと向けた。

 バズートルは決して敏捷なゾイドではない。砲撃を回避することはできない。だが最新型の装甲シェルは整備不良の火砲の、それも榴弾程度には撃ち抜かれなかった。

 ただ被弾の轟音を立て、身震いするだけ。しかし踏みとどまるバズートルに、グラキオサウルスは半身を引きずって近づいていく。

 ハンマーボーンで強化された長い首を振り上げ、グラキオサウルスはバズートルを打ち据えた。鐘を鳴らすような音を上げ、バズートルは地表にめり込む。

 だが原形を保っている。唸り声を上げ、睨め上げている。

『やっぱ強いなあ……でかいゾイドは……』

 キリングは途切れがちな息と共に呟いた。バズートルも、一撃で対空レーザーがへし折れた今はうめき声を上げるばかりだ。

 しかしバズートルは首を傾げた。グラキオサウルスがそうしたように、口の端を吊り上げるように。

『けどやっぱり迂闊だぜ……!』

 含み笑いのこもった声を聞くのはグラキオサウルスのライダーではない。通信に乗った声が届くのは、グラキオサウルスが背後に置いた港湾の瓦礫の中。

 そこにいるのは、対ゾイドロケットランチャーを構えた誰かだった。

 時間は若干遡る。

 パキケドスを操るテレンス達の突入と合わせて軍港に進んだスレッシュら歩兵部隊は散開し、エウロパ達司令部要員を捜索していた。

「エウロパーっ! エウロパっ! 返事をしろ!」

「少尉、この轟音じゃ声は届きません!」

 スレッシュ自ら率いる一番センター班は一直線に海岸まで進出していた。港湾施設が倒壊して口を開けた闇と、星明かりを反射する海。轟く戦闘の音を除けば、まるで何も無い宇宙空間のような景色だ。

 その中でスレッシュ達は装備を抱え、エウロパ達の姿を追い求める。そして船舶が全て引き上げられた湾上に一つだけ浮かぶモーターボートを見つけ、

「いたぞっ! 人数を確認しろ!」

 半ば瓦礫に埋もれながら倒れる数名。その姿を見つけ、スレッシュは部下達に告げながら駆け寄った。

 スレッシュが助け起こす一名は、当然のようにエウロパだった。眠るように目を閉じた顔にスレッシュは一瞬息を呑むが、抱え起こした手に体温を感じるとすぐさま我に返り、

「起きろエウロパ」

「あばばばばば」

 無遠慮に頬を叩けば、エウロパはすぐさま目覚めた。周りで部下達が助け起こす司令部要員も同じだ。

「スレッシュ……? 戦況は?」

「ホイラー隊がラプトリアを排除中。残るはグラキオサウルスだ! だが……」

 スレッシュはインカムを押さえる。テレンス隊が苦戦する声が聞こえるのだ。だがキリングからの通信も聞こえ、

「厳しい相手だが勝機はある! 俺達で立ち向かおう、エウロパ!」

「そう……そうね。私達全員の敵だもの……」

 乱れた髪を掻き上げ、エウロパはスレッシュに応じた。背負ったロケットランチャーを示すスレッシュに向ける表情は、夢と野心があった士官学校時代と同じだ。

 だがその時、遠く響く戦闘の喧噪とは別に聞こえるものがあった。ゾイドの接近には耳ざといスレッシュ達には聞き慣れた音だ。

「……接近警戒――!」

 誰かが叫んだ瞬間、明らかに質量のある影が海岸沿いに滑り込んだ。スレッシュが即座に向けたマグライトに浮かび上がるのは、ラプトリアの顔貌だ。

「退避――!」

 エウロパを支え走り出すスレッシュ。同じ体力訓練を受けていたとは思えないような細さに内心驚きつつ、彼はエウロパと共に突っ走った。

 だが所詮人の脚。ラプトリアを振り切れるはずも無い。しかし顔を上げたエウロパが声を上げた。

「みんなが……!」

 周囲に展開したスレッシュの部下達、その班がラプトリアの出現に即応している。前方の闇の中から飛来する対ゾイドミサイルのブースター光は、スレッシュとエウロパを出迎えるかのようだ。

「ヘイヘイ少尉っ! 一番は走るのが仕事っすよ! ホームベースはあっちっ!」

 瓦礫を盾に次弾を用意する部下から声を掛けられ、スレッシュは敬礼を飛ばしながら脇を駆け抜けた。エウロパの足取りも確かさを取り戻していく。

「グラキオサウルス……やっぱり強いの?」

「強いさ……。テレンス達がキリングと一緒でも苦戦している。……あっ、テレンス隊が下がる!」

「キリング曹長が一人だけ……?」

 エウロパの疑問に応じるのは、遠く響く砲撃の応酬。格闘戦の金属音が響かぬそれはパキケドスのものではないことは明らかだ。

「……外様に決着を任せるのは癪ね……」

「同感」

「スレッシュあんた、なんか昔の調子なんじゃない?」

「お前こそ」

 互いに小突きつつ、スレッシュとエウロパはラプトリアへの集中砲火を背に港湾の瓦礫を駆け上がった。その先にはグラキオサウルスの巨体と、マシンブラストの時間切れで対空レーザーを乱射するバズートル。

「癪とか言ってられないんじゃないか……?」

「ゲスト死なせちゃ流石に不味いかしらね。スレッシュ、そのランチャーの準備してよ、早く!」

「簡単に言うぜ指揮官さんは……!」

 ランチャーの照準器、トリガー、安全装置とセッティングを急ぐスレッシュはぼやく。そうしながら、腰に吊していた塊をエウロパに差し出した。

「これは?」

「予備の弾だよ。先込め式だから俺がぶっ放したら細い方からランチャーに放り込め。

 いくぞっ……!」

 グラキオサウルスがワイルドブラストしバズートルを打ち据える中、スレッシュはランチャーを敵に向けた。エウロパもすぐさまその支えに回る。

「後方の安全確認!」

「死ねぇぇぇぇぇっ!」

 地表に半ば埋まったバズートルを前に、グラキオサウルスは振り向こうとしていた。そして脚部装甲が破損した右半身が露わなその姿に、スレッシュは照準を合わせる。

 ロケット弾の発射は一瞬。まるで炭酸飲料の蓋を開けたかのような音と共に、初撃は敵に飛ぶ。

 轟音は着弾のものだ。そして爆煙がまき散らす光の中で、スレッシュはランチャーを振りかぶる。

「次弾装填!」

「効いてないの!?」

「用心に越したことは無いってことさ」

 油断無く視線を飛ばすスレッシュに、エウロパは頷く。そしてランチャーの先端からロケット砲弾を装填し、

「次弾、装填……!」

「次で決まるさ……」

 被弾したグラキオサウルスは左脚をたわませ、倒れ伏しそうな巨体を留めていた。その駆動音が遠く響く中、スレッシュは再びランチャーの照準器越しにグラキオサウルスを捉える。

「死ねっつってんだよ……!」

 第二射。それは完全に巨体を支える力を失ったグラキオサウルスの右半身に突き刺さり、踏ん張る左半身の限界を超えさせる。

 巨大な金属の巨体が倒れるには長い時間がかかる。瓦礫を砕きながら傾斜していく姿を、スレッシュとエウロパは見つめるばかりだ。

 砂煙と共に轟音が上がり、眼前にはグラキオサウルスの操縦席キャノピーが見える。遠い咆声の中、スレッシュはスリングベルトで提げていたアサルトライフルを構える。

 しかしエウロパの手はその銃身を下げさせた。

「……裁くのは私達の仕事じゃないと思うよ」

「…………。

 各員に告ぐ、グラキオサウルスの搭乗員を確保せよ。恐らくそいつがバルバロスの首魁だ。

 手空きの班は?」

『港湾班は全員行けますぜえ!』

 通信に乗る声は、部下達の歓声を含んでいる。

 振り返れば、港湾部からは煙が上がりラプトリアが倒れ伏している。それを囲うスレッシュ隊の中から数人がグラキオサウルスの包囲に駆けてきていた。

『やりましたかスレッシュ少尉! キリング曹長は!?』

 部下と共に一時退避していたテレンスの声が響く。その指摘に、スレッシュとエウロパは瓦礫の陰から立ち上がり戦場を見渡した。

「キリング曹長……!」

 グラキオサウルスの先で地表にめり込んだカーキ色の装甲シェル。煙まで上げているその姿に、キリングは駆け出す。

「キリング曹長! 大丈夫か!?

 おい……死ぬな!」

 スレッシュが駆け寄った先で、バズートルは荒い息を吐いている。そして煙が漏れているのは装甲シェルの中、操縦席がある場所からだ。

「キリング曹長! 一人でさんざんけしかけておいて去るつもりか!

 俺達は勝ったぞ! 何か言ってみろ! おい……!」

 閉塞された装甲シェルの端に手を掛け、スレッシュはこじ開けようと四肢を踏ん張った。それは戦闘の中でどんな武器を構えた時よりも強い力を込めてのことだ。

「いつまでも先輩でだけいるつもりか! ずるいぞっ……!」

 キリングという男が手の届かない存在になってしまうのではないか。その予感にスレッシュは腕に力を込める。

 そしてそれに応じるように、バズートルの装甲シェルは突然開いた。内部にわだかまっていた煙を塊のように空に放ち、

「……人に向けてヒロインみたいな扱いをするんじゃないよ。色男なら手前の女がいるでしょうが」

 白煙を振り払い、操縦席に倒れ伏していたキリングが顔を出す。包帯から溢れ、片目からも漏れる血は明確だが、首の具合を試しながら立ち上がる。

「……面白がると上手くいくだろ。どうよ、俺の見識」

「曹長の言うとおりだったよ。だからこれからもそれを誰かに伝えてくれ……!」

「めぇんどくせえなあ……」

 キリングは笑い、そして立ち上がった直後にカクンと膝を折った。騎乗型のバズートルの操縦席から転げ落ち、嫌な方向に曲がる首に思わずスレッシュは狼狽える。

「曹長! クリフハンガーはやめろ! こんなところで死んでも誰も喜ばないぞ!」

「スレッシュ! あんまり動かしちゃダメだって! 首はまずいって首は!」

 所々で上がる煙が見える中、スレッシュはキリングの体を抱え上げる。そしてエウロパの誘導で、集結しつつあるスレッシュ隊の中にキリングは運び込まれていった。

 燃えさかるノイエントランス外周からはいまだ、帝国軍の足止めを断念したバルバロスのラプトールが中州に逃走してきている。だがそれを追い立てる帝国軍の高速部隊も彼らを捉えていた。

『やあやあ我こそは帝国の騎士アルベルト・ララーシュタイン! 帝国に牙を剥いた落伍兵共覚悟するがいい!』

 ラプトールに食らいついた紫のファングタイガーから甲高い男の声が響いてくる。そしてその声が勝ち鬨に変わる頃、ノイエントランスの夜は明けていった。

新地球歴二九年一一月一二日 一二〇〇時

ノイエントランス

 

『帝国国営放送がお昼のニュースをお伝えします』

 薙ぎ払われた街に、ラジオから男性アナウンサーの声が響く。

『ノイエントランスへのバルバロス襲撃事件から一週間近くが経ちました。捕縛されたバルバロス構成員への裁判と同時に、ノイエントランス市の復興計画が立案されています。

 すでに現地では帝国軍が戦闘の瓦礫の撤去を開始しつつあり、その活動に市民も参加し――』

 バルバロスの構成員達は首領から構成員に至るまで裁かれる。まだまだ人手は必要な世界だ、極刑になるものはそうはいないだろう。

 彼らが使ったゾイドの内特に目立つグラキオサウルスは、密かに事件を注視していた共和国に引き渡される。それ以外のものに関しては事件を解決した帝国軍の役得だが。

 そしてそこから先のラジオは、瓦礫を押しのけるクレーンとドーザブレードが立てる音に掻き消された。

 路肩に置かれたラジオを脇に見る作業用ゾイドは、破損したバズートルに応急処置を施したものだ。歪んだ装甲シェルを取り払った機体は操縦席も剥き出しで、

「いいのかい? 勝手に撤去しちゃあ、瓦礫に紛れて価値があるものがあったって文句言われたらどうにもならないぜ」

 巻いた包帯が増えたキリングが操縦席から問う。それに答えるのはチェックリストを手にしたエウロパで、

「この辺の住民の許可はもらってるし資産の回収は終わってまぁす! さっさと真っ平らにして下さいね曹長!」

「アイアイマム……」

 観念したようにドーザーブレードを前にして進むバズートルに、クラップとトランパの機体が続く。ドーザーから溢れた瓦礫を湧きに避ける役目である。

「隊長とバズートルのリハビリに実務が重ねられて良かったですねえ。給料泥棒とか言われなくて済むし?」

「この辺確か我々のミサイル攻撃が着弾した辺りですし、立つ鳥跡を濁さずって奴ですね……」

「外野は呑気だぜ……」

 バズートルの操縦席で項垂れるキリングに、部下が乗るバズートル達は笑うように身を揺する。そして大きな瓦礫をくわえて集積場へと進んでいった。

 不発弾も残る市街地の整地は軍の領分。だがそれが終わった場所には、すぐさま民間の工事業者や市民自らの手が入り、早速建物の基礎が作られ始めている。

「どの街もまだ若い世界じゃないか。やり直せるなら、前より立派な街を作ろう」

 第一世代の老人がマスク越しに笑い、細かい瓦礫を猫車で運んでいくのをキリング達も見た。

 決して誰もが前向きなわけではない。だが誰もが後ろ向きなわけでもない。それだけで充分な成果だった。

 その成果を上げた者達はこの場にもいる。キリングのバズートルの前後で安全確保をし、他のゾイドにも重機機構を取り付けて作業をするのは守備隊の面々だ。

 驚くべき事実として、このノイエントランス襲撃事件での守備隊と市民の死者はゼロ。バルバロス襲来を予見して脱出した市民もいるが、守備隊の活躍は証明されたと言っても過言ではない。

 そして戦いと結果、キリング達との出会いは彼らを変えた。

「戦いはまだ終わってないぞ。この作業が早く終われば終わるほどノイエントランスの復興は早く始まるんだ!」

「わかってますよ少尉! しかし、バルバロスが攻めてくるのを待ってた頃より今の方が忙しいですな!」

「なに、いつもと違って壊すだけではないのはモチベーションが違うってもんです!」

 バズートルの背後で取り逃された瓦礫を拾うのを指揮するスレッシュに、部下達が意気軒昂に応じる。そしてスレッシュはキリングのバズートルに歩み寄り、

「仕事は楽しいな、曹長」

「現金になったもんだぜ、少尉殿よお」

 呼びかけるスレッシュに、キリングは皮肉を返す。そんなスレッシュの隣にエウロパも並び、

「俺達は、援軍で来てくれたのが曹長達で良かったと思っているよ」

「そいつは良かった。

 だが少尉殿。俺達だってはじめからこうだったわけじゃないぜ。

 『こう』な先達がいたからこそ、『こう』なれたわけだ。そして少尉殿らに伝えることもできた。

 次は……わかるな?」

 指さすキリングに、スレッシュとエウロパは互いの顔を見合わせる。そしてうなずき合い、

「……ノイエントランスの復興と合わせて、ノイエントランス守備隊を帝国屈指の有力部隊にして見せるさ。したたかな、あなたのような兵を増やして」

「曹長、よかったらうちに移籍しない?」

 冗談めかして言うエウロパに、キリングは鼻を鳴らし、

「俺達はまた別のヤツのところに行くさあ。なあ相棒」

 操縦桿を叩くキリングに、バズートルはフゴフゴと吐息を漏らす。その調子は、激しいダメージを受けた直後とは思えないほどに好調なものだった。

 そして翌年である新地球歴三〇年、ノイエントランスは復興の第一次計画を完了。水運の要衝として再び稼働を始めると共にかつての戦跡を示す著名な都市となる。その傍らには精強なノイエントランス守備隊の姿が常にあった。

 一方キリング達は原隊に復帰した後の詳細な記録は残っていない。新地球歴三〇年を騒がせた巨大ゾイドを巡る国際事件に彼らが属する隊も参戦していたという大雑把な記述だけが確認できる。

 三〇年の事件は数多くの被害者を出したものでもあるが、一方でノイエントランス守備隊はまたこの都市を訪れる者達が現われることを固く信じているという。故に、守備隊駐屯地には彼らが持ってくるであろう酒を入れる冷蔵庫が常備されているのだとか。

 


 
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