逝かないで・・・
「ごめんよ・・・・」
「さよなら・・・愛していたよ、華琳」
そんな言葉いらない
そんなこと言うくらいならずっと私の側にいなさいよ・・・
ずっと・・・一緒にいるって言ったじゃない・・・
・・・ばか
「かず・・と・・」
「あ・・・」
「ゆめ・・・?」
辺りを見まわすとすっかり暗くなっており、窓からは月の光がさしている。
どうやら本を読みながら眠っていたようだ
「っ・・・・・・」
乱世の終焉、それは魏の勝利により成った
蜀・呉との大戦を経て二国との同盟を結び三国鼎立の時代を迎える
戦後の混乱を収めるにあたり課題は山積みだったが、
三国が協力し合ったこともあり
世は安定し、小さな事件こそ起きているものの
こうして休日を作り、書を嗜む余裕もできてきた。
そして時折こうして昔を懐かしむことも・・・
「・・・はぁ」
こんなの私じゃない・・・
まるで恋い焦がれる少女のように、あいつを思ってほほを濡らすなんて
夜風が涙の伝った頬の熱を奪う。
もうすぐあの日がやってくる
三国鼎立の記念式典の日・・・そして
アイツが消えた日、私が大切なものを失った日
北郷一刀 天の御使いが天へと帰って行った日
「ねぇ・・・いつまで待たせる気?」
なにもない空間にただ問いかける。
返る答えなどないとわかっているのに
ドタドタと扉の外から慌ただしい音が聞こえてきた
「ちょっと騒がしいわよ、何事?」
侍女を呼び止め騒ぎの訳を問いただす
「曹操様、お休みのところお騒がせして申し訳ございません。」
「それはいいわ、いったい何があったの?」
「あっ!はい、実は・・・」
「華琳様!」
「秋蘭?」「夏候淵様!?」
「事情は私が説明する、そなたは霞に姉者達を追うように伝えてくれ。」
「かしこまりました!」
侍女は一礼すると張遼の部屋へと駆けて行った
「それで・・・秋蘭いったい何事?また春蘭が何かしでかしたの?」
「いえ、姉者ではなく実は季衣が・・・」
「季衣が?」
「はい、季衣が突然城を飛び出し馬に乗って町の外へと向かって行ったようなのです。」
「先ほど、姉者と流琉があとを追いかけて行ったのですが、いったいどこへ向かったのか・・・。」
いったいなぜ・・・
いくら季衣が子供とはいえ、一軍の将
勝手な行動をとれば周りにどれだけ迷惑がかかるかそれくらいの自覚はあるはず。
それに、いくら平和になったとはいえ、郊外にはまだ賊が出るという話もある
まぁ、賊程度に季衣がどうなるとも思えないが
「霞にも応援を頼みましたし、じきに見つかるとは思いますが」
「季衣に何か変わった様子はあった?」
「いえ、特には・・・ただ」
「ただ?」
「厩舎の番をしていた者の話では、随分と思い詰めた顔をしていたと。」
「・・・・・」
一刻ほどして、春蘭達が季衣を連れ帰還したとの報告が上がってきた
「姉者」
「秋蘭・・・華琳様は・・・」
「あぁすでに御存じだ、姉者達が戻ったら玉座の間に来るようにと。」
「わかった、行くぞ季衣、流琉」
うつむいたままの季衣が流琉が付き添われ玉座へ向かう
「季衣・・・なぜここに連れてこられたかわかっているわね?」
「・・・・はい」
消え入りそうな声で答える
「あなたは私の親衛隊であり、一軍の将なのよ。それだけの立場にある人間が勝手な行動をとれば周りがどれだけ混乱するかわかるわよね?」
「・・・はい」
「いったいなぜあんなことをしたの?」
「・・・・」
うつむいたまま黙ってしまった。
「季衣、答えなさい・・・」
「・・・・」
「答えなさいっ!!」
うつむいたままなにも答えない季衣に苛立ち声を荒らげる
「華琳様!」
「流琉、私は今季衣と話しをしているの、控えなさい。」
「違うんです!違うんです華琳様!」
「流琉っ!いい加減にしないか!」
後ろで控えていた春蘭が華琳の前に出て行こうとした流琉を抑える。
「違うんです!私の!・・・私のせいなんです・・・」
「流琉?」
「違うよっ!流琉は悪くないっ!僕が勝手にっ・・・」
「私が・・・流れ星を見つけたから・・・」
「流れ星?いったいどういう事なのだ流琉?」
後ろで黙って見ていた秋蘭が訊ねた
「季衣は・・・兄様を探しに行ったんです・・・」
「「「!?」」」
絞り出すような声で、流流が答えた。
『兄様』
流琉は一刀のことをこう呼んでいた・・・
季衣とともに兄と慕い、そして一人の男性として愛した。
兄様を探しに・・・その言葉でその場にいたものは黙りこんでしまう
そのまま流琉は事の経緯を話続けた。
「兄様は流れ星に乗ってやって来たって、以前秋蘭さまからその話を聞いて・・・」
「そのことを季衣と話していたら偶然、窓から流れ星が見えて・・・」
そして季衣は流れ星が落ちた方向を確認すると、部屋を飛び出していったのだという。
話を聞き、その場にいた三人は黙り込んでしまった。
「季衣」
華琳に突然名前を呼ばれビクッと肩を震わせる。
玉座から降り季衣に歩み寄る
「・・・・一刀を、探しに行ったの?」
コクッと無言でうなずき、震える声で答える。
「兄ちゃん、弱っちいから・・・賊とかに襲われたら大変だから早く見つけなきゃって・・・」
「・・・・そう・・・それで一刀は居たのかしら?」
無言で首を横にふる
よく見ると目の周りが赤くなっている、きっと泣きながら探していたのだろう
「華琳さま・・・」
「なに?」
「兄ちゃん、いつになったら帰ってくるのかな・・・」
「・・・季衣」
その目は涙を浮かべ、訴えるような眼差しをしていた
「だって・・・もうすぐ3年も経つのに全然帰ってこないし・・・」
「季衣、なにを言っているのよ!」
流琉が季衣に駆け寄ってくる。
「兄様はきっと帰ってくる、だから頑張ってそれまでにこの国をもっといい国にしようって言ったじゃない!」
「そうですよね?華琳さま!」
季衣を励ましながらも、流琉の目には不安が宿っていた。
「・・・・わからないわ。」
「「・・・・・・・・・・」」
それが現実だ、一刀がこの世界にどうやって来たのか
そして消えた一刀はどうなったのかなど全く分からない
また出会える可能性などほとんど皆無だろう
ただ信じたい。
「でも・・・あいつが、あなた達を悲しませたままにするわけがないでしょう?」
優しく、問いかけるように続ける
「信じなさい、あなた達が愛した男を・・・」
「「・・・華琳さま」」
二人を優しく抱きよせる
その腕の中で季衣と流琉はただ泣いていた、押し殺していた淋しさをはきだすように。
「華琳様、此度の件、すべては私の監督不行き届き」
「どうか、季衣には寛大なご処置を・・・」
「春蘭さま…」
「私からもお願いします、部下の不始末は我らが責任。お叱りなら私が。」
「秋蘭様・・・」
春蘭と秋蘭二人にとってこの娘達は妹のようなものだ
やはり心配だったのだろう
「春蘭、秋蘭・・・私は今回の件で季衣をどうこうする気はないわ」
「「華琳様・・・」」
「ただし、他のものに迷惑をかけたのだから、詫びの一つくらいはしておきなさい。」
「それがけじめよ。」
「・・・・はい!」
季衣の顔にはいつもの純粋な笑顔が戻っていた。
「なら今日はもう休みなさい、明日に響くわよ。」
「はい、ごめんなさい。華琳さま。」
「春蘭さま、秋蘭さまも心配かけて、ごめんなさい。」
「あぁ、霞にもちゃんと謝っておくのだぞ。あやつもかなり心配していた。」
「はい。」
それから、季衣と流琉は自分の部屋へと帰って行った。
「・・・華琳様。」
「まったく、一刀にも困ったものね。あの子たちにまで心配かけて・・・。」
「「・・・・・・・」」
「あなた達も、もう休みなさい。御苦労だったわね。」
「「・・・はっ!」」
二人が廊下に出ると、壁に寄り掛かってこちらに向かって
ひらひらと手を振っている霞が居た
「霞・・・」
「さっきそこで季衣っちと流琉っちにも会ったわ、大丈夫そやな。」
「・・・・・あぁ。」
「?・・・・どないしてん、なんか沈んどるなぁ。」
秋蘭から事の経緯を聞き、霞の表情が曇る。
「なるほどなぁ、季衣っちが・・・・なぁ・・・・。」
「あぁ・・・・華琳さまも、お辛いだろうに。」
「っ・・・まったく!すべてあいつのせいだ!」
抑えようのない苛立ちを壁にぶつける、その拳からは血がにじんでいた
「姉者!落ち着け。」
「だってそうだろう!季衣が飛び出していったのも、華琳さまが時折あのように辛そうにされているのも!」
「すべては、あやつが・・・・」
「姉者・・・・」
「・・・・ほんま、あたしらほっぽいてなにしてんのやろなぁ・・・・あいつは・・・。」
部屋に戻った華琳は寝台に腰掛け月をながめていた
あれから満月は好きになれない、いやでも思い出してしまうから。
「そうよね・・・・戻っているわけないわよね・・・・」
ただでさえ夢見が悪かったというのに、季衣の件で余計に意識してしまう。
あの二人にかけた言葉、半分は自分に言い聞かせていた
不安だった、本当にまた会えるのだろうかと。
ただ会いたい、戻ってきてほしい、また隣で笑っていてほしい
「・・・・一刀、今の私を見たらあなたはどう思うのかしら。」
いつかまた会える、そう信じ。王として恥じることのないように生きようと
あなたに胸を張って会えるように。
「わたしは・・・」
「いつまで・・・・・待っていればいいの?・・・・一刀。」
返る答えはなく、嫌味なほどに美しい月が光を降らせていた。
―郊外の森―
そこに一つの影があった
「随分と慕われていたようですね。さすがあの人の孫ね、本当にそっくり・・・」
水の鏡を眺めながらその人物はつぶやく
顔はローブを深くかぶっており見えないが、その声とフードの端から見える白い肌からおそらく女性なのだろう。
「・・・・えっ?」
水の張られた大きな器に波紋がたちそれはだんだんと・・・・
「こっ、これは!?」
・・・・・・ドドドドドドドドドドドドドド!
「ぬうっふうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅんんん!!!!」
「ひゃぁぁぁぁぁ!?」
・・・・・白髪の筋肉カイゼルひげダルマが轟音とともに現れた
「おおぉ探したぞっ!???よ!むっ、なにを座り込んでおる具合でも悪いのか?」
ローブの人物は驚いてへたり込んでしまった
「卑弥呼いいかげんその登場に仕方はやめてください・・・。とても心臓に悪いので」
「むぅ・・・気をつけよう。」
ぱんぱんとお尻をはたき立ち上がる。
「まったく・・・準備が整ったのですか?」
「うむ、いよいよだな・・・」
「えぇ・・・ようやく会いに行けます。」
「大和さん・・・」
再び、外史の扉が開く・・・・
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イラストでの予告からはや数カ月
ようやくプロローグです・・・・今回は華琳side・・・・というか魏sideあたりですね。
小説を書くのは初めてなので右往左往してようやくの投稿です。
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