No.103025

真・恋姫†無双~三国統一☆ハーレム√演義~ #07 続々・記念祭典開催中

四方多撲さん

第7話を投稿です。
同盟一周年記念祭典、六日目をお送りします。
何気に前回より長いです。後半、魏勢オールキャストでございます☆
…張三姉妹はその他勢に含めて下さいww
どちらさんもよござんすね? では…蜀END分岐アフター、参ります!

2009-10-25 05:14:13 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:56446   閲覧ユーザー数:38524

 

 

同盟一周年記念祭典も半ばを越えた。

 

各国の重鎮たちは、自身の役目を果たしつつも、やはりどこかで北郷一刀を意識しており。

 

それは魏王・華琳とて同様だった。

 

その華琳の前に現れた、自称『大陸一の占い師』管輅。

 

彼は占いの報酬に“華琳の一番大事なモノを戴く”と言い残し、消えたのだった……

 

 

ぷるん。イラッ。イラッ。

たぷん。イラッ。イラッ。

ぷるるん。イラッ。イラッ。

 

「「敵!」」

「そんなこと言われてもぉ~……」

 

そんな漫才を繰り広げているのは、詠・稟・穏の三国眼鏡っ娘軍師トリオ。

知的刺激による発情という悪癖を持つ穏に、お目付け役が二人という構成である。

 

「お二人だって、それなりに胸あるじゃないですか~」

「「嫌味か!?」」

 

終始この調子の三人。

 

なぜお目付けが必要かというと。

本日、三国会談六日目。此処『文化交流会』の会場では、曹孟徳著『魏武註孫子』及び『魏武新書』の出展がされており。穏がその書に甚(いた)くご執心の為である。

 

穏は一刀に手紙を出し、こっそり裏から手配を頼んでいたのだが。成都について早々に一刀へ尋ねたところ。

『華琳に“穏にあげたいから、一揃え売ってくれ”って言ったら、何だか凄い剣幕で“並べ!”と断られた』とのこと。

……理由を言わなければ、只でくれたろうに。それはそれで後が怖い気もするが。

 

ともかく、穏はまだ例の書を入手出来ておらず、勝手に買いに行かないよう、お目付けを付けることになった。

ところが、今日は呉勢で手の空いた者がおらず、偶々出くわしたこの二人にお鉢が回ってきたという訳だ。

 

「ったく。なんで呉の軍師のお目付けに、ボクが駆り出されなきゃいけないのよ!?」

「仕方がないでしょう。偶々手隙のところを見つかってしまったのですから……」

 

憤慨する詠と嘆息する稟。穏はいつも通り“のほほーん”とマイペース。

 

「ね~え~。折角ここまで来たんですから~。華琳さんの本、読ませて下さいよ~」

「「駄目!」」

「あうぅ~ん。生殺しですぅ……」

「「腰をくねらすな!!」」

 

いちいちツッコミがハモる二人は、意外といいコンビかもしれない。

国許であれば、詠は一刀、稟は風というツッコミ相手がおり、普段からツッコミ慣れしているからだろうか。

 

「とにかく!ボクは月のお使いで、流琉が出展してるっていう『くっきー』とかいうお菓子を手に入れたいの!それが済んだらすぐ城に戻るわよ!」

「そぉんなぁ~!」

「諦めなさい、穏殿。華琳様にお頼みして、例の書は一揃えにしてお土産にお渡ししますから(……冥琳殿に)」

「うぅ……絶対ですよぉ~?」

 

ようやく諦めたか、と安堵するツッコミ二人に声が掛かった。

 

「おー。こりゃ軍師のお三方。暇なら見てってーな~♪」

「「真桜?」」

 

声のする方を見ると、真桜が露天売りのように敷物に怪しい機械を並べ、その中央に座っていた。

 

「これ、全部あんたの発明品なの?」

「そうやで~?」

「でも、発明品の類って、会場に展示されてなかった?」

「あっちにもちゃんと置いてあるって。あっちは正規品。こっちはウチの趣味丸出しの個人的な発明品たちや」

「で、この有様ですか。……安全性の検証とか、ちゃんとしてあるのかしら……」

「へえぇ……あらまあ。これ、最新式の手動発電白熱灯ですか~?」

「おお、穏はん。御目が高い!今までのものよりも、耐久力を大幅に上昇させた逸品でっせ!」

 

商売っ気は関西弁キャラの魂なのか。真桜は穏相手にセールストークを始めていた。

 

「色々作ってるのね。……でも、アイツの知識が基になってるのもあるかと思うと、何か複雑……」

「そうなのですか? 素晴らしい知識じゃありませんか」

「その知識の出所がアイツなのがムカツクのよ!」

「……そ、それは余りに理不尽な……」

 

稟の言う通り、理不尽な怒りに身を焦がす詠ではあるが。

もうかれこれ一年の付き合いである。稟も余計なことは言わない積もりであったが、ポロリと少々洩れた。

ギッと睨みつけてくる詠を誤魔化す為に、稟は一つの小箱を手に取った。

 

「こ、これは見たことがありませんね?」

「ん? それはなー、天界では『おるごーる』言うらしいわ。横のちっさい取っ手を手前に回してから離してみ?」

「どれどれ……」

 

稟が真桜の指示通りに小箱の取っ手…ハンドルを回す。しばし回して、手を離した。

 

♪~~♪~~♪♪~~~

 

途端に小箱から、甲高く透き通るような、どこか物悲しさを含む音が旋律を奏でる。

 

「ほぉぉ。これは……綺麗な音ですね……」

「ほんと……」

「素敵ですぅ……」

 

三人は一時、流れる音楽に身を任せ、時間が緩やかになったかのように感じていた。

 

「はぁぁ……これは素晴らしい。これも天界の知識か……」

「そやね。基本構想は北郷はんが教えてくれたモンや」

 

実際、そのあやふやな知識から実物を作り上げる真桜こそが脅威の天才である訳だが。

 

「くっ。アイツが基となったものの癖に……」

 

悔しげに零す詠。

 

「いい加減しつこい人ですね、あなたも……」

「うっさい! 稟の鼻血ほどじゃないわよ!」

 

ぐさぁっ!!

 

「……どうせ……どうせ私は鼻血女ですよ……そのせいで、平和になったというのに未だ華琳様の寵愛を受けることも出来ない哀れな女ですよ……orz」

 

膝から崩れ落ちる稟。

苛立ち紛れにクリティカルな話題を振ってしまったことに、詠が慌てて謝罪する。

 

「ご、ごめん稟。最近、ボク……アイツの話題になるとイライラすることが多くて……ホント、ごめんなさい」

「いえ……いいんです。事実なのですから……」

 

「あらら~。お二人ともお悩みを抱えているのですね~。ふぅむ……」

 

暗く落ち込んでしまった二人を見て、何事か考えていた穏であったが。

何か閃いたらしく、二人の手を掴む。

 

「よぉし♪お姉さんがお話を聞いてあげましょ~!確か流琉ちゃんの所で一服出来ましたよね~?」

「「ええっ!?」」

 

反論する間もなく。詠と稟は、穏に連れ去られていった。

残されたのは、露店を広げる真桜のみ。

 

「ちぇ~、いい手応えだと思ったんやけどなぁ。ま、ええか。さー、いらはいいらはい!」

 

流琉の『くっきー』が出展されている『天界料理展覧』スペースは大盛況であった。

手軽に天界の嗜好品が食せるとあって、口コミで情報が広がったらしい。

とは言っても、この三人は三国の重鎮である。特別に華琳専用の飲食スペースを使用させてもらえることになった。

 

「さぁ~。おねえさんに何でも話してみてくださーい♪」

「あんたね……」「あなたという人は……」

 

「話しなさーい♪」

「「命令形!?」」

 

「んふっ♪」

「「…………」」

 

渋々、といった感で稟が語り出した。

 

「と言われても……これは年少より十年来の体質ですので……それに、私の病気を心配して北郷殿が呼んで下さった、医師の華佗もコレは病気ではない、と……」

 

史実においては、郭嘉も病気によって早世している。その為、一刀は華佗に頼み込んで、冥琳の治療と平行して稟の診察も行なって貰っていたのだった。結果は本人の語るとおり、至って健康体とのこと。

鼻血については、止める為のツボを風が教わっていたようだが、それは出た後の対処法であって、予防ではない。

 

がっくりと肩を落とす稟。詠も一応考えてはいるが妙案は出てこない。

 

「基本的に、その、性的に興奮すると出るのよね?」

「ええ……」

「つ、艶本とかでも?」

「時々……」

 

詠の質問中、静かに顎に手を掛けていた穏が口を開いた。

 

「ちょっと失礼な質問ですけど。稟ちゃんって未経験?」

「……お恥ずかしながら」

 

頬を染め、目を瞑って眼鏡の位置を直しつつ答える稟。

その答えに、穏は首を傾げ。

 

「うーん……穏は耐性の問題なんじゃないかなーって思うんですけど」

 

と、解答と思しき言を発した。

 

「耐性……つまり慣れってこと?」

「はい~。過剰な想像力って意味では、穏の癖とおんなじような気がして~」

「し、しかし!華琳様とは、既に何度も挑戦しており……その度に失敗を……」

 

自分で言いつつ落ち込んでいく稟。

 

「因みに~。華琳さん以外の方と、そういった関係になる気はないんですか?」

「ありません!」

「例えば、いつも一緒にいる風ちゃんとか~」

「気色悪いことを言わないで!」

「では逆に、男性……そうですね~。北郷さんとヤってみたいですか~?」

「んな!? な、なな、何を言い出すのよ! っていうか、その表現はもうちょっとどうにかなんないの!?」

「ぶふっ……そ、そう、です。いくら他にいないからと……」

 

連続ツッコミの詠と、想像したのか思わず鼻血を漏らしかけた稟であったが、穏は無視して続ける。

 

「別に気色悪くはない?」

「い、一応男と女ですから。おかしくはないのではないですか?」

「……稟。あんた、もしかして……#」

「いやいやいやいや! 他の男性と比べればマシという話で!? ほら、病気の心配もして貰っていますし!」

「尚更怪しいじゃない!」

「ですから他よりマシというだけですよ!?」

 

詠の剣幕に、必死に言い訳する稟。穏はそちらには関与せず、持論を更に展開し出した。

 

「やっぱり耐性の問題だと思います~。多分、稟ちゃんにとって華琳さんは難易度が高すぎるんじゃないかな~」

「そ、そんなことを言われても……」

 

「となると~。幸い華琳さんも『英雄色を好む』を地で行かれる方ですし。“練習”するのが近道だと思いますよ~」

「れ、練習……ですか!?」

「そう。好意はあっても、華琳さんほどには崇拝していない相手と」

「練習……れ、れれ、練習!?……ぶーーーーーーっ!!」

「きゃあぁぁーー! こんな量の鼻血はまずいでしょ!? ここって本来華琳が使う休憩所なんだから!!」

 

とうとう稟の想像力の堤防が決壊したようだ。

あまりの鼻血の勢いに悲鳴をあげる詠。

 

「ど、どうしたんです!?」

 

慌てて流琉が飛び込んで来た。が、すぐさま状況を理解し。

 

「後で『園丁†無双』の皆さんに来て貰いますから。とりあえず拭いておいて下さい」

 

と言って一礼し、出て行った。

流石は魏王・華琳に侍る親衛隊の将軍。冷静な対応である。……慣れてもいるのだろうが。

なお『園丁†無双』とは魏が誇る親衛隊の中でも選りすぐりの特殊工作兵(大まか間違ってはいない……はず)である。

 

「し、失礼しました。……確かに有効な手段と言えるかも知れませんが……心情的にはどうも」

 

落ち着きを取り戻し、そう零す稟に詠が同調して爆発した。

 

「あ、あったり前じゃない!いくら何だって、別の誰かなんて……ボクだったらアイツ以外となんて絶対イヤよ!」

「あらあらまあまあ~♪ 見事な惚気ですねぇ~(ニヤニヤ」

「し、しまった……つい……////」

 

穏のニヤニヤ笑いに詠は動揺して俯いていたが、意外と穏はさっくり本題に戻った。

 

「ふ~~む。でも稟ちゃん。さっき北郷さんを例に出したとき、殆ど拒否しませんでしたよね?」

「う!?」「んなっ!?」

 

「しかも“練習”相手は、あの華琳さんを納得させるだけの度量の持ち主でなくてはなりません。この大陸中を探しても、その御眼鏡に適う男性は極々僅か。というか男嫌いって話もあるし、いるんですかね~? となると華琳さんの性格からして、北郷さんが最も適任だと思いません?」

「そ、それは!?」「ぐ!?」

 

「とまあ、こんなところですかね~。後は稟ちゃんの覚悟と意思次第ということで♪」

「「…………」」

 

「さて。次は詠ちゃんですね」

「う。やっぱボクも言うの……?」

「うふっ♪」

 

穏の笑顔の重圧に、これまた渋々口を開く詠。

 

「……いつからだろ? 何か……アイツの話題を誰かにされると、すっごいイライラするようになって……」

 

一旦溜息。

 

「そのうち、アイツの一挙一動が癇に障るようになっちゃって。……アイツ自身はいつもと全然変わってないはずなんだけど……」

「まぁ詠殿は元々癇癪持ちの気がありましたし。原因さえ分かれば、意外と解決出来そうな気がしますね」

 

稟はそう判断した。穏も同様の意見のようだった。

 

「そう言われても、いつからか判然としないし。ここのところ、どんどん酷くなってる気もする……」

「……ひとつ、質問していいですか~?」

 

頷く詠。

 

「詠ちゃんは、北郷さんのご寵愛を受けているんですよね~?」

「なななななにをいきなりッ!?」

「ぶーーーーっ!!」

「稟ー! だから大量に出すのはまずいってば!!」

「ふがふが……本当に申し訳ない……」

 

自分の鼻血を拭きつつ、謝る稟。穏はこれまたそんな状況を無視して詠に詰め寄る。

 

「で。どうなんです、詠ちゃん?」

「うぅっ」

「どうなんです?」

「うううっ」

「ど・う・な・の?」

「は、白状します……い、一応。受けてます……」

 

とうとうゲロった。

因みに稟は口を挟めず、ふがふが言っていた。

 

しかし、穏は更に追撃を掛ける。

 

「ここ何ヶ月かで、回数に変化は?」

「うえぇぇっ!? そ、そこまで言わないといけないの!!?」

「勿論。重要なことですから~」

「はぅぅ……ここ半年くらい、あんまり、ない……かも……」

「……どうして?」

「だって!……だって……月が……」

「……つまり。月ちゃんが妊娠して。北郷さんの寵愛を受ける事が出来ない時期があって。自分だけが寵愛を受けるということに遠慮していた、と」

 

こくり。

 

「……明らかにそれが原因ではないですか……」

 

ようやく稟が口を挟んだ。

 

「そうですねぇ。愛しい人には、やはりちゃ~んと愛して戴かなくちゃ~♪」

「いとッ!?……しい人、なんだけどさ……////」

「そんな遠慮をしてしまっては、月殿だって困ってしまいますよ?」

「ううぅぅ……はい」

 

詠はすっかり縮こまってしまったが、納得はしたようだった。

 

「ふぅ……実は、月にも同じこと言われてたんだよね、ボク……でも、何かが引っかかってて」

「ははぁ~。さては詠ちゃん、先に妊娠した月ちゃんが羨ましかったんじゃないかな~」

「ぶっ!! ボ、ボクが……月に、“嫉妬した”ってこと!?」

 

本当に自覚がなかった為か。詠は派手に反応を返した。

 

「ふむ、確かに。常なら月殿の言に無理に逆らう詠殿ではないでしょう。となると、その可能性は高いかと」

「う、うぅ……ボクが、嫉妬……」

 

思い返してみれば、月の妊娠が安定期に入り、月と共に一刀の伽をする機会は何度もあった。

だが、詠はなんのかんのと理屈を付け、月からの誘いを全て断っていたのだ。

断ったときの月の寂しげな笑顔が、それこそ今更に胸に刺さる。

 

(そう言えば……)

 

いつだったか、珍しく一刀が詠個人を閨に誘ってきたことがあったことも思い出した。

 

『あー……その。良かったら、これから俺の部屋に来ない?』

 

あの時は、我ながら凄まじい剣幕で追い返したと詠も思うが。

冷静に考えてみると、基本的に一刀は、夜伽をさせる為だけに誰かを閨房に呼ぶことをしない。共に時間を過ごした際、その場の流れで誘う……というのが大半のパターンだ(残りは逆に襲われるパターンが殆ど)。……そのせいで、場所・時間を問わず“致して”しまうことがままあるのが困ったところでもあるが。

ともかく、そう考えれば……あれもきっと月の計らいだったのだろう。

 

「……帰ったら、月に謝らなきゃ……」

「そうですね。それがよろしいでしょう。きっと喜んで下さいますよ」

「そ・れ・に~♪ 愛しい人の子を身籠りたいと思うのは女性として当然のことですよぉ。私だって出来ることなら北郷さんと……」

「ちょちょちょっと! 何をいきなり言い出すのよ!?」

「だって~。素敵じゃないですか?北郷さん」

「ぐ……」

 

普段なら「あんな奴のどこがいいんだか!」とでも言い返す詠であったが、ここまで自らの内面を晒した後では、流石に言えなかった。

 

「かなり気は多いみたいですけど。まあこれ程の英雄なら納得かなーって。漁色されている訳でもなさそうですし」

「そういえば、確かにソレ目的で女性に声を掛けているのは見たことがありませんね。意外ですが……」

「でもアイツ、無意識にナンパな台詞を口にするから……」

「あは♪ そうですね~、そういう場面は何度かありましたねえ♪」

 

(それに……アイツ、女相手だと押しに弱いんだから!……穏は……相当やばい気がする……)

 

呉の軍師である穏は、のほほんとした外見や雰囲気・言動に反して相当に押しの強い娘だ。

しかも、この反則的な巨乳……思わず凝視してしまう詠であった。

 

「それに~、雪蓮様にも北郷さんを誘惑しろって言われてますし~」

「な、なによそれ! どういうことよ!?」

 

ようやく落ち着いたかと思いきや、更なる問題発言を繰り出す穏。

 

「はぁ~。なんでも北郷さんを孫家のどなたかの婿に迎える為にとか言ってましたね~」

「穏殿が誘惑に成功したとして、どうして孫家の方々の婿という話に繋がるのでしょうか……?」

 

稟の疑問も尤もだったが。詠にしてみれば呉勢に一刀が誘惑されるだけでも大問題である。

 

「ふ、ふざけないでよ!アイツは、アイツは……」

 

しかし考えれば考える程、北郷一刀という男が女性を引き寄せることは――自明の理とでも言おうか。不可避なことであるように思えてきた詠だった。

 

(あ゛ーーーもう!ボク……いやいや、月というものがありながら、アイツはぁーーー!!)

 

「まあまあ。落ち着いて下さい、詠殿。結局は……北郷殿の心持ち次第という話ではないですか」

「じゃあ稟は! あの馬鹿が! この乳に! 誘惑されないとでもッ!?」

 

フォローに入った稟に、穏を……というか穏の巨乳を指差しつつ激昂する詠に。

 

「…………」

 

沈黙し、顔を背けるしかない稟でありましたとさ。

 

 

……

 

…………

 

 

とりあえず相談が一段落した為、流琉に礼を言い、休憩所から出る。

勿論、月へのお土産に『くっきー』も忘れずに受け取った。

後は城へ帰るだけ、といったところで詠が切り出した。

 

「ねえ、穏、稟。い、一応相談に乗ってもらっちゃったし。お礼を言っておくわ」

「こちらこそ。……まぁ私の方の実行は無理でしょうが……」

「そうね……あれはちょっと……。でも……あ、あ、あり、がと……」

「ふふっ。こちらこそ、ありがとうございました」

 

……。

 

だが、穏からの返事は返って来ない。

 

「……穏?」「……穏殿?」

 

二人は振り返るが、そこに彼女の姿はなかった。

 

「「逃げた!?」」

 

穏は、詠・稟のような純粋な文官ではなく、(やはりその外見、雰囲気、言動に反して)武芸も一通り修めている。

故に二人は気配を消した彼女に気付かなかったのだ。

 

「何という失態!いや……」

「向かう先は分かってるわ!急ぎましょ!」

「ええ!」

 

しかし。

二人が『魏武註孫子』と『魏武新書』の出展スペースに到着した時には、既に穏は一組揃えて蒸発していた。

 

「「……やられた……」」

 

事ここに至り、自らの額を叩くしかない二人であった。

 

六日目の昼餉も終わって。

城の中庭では、四人の男女が異様な緊張感を漲らせていた。

 

三人の女性の間にあって、冷や汗を掻く北郷一刀。

ちらちらと一刀の顔を窺いながら、恥ずかしげに俯く蓮華。

多少顔を赤らめているものの、それなりに普通の明命。

そして、明らかに不機嫌な風である。

 

「……さて、お兄さん。説明をして戴きましょうかねー?(-"-)」

「はい……」

 

 

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話は昨晩まで遡る。

蓮華は、午前中に月と茶会を開き、その際に一刀が明日、六日目の一日が自由時間であることを聞いていた。

残念ながら、事前に手紙で送った(ある意味、蓮華精一杯の)逢引の誘いは、思春の過保護とでも言うべき検閲によって一刀に伝わらなかった。

既に祭典も後半。最終日には彼女自身に予定がある為、ここが最後のチャンスだった。

故に勇気を振り絞り、自室から一刀の部屋へ赴く為に廊下を歩いていると。

 

「はぅあ~……」

 

普段なら常に(猫さえいなければ)ぴしっとしている明命が、何か庭の池を見て黄昏れており、蓮華は思わず声を掛けた。

 

「あら、どうしたの、明命?」

「あ、蓮華様……何だか、夕方から気分が優れないのです……こう、胸がモヤモヤするというか……」

「夕方に何かあったの?」

「……その。風さんと一緒にお猫様を探して街へ出たのですが。偶々北郷様と出会って」

「……か、一刀と?」

「はい。その時……風さんが……明日、北郷様と逢引するのだと……」

「ええっ!?」

「私、それを聞いてから、ずっと……心が晴れないといいますか……これって何なんでしょう?」

「えーーーーっと……」

 

原因は明らかであったが、まさか自分がこれからその北郷一刀に逢引の誘いに行くのだとも言えず。

返答に困る蓮華。そこへ……

 

「ンなもん、決まっとるじゃろうが。恋じゃよ、恋」

 

現れたのは宿将・祭だった。

 

「はぅあ!? こ、恋ですか!? そ、そんな畏れ多い……!」

「色恋に畏れも遠慮もあるものか。全く若い癖に頭が固いのう。もっと突っ走らんかい!」

「色恋に……畏れも、遠慮も……ない、のかしら……?」

 

祭の明命への鼓舞に反応したのは、蓮華だった。

 

「勿論ですとも、権殿。まして相手があの北郷であるならば尚更でありましょう。奴には身分も、権力も、金銭も通じませぬ。あれが見るのは、その者の心のみ。乳やら尻やらに惑わされることも多いようですがな。くっくっく」

「……そうね……」

「(……胸……#)」

「……睨むでない、幼平……ゴホン! ならば此方からは、己が“オンナ”をぶつけるのみ。奴め、女の押しには弱いようですしな! はっはっはっは! では健闘を祈りますぞ!」

 

言うだけ言って祭は酒瓶片手に去って行った。

 

「はぅあ~……私には、とても祭様のようには……」

「……いいえ、明命。一刀は、私に王としてだけでなく、女の子でもあって欲しいと言ってくれたわ。なら……きっと応えてくれるはずよ!」

「れ、蓮華様?」

「一緒に、一刀に会いに行きましょう!」

「はぅあ~~~!?」

 

祭の鼓舞が効き過ぎたのか、少々熱暴走気味(或いは恋暴走とでも言うのか)の蓮華は、明命を供に一刀の私室を訪れ、半ば強引に“一緒に街を回る”約束を取り付けたのだった。

 

 

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「本当は、時間を区切ってそれぞれに付き合おうと思ってたんだけど……急に午前中に仕事が入っちゃって……」

 

要するにダブルブッキングである。

 

「……つまり、お兄さんはあの国宝級と謂われる蓮華ちゃんの尻に誘惑された挙句、風と明命ちゃんも一緒に取って食おうと計画した訳ですねー」

「わ、私のし、し!?////」

「違います! 全然違うから! 大体、風は俺を丁稚として使うって言ってたじゃないか!」

『そいつぁ、オンナの意地だと昨日言ったじゃねえか、あんちゃんよぉ』

「…………あぅ」

「ともかく、結論から言えば。今日の午後はこの四人で街を回りたいのですね?」

「……はい。そうです……」

 

ここで風は思案する。実を言えば、風が一刀を街へ誘ったのには理由があったのだ。

それは――自身の気持ちを確認すること。

この一年で、心に芽生えつつある感情が“思慕”なのか。徒(ただ)の“興味”なのか。それを見極める積もりであったのだ。

 

(ふぅむ。蓮華ちゃんは明らかにお兄さんに惚れ込んでいる様子。明命ちゃんも、少なからず惹かれていると見ました。……風以外の女性が一緒の方が、見極めには都合が良いかもしれませんねー……)

 

「仕方ありませんねー。明命ちゃんは猫仲間ですし。蓮華ちゃんは……ふむ。ひとつ条件を出してもよろしいですか?」

 

手紙という意味では先に誘ったのは蓮華だが、一刀本人に伝わっていないのでは無効だ。

となれば優先権は風にある。蓮華は頷いた。

 

「では、少々お耳を拝借~」

「え、ええ」

「(無理に割り込むのですから、相応の覚悟を見せて戴くのですよー。風に“私は北郷一刀をお慕いしています”と耳打ちして下さい)」

「えええっ!? そ、そんな……////」

 

「「??」」

 

疑問符を頭上に浮かべて、首を傾ける一刀と明命。

蓮華も、昨晩の熱暴走中なら問題なかったろうが……一晩寝たら、自身の行動のひとつひとつが恥ずかしくて、一刀の顔すら直視出来なくなっていたのだ。

そこにこの難題である。

 

「さあ、どうぞー」

「あ、あぅあぅ……////」

 

しどろもどろで顔どころか、全身が赤くなっている蓮華。

状況は良く分からないが、一刀は眼福とばかりに、そんな蓮華をニヤニヤと見守っていた。

 

「(わ、わ、わた、わた……)」

「何ですかー。強引に割り込んできたわりには、覚悟が足りないのではないですかー?」

「!!」

 

風の挑戦的な一言。蓮華の中の何かのスイッチが入った。

 

「――私は北郷一刀をお慕いしています!」

「おぉっ! これはお見事。……でも、よいのですか?」

「何がかしら?」

「今、明らかに彼方のお二人にも聞こえていたのですよー。大きい声でしたからねー」

「ッ!?////」

 

蓮華が慌てて其方を見ると。

明命は顔を赤らめて俯き。一刀は頭を掻きつつ、背を向けていた。

 

「きゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? き、聞かなかったことにしてぇぇぇぇぇぇ!?////」

 

 

 

蓮華は「あれは風にそう言ったら、一緒に街を回っていいと言われたから言ったのだ」と散々に言い訳。

誰もそんな言い訳を真に受けてはいなかったが、蓮華が倒れてしまいそうだったので、皆納得したフリをした。

という訳で、四人で街を回ることとなった。

 

「ほら、風。猫の顔を模した飴だぜ?」

「蓮華、こんな服もどう?」

「はい、明命。この饅頭、美味いって評判なんだ」

 

と一刀は三人を平等に持て成して見せていた。

 

(ふ~む。流石は蜀将全員と関係を持つ英雄――と言いたいところですが……)

 

寧ろ風を驚愕させたのは、彼と街の庶人達との付き合いだった。

 

歩けば声を掛けられ、自らも話し掛け、共に笑う。

敬語こそ使われており、誰からも尊敬と敬愛を受けているのは、明らかであるが。

一刀自身こそが、そんな庶人達への気配りを忘れない。

祭りは楽しんでいるか、最近は問題ないか、暮らしはどうだ。その会話は尽きない。

 

彼にとって、『仲間』である蜀将達も。同盟を組むことでその『仲間』入りした魏・呉の者達も。そして、三国――いや、この大陸に住む全ての者達は“愛すべき隣人”であるのだろう。

故に、祭りに騒ぎ、大いに笑う人々を見る、彼の表情は。

愛しき我が子を見る父親のような、寛大で優しい笑顔だった。

 

そしてその笑顔は、勿論『仲間』である自分達にも向けられている。

蓮華が恥じらいつつも、服を身体に当てている時も。

明命がふらふらと猫に釣られて路地裏へ行ってしまう時も。

風が突拍子もない、無理難題を押し付けても。

 

彼は常に笑顔を絶やさないし、配慮を忘れない。

 

(ああ、風たちは――この人に見守られているという“安心感”を得ているのですね……)

 

風はそう悟ったのだった。

 

 

……

 

…………

 

 

「ああ、もうこんな時間か。そろそろ城に戻らないと。夕餉に間に合わなくなっちゃうな」

「はぅあ!本当なのです!」

「そうね。――今日は、楽しかったわ。ありがとう、一刀」

「なんのなんの。皆が喜んでくれれば、それが一番!」

「風。今日は強引に割り込んでごめんなさい。一緒に街を回ってくれてありがとう」

「いえいえー。お陰で風も色々分かったのですー」

「色々?」

「ふっふっふ。それは内緒なのです」

「くすっ。そう、それは残念だわ」

 

そう言った蓮華の、女性ですら見惚れる程の笑顔。堅物と諜報から聞いていた彼女に、こんな柔らかい笑顔を取り戻させたのも、一刀の配慮と風は聞いていた。

 

(成る程、成る程……。あの“安心感”――お兄さんの笑顔を独占したいという、この気持ちこそ。“オンナのサガ”、即ち“思慕”なのですねー……)

 

「……それでは、城へ帰るとしましょうかねー」

 

風の締めの言葉で、四人は揃って城への岐路へとついたのだった。

 

/魏勢宿舎 大広間

 

祭典六日目の夜。

晩餐も終わって、暫し。

一刀は魏の酒宴にお呼ばれしており、会場である魏勢宿舎の大広間へと向かっていた。

 

(ん? あれは華琳と、雪蓮?)

 

華琳と何事か話していた雪蓮は、一刀には気付かず、反対方向へと歩き去った。

 

「……やあ、華琳。お誘いありがとう」

「……あら。思ったより早かったわね。よく来たわ。皆、中で待っているわよ」

「こう言っちゃ何だけどさ。俺一人を魏の酒宴に参加させるの、よく愛紗や朱里に認めさせたね?」

 

蜀陣営は、一刀が単独で他の陣営と会合などを持たないよう、色々と手を打っている。

一刀自身、個人個人で多少街を歩いたりなどはしているものの、一応の線引きはしている積もりでいる。

今回も、華琳から酒宴への誘いがあった際、恐らく愛紗を筆頭に反対意見が出て、参加は出来ないだろうと思っていたのだ。

 

「そんなことをあなたが気にする必要はないでしょう。正式な会合でもない、単なる酒宴よ。愛紗や朱里だって、そこまで細かいことは言わないというだけでしょう……」

 

そう言うと華琳は背を向け、大広間の扉を開けた。

 

「さあ。宴を始めましょう」

 

 

 

ここの大広間は一面に壁がなく、雨戸を外せば、庭を見ながら宴を催せる設計となっている。

一刀は賓客扱いで、最も上座に座っていた。その隣には当然、魏王である華琳。桂花もその側に控えていた。

最初は一刀に酌をすることを強く拒否した桂花であったが、華琳の命とあって渋々酌をしてくれている。

桂花の酌というのも貴重であるが……それよりも一刀には気になることがあった。

 

「……なあ、華琳」

「何かしら?」

「どうして、武官の娘達が揃って武器を持ってるんだ?」

 

そう。この酒宴において、魏の武官達は鎧こそ纏っていなかったが、皆武装していたのだ。

 

「……俺を、どうこうしようってことじゃ、ないよね……?(汗」

 

思わずそう聞いてしまいたくなる状況である。

 

「当たり前でしょう。今、あなたを失うのは、大陸にとって不利益にしかならないわ」

「華琳様ぁ……そこまで仰らずとも。精々が毒にも薬にもならない、くらいで十分です!」

「昨日のキノコ未満よりは随分格上げされた気がしちゃう俺は、かなり毒されてる気がしてきたよ……」

「とにかく。あの武装は念の為よ。気にせずに、寛ぎなさい」

「そ、そうだね……」

 

(うーん。襲撃予告とか、そんな話は聞いてないけどなぁ……。新妻の閨に言ったら女官がみんな武装してたっていう劉備の気持ちが少し分かった気がする……)

 

 

それから暫くは本当に普通の酒宴であった。

一刀も華琳に酌をし。華琳は一刀に酌をさせても自らは酌をせず。桂花は一刀からの酌を拒否。

他の皆々も思い思いにこの酒宴を楽しんでいるように見えた。

 

そんな中、ふと華琳が席を立った。

 

「……一刀。私は小用で少し外すわ。その間に、皆のところを回ってらっしゃい」

「ん? おしっ――ごふぅ!!」

「ンの馬鹿!違うわよ!!」

「……最ッ低……」

 

華琳の膝蹴りが一刀の喉を強打した。桂花も汚物を見るような目で睨みつけている。……当たり前だが。

 

「げほっ、げほっ……ご、ごめんなさい。みんなにお酌して回って来ます」

 

本来なら賓客である自身の所に、魏の配下達が来るべきだろうが。一刀はそんなことは気にしない性質である。

逆に魏の者達が酌に来ないのは、華琳の想いを知るからこそ。自らが一刀を慕っているとしても、敬愛する主君が想い人と過ごす貴重な時間の邪魔をしたくないからだった。

そんなことには露とも気付かず、一刀は華琳の言葉をそのままに解釈して返答したのだった。

 

 

まず訪れたのは魏随一の呑兵衛、霞の席である。

余裕のあるうちにキツイところから回ろうという小賢しい作戦だ。

 

「ほんじゃまー、三国同盟一周年やら色々を記念して、乾杯!」

「適当だなぁ、おい。ま、いいけど。――乾杯!」

 

隣に座った一刀へ、霞が延々と酌をし続ける。

 

「おーい、霞ぁ……このペースは俺には速すぎるよ~」

「ぺえす?」

「呑む速度が速いっての。もっとゆっくりやらせてくれよ」

 

と苦笑いの一刀である。

 

「え~、しゃあないなぁ……」

「いいじゃん。酒宴は酒と肴と会話で成るものだろ?」

「お、中々いいこと言うやん♪ ……そういや、一刀に質問があるんやった」

「ん?」

「『天界衣装お披露目会』でウチが着た奴。あれ、結局どういう服なん?」

「お披露目会でも説明した気がするけど……。要は、女性を酒宴で持て成すことを職とした男性の服だよ」

「そこや! 何でウチだけ、男物の服なん?」

「そう言えば、男装したのって霞だけか……。そうだなぁ。やっぱ一番は“霞なら似合いそうだから”かなぁ」

「……ウチってそんなに男っぽい?」

「え?そんなこと全然ないよ? うーん、何て言ったらいいんだろ。男から見ても、“カッコイイ”んだよね、霞って」

「それって褒められてるん?」

「勿論! 霞ってさ。いつも真っ直ぐで、一本筋が通ってるから。戦ってる時が一番そうだけど、キレイだしカッコイイんだよ。“ああ、自分もこうありたいな”って思わせるっていうか。きっと、霞の部下達も同じように思ってるんじゃないかな?」

「っ!////」

 

一刀の、それこそ真っ直ぐな褒め言葉。まるで口説くかのような言葉に霞の頬が赤く染まった。

 

「似たような印象だと、冥琳とかね。動の霞に、静の冥琳って感じ?」

「ひぇ~、呉の美周郎と一緒にされたら、ウチみたいな無骨モン、みすぼらしゅうて、恥ずかしいわ……」

「えぇ? 霞のどこが冥琳に劣るっていうのさ。女性の魅力ってものは、多種多様であって。冥琳には冥琳の。霞には霞の魅力があるんだよ。例えば、人懐っこい笑顔とか……」

「ひぃぃぃ~~、もう堪忍して~~////」

 

生まれてこの方、恋愛というものをしたこともなければ、女性として褒められるようなことがなかった霞は、一刀の薀蓄混じりの褒め言葉に気恥ずかしさを感じ、逃げ出してしまった。

 

「なんで逃げるの……?」

 

一人残されてしまった一刀は、仕方なく酒宴の場を回ることにした。

 

 

次に訪れたのは曹魏三羽烏の席。

 

「あれ~? 北郷さん。霞様、どうしたの?」

「何か、走って行っちゃって。一人で呑むのもなんだから、みんなのとこ回ろうかなって」

「ん~、北郷はん。アカンでぇ~? 魏の将軍苛めたら」

「…………」

「いや、苛めてないって。霞が『天界衣装お披露目会』で一人だけ男装だった理由が知りたいっていうから」

 

と斯く斯く然然。

 

「(……ホンマ、女殺しやな……)」

「(しかも自覚なさそうなの……)」

「…………」

 

「凪と沙和には気に入って貰えて良かったよ。ちょっと、着るのは大変だろうけど」

「その辺は沙和にお任せなの♪」

「ははっ、それもそうか」

「ほれ、北郷はん。酌受け取ってや~」

「おっと。ありがとう」

 

真桜と沙和からそれぞれ酌を受ける一刀だったが。

 

「…………」

「凪ちゃん?北郷さんにお酌しないとなの」

「ん、凪? おーい!」

「…………」

 

沙和や真桜が話しかけても、凪は微動だにしない。

 

「(こら、あれやな。以前、大将に初めて謁見した時みたいな)」

「(うん、多分そうなの。北郷さんの前だからって、緊張しちゃってるの!)」

 

「……? 凪、どうしたの?」

「はっ! ははははい!!」

「「「…………」」」

 

明らかに挙動不審の凪である。

 

「あー……俺、邪魔だったかな?」

 

どうも自分に対して、目線を合わせようとしない凪。

一刀は気まずげに、多少小声で沙和、真桜にそう尋ねたのだが。

 

「そっ!そのようなことは決してありません!!」

「うわっ!?」

 

凪が凄い剣幕でそう一刀へと迫った。思わず一刀が仰け反ってしまう程の勢いであった。

 

「北郷様が邪魔であるなど、その様なこと、絶対にありません!!」

「……そっか。ありがとう、凪。じゃあ……お酌、してくれるかい?」

 

凪の必死さに裏がないことを察し、一刀は杯を差し出した。

 

「はっ!はひっ!!」

「(凪、声裏返ってんで……ぷっ、くくく……)」

「(やぁん、凪ちゃん可愛いの~~♪)」

 

手が震えていて、かなり危なげな感じであったが、凪は杯に酒を注ぐ。

一刀はそれを一気に呑み干し。

 

「……ふぅ。ご馳走様、三人とも」

 

と言って、笑顔を見せた。

 

「お粗末様なの~♪」

「北郷はんには、いっつも世話になってん。これからもよろしゅうに♪ いいネタ、頼んまっせ!」

「…………」

 

そんな一刀に、沙和、真桜は返答したが。

凪は、一刀の笑顔にまたガチゴチに固まってしまったのだった。

 

 

続いて訪れたのは、曹魏ちびっこコンビの席。

 

「やあ、お邪魔するよ」

「むぅ、むぃむぁん!」

「季衣!飲み込んでから挨拶なさい! もう……兄様、此方にどうぞ」

 

流琉に促され、二人の間に座る一刀。

 

「相変わらず、凄い食欲だなぁ」

「そう? このくらい、普通じゃない?」

「俺は季衣の十分の一で限界だよ、きっと……まぁ俺に気にせず食べてていいからね」

「うん!」

 

素直な笑みを浮かべる季衣に、一刀もまた笑顔で返す。

 

「(ぽぉーーーーー)////」

「ん? どうしたの、流琉」

「ひゃい!? い、いいえ、何でも!」

 

あなたの笑顔に見惚れていました、などとは言える訳もなく。

 

「そうだ。流琉には、三国会談中の晩餐の指揮を任せちゃって、ごめんね」

「そっ、そんなこと! 寧ろ、お手伝い出来て、凄い嬉しいです!」

「そうかい? お礼に何か出来たらなって思ってるんだけど……何か希望はあるかい?」

「ええっ!? えっと……」

「あ、それなら兄ちゃん。いい手があるよ」

「そうなの?」

 

流琉は、この祭典が行われている間の、三国首脳の晩餐を担当する調理師達へ指導・指示などをして貰っていた。

何せ、美食家たる華琳を納得させる質の料理を出せるのは、三国を見渡しても数える程しか存在しないのだ。

 

「ほら、いつだったかさ。ボクと鈴々が力比べしたこと、あったでしょ?」

「ああ、あったなぁ」

「あの時は、もうちょっとってとこでボクが負けちゃったけど。その時、鈴々とボクの頭を撫でてくれたよね」

 

一刀には、接戦だった互いの健闘を称えて、確かに二人の頭を撫でた記憶があった。

季衣に頷いて返す。

 

「でしょ。その時さぁ、流琉、すっごい羨ましそうにしてたんだよ?」

「ちょっと、季衣!? 何を言うのよ!////」

「そうなの、流琉?」

 

こう言う時、女性の戸惑いやらの機微を全く解さない一刀は、そのままストレートに本人に尋ねる。

流琉からすると、何の羞恥プレイだというのか。

しかし、実際二人を羨ましいと思ったのも事実だった。

 

「う、うぅ……その……は、はい……////」

 

結局、極小さな声でそう答えた。

 

「そっか。そんなのでお礼になるか分からないけど……今までお疲れ様。明日もう一日、お願いします」

 

一刀はそう言って流琉の頭を優しくゆっくりと撫でる。

 

「はぅ……////」

 

ぎゅっと目を瞑り、赤面どころか全身を真っ赤にして、流琉は大人しく撫でられているが。

どこか幸せそうにも見えた。

 

(……なんか、イラっとする……)

 

「ねえねえ、兄ちゃん。ボクも撫でてよぉ」

 

自らの内心の苛立ちの原因が分からずとも。何をして欲しいかははっきりしているのは、根が素直な娘の強みか。

季衣も、一刀に頭を撫でて欲しいとねだる。

 

「うーん、撫でてあげたいけど、これは流琉へのご褒美だからね。……そうだな。明日の鈴々との“勝負”に勝てたらしてあげる」

「ほんと!? 約束だからねー!」

「ああ。鈴々も今更だけど勉強してるし。頑張れ」

「よぉーし! 見てろよ、鈴々めー!」

 

そう言うと、季衣はまた目の前の料理を平らげ始める。

一刀はそんな彼女を微笑ましげに見ていたが。

 

「はふぅ~~~////(ぱたり)」

「あ、あれっ!? 流琉!?」

 

その間も頭を撫でられ続けていた流琉は、とうとう何かのキャパシティを越えてしまったらしく。

全身を茹で上がったかのように真っ赤にして倒れたのだった。

 

 

幸い流琉はすぐに意識を取り戻した。

その場を失礼した一刀は、更に酒宴会場を回る。

 

と。

 

「ほんごぉぉぉぉぉぉ!」

「うわっ!?」

 

突如背後からのタックル。と言っても大した威力はなく、一刀も多少バランスを崩した程度で済んだ。

 

「きしゃまがぁ! きしゃまがしっかりしてにゃいから!」

「しゅ、春蘭!? おいおい、相当呑んでるなぁ……」

 

この一年で、春蘭が泥酔すると、虎ならぬ“猫”になることは学習済み。

これが中々に厄介な絡み酒であることも理解していた。

となると、『対春蘭外付け抑制装置』であるところの秋蘭が必須。少し見回せば、すぐそこに座っていた。

 

「おお、北郷。姉者が済まんな。未だに『天下一品武道会』の件を引き摺っていてな」

「ああ、そうなのか(じぃーー……)」

 

普段なら春蘭を抑えることの出来る数少ない常識人だが。春蘭が“猫”になる程泥酔している場合、この双子の妹も一緒に酔ってしまっていて、役に立たない時があるのだ。

春蘭と違って、秋蘭は酔っていても表面上からはその程度を読み難い。

故に、そう言いつつも秋蘭をじっと観察する一刀だったが。

 

「ほんごぉ!聞いてるんかーー!ふーーっ!」

「いだだ!引っ掻くな!」

 

「ああ、姉者は可愛いなぁ……」

 

(やばい。この台詞が出る時は、秋蘭もかなり酔ってる可能性が……)

 

偶に素面でも言っているので、確信は持てないが。

とは言え、既にヒントは貰った。『天下一品武道会』ということは、愛紗との決着に納得がいっていない件だろう。

 

「愛紗の件はごめんな、春蘭。俺がしっかりしてれば、ちゃんと戦えたのにな」

「そのとおりにゃ! ゆうしょうしたし、かりんさまにほめてもらったし、ごほうびももらったというのに! わりゃしのこころは、ちっともはれないのにゃ! ぜーーーんぶ、きしゃまのせいにゃ!!」

「痛い!いだだだ! だから引っ掻くな! 噛み付くな!」

 

「ああ、姉者は可愛いなぁ……」

 

「さっきからそれしか言ってませんね、秋蘭さん!?」

「うむ。しかし、どうしようもないのでな。暫く我慢してやってくれ。ある意味、自業自得だろう?」

「う。そう言われちゃうとなぁ……」

 

一刀とて、もう愛紗の不調の原因は分かっている。

三国のバランスというものを考えれば、自分が他国の女性と深い関係になることは出来ない。

愛紗もそれは分かっている筈なのだが……

『国』が違うからと、慕う女性を袖に出来ないのが、北郷一刀という男であることを理解しているからこそ。

愛紗はどうしても悩み、苦しんでしまうのだろう。

 

(どうしたら、いいんだろうな……)

 

一刀もまた、現在の三国同盟の在り方に、苦悩する一人だった。

 

 

春蘭が不貞腐れて柱で爪とぎを始めた事で、ようやく一刀は解放された。

秋蘭に春蘭の相手を任せ、一刀は更に会場を巡る。

 

「おや、お兄さん。獲物を物色中ですかー?」

「なんて人聞きの悪い!?」

 

声を掛けてきたのは風。隣には稟も座っている。

 

「ほ、ほほ、北郷殿……」

「え、うん。どうしたんだ、稟」

「(もう! 穏殿が変な提案をするから、妙に意識を……)い、いえ。何でも。さ、此方へ。一献どうぞ」

「ああ、ありがとう。戴きます」

「?? 稟ちゃん、ちょっと様子が変ですねー?」

「な、なんでもないわよ。ちょっと昼間に色々あって、疲れてるのかも知れないわ……」

「おぉっ。そうでしたねー」

「なんかあったの?」

「……北郷殿。世の中には知らなくて良いことがあるのですよ……」

 

(本当に何があったんだ……)

 

「それはともかくですねー。お兄さん、今日は一日ありがとうございましたなのですよー」

「色々あったけど、楽しんでくれたなら何よりだよ」

「風は今日は、その。北郷殿と……あ、あ、あ……」

「はい、そこまでー。こんなところで鼻血は勘弁ですよ、稟ちゃん」

「むぐっ……ぅん、大丈夫だ。何とか耐えた……」

「……それも業の深い体質っぽいね。何とか治せるといいんだけど」

「なっ、治す!?」

「華佗先生も身体は健康だって言ってたし。精神的な問題なのかなぁ?」

「……治、す……慣、れ……れ、練しゅ……ぶふぅ!?」

「おわっ!」

「全く……はい、とんとーん。いい加減にしてくださいよー。というか、今の鼻血……」

「ふがふが……にゃに?」

「今の稟ちゃんの妄想……華琳様ではなく、お兄さんが対象になっていませんでしたかー?(-"-)」

「(びくぅ!)そ、そんな馬鹿な! この私が華琳様以外の方と!?」

「……じぃーーーーーー……」

「有り得ません!あって堪るものですか!?」

 

じっとりとした視線を稟に送り続ける風と、一刀から一人分距離を置く稟。

 

「一体、何がどうなってんの……?」

 

一刀だけが置いてけぼりの状況であった。

 

一刀が酒宴を一回りした頃。華琳が先日のガラス瓶を抱え、戻って来た。

こっそりその後ろから、先程逃げ出していた霞も付いて来ていた。

 

「……随分待たせてしまったわね。一刀、上座へ来なさい」

「ん、分かった」

 

また最初の配置に戻った一刀と華琳、桂花。

 

「……実は私と桂花で造った酒をあなたに味見して欲しいの」

「そうなの? 俺なんかで分かるかなぁ」

「これはあなたにしか判別出来ないのよ。さぁ、呑んでみて」

「ああ。戴きます」

 

華琳の手ずから注がれた酒を口元に運ぶ。

 

「あ……」

 

口に付ける直前。酒から立ち上る香りが、その酒が何であるかを一刀に悟らせた。

そして、ゆっくりと呑み干す。

 

「……ふぅ……」

「……どう、かしら?」

「………」

 

珍しく緊張した面持ちで華琳が尋ね、桂花は無言なれど視線で様子を窺っている。

 

「うん……懐かしい。特にこの香りがね……。正直、味は余り覚えてないから、どこまで似ているかは分からないけど……とにかく、懐かしいよ……うん。美味い」

 

一刀は独白のように語った。

そう。華琳と桂花が造った酒は、米を発酵させて造った醸造酒――『日本酒』だったのだ。

 

「……そう。あなたが認めるならば成功でしょう。さ、お呑みなさい」

「ありがとう、華琳。桂花」

 

一刀はやはり香りを楽しみつつ、日本酒をもう一杯呑み干した。

 

 

「あィやァ、これィは美味そうな酒ィでありンすねィ♪」

 

 

『――!?』

 

大広間の上座の少し手前。一刀へと声を掛けた男がいた。

ひょろ高い体躯。履いている高下駄の為に、尚更背が高く見える。

片手で煙管を弄び、もう片手は胸襟の中。着崩した派手な衣装に、結い上げた髪に挿さされた多数の簪。

 

その酒宴に参加していた、三国に誇る魏の武将の誰もが、その存在がいつからそこにいたのかすら、分からなかった。

 

「――管輅ッ!」

 

華琳がそう叫びつつ、立ち上がる。その手には大鎌『絶』が握られていた。

春蘭を初めとした魏の武官達は、各々の武器を構え、目の前の男を牽制している。

 

庭からは『颶鵬』を構えた紫苑、『豪天砲』を構えた桔梗、そして『多幻双弓』を構えた祭。

大広間の入り口からも、其々の愛器を構えた蜀将・呉将の面々。妖術に対抗する為か、軍師達の姿もあった。

 

「おンやァ、これィはまた皆さんお揃いでェ。あちきにィ、何ぞォ御用でもありんすかィ?」

「いけしゃあしゃあと! 貴様が妖術師の類であることは明白! この曹孟徳から何を奪う気かは知らぬが、易々とそれを許すと思うたか!!」

 

戦時の如き覇気。しかし、華琳の迫力にも管輅は全く動じもしない。

 

「昨晩ン、あちきは『貴女様ン、最も大事な“モノ”でもォ戴きやしょオかねィ』と申しィ上げたまでェ。それが何かァなンざァ……明白じゃアありやせンかねィ?」

「貴様は金は要らぬと言った。ならば――我が愛する部下達しかないわ。この状況で貴様に何が出来ると言うか!?」

 

管輅は袖で口元を隠し、仕種だけを見れば上品に笑ってみせる。

 

「ほっほっほっ……そいつァ、さァぞかし大切でェござんしょオが……もうお一方、“大事なァ方”がァ居られるじゃアありんせンかィ?」

「!?」

 

華琳の動揺を見て、管輅はそこまで完全に状況を把握することに努めていた一刀へと話し掛ける。

 

「お初にィ御目に掛かりィやす。あちきン名は管輅。大陸一ン占い師ざんすよォ♪」

「初めまして、管輅さん。……はぁー、正直想像してた人物とは随分懸け離れてるなぁ」

「そうでェありんすかィ? ほっほっほ!」

 

全く緊張感を出さない一刀に、寧ろ華琳がキレた。

 

「一刀!何をのんびりやってるの! 私の後ろへ隠れなさい!!」

 

「まぁまぁ。俺はまだ管輅さんの“用件”を聞いてないんだ。もう少し待ってくれ」

「こっ!こんなときにまでッ!?」

 

「ほっほっほ! 流石はかの『大徳』を支え続けし『天の御遣い』様よォ。大したァ胆じゃアござんせンかィ♪」

「ありがと。で、華琳たちにこれだけの防備をさせる程の言葉。さっき少し聞いたけど……その真意を知りたいな」

「そォでありんすねィ……まァずは、そン天界ン酒を一献、戴けやござんせンかねィ?」

「ああ。いいよね、華琳?」

「……ッ! 好きになさい!!」

 

管輅は座ったままの一刀へと近づき、跪いて彼の杯を受け取る。一刀はそのまま管輅へ酌をする。

管輅は、その日本酒の香りを楽しみつつ、一気に呷った。

 

「ふィ~、こいつァすげェ。ほォぼ“再現”出来てるじゃアござんせンかィ?」

「!?」

 

管輅はにやりと一刀へ笑いかける。一刀は、管輅のその言葉に大きな衝撃を受けていた。

 

「管輅、さん……あなたは……!?」

「さァてィ……こっからがァ本題にありんすよォ。まァずは北郷一刀様ァにィ、こいつを見てェ戴きてェ」

 

一旦元の位置まで下がった管輅は、先日と同様、胸元から銅鏡を取り出し、その鏡面を一刀へ向ける。

 

「え!?」

 

一瞬銅鏡が光ったかと思うと、鏡の中に、ある風景が映っていた。

その風景に、思わず一刀は立ち上がっていた。

 

 

白い壁。化学繊維の紐。ガラスに封じられた発掘品の数々。

かつて一刀が通っていた学園、聖フランチェスカ学園の敷地内にある歴史資料館の一角だった。

 

 

「…………」

「一刀? 一刀! あれは……何なの!?」

「……見たこともない風景が……鏡に映っている……!?」

 

一刀の隣にいる華琳と桂花にもその風景が見えているようだ。

 

「……あ、れは。俺が元いた世界、だ……」

「て、天界の風景!?」

 

桂花のヒステリックな叫びに、周囲を囲む武将達にも動揺が走った。

 

「――北郷一刀様ァ。今ァこン銅鏡は、あちきン霊力と星辰ン力で『あちら』ン銅鏡と繋がってェござんす。もォし貴方様ァが望むンならばァ、こン鏡へ飛び込みなせェ。そうすりゃア、『あちら』へ帰ることが出来るざんすよォ?」

 

『――!!?』

 

管輅が放った言葉に、周囲の誰もが動揺を隠せない。

『天の御遣い』北郷一刀が天界へと帰る!?

 

「今この時を逃せばァ。次に星辰が揃うンは百年以上先でェござんすからねィ。貴方様にとっちゃア、最後の機会――ラストチャンスってェ奴でありんすよォ?」

 

誰もが動けなかった。今、自分が動くことでこの均衡が破れることを、誰もが恐れていたのだ。

 

「…………」

 

一刀が、一歩、前に進んだ。

 

その瞬間、三国の武将達に更なる緊張が走る。

 

しかし、そんな中動いたのは、管輅と唯一面識のあった桃園の三義姉妹だった。

 

「「「管輅(ちゃん)!」」」

「おォ~、こいつァお久しゅうありんすねィ、玄徳様ァ方ァ♪」

 

三人は一刀と管輅の間に入り込んだ。

 

「お願い! 私達からご主人様を奪わないで!」

「ふゥむ。勘違ァいせンで下せェなァ。あちきはァ、北郷一刀様ァへ“選択の権利”を与えたのみィでありんすよォ?」

「選択の権利、だと!?」

「へェい。こンお方はァ、望んでこン世界に来なすったァ訳じゃアござんせんでしょオ?」

「あ、あぅ。確かに、お兄ちゃんは初めて会った時、何で此処にいるのか分からないって言ってたのだ……」

「あちきはァ確かに『天の御遣い』が乱世を平定する、とォ予言しやァしたァ。しかしてェ、そン通りにィなったでござんしょオ?」

「う、うん……」

「しかァし。今や三国同盟にィ、歪みが出ているのはァ……まさァしく北郷一刀様ァンせいではござんせんかィ?」

 

管輅の言葉に、誰もが反論出来なかった。

 

「故にィ。あちきは今こン時を以って参った次第でェありんすよォ。北郷一刀様ア『天の御遣い』としてェ、見事その役目をお果たしィなさったァでありんす。ならばァ、今ァこそ『天界』へ帰る機会を与えられる権利がある、と思うンざんすがねィ」

 

「「「…………」」」

 

沈黙する桃園の三義姉妹。

 

「さァ、北郷一刀様ァ。ご決断なせェ。そうそう長くは繋げていられねェざんすよォ」

 

無意識に一歩動いてから、一刀は呆然と管輅の言葉を聞いていた。

心の中は、驚きばかりで思考は空っぽだった。

 

そこへ響いたのは、一刀にこの世界での“役割”、成すべき“事”を与えてくれた女性――桃香の叫び声。

 

 

「――それでも! 私達の誰も! ご主人様を失いたくないの!!」

 

 

「――!!」

 

桃香の言葉に、一刀は確かに身体が――そして、心が震えた。

 

そして、ようやく上着の裾を引っ張られる感覚があることに気付いた。

思わず後ろを見ると、上着の裾を両手でちょこんと掴んでいたのは……華琳だった。

 

 

「――帰って、しまう、の……?」

 

 

その言葉を聞いた一刀は、その両目を見開き。それから肩を落とし、大きく息を吐いた。

 

「はぁ~……情けねえ……」

 

一刀は、華琳の頬に掌を当て。

 

「か、一刀?」

「……ごめんな、華琳にそんな顔をさせちゃって。もう、大丈夫だよ」

 

とだけ言った。

そして、一旦大きく深呼吸し。

 

「管輅さん」

「……へェい」

 

管輅へと語り出した。

 

「ありがとう。あなたのお陰で、俺は心の何処かにあった迷いを見つけることが出来たよ」

「…………」

「正直……俺に、まだこんなに望郷の念が残ってるとは思ってなかった。でも……」

 

一刀は前へと進み、桃園の三義姉妹を掻き抱く。

 

「「ご主人様……」」「お兄ちゃん……」

 

「俺はもう、あの世界に帰る気はないんだ」

「……そォでェありんすかィ?」

「そうだな。手紙でも送れるなら送りたいところだけど。何せ登校中に『こっち』へ来ちゃったから、『あっち』じゃ行方不明者扱いだろうしなぁ。とんだ親不孝者になっちまってるからさ」

「そォでェござんしょオねィ」

「まあ時間がないんじゃ仕方ない。もし、あなたに『あっち』へ言葉を送ることが出来ることがあったら、“北郷一刀は元気にやっている”とでも誰かに伝えて下さい」

「それでェ……よォござんすねィ? 二度ォ目はァ、ござんせんよォ?」

 

一刀は、三人を手放し。管輅と二人、真っ直ぐに向き合った。

 

 

「――二言はない。俺には、守るべきものが、此処にある」

 

 

そう、はっきりと宣言した一刀は、確かに覇気を纏っていた。

 

「……へェい。承知致しやしたァ。――こいつァ、とンだお節介だったよォでありんすなァ。ほっほっほ!」

 

一刀の言葉と表情、そして纏う雰囲気を見た管輅は、笑いながら銅鏡を胸元に仕舞いこんだ。

 

「そォれではァ、皆様ァお騒がせェ致しやしたァ。あちきはこれにてェ……ごめんなせェイ」

 

管輅がゆっくりと頭を垂れる。その言葉と所作にハッとした華琳が叫ぶ。

 

「思春! 明命!」

 

呼び掛けに、突如天井裏からその二人が現れ、管輅を取り押さえようと頭上から迫る!

 

『ほっほっほっほっ!! 曹孟徳様ァ、ちィったァ素直になりんせんとォ、いつか“大事な方”ア無くしちまうかもォ知れぬざんすよォ? これは占い師じゃアねェ、人生ン先輩ィとしてェの助言にィござんす。あァ、報酬はァこン酒を戴いてェいきやすんでェ、お構いなくゥ……』

 

しかし、彼女達が床に着地した時には、自称『大陸一の占い師』は忽然と姿を消しており、そんな言葉だけが大広間に響いた。

 

その後、一刀は抱き付いて離れない桃園の三義姉妹を慰めながら、護衛に待機してくれていた皆に礼を述べた。

 

「みんな、ありがとう。俺は……何処にも行かないから」

 

 

「もう……心配で胸が破裂するかと思ったよぅ……」

「ご主人様……ご主人様ぁ……」

「お兄ちゃん、いなくならないで良かったのだぁ……」

「俺が帰る場所はみんなのいる此処だけだ。どこにも行かないよ。心配掛けてごめんな」

 

蜀将から星が一人、一刀の前まで進んできた。

 

「星……」

「蜀の者は皆、主へ言いたいことがございますが。某が代表して一言申し上げる」

「……うん」

「(――今夜は寝られると思わぬことです。ふふっ)」

「…………え? 代表の一言がそれか!? い、いやちょっと待て! 何人いると思ってんだ!?」

「はっはっは!それこそ自業自得でございましょうや!」

 

からからと笑いながら、星は背を向けて歩き出していた。

蜀将、軍師達も一礼して去っていく。

――その誰もが瞳に怪しい光を宿らせて。

 

(俺は……今晩死ぬのかもしれない……)

 

一刀が妙な絶望感に打ちひしがれていると、いつの間にやら呉の将達が前に来ていた。

 

『(じぃーーーーーー)』

 

一刀を半囲みにして、誰もがじっとりとした視線で睨みつけていた。

 

「皆さん、目が怖いです……」

「……心臓に悪いことしないでよ、馬鹿……」

「……ごめん」

「お姉様の言う通りよ! 本当に……帰ってしまうのかと……」

「シャオを置いてなんて……そんなの許さないんだからね……!!」

 

雪蓮ですら暗い鬱々とした顔。孫家の妹二人は涙を流していた。

 

「ふん。まあ最後の一言は見事であったぞ、北郷。おぬしの“王”の器、確かに見せて貰った」

 

そう語るのは祭。

……その片腕は、半泣きの明命に抱きつかれており、今ひとつ威厳はなかったが。

 

「ああ。もう、大丈夫だ。寧ろ……管輅さんには感謝しなきゃな。心配かけて、ごめんな。みんな」

「……反省はしているようだな、全く。――ではまた明日に。これにて失礼しよう」

 

一刀の言葉に呉将たちは頷き、冥琳の言葉を皮切りに皆その場を後にする。

そんな中。只一人、思春だけが出入り口で一旦立ち止まり。

 

チリーーーン……

 

横目に一刀を睨みながら、無言のまま、懐から取り出した鈴を一度鳴らす。

 

(……次に蓮華を泣かせたら、俺は“くびちょんぱ”っすか……?)

 

顔を青ざめさせた一刀を確認し、思春も大広間から去ったのだった。

 

 

 

「じゃあ、ご主人様。私達も戻るね――あんまり遅くならないでね?」

「…………////」

「にしし♪ また後でね、お兄ちゃん♪」

 

呉将が戻って暫し。ようやく気が治まったか。桃香、愛紗、鈴々も部屋を去った。

 

「そ、そうだね……ははは。なるべく早く戻るよ……」

 

私室に戻れば……蜀の首脳陣勢ぞろい、という状況を想像し。思わず言葉尻が窄む一刀であった。

 

 

 

大広間には元の通り、魏の人間だけが残った。

 

となると、今度は魏将らからの酌攻勢が始まった。

 

「おらぁー!呑め!呑め!呑め!」

「し、霞さんっ!? 瓶を無理矢理口に押し込まな……げふごぐぼ!!」

「ウチに、あんなこと言うといて! このやり場のない怒りを思い知れっちゅーねん!」

「がぼがぼ!!(いまここにやり場が出来てますよ霞さん!?)」

 

「……北郷。貴様、華琳様を泣かせなかったか!?」

「しゅ、春蘭っ!? な、泣いてはないよ!?」

「泣いて“は”いない、と?」

「秋蘭まで!?」

「あの方を悲しませた罪は重い!そこに直れ!!」

「うむ。万死に値するな――と言いたいところだが。北郷を殺してしまっては、華琳様は悲しまれるだろう、姉者」

「にゃ、にゃにぃ!? ではどうしろと言うのだ!?」

「……罪の重さの分だけ、酒を呑ませてはどうだ?」

「そ、そうか!よし、では呑め!呑め!呑め!呑めーーーー!」

「で、でじゃぶーーー!!」

「天界の言葉は分からんぞ!そらそらそらそらぁーーー!」

「がぼげぶごッ!!」

 

「北郷様ッ!余りご心配を掛けられては困りますッ!」

「は、はいっ!すいませんでした、凪さん!」

「北郷さーん!何もなくて良かったの~!」

「さ、沙和さん!? ちょ、ちょっと抱きつくのは……(うっ、結構大きい……)」

「ホンマ、心臓に悪いで、北郷はん……まだまだ聞きたいネタがえろうあるんやから……」

「さ、沙和を離すの手伝ってよ!……ネタなんて、これからいくらでも教えるから、さ」

「約束やで?……ほれ、沙和。そんくらいにしとき。凪が怖~~い眼で睨んどるで?」

「なっ!? そ、そんなことは……////」

「ちぇ~、それじゃあ仕方ないの……北郷さん。また、一緒に意匠考えて欲しいの!」

「ああ、そうだな。今度は誰に着せようかな?」

「えへへ♪ 沙和もいっぱい考えておくの!」

 

「……」

「兄様は……もう、何処にも行かないんですよね?」

「ああ。俺は何処にも行かない。この世界で、みんなと一緒にいるよ」

「よかった……季衣?」

「……兄ちゃんのばかぁーーーー!(ゴォン!)」

「ごふっ!?」

「兄様ぁーー!?」

 

「……そこにお座りなさい、北郷殿」

「は、はい」

「いいですか。仮にも貴殿(あなた)は蜀の主。まして『天の御遣い』という名声もおありになる。その影響力たるや、我等が主で在らせられる華琳様にも匹敵するものです。それを……(ガミガミガミ)」

「ハイ、ソウデスネ、オッシャルトオリデス……」

「……お兄さん。右から左へ聞き流してますねー?」

「ソンナコトナイヨ?」

「……どうやらオシオキが必要のようですねー。これが何だか分かりますかー?」

「紙の手紙?」

「そうです。一昨日、恋ちゃんの家でお兄さんがやらかした、あることないことが書かれている手紙なのです」

「ちょっ!? “あること”はともかく、“ないこと”って何!?」

「いざという時の為に、全く同じ内容の手紙を三通書いておいたのです」

「ま、待って!?」

「一通は華琳様に。一通は愛紗ちゃんに。一通は……孫家ご一同様宛なのですよー。ふっふっふ」

「それだけは!それだけはご勘弁を!!」

「……風が最終的に言いたいことは、稟ちゃんと同じなのです。ですので、稟ちゃんのお説教を全て聴いて戴きますよー」

「……はい」

「では稟ちゃん。もう一度最初からお願いしますねー」

「任せなさい、風。……仮にも貴殿(あなた)は蜀の主。まして『天の御遣い』という名声もおありになる。その影響力たるや、我等が主で在らせられる華琳様にも匹敵するものです。それを……(ガミガミガミ)」

「…………」

 

 

 

ようやく場が落ち着き、

魏の皆は、それぞれがまた宴を楽しんでいる。

一刀は、再び上座で華琳と並んでいた。

 

「ハイ、ゴメンナサイ、モウシマセン……」

「……一刀。いい加減、正気に戻りなさい」

「はっ! あー……稟の説教って長いのなー……」

「それだけ心配を掛けたということよ。身にも心にも沁みさせなさい」

「……そうだね」

「ふん!あんたなんか、さっさと天界でも地獄でも行っちゃえば良かったのよ!!」

「けいふ――」

「まあそういうなよ、桂花。俺はまだ、この世界でやりたいことがあるんだ」

「……」

 

いつもの憎まれ口を叩いた桂花を華琳が叱ろうとしたが、一刀がこれに割り込んだ。

 

「やりたいことですって!? あんたみたいな自動孕ませ器械に何が出来るって言うのよ!」

「どんな器械だ、そりゃ……。さっき、管輅さんは俺が使命を果たした、みたいに言ってくれたけど……この世界はまだ泰平には程遠い」

「……そうね」

「…………」

 

戦乱によって逃げ出していた農民達は、元いた田畑へと戻りつつあるが、地方豪族の荘園に囲われている者も多いし、戦によってこの大陸の人口が根本的に激減しているのは純然たる事実である。

 

経済も安定しつつあるとは言え、その恩恵は都市部が大半であり、大陸の大部分を占める農村の民達は未だ貧しい暮らしから脱却出来ていない。

 

治安もまた、地方へいけば行くほど悪くなる。黄巾党のような大規模なものこそないが、山賊や盗賊は後を絶たない。

天災や疫病への対処も、三国同盟の力が及ぶのは、三国首都や各州の州治――都市部とその周辺がやっと。

 

三国同盟が成した平和は、未だ都市部に限定されていると言っても良い段階だった。

 

「俺は、みんなが『天』と呼ぶ別の世界から来た。だから、この時代よりもずっと先の――ほぼ二千年という時間を掛けて人間が作り上げた知識の一部を知っている。俺がこの世界に出来る、本当の“恩返し”は、これからが本番なんだ」

「「恩返し……?」」

 

一刀の発言から出た、不思議な言葉を華琳も桂花も聞き返していた。

 

「ああ。俺はこの世界に落ちてきたときは、只のガキだった。それこそ野垂れ死にするのが関の山だった筈だ。でも……そんな俺に、この世界は“役割”をくれたんだ」

「それが、『天の御遣い』……?」

「呼び方はどうでもいいけど。爺ちゃんが良く言ってたんだ。『世に生を得るは事を成すにあり』ってさ」

「…………」

「俺は、桃香や愛紗、鈴々の『理想』を手伝うことから、自身の“事”を見出すことが出来た。だから……俺が“生を得た”ことに対する恩を、この大陸の全てに返したいんだ」

 

一刀はそこまで語ると、一旦言葉を切り、杯を傾けた。

 

華琳は、その一刀の横顔をじっと見つめている。いつもの不敵な笑み。しかし、どこか陶然としているようにも窺えた。

 

桂花は、歯を食い縛り、一刀を睨みつけていた。彼女は認めたくなかったのだ。この男に、王の器を感じた自身の感覚を。

 

「うーん、それにしても……折角の日本酒。もうちょっと味わいたかったなぁ」

「次の三国会談にでも呑ませてあげるわ……一刀」

「なんだい、華琳?」

「あなたはあの酒を懐かしいと言ったけれど。もし……また天界へ帰る手段が分かったら……」

 

唐突に、華琳がそう零し、俯く。

一刀は、ほんの少しだけ間を置いて。

 

「言ったろ。俺の“恩返し”はこれからだ。そして、きっと――それは俺の生涯の全てを懸けることになる」

 

「そう。ならばいいわ――」

 

一刀の返答に、華琳はその真名の如く。華やかな光を放つ宝石のように微笑んだ。

 

 

 

続。

 

諸葛瞻「しょかっちょ!」

曹丕「そうっぺ!」

周循「しゅうっちの!」

 

三人「「「真・恋姫†無双『乙女繚乱☆あとがき演義』~~~☆彡」」」

 

諸葛瞻「お読み戴き多謝でしゅ。諸葛亮こと朱里の娘にして北郷一刀の第23子、しょかっちょでしゅ!」

曹丕「乱文乱筆なれど楽しんで戴けたかしら。曹操こと華琳の娘にして北郷一刀の第9子、そうっぺよ♪」

周循「少しでも面白いと思って下されば重畳。周瑜こと冥琳の娘にして北郷一刀の第25子、しゅうっちで~す☆」

 

 

諸葛瞻「まじゅは元ネタ話がひとつでしゅね」

 

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○議題:兵法書『孟徳新書』に関して

 

諸葛瞻「本作中にて華琳様が出展していた兵書『魏武註孫子』と『魏武新書』についてでしゅ」

 

曹丕「お母様が兵法家として如何に傑物であったかを示す、代表的な好例ね」

 

周循「原作中では『孟徳新書』なる書が呉ルートで出ているな」

 

諸葛瞻「そうでしゅね。恋姫†無双は『三国志演義』を元としていましゅので、そちらに倣い『孟徳新書』の書名を採用したのだと思われましゅ。でしゅけど、『三国志演義』だと燃やされちゃうんでしゅよね、この書物」

 

周循「そういえば、張松に笑われた事で怒り焼き捨てていたな。筆者は横山先生の漫画でしか読んでないらしいが」

 

諸葛瞻「こほん。正史ですと、兵書『孫子』を曹操が編纂した、現存する十三篇を『魏武帝註孫子』と呼びます。曹操はそれ以外にも複数の兵法書を編纂していて、そのうちのひとつが『(魏武帝)新書』です。ウィキ先生によると『三国志演義』で燃やされた『孟徳新書』は恐らく『孫子』の注釈書の事ではないかと言われているそうです」

 

曹丕「で、色々考えた結果、本作では『魏武帝註孫子』と『(魏武帝)新書』を別の書物として扱うことにしたと」

 

周循「また、正史では息子が皇帝になったことで、“武帝”と諡(贈り名、死後贈られる名前)されたので『魏武“帝”註孫子』となっていますが、本作の皇帝は父・北郷一刀ですので、“帝”の字を省いています」

 

諸葛瞻「(ぷしゅー)まー、何だか色々言いましたが。華琳しゃまが稀代の兵法家であり、しょの華琳しゃまが御自ら編纂した兵書は、兵法家垂涎の名著であるということだけ分かって戴ければ十分でしゅ~」

 

曹丕「結局のところ、結論はそこなの? 説明する意味ないじゃない……」

 

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曹丕「それでは、今回のゲストを紹介するわ。さ、自己紹介なさい」

 

 

魏熾「よお! 魏延こと焔耶の娘で、北郷一刀の第18子。魏熾(し)だ! 諱は、母・焔耶の“焔”から、“火が盛んに燃える”という意味の「熾」を採用したんだそうだ」

 

馬承「みんな元気~☆ 馬岱こと蒲公英の娘にして北郷一刀の第28子、馬承(しょう)ちゃんだよ~ん♪ 史実だと馬岱には子供がいないので、馬超の次男から諱を貰ったんだって」

 

 

周循「熾姉さんはそうっぺと同じ年長下級(小5クラス)、承は私やしょかっちょと同じ年少上級(小4クラス)ですね」

 

諸葛瞻「こほん。一点報告を。今までゲストを3人ずつ呼んでいましたが、このペースだと途中でネタ切れになるということに、ようやく筆者が気付きました。よって今後は基本的には2人ずつにするそうです」

 

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○質問:特技・特徴は何ですか?

 

魏熾「オレは何と言っても『五斗米道』の医術だな! 華佗師匠直伝の鍼術は、免許皆伝こそ得られてないが、弟子随一と謂われてるぜ!」

 

四人「「「「…………」」」」

 

魏熾「何だお前等、その反応は!?」

 

馬承「だって~。焔耶様と全く同じ髪型の熾ぃちゃんがさぁ、そのまんま“医者の卵”ってのは、読者様も“ああ、やっぱそうなんだ”って思ってるんじゃないの~? 意外性がないって言うか?」

 

魏熾「……もうお前は治療してやんねえ」

 

馬承「や、やぁ~~ん! 嘘、嘘ですぅ、熾お姉様ぁ~ん♪ そんなこと言わないでぇ~! ……ホント、マジで命に関わるから……」

 

曹丕「まあ許しておあげなさい。熾の『気功』と鍼の治癒術は洛陽学園の武官候補の娘達にとっては、本当に生命線と言っていいわ。年長組の組み手の怪我から、年少組の宏【雛里】と幼年上級の譚【麗羽】を中心とした諍いまで。彼方此方でひっぱりだこなのよ。特に、前回のゲストだった孫紹【雪蓮】が暴走した後などは、熾がいないと大惨事だわ」

 

魏熾「オレは実地研修だと割り切ってるんで、構わないけどな」

 

諸葛瞻「承ちゃんは宏ちゃん【雛里】に引っ張り回しゃれて、いっつも尚(しょう)ちゃん【斗詩】や琮(そう)ちゃん【亞莎】と戦ってましゅからねぇ。熾お姉しゃまには毎日のようにお世話になってましゅね」

 

馬承「承は武官になる気ないのに、宏【雛里】が戦闘員扱いするんだもん……。馬に乗るのは好きだけど、体育会系にはついていけないよぉ~。一応、お母さまや翠さまから槍術は習ってるけど……。お母さま直伝のトラップは得意なんだけどね、えへっ☆」

 

周循「ふむ。かといって承は正直、文官になる程勉強熱心という訳でもないだろう? 何か目標はないのか?」

 

馬承「えへへ~! 馬承ちゃんったらぁ、こんなに可愛いんだもん☆ 勿論、目指すはアイドルよ♪」

 

四人「「「「 へー 」」」」

 

馬承「なぁんでみんなしてそんな反応なのぉ~~~!?」

 

周循「姉妹はお前の『ぶりっ子』には辟易しているからな……。いや、嫌われている訳ではないぞ。寧ろ、そのオーバーリアクションが面白いからイジられているというか」

 

馬承「……もういいもん……」

 

曹丕「そういじけないの。実際、承の歌声は人和様にある程度認められているそうよ。これからの訓練次第では、本当にアイドルデビューも有り得るかもね」

 

馬承「そうっぺ、それってほんと!? やぁ~~ん、やっぱ見る人が見れば、馬承ちゃんの魅力が分かっちゃうのね~~☆」

 

曹丕「嘘に決まってるでしょ」

 

馬承「嘘ぉ!?」

 

曹丕「嘘よ。くすくす……。人和様は、芸能に関しては厳しい方よ。あの方がそう言うのだから、才能はあるのでしょう」

 

馬承「……承って苛められっ子なのかな……。ああッ、悲劇の美少女って、承に似合うかも!?」

 

周循「そのタフさがあるから、余計に皆からイジられるのだよ、承……」

 

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○質問:特に仲の良い姉妹は?

 

魏熾「あー、オレは治療役ということもあるんで、武官候補の姉妹とは大概仲が良いな。お袋たちは仲が悪いが、承とも仲はいいぞ。きゃんきゃんうるさいが、これはこれで可愛いもんだ」

 

馬承「やん、熾ぃちゃんたら♪ こんなところで告白な・ん・て☆」

 

魏熾「……(無言で鍼を刺す)」

 

馬承「痛い!? 痛いです、熾お姉様! あいだだだ!マジ痛いのぉ!?」

 

魏熾「まあこんな感じで、娘であるオレたちの仲は良い」

 

馬承「しくしく……」

 

曹丕「そう言えば、熾は早くから華佗に弟子入りしたせいか、すっかり『男言葉』になってるのよね。お父様が一時矯正しようとしたんだけど、結局駄目だったのよね?」

 

魏熾「尊敬する華佗師匠の真似をしてたら、すっかり身に付いちまったからなぁ。親父には悪いけど、これはもう直んねーよ」

 

馬承「はーい、じゃあ次は馬承ちゃんね☆ 当然、馬一門である秋お姉様【翠】とは仲良しよん♪ 同年代だと……認めたくないけど、宏【雛里】とはよく遊ぶというか、引っ張り回されてるというか……お陰で玉の肌に傷が絶えないんだからぁ! あと、お姉様方の中だと、孫登様【蓮華】ともよく遊んでるよ♪」

 

曹丕「孫登【蓮華】も相当あなたをイジり倒してる気がするけれど……」

 

馬承「あれは愛! 愛ですよね、孫登様【蓮華】!? うん、愛の筈……」

 

諸葛瞻「本人は否定してましゅけど、孫登様【蓮華】も結構なS気質な方でしゅからねぇ……。このように、承ちゃんは意外にも彼方此方で振り回される苦労人なのでしゅよ」

 

馬承「しょかっちょ~~!フォローありがとーー!」

 

諸葛瞻「しょかっちょも普段は面倒なので、放っておいてましゅけどね」

 

馬承「がーん!!」

 

 

 

曹丕「今回は承がいたから賑やかだったわね~」

 

諸葛瞻「そうでしゅねぇ。あの明るさは馬一門の二人が愛される大きな要因でしゅね。こほん。さて、現在リクエストに星様と凪様の御子様が残っているのですが、ちょっと組み合わせの問題もあり。またゲストのリクエストを募集致します。皆様、是非ともコメントをよろしくお願い致します(ぺこり)」

 

周循「それではゲストのお二人もご一緒に。せーのっ」

 

 

五人「「「「「バイバイ真(ま)~~~☆彡」」」」」

 


 
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