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呂北伝~真紅の旗に集う者~ 第039話

どうも皆さんこんにち"は"。

あけましておめでとうございます。
年末年明けはいかがお過ごしだったでしょうか?
僕はもう仕事疲れを取ることに必死でしたww

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2020-01-20 19:24:58 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:1692   閲覧ユーザー数:1587

 呂北伝~真紅の旗に集う者~ 第039話「自己意識」

 宴は終わり、楼杏が天水に向かった後、劉備達は一刀に直接懇願した。「未熟な我らを鍛え欲しい」と。平原から扶風までの道のりは遠い。幾つもの郡を越えるだけに、準備期間も必要だ。その間、未だ統治の初歩すら知らない三人は一刀に統治の何たるかを学びに来たのだ。

 

一刀は「仕事の邪魔をしないなら」という条件付きでそれを了承した。また、本来であれば劉備は直ぐにでも出立し、平原に着任し内政に励まなければならないが、そこは楼杏の口利きもあり、しばしの扶風の滞在が認められた。

まず劉備は一刀の下にて墨を擦る係として付いた。一日に幾つもの案件を抱えている一刀達にとって、墨汁はいくらあっても足りないぐらいだ。それに一刀からすると、劉備にはまだまだ学ばなければならないことが足りない程多すぎる為に、自らの統治方法論など語っても彼女が知恵熱を出して終わりである。なので、自らがどの様にして仕事を裁いているかを、実際に流れを見てもらいことから始めることにした。

関羽は郷里の下に付けた。現状、重臣が二人しかいない劉備にとって、関羽は将来的に劉備の右腕とならなければならない。元来の生真面目気質の関羽であれば、一刀の右腕として働く郷里の言も全て吸い込もうとするだろう。

しかしながら、一刀は関羽の欠点も見抜いている。その生真面目すぎるが故に、劉備の尊厳を侮辱されれば激昂しやすいということを。よって今の関羽に必要なのは、冷静に物事を判断し、そして主君への盲信に酔いしれることなく、間違っていればそれを正す真の忠誠を身に着けることにある。

張飛に関しては、学が乏しく直情的な性格なので比較的時間が空いている(らしい)という白華(パイファ)に預けられ勉学の基礎的なことを学ばされることとなった。

勉学と聞き、本人は内心逃げ出したい気持ちで目一杯であり、聞いた瞬間では不満を零しそうになったが、その時一刀が一つ張飛の顔を覗き込んだ瞬間、彼女は直立敬礼をして素直に従うことを確約した。また、幼い者に勉学を教え込むこと自体、白華にとっては苦ではなく、喜々として取り組んでいる。決して27ぐらいから徐々に出てくるという年の功ではない。

 

「お客さん、早く頼んだもの食べてくれませんかね?あっしらが丹精込めて作った出汁なんですから。あぁ~ほらもう冷めちゃったじゃないですか。温め直しやすから、次は食べて下さいね」

現在、三姉妹は街の定食屋にて昼食を食べている筈なのだが、関羽の蓮華を持つ手は、筋肉の緊張にて手が震え、大食漢である張飛に関しては、何かの念仏を唱える様にして、机に打っ臥している。長女である劉備も、顔には寝不足であるのか目の下に若干隈が出来ているのか、瞼の下が若干黒味を帯びているが、それでも比較的二人よりは軽傷であるのか、今も関羽を気遣っては、張飛の背中を撫でている。そうして現在では、張飛の手つかずであった、アラの出汁は定食屋の主人が文句を言いながらも一度下げられ、温め直しを行なっている。そんな主人に対し、劉備は何度も頭を下げながらも、また二人の看病に戻っている。

 

三人それぞれが、日々の訓練をこなしつつ、休憩時にはこうして三人で集まって、互いの傷を舐めあっている。

関羽の朝は腕が上がらなくなるまでの素振りから始まり、日が昇り始めた頃にて郷里との打ち込み稽古。それから郷里の事務処理の手伝い。彼女に付き従っての、領内の視察に見回り。ひいては郷里の監督下にある軍事演習にまで参加させられる。関羽自身の訓練も付けるが、無料で訓練に構うほど基本的に郷里も暇ではない。主君の右腕としてやっている自身の仕事を体験させているのだ。関羽に任せる事務仕事も主に簡単な案件ではあるが、その量は膨大である為に、朝の訓練と相成って筋肉の緊張が続き腕も上手く動いてくれない。また郷里による仕事のチェックが入り、間違いがあればあるだけその場にて腕立て50回をさせられる。戦場にて獲物を振るい続けている関羽にとって、普段であれば50でも100でも200でも造作はないが、朝の訓練にて硬直した筋肉を無理やり動かすために、1つでも増えれば泣きを見るのだ。

無論この昼休憩が終われば、午後の仕事に加え午後の訓練が続く。

張飛はひたすら孫子の兵法の書き取りをさせられている。頭に刻み込まれるまで、ひたすら朝から夕方まで音読をしながら。途中にて白華のおやつ休憩が入るのだが、普段は喜んで食べるお菓子も文字の見過ぎにて疲れた頭に甘い物を巡らせる作業の一環としてか、モソモソとリスの様に食べるらしい。しかし、ただ白華が教えるだけであれば、張飛もこれほど精神への疲弊を起こさない。

たまに一刀が遊びに来ては、抜き打ち試験と称して問題を書いた竹簡を持参するのだ。それに試験の点数が8割以上取れていなければ、一刀の辛辣な説教が始まるのだ。抵抗しようものであれば、初めて会った時の様に頭を掴まれ、蟀谷(こめかみ)を締め上げられるかと思うと、恐怖で体が動かず、ただただ正座して、時に合図地を打ちもって、黙して時間が過ぎるのを待つだけであった。

実を言うとこの試験は、張飛にワザと点数を取らせない様に判らないよう細工しており、張飛が毎回6割正解で留まっては一刀の説教をくらうのは彼が元凶でもあるのだ。

劉備は二人に比べれば比較的心の疲労度は軽傷だ。ひたすら墨を擦り、時に一刀から案件を任される。任されるのは少量であるが、それでも一刀が行なう案件である為、どれも重要な物ばかりだ。無論墨汁を作る作業も並行している為に、切れた瞬間に一刀の怒号が飛ぶ。また最終的に任された案件に一刀のチェックが入り、出来の悪さにまた叱られる。

ある日、泣き腫らしたのか瞼を真っ赤に染めた劉備を見つけた義妹二人が、何があったのか尋ねると、劉備は自分の不甲斐なさに打ちひしがれたことを語った。

ある時、一度一刀の何かが切れたのか、作り置きされた墨汁を一刀が劉備にぶちまけた。そしてドスを聞かせた声にて、一刀が劉備に言い放った。

「髪と服を汚されただけで良かったな。民は生活を汚されかけたのだぞ」

そんなやりとりがあったことを聞くと、二人は一刀に対する怒りより、恐怖の方が優先された。一刀は別に劉備のことを無下に扱ったわけではない。また劉備の犯しかけた過ちは取り返しのつかないことになりうる。二人が慕っているのは劉備であるが、しかし一刀の正論と畏怖にて何も言えなくなった。

またこの一件により、劉備も少し考え方を変えた様で、結果としては良い兆候とも言えた。

劉備は愛華や郷里など、内政に携わる者に一刀が携わった案件を訪ね、どの様に処理していったのかを聞き、持ち出しても良い処理済み案件の竹簡を借りると、毎夜読み耽っているのだ。

まだまだ一刀の考えには及ばないものの、最近彼から任される課題に関しては、及第点を貰い始めていた。

 

やがて運ばれてきた出汁を手に持ち、劉備は張飛の体を起こし、蓮華を用いて彼女の口に運んでやると、その時だけ張飛は孫子の念仏?を止めて体が素直に、食品を受け入れてくれた。また、現在は昼休みも終わり、定食屋の主人も夕方の客に向けての仕込みを始めている最中である。

何故この様な時間まで、三人はのんびりしているかは、一刀達が三姉妹に対して休養を与えたからだ。三姉妹は一刀の部下ではない。客である。客である三姉妹を廃人にまで追い込めば、一刀も自身に紹介してきた楼杏にも顔が立たない。ほどほどが一番なのである。昼ごはんを終えて、張飛は劉備に背負われつつ、三人は街を散策した。

活気に溢れ、平和そのものであり、この街だけ見るのであれば、この大陸に戦乱の渦が巻いていることなど考えられなかった。日頃の疲れが溜まっていたのか、張飛は劉備の背中で眠っている。

主君に対するそのような態度の張飛に、関羽は呆れてため息を漏らすが、劉備自身は全く気にしていない様子である。彼女達三人は、主人と従者の前に、義理ではあるが姉妹である。甘えん坊の末っ子が長女に甘えるのは当然のことであり、そんな甘い長女と末っ子を窘めるのも次女の役割である。

やがて街に流れる雑多の音を掻き分け聞こえてくる澄んだ声。二人は気になりその声の方向に歩いていると見えてくるお立ち台。

舞台ではそこには服の上下とも、薄っすらと白い線が入ったピンク色で、胸元と二の腕部分の肌が見え、腰に赤いリボンが付き、へそ出しで丈に白いミニスカートを着こなし、青空の様な色の髪を左にまとめた女性が、傍にいる黒子の恰好をした者の激しい琴の演奏で歌い踊っていた。

何処かから流れてきた旅芸者だろうか?それとも猿楽師であろうか?劉備達は立ち止まりそう思ったが、(芸が)上手いとも思った。

吸い込まれそうになる声、もっと聴いていたくなる衝動、自分と同じく集まってくる人だかり。やがて公開公演?が終わると、舞台で歌っていた娘は最後まで見てくれた人々に礼を言っては、何人かと言葉を交わして、いつの間にか到着している警邏兵に連れられ、その場を後にしていった。

「あの子、凄く歌上手かったね。愛紗ちゃん」

「そうですね。何処となく引き込まれそうな歌声でした。警邏兵が連れて行ったのを見る限り、呂北殿お抱えの猿楽師でしょうか」

「いやいや、猿楽師違うヨ。あれは主様秘蔵の歌い手アルヨ。そこんとこヨロシ」

声する方向に振り向くと、劉備と関羽は突然現れた夜桜に驚いて後ろに引いてしまう。

「ははは、関羽さん。後ろがら空きアルヨ。不用心ネ」

劉備達に声をかけてきたのは、警邏途中の夜桜であり、後ろには数人の兵士を従えていた。

郝萌(かくほう)さん、秘蔵の歌い手というのは、一体何なのですか?」

劉備は首を傾げそう尋ねた。

「あの娘は先の黄巾大戦で保護した子らしいヨ。なかなかの器量良しということアルから、雇い入れて、民の娯楽として使っているらしいヨ。ワタシ、難しいことわからないアルから、そこんとこヨロシ」

良くわかるのか分からないのか適当な解説を入れると、夜桜は警邏兵を連れてその場を去って行った。

「......愛紗ちゃん、やっぱりあの女の子も、戦で誰か大切な人を失ったのかな?」

「わかりません。ですが、私達がやることは変わりません」

「.........?」

「お忘れですか?皆が笑って暮らせる世の中を作るのでしょう?」

「そっか......そうだよね‼その通りだよ。もっと頑張らなくちゃね‼」

そういうと劉備は、背に背負う張飛を背負いなおし、豊胸を揺らせて胸を張って先に進んでいく。新たに自信を付けた劉備を、一つ息を吐き切り、追いかけるようにして関羽は着いていった。

 

劉備達3人が扶風に滞在して2ヶ月の時が過ぎようとしていた。都では西園八校尉就任に当たり、早急に都へ上がる様にとの要請があった。一刀自身、国内の安定化の途中であったが、朝廷からの要請を無下にすれば後に痛い目に合う為、素直に応じることとなった。

劉備達三人の教育も着実に進んでおり、今回最後の教授という意味合いで、彼女らを連れて軍を率いた。

軍師に郷里、遊撃隊長に隴。副官に白華がいた。本来であれば副官には愛華(メイファ)が召喚される筈であったが、白華が直接愛華に代わってもらうように懇願したのだ。何故今回に限って戦場に出たがったのか愛華も燻しげにも思ったが、彼女の実力は重々承知している為に承知したのだ。

「にゃ~、やったのだ。腕がなるのだ。勉強ばっかりで退屈だったから、力が有り余っているのだ‼」

張飛は馬上にて蛇矛を振り回して鼻をならし意気込みを語っていた。

「こら鈴々、遊びではないのだぞ。それに今回我らは呂北兵の一人として戦場に赴くのだ。勝手な業軍で呂北殿に迷惑をかけるわけにはいかぬ」

「にゃ?ただ敵を潰すだけではないのか?」

「.........お前――」

今回の戦いは掃討戦であり、反乱の鎮圧である。扶風郡内部にて不穏分子が入り込んだために、それに触発されて民が暴動を起こしたのだ。

一刀側からも何度か使者を送っては内乱を留めようとしたが、暴動の火が徐々に付き始めて、一つの村が崩壊した事件が起こると、一刀は待っていたかのように直ぐに軍を発足して隴を先陣とした鎮圧軍を設立した。余談であるが、今回の軍の構成から設立に当たっては、全て隴に一任されている。

将として軍を率いるうえで、ただ兵の扱いが上手いだけの指揮官は、平時では役に立たない。そう一刀は考えている。最近であれば、暴動の鎮圧や賊の一層などといった掃討戦は将になりたての新参者に任せる様にしている為に、隴と同じく新参者な夜桜や留梨も出陣前の彼女の様に、知恵熱にて頭を抱えていた。そんな中で一刀の参戦だ。しかも彼は一切の口出しはしない。敬愛する主が突然の参戦である。寧ろ軍の構成に関してダメ出ししてくれた方がまだ気が楽であった為、精神的疲労なのか隴は出陣前の作戦説明以降、出陣してから一言も喋っていない。そんな作戦説明を、鈴々は寝ていた。

「今回起こったのは他国に触発されて起きた暴動だ。相手は民だ。幾ら何でも民を壊滅させるわけにはいかぬ」

「にゃ~、それもそうなのだ。でも愛紗、暴動を鎮圧する程度なのに、なんで皆万全な装備なのだ?兵隊も1000人はいるのだ。暴動鎮圧ぐらいだったら、多くないのか?」

張飛のその指摘に関羽も不審に思った。

たしかに今回は民の暴動の鎮圧という名目にて軍を発足された。正規の軍に所属したことの無い関羽らにとって、民の暴動を治める為にこれほどの準備を整わなければならないものかとも思っていたのだが、恐らくは慎重に慎重を重ねた配慮だと思い、関羽も考えるのをそこで止めてしまった。

 

これから起こりうる惨劇の前兆を、予期せぬまま.........。

 


 
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