四百年続いた漢王朝はすでにその力を失い、ただ崩壊へと向かっていた。
各地では次々と反乱が起こったが、もはや朝廷に為す術はなかった。
天下はまさに、乱世の時代へと突入していったのである。
そんな時代にのし上がってきたのが、貧乳帝国を率いる、曹操、字は孟徳、真名は華琳。
曹操軍は(貧乳だけに)“一枚板”(「岩」ではない、念のため)で、勢力を伸ばし続ける。
今や、曹操の「人類貧乳化計画」の野望を阻める者は、巨乳共和国代表・劉備、字は玄徳、真名は桃香と、巨乳公国元首・孫策、字は伯、真名は雪蓮だけとなっていた。
208年。
ついに曹操は、80万の大軍を率いて動き出す。
まず標的となったのは、孫策よりも胸の大きかった劉備。
劉備は(「もうすぐ、おっきくなる予定なんですっ!」の、未来の巨乳軍師、つまり今は貧乳軍師)孔明を従え南へと向かうが、(凸がないだけに)進軍速度が(滑るように)速い曹操軍に追いつかれてしまう。
おっぱい三国志最大の激戦、赤壁の戦いに向け、時代はまさに大きく動こうとしていたのである。
-勝つのはバインバインか、
それともツルペタか-
『おっぱい三国志』
全国劇場にて、10月公開決定!!
「主……。こんな昼間から、貧乳だ巨乳だとは、あまり感心しませんぞ……」
ぬぁっ!?
星!
まさか俺の独り言が聞かれていたとは……。
って、おっぱい蓮…………じゃなかった、白蓮は何でいじけてるんだ?
「どうせ私は並乳だよ……。巨乳にも貧乳にもなれず、中途半端なままさ……」
いや、白蓮の魅力は普通なことだぞ。
だからおっぱいも普通でいい!
むしろそれがいい!
「ごほんっ! 白蓮殿、それにご主人様」
おっと、愛紗だ。
「これは軍事演習も兼ねているのです。もっとまじめにやっていただかないと……」
確かに今回の撮影は、対五胡の軍事演習も兼ねている。
だからこれだけの軍勢を動かしているわけだが……。
俺は、ずらりと連なった蜀軍を振り返る。
まさに、地平を埋め尽くさんばかりの人・人・人。全員蜀軍兵士の皆さん。
しかしここまでやるかねぇ……?
パンがなければお菓子を食べればいいじゃない。
そう言った王妃がいたらしいが、まさにそれ。
納得いかなければ自分で作ればいいじゃない。
そう言った国王がいた。
しかも三人。
だからこその今日の映画撮影なのだが……。
知らない人が見たら、また戦争が始まったと誤解しかねんぞ、実際。
加えて魏と呉も、ほぼ同数の軍勢を動かしているはずだから……。
スケールでかすぎ!
総制作費何億だよ!?
俺が何となく適当に人件費を計算していると、横から出てきた星。
「愛紗よ、お主は国で留守番をしていてもよかったのだぞ?」
「い、いや、私にはご主人様と桃香様をお守りするという役目が……」
およ?
何だか愛紗の歯切れが悪い。
「道楽で軍を動かすなどと」
そう言って最後まで反対していたのが愛紗だっただけに、ちょっと意外だ。
「みんなして、なに話してるんだ? おっと、そうだそうだ。ご主人様、そろそろ曹操達が来るって朱里が」
と、翠。
そういえば、俺たちが、ここ長坂で戦っている間に仲間になったのが、翠と蒲公英だったっけ。
長坂か……何もかも皆懐かしい。
「おまえは艦長か、なのです」
って、ねね。なぜ君はこの台詞を知っているんだい……?
「そんなことはどうでもいいのです。それよりも、今回は恋殿の武勇を天下に示す好機!おまえもちゃんと協力するのですぞ」
「………………ねむい………………」
…………。
あのぉ、ねねさんや。
協力するも何も、当の本人はあくびなんかしてますぜ……。
「ちょっ! 恋殿ぉ。起きてくだされぇぇぇ」
そんなやりとりをしているうちに、遠くにだが土煙が見え始める。
華琳達の到着か?
さてさて、我らが蜀の面々は……。
「みんなは後ろに下がってるのだ! ここは鈴々の出番、なのだ!」
うん、現実の長坂では鈴々こと張飛が活躍するよね。
でもね……。
「姉さま、たんぽぽ達の力を見せる好機だよ!」
ほら。
「よし、行くか、たんぽぽ!」
「翠は下がってるのだ! ここは鈴々の出番なのだ!」
「いや待て鈴々、翠。“えいが”を見ていなかったか? ここは私が曹操を追い詰める……」
って、愛紗さん!?
何だかんだ言ってたのに、ノリノリじゃないか!?
「まったく、愛紗も素直ではありませんな。出たいなら出たいと、素直にそう言えばいいものを。…………いや、あれは愛する誰かに、自分の活躍するところを見てもらいたいのか」
星が愉しそうな目つきで、そう話しかけてくる。
「あれ? 星は加わらなくていいの?」
俺は、誰が一番槍になるかで争いを始めた面々を見ながら、星に問いかけた。
「正義は遅れてやってくるもの。私の出番は、もう少し後です」
なるほど。
長坂の戦いでの趙雲の活躍場所と言えば、最高にして最大の見せ場。
劉禅救出ミッションがあるもんな。
「その通りです。主の世界の趙子龍も、なかなかに粋なことをしたものだ」
なんか愉しそうだな、星……。
「おーっほほほほっ! この優雅にして華麗な、袁本初様の出番ですわね! あぁ、わたくしってば、何て罪作りなのかしら。何もしていないのに、目立ってしまうだなんて」
「あのぉ、麗羽さま……?」
「なんですの、顔良さん?」
「私たち、完全に“かめら”から外されてますよ……」
「はぁ……。何を言ってますの、この子は。わたくしのように、容姿端麗、成績優秀、風光明媚な名門の出ですと、何もしなくても自然に目立ってしまうものですわ」
「……最後の風光明媚って、意味違ってますよ、麗羽さま……。ねぇ、文ちゃんからも何か言ってよぉ。このままじゃ私たち、何の見せ場もないまま終わっちゃうよ?」
「ですよねぇ、麗羽さま。あたいの活躍、ちゃんと見ててくださいよ!」
「その意気ですわ、文醜さん! 特別に、わたくしの次に目立つ権利を差し上げますわよ。おーっほほほほほっ!」
「はぁ……」
と、斗詩が深いため息をついた頃、もう一人深いため息をついた人物がいた。
そう、俺。
北郷一刀。
未だ決着のつかない先陣争い。
そして、残念な白蓮。
はたして、長坂の戦いはどうなってしまうのか!?
ちなみに、事の次第はこうだ。
「白蓮お姉ちゃんは、後ろに下がってるのだ」
「ちょ! 鈴々!?」
「そうだぞ、白馬長史」
「翠!? それにその名で呼ぶなぁぁぁー!」
「白蓮殿は桃香さまをお願いします。って、待て鈴々! ここは私の出番だと何度も……」
「えっ! 愛紗まで!?」
と、完全にないがしろにされてしまった白蓮は、すっかり意気消沈してしまっていた。
「どうせ私は影が薄い並乳さ……。普通だけが取り柄の、普通人間だよ……」
「白蓮殿、そう気を落とされるな」
「……星……?」
白蓮は、同じく後ろに下がっていた星に慰められ、一瞬だが、顔に再び明りがともった。
しかし……。
「おっと、そろそろ私の出番のようだ。後は頼みましたぞ、主」
「星!? この裏切り者ぉぉぉぉぉぉー!」
と、叫んだ白蓮。
おいおい、俺にどうしろって言うんだよ……。
「まぁ、何だ。白蓮。この面子の中では、普通な方が逆に目立つっていうか、何つうか……」
もう無理っす!
「そうだよ、白蓮ちゃん。私も後ろで待機なんだし」
って、その割には余裕の表情ですね、桃香さん。
さすがは巨乳共和国の代表。
顔以外には、劉備の活躍に不満はなかったらしい。
まぁ、三国志演義っていや蜀だからな。
「はわわっ! どうしたんですか、白蓮さん?」
と、ここで真打ち。
映画では大活躍の諸葛孔明こと、未来の巨乳軍師(?)朱里の登場。
でもね。
朱里は控えめな性格だし、あれを見ると今回は……。
俺は未だ決着のつかない面々を眺めながら、朱里の肩をたたいた。
「はわわっ! 何です、ご主人様?」
「いや、頑張れって」
胸とかいろいろ。
「はわっ! い、今、何だかとっても失礼な言葉が聞こえた気がします!」
まぁ、人生色々。
おっぱいも色々。
「朱里はそのままでいいんだよ」
「??? よくわかりませんが、私そろそろいってきます」
ああ、行っておいで。
呉には巨乳軍師しかいないから気をつけるんだよ。
俺は、呉との同盟の使者として旅立つ朱里の薄い胸を見送った。【続】
〈今日の白蓮〉
「って、やっぱり私だけ空気扱いかよぉ~~~~~~っ!」
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設定としては、蜀ルート完結後となっております。
たぶん続き物になるはずです。
よろしければ、お付き合いくださいませ。
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