No.1008241

英雄伝説~灰の騎士の成り上がり~

soranoさん

外伝~隻眼の決意~

2019-10-25 23:31:33 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:2272   閲覧ユーザー数:1887

同日、16:40――――――

 

メンフィル・クロスベル連合とヴァイスラント決起軍が双龍橋の制圧を終えた頃、クレイグ中将率いる第四機甲師団はオズボーン宰相達帝国政府の指示によって、クロイツェン州全土の”焦土作戦”を実行した為、クロイツェン州全土の様々な都市や町が火に包まれ、残った市民達は火事の消火に必死になっていた。

 

~バリアハート・アルバレア公爵城館~

 

「そ、そんな…………城館が…………」

「どうして正規軍はこのような事を…………っ!」

「正規軍は私達を何だと思っているのよ!?」

「幾ら公爵閣下が内戦の主犯の一人だからといって、何故城館どころかバリアハートを火の海に…………!」

城館の使用人達は火に包まれている城館を呆然とみたり、城館に火をつけた正規軍に対する恨み言を口にしたが

「――――――今はそのような些事を気にするよりも消火が先決です!せめて城館――――――いえ、バリアハートの被害を少しでも抑える為にもバリアハートの市民達にもそうですがアルバレア公爵家以外の貴族の方々の使用人の方々にも消火の協力を要請して一丸となってバリアハートを消火しますよ!」

「は、はいっ!」

執事アルノーの言葉に我に返った後それぞれ消火活動を開始した。

 

~レグラム~

 

「倉庫からバケツをありったけ持ってこい!みんなで協力して湖から水を汲んで町を消火するぞ!」

「おおっ!」

「クッ…………正規軍の連中め…………!俺達が街道の見回りに出ている隙を狙って強盗どころか人攫いをした挙句、町にまで火をつけるなんて、やっている事が貴族連合軍よりも外道じゃないか!」

「我々に留守を任せてくれたお館様やラウラお嬢様に何とお詫びすれば…………!」

「お前達の気持ちはわかるが今は消火に専念しろ!」

同じ頃、町に起こった異変に気づいて街道の見回りから慌てて戻ってきたアルゼイド流の門下生達は市民達と協力して消火活動を行っていた。

 

「ハアッ!!」

アルゼイド家に仕えている執事にしてアルゼイド流の”師範代”でもあるクラウスは剣技によって起こった凄まじい風で建物を燃やし続ける火を吹き飛ばし

「ハハ、剣技で火を吹き飛ばすなんてさすがはアルゼイド流の師範代ですね。アークス駆動――――――グランシュトローム!!」

クラウスの消火活動に苦笑した”遊撃士協会・レグラム支部”の臨時受付を担当しているハインツは最高位の水属性アーツを放って消火活動を行っていた。

「いえいえ、ハインツ様程ではありません。…………それよりも、まさか我々が揃ってレグラムを留守にしている間に正規軍がこのような暴挙を行うとは完全に想定外でした…………なっ!」

「ええ…………遊撃士協会としても”強制徴収”もそうですが、幾ら徴兵する予定だったとはいえ何の通告もなく徴兵する予定の男性達を無理矢理連れていった挙句、町に火を放つなんて絶対に見過ごす事はできない所業です。――――――ハイドロカノン!!間違いなく今回の件は国際問題になってエレボニアが孤立する事は目に見えているのにそれを行った正規軍――――――いえ、帝国政府は一体何を考えているのでしょうね?」

ハインツの称賛に謙遜したクラウスは燃え続けている建物に燃えている火が広がらないように大技を放って建物を崩壊させて崩壊の衝撃で火の勢いを緩め、ハインツは凄まじい圧力がある水のアーツを放ってクラウスが崩壊させた建物の瓦礫に残っている火を消火した。

 

 

同日、16:50――――――

 

~ケルディック郊外・第四機甲師団・臨時拠点~

 

「…………中将閣下、クロイツェン州全土の各地に散った部隊がそれぞれ徴収した物資、徴兵予定の男性達を連れての本隊への合流を終えたとの事です。」

クロイツェン州全土の町や都市が消火活動に必死になっているその頃、ナイトハルト少佐は複雑そうな表情でクレイグ中将に報告していた。

「うむ…………ならば、ケルディックにも火を放って帝都へと帰還するぞ。」

報告を聞いたクレイグ中将は重々しい様子を纏って呟いた。

「!?中将閣下、失礼を承知で申し上げますがそれはあまりにも非道なのでは!?ケルディックは先の内戦での領邦軍と猟兵達による焼き討ちで甚大な被害を受け、復興が始まったばかりだというのに、そこに我らが再び焼き討ちを行えばケルディックの民達の正規軍――――――いえ、帝国政府に対する不満が爆発し、暴動が起こる可能性が高いと思われます!」

「わかっておる…………だが、これもメンフィル・クロスベル連合との戦争に備えた帝国政府による策による指示で、正規軍である我らはその指示に従わねばならぬのだ…………っ!」

自分の指示を聞いて血相を変えたナイトハルト少佐の反論に対して重々しい様子を纏って答えたクレイグ中将は辛そうな表情で唇を噛み締めて身体を震わせながら答えた。

「その帝国政府――――――いえ、オズボーン宰相の指示があまりにも”異常”です!よりにもよって内戦での被害が最も大きいクロイツェン州で”焦土作戦”を実行するなんて、人道から余りにも外れた指示です!」

「し、失礼します!」

ナイトハルト少佐が反論を続けたその時、第四機甲師団の軍人が慌てた様子で二人に駆け寄った。

 

「何があった?…………まさか、ケルディックの民達が暴動を起こしたのか?」

「違います!トリスタ方面に待機していたメンフィル・クロスベル連合による襲撃に備えた援軍であるはずの”第三機甲師団”が我が軍に攻撃を仕掛けているのです!」

「「な――――――」」

そして伝令の口から出た信じ難い報告に二人はそれぞれ絶句した。

 

 

少し前――――――

 

 

~メンフィル帝国軍・ヴァリアント・リフィア皇女親衛隊隊長・副長の執務室~

 

ゼクス中将率いる第三機甲師団による第四機甲師団への攻撃が行われる少し前、仲間達と共にヴァリアントに帰還したリィンはシグルーンの指示通り、アルフィンと共にゼルギウスとシグルーンがいる執務室を訪れ、二人から第四機甲師団が行っている焦土作戦に対するメンフィル・クロスベル連合の対応についての説明を受けていた。

「…………なるほど。確かにそのメンバーならば、わざわざ軍を編成し直さなくても第四機甲師団に被害を与える事はできますね。」

「ですが本当にたったそれだけの人数で、帝国正規軍でも”最強”を誇るあの第四機甲師団に被害を与える事ができるのでしょうか?」

説明を聞いたリィンは静かな表情で呟き、アルフィンは困惑の表情でゼルギウスとシグルーンに訊ねた。

「ふふ、リウイ陛下達の御力を実際に目にしたことがないアルフィンさんが疑問を抱くのも無理はありません。――――――ですが、アルフィンさんはカレル離宮で”魔神”の一柱であるベルフェゴール殿の”力”の一端を目にしていますわよね?リウイ陛下達はあの”力”と同等か、それより僅かに劣る”力”を振るえると言えば私達の言っている事は妄言の類ではない事は理解できるでしょう?」

「あ……………………」

苦笑するシグルーンの指摘を聞いたアルフィンは呆けた声を出した。

「――――――話を戻す。二人をこの場に呼んだのはセシリア考案による敵軍の士気を下げる為かつ第四機甲師団以外の機甲師団がこちら側に寝返る説得を行う作戦に二人が参加するかどうかの判断を決めてもらう為だ。」

「ええっ!?い、一体どのような方法を…………」

「セシリア教官考案の作戦…………エレボニア帝国の士気を下げる方法はオズボーン宰相達によって”灰色の騎士”として祭り上げられた俺がヴァリマールを操縦してリウイ陛下達と共に第四機甲師団を攻撃する事で、第四機甲師団の士気を下げ…………第四機甲師団以外の機甲師団の寝返りはアルフィンによる説得でしょうか?」

ゼルギウスの話を聞いたアルフィンが驚いている中、リィンは冷静な様子で自身の推測を口にして二人に確認した。

 

「あ……………………っ!」

「ええ、まさにその通りですわ。さすがセシリア将軍の教え子ですわね。」

「ちなみに寝返り候補の機甲師団は”第三機甲師団”だ。」

リィンの推測を聞いたアルフィンは声を上げ、シグルーンは感心し、ゼルギウスは説明を続けた。

「第三機甲師団という事はゼクス中将ですか………確かに”アルノールの懐刀”と呼ばれている”ヴァンダール家”の一員であるゼクス中将でしたら、アルフィンの説得に応じる可能性は考えられますが…………それ以前に第三機甲師団はケルディック地方の傍に待機しているのですか?」

「ええ。第三機甲師団は現在トリスタ街道にて焦土作戦を行っている第四機甲師団がメンフィル・クロスベル連合の襲撃を受けた際の救援のために待機しているわ。――――――最も、ゼクス中将達には焦土作戦の件が知らされていなく、『メンフィル・クロスベル連合の侵攻を阻む第四機甲師団の援軍』として待機しているとの事よ。」

「え…………ではゼクス中将達は焦土作戦の事を知らされていないんですか!?」

リィンの問いかけに答えたシグルーンの説明を聞いたアルフィンは驚きの表情で訊ねた。

 

「諜報部隊の報告ではそう聞いている。――――――最もゼクス中将もケルディックの戦況を知る為に先行部隊を出し、先程その先行部隊によって第四機甲師団が”焦土作戦”を行っている事を知らされた後血相を変えて第三機甲師団に同行している”かかし男(スケアクロウ)”に説明を要求していたとの事だ。」

「レクター少佐が第三機甲師団に同行…………もしかして、”焦土作戦”の事を知ったゼクス中将の説得の為に彼が第三機甲師団に同行しているのですか?」

「恐らくは。――――――それで、二人ともどうしますか?先程説明したセシリア将軍の作戦はあくまで”考案”ですので、”強制”ではありませんわ。断っても何の罰則もありませんし、説得に失敗しても構いませんから、貴方達にとって”メリット”はあっても、”リスク”は一切生じませんから、先程説明した作戦に参加したくないのであれば遠慮なく断っても構いませんわよ。」

「…………ちなみに作戦に応じた場合の”メリット”とは?」

シグルーンに判断を委ねられたリィンは二人に訊ねた。

 

「リィンがヴァリマールを操縦してリウイ陛下達と共に第四機甲師団への攻撃する作戦は参加するだけで”少佐”から”中佐”への昇進が”確定”で、アルフィン殿による第三機甲師団の説得に成功した場合はリィンは二階級昇進――――――つまり、”少佐”から”大佐”に昇進させ、アルフィン殿には戦後女男爵(バロネス)の爵位を授けるとの事だ。」

「え…………戦後わたくしに爵位まで授けるなんて、どうしてそのような事を…………」

ゼルギウスの答えを聞いたアルフィンは不思議そうな表情で疑問を口にし

「アルフィンさんもメンフィル帝国でのご自身の今の立場はご理解していらっしゃるように、今のアルフィンさんは今回の戦争の件での処罰を受けて”リィン・シュバルツァーの使用人兼娼婦”として扱われていますが、メンフィル帝国――――――つまり、現メンフィル皇帝であられるシルヴァン陛下より爵位を授かればアルフィンさんが背負ったメンフィル帝国に対する汚名は返上されると共に、メンフィルの上流階級でも”メンフィルの新たなる仲間”として認められることになりますから、アルフィンさんがメンフィルの社交界に出席しても、今回の戦争勃発の原因になってしまった件でメンフィルの皇族、貴族の方々から侮られる可能性を低くする事はできると思いますわ。」

「それは……………………」

「わたくしはメンフィル帝国にはとても寛大な処置を取ってもらったと思っていますから、そこまでして頂く必要はないのですが…………エレボニアを救おうとしてくれているリィンさんの目的の為にも……………………そしてゼクス中将達の為にもわたくしでよろしければ、その作戦に応じさせて頂きますわ。」

シグルーンの説明を聞いたリィンが複雑そうな表情をしている中、リィン同様複雑そうな表情をしていたアルフィンは気を取り直して決意の表情で答え

「アルフィン…………――――――でしたら、自分も未熟の身ではありますがヴァリマールと共にリウイ陛下達と戦場を共にさせて頂きます。…………ちなみに、ベルフェゴール達も加勢させても構わないでしょうか?」

「ああ、ベルフェゴール殿達の加勢はこちらにとってもありがたい話だから、その件については私達から陛下達に話を通しておこう。」

アルフィンの決意を知ってすぐに自身も作戦に応じる決意をしたリィンは作戦の参加を申し出、リィンの確認の言葉にゼルギウスは静かな笑みを浮かべて頷いた。

 

 

~トリスタ街道・第三機甲師団・臨時拠点~

 

 

「”焦土作戦”だと!?内戦で受けた四州の被害の中でも最も被害が大きいクロイツェン州の民達からあろうことか、正規軍の手で強盗や人攫いをした挙句クロイツェン州全土を焼き払うとは、貴様ら帝国政府は自分達のしている事が人道から余りにも外れている事を理解しているのか!?――――――アランドール少佐!!」

一方その頃、先行部隊の報告によって第四機甲師団がバリアハートやケルディックの民達から財産や徴兵する予定の男達を”強制徴収”し、更にバリアハートを焼き払った事を知ったゼクス中将はアランドール少佐に第四機甲師団の凶行についての説明を要求し、説明を聞いた後激昂してレクター少佐に問いかけた。

「無論宰相閣下を含めた帝国政府の決定は人道から外れた行為である事は理解しています。ですが今はエレボニアの存亡をかけた”非常事態”。エレボニアを救い、そしてクロスベルでの戦いでルーファス卿を始めとした多くのエレボニアの兵達の命を奪った挙句、皇帝陛下の命まで狙い、今こうしてエレボニアを滅ぼそうとするメンフィル・クロスベル連合、”アルスター襲撃”という凶行を行ったリベールの征伐を成功させる為には”多少の犠牲は止むを得ない”というのが政府の判断です。それに”強盗”や”人攫い”と仰いますが、中将閣下もご存知のように宰相閣下が”国家総動員法”の成立を宣言したのですから、帝国政府は当然の事を行っているだけですし、バリアハートを含めたクロイツェン州全土の町や都市等を焼き払う際、民達は”正規軍の手によって施設や建物内から避難してもらいましたから、少なくても火事が原因で民達の命が奪われる事はありません。」

「住む家を焼き払われ、食糧や男手まで奪われた民達のその後の生活はどうなる!?まさかクロイツェン州の民達をこの寒空の下で飢死か凍死させるつもりなのか!?」

「その件につきましては心配無用です。メンフィル・クロスベル連合には”エレボニアの為に帝国政府(われわれ)を打倒するという妄言を口にしたミルディーヌ公女率いるヴァイスラント決起軍”が協力しているのですから、この件を知ったミルディーヌ公女はメンフィル・クロスベル連合に焦土作戦を実行されたクロイツェン州の民達の保護を要請するでしょうし、クロイツェン州はメンフィル帝国が自国の領土として占領するつもりなのですから、クロイツェン州の民達の保護を間違いなく行うというのが帝国政府の判断です。」

「そしてその保護によってメンフィル・クロスベル連合の物資と時間を消費させ、その間に帝国軍が万全な態勢を整えるというのが帝国政府(きさまら)の考えか…………っ!」

「はい。――――――これも全て”ヨルムンガンド作戦”を成功させる為に必要な事。クレイグ中将閣下達もそれを理解の上で、クレイグ中将閣下達にとって本意ではない”焦土作戦”を行っているのですから、どうかご理解ください。」

「………………………………っ!!」

静かな表情で自分を説得しようとするレクター少佐に対してゼクス中将は唇を噛み締めて怒りの表情でレクター少佐を睨みつけていた。

 

「――――――失礼します!至急中将閣下にお伝えしたい事があります!」

「…………何があった?」

「それが…………」

するとその時軍人が二人に近づき、ゼクス中将が問いかけると軍人はレクター少佐に視線を向けた後ゼクス中将に近づいてレクター少佐に聞こえないように小声で耳打ちをした。

「――――――何!?それは本当なのか!?」

(何だ…………?)

報告の内容を知ったゼクス中将は信じられない表情で声を上げた後軍人に確認し、その様子を見ていたレクター少佐は眉を顰めた。

「は、はい。いかがなさいますか?」

「…………すぐに向かう。」

軍人に訊ねられたゼクス中将は目を伏せて考えて答えを出した後その場から離れ始めた。

「(どうも嫌な予感がしてならねぇな…………)何やら尋常ではない出来事が起こったようですので、私もご一緒させて頂いてもよろしいでしょうか?」

そこに自分達にとって都合の悪い事が起ころうとしている事を悟ったレクター少佐が同行の申し出をしたが

「――――――私用だ!貴様の同行は必要ない!お前達はアランドール少佐が勝手な真似をしないようにここで見張っていろ!もし勝手な真似をしようとすれば、拘束しても構わん!」

「ハッ!!」

「なっ!?お待ちください、中将閣下――――――!」

ゼクス中将はレクター少佐を睨んで同行の申し出を断り、周囲にいる軍人達に指示をした後レクター少佐の制止の言葉を無視してその場から離れてある場所――――――大がかりな通信機が設置されている場所へと向かい、通信を開始した。

 

「――――――お待たせしていまい申し訳ございません、アルフィン皇女殿下。」

通信機の映像に映っている通信相手――――――アルフィンに対してゼクス中将は頭を下げ

「いえ…………こちらこそ、皇女でありながら祖国を裏切った愚か者であるわたくしの通信に応えて頂き、心より感謝致します、ゼクス中将閣下。」

頭を下げられたアルフィンは謙遜した様子で答えた。

「…………皇女殿下には深い事情があって、国を出て現在メンフィル・クロスベル連合と行動を共にしている事や、オリエ殿やクルトも皇女殿下の御身をお守りする為にメンフィル・クロスベル連合と行動を共にしている事は兄マテウスより伺い、私は皇女殿下の深い考えも理解しておりますので、どうかそのような事を仰らないでください。」

アルフィンの言葉に対して頭を上げたゼクス中将は静かな表情で通信を続けた。

 

「…………寛大なお心遣い、感謝致しますわ。」

「それで私に用があるとの事ですが、一体何の御用でしょうか?」

「――――――単刀直入に言いますわ。ゼクス中将閣下、オズボーン宰相を始めとした帝国政府の暴走を止める為にもどうか、貴方達第三機甲師団もミルディーヌ達のようにわたくし達に協力して頂けないでしょうか?」

「!!…………皇女殿下は私がメンフィル・クロスベル連合の侵略を阻む帝国軍の”将”の一人であると理解し、”敵”に寝返ろと仰っているのでしょうか?」

アルフィンの言葉を聞いてアルフィンが自分を含めた第三機甲師団をメンフィル・クロスベル連合側に寝返らせる説得をしようとしている事を悟って目を見開いたゼクス中将は重々しい様子を纏ってアルフィンに問いかけた。

 

「…………はい…………無理を承知で、こうして連絡をさせて頂きました。」

「…………皇女殿下に対して無礼を承知で申し上げますが、幾ら皇女殿下の頼みであろうともその頼みには応じられません。我々正規軍は祖国(エレボニア)を守る為に存在しているのですから。」

「その正規軍が帝国政府の命によって本来守るべき民達から略奪や人攫いを行い、更には民達の家まで焼き払っているにも関わらず、帝国政府の判断は正しいと中将閣下は思っていらっしゃっているのでしょうか?」

「!!…………”焦土作戦”の件も既にご存知でしたか…………」

アルフィンが第四機甲師団が”焦土作戦”を行っている事を知っている事に気づいたゼクス中将は目を見開いた後複雑そうな表情を浮かべた。

 

「――――――ゼクス中将閣下。”ハーメルの惨劇”を存じている中将閣下でしたら、薄々と気づいていらっしゃっていると思いますがつい最近に起こり、帝国政府がその件を理由にメンフィル・クロスベル連合、そしてリベールの征伐を宣言する理由にした大事件――――――”アルスター襲撃”とお父様――――――”ユーゲント皇帝銃撃事件”はどちらも、三国の関係者は一切関わっておらず、三国――――――いえ、このゼムリア大陸という”世界”を飲み込もうとするオズボーン宰相を始めとした帝国政府に関わる者達の凶行です。」

「!!…………それは…………ちなみに皇女殿下も”ハーメル”の件をいつお知りになられたのですか?」

「わたくしがエレボニアを出奔し、メンフィル・クロスベル連合と行動を共にしている際に知りましたわ。――――――オズボーン宰相と関りがある人物に雇われた猟兵達から”アルスター”の民達を守る戦いの後で”ハーメル”の件を知る方に教えて頂きましたわ。」

「そうですか………………………………」

「ゼクス中将閣下。祖国に刃を向けたわたくしにはこんな事を問いかける権利はないかもしれませんが、それでも問わせてください。――――――12年前に起こした”ハーメル”に飽き足らず、自国を繁栄させる為に”第二のハーメル”を起こそうとし、大恩ある友好国には仇で返し、そして今こうして自国の民達を苦しめている帝国政府の判断は正しいのでしょうか?」

アルフィンの問いかけを聞いたゼクス中将はふと、2年前の”ある出来事”を思い返した。

 

 

先生、あなたも本当は気付いているはずだ。唐突すぎる蒸気戦車の導入……。そして不自然極まるタイミングでの出動命令……。全ては”鉄血宰相”ギリアス・オズボーンの描いた絵であることを。

 

!!

 

今回の事で確信したよ。彼は間違いなく”身喰らう蛇”と通じている。その事が、帝国にとってどのような影響をもたらすかは何とも言えないが。いずれにせよ、一国の宰相にふさわしい振る舞いではあるまい?

 

………………………………。皇子、まさか貴方は……

 

フフ、そのまさかだ。10年前に頭角を現して帝国政府の中心人物となった軍部出身の政治家……。帝国全土に鉄道網を敷き、幾つもの自治州を武力併合した冷血にして大胆不敵な改革者。帝国に巣食うあの怪物をボクは退治することに決めた。今度の一件はその宣戦布告というわけだ

 

……何ということを。皇子、それがどれほど困難を伴うことであるのか理解しておいでなのか?

 

そりゃあ勿論。政府は勿論、軍の7割が彼の傘下にあると言っていい。先生みたいな中立者を除けば反対勢力は衰え始めた諸侯のみ。さらにタチが悪いことに父上の信頼も篤(あつ)いときている。まさに”怪物”というべき人物さ。

 

ならばなぜ……!

 

フッ、決まっている。彼のやり方が美しくないからさ。

 

!?

 

リベールを旅していてボクはその確信を強くした。人は、国は、その気になればいくらでも誇り高くあれる。そしてボクの祖国と同胞にも同じように誇り高くあってほしい。できれば先生にもその理想に協力して欲しいんだ。

 

ゼクス、お前はお前で決めると良い。今回の戦争でお前の”ヴァンダールの剣”を誰の為に振るうのかを。

 

 

「(申し訳ございません、オリヴァルト皇子…………)………………………………アルフィン皇女殿下、一つだけ確認させてください。」

2年前の”ある出来事”――――――”リベールの異変”で知ったオリヴァルト皇子の決意と兄マテウスとの秘匿通信で伝えられたある言葉を思い返したゼクス中将は心の中でオリヴァルト皇子に謝罪をした後静かな表情でアルフィンに問いかけた。

「何でしょうか?」

「皇女殿下はこの戦争でエレボニアが敗北すれば、エレボニアはよくて衰退かメンフィル・クロスベル連合の隷属国、最悪は”エレボニアという国が滅亡する事”を覚悟の上でメンフィル・クロスベル連合に協力していらっしゃるのでしょうか?」

「そうならない為にもわたくしはリィンさん達と共にエレボニアと戦っていますが…………ユミルの件でのメンフィル帝国に対する賠償をする為にエレボニアが衰退する事もそうですが最悪はエレボニアが滅んでしまう事も覚悟の上ですわ。――――――わたくしが犯したメンフィル帝国への罪を償う為…………そして”エレボニア皇女としての最後の義務”を果たす為にも、わたくしは今ここにいます。」

ゼクス中将の問いかけに対してアルフィンは決意の表情で答え

「………………………………。…………オリヴァルト殿下に続いて皇女殿下も大きくなられましたな。今の皇女殿下を知れば、皇子殿下もそうですが陛下達も喜ばれるでしょうな。」

「フフ、幸か不幸か内戦で鍛えられましたし、お兄様のように心から信頼できる仲間ができましたので。」

「フフ…………そうですか。……………………了解しました。今から機甲師団の者達に事情を説明して判断を委ねますので、それを聞いてもなお私と共に祖国に反旗を翻す覚悟のある者達でよろしければ、協力させてください。」

「あ……………………感謝いたしますわ、ゼクス中将閣下…………!」

その後アルフィンとの通信を終えたゼクス中将は全軍を招集して演説を始めた。

 

「――――――先程行方不明であったアルフィン皇女殿下ご自身より通信が来た。」

「ア、アルフィン皇女殿下が中将閣下に!?」

「それで皇女殿下は今どちらに!?」

ゼクス中将の発言に軍人達はそれぞれ血相を変えて互いの顔を見合わせたり、ゼクス中将に質問したりした。

「皇女殿下は内戦時ご自身の身を狙い、メンフィル帝国の領土であるユミルを襲撃した貴族連合軍の愚行の原因はユミルに潜伏していたご自身にもあると判断され、その責任を取るためにメンフィル帝国の要求通り自ら身分を捨て、襲撃された領土の領主の息子にして去年の内戦終結に大きく貢献した”灰色の騎士”の従者を務めているとの事だ。」

「ア、アルフィン皇女殿下が”灰色の騎士”の…………!?」

「ど、どうしてそのような事に…………」

「皇女殿下…………」

「その”灰色の騎士”はお前達の中には知っている者もいると思うが、かつてはトールズ士官学院の生徒であったが今回の戦争の件で祖国であるメンフィル帝国に祖国に帰還する事になり、メンフィル帝国貴族として、そしてトールズ留学前より元々所属していたメンフィル帝国軍の軍人の義務を果たす為に今回の戦争に参加したと思われた…………しかし、それは大きな間違いであり、真実は”実力主義”であるメンフィル帝国側についてメンフィル帝国軍人として活躍し、その活躍に対するメンフィル帝国政府の上層部が”灰色の騎士”に与える報償として、今回の戦争で敗戦し、滅亡する可能性が高いエレボニアを存続させる事に応えてもらう為に今回の戦争、クロスベルでの戦いからメンフィル帝国軍側として従軍しているとの事だ。」

「なっ!?」

「”灰色の騎士”がメンフィル帝国からの留学生だったこともそうですが、まさか既にメンフィル帝国軍に所属していたとは…………!」

「それにしても何故”灰色の騎士”はそこまでして他国――――――それも戦争相手であるエレボニアの為に今回の戦争に…………」

ゼクス中将が口にした驚愕の事実の連続に軍人達は驚いたリ困惑し続けた。

 

「そしてアルフィン皇女殿下はお一人でメンフィル帝国の大使館を訪れた際、メンフィル大使であられるリウイ前皇帝陛下より”灰色の騎士”の件についての説明も受け、”灰色の騎士”より受けた数々の恩を返す為…………”元エレボニア皇女としての最後の務め”を果たす為にもメンフィル帝国軍の義勇兵の一人としてメンフィル帝国軍に参加する事を申し出、現在は”灰色の騎士”の下で”灰色の騎士”の従者兼”灰色の騎士”率いる部隊の一員としてメンフィル帝国軍に所属しているとの事だ。」

「なあっ!?」

「という事はアルフィン皇女殿下は今メンフィル帝国軍――――――いや、メンフィル・クロスベル連合の元に…………!?」

「ア、アルフィン皇女殿下がエレボニアに刃を向けられるなんて、自分達はどうすればいいんですか、中将閣下!」

アルフィンの件を知り、再び驚いた軍人達はゼクス中将に問いかけた。

「――――――ここからが本題だ。アルフィン皇女殿下の通信内容は我々第三機甲師団がヴァイスラント決起軍のように、エレボニアが衰退か滅亡すると理解していても、ギリアス・オズボーン宰相を始めとしたエレボニア帝国政府の暴走を止めて欲しいとの事だ。」

「そ、それはつまり正規軍である我らにメンフィル・クロスベル連合に寝返り、祖国に――――――いえ、皇帝陛下や仲間達に刃を向けろと…………!?」

「中将閣下!もし戦争でエレボニアが敗戦した場合、エレボニアは、皇帝陛下達はどうなるのですか!?」

「それで中将閣下は何とお答えされたのですか!?」

ゼクス中将の説明を聞き、自分達が祖国を裏切る事になるかもしれない事を知った軍人達は血相を変えた。

 

「皇女殿下の話によると皇帝陛下達の件に関してはヴァイスラント決起軍が既に交渉し、戦後エレボニアが滅亡しようと、衰退しようと皇帝陛下を含めた”アルノール皇家”の方々に関する処遇は”敗戦国の皇族”に対する処遇として寛大な処遇をする事をメンフィル・クロスベル連合に約束してもらったとの事だから、皇帝陛下達の件に関しては心配無用だ。」

「ヴァイスラント決起軍――――――いえ、貴族連合軍が…………」

「!?待ってください、中将閣下!それではメンフィル・クロスベル連合は今回の戦争の件で皇帝陛下達に危害を加える意志は一切ないという事になりますから、先日に起こった皇帝陛下が銃撃された事件の犯人の背後にいる黒幕はクロスベルでミルディーヌ公女が宣言した通り、メンフィル・クロスベル連合ではなく、エレボニア帝国政府の関係者なのですか!?」

ユーゲント皇帝達の処遇の事を知った軍人達はそれぞれ複雑そうな表情を浮かべたが、すぐにある矛盾に気づいた軍人の一人が血相を変えてゼクス中将に訊ねた。

「そうだ。…………そしてお前達も知っての通り、帝国政府は今度は”ヨルムンガンド作戦”成就の為に戦争相手であるメンフィル・クロスベル連合が侵略する地であるクロイツェン州にある物資、エレボニア帝国政府が徴兵する予定の男達を先に徴収し、挙句の果てには町や都市を焼き払う事でメンフィル・クロスベル連合の物資や時間を消耗させる”焦土作戦”という今の時代では、余りにも人道から外れた行為を行っている。…………アルフィン皇女殿下から私はこう問いかけられた。『今こうして自国の民達を苦しめている帝国政府の判断は正しいのでしょうか?』と。」

「それは……………………」

ゼクス中将によるアルフィンの問いかけを聞いた軍人達はそれぞれ複雑そうな表情で答えを濁した。

「――――――我ら第三がゼンダー門を担当する事になった理由の一つである2年前のリベールで起こった”異変”の際、”異変”解決の為にリベールに押し入ろうとしたがクローディア王太女殿下とオリヴァルト皇子殿下の緊急会談による英断によって我らはリベールに押し入らず、パルムまで退く事になった。…………その撤退時にオリヴァルト殿下は私にこう仰ってくれた。『リベールでの旅行にて人は、国は、その気になればいくらでも誇り高くあれる事を確信した。私の祖国と同胞にも同じように誇り高くあってほしい。』と。」

「………………………………」

「そして皇女殿下は祖国が衰退か滅亡するとご理解されていて、エレボニアを正す為にエレボニアに刃を向け、自らの手をエレボニアの兵(つわもの)達の血で染め、ミルディーヌ公女率いるヴァイスラント決起軍も皇女殿下のようにエレボニアを正す為に自ら”エレボニアの裏切者”となった。」

話を終えたゼクス中将は剣を鞘から抜いて宣言を始めた!

 

「だからこそ私は決意した!皇女殿下の為に!エレボニアの為に!そして本来はエレボニアの為にそこまでする義理がない上エレボニアの内戦が原因で故郷が、両親が傷つけられたにも関わらず、今もエレボニアの為に剣を振るう灰色の騎士の為にこの刃をメンフィル・クロスベル連合やヴァイスラント決起軍でもなく、リベールでもなく、”エレボニア帝国政府”に向ける事を!――――――今この場を持って第三機甲師団を解散とする!私の意志に賛同する者達は私と共に来るがいい!賛同できぬ者は帝都に帰還し、自分達の処遇を帝国政府に委ねるといい!総員、今この場でそれぞれの意志で決めるがいい!」

「………………………………」

そしてゼクス中将は剣を高々と掲げて宣言し、軍人達はその宣言に対して黙り込んだ後少しの間考えて互いの顔を見合わせて頷いた後答えを口にした。

「自分は中将閣下についていきます!」

「自分もついていきます!」

「内戦では敵だった貴族連合軍もそうですけど、アルフィン皇女殿下や他国の軍人である”灰色の騎士”がエレボニアの為にそこまでの覚悟を持って戦っているんですから、”エレボニアを守る為に存在する帝国正規軍”である我らだけが”エレボニアの真の敵”から目を背ける訳にはいかないでしょう!」

「ゼンダー門への左遷の件だって、元はと言えば帝国政府の意図に応じなかった事に対する”腹いせ”なのですから、左遷の件も含めて帝国政府に今まで受けた”借り”を倍返しにしてやりましょう!」

「解散だなんて水臭いですよ、中将閣下!」

「我ら第三機甲師団一同、中将閣下についていきます!」

すると軍人達は次々にゼクス中将の意志に賛同するように次々とそれぞれの武装を掲げて宣言した!

 

「お前達………………………………お前達の決意、心より感謝する。――――――ならば、これより第三機甲師団は独裁者ギリアス・オズボーン率いるエレボニア帝国政府打倒のために、エレボニア帝国政府や政府の意志に従う正規軍に反旗を翻す事とする!まずは、エレボニアの民達を傷つけ続けている帝国政府の傀儡である正規軍のクロイツェン州からの撃退、並びに民達の救出を開始する!」

「………………………………」

ゼクス中将の宣言に対して軍人達は黙って聞いてゼクス中将の号令を待ち

「――――――敵は第四機甲師団!第三機甲師団、これよりケルディックに進軍せよ!」

「イエス・コマンダー!!」

ゼクス中将の号令に敬礼で力強く答え、それぞれ進軍の準備の為の行動を開始した!

 

 

「やれやれ…………まさか、このタイミングでアルフィン皇女殿下が”第三”を寝返らせる通信をしてくるとはな…………恐らく実際に考えたのはメンフィル・クロスベル連合の”微笑みの剣妃”か”鋼鉄の剣姫”、もしくはメンフィル帝国軍の参謀あたりだろうが…………この戦争、冗談抜きで俺達の勝ち目が全然見えねぇが、どうするつもりなんだ、あのオッサンは…………」

一方第三機甲師団が進軍の準備を始めた頃に既に第三機甲師団の陣地から抜け出していたレクター少佐は疲れた表情で溜息を吐いた後今回の件で自分達が更に劣勢になった事に対してオズボーン宰相の顔を思い浮かべながら厳しい表情を浮かべていた――――――

 

 

 

 

またもや予告詐欺をしてしまい申しわけありません(ガタガタブルブル)予告していた久々の敵の虐殺戦は次の話になります(汗)なお、第三機甲師団ののシーンのBGMは空3rdの”最後の選択”、閃2の”目覚める意志”、ティアーズトゥティアラ2の”戦士の運命 Hamilcal”、ファイナルファンタジー2の”反乱軍のテーマ”のどれかだと思ってください♪

 


 
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